経理・財務・会計ファイナンス人材のためのキャリア名鑑

会計人材のキャリア名鑑

独立系FASのディレクター

「最前線でM&A・再生案件を指揮する現場の責任者」

クライアントに寄り添い、真価を発揮するプロフェッショナル

戦略を描くパートナーと実行を支えるマネージャーの架け橋となる中核

主な業務内容

  • M&A・事業再生・バリュエーションなど財務アドバイザリー案件の統括・推進
  • クライアント経営層への提案、信頼関係構築
  • プロジェクトチームのマネジメント、実務と若手育成

想定年収

1,300万円~2,500万円
案件数・成果・責任範囲・組織規模によって変動

想定年齢

32歳~45歳

独立系FASのディレクターは こんな仕事

独立系FAS(ファイナンシャル・アドバイザリー・サービス)のディレクターは、M&Aや事業再生、事業承継、バリュエーションなど、企業の経営転換点に立ち会い、プロジェクトを成功に導く最前線のリーダーです。パートナーと実務部隊であるコンサルタントとの間をつなぎ、クライアントと対等に議論を重ねながら案件の「現場責任者」として采配を振るいます。自ら顧客の経営層と厚い信頼を築き、単なるアドバイザーにとどまることなく、ビジネスの未来をともにつくる役割を担います。

日々の業務はプロジェクトの全体設計から始まります。M&Aのクロスボーダーディール、事業再生スキームの立案、スタートアップ企業への成長・EXIT支援など案件内容は多岐にわたり、その都度最適なチーム編成を主導。財務分析、事業デューデリジェンス、企業価値評価、複雑な法務・会計調整まで幅広い知見が要求されます。また、ディレクター特有の重要な役割として「クライアント経営層との直接交渉・提案」があり、現場判断や意思決定を迅速に行う胆力が試されます。

グローバル案件や新興企業のディールが増える中、独立系FASのディレクターは標準化された手法ではなく、状況に応じゼロベースで最適解を導き出します。スタートアップ企業のM&Aでは、単なる数字合わせではなく、経営者の志や事業ビジョンを理解したうえで条件設計や交渉を進めることも多いです。加えて、リスクコントロールの観点から、取引終了までに想定される訴訟・財務・コンプライアンスリスクを、チームと協力しつつ徹底的に洗い出し、シミュレーションを重ねてクライアントに提案します。

たとえばクロスボーダーM&Aでは、為替変動や現地法規制のリスクを事前に織り込んだバリュエーションを実施します。再生案件では、キャッシュフローの綿密なシミュレーションと複数シナリオを準備し、不測の事態にも備えることで成功確度を高めます。プロジェクトの進行にあたっては、進捗、課題、リスクの見える化を徹底します。若手コンサルタントへのリアルタイムなフィードバックと実践教育も日常業務です。

ディレクターは現場で価値を生む最重要ポジションです。その活躍がクライアントの満足度と組織の成長を支えています。

独立系FASのディレクターという ポジションの魅力

ディレクターの魅力は、まず“自分がプロジェクトを動かす中核”であることです。クライアントの未来を左右する経営意思決定に、最も近い距離で携わります。パートナーの後ろに隠れるのではなく、営業・設計・実行まで一貫して並走するため、「自身の考え・経験・判断」が結果となって現れるエキサイティングな職種です。

大手監査法人やM&Aブティックとは違い、独立系FASのディレクターは規制やマニュアルに縛られることなく、案件ごとに柔軟かつスピーディに意思決定が可能です。時には従来の枠組みを大胆に変えたり、業界の慣行にとらわれない斬新な提案も期待されます。新しいサービス領域の企画や、自身が発掘した顧客を組織の柱に押し上げる機会もあり、“つくる側”“動かす側”としての醍醐味を存分に実感できます。

また、ディレクターは組織の中核マネジャーとして、プロジェクト遂行と並行して若手・中堅スタッフのメンタリングや評価、チームビルディングへの関与など“組織運営”にも大きく貢献できます。自分発信の勉強会やベストプラクティスの共有、組織文化の醸成を担う役割です。同時に、成果主義文化が浸透しているため、自分が手掛けたディールが直接報酬や昇進へ跳ね返りやすく、「評価への納得感」が高いのも独立系FASならではです。

さらに、経営層・PE・投資銀行などハイレベルな社外ネットワークが広がり、「業界横断的な人脈」「最新の経営潮流」「クロスボーダー実務」の最前線で働く実感が持てます。ディレクター経験を経た後、パートナー昇格や大手ファーム・PEファンドへのキャリア展開、将来の独立など、多様な選択肢にもつながります。

マクロ経済や社会の変化を“最前線”で感じ、クライアントの事業変革・新産業創出に自ら介在できる。独立系FASディレクターは「仕事の手ごたえ」「人脈の広がり」「意思決定権」「報酬水準」すべてで、極めて挑戦的で魅力的なポジションです。

独立系FASのディレクターの 年間スケジュール例

独立系FASディレクターは複数の案件を並行しつつ、クライアント対応・社内マネジメント・新規営業まで担うハイブリッド型リーダーです。ここでは1月決算を前提とした1年間の主な業務例を紹介します。

1月

  • 案件のクロージング、各種レポートまとめ
  • クライアント向け年頭ご挨拶、経営計画MTG
  • 新年度プロジェクトキックオフ

2月

  • M&A新規案件のバリュエーション設計・提案
  • デューデリジェンス(DD)実務統括、進捗管理
  • 社外協力パートナー(弁護士・会計士等)との連携

3月

  • 四半期チームレビュー、スタッフ評価会議
  • 予算管理、経営資料作成
  • 新規見込客への提案営業

4月

  • クロスボーダー案件で現地DDまたはオンライン会議
  • 事業再生スキームの立案、資本政策設計
  • 案件リスク評価・シミュレーション

5月

  • 案件パイプライン会議、新チーム編成
  • PJ進捗共有会、成果発表会の企画運営
  • 若手スタッフへのOJT指導

6月

  • 半期業績レビュー、本部会議
  • 重要プロジェクトの中間成果報告
  • 業界イベント登壇、クライアントとの交流会

7月

  • 新規M&Aマンダテ取得交渉
  • PMI(統合後支援)案件の現場体制整備
  • チーム内業務効率化プロジェクト

8月

  • 夏季休暇を活用した中長期戦略再考
  • PE・投資銀行との協働案件のキックオフ
  • 業界新規リサーチ、内部勉強会実施

9月

  • 半期評価、昇給・昇格候補選考
  • クライアント向けサマーレポート提出
  • リファラル営業、既存顧客の深耕

10月

  • 年度末案件のフォローアップ
  • 新サービス領域の企画・開始
  • スタッフへの1on1面談

11月

  • 案件クロージングに向けた最終調整・交渉
  • 経営層向けプレゼン・レポーティング
  • 社外専門家とのネットワーク構築

12月

  • 年末全社会議、報酬・ボーナス評価
  • クライアント向け年末提案・事業戦略会議
  • パートナーへの年間成果報告

定例業務・臨時業務

  • 週次:各案件の進捗・課題共有会議
  • 月次:新規営業活動、ナレッジ共有会
  • 随時:クライアントからの緊急要請/ディールの重大意思決定対応

独立系FASのディレクターの 重要任務

ディレクターの担当する重要任務には次の3点があります。

1.財務アドバイザリー案件の現場統括

M&Aや企業再生、バリュエーションなど各種案件を現場責任者として統括。チームをリードし、プロジェクトの進行管理からレポート品質の最終確認、成果物納品まで全体を指揮します。案件ごとに発生するリスクや意思決定ポイントを即断即決し、クライアントと社内双方の信頼を確実に積み上げます。

2.クライアント経営層への直接提案・折衝

経営層向けピッチや戦略提案、条件交渉・最終意思決定場面でメインの窓口を担います。独立系FASのディレクターは、パートナーに次ぐ“顧客の右腕”として、案件初期の提案からクロージング、アフターフォローまで一貫して関与。経営課題を的確に捉えた現場主導のソリューションを提供します。

3.プロジェクトチームのマネジメント・若手育成

実務スタッフのアサイン・進捗管理、業務レビューからOJT、ナレッジ共有まで、事業部マネジャー的な立ち位置でメンバー成長を後押しします。現場課題を掴み、個々の個性と強みを最大限に引き伸ばすコーチ的指導も担当。新規サービス・プロジェクト創出・改革提言にも積極的に携わります。

この3軸を高レベルでバランスさせることが、ディレクターの存在価値を支えています。

独立系FASのディレクターの 報酬水準

報酬の概要

  • 年収は1,300万円〜2,500万円のレンジ。大型ディールや連携案件が多いほど上振れしやすい。実力主義でボーナス支給比率が高いのも特徴。

報酬の構成要素

  • ベース給与:月給60万円~120万円程度
  • ボーナス:年2回(案件成果・個人評価連動、500万円~1,000万円規模も)
  • 業績インセンティブ:新規獲得や組織マネジメント貢献度で追加支給あり
  • 福利厚生(社会保険、交通・住宅手当、研修費補助など)

報酬の変動要因

  • 担当案件数・規模・案件利益(自身の貢献率)
  • チームマネジメント・人材育成での組織貢献度
  • 新規営業・サービス開発の成果

報酬のトレンド

  • 成果主義色が強く、“チーム×案件×営業”3軸のバランスを取る人材が高給に到達しやすい
  • 大型案件共同受注、個人売上インセンティブの強化傾向
  • 若手時代から高年収が狙える結果重視志向の職場へと進化中

独立系FASのディレクターの 代表的な会社

独立系FASはクライアントの状況に応じて柔軟なアドバイスを行える点が監査法人系FASとの大きな違いであり、特に中小企業やオーナー企業との密接な関係構築を得意としています。日本における独立系FAS企業の中でも代表的な企業を紹介します。

1. 日本M&Aセンター

日本M&Aセンターは、業界最大級の規模を誇る独立系FAS企業です。主に中堅・中小企業のM&A仲介業務を中心に活動しており、全国各地で豊富なネットワークを構築。企業成長を目的とした戦略的な買収や事業承継を支援すると同時に、経営者同士の信頼関係を重視したサービス提供が特徴です。また、専門性に裏打ちされた合理的なマッチング技術により、高い成約率を誇っています。

2. レコフ (RECOF Corporation)

M&A仲介という分野において長年の実績を持つレコフは、特に日本国内の企業間取引に定評があります。同社は、ビジネススキームの調整だけでなく、企業価値を最大化するための戦略的な提案が得意です。クロスボーダー案件にも対応しており、国際的なネットワークを活用したサービス展開も進めています。

3. 山田コンサルティンググループ

再生支援やM&Aだけでなく、経営コンサルティングを幅広く手掛ける山田コンサルティンググループ。特に中小企業の事業承継や事業再生に関するアドバイザリーが得意であり、具体的な経営課題の解決に寄り添う姿勢が特徴です。また、企業診断や戦略策定に関する能力の高さから、大手企業の支援業務を担当する機会も増えています。

4. ストライク株式会社

ストライクは、M&A仲介に特化したサービスを展開している独立系FAS企業です。その強みは、柔軟な対応力とクライアントのニーズを徹底的に追求する姿勢です。中小企業やオーナー企業の事情や価値観を理解し、具体的かつ効果的な提案を提供しています。特定の規模や業種に限定されない幅広いアプローチが評価されています。

5. M&Aキャピタルパートナーズ

中小企業のM&A仲介業務を得意とするM&Aキャピタルパートナーズは、顧客のニーズに応じたオーダーメイド型の提案を提供しています。同社では企業の重要基盤となる経営の安定性や発展性を考慮した上でのサポートが特徴であり、事業承継や買収後のフォローアップにも力を入れています。

独立系FASのディレクターに 向いている人は、どんな人?

■求められるマインド

1.リーダーシップと主体性

 自ら主導権を握って案件を動かし、チームやクライアントに強い影響を与えられる胆力。

2.スピード感・柔軟性

 案件ごとに状況判断・方針転換が求められる現場で、即断即決・柔軟な適応力を発揮できること。

3.責任感・オーナーシップ

 成功も失敗も自分事として背負い、最後までやり抜く覚悟。

4.共感力・コミュニケーション力

 クライアント経営者やチームメンバーの想いを汲み、相手のためにベストな提案を本気で考え抜く力。

5.ロジカルシンキング&クリエイティビティ

 数字や構造を紐解き、新しいソリューションを描き切る分析力と発想力。

6.学びの継続・市場感覚

 変わり続けるビジネス環境や規制、トレンドに常にアンテナを立てて自己研鑽し続ける意志。

“オーナーシップ・リーダーシップ・共感・論理力・柔軟性”で、現場を本気で動かせる人、それがFASディレクターの資質です。

 

■必要なスキル

1.M&A・再生・バリュエーションの専門知識

 財務、企業価値評価、会計・法務・税務・戦略に精通。

2.プロジェクトマネジメント・案件推進力

 複数案件を同時並行で動かす進行管理力と実務遂行力。

3.クライアント/社内説得・プレゼンスキル

 経営層に納得感のある提案ができ、チームの合意形成を主導できる力。

4.デューデリジェンス・財務分析

 現場で深堀り分析し、問題を抽出・改善策を提案する技術。

5.人材育成・チームビルディング経験

 若手スタッフのOJT、適材適所のアサイン、評価・フィードバックスキル。

6.リスク管理・危機対応能力

 案件進行中のトラブル・不測のリスクをシナリオ化し、冷静に舵を切る力。

7.語学・グローバル対応力

 クロスボーダープロジェクトや多国籍チームとの協働に必要な実務英語・異文化対応力。

「案件現場の専門家」かつ「チームを育てるミドルマネジメント」として両輪で成果を出せる人材が、ディレクターにふさわしいと言えるでしょう。

独立系FASのディレクターまでの 道のり

直前のポジション

  • シニアコンサルタント、シニアアソシエイトとして案件リーダー経験
  • BIG4やFASファームのシニアマネージャー・マネージャー
  • 監査法人・コンサルティング会社におけるPJマネージャー
  • 商社・金融・スタートアップ等のM&A実務担当

その前段階

  • コンサルタント、アナリスト/弁護士・会計士、システムベンダーでの財務・法務・業務改革実務経験
  • デューデリジェンス・企業評価の実務サブリーダー

若手時代

  • FASや監査法人・銀行等でのベーシックな案件遂行/コンサルティング業務
  • 簿記・会計士・税理士・USCPA等の資格学習・磨き上げ
  • 若手時代からチーム内で抜擢される実績形成

転職や社内異動を重ね、自身の得意分野を軸に“案件リーダー経験”を積み上げた上で、30代後半〜40代半ばでディレクター昇格が一般的な王道です。

独立系FASのディレクターの キャリアパスの展望

ディレクター経験は、社内でのパートナー昇格や自社経営参画への道筋となります。外部人材としては大手コンサルティングファーム、PEファンド、投資銀行への上位転職、上場企業の事業企画責任者・経営企画部長など“経営層直結”のキャリアへ繋がります。

また海外PJやクロスボーダーM&Aの事例を実績に、アジア・欧米等の現地経営陣やファンド、ベンチャー企業でグローバルリーダーとして活躍するケースも珍しくありません。
自ら独立系FASを興したり、スタートアップCFO・CSO、上場企業の社外取締役等、プロ経営人材としての幅広い進路・影響力を持てる点も大きな特長です。

まとめ

役割と責任

  • M&A・再生・バリュエーション・チームマネジメントまで、プロジェクト現場の統括者
  • クライアント経営層と並走する信頼パートナー

求められるマインドやスキル

  • 主体的リーダーシップ、柔軟/迅速な意思決定、強い責任感、共感/論理的説明力、専門知識・育成力
  • プロジェクト推進/分析力、説得・交渉、リスク管理、グローバル対応など幅広い実務力

重要な職務

  • 財務アドバイザリー案件の現場統括
  • クライアント経営層への直接提案・折衝
  • プロジェクトチームのマネジメント・若手育成

キャリアパス

  • FAS内におけるパートナー昇格・組織経営参画によるキャリアアップ
  • ファンド・投資銀行上位職、企業経営層、グローバルPJリーダー等への転職や独立開業など将来の多様なキャリアパス