経理・財務・会計ファイナンス人材のためのキャリア名鑑
企業の健全経営を支える縁の下の力持ち
経営者の最も頼りになる右腕
少数精鋭だからこそ広がる可能性
300万円〜550万円
※業績や評価によって変動
22歳~45歳
中小企業の経理部で働くことは、企業の心臓部で活躍するやりがいのある仕事です。大企業と違って少人数で多様な業務をこなすため、財務・会計の幅広い経験を短期間で積むことができます。経理は「数字を記録する」だけの仕事ではありません。会社のお金の流れを一手に担い、時には経営者の重要な意思決定をサポートする、まさに企業経営の要となる存在です。特に中小企業では、経営者と直接やりとりする機会も多く、自身の提案や分析が会社の未来を左右することも珍しくありません。「数字が好き」「分析が得意」という方はもちろん、「会社の経営に関わりたい」「幅広いスキルを身につけたい」という方にとって、中小企業の経理部は自身の可能性を大きく広げられる舞台となるでしょう。
中小企業の経理部で働く魅力は何と言っても、その「幅広さ」にあります。大企業のように業務が細分化されていないため、経理のほぼ全領域に携わることができるのです。
毎日の仕事は、取引の記録から始まります。請求書や領収書をもとに会計ソフトに仕訳を入力し、会社のお金の動きを正確に記録していきます。月末には当月の売上や経費を集計し、月次決算として会社の収支状況を明らかにします。このデータは経営者が会社の状態を把握し、次の一手を考えるための重要な情報源となります。
「先月と比べて原材料費が15%増加していますね。これは仕入先の値上げの影響でしょうか?」「新商品の利益率が想定より5%低いのは、想定外の物流コストが発生しているためです」—このように、数字の背景を分析して経営者に報告することも、中小企業の経理スタッフの重要な役割です。
資金繰り管理も重要な業務の一つです。中小企業では、「手元資金」の動きが会社の生命線となります。来月の大口支払いに備えて、いつどれだけの資金が必要か、その資金をどこから調達するかなど、会社の資金計画を練ることも経理部の仕事です。「この時期は売上が落ち込むから、前もって運転資金を確保しておこう」「新規設備投資のためにどの金融機関から融資を受けるのがベストか」—こうした判断は、会社の存続に直結する重要なミッションなのです。
中小企業の経理部では、給与計算や社会保険関連の手続も担当することが多いです。毎月の給与計算はもちろん、昇給時の新給与の設定、社会保険の加入手続、年末調整など、従業員の生活に直結する大切な業務を担います。「今月から子どもが生まれて扶養に入るので、税金や保険料の計算が変わりますね」「資格手当の対象資格を取得されたので、次月から手当が追加されます」—このように、一人ひとりの従業員の状況に合わせたきめ細かな対応が求められます。
さらに、中小企業の経理部では税務対応も重要な業務です。法人税や消費税などの税務申告書類の作成補助や、税理士との連携を通じて、会社の適正な納税をサポートします。「この費用は交際費として処理すべきか、会議費として処理すべきか」「この設備投資は税制優遇の対象になるのではないか」など、税務上の判断を適切に行うことで、会社の税負担を適正化することができます。
このように中小企業の経理部スタッフは、多岐にわたる業務を担当することになります。一見大変そうに思えるかもしれませんが、だからこそ短期間で財務・会計の総合力を身につけられるのです。また、様々な業務に関わることで、会社の全体像を把握できるのも大きな魅力と言えるでしょう。
中小企業の経理部で働くことには、他のキャリアパスにはない魅力がたくさんあります。なぜ多くの方がこの道を選ぶのか、その理由を探っていきましょう。
何より大きな魅力は、経理のフルサイクルを経験できることです。大手上場企業では「売掛金管理チーム」「固定資産チーム」など、業務が細分化されていることが多いのですが、中小企業では日次の入力業務から月次決算、年次決算、税務申告のサポートまで、会計のあらゆるプロセスに携われます。このような幅広い経験は、将来どのようなキャリアを選ぶにしても、強固な基盤となるでしょう。
また、中小企業では経営者や役員と直接コミュニケーションを取る機会が多いのも特徴です。「先月の売上が前年比110%に達しました」「この新製品の利益率は25%と予想を上回っています」など、自身が作成した資料やレポートが直接経営者の目に触れ、重要な意思決定に影響を与えることも珍しくありません。自分の仕事が会社の進路を左右する—そんな実感とやりがいを得られるのは、中小企業ならではの魅力です。
さらに、中小企業では「経理担当」として多様な財務関連業務を任されることで、総合的な問題解決能力も養われます。例えば、「取引先からの入金が滞っているため資金繰りが厳しい」という状況では、入金催促の方法を考えたり、一時的な資金調達の方法を提案したりと、「記録係」ではなく「問題解決の担い手」として成長することができます。
中小企業の経理部で働くと、会社の全体像を把握できるのも大きなメリットです。製造業であれば製造コストの内訳、サービス業であれば人件費と売上の関係など、業界特有の収益構造や財務特性を理解することができます。この「ビジネスの全体像を数字で理解する力」は、どんな業種・職種に進んでも必ず役立つ、一生ものの財産となるでしょう。
また、中小企業は大企業に比べて組織の変化や成長が早いため、自身のキャリアアップのスピードも速いことが期待できます。入社2〜3年で経理の中核メンバーとして活躍し、5年程度で経理リーダーやマネージャーへ成長するケースも少なくありません。「若いうちから責任ある立場で仕事がしたい」という方にとっては、うってつけの環境と言えるでしょう。
さらに、中小企業で培った経理のスキルと経験は、将来のキャリアの選択肢を大きく広げてくれます。経理マネージャーやCFO(最高財務責任者)を目指すことはもちろん、経営企画など他部門へのキャリアチェンジ、あるいは会計事務所や税理士事務所への転身、さらには経理の知識を活かした独立起業など、様々な道が開かれています。
中小企業の経理部での経験は、「数字を通して企業の健全な成長に貢献する」という社会的にも意義のある仕事です。「経理事務」のみではなく、企業の持続的な発展を財務面から支える重要なミッションなのです。こうした充実感と社会的意義を持ちながら働けることも、この職種を選ぶ大きな理由と言えるでしょう。
中小企業の経理部スタッフは、1年を通じて様々な業務に取り組みます。決算業務や税務申告、各種支払いなど、毎月のルーティンワークに加えて、年間を通じて特定の時期に集中して発生する業務があります。ここでは、中小企業の経理部スタッフの典型的な年間スケジュールを3月決算会社を例として月ごとに紹介します。
まず、毎月必ず行われる業務として以下のものがあります:
上記は3月決算の会社を前提としたスケジュールですが、決算月が異なる場合は、決算関連の業務スケジュールが変わります。例えば12月決算の会社であれば、11月から決算準備が始まり、12月に決算整理、1〜2月に法人税申告の準備、3月末までに法人税の確定申告を行うことになります。
中小企業の経理部では、少人数で多くの業務を担当するため、年間スケジュールをしっかり把握し、計画的に業務を進めることがとても重要です。特に法定期限のある税務申告や社会保険関連の手続は、遅延すると罰則の対象となる場合もありますので、カレンダーに明記して管理することをお勧めします。
経理部の基本中の基本となる業務です。具体的には、以下があげられます。
この業務は会社の財務状況を正確に把握し、経営判断の基礎となる情報を提供する役割を果たします。
中小企業にとって資金繰りは企業存続の生命線です。
特に中小企業では突発的な資金不足が経営危機に直結するため、先を見据えた計画的な資金管理が求められます。
法令遵守と税務コスト最適化の両立を図る重要業務です。
適切な税務処理は、ペナルティ回避だけでなく、適正な納税額の算出による企業利益の確保にも貢献します。
これら3つの任務は互いに密接に関連しており、中小企業の経理部スタッフはこれらをバランスよく遂行することが求められています。
中小企業の経理スタッフの平均年収は、おおよそ400万円前後が相場となっています。
年代やポジション別に見ると以下のような傾向があります。
年代別
ポジション別
中小企業の経理スタッフの報酬は以下の要因によって変動します。
特に中小企業では、経理担当者が総務・人事・労務などを兼務することも多く、その場合は業務範囲の広さが評価される傾向にあります。
中小企業の経理部スタッフに特に重要なマインドを整理します。
中小企業の経理スタッフは、専門性と汎用性のバランスを取りながら、会社全体の経営を支える役割が求められています。このため、「数字の専門家」ではなく、経営に参画する意識を持ち、様々な業務に柔軟に対応できるマインドが重要です。
中小企業の経理部スタッフには、大企業とは異なる幅広いスキルが求められます。限られた人員で多様な業務をカバーする必要があるためです。以下に、中小企業の経理部スタッフに特に重要なスキルを整理します。
中小企業では以下のような業務も兼任することが多いため、関連スキルも重要です。
中小企業の経理部スタッフは、専門性と汎用性の両方が求められます。特に、限られたリソースの中で効率的に業務を進め、かつ経営に役立つ情報を提供できるスキルが重要視されています。
中小企業の経理部スタッフになるまでのキャリアパスは一つではありません。様々な道筋があり、自身の状況や強みに合わせた進路を選ぶことができます。ここでは、経理部の中核メンバーに至るまでの複数のキャリアパスを紹介します。
まず、経理部の中堅スタッフから遡って考えてみましょう。経理部で中核的な役割を担うスタッフは、通常3〜5年程度の経理実務経験を持ち、日常的な経理業務だけでなく、月次決算や税務申告のサポート、資金繰り管理なども担当できるレベルに達しています。
この中堅スタッフになる前の段階としては、いくつかのルートが考えられます。
・新卒や第二新卒で中小企業の経理部に入るルート
基礎から経験を積むルートです。商学部や経済学部の出身者、あるいは大学・専門学校で簿記や会計を学んだ方が、そのまま経理職としてキャリアをスタートさせるパターンです。この場合、入社後1〜2年は請求書処理や仕訳入力など基本的な業務を担当しながら、先輩社員の指導のもとで実務経験を積み、徐々に担当範囲を広げていきます。
・同じ会社の他部門から経理部へ異動するルート
例えば営業や総務などの部門で働いていた方が、経理の知識に関心を持ったり、適性を見出されたりして経理部に異動するケースです。この場合、会社の事業内容や組織文化をすでに理解しているという強みがあります。一方で、会計の専門知識は基礎から学ぶ必要があるため、簿記の勉強を並行して進めるなど、自己研鑽が求められます。
・他の中小企業での経理経験を活かして転職するルート
経理の基本的なスキルはどの会社でも共通する部分が多いため、他社での経験が評価されて中途採用されるケースも少なくありません。特に、同業種の企業であれば業界特有の会計処理にも精通している点が強みとなります。
・会計事務所や税理士事務所での勤務経験を経て、事業会社の経理部に転職するルート
会計事務所では複数のクライアント企業の会計・税務に携わるため、幅広い知識と経験を短期間で得られます。こうした経験は中小企業の経理部でも大いに役立つため、即戦力として迎えられることが多いでしょう。
・派遣社員やアルバイトとして経理補助の仕事を経験した後、正社員として採用されるルート
まずは請求書の仕分けや入力業務などの補助的な立場から始め、実務能力と信頼関係を築いた上で正社員登用を目指すというキャリアパスも現実的な選択肢です。
若手のうちに身につけておくと良いスキルとしては、やはり簿記の知識とExcelの操作スキルが挙げられます。日商簿記検定2級程度の知識があれば、中小企業の経理実務の大部分に対応できるでしょう。また、会計ソフトの基本操作を習得しておくことも有利になります。freeeやMFクラウドなどのクラウド会計ソフトは、無料トライアル版もあるので、自己学習も可能です。
若いうちに経理を目指すなら、インターンシップや短期アルバイトで経理部の仕事を体験してみることも有効です。実際の業務環境を知ることで、自分の適性や将来のキャリアイメージをより具体的に描けるようになります。
また、社会人になってから経理職を目指す場合は、簿記の無料通信講座CPAラーニングなどを活用しながら、基礎知識を身につけていくとよいでしょう。簿記の資格があれば、未経験でも経理職への転職チャンスは広がります。
中小企業の経理部スタッフになるためには、特別な学歴や経歴は必ずしも必要ありません。大切なのは「数字を通して会社の成長に貢献したい」という意欲と、地道に学び続ける姿勢です。自身の現在の状況から始められるステップを見つけ、一歩ずつ前進していきましょう。
中小企業の経理部で働くことで、ビジネスパーソンとして価値の高い多様なスキルが身につきます。それらは将来のキャリアの可能性を大きく広げ、様々な分野で活躍するための基盤となるでしょう。
まず、会計・財務の専門知識が体系的に身につきます。日々の仕訳入力や月次決算業務を通じて、会計基準や税法の実践的な知識が自然と養われていきます。「この取引はどう仕訳すべきか」「この経費は税務上どう処理すべきか」といった判断を日常的に行うことで、教科書では得られない生きた会計知識が身についていくのです。
また、中小企業では経理部が資金繰り管理も担当することが多いため、「キャッシュフロー感覚」も鍛えられます。「来月の大口支払いに備えて、今月はどれくらいの資金を確保しておくべきか」「季節変動を考慮した半年先までの資金計画をどう立てるか」といった実践的な資金管理能力は、ビジネスのあらゆる場面で役立つ貴重なスキルです。
さらに、中小企業の経理部では様々な部門や外部関係者と連携する機会が多いため、ビジネスコミュニケーション能力も向上します。社内の営業部門や製造部門とのやりとり、税理士や会計士、銀行担当者との折衝など、様々な立場の人と適切にコミュニケーションを取る力が養われます。特に「数字を分かりやすく説明する能力」は、経理部で鍛えられる特有のスキルと言えるでしょう。
中小企業では少人数で多くの業務をこなすため、業務効率化の視点も自然と身につきます。「この作業を自動化できないか」「より効率的な管理方法はないか」と常に考え、限られたリソースで最大限の成果を上げる工夫を学ぶことができます。例えば、Excelのマクロ機能を活用して定型業務を自動化したり、クラウド会計ソフトを導入して請求書処理を効率化したりといった改善提案ができるようになるでしょう。
中小企業の経理部での経験は、将来のキャリアパスを考える上でも大きな強みとなります。主なキャリアパスとしては、以下のような選択肢が考えられます。
まず、経理部内でのキャリアアップです。経験を積んで経理リーダーやマネージャーとなり、さらにキャリアを重ねてCFO(最高財務責任者)を目指すことも可能です。中小企業では大企業に比べてキャリアアップのスピードが速く、30代で経理部長、40代でCFOといったキャリアも珍しくありません。
また、経理で培った数字分析力を活かして、経営企画部門へのキャリアチェンジも可能です。経理で身につけた「数字で会社を見る目」は、事業戦略の立案や新規事業の検討において大きな武器となります。「この新規事業の投資回収期間は何年になるか」「この商品ラインの収益性をどう改善するか」といった経営課題に、財務の視点からアプローチできる人材は重宝されるでしょう。
さらに、中小企業での経理経験を基盤に、会計事務所や税理士事務所へ転職する道も開かれています。実務経験を持つ人材は、クライアント企業の気持ちが分かる貴重な存在として歓迎されるでしょう。将来的に税理士資格の取得を目指すなら、中小企業の経理部での経験は非常に有益です。
独立・起業の選択肢も考えられます。経理の実務経験を重ねた後、例えば、フリーランスの経理コンサルタントとして複数の中小企業の経理業務を支援したり、バーチャルCFOとして成長企業の財務戦略をサポートしたりする道も開かれています。中小企業の経理部で培った実践的なスキルと経験は、独立後の大きな武器となるでしょう。
中小企業で経理の経験を積んだ後、大手企業の経理・財務部門へキャリアアップすることも可能です。中小企業で培った「幅広い業務経験」と「主体的に問題解決する力」は、大企業でも高く評価されます。特に、中小企業で経理リーダーやマネージャーの経験がある場合、大手企業でもマネジメント層として迎えられるケースが増えています。
このように、中小企業の経理部で身につけるスキルと経験は、将来の様々なキャリアパスへの基盤となります。「経理一筋で専門性を高める」「経営層を目指す」「独立して自分のビジネスを始める」—どの道を選ぶにしても、中小企業での経理経験は確かな財産となるでしょう。
重要なのは、日々の業務の中で「経理事務」にとどまらず、常に会社全体を見る視点を持ち、「この数字が意味するものは何か」「この情報をどう経営に活かせるか」を考えながら仕事に取り組むことです。そうすることで、自身の成長スピードは加速し、キャリアの可能性はさらに広がっていくでしょう。