経理・財務・会計ファイナンス人材のためのキャリア名鑑
1,000万円~2,500万円
※業績や評価によって変動
30歳~45歳
「数字でビジネスの未来を描く」—これがスタートアップ企業のCFOの醍醐味です。「Chief Financial Officer(最高財務責任者)」というタイトルだけでは、その激動の日々も、創業者とともに描く大きな夢も伝わりません。スタートアップ企業のCFOは、「お金の番人」ではなく、限られたリソースで最大の成長を実現する「ビジネスの共同設計者」なのです。資金調達から財務戦略、そして時にはIPOという大舞台まで、CFOの決断が会社の命運を左右します。年収1,000万〜2,500万円にストックオプションという魅力的な報酬だけでなく、0から1を創り出す創造の喜びと、若いうちからの大きな裁量と影響力を手にできるこの職種は、挑戦心と成長意欲に満ちた、理想のキャリアパスとなるでしょう。
スタートアップ企業のCFOは、大企業の財務責任者とは一線を画す存在です。CFOは過去の数字を管理するだけでなく、将来の成長曲線を描き、そこに至るための道筋を資金面から切り拓く戦略家となります。朝は創業CEOとキャッシュバーンレート(資金消費率)の分析から始まり、午後はVCとの資金調達ミーティング、夕方には開発チームと新製品の収益モデルについてディスカッション—このようなダイナミックな一日が当たり前となるでしょう。
具体的な業務範囲は驚くほど広範です。財務諸表の作成や予算管理といった基本業務に加え、資金調達戦略の立案・実行、投資家リレーションの構築、経営指標(KPI)の設計と分析、そして事業計画の財務的検証までを担います。特に初期のスタートアップ企業では「どの事業にどれだけ投資すべきか」という経営判断にも深く関わり、時にはCEOの最も重要な相談相手となることも珍しくありません。
資金調達の場面では、CFOの手腕が会社の命運を左右します。例えば、シリーズAの調達では、投資家に対して「なぜ今この金額が必要か」「どのようにして次のステージに到達するか」を、緻密な数字と説得力ある物語で説明する必要があります。ここで必要なのは計算能力だけではなく、会社のビジョンを数字で表現する「ストーリーテリング」の力です。
リスク管理においても重要な役割を果たします。急成長するスタートアップ企業では、キャッシュフロー不足によるランウェイ(資金が尽きるまでの期間)の短縮や、為替変動、急激な採用拡大によるコスト増など、様々なリスクが潜んでいます。これらを先読みし、適切なヘッジ戦略を講じることがCFOの腕の見せどころです。例えば、海外展開を計画するスタートアップ企業では、為替予約を活用して為替リスクを最小化したり、シナリオ分析を駆使して複数の成長シナリオに基づく資金需要を予測したりします。
IPOを目指す企業では、上場準備の中心的役割も担います。監査法人対応から内部統制の構築、目論見書の作成まで、CFOの舵取り次第で上場の成否が決まると言っても過言ではないでしょう。
このように、スタートアップ企業のCFOは「数字のプロフェッショナル」であるだけでなく、経営戦略の立案者、投資家との交渉人、そして時にはチームのメンター的存在にもなります。多岐にわたる役割を担い、日々変化する環境に柔軟に対応しながら、会社の成長を財務面から支えるポジションなのです。
スタートアップ企業のCFOの魅力は、なんといってもそのダイナミックな世界観です! 経営陣の一員として、会社の未来を左右する重要な決断に関わることができます。投資家との熱い交渉や、経営陣との深夜に及ぶ戦略会議など、ドラマのような展開も日常茶飯事です。
報酬面でも大きな魅力があります。基本給に加えて、ストックオプションという「会社の成長分の権利」をもらえるため、会社が大きく成長すれば億単位の資産を手にすることもあります。実際、スタートアップの成功によって大きな富を得たCFOは少なくありません。
また、経理・財務チームのリーダーとしてのマネジメントスキルも身につきます。最初は数人の小規模チームかもしれませんが、会社の成長とともにチームも大きくなり、時には数十人規模の組織をまとめることもあります。人材育成や組織作りの経験は、その後のキャリアでも大きな武器にとなります。
社長や投資家との距離が近いのも特徴の一つです。一緒に夢を語り合い、時には深夜までお酒を交わしながら本音で語り合うこともあります。若いうちから経営者や投資家とフラットな関係を築けるのは、スタートアップ企業ならではの醍醐味でしょう。
他部門とのコラボレーションも欠かせません。営業、マーケティング、エンジニアリング…様々な部門と協力しながら会社の成長を支えていきます。このクロスファンクショナルな経験は、将来CEOを目指す際にも大きな財産となるはずです。
自分の判断で大きな予算を動かせるポジションなので、その分やりがいも抜群です。「この投資が会社を次のステージに進ませる!」というワクワク感を日々味わうことができますえます。会社の成長とともに自分も成長できる、そんな刺激的な環境がスタートアップ企業のCFOを待っているのです。
スタートアップ企業のCFOの面白さは、会社のフェーズによって求められる役割が大きく変わることにもあります。シリーズAの頃は財務基盤の確立に注力します。具体的には、資金計画の作成、会計システムの導入や経費精算などの業務プロセスの確立、KPIの設定などを行います。
シリーズBになると成長戦略の立案の役割も担うようになります。例えば、事業部門別の予算の策定と権限委譲の仕組み作り、製品開発やマーケティングなどの投資配分の決定、収益性分析や価格戦略の見直しによる収益最大化の検討などを行います。
シリーズC以降は組織のスケーリングやM&A戦略等の役割がさらに増えていきます。具体的には、地域別や組織構造と財務責任体制の確立、経理チームの採用・育成、監査法人の選定からIOI準備のための内部統制整備などを行います。
このように、ステージが上がるごとに新しい業務に挑戦するフィールドが広がっていきます。失敗を恐れない文化も魅力的です。大企業のCFOは保守的な判断を求められがちですが、スタートアップ企業では「失敗してもいいから、まずはやってみよう!」という姿勢が評価されます。もちろん、無謀なリスクは避けますが、計算されたリスクテイクができる環境は、プロフェッショナルとしての成長を加速させてくれます。
グローバルな視野も広がります。海外投資家とのやり取りや、国際展開の財務戦略立案など、世界を相手にしたビジネスを経験できることもあります。英語力はもちろん、異文化コミュニケーション能力も自然と身についていきます。そして何より、「会社の成長=自分の成長」を実感できるポジションです。今日の判断が明日の会社の価値を決める。そんなスリリングな環境で、財務のプロフェッショナルとして、そして経営者として、大きく飛躍できる可能性が待っているのです。
スタートアップ企業のCFOは、企業の財務健全性、資金調達、予算管理、財務戦略の策定など多岐にわたる責任を担います。スタートアップ企業特有の成長フェーズや資金調達サイクルに合わせて、年間を通じて計画的に業務を行う必要があります。以下に、一般的なスタートアップ企業のCFOの年間スケジュールを12月決算会社を例として四半期ごとに示します。
スタートアップ企業のCFOは、通常の年間サイクルに加え、企業の資金調達フェーズに応じて、以下の追加業務が発生します。
シード/プレシリーズA段階
シリーズA/B段階
シリーズC以降/成長後期段階
年間サイクルに加えて、例えば以下の業務は毎月定例的に行われます。
財務報告・分析
資金管理
事業支援
コンプライアンス
スタートアップ企業のCFOは、通常の財務責任者としての役割に加えて、急速な成長環境における戦略的パートナーとしての役割も担います。年間を通じて、以下のポイントに特に注意を払うことが重要です。
スタートアップ企業のCFOにとって、リスク管理は最重要任務の一つです。未来の不確実性に備えて、CFOは様々なリスクシナリオを想定し、多角的なシミュレーションを実施します。
好調シナリオでは、売上・利益の成長に応じたキャッシュフローの拡大を見込み、人材採用や新規事業への投資計画を立案します。一方、不調シナリオでは、厳格な支出管理、早期の資金調達、さらには事業の方向転換(ピボット)まで視野に入れます。
例えば、市場後退や資金調達の難航時には、迅速な費用削減と銀行融資の交渉を進めます。また、為替変動や金利上昇などの外部リスクに対しては、為替予約やヘッジ取引といった具体的な対策を講じます。
CFOはこれらのシナリオ分析に基づき、経営陣への戦略的提言を行い、企業全体のリスク管理体制を強化します。スタートアップ企業では小さな判断ミスが存続を左右する可能性があるため、これらのシミュレーションは理論にとどまらず、日々の経営判断における実践的なツールとして不可欠です。
スタートアップ企業のCFOにとって、もう一つ大切な仕事は、会社の成長に必要なお金を集め、それを効果的に使うことです。会社が大きくなるにつれて必要になる資金を、適切なタイミングで調達していきます。
お金を集めるときは、スタートアップ企業に投資してくれる可能性のある投資家さんたちに、会社の未来像や成長プランを分かりやすく説明します。投資家さんには主に2種類あって、ベンチャーキャピタル(専門の投資会社)と、個人で投資をする人(エンジェル投資家)です。また、銀行から資金を借りることもあります。CFOは、その時々の会社の状況に合わせて、どの方法で資金を集めるのが一番良いのかを考えます。
集めた資金は、会社の成長のために大切に使っていきます。例えば、新しい社員さんを採用したり、必要な設備を整えたり、日々の運営費用に使ったりします。どこにどれだけ資金を使うのか、優先順位を付けながら計画的に配分していきます。このように資金を上手に管理することで、会社を着実に大きくしていくことができるのです。
スタートアップ企業のCFOにとって、「会社の価値を高める」ことも大切な仕事です。会社の価値を高めるとは、簡単に言えば「会社の実力を上げて、多くの人から『いい会社だね』と評価してもらう」ということです。
具体的には、いくつかの方法があります。まず、売上を増やすことです。新しい顧客お客様を増やしたり、既存の顧客お客様により多くの商品やサービスを利用してもらうことで、会社の収入を増やしていきます。
次に、効率よく利益を出せる仕組みを作ることです。例えば、同じ仕事をするのに必要な時間を短くしたり、無駄な支出を見直したりすることで、かかるお金を減らすことができます。また、新しい商品やサービスを開発して、会社の未来の可能性を広げることも大切です。
CFOは、これらの取り組みを数字で管理します。「今月の売上はいくらで、経費はいくらで、利益はいくら出た」「来月はどれくらい売上が増えそうか」といったことを、常に把握しているのです。
さらに、CFOは投資家に向けて会社の魅力を伝える資料も作ります。「うちの会社はこんなに成長していて、こんな将来性があります」というストーリーを、数字を使って分かりやすく説明するのです。
このように会社の価値を高めることができれば、大きなメリットがあります。例えば、将来株式を上場(IPO)するときに、多くの人が「この会社の株式を買いたい」と思ってくれるでしょう。また、新しく投資してもらうときも、「この会社なら安心して投資できる」と考えてもらえるため、より良い条件で資金を集めることができます。
CFOは、社長やほかの役員と毎日話し合いながら、「どうすれば会社の価値をもっと高められるか」を考え続けます。数字のプロとして、会社の成長を支える—それがCFOの重要な役割なのです。
スタートアップ企業のCFOの報酬について、分かりやすく説明していきましょう。基本的には「固定給+業績連動報酬」と「ストックオプション」の2つがあります。
まず基本となるのが固定給です。
スタートアップ企業の規模によって金額は変わってきます。
これに加えて、会社の業績が良かったときにボーナスがもらえます。例えば以下のようなケースが考えられます。
ボーナスは、年間で基本給の3~5ヶ月分くらいになることが多いです。つまり、基本給が月100万円の場合、ボーナスで300~500万円くらいもらえる可能性があるということです。
スタートアップ企業ならではの報酬として、「ストックオプション」というものがあります。これは「新株予約権」とも呼ばれており、将来、会社の株式を割安で購入できる権利のことを指します。
例えば、こんなケースを考えてみましょう。
ストックオプションは、創業間もないために資金が十分にないスタートアップ企業が、金銭的報酬を補填するために用いられます用いることもあります。会社が成長しない限りストックオプションから儲けもうけを得ることはできないのでリスクはありますが、上手くいけば巨額の報酬を得ることがも可能です。具体的な数字を挙げてみましょう。
実際の付与される株式の数は、会社の規模や成長段階によって変わります。
もし会社が大きく成長して上場したり、大手企業に買収されたりした場合、このストックオプションが大きな金額に化けるのです。
例えば以下のような価値になることも考えられます。
スタートアップ企業のCFOという仕事の最も魅力的な点は、企業価値の向上に「自分の力で」直接的かつ大きな影響を与えられることです。財務戦略の立案から実行まで、自らの判断と行動で会社の成長曲線を描くことができます。確かにスタートアップ企業特有のリスクは存在しますが、それを上回る大きなやりがいがあります。特に、自分の実力と努力次第で、固定給に加えてストックオプションなどの形で大きな経済的リターンを得られる可能性があることは、スタートアップ企業のCFOならではの醍醐味と言えるでしょう。また、会社の成長に合わせて自身の市場価値をも高めていけることも、このポジションの重要な魅力の一つです。
何度か「上場」という言葉が出てきたので、少し解説を加えておきたいと思います。
上場(IPO)とは、会社の株式を証券取引所という株式を売り買いする場所に公開することです。通常の会社の株式は限られた人しか買うことができないのですが、上場した株式であれば、簡単な手続きを経ることで誰でも購入、売却できるようになります。つまり、株式の上場は「一般の人が株を買えるようになること」と言って良いでしょう。
上場することによって、会社にとって以下のようなメリットがあります。
ただし、上場にはいくつかの課題もあります。
上場企業と非上場企業では大きく会社の運営の仕方が変わってくるため、会社にとってIPOは大きな転換点となります。そして、CFOはその準備と実行において中心的な役割を担うため、前述のストックオプションを多めにもらうことができることも多いです。一方で、CFOは、IPOすることだけがゴールではなく、会社を従業員とともに成長させ、社会的価値を生み出す役割を担っているという点は、十分に理解しておきましょう。
参考までに、ここ数年の東京証券取引所におけるIPOの件数と、時価総額の平均値を見てみましょう。2020年以降の東証IPO件数と上場時時価総額平均の推移をまとめました。
年度 | IPO件数 | 上場時時価総額平均(億円) | 備考 |
---|---|---|---|
2020 | 93社 | 約101億円 | コロナ禍にも関わらず高水準 |
2021 | 136社 | 約159億円 | 2006年以来の最多IPO |
2022 | 91社 | 約101億円 | IPO件数・時価総額ともに減少 |
2023 | 96社 | 詳細不明(平均は非公表) | 件数は前年より微増 |
日本のスタートアップエコシステムにおいて、成長フェーズに入った企業では専門的な財務管理のためにCFO(最高財務責任者)を置くケースが増えています。以下に、CFO職が存在する日本の代表的なスタートアップ企業とその概要を紹介します。
会社概要
会社概要
会社概要
会社概要
会社概要
日本のスタートアップ企業におけるCFOの特徴として、以下の点が挙げられます。
これらの企業とCFOは、日本のスタートアップエコシステムの成熟と共に、財務戦略の重要性が増していることを示しています。
CFOには、目の前の数字にとどまらず、企業の未来を見据えた「戦略的な思考力」が強く求められます。これは数字を追うスキルだけではなく、経営全体を俯瞰し、長期的な視点から意思決定を導く力です。
経理・財務の枠を超えて、営業、開発、人事、マーケティングなど会社のあらゆる活動を幅広く見渡す力です。自部門だけに閉じることなく、組織全体がどのように機能しているのか、どこにボトルネックがあるのかを捉えることで、財務データを経営判断に生かす本質的なアプローチが可能になります。
自社の内部状況だけでなく、業界全体の動向やテクノロジー、規制、競合他社の動きなど、外部環境の変化にもアンテナを張り、未来に備えることが必要です。トレンドに対する感度が高ければ、先手を打った資金計画や投資判断ができるようになり、企業の競争優位を築く手助けになります。
目先の利益や短期的な成果にとらわれず、3年後、5年後の会社の姿を描いたうえで、今どのような施策を講じるべきかを考える「未来起点」の思考です。特に成長企業では、今の延長線ではない未来を実現するための“逆算的な意思決定”が必要であり、CFOはその旗振り役を担います。
スタートアップ環境では、急速な変化と不確実性が常に伴います。CFOも例外ではなく、そうした環境下でも的確に判断を下し、柔軟に対応していくための「しなやかさ」と「強さ」が求められます。
急な方針変更、想定外のトラブル、資金繰りの悪化、株主からの厳しい要求など、スタートアップ企業ではあらゆるプレッシャーが日常的に降りかかります。CFOはその中心に立ち、冷静に状況を整理し、感情的にならずに解決策を提示する打ち手を示す“安定感”が不可欠です。
時間をかけた綿密な分析よりも“今すぐ決断すること”が求められる場面が多くあります。限られた情報でも判断しなければならない状況で、リスクを許容しながらも前に進める判断力こそが、スタートアップ企業のCFOに必要な資質です。
スタートアップ企業の現場では、「計画通りにいかない」が当たり前です。想定外の出来事に直面しても柔軟に対応し、必要に応じて戦略を見直したり、チームを再編成したりといった変化への順応力が成否を分けます。CFOは変化の波に飲まれるのではなく、変化に自ら乗りこなしていく存在でなければなりません。
これらのスキルとマインドは、日々の実務経験と継続的な学習を通じて磨かれていきます。知識の習得だけでなく、実践の中で応用できる力を身につけることが、スタートアップ企業のCFOとしての成功への鍵となります。
CFOとして活躍するためには、決算書を正確に読み解き、そこに示されている数値の背景を深く理解する力が欠かせません。これは財務諸表の表面的な数字を追うというレベルではなく、数字の裏にある事業構造や経営判断を読み取り、企業の現在地と将来性を見極める“経営的視点”が必要とされます。
たとえば、売上高の推移を見る際には、単年度での増減だけでなく、前年比・複数年比較・業界平均との比較など、さまざまな視点から成長性や継続性を評価する力が求められます。「伸びているか」ではなく、「なぜ伸びているのか」「持続可能な成長なのか」といった分析ができることが重要です。
また、利益率に関しては、粗利率・営業利益率・経常利益率などの違いを理解した上で、どの段階でコストがかかっているのか、どこに改善の余地があるのかといった課題抽出ができるかがポイントになります。利益の大きさだけでなく、「収益構造の健全性」や「収益の質」に目を向けることがCFOには求められます。
さらに、キャッシュフロー計算書を通じて、営業活動・投資活動・財務活動それぞれの動きとそのバランスを見る力も非常に重要です。たとえば、黒字決算であっても営業キャッシュフローが継続的にマイナスであれば、事業の持続可能性に懸念が残る場合があります。財務分析の目線を持つことで、帳簿上の利益に惑わされず、本質的な企業価値を見極めることができるのです。
このような高度な分析力を身につけるためには、専門知識と実務経験の両方が求められます。公認会計士(CPA)や米国公認会計士(USCPA)、または日商簿記検定1級といった資格を保有していることは、財務・会計に関する体系的かつ高度な知識を持っている証拠であり、CFOとしての信頼性と説得力を大きく高めます。これらの資格は、外部投資家や監査法人、取締役会とのコミュニケーションにおいても、自らの判断や分析に対する説得力を持たせるうえで大きな武器になります。
会社の法律や規則に関する基本的な理解は、CFOとして活動するうえで不可欠な素養のひとつです。特に企業が将来的にIPO(新規株式公開)を目指す場合、法務やガバナンスに関する知識は、「あると良いスキル」ではなく、「持っていなければならない必須スキル」と言っても過言ではありません。
たとえば、会社法や金融商品取引法といった基本的な法体系を理解しておくことで、資本政策や株主対応、取締役会の構成・運営など、経営に関わる制度設計に対して適切な判断を下すことができます。また、上場準備においては、証券取引所の定める上場審査基準や、内部統制、開示制度(ディスクロージャー)の仕組みについても精通しておく必要があります。
さらに、内部統制報告制度(J-SOX)への対応、コーポレートガバナンス・コードに準拠した体制構築、取締役会・監査役会の運営方針の策定など、会社の健全性と透明性を高めるための制度設計において、CFOは中心的な役割を担います。ここで求められるのは、ルールを理解していることだけでなく、現実のビジネスに即した運用設計ができる実践的な知識です。
CFOとしての重要な役割の一つに、会社の将来像を見据えた中長期的な事業計画の立案と、それを実現するための戦略的意思決定があります。数字を管理するだけでなく、「これから会社をどう成長させていくか」「限られたリソースをどこに投下すべきか」といった、未来を見据えたシナリオ構築能力が強く求められます。
そのためには、まず社内の状況を正しく把握する力が必要です。事業ごとの収益性や成長余地、コスト構造、組織体制、資金調達の可能性など、自社の内部資源を的確に評価し、戦略の土台となる現状分析を行います。特にスタートアップや成長フェーズの企業では、限られた人材・資金をいかに有効活用するかが、企業の命運を左右します。
さらに、外部環境の変化に対する洞察力も不可欠です。競合他社の動向や業界全体のトレンド、マクロ経済、技術革新、消費者の価値観の変化など、経営に影響を与える多くの要素を俯瞰しながら、「今、自社はどのポジションにいるのか」「今後どの方向に進むべきか」を見極める必要があります。とりわけ、競合企業の財務状況や市場戦略を分析し、自社との差別化ポイントを明確にすることで、将来の成長に向けた独自の道筋を描くことができます。
加えて、計画の「実行可能性」を精緻に検証する視点もCFOには求められます。理想論に終わらないよう、財務的な裏付けを持って実現可能な戦略として落とし込み、必要に応じてシミュレーションやリスク分析を行います。そして、事業計画が進捗する中で、定期的にモニタリングを行い、状況の変化に応じて柔軟に軌道修正を図ることも重要な役割です。
CFOにとって極めて重要な役割の一つが、外部の投資家に対して自社の魅力を分かりやすく、かつ説得力を持って伝え、最適な条件で資金調達を行う能力です。これは「ファイナンスの専門家」としてのスキルだけでなく、「ストーリーテラー」としての資質も求められる、非常に高度な総合力が問われる分野です。
まず大前提として、投資家は数字だけを見て投資判断をするわけではありません。たとえ財務諸表が健全であっても、「この会社は将来的にどのようなビジョンを持っているのか」「競合他社と何が違うのか」「なぜこの事業に成長性があるのか」といった“会社の未来像”を論理的かつ魅力的に語ることができなければ、投資家の信頼を勝ち取ることはできません。
このときCFOは、自社の財務状況や事業の強みを、定量データと定性ストーリーの両面から構成し、ピッチ資料やIR資料、説明会などを通じて的確に伝える必要があります。たとえば、過去の売上や利益だけでなく、ユニットエコノミクスやLTV/CAC、ARR、EBITDAなどのKPIを適切に示し、将来的な収益モデルの実現可能性を数字で裏付けることが重要です。
さらに、投資家との交渉においては、調達額や株式の希薄化率、バリュエーションなどの条件面でも自社にとって有利な形を引き出すスキルが求められます。ここでは、相手の立場を理解しつつ、自社の価値を的確にプレゼンテーションする“交渉力”と“戦略的思考力”が問われます。特にベンチャーキャピタルや機関投資家との交渉では、企業価値評価のロジックを明確に説明できることが、好条件での資金調達に直結します。
また、資金を調達して終わりではなく、その後の報告義務(四半期報告、KPIモニタリング、ガバナンス体制の開示など)にも対応する必要があります。投資家との関係は“一度限りのイベント”ではなく、“継続的な信頼構築のプロセス”であり、CFOはその橋渡し役として、社内の状況と社外からの期待の期待値を常に調整し続ける必要があります。
このように、CFOは会社の価値を伝える“顔”としての役割を果たす存在です。市場からの資金を呼び込み、企業成長を加速させるためには、的確な財務知識だけでなく、高いコミュニケーション能力とプレゼンテーション力を備えることが不可欠なのです。
CFOに求められるのは、個人としての専門性や判断力だけではありません。財務・経理部門を中心としたチーム全体をリードし、組織として一丸となって目標を達成していくための「リーダーシップ」や「マネジメント能力」も極めて重要な資質のひとつです。
財務部門には、日々の経理業務を支える担当者から、予算編成や資金繰り、決算開示を担うスペシャリストまで、多様な職種・スキルを持つメンバーが集まっています。CFOはそうしたメンバーの強みを活かし、役割分担やプロジェクトの優先順位を整理しながら、チームとして最適なパフォーマンスを引き出す必要があります。
そのためには、「指示を出す」だけでなく、部門間のコミュニケーションを円滑にしたり、メンバーが主体性を持って行動できるような環境を整えたりすることも重要です。たとえば、経理と経営企画の間での連携がうまくいっていないと、予算と実績のギャップ分析が機能せず、経営判断に支障をきたすことになります。そうした部門横断的な調整力や、信頼関係を築く力もCFOの大きな役割です。
また、メンバーの成長を支援する「育成力」も欠かせません。チームの中には、まだ経験の浅い若手メンバーや、新たにファイナンス領域へ挑戦する異動者が含まれることもあります。そうした人材に対して、必要な知識や視座を丁寧に伝え、チャレンジを後押しする姿勢を持つことで、チーム全体の底上げにつながります。
さらに、企業が上場準備やM&A、グローバル展開といった転換期にある場合、財務チームにはこれまで以上に高いレベルの専門性やスピードが求められます。そうした状況でCFOが果たすべき役割は、チームを鼓舞し、共通のゴールを見失わずに突き進む“旗振り役”となることです。ときに厳しい局面に直面しても、冷静に状況を分析し、解決策を示しながら、メンバーと共に壁を乗り越えていく覚悟と信頼が問われます。
このように、CFOは「一人のスペシャリスト」から「チーム全体の推進役」へと役割を拡張させていく存在です。チームメンバーとの協働を通じて、経営戦略と財務戦略を結びつけるハブとして機能することで、企業全体の成長を力強く支えることができるのです。
CFOにとって必要不可欠な能力の一つが、営業や開発、マーケティング、人事といった他部門のメンバーと円滑に連携しながら、全社的な目標の達成に貢献する「横断的なコミュニケーション力」と「部門間調整力」です。財務や会計の専門家であるCFOは、数字という客観的な情報をベースに判断を下す役割を担いますが、それを実際の業務の現場とどうつなぐかは、CFOの腕にかかっています。
例えば、営業部門との連携では、「今後どれくらいの売上が見込めるか」という数値予測を共有することで、資金繰りや投資計画の精度を高めることができます。開発部門に対しては、「新プロダクト開発にどれくらいのコストと期間がかかるのか」「その投資回収の見通しはどうか」といった視点でディスカッションを行い、現実的な成長戦略の策定につなげていくことが求められます。
こうした部門間連携を実現するうえで重要なのは、他部門の専門領域をリスペクトし、対等な立場で対話する姿勢です。CFOが「財務の専門家」として一方的に指摘するだけでは、現場との距離が広がり、十分な協力体制を築くことができません。むしろ、「数字はあくまで意思決定を支える道具であり、現場の知見こそが事業の本質である」というスタンスで接することで、他部門からの信頼を得ることができます。
また、スタートアップや成長企業においては、組織構造が柔軟であるがゆえに、部門の境界が曖昧なケースも少なくありません。そうした中でCFOは、情報のハブとしての役割を果たし、経営陣と現場の橋渡しを行うことが期待されます。数字に強いだけでなく、相手の立場や背景を理解し、共通の目標に向けて一緒に前に進む「ファシリテーター」としての力が問われる場面も多くあります。
このように、CFOというポジションは、もはやバックオフィスの一部門長ではなく、全社を横断する“経営のパートナー”としての役割を担う存在です。経営判断を支える数字のプロとしてだけでなく、部門の垣根を越えて連携を生み出す潤滑油として、組織全体の推進力となることが求められます。
こうしたCFO像を実現した人たちは、先んじて上級管理職としての経験があることが多いです。たとえば、事業部門の執行役員や財務本部長といったポジションで、現場の実務を経験したあとに経営陣に加わり、経営視点を磨いていく、というステップです。
ここで言う「上級管理職としての経験」とは、役職に就いていたというだけでなく、部門やチームの成果に責任を持ち、事業全体の方針や数字に対して主体的に意思決定を行ってきた経験を指します。部門をどう成長させるか、限られたリソースをどう配分するか、どこにリスクが潜んでいるか——そうした実践の中で、マネジメント層としての視点や判断力が磨かれていくのです。
実務担当者としての経験は、CFOとしての土台を形づくる大切なフェーズです。たとえば、月次決算の取りまとめや、売上・コストの管理、資金繰り表の作成・更新といった基本的な会計・財務業務に日々取り組む中で、数字の裏にある事業の動きを読み取る力が鍛えられていきます。「この支出は本当に必要か?」「売上の見込みはどこまで信頼できるのか?」といった問いに向き合いながら、“経営の視点”が少しずつ養われていきます。
また、実際に予算を組み、それを運用しながら日々のオペレーションを回していく中では、思い通りにいかない現場の現実とも向き合うことになります。たとえば、急な売上の落ち込みに対して、どこまでコストを削るか、どの支払いを先延ばしにできるか、資金ショートを避けるための優先順位をどうつけるか——そうした難しい判断を求められる場面は少なくありません。現場の声や状況を踏まえながら、限られたリソースの中で最善の選択を模索する、その繰り返しが、結果的に強い分析力や意思決定力につながっていくのです。
また、近年では、従来の生え抜きルートだけでなく、外部からの採用や他業界での経験を経た人材がCFOに登用されるケースも増えています。これは、スタートアップ企業という急成長環境において、幅広い経験と視野を持ったリーダーが求められているためです。外部採用の場合、前職での経験や実績が評価されるとともに、異業種で培った新しい視点が企業に革新をもたらすことが期待されます。
スタートアップ企業のCFOを目指すキャリアパスは、一見すると特殊な道のように思えるかもしれませんが、実は多様で柔軟なルートが存在しており、個人の経験や志向に応じてさまざまな形で到達することが可能です。一般的には、まず経理・財務・会計といった実務レベルでの経験を積むところから始まります。企業の財務体制や資本構成、キャッシュフローの管理など、組織の根幹を支える知識とスキルを土台として築いていきます。
その後、部門リーダーやマネージャーといった管理職としての経験を通じて、チームのマネジメント能力や、部門間での調整力、予算策定・資金調達など、より戦略的な意思決定に関わる業務を担当するようになります。ここで得られる「人・資金・情報」を扱う能力は、CFOとしての素養を養ううえで不可欠です。
そして、キャリアの最終段階、あるいは大きな転機として、経営陣の一員として会社全体の方向性や戦略を決定する立場へと進んでいきます。この段階では、数字の管理を超え、企業のミッションやビジョン、長期的な成長戦略を描く力が問われるようになります。ファイナンスのプロフェッショナルとしての専門性に加えて、事業理解・リーダーシップ・外部ステークホルダーとの交渉力など、幅広い視野と総合的な判断力が求められるのです。
こうしたプロセスを経ることで形成されるスタートアップ企業のCFOのキャリアは、非常に奥深く、同時にダイナミックです。どのルートをたどるにせよ、自己研鑽を怠らず、実務と戦略の両面で着実に経験を積み重ねることが不可欠です。
実際、近年の成功事例や統計データからも明らかなように、スタートアップ企業におけるCFOの役割はますます重要性を増しており、その対価として得られる報酬や影響力、さらには自己実現の面でも、他の職種とは一線を画す魅力があります。企業の成長とともに自身のキャリアが広がっていく感覚は、CFOというポジションならではの醍醐味と言えるでしょう。