経理・財務・会計ファイナンス人材のためのキャリア名鑑

会計人材のキャリア名鑑

大手上場企業の経営企画部マネージャー

「経営の中枢で戦略を練り上げ組織を動かす、現場推進役」

データと直感を武器に、未来を創造する戦略プロフェッショナル

会社の未来図を描く、経営と現場をつなぐ要

主な業務内容

  • 中長期経営計画の策定・実行管理
  • 投資判断・事業評価・M&A検討
  • 経営会議・取締役会の事務局および資料作成
  • 各事業部門の予算策定支援と進捗管理

想定年収

800万円~1,500万円
※業績や評価によって変動

想定年齢

30歳~45歳

大手上場企業の経営企画部マネージャーは こんな仕事

大手上場企業の経営企画部マネージャーは、企業の未来を左右する重要な戦略立案と実行を担う、経営の中核を支えるポジションです。CEOや役員の判断に沿って、全社を俯瞰する視点から事業戦略を描き、各部門と連携しながら会社全体の成長をリードします。数字とロジックを武器に、時に大胆な判断を下し、時に繊細な調整力を発揮する—そんな知的興奮に満ちた職種です。年収は800万円から1,500万円程度と高水準であり、将来的にはCFOや経営企画部長、さらには執行役員や取締役へのキャリアパスも開かれています。企業の経営戦略を支える活躍をしたい方にとって、この上ないやりがいと成長機会が待っているポジションです。

経営企画部マネージャーは、企業の経営戦略を様々なデータを用いて中長期経営計画を作成し、それが会社全体の進むべき道を示す重要な指針となります。この仕事の醍醐味は、数字合わせではなく、市場分析や競合調査、自社の強み・弱みの評価を通じて、「この会社はどこに向かうべきか」という本質的な問いに答えを出していくプロセスにあります。

ある一日は、朝の事業部門との打ち合わせから始まります。前四半期の業績を分析し、計画と実績のギャップについて議論します。「なぜ計画を達成できなかったのか」「どうすれば軌道修正できるか」—こうした課題に対して、現場の声を聞きながらも、常に全社的な視点を持って解決策を導き出していきます。

午後には、新規事業投資の検討会議が始まります。投資案件の事業計画を精査し、ROIやリスクの分析を行います。「この投資は本当に会社の成長に寄与するのか」「リソースの配分は適切か」といった観点から、鋭い質問を投げかけることが重要です。

また、M&A案件の検討も重要な業務です。候補企業の財務分析はもちろん、シナジー効果の試算、PMI(買収後の統合)計画の策定まで携わります。数百億円規模の判断に関わることもあり、その責任の重さとやりがいは計り知れません。

経営会議や取締役会の事務的な業務も担います。議題の選定から資料作成、議事録の取りまとめまで、会社の意思決定プロセスの中心に位置するのです。「この案件は今決めるべきか」「役員に何を判断してもらいたいのか」を常に意識して、効果的な会議運営をサポートします。

大手上場企業の役職ならではの醍醐味として、IR(投資家向け広報)活動への関与も挙げられます。四半期ごとの決算説明会資料の作成や、投資家からの質問への回答準備など、資本市場とのコミュニケーションも重要な責務です。企業価値を適切に伝え、株価に反映させる—その影響力は非常に大きなものです

経営企画部マネージャーの仕事は、数字だけを追うのではなく、その背後にあるストーリーと戦略を描くことです。業績が思わしくない事業部門には、「もっと頑張れ」と言うのではなく、何が課題なのかを一緒に考え、解決策を見出していく。このような建設的な対話ができるポジションは、他にはないでしょう。

経営企画部という部署は、全社を俯瞰できる特権的な立ち位置にあります。日々の業務を通じて会社全体の動きを把握し、各部門の課題や成功事例に触れることで、ビジネスの本質を学べる場所なのです。この経験は、キャリア形成において計り知れない財産となるでしょう。

大手上場企業の経営企画部マネージャーという ポジションの魅力

経営企画部マネージャーを目指す最大の魅力は、企業経営の中核に身を置き、会社の未来を形作る重要な意思決定に直接関われることでしょう。これはただ会社の一員として関わるのではなく、自身が主体的に戦略を立案し、その実現に向けて全社を動かしていく機会を得られるということです。

このポジションでは、CEOをはじめとする経営トップと近い距離で仕事をする機会に恵まれます。経営陣の思考プロセスや判断基準を間近で学べることは、どんなビジネススクールでも得られない貴重な経験となるでしょう。「なぜこの判断に至ったのか」「どのような価値観や哲学が根底にあるのか」—そういった経営者の思考を肌で感じ取れることは、自身が将来経営者を目指す上で、何物にも代えがたい財産となります。

また、経営企画部は全社横断的な業務に携わるため、自社のビジネスモデルを俯瞰的に理解できます。営業、製造、研究開発、人事、財務など、あらゆる部門と関わりながら仕事を進めることで、会社の全体像を把握し、各部門の相互関係や依存関係を理解できるようになります。この経験は、将来的に経営企画部長やCFOのポジションを目指す上で、極めて重要な礎となるでしょう。

さらに、経営企画部マネージャーの魅力は、その業務の多様性にもあります。朝は新規事業の立案会議、昼は業績分析、午後はM&A検討、夕方は海外子会社とのオンライン会議…という具合に、日々異なる課題に取り組むことができます。この多様性は、問題解決能力や適応力を大きく向上させる機会となるでしょう。

そして何より、経営企画部マネージャーは「変革の推進者」としての役割を担います。新たな経営戦略の立案から実行まで、会社の変革プロセス全体に関わることができるのです。既存事業の再編や、新規事業の立ち上げ、海外展開の推進など、会社の成長ポイントとなる重要なプロジェクトのリーダーとなる機会も多くあります。

大手上場企業の経営企画部で働くことのもう一つの大きな魅力は、その社会的影響力です。マネージャーが関わる意思決定は、数千人、時には数万人の従業員の働き方や、無数の顧客、取引先、地域社会に影響を与えます。「より良い社会づくりに貢献したい」という想いを持つ方にとって、経営企画部マネージャーは理想的なポジションといえるでしょう。

同時に、このポジションは高いプレッシャーと責任を伴います。しかし、そのプレッシャーを乗り越えた先には大きな成長と達成感があります。自分の立案した戦略が実を結び、会社の業績向上や企業価値の増大につながったとき、その喜びはひとしおです。チャレンジングな環境で自分の限界を超えたいという方にとって、経営企画部マネージャーは最適な選択となるでしょう。

大手上場企業の経営企画部マネージャーの 年間スケジュール例

経営企画部マネージャーは企業の「頭脳」とも言える部門で、経営陣の意思決定支援から全社戦略の策定・実行管理まで、多岐にわたる業務を担当します。3月決算の大手上場企業を前提とした、経営企画部マネージャーの年間スケジュール例を月別に解説します。

4月(年度始め)

年度始め始動期(第1四半期開始)

  • 年度経営方針の社内浸透
    • 社長方針説明会の準備・運営サポート
    • 各部門向け経営方針のブレイクダウン支援
    • 年度経営計画の最終調整と確定
  • 前年度業績の総括・分析
    • 前年度業績のレビューと経営会議での報告準備
    • 計画差異分析と今年度への反映事項整理
  • 組織体制・人事関連
    • 新組織体制の立ち上げ支援
    • 新任役員・部門長向けオリエンテーション資料作成
  • 株主総会準備の開始
    • IR部門と連携した株主総会シナリオの初期検討
    • 事業報告書等の作成サポート(主担当はIR・総務部門)

5月

株主総会準備・第1四半期モニタリング期

  • 株主総会対応
    • 想定Q&Aの準備(経営戦略関連部分)
    • 社長プレゼンテーション資料作成支援
    • リハーサル実施サポート
  • 第1四半期業績モニタリング
    • 月次業績レビューと課題の早期把握
    • 必要に応じた対策会議の開催
  • 投資家ミーティング準備
    • 決算説明会資料作成支援(IR部門との協働)
    • 経営陣向け想定Q&A準備
  • 取締役会資料準備
    • 戦略案件の取締役会付議資料作成
    • 中長期戦略関連の報告資料準備

6月

株主総会実施・第1四半期総括期

  • 株主総会本番
    • 株主総会当日の運営サポート
    • 総会での質問事項の記録と今後の経営計画への反映検討
  • 第1四半期業績総括
    • 第1四半期の業績見込み集約・分析
    • 計画差異の要因分析と対策立案
  • 戦略プロジェクトの進捗確認
    • 年度重点施策の進捗状況確認
    • 戦略プロジェクトの課題抽出と解決支援

7月

中期経営計画ローリング準備・第2四半期始動期

  • 第1四半期決算発表対応
    • 決算発表資料の経営戦略部分作成
    • 決算説明会の準備サポート
    • 投資家からのフィードバック分析
  • 中期経営計画ローリング準備
    • 中計見直しの方針・スケジュール策定
    • 外部環境分析の実施(市場動向、競合動向等)
    • 各事業の戦略レビュー準備
  • 半期レビュー準備
    • 上半期見通し試算と課題抽出
    • 経営陣報告資料の準備

8月

中期経営計画検討・夏季戦略議論期

  • 中期経営計画ローリング本格化
    • 各事業本部との中期経営計画方針協議
    • 全社戦略テーマの深掘り検討
    • 経営資源配分の初期検討
  • 半期業績レビュー
    • 上半期業績見込みの精緻化
    • 下半期へ向けた課題と対策の明確化
  • グループ会社経営課題の把握
    • 主要グループ会社の経営状況レビュー
    • グループガバナンス課題の抽出

9月

中間総括・下期計画調整期(第2四半期終了)

  • 上半期総括
    • 上半期業績の最終見込み確定
    • 経営計画比の差異分析と要因整理
  • 下半期重点施策の見直し
    • 上半期の結果を踏まえた下半期施策の調整
    • 下半期リスク要因の特定と対応策検討
  • 中期経営計画骨子の取りまとめ
    • 中計骨子案の経営陣への中間報告
    • フィードバックを受けた修正方針の決定
  • 上半期の振り返り会議
    • 部門横断的な上半期振り返り会議の企画・実施
    • 経営陣への報告と下半期方針への反映

10月

次年度計画・予算策定準備期(第3四半期開始)

  • 第2四半期決算発表対応
    • 決算発表資料の経営戦略部分作成
    • 決算説明会の準備・実施サポート
  • 次年度経営計画策定の準備
    • 次年度経営計画策定方針の立案
    • 計画策定スケジュール・フォーマットの決定
    • 各部門への説明会実施
  • 中期経営計画の詳細検討
    • 事業別戦略の具体化
    • 投資計画・財務計画との整合性確認
  • 組織・人事戦略の初期検討
    • 次年度組織体制の初期検討
    • 中期的な人材戦略の検討

11月

次年度計画立案・中計確定期

  • 次年度経営計画の立案
    • 各部門からの計画案回収・ヒアリング
    • 全社計画の初期統合と調整
    • 経営陣との協議・方向性合意
  • 中期経営計画の最終化
    • 中計最終案の取りまとめ
    • 経営会議・取締役会での承認取得
  • 第3四半期業績モニタリング
    • 業績進捗状況の確認と年度見通しの精緻化
    • 必要に応じた追加対策の検討

12月

年度計画調整・年末総括期

  • 次年度経営計画の調整・確定
    • 各部門との最終調整
    • 経営会議での審議・承認
    • 取締役会上程準備
  • 年間事業レビュー
    • 通期業績見込みの最終確認
    • 年間の主要プロジェクト進捗評価
  • 年末挨拶・メッセージ準備
    • 社長年末メッセージの起草サポート
    • 年始挨拶準備

1月

新年始動・第4四半期対策期

  • 年頭経営方針の展開
    • 社長年頭挨拶の準備サポート
    • 新年経営方針説明会の企画・運営
  • 次年度経営計画の最終調整
    • 足元状況を踏まえた次年度計画の微調整
    • 計画の部門別展開サポート
  • 第3四半期決算対応
    • 決算発表資料の経営戦略部分作成
    • 年度業績見通しの最終調整
  • 組織・人事関連準備
    • 次年度組織改編案の最終調整
    • 役員人事関連情報の整理(役員・会長・社長案件)

2月

年度総括準備・次年度準備期

  • 年度総括の準備
    • 年間業績の暫定評価と分析
    • 主要施策の成果評価準備
  • 次年度体制の最終確定
    • 組織改編詳細設計の最終確認
    • 人事異動方針の確認(経営企画関連)
  • 株主・投資家向け情報開示準備
    • 決算説明会資料の戦略部分準備
    • 統合報告書等の企画開始
  • 社長施政方針演説準備
    • 次年度に向けた社長メッセージの起草サポート
    • 全社発表会の企画

3月(年度末)

年度総括・新年度最終準備期

  • 年度締めくくり
    • 通期業績の最終見込み確定
    • 未達項目の原因分析と次年度への課題整理
  • 次年度準備の最終確認
    • 組織改編・人事異動の最終準備
    • 年度初めの主要会議・イベントの準備
  • 中長期戦略の再確認
    • 中期経営計画の最終レビューと必要に応じた微調整
    • 長期ビジョンの進捗状況確認
  • 年度決算発表準備
    • 業績予想・次年度見通しの最終調整
    • 決算発表資料の準備サポート

季節を問わない定例業務

月次定例業務

  • 月次業績モニタリング
    • 全社月次業績の集約・分析
    • 経営会議への報告準備
  • 重点施策の進捗管理
    • 年度重点施策の進捗状況確認・報告
    • 課題案件のフォローアップ
  • 取締役会・経営会議の事務局
    • 議題設定・資料準備
    • 議事録作成・フォローアップ

不定期・随時業務

  • 経営課題の調査・分析
    • 経営陣からの特命事項対応
    • 業界動向・競合分析
  • M&A・アライアンス検討
    • 案件の初期検討・評価
    • デューデリジェンスの総括(財務・法務・事業部門との協働)
  • 全社横断プロジェクト
    • DX推進、働き方改革等の全社横断テーマ推進
    • プロジェクト事務局運営
  • リスク対応・危機管理
    • 経営リスク顕在化時の対応策検討
    • 危機管理委員会等の運営サポート

重要な時期と繁忙期

経営企画部マネージャーの年間を通じた繁忙期は主に以下のタイミングです。

  • 4月〜6月:年度始め・株主総会準備期間
  • 8月〜9月:中期経営計画検討・上半期総括期間
  • 11月〜12月:次年度計画策定・調整期間
  • 2月〜3月:年度締めくくり・次年度準備期間

また、四半期決算発表の前後(5月、8月、11月、2月)も報告資料作成や戦略面での説明準備のため繁忙となります。

スケジュールはあくまでも手段であり、目的は企業の持続的成長と価値創造への貢献です。その目的を常に念頭に置きながら、時に予定を柔軟に調整し、真に重要な課題に集中できる判断力を養うことが、経営企画部マネージャーとしての真価を発揮することにつながるでしょう。

大手上場企業の経営企画部マネージャーの 重要任務

経営企画部マネージャーは企業の戦略策定と実行における中核的役割を担っています。数ある任務の中から特に重要度の高い3つをピックアップし、詳細に解説します。

 

1.経営戦略の策定と推進

経営企画部マネージャーの最も本質的かつ重要な任務は、企業の将来の方向性を示す経営戦略の策定とその推進プロセスをリードすることです。

  • 環境分析の指揮
    • 外部環境分析(PEST分析、産業構造分析)の実施
    • 競合分析(競合他社の戦略・財務状況・強み/弱みの把握)
    • 自社分析(経営資源、強み/弱み、事業ポートフォリオ評価)
  • 戦略骨子の構築
    • 経営理念・ビジョンを踏まえた中長期的な戦略方向性の設計
    • 全社戦略テーマの抽出と優先順位付け
    • 経営目標・KPIの設定(財務・非財務指標)
  • 各部門戦略との整合
    • 事業部門戦略と全社戦略の整合性確保
    • 機能別戦略(財務・人事・IT等)の全体最適化
    • グループ会社戦略との連携・調整
  • 戦略の実行推進
    • 戦略実行のための全社アクションプランの策定
    • 戦略的リソース配分の提案(人材・投資資金等)
    • 実行進捗のモニタリングと課題抽出

年度経営計画の策定・管理

  • 中期経営計画を踏まえた年度経営計画の策定プロセス管理
  • 各部門計画と全社計画の整合性確保
  • 四半期ごとの進捗モニタリングと軌道修正提案

経営戦略は企業の進むべき方向を定める羅針盤であり、全ての企業活動の基盤となります。適切な戦略がなければ、どれだけ優れた実行力があっても企業価値の最大化は困難です。経営企画部マネージャーは、この羅針盤を設計・維持し、全社を正しい方向へ導く重責を担っています。

近年のVUCA時代においては、外部環境の変化を素早く察知し、戦略を柔軟に調整する能力がより一層求められています。経営企画部マネージャーはこの戦略的機敏性の中核を担う存在なのです。

2.経営意思決定の支援と取締役会・経営会議の運営

経営企画部マネージャーは、CEOをはじめとする経営層の意思決定を支える参謀としての役割と、経営会議や取締役会などの重要会議体の運営を担う事務局長としての役割を果たします。

経営意思決定支援

  • 経営情報の収集・分析・提供
    • 経営判断に必要な社内外の情報収集と分析
    • データに基づく定量的分析と定性的洞察の融合
    • 複雑な情報の構造化と簡潔な報告資料作成
  • 戦略的意思決定のための選択肢提示
    • 重要経営課題に対する複数の選択肢の設計
    • 各選択肢のメリット・デメリットやリスクの分析
    • 経営判断の材料となる客観的な評価軸の提供
  • 意思決定プロセスの設計・管理
    • 重要意思決定の優先順位付けと検討プロセス設計
    • 部門間の利害調整と全社最適の視点提供
    • 決定事項の実行責任部署の明確化とフォローアップ

重要会議体の運営

  • 取締役会の運営支援
    • 議題設定と年間スケジュール管理
    • 取締役会資料の取りまとめと品質管理
    • 議事録作成と決定事項のフォローアップ
  • 経営会議の企画・運営
    • 経営課題に応じた議題設定と優先順位付け
    • 効果的・効率的な会議運営の仕組み構築
    • 決定事項の社内展開と実行支援
  • 各種経営委員会の事務局運営
    • 投資委員会、リスク管理委員会等の運営
    • 全社横断的テーマの検討体制構築
    • 委員会決定事項の全社展開

企業価値を左右する重要な経営判断の質は、その意思決定プロセスの質に大きく依存します。経営企画部マネージャーは、このプロセスの設計者であると同時に管理者でもあり、時に重要な提言者にもなりえます。

また、コーポレートガバナンス・コードの厳格化や投資家の期待の高まりにより、取締役会をはじめとする経営意思決定の透明性・論理性・スピードがより一層求められています。経営企画部マネージャーはこの要請に応え、企業統治の質を高める重要な役割を担っています。

3.全社横断プロジェクトの推進と変革管理

経営企画部マネージャーは、事業部門や機能部門の垣根を越えた全社横断的な変革プロジェクトの推進役として、企業変革の触媒としての役割を担います。

変革プロジェクトの企画・推進

  • 構造改革プロジェクト
    • 事業ポートフォリオ再編の企画・推進
    • コスト構造改革プログラムの設計・実行管理
    • 組織・業務プロセス改革の企画・推進
  • 成長戦略プロジェクト
    • 新規事業創出プロジェクトの全体設計・推進
    • M&A・アライアンス戦略の企画・推進
    • グローバル展開戦略の企画・推進
  • 経営基盤強化プロジェクト
    • DX(デジタルトランスフォーメーション)推進
    • サステナビリティ・ESG戦略の展開
    • 企業文化・組織風土改革の推進

変革管理(チェンジマネジメント)

  • 変革ビジョンの浸透
    • 変革の必要性・方向性の全社的な共有
    • 経営トップと連携した変革メッセージの発信
    • 変革の進捗状況や成果の可視化と共有
  • 実行体制の整備
    • 全社横断プロジェクトチームの編成と運営
    • 部門間の調整と全体最適の確保
    • 変革推進のためのインセンティブ設計
  • 変革推進の障壁除去
    • 変革に対する抵抗要因の特定と対応策実施
    • リソース不足やスキルギャップの解消支援
    • 変革定着のための制度・仕組みの設計

現代のビジネス環境における不確実性の高まりと変化の加速により、企業は常に自らを変革し続けることを求められています。しかし、組織の慣性や部門間の壁、短期的利益と長期的変革のジレンマなど、変革の実現には多くの障壁が存在します。

経営企画部マネージャーは、経営トップの変革意思を受け、全社視点で変革の方向性を明確化し、部門の壁を越えた実行体制を構築することで、これらの障壁を乗り越える推進力を生み出す役割を担っています。特に近年のDXやサステナビリティ経営への転換など、従来の事業領域や組織構造を超えた変革においては、この役割がより一層重要になっています。

これら3つの重要任務は相互に密接に関連しています。経営戦略の策定で定めた方向性を、意思決定支援と会議体運営を通じて具体化し、全社変革プロジェクトとして実行に移していくという流れです。

経営企画部マネージャーの3大重要任務—「経営戦略の策定と推進」「経営意思決定の支援と会議体運営」「全社横断プロジェクトの推進と変革管理」—は、企業の持続的成長と変革を支える中核的な機能です。

これらの任務は、計画立案や会議運営の技術にとどまらず、企業全体を俯瞰する視点、経営層との信頼関係、多様なステークホルダーとの協働、そして何より変化を恐れず先導する勇気と実行力を必要とします。

大手上場企業の経営企画部マネージャーは、まさに「企業の未来を描き、その実現に向けて組織を動かす」という重責を担うポジションであり、その力量が企業の命運を左右すると言っても過言ではないでしょう。

大手上場企業の経営企画部マネージャーの 報酬水準

大手上場企業の経営企画部マネージャー(課長クラス)の報酬水準は、以下のような要素によって変動します。

一般的な報酬水準

日本の大手上場企業における経営企画部マネージャー(課長級)の平均的な年収は以下になります。

  • 基本年収: 約800万円~1,200万円
  • ボーナス込み: 約900万円~1,500万円

影響要素

報酬は以下の要因によって大きく変動します。

  • 企業規模:東証プライム上場の大企業ほど高い傾向
  • 業界:金融、IT、製薬業界などは比較的高い
  • 業績連動要素:企業や部門の業績による変動
  • 個人実績:評価制度による昇給・賞与への影響
  • 年齢・経験:同じ役職でも年齢や経験年数による差
  • 地域:東京などの大都市圏は地方より高い傾向

報酬構成

一般的な報酬構成は、以下になります。

  • 基本給: 65-75%
  • 賞与: 20-30%
  • 各種手当: 5-10%
  • 福利厚生

大手企業では退職金制度や企業年金も充実している場合が多く、総報酬パッケージの一部として考慮されます。

※これらの数値は平均的な目安であり、個別企業の報酬体系や評価制度によって大きく異なります。

大手上場企業の経営企画部マネージャーに 向いている人は、どんな人?

■求められるマインド

1.戦略的思考

  • 自部門だけでなく、企業全体の最適化を常に意識する
  • 短期的な成果だけでなく、中長期的な企業価値向上を見据える
  • データから意味を見出し、戦略的な仮説を立てる姿勢

2.変革推進マインド

  • 市場環境や競争状況の変化に柔軟に対応する姿勢
  • 既存の枠組みにとらわれない発想を奨励する
  • 適切なリスク評価の上で挑戦を恐れない姿勢

3.連携・調整力

  • 部門間の利害を調整し、全社的な最適解を導く
  • 様々なステークホルダーの利害を理解し、調整する能力
  • 経営層の意図を正確に理解し、現場に落とし込む架け橋としての自覚

4.経営者視点

  • CEO/役員の視点で物事を捉える姿勢
  • 株主・投資家の期待を常に意識した判断
  • コンプライアンスと企業倫理の重要性を理解する

5.実行力・推進力

  • 計画だけでなく実行と検証まで責任を持つ姿勢
  • プロセスだけでなく、最終的な成果にこだわる
  • 完璧主義に陥らず、適切なスピード感で物事を進める判断力

6.分析・論理的思考

  • 感覚ではなくデータと事実に基づく判断
  • 複雑な問題を構造化して本質を捉える思考法
  • 当たり前を疑い、多角的に物事を検証する姿勢

7.人材育成・リーダーシップ

  • 次世代の経営人材を育てる意識
  • 専門性と論理性で組織を導く
  • 誠実さと一貫性で周囲からの信頼を獲得する姿勢

経営と現場をつなぐ重要なポジションである経営企画部マネージャーにとって、スキルセットを超えた核心的な価値観として以下が求められます。

  • 部門の枠を超え、企業全体の価値向上を常に意識する姿勢
  • 市場環境の変化を先読みし、既存の枠組みにとらわれない変革を推進する思考
  • データと事実に基づく冷静な分析と判断を重視する姿勢
  • 多様なステークホルダーの利害を調整しながら確実に成果を出す責任感
  • 短期的成果だけでなく、中長期的な企業成長と次世代リーダー育成を重視する姿勢

■必要なスキル

1.分析スキル

  •  P/L、B/S、C/F計算書等の深い理解と分析能力
  • 業界動向、競合分析、マクロ環境分析
  • 定量データを活用した意思決定支援
  • 収益構造・バリューチェーンの理解

2.戦略策定スキル

SWOT、3C、ファイブフォース等の活用能力

  • 3〜5年の計画立案と数値目標設定
  • 事業評価と経営資源配分の最適化
  • 複数の未来予測に基づく戦略オプション設計

3.プロジェクトマネジメント

  • 複数部門にまたがる施策の統括
  • 組織変革の推進と抵抗への対処
  • ヒト・モノ・カネの効率的な配分
  • 複数のタイムラインを考慮した計画立案

4.コミュニケーションスキル

  • 経営陣への簡潔で説得力ある提案
  • 会議・ワークショップの効果的な進行
  • 部門間調整や利害対立の解消
  • 役員層との効果的な意思疎通

5.ファイナンススキル

  •  ROI、IRR、NPV等の投資判断指標の活用
  • 全社予算編成と実績管理
  • 事業計画の財務シミュレーション
  • WACC等を踏まえた経営判断

6.デジタル・IT理解

  • DX推進の方向性理解
  • 経営指標のダッシュボード構築
  • AI、クラウド等の事業インパクト把握
  • ERP等の全社システムの概要理解

7.組織・人事理解

  • 戦略に適した組織構造の提案
  • 中長期的な人材要件の策定
  • 人事評価と報酬の仕組み理解
  • 企業文化と戦略の整合性検討

8.法務・リスク管理

  • ガバナンス体制の理解と対応
  • 法規制理解と社内対応
  • 全社リスクの特定と対策立案
  • 投資家向け情報開示の要件理解

9.グローバル対応力

  • 国際展開の計画立案
  • 多様な文化背景への理解
  • 国際会議やドキュメント作成に必要な語学力
  • 国際情勢が事業に与える影響理解

10.ビジネスパートナーシップ

  • 営業、製造、開発等との円滑な連携
  • コンサルタント、アドバイザーの効果的活用
  • 役員の意思決定支援と情報提供
  • 株主、金融機関等との関係構築

経営企画部マネージャーには、市場・競合分析から中長期戦略策定までを担う戦略構築力と、P/L・B/S・C/Fを深く理解した財務分析力が不可欠です。全社的な視点で部門間の利害調整を行う組織横断力に加えて、複雑な課題を構造化して役員層に簡潔に提案できる高度なコミュニケーション能力も求められます。さらに、全社プロジェクトを推進する実行力、データを活用した意思決定支援能力、変化を先読みするリスク感知力、そしてグローバル環境での戦略立案能力も重要です。これらのスキルを総合的に発揮し、企業価値向上に直結する施策を推進できることが、経営企画部マネージャーに必要なスキルといえます。

大手上場企業の経営企画部マネージャーまでの 道のり

経営企画部マネージャーというポジションに至るまでのキャリアパスは一様ではありません。複数の道筋が存在し、それぞれに特徴があります。

まず、経営企画部マネージャーの手前に位置するのは、経営企画部の課長や主任クラスのポジションです。経営企画部内で実績を積み、信頼を獲得していくことで、マネージャーへの昇進が見えてきます。このルートでは、全社戦略の立案や実行管理、投資案件の検討など、経営企画の中核業務を経験しながら、徐々に責任範囲を広げていくことが一般的です。

しかし、実は多くの経営企画部マネージャーは、他部門からの異動組であることも注目すべき点です。特に財務・経理部門からの異動は最も一般的なルートの一つです。財務部門で培った数字を扱う能力や全社的な視点は、経営企画業務と高い親和性を持ちます。予算管理や投資評価の経験が、そのまま経営企画業務に活かせるからです。

営業や事業部門のマネージャーからの異動も珍しくありません。事業の最前線で培った市場感覚や顧客ニーズの理解、現場の実情に関する知見は、実効性のある戦略立案において非常に貴重です。特に「営業で優秀だが、次のステップとしてより広い視野を持った仕事に挑戦させたい」という人材が、経営企画部に異動するケースが見られます。

さらに、コンサルティングファームからの転職組も増えています。戦略コンサルタントとして複数の企業の経営課題に取り組んできた経験は、経営企画業務においても大きな武器となります。フレームワークを用いた分析手法やロジカルな思考プロセスは、経営企画部で高く評価されるスキルです。

公認会計士や銀行出身者も、そのファイナンスと数字に関するスキルを買われて、経営企画部マネージャーとして重宝されます。M&Aや資金調達など、高度な財務戦略が求められる場面では、こうした専門的バックグラウンドが大きな強みとなります。

これらの複線的なキャリアパスを踏まえると、経営企画部マネージャーを目指すための若手時代の理想的なキャリアとしては、以下のようなパターンが考えられます。

  • 財務・経理部門で基礎的なスキルを固めるパターン

これらの会計色の強い部門は、数字に強くなり、全社的な視点を養うには最適な環境です。予算編成や決算業務、資金管理などの実務経験を積むことで、経営の基盤となる財務知識を身につけられます。

  • 営業や事業部門で現場経験を積むパターン

顧客やマーケットと直接向き合い、売上や利益に責任を持つ経験は、経営の最前線を理解する上で非常に貴重です。特に新規事業の立ち上げや海外展開などの挑戦的なプロジェクトに関わることができれば、なおさら経営企画部での仕事に活きてくるでしょう。

  • 戦略コンサルティングファームでの経験を経るパターン

複数の企業や業界の課題に取り組む中で、分析手法や問題解決アプローチを体系的に学べます。大企業が直面する経営課題に若いうちから触れられることも大きな利点です。

いずれのルートを選ぶにしても、若手のうちに「数字に強くなること」「戦略的思考力を磨くこと」「全体を俯瞰する視点を養うこと」を意識してキャリアを歩むことが重要です。日々の業務でも、与えられた仕事をこなすだけでなく、「なぜこの仕事があるのか」「会社全体にどう貢献しているのか」という視点を持つことで、経営企画マインドを養うことができるでしょう。

大手上場企業の経営企画部マネージャーの キャリアパスの展望

経営企画部マネージャーとして働くことで、ビジネスパーソンとして極めて価値の高いスキルセットを身につけることができます。それは知識にとどまらず、実践を通じて磨かれる本物の実力です。

まず、戦略的思考力が大きく向上します。市場分析、競合調査、自社のケイパビリティ評価など、さまざまな要素を総合的に判断して最適な戦略を導き出す能力は、どんな業界・職種でも通用する普遍的なスキルです。特に不確実性の高い現代のビジネス環境において、「先を読む力」の価値は計り知れません。

次に、高度な分析力が身につきます。財務諸表の読み解き方はもちろん、「この数字が意味するビジネス上の含意は何か」を理解する能力、さらには「どのようなアクションを取れば数字が改善するか」という実行力までを身につけられます。エクセルやBIツールを駆使したデータ分析スキルもブラッシュアップされるでしょう。

企画立案から実行までを一貫して担当することで、プロジェクトマネジメントスキルも大きく向上します。限られたリソースの中で、どのように優先順位をつけ、タイムラインを設定し、ステークホルダーを巻き込んでいくか—この実践的なスキルはどんな場面でも役立ちます。

さらに、コミュニケーション能力も飛躍的に高まります。経営陣に対しては複雑な内容を簡潔に伝え、各事業部に対しては戦略の意図を明確に説明し、時には困難な状況でも関係者をひとつの方向に導くための説得力と調整力が求められます。高度なプレゼンテーション技術や文書作成能力も、日々の業務を通じて自然と身につくでしょう。

大手上場企業の経営企画部マネージャーを経験した後のキャリアパスは実に多様です。

  • 経営企画部長、執行役員や取締役など経営企画部内での昇進

経営企画部長、さらには執行役員や取締役として、より高いレベルで経営に携わる道が開けています。特に近年は、経営企画部出身のCEOも珍しくありません。

また、CFOへのキャリアパスも注目されています。経営企画業務を通じて養われた財務感覚と全社的な視点は、CFOに求められる資質と高い親和性があります。経営企画から財務部門へ異動し、財務・経理のスキルを補完した上でCFOを目指すケースも多いでしょう。

  • 事業部門のトップへのキャリア

経営企画で培った戦略的思考力と全社的な視点を活かし、事業部長やカンパニー社長として実際の事業経営を担うというキャリアパスです。「戦略を立てるだけでなく、自ら実行する側にまわりたい」という方には魅力的な選択肢となるでしょう。

  • コンサルティングファームへの転身

経営企画での実務経験は、戦略コンサルタントとしての説得力を大きく高めます。「理論だけでなく実践を知っている」コンサルタントとして、より高い価値を提供できるでしょう。

  • スタートアップやベンチャー企業のCOOやCFO

大企業で培った戦略立案能力や制度構築のノウハウは、成長段階のベンチャー企業にとって貴重な資産となります。

まとめ

役割と責任

  • 大手上場企業の経営企画部マネージャーは、企業の未来を左右する重要な戦略立案と実行を担う、経営の中核を担うポジション。
  • CEOや役員の右腕として、全社を俯瞰する視点から事業戦略を描き、各部門と連携しながら会社全体の成長をリード
  • 数字とロジックを武器に、時に大胆な判断を下し、時に繊細な調整力を発揮

求められるマインドやスキル

  • 全社視点と経営者目線: 部門の枠を超え、企業全体の価値向上を常に意識する姿勢
  • 変革推進力と戦略思考: 市場環境の変化を先読みし、既存の枠組みにとらわれない変革を推進する思考
  • ファクトベースの論理性: データと事実に基づく冷静な分析と判断を重視する姿勢
  • 調整力と実行力の両立: 多様なステークホルダーの利害を調整しながら確実に成果を出す責任感
  • 長期的視野と人材育成: 短期的成果だけでなく、中長期的な企業成長と次世代リーダー育成を重視する姿勢
  • 市場・競合分析から中長期戦略策定までを担う戦略構築力と、P/L・B/S・C/Fを深く理解した財務分析力が不可欠

重要な職務

  • 経営戦略の策定と推進
  • 経営意思決定の支援と取締役会・経営会議の運営
  • 全社横断プロジェクトの推進と変革管理

キャリアパス

  • 経営企画部門スタッフ⇒経営企画部の課長・主任⇒経営企画部マネージャー
  • 営業や事業部門のマネージャーからの異動、戦略コンサルティングファームやM&Aアドバイザリー、投資銀行などのバックグラウンドを経てからの転身
  • 経営企画部長、さらには執行役員や取締役としての昇進、コンサルティングファームやスタートアップ企業のCOOへの転身など多様なキャリアパス