経理・財務・会計ファイナンス人材のためのキャリア名鑑

会計人材のキャリア名鑑

大手上場企業の経理担当取締役

「日本経済を支える大企業で、会計のプロフェッショナルとして企業価値を創造する」

数万人規模の組織を支える財務情報インフラの責任者

資本市場の信頼を一身に背負う、経営の要となるポジション

主な業務内容

  • 連結決算・開示業務の統括管理
  • 内部統制・J-SOX対応の総合指揮
  • 監査法人・規制当局との高度な折衝
  • グループ全体の会計方針統一・管理

想定年収

2,000万円~1億円以上
※業績や評価によって変動

想定年齢

50歳~60歳

大手上場企業の経理担当取締役は こんな仕事

日本経済の屋台骨を支える大手上場企業の経理担当取締役は、まさに「企業会計界の頂点」に位置します。数兆円規模の連結売上高、数万人の従業員、数十万人の株主を抱える巨大組織において、財務情報の透明性と信頼性を担保する責任は計り知れません。四半期ごとに数千億円の業績を正確に開示し、グローバルな投資家や格付機関からの厳しい評価に応える重圧感は、他では味わえないスリリングな体験です。国際会計基準への対応、複雑な企業買収の会計処理、監査法人との高度な専門議論など、会計プロフェッショナルとしての最高峰のスキルを駆使しながら、日本を代表する企業の持続的成長を数字の面から支えていく。そんな壮大な使命感に満ちたキャリアが待っています。

大手上場企業の経理担当取締役の世界は、日本経済の中枢で活躍するダイナミックな舞台です。例えば、四半期決算発表の2週間前、連結子会社50社以上からの業績データを統合し、監査法人Big4のパートナー陣と会計処理の妥当性について議論を交わしています。一つの判断ミスが企業の信用失墜につながりかねない緊張感の中で、数千億円規模の取引の適切な会計処理を決定していく過程には、会計プロフェッショナルとしての最高の醍醐味を感じることができるでしょう。

この職種の中核となるのは、大規模かつ複雑な連結決算業務の統括管理です。国内外の連結子会社や関連会社からの財務データを統合し、日本基準またはIFRS(国際財務報告基準)に準拠した連結財務諸表を作成します。特に製造業であれば海外工場の在庫評価、商社であれば複雑なトレーディング取引の収益認識、金融業であればリスク管理会計など、業界特有の高度な会計処理が求められます。月次決算では数十億円規模の数値変動の要因分析を行い、四半期決算では機関投資家向けの詳細な業績説明資料を作成します。

内部統制システムの構築・運用において、大手上場企業の経理担当取締役が担う責任は極めて重大です。J-SOX(内部統制報告制度)対応では、数千に及ぶ業務プロセスの整備・評価を統括し、監査法人による内部統制監査に対応します。不正会計の防止、業務効率化、リスク管理の観点から、グループ全体にわたる統制環境の設計と運用を主導することで、企業価値の保護と向上に直接貢献します。

国際会計基準(IFRS)への対応も、大手上場企業ならではの重要業務です。日本基準からIFRSへの移行プロジェクトでは、会計方針の変更による業績への影響評価、システム改修の指揮、関係部署への教育研修など、全社横断的なプロジェクトを統括します。また、IFRS解釈指針委員会(IFRIC)の最新動向を常にフォローし、新しい会計基準が自社業績に与える影響を事前に評価・対応する戦略的判断も求められます。

監査法人との関係構築においては、監査法人のパートナーとの高度な専門議論が行われます。監査計画の策定、重要な会計上の見積りの妥当性検証、新しい取引の会計処理方針の協議など、会計プロフェッショナル同士の緊張感ある議論を通じて、監査の実効性と効率性を高めていきます。また、金融庁や証券取引等監視委員会などの規制当局との対応も重要な職務であり、開示規制や会計基準の改正に関する意見交換なども行います。

さらに、グローバルな投資家との関係構築も欠かせません。アナリスト向けの決算説明会での質疑応答、機関投資家向けのIR活動、格付機関との対話など、企業の財務情報を正確かつ魅力的に発信する役割も担います。

大手上場企業の経理担当取締役という ポジションの魅力

大手上場企業の経理担当取締役という職種への挑戦を考える最大の動機は、「日本経済の最前線で、会計プロフェッショナルとしての頂点を極めたい」という強烈な向上心にあります。この職種でしか体験できない独特の魅力と社会的使命について、詳しく探ってみましょう。

まず圧倒的なのは、そのスケール感です。担当する企業の時価総額は数兆円、従業員数は数万人、取引先は世界中に存在し、その経営判断は日本経済全体、さらには世界経済にも影響を与えます。四半期決算の発表一つとっても、その数字が株価を左右し、機関投資家の投資判断に影響を与え、最終的には数十万人の個人株主の資産価値に直結します。このような巨大な責任と影響力を持つポジションで活躍できることは、会計プロフェッショナルとして最高の名誉と言えるでしょう。

次に注目すべきは、会計・監査業界の最新動向を最前線で体験できることです。国際会計基準審議会(IASB)や企業会計基準委員会(ASBJ)での基準策定プロセス、監査法人の最新監査手法、AIやRPAを活用した会計業務の自動化など、業界の最先端情報に常に触れることができます。これらの知識と経験は、個人のキャリア発展にとって計り知れない価値を持ちます。

さらに、企業経営の最高レベルでの意思決定プロセスに参画できることも大きな魅力です。M&Aの実行可否、海外展開戦略、新規事業への投資判断など、企業の将来を左右する重要な決定において、会計・税務の専門的見地から提言を行います。会計処理の専門家ではあり、事業戦略パートナーとして経営陣と対等に議論できる立場は、他では味わえない知的刺激に満ちています。

大手上場企業の経理担当取締役は、また「企業の信頼性」を一身に背負う重要な役割でもあります。適切な会計処理と透明性の高い開示を通じて、投資家、金融機関、取引先、従業員など、すべてのステークホルダーからの信頼を獲得・維持していきます。不正会計や粉飾決算が社会問題となる中で、正確で信頼性の高い財務情報を提供し続けることは、企業の持続的成長にとって不可欠な要素です。

国際的な舞台での活躍機会も豊富です。海外子会社の会計処理統一、クロスボーダーM&Aの会計対応、国際的な格付機関との対話、海外投資家向けのIR活動など、グローバルなビジネス環境で専門性を発揮する機会に恵まれます。英語での高度な会計議論、異なる会計基準や税制への対応など、国際的な会計プロフェッショナルとしてのスキルを磨くことができます。

また、後進の育成という社会的使命も重要です。部下の公認会計士や会計専門職の育成を通じて、日本の会計業界全体のレベル向上に貢献できます。あなたが培った知識や経験を次世代に伝承していくことで、日本企業全体の会計品質向上にも寄与できるのです。

大手上場企業の経理担当取締役の 年間スケジュール例

大手上場企業の経理担当取締役は、決算・開示業務、株主・投資家対応、経営会議、予算策定など多岐にわたる業務を年間を通して計画的に遂行します。以下は3月決算企業を想定した年間スケジュール例です。

4月

  • 年度始め業務
    • 新年度経営計画の最終確認・共有
    • 組織変更に伴う経理体制の調整
    • 期首残高の確認、新年度会計処理の指示
  • 期末決算準備
    • 期末監査対応の本格化(監査法人とのミーティング)
    • 有価証券報告書・決算短信の作成指示

5月

  • 決算業務(最繁忙期)
    • 期末決算の最終調整・確定作業
    • 取締役会での決算報告
    • 決算短信の開示
  • IR・開示
    • 決算説明会の準備・実施
    • アナリスト・機関投資家との個別面談
    • 海外IR準備

6月

  • 株主総会関連
    • 株主総会の準備・リハーサル
    • 株主総会での質疑対応
    • 招集通知・事業報告の最終確認
  • 開示書類完成
    • 有価証券報告書の最終確認・提出
    • コーポレートガバナンス報告書の更新
  • 海外IR活動
    • 欧米機関投資家訪問

7月

  • 第1四半期関連
    • 四半期決算作業の進捗確認
    • 第1四半期決算見込みの経営報告
  • 内部統制
    • J-SOX評価計画の進捗確認
    • グループ内部統制委員会への出席

8月

  • 第1四半期決算完了
    • 第1四半期決算短信開示
    • 第1四半期決算説明会(必要に応じて)
  • 経営会議
    • 中間経営レビュー会議への参加
    • 上期業績見通しの精査・報告

9月

  • 中間期業績予測
    • 上期業績見込みの精緻化
    • 必要に応じた業績予想の修正検討
  • 税務関連
    • 中間納税の確認・実施
    • 税務戦略の中間レビュー
    • 税理士・税務当局との協議

10月

  • 第2四半期・中間決算
    • 中間決算の進捗確認・調整
    • 中間配当の検討・取締役会付議
    • 監査法人とのミーティング
  • 下期計画確認
    • 下期アクションプランの確認
    • 経営状況に応じた追加施策の検討

11月

  • 第2四半期決算完了
    • 第2四半期決算短信開示
    • 中間決算説明会の実施
    • 半期報告書提出
  • 次年度予算準備
    • 次年度予算策定方針の決定
    • 予算編成会議の主催
    • 各事業部からの予算ヒアリング

12月

  • 年末調整業務
    • 年末の経理処理指示
    • 年末賞与の会計処理確認
    • 棚卸資産の実地棚卸計画確認
  • 次年度予算編成
    • 事業部予算案の精査・調整
    • 予算全体の取りまとめ
    • 投資計画の財務影響分析

1月

  • 第3四半期決算
    • 第3四半期決算作業の進捗確認
    • 監査法人とのミーティング
    • 通期業績見込みの精査
  • 次年度経営計画の最終化
    • 次年度予算案の取締役会付議
    • 中期経営計画の見直し・更新
    • 次年度重点施策の確定

2月

  • 第3四半期決算完了
    • 第3四半期決算短信開示
    • 必要に応じた業績予想修正
  • 税務戦略
    • 年度末税務対策の検討・実施
    • 国内外のタックスプランニング最終確認
    • 移転価格文書の更新確認

3月

  • 年度決算準備
    • 期末決算に向けた事前対応
    • 減損テスト・引当金計上の検討
    • 監査法人との期末監査計画協議
  • 内部統制評価完了
    • J-SOX評価結果の最終確認
    • 内部統制報告書案の確認
    • 内部統制上の課題への対応方針決定
  • 年度締め
    • 年度経営成果の総括
    • 配当案の最終検討
    • 翌年度に向けた経理部門組織体制の見直し

定例的な業務(毎月)

月次決算関連

  • 月次決算数値の確認・分析
  • 月次決算説明資料の作成・報告
  • 業績の差異分析指示・対策検討

会議体出席

  • 取締役会への出席・財務報告
  • 経営会議/常務会への出席
  • 予算執行状況の報告

資金・財務関連

  • グループ資金繰り状況の確認
  • 金融機関との関係維持(定期面談)
  • 為替・金利動向のモニタリング

ガバナンス関連

  • リスク管理委員会への出席
  • 開示委員会への出席
  • 監査役・監査委員との定期ミーティング

臨時的な重要業務

資金調達関連

  • 大型資金調達(社債発行・シンジケートローン等)
  • 格付機関対応
  • 配当政策の見直し検討

M&A関連

  • M&A案件の財務デューデリジェンス監督
  • 買収・売却の財務スキーム検討
  • PMI(買収後統合)の財務面監督

危機対応

  • 業績悪化時の緊急対策立案
  • 自然災害等の危機発生時の財務対応
  • 不正・不祥事発生時の対応

制度変更対応

  • 会計基準変更への対応
  • 税制改正対応
  • ガバナンス制度変更への対応

経理担当取締役の業務は多岐にわたり、特に四半期末・年度末の決算期には業務が集中します。また、IRや株主総会対応などの対外業務と、予算管理や内部統制などの社内業務のバランスを取りながら、限られた時間を効率的に活用することが求められます。

大手上場企業の経理担当取締役の 重要任務

1.財務報告と開示責任の遂行

経理担当取締役の最も基本的かつ重要な責務は、正確で透明性の高い財務報告と適時適切な情報開示です。

具体的業務と責任

  • 四半期・年次決算の最終承認者としての責任
  • 有価証券報告書、決算短信など法定開示書類の内容保証
  • 会計方針・見積りの重要判断に関する最終決定
  • 監査法人との連携と監査上の重要事項の協議・対応
  • 開示委員会などでの重要開示事項の判断

重要性の根拠

  • 虚偽記載や重大な誤りは、株主・投資家の信頼を大きく損ない、株価下落や訴訟リスクにつながる
  • 金融商品取引法違反となれば、取締役個人の刑事責任にも発展し得る
  • コーポレートガバナンス・コードの要請により、財務情報の信頼性確保は取締役会の重要責務と位置づけられている

2.企業価値向上のための財務戦略立案と実行

経理担当取締役は、企業の持続的成長と中長期的な企業価値向上のために、全社的な財務戦略を策定・実行する責任を担います。

具体的業務と責任

  • 資本政策(配当・自社株買い等)の立案と株主還元の最適化
  • 資本コストを意識した投資判断基準の策定と重要投資案件の財務評価
  • 負債と資本の最適バランス(資本構成)の設計
  • 格付維持・向上のための財務健全性のコントロール
  • グループ全体のキャッシュマネジメント高度化と資金効率の向上

重要性の根拠

  • 企業価値の向上は上場企業の根本的使命であり、財務戦略はその中核を担う
  • ROE・ROIC等の資本効率性指標の向上は投資家からの厳しい要求事項となっている
  • 株主・投資家との対話において、資本政策や財務戦略の説明責任が強く求められている
  • 成長投資と株主還元のバランスは、企業の将来を左右する重要な意思決定である

3.ガバナンス・内部統制システムの構築と維持

経理担当取締役は、健全なコーポレートガバナンスと強固な内部統制システムの構築・維持において中心的役割を果たします。

具体的業務と責任

  • 財務報告に係る内部統制(J-SOX)の整備・運用状況の監督
  • 不正リスク管理体制の構築と予防・発見・対応体制の確立
  • グループ会社を含めた財務ガバナンス体制の設計と監督
  • コンプライアンス委員会・リスク管理委員会等での財務・会計リスク対応
  • 監査役・監査委員会・内部監査部門との連携による三様監査の実効性確保

重要性の根拠

  • 不正会計や内部統制の不備は企業の存続自体を脅かす重大リスクとなる
  • グローバル化・複雑化する企業グループの統制には、強固なガバナンス体制が不可欠
  • 内部統制の有効性は、監査法人の監査意見にも直結する重要事項である
  • ESG投資の拡大により、ガバナンスの質が投資判断の重要要素となっている
  • 会計不正発生時には経理財務責任者の責任が最も厳しく問われる

これら三つの任務は密接に関連しており、経理担当取締役はこれらのバランスを取りながら、「守り」(適正な財務報告と内部統制)と「攻め」(企業価値向上のための財務戦略)の両面で重要な役割を果たしています。また、近年ではデジタルトランスフォーメーションの推進や、サステナビリティ情報開示への対応など、新たな責務も増加傾向にあります。

大手上場企業の経理担当取締役の 報酬水準

大手上場企業の経理担当取締役の報酬は、企業規模、業界、業績、個人の経験・スキルによって大きく異なりますが、一般的な水準について以下の通りまとめます。

主要企業の経理担当取締役の報酬水準

TOPIX100企業の場合

  • 年間総報酬:約5,000万円~1億5,000万円
  • 内訳の傾向:
    • 基本報酬:40~60%
    • 業績連動賞与:20~40%
    • 株式報酬:20~40%

企業規模による傾向

  • 時価総額1兆円超:年間1億円前後が一般的
  • 時価総額5,000億円~1兆円:年間7,000万円~1億円程度
  • 時価総額1,000億円~5,000億円:年間5,000万円~8,000万円程度

報酬体系の特徴

報酬構成の近年の傾向

  • 固定報酬比率の低下と業績連動・株式報酬比率の上昇
  • 中長期インセンティブ報酬(業績連動型株式報酬等)の導入拡大
  • ESG指標等の非財務指標を報酬評価に組み込む企業の増加

近年のコーポレートガバナンス強化の流れ

  • 報酬委員会(任意または法定)による審議・決定が増加
  • 独立社外取締役の関与度合いが高まる傾向
  • グローバル水準を意識した報酬体系設計の増加
  • 外部専門機関の報酬サーベイデータ活用の一般化

これらの数値は平均的な傾向を示すものであり、実際の報酬は各企業の状況や報酬ポリシーによって大きく異なります。また、上記の水準は一般的な傾向を示すものであり、企業によっては大きく異なる場合もあります。

大手上場企業の経理担当取締役に 向いている人は、どんな人?

■求められるマインド

大手上場企業の経理担当取締役は、財務情報インフラの最終責任者として経営の中核を担います。

1.高度な倫理観と誠実性

 「番人」としての自覚

  • 企業の財務報告の最終責任者として、不正や誤謬を許さない強い倫理観
  • 経営陣内部でも「NOと言える勇気」を持ち、必要に応じて他の役員の行動に牽制をかける覚悟
  • 短期的な業績向上よりも長期的な企業価値と信頼維持を優先する姿勢

2.バランス感覚と全体最適思考

 多様な要素のバランスを取る能力

  • 短期業績と長期的成長のバランス
  • リスクと機会のバランス
  • 株主還元と成長投資のバランス
  • 財務と非財務要素のバランス

3.価値創造へのコミットメント

 守りから攻めへの発想転換

  • コスト削減や監視役にとどまらず、企業価値創造の積極的な推進者としての意識
  • 資本効率を重視し、経営資源の最適配分を追求する姿勢
  • 事業部門のパートナーとして価値創造に参画する意識

4.先見性と戦略的思考

 未来志向の視点

  • 市場環境や規制の変化を先読みし、能動的に対応策を講じる姿勢
  • 短期的数値だけでなく、将来のトレンドやリスクを見据えた意思決定
  • 産業構造の変化を財務的視点から読み解く洞察力

5.ステークホルダー志向

 多様な利害関係者の視点を尊重

  • 株主・投資家の期待を深く理解し、対話を重視する姿勢
  • 短期志向の株主と長期志向の株主、両者の期待を適切にバランスさせる視点
  • 従業員、顧客、社会など多様なステークホルダーの利益も考慮する広い視野

6.レジリエンスと冷静な判断力

 危機下での冷静さと回復力

  • 市場の混乱や業績悪化など不測の事態においても冷静さを保つ精神力
  • 財務危機に際しても感情に流されず、合理的な判断を下す胆力
  • 逆境からの回復力と柔軟な対応力

7.変革マインドとイノベーション志向

 常に進化し続ける姿勢

  • デジタル技術やAIなど新技術の財務領域への積極的な導入を推進
  • 旧来の経理財務の枠組みにとらわれない柔軟な発想
  • データドリブンな意思決定と分析の文化を育む先進性

8.人材育成と組織開発への情熱

 次世代リーダーの育成者としての自覚

  • 財務組織全体の能力向上と専門性開発に対する責任感
  • 多様な人材の強みを引き出し、チームの総合力を高める姿勢
  • 自らの後継者育成を意識した長期的な人材パイプライン構築

これらのマインドセットは相互に補完し合い、経理担当取締役が複雑な経営環境の中で企業価値の向上と持続的な成長に貢献するための基盤となります。特に、グローバル競争の激化やテクノロジーの急速な進化、サステナビリティへの要請など、経営環境が激変する今日では、従来の「守り」の発想から脱却し、より戦略的かつ創造的な役割を担うマインドセットが不可欠となっています。

■必要なスキル

大手上場企業の経理担当取締役には、財務・会計の専門知識にとどまらず、経営戦略の立案・実行から、グローバルなコンプライアンス対応まで、幅広いスキルが求められます。以下に、必要な主要スキルを体系的に整理します。

1.専門的財務・会計スキル

高度な会計・財務知識

  • 国際会計基準(IFRS)と日本基準の深い理解
    • 複雑な会計処理(M&A、連結、金融商品、収益認識等)への精通
    • 会計基準変更の影響分析と対応策立案能力
  • 財務分析・モデリングの高度な技術
    • 多角的な財務分析による意思決定支援能力
    • 複雑なビジネスモデルの財務シミュレーション構築力
  • 税務戦略の理解
    • 国際税務を含む税務計画の策定能力
    • 税効果会計の影響評価と税務リスク管理能力

資本市場への深い理解

  • 資本コスト概念の実務的活用能力
    • WACCの算定と投資判断への応用能力
    • 資本コストを意識した経営管理体制の構築
  • 格付機関・投資家の評価視点の理解
    • 格付向上のための財務戦略立案能力
    • 投資家の多様な期待の把握と対応能力

2.戦略的思考・経営スキル

経営戦略への貢献

  • 事業ポートフォリオ管理能力
    • 事業評価と撤退・成長判断の財務的意思決定能力
    • 経営資源の最適配分を支援する分析力
  • M&A・事業投資の評価と実行
    • 買収・事業投資の適正価値評価能力
    • PMI(買収後統合)の財務面でのリード能力
  • 中長期経営計画の財務的側面の設計
    • 財務KPIの適切な設定と進捗管理能力
    • 長期的な財務健全性と成長投資のバランス設計

価値創造支援

  • 企業価値向上に向けた施策立案
    • 資本効率改善(ROE/ROIC向上)施策の立案・実行
    • 株主還元政策(配当・自社株買い)の最適設計
  • 事業部門の価値創造支援
    • 事業別採算性分析と改善指導能力
    • 各事業の成長戦略への財務的助言能力

3.リスク管理・ガバナンススキル

リスクマネジメント

  • 統合的リスク管理フレームワークの構築
    • 財務・非財務リスクの特定と評価能力
    • リスク許容度の設定と管理体制の構築
  • 危機管理と事業継続計画
    • 財務危機時の資金繰り対応と再建計画立案
    • ストレステストの設計と実施能力

内部統制・ガバナンス

  • 内部統制システムの設計と監督
    • J-SOX対応を含む内部統制の有効性確保
    • 不正防止プログラムの構築と監視
  • ガバナンス体制の強化
    • 監査委員会等との効果的な連携体制の構築
    • 財務報告の透明性と正確性の担保

4.リーダーシップ・変革スキル

組織変革推進

  • 財務組織の変革リード
    • 財務機能の高度化・効率化の推進能力
    • シェアードサービス導入等の組織再編実行力
  • 全社的変革への貢献
    • コスト構造改革の立案と実行能力
    • 事業モデル変革の財務面からの支援能力

人材開発・チームビルディング

  • 財務人材の育成
    • 次世代CFO/財務リーダーの育成計画立案
    • 財務部門のスキルマトリックス設計と活用
  • 多様性ある財務組織の構築
    • グローバル財務人材の活用と育成
    • 多様なバックグラウンドを持つ人材の統率力

5.グローバル対応スキル

グローバル財務管理

  • グローバル財務オペレーション管理
    • 多通貨環境下での資金管理能力
    • グローバル税務最適化とトランスファープライシング対応
  • 海外子会社管理
    • グローバル連結経営管理体制の構築
    • 海外子会社の財務リスク把握と対応能力

クロスボーダーM&A・投資

  • 国際的な投資案件の評価
    • 地政学リスクを含むグローバル投資の評価能力
    • 国際的なデューデリジェンスの指揮能力
  • クロスボーダーファイナンス
    • 国際金融市場からの資金調達能力
    • 為替リスク管理戦略の立案と実行

6.デジタル・イノベーションスキル

デジタルトランスフォーメーション

  • 財務DXの推進
    • RPAやAI等を活用した財務業務の自動化・高度化
    • データレイクの構築とBIツール活用による分析高度化
  • デジタル投資の評価
    • デジタル案件の投資対効果分析手法の開発
    • 無形資産投資の適切な評価方法の確立

データアナリティクス活用

  • 高度な予測分析の実装
    • AIを活用した予測分析モデルの構築と活用
    • リアルタイムダッシュボード等による経営情報の可視化
  • ビッグデータの財務的活用
    • 非構造化データも含めた多様なデータ分析
    • データドリブンな意思決定文化の醸成

7.コミュニケーション・関係構築スキル

対内コミュニケーション

  • 経営陣との効果的対話
    • 財務・非財務情報の統合的な報告能力
    • 複雑な財務課題の明瞭な説明と選択肢の提示
  • 他部門との連携
    • 事業部門との戦略対話を促進する能力
    • 非財務部門との効果的な協働関係構築

対外コミュニケーション

  • IR・投資家対応
    • 資本市場との信頼関係構築能力
    • 財務戦略を明確に説明する対話力
  • 多様なステークホルダー対応
    • アナリスト・格付機関との関係構築
    • 監査法人・規制当局との建設的な関係の維持

8.サステナビリティ・非財務スキル

ESG財務統合

  • サステナビリティ情報開示
    • 統合報告書等でのESG情報の財務的関連性の説明
    • TCFD等のフレームワークに基づく開示設計
  • ESG要素の財務戦略への統合
    • ESG要素を取り入れた投資評価手法の開発
    • 気候変動等のリスク・機会の財務インパクト評価

非財務価値の測定と管理

  • 人的資本・知的資本の価値評価
    • 無形資産の価値評価と投資判断への組込み
    • 非財務KPIの設定と財務指標との連携

これらのスキルは、単独ではなく統合的に活用することが重要です。また、全てのスキルを一人で高いレベルで保有することは難しいため、優れた経理担当取締役は自身の強みを最大化しつつ、チームの多様な能力を活用して総合力を発揮します。経営環境の変化に伴い、特にデジタル関連スキルやサステナビリティ関連スキルの重要性は年々高まっており、継続的な学習と適応が求められます。

大手上場企業の経理担当取締役までの 道のり

大手上場企業の経理担当取締役というポジションに至るまでのキャリアパスは一様ではありませんが、いくつかの典型的なルートと必要なステップを逆算して考えてみましょう。

経理担当取締役の直前ポジションとしてよく見られるのは、以下のような役職です。

  • 経理部長・財務部長:部門全体の責任者として、決算業務や資金調達などを統括
  • 経営企画部長:全社の経営戦略立案や投資判断に深く関わる
  • 海外子会社CFO:グローバルな財務マネジメント経験を持つ
  • グループ経営管理部長:連結経営の視点で子会社群を統括

これらのポジションに至るまでには、さらにその前のステップが必要です。中堅クラスのポジションとしては以下の役職などです。

  • 経理部課長・財務部課長:特定領域(税務、連結決算、資金管理など)のマネジメント
  • IR室長・IR担当マネージャー:投資家対応の最前線でのコミュニケーション経験
  • 内部監査室マネージャー:ガバナンスと内部統制の専門的知見
  • 海外子会社コントローラー:異なる会計基準や商習慣の中での実務経験

若手〜中堅の段階では、以下のような経験が重要なステップとなります。

  • 経理部での決算業務経験:会計実務の基礎を固める
  • 財務部での資金調達・運用経験:財務戦略の実行力を養う
  • 予算策定・管理会計業務:事業戦略と財務の接点を理解する
  • 海外駐在経験:グローバルな財務知識と語学力を磨く
  • プロジェクトファイナンス経験:大型投資案件の財務構造を学ぶ

これらのキャリアパスは社内での昇進だけでなく、以下のような社外からのルートも存在します。

  • 監査法人出身者:公認会計士としての専門知識と監査経験を買われて
  • 金融機関出身者:資本市場や企業金融の専門知識を評価されて
  • コンサルティングファーム出身者:財務戦略や業務改革の知見を活かして
  • 同業他社からの転職:業界特有の財務知識と経験を持っていることが評価されて

若手時代に経験しておくと経理担当取締役へのパスが開かれやすい職種としては、以下が挙げられます。

  • 監査法人での勤務経験:会計・監査の専門知識と多様な業界の財務実態を学べる
  • 事業会社の経理部門:実務に根ざした会計・財務知識を身につけられる
  • 銀行・証券会社などの金融機関:資本市場や企業金融の知識を獲得できる
  • コンサルティングファームの財務アドバイザリー部門:戦略的な財務思考を鍛えられる

特に若手のうちに会計・財務の専門性を高めておくことで、その後のキャリア展開の幅が広がります。例えば、20代で公認会計士や米国公認会計士(USCPA)などの資格を取得し、監査法人で様々な企業の財務状況を見る経験を積んだ後、30代前半で事業会社に転職するというルートは、経理担当取締役を目指す上で効果的なパスの一つです。

また、社内でのキャリアパスを考える場合、経理部門内での昇進だけでなく、事業部門や海外子会社への異動など、多様な経験を積むことが重要です。例えば、経理部で基礎を固めた後、事業部の管理部門で予算管理や収益分析を担当し、その後海外子会社のコントローラーとして駐在経験を積み、本社に戻って経理部課長から部長へというように、幅広い経験を通じて「数字だけでなくビジネスがわかる財務リーダー」へと成長することが、経理担当取締役への道を切り拓くカギとなります。

若手の方々に具体的なアドバイスをするならば、まずは会計・財務の基礎知識と英語力を徹底的に鍛えるQAのssことが出発点です。その上で、言われた会計処理をこなすだけでなく、「なぜこの数字が変動しているのか」「事業にどんな影響があるのか」を常に考える姿勢を持ち、事業部門とのコミュニケーションを積極的に取ることで、次第に財務の専門家としての評価を高めていくことができるでしょう。

経理担当取締役への道のりは決して平坦ではありませんが、一つ一つのキャリアステップで着実に実力を蓄え、チャンスが来たときに飛躍できる準備をしておくことが重要です。専門性と経営センスを兼ね備えたリーダーへの成長を意識しながら、日々のキャリア構築に取り組んでください。

大手上場企業の経理担当取締役の キャリアパスの展望

大手上場企業の経理担当取締役という立場で働くことで、ビジネスパーソンとして最高峰のスキルと経験を獲得することができます。その専門性と経営視点は、その後のキャリア展開においても非常に価値の高いアセットとなるでしょう。

まず身につくのは、「経営者視点での財務分析力」です。数字を集計するだけではなく、その数字が意味するビジネス上の課題や機会を読み解き、戦略的な意思決定につなげる能力は、経理担当取締役の核心的なスキルです。例えば、部門別収益性分析から事業ポートフォリオの最適化を提案したり、投資案件のリスクとリターンを多角的に評価したりする力は、どのような経営環境でも通用する普遍的な価値を持っています。

また、取締役会のメンバーとして経営課題について多様な視点から議論を重ねることで、「経営判断力」も鍛えられます。ROI(投資収益率)やEVA(経済的付加価値)といった財務指標だけでなく、市場動向や技術革新、社会的責任など、多角的な要素を考慮した意思決定能力は、どのような組織のリーダーにとっても不可欠な資質です。

コミュニケーション面では、「ステークホルダーマネジメント能力」が磨かれます。株主、アナリスト、監査法人、金融機関、社内の各部門など、多様な利害関係者と効果的に対話し、時には複雑な財務情報をわかりやすく説明する能力は、あらゆるビジネスシーンで役立つでしょう。特に、IR活動を通じて鍛えられるプレゼンテーション能力と質疑応答力は、経営者として不可欠なスキルです。

このように経理担当取締役として培ったスキルセットは、キャリアの次のステージでも大きな強みとなります。多くの経理担当取締役は、そのキャリアパスとして以下のような選択肢を持っています:

  • CFO(最高財務責任者)への昇進:より大きな権限と責任を持って企業の財務戦略全体を統括するポジションです。 ※経理担当取締役とCFOについて、役割が一部重複している場合や、明確に分けられている場合、両者が1つのポジションになっている場合など各企業において様々です。
  • CEO(最高経営責任者)への道:財務に強い経営者として、企業全体のトップに就くケースも増えています。財務の専門知識を持つCEOは、特にIPO(新規株式公開)準備中の企業や事業再生フェーズの企業で重宝されます。
  • 社外取締役としての活躍:財務・会計の専門家として、複数の企業の社外取締役やアドバイザーを務めることも可能です。特に、上場企業では財務の専門知識を持つ社外取締役へのニーズが高まっています。
  • コンサルティング分野への転身:M&Aアドバイザリーや経営コンサルタントとして、培った経験と知見を活かして企業の戦略的意思決定を支援する道もあります。
  • 起業・ベンチャー支援:自ら新しいビジネスを立ち上げたり、スタートアップ企業のCFOとして成長をサポートしたりする選択肢もあります。
  • プライベートエクイティやベンチャーキャピタルへの転身:投資先企業の価値評価や財務改善の知見を活かし、投資判断や投資先支援のプロフェッショナルとして活躍することも可能です。

大手上場企業の経理担当取締役という経験は、その後のキャリアにおいて「経理の専門家」というレッテルを超えた価値をもたらします。なぜなら、会社の全体像を把握し、様々な部門との連携を経験しているため、「経営の全体最適」を実現できる数少ない人材として評価されるからです。

実際、ある電機メーカーの経理担当取締役からCEOに就任した経営者は、「財務数字は企業活動の結果であり、その背景にあるビジネスの実態を理解することで、より良い経営判断ができるようになった」と語っています。数字を通して事業の本質を見抜く眼力が、経営者としての大きな武器になるのです。

また、グローバル展開を進める日本企業では、国際会計基準や海外子会社管理などの経験を持つ経理担当取締役の価値は特に高まっています。海外投資家との対話や国際的なM&A交渉など、グローバルビジネスの最前線で活躍できる機会も広がっているのです。

経理担当取締役というポジションは、キャリアの終着点ではなく、むしろビジネスリーダーとしての新たな飛躍のためのプラットフォームといえるでしょう。財務の専門知識と経営感覚を兼ね備えた人材として、企業と社会に価値を創造し続けることができる、そんな可能性に満ちたキャリアパスなのです。

まとめ

役割と責任

  • 大手上場企業の経理担当取締役は、数兆円規模の連結売上高、数万人の従業員、数十万人の株主を抱える巨大組織において、財務情報の透明性と信頼性を担保する責任
  • M&Aの実行可否、海外展開戦略、新規事業への投資判断など、企業の将来を左右する重要な決定において、会計・税務の専門的見地から提言

求められるマインドやスキル

  • グローバル競争の激化やテクノロジーの急速な進化、サステナビリティへの要請など、経営環境が激変する今日では、より戦略的かつ創造的な役割を担うマインドセットが不可欠
  • 自身の強みを最大化しつつ、チームの多様な能力を活用して総合力を発揮
  • 経営環境の変化に伴い、特にデジタル関連スキルやサステナビリティ関連スキルの重要性は年々高まっており、継続的な学習と適応が求められる

重要な職務

  • 財務報告と開示責任の遂行
  • 企業価値向上のための財務戦略立案と実行
  • ガバナンス・内部統制システムの構築と維持

キャリアパス

  • 財務・経理部門の実務担当者⇒管理職⇒上級管理職⇒経理部長⇒経理担当取締役
  • 監査法人、他事業会社の経理部門、銀行や証券会社などの金融機関、コンサルティングファームからの転身
  • スタートアップ企業CFOやCEOへのキャリアアップ、独立起業や、スタートアップ支援、コンサルティングファームへの転身など多様なキャリアパス