経理・財務・会計ファイナンス人材のためのキャリア名鑑

会計人材のキャリア名鑑

大手上場企業の経理部マネージャー

「企業の財務健全性を守る経理現場の取りまとめ役」

数字を通して企業の真実を語る

戦略的思考で経営判断を支える

主な業務内容

  • 財務諸表作成の統括と上場企業特有の開示資料作成管理
  • 経理チームのマネジメントと業務改善プロセスの推進
  • 監査対応や税務戦略の立案と実行

想定年収

600万円〜1,000万円
※業績や評価によって変動

想定年齢

30歳~45歳

大手上場企業の経理部マネージャーは こんな仕事

大手上場企業の経理部マネージャーは、企業の財務健全性を守り経営判断を支える経理チームの現場リーダーです。決算業務の統括から、投資家への適切な情報開示、税務戦略の立案まで、その責務は多岐にわたります。上場企業に求められる厳格な財務報告ルールや会計基準等に精通し、株主や監査法人、税務当局との折衝を担うことで、企業の信頼性と持続的成長を支えています。経理部マネージャーという立場は、財務の専門知識を活かしながらチームをリードし、企業価値向上に貢献できる、やりがいに満ちた職種です。

経理部マネージャーの業務は帳簿付けや数字の集計ではなく、企業全体の経営判断に関わる重要なポジションです。

まず、最も重要な業務として「決算業務の統括」があります。四半期ごとに実施される決算作業は、上場企業にとって投資家への重要な情報開示の機会です。経理部マネージャーは、この作業のスケジュール管理から最終チェックまでを統括し、正確な財務情報を適時に提供することに責任を持ちます。たとえば、売上計上のタイミングに微妙な判断が必要な取引があれば、会計基準に照らして適切な処理方法を決定し、チームに指示を出します。

また、上場企業特有の業務として「有価証券報告書」や「決算短信」などの開示資料作成にも深く関わります。これらの書類は投資家の投資判断に直接影響するため、正確性はもちろん、企業の状況を適切に伝える記述が求められます。数字を並べるだけではなく、その背景にある事業状況をわかりやすく表現する能力も必要とされるのです。

税務面では、法人税や消費税など各種税金の申告・納付業務を指揮するとともに、税務戦略の立案も行うことがあります。実務上、担当者を別途設けるケースもありますが、例えば、複数の国で事業を展開する企業であれば、国際税務の知識を活かして最適な資金移動や利益計上の方法を検討することで、合法的な範囲内で税負担を適正化する役割を担うことがあります。

監査法人対応も重要な業務の一つです。上場企業は会計監査を受ける義務があり、経理部マネージャーは監査法人とのコミュニケーションの窓口となります。監査でスムーズに対応できるよう証憑書類の整理から説明資料の準備までコントロールし、時には会計処理の妥当性について専門的な議論を交わすこともあります。

さらに、経理部門のマネジメントも大きな責務です。経理スタッフの育成や業務分担の最適化、業務効率化のためのシステム導入検討など、チーム全体のパフォーマンスを高める施策を立案・実行します。近年ではRPA(Robotic Process Automation)などのテクノロジーを活用した業務効率化も推進しており、従来の会計知識に加えてITリテラシーも求められています。

このように、経理部マネージャーは財務数値を通して企業の「健康状態」を把握し、その情報を経営層や外部ステークホルダーに適切に伝える重要な橋渡し役なのです。日々の業務は細かな数字との格闘かもしれませんが、その先には企業全体の未来を左右する大きなインパクトがあることを常に意識しながら働くことができる、やりがいのあるポジションと言えるでしょう。

大手上場企業の経理部マネージャーという ポジションの魅力

経理部マネージャーという職種を目指す理由は、安定性や待遇の良さだけではありません。企業経営に影響力を与える専門性を発揮できるからこそ、多くのプロフェッショナルがこのキャリアパスを選択しています。

まず、「経営の中枢に関わる醍醐味」が挙げられます。経理部門は過去の数字を記録するだけでなく、その分析を通じて将来の経営判断に直接影響を与えます。例えば、新規事業への投資判断や、コスト削減が必要な部門の特定など、経営陣の意思決定に必要な財務情報を提供するのは経理部の重要な役割です。マネージャーとしてこうした分析をリードすることで、自分の仕事が会社の未来を形作る一部になっているという実感を得られるのです。

次に、「専門性と権限のバランス」があります。一般的に専門職は高い専門性を持つ一方で裁量が限られていたり、逆に経営職は大きな裁量を持つものの特定分野の専門性が薄れたりすることがあります。しかし、経理部マネージャーは会計・税務の専門知識を深めながらも、部門マネジメントという形で経営的な役割も担えるというバランスの取れたポジションです。

「成長と変化の最前線に立てる」点も魅力的です。近年、国際会計基準(IFRS)への対応やデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進など、経理部門を取り巻く環境は大きく変化しています。経理部マネージャーはこうした変化の波に最初に対応する立場にあり、常に新しい知識や技術を吸収し続けることができます。例えば、AI技術を活用した経理業務の効率化や、クラウドベースの会計システム導入など、最新のテクノロジーと財務知識を融合させる挑戦的なプロジェクトをリードすることも少なくありません。

また、「社会的信頼性の確保に貢献できる」という側面も重要です。上場企業の財務情報は、投資家や金融機関、取引先など多くのステークホルダーの意思決定に影響を与えます。経理部マネージャーとして適切な情報開示を行うことは、企業の透明性と信頼性を高め、ひいては健全な資本市場の形成に貢献することにつながるのです。

さらに、「キャリアの汎用性と将来性」も見逃せません。経理部で培った財務知識とマネジメント経験は、CFOや経営企画部門、さらには経営層へのステップアップにも活かせます。また、業界を問わず必要とされる普遍的なスキルであるため、キャリアの選択肢が広がるという利点もあります。

このように、経理部マネージャーを目指すことは、専門性と経営視点の両方を兼ね備えたプロフェッショナルとして成長できる道であり、企業の健全な発展と自己の成長を同時に実現できる魅力的なキャリアパスなのです。

大手上場企業の経理部マネージャーの 年間スケジュール例

大手上場企業の経理部マネージャーは、決算業務を軸としながら、年間を通してさまざまな財務・会計業務のマネジメントを担当します。以下に、年間スケジュールを3月決算を例にご紹介します。

4月(新年度開始)

主な業務

  • 年度経営計画の財務数値の確定と各部門への展開
  • 新年度予算の部内配分と業務計画の策定
  • 新入社員・異動者の受け入れと教育計画の作成
  • 前年度の決算取りまとめ作業(計算書類等の作成)
  • 監査法人との前年度監査スケジュール調整と対応

マネージャーとしての役割

  • 部内の担当業務の再配分と目標設定
  • 新任メンバーへのオリエンテーション実施
  • 前年度の振り返りと新年度の課題整理

5月

主な業務

  • 有価証券報告書の作成
  • 株主総会準備(決算関連資料の作成)
  • 年次税務申告の最終確認
  • 第1四半期の月次決算進行管理

マネージャーとしての役割

  • 監査法人対応の統括
  • 経営陣・IR部門向け決算説明資料の作成サポート
  • 税理士との連携による税務戦略の検討

6月

主な業務

  • 株主総会開催対応
  • 有価証券報告書提出
  • 第1四半期末の決算準備
  • 中間配当の検討資料作成
  • 資金繰り計画の見直し

マネージャーとしての役割

  • 株主総会での質問対応準備
  • グループ会社の決算取りまとめ体制の確認
  • 第1四半期決算に向けた部内進捗管理

7月

主な業務

  • 第1四半期決算の取りまとめ
  • 中間経営計画の進捗確認
  • 海外子会社の決算統合作業

マネージャーとしての役割

  • 第1四半期決算の数値分析と経営層への報告準備
  • 監査法人とのレビュー対応統括
  • 業績予想との差異分析

 8月

主な業務

  • 第1四半期決算発表対応・決算短信作成
  • 半期の業績見通し修正検討
  • 夏季賞与の会計処理
  • 投資家からのフィードバック分析

マネージャーとしての役割

  • IR部門と連携した投資家対応
  • 第2四半期に向けた課題の洗い出し
  • 部内の夏季休暇スケジュール調整

 9月

主な業務

  • 第2四半期末の決算準備
  • 中間期の予算実績分析
  • 年末調整の準備開始
  • 半期の税効果会計の検討

マネージャーとしての役割

  • グループ会社の決算早期化施策の推進
  • 中間期の業績総括と下半期見通しの検討
  • 経営会議向け中間報告の準備

10月

主な業務

  • 第2四半期(中間期)決算の取りまとめ
  • 半期報告書の作成
  • 下半期予算の見直し検討
  • 年末調整データの収集開始

マネージャーとしての役割

  • 中間決算の数値分析と課題抽出
  • 監査法人とのレビュー対応統括
  • 下半期の業績目標達成に向けた戦略検討

11月

主な業務

  • 第2四半期決算発表対応
  • 中間配当の実務対応
  • 次年度予算策定の準備
  • 棚卸資産の実地棚卸計画立案

マネージャーとしての役割

  • 投資家・アナリスト対応のサポート
  • 上半期の課題を踏まえた下半期アクションプランの策定
  • 次年度予算編成方針の検討

12月

主な業務

  • 第3四半期末の決算準備
  • 年末調整業務の取りまとめ
  • 次年度予算案の取りまとめ
  • 年末の資金管理強化

マネージャーとしての役割

  • 年末の決算進捗管理
  • 実地棚卸の監督
  • 業績予想の修正検討
  • 年末年始の部内体制の調整

1月

主な業務

  • 第3四半期決算の取りまとめ
  • 次年度予算の経営層への説明資料作成
  • 確定申告の準備開始

マネージャーとしての役割

  • 第3四半期決算の進捗管理と分析
  • 監査法人とのレビュー対応統括
  • 年度末決算に向けた課題整理

2月

主な業務

  • 第3四半期決算発表対応・決算短信作成
  • 通期業績見通しの最終調整
  • 次年度予算の最終化
  • 年度末決算に向けた事前準備

マネージャーとしての役割

  • 年度末決算に向けた重点課題の把握と対策
  • 税務戦略の最終確認
  • 有価証券や固定資産の減損検討

3月(年度末)

主な業務

  • 年度末決算の準備
  • 実地棚卸の実施
  • 税務申告書の作成
  • 次年度の経理業務計画の策定

マネージャーとしての役割

  • 締め作業の全体統括
  • 決算短信に向けた数値精査
  • 監査法人との年間スケジュールの調整
  • 部内の人事評価とフィードバック

通年業務

定例業務

  • 月次決算の取りまとめと分析(毎月)
  • 経営会議・取締役会向け資料作成(月次)
  • 資金繰り管理と金融機関折衝(随時)
  • 税務調査対応(実施年)
  • 内部統制評価(J-SOX対応)

部門マネジメント

  • チームメンバーの育成と評価
  • 業務効率化・自動化の推進
  • 会計・税制改正への対応準備
  • 経理システムの改善・更新プロジェクト

繁忙期と特徴

繁忙期

  • 四半期末・年度末の決算期(特に3月末決算後の4-5月、年度末決算準備の2-3月)
  • 株主総会準備期間(5-6月)

特徴

  • 大規模なM&Aやグループ再編がある場合は、通常業務に加えてプロジェクト対応が発生
  • 会計基準の変更や新システム導入時には、追加的な準備・対応が必要
  • 海外子会社が多い企業では、各国の決算タイミングや会計基準の違いに対応するための調整作業が加わる

経理部マネージャーは、このように年間を通して常に次の決算や財務イベントを見据えながら、チームを指揮し、円滑な業務遂行と正確な財務報告を実現する重要な役割を担っています。また、近年ではデジタル化の推進やデータ分析の強化など、従来の経理業務に加えて新たな取り組みも求められるようになってきており、業務の幅はさらに広がっています。

大手上場企業の経理部マネージャーの 重要任務

大手上場企業の経理部マネージャーは、企業の財務健全性と情報の正確性を確保する要となるポジションです。数多くある責務の中から、特に重要な3つの任務をピックアップしてご説明します。

 

1.正確かつ適時な財務報告体制の構築と維持

経理部マネージャーの最も基本的かつ重要な任務は、正確な財務情報を適切なタイミングで提供できる体制を構築・維持することです。上場企業には厳格な財務報告義務があり、この責任を果たせなければ市場の信頼を失うだけでなく、法的制裁を受ける可能性もあります。

  • 四半期・年次決算プロセスの設計と最適化
  • 会計基準や開示規制の変更に対応した業務フローの更新
  • 決算早期化と精度向上の両立を実現するためのチームマネジメント
  • 監査法人や税理士との良好な関係構築と効率的な監査対応
  • 内部統制(J-SOX)の有効性確保と継続的改善

ある大手メーカーでは、経理部マネージャーの主導で決算プロセスの標準化と自動化を進めた結果、決算日数を従来の12日間から7日間に短縮し、同時にミスを30%削減することに成功しました。これにより経営層への迅速な情報提供が可能となり、機動的な経営判断に貢献しました。

正確かつ迅速な財務報告は、法的義務の履行ではなく、企業価値を支える基盤となります。経理部マネージャーは、この基盤を堅固にします。

2.経営意思決定を支援する財務分析と情報提供

経理部マネージャーは、過去の数字を報告するだけでなく、その数字から意味のある洞察を引き出し、経営陣の意思決定を支援する重要な役割を担っています。財務の専門知識を活かして、事業戦略や投資判断に関する有益な分析と提言を行います。

  • 部門別・製品別収益性分析による経営資源の最適配分提案
  • 投資案件の財務評価(ROI、回収期間、NPV分析など)
  • 業績予測とシナリオ分析による経営リスクの可視化
  • 競合他社との財務指標比較による自社の強み・弱みの分析
  • 経営会議・取締役会向けの洞察力のある財務報告資料の作成

あるグローバル企業では、経理部マネージャーが提供した海外事業の収益性分析と資本効率の視点が、低収益事業からの撤退と成長分野への投資シフトという経営判断に決定的な影響を与えました。この戦略転換により、3年後にはROEが4%から10%へと大幅に改善しました。

経理部マネージャーはこのように、企業の持続的成長に直接貢献できます。経営者の視点で数字を語れるマネージャーは、企業内での存在感と影響力を大きく高めることができます。

3.財務リスク管理とガバナンス体制の強化

グローバル化やビジネスモデルの複雑化に伴い、企業が直面する財務リスクは多様化しています。経理部マネージャーには、これらのリスクを適切に特定・評価・管理し、健全なガバナンス体制を構築する責任があります。不正や誤謬を防止するための内部統制の整備・運用も重要な任務です。

  • 為替リスク・金利リスク・信用リスクなどの財務リスク管理方針の策定
  • 粉飾決算や不正支出を防止するための内部統制の設計と有効性評価
  • コンプライアンス強化のための経理規程・マニュアルの整備
  • グローバル税務リスクへの対応(移転価格、税務調査対応など)
  • 事業継続計画(BCP)における資金管理体制の構築

ある大手小売業では、経理部マネージャーが主導して不正検知システムを導入し、経理プロセスの自動化と可視化を進めた結果、数千万円規模の不正使用を早期に発見し、大きな損失を未然に防いだ事例があります。また、海外子会社の税務リスクに先手を打って対応したことで、数億円規模の追徴課税を回避した企業もあります。

企業の信頼性と持続可能性を確保するうえで、リスク管理とガバナンスの重要性はますます高まっています。経理部マネージャーはこの分野においても中核的な役割を果たし、企業価値の毀損を防ぎます。

 

これら3つの重要任務は互いに密接に関連しており、経理部マネージャーはこれらをバランスよく遂行することで組織に大きな価値をもたらします。帳簿付けや数字の集計ではなく、企業全体の経営判断に関わる役割を果たすことが、現代の経理部マネージャーには求められているのです。

今後は、デジタルトランスフォーメーションの進展によりさらに業務の自動化が進み、経理部マネージャーの役割はよりビジネスパートナーとしての側面が強調されていくでしょう。データ分析力やデジタルリテラシー、そして経営戦略を理解する力が、これからの経理部マネージャーにとってますます重要になっていくと考えられます。

大手上場企業の経理部マネージャーの 報酬水準

大手上場企業の経理部マネージャー(課長クラス)の報酬水準について、最新の調査データに基づいてご説明します。

経理・財務職の報酬帯別特徴

800万円〜999万円の層

  • ポジション:経理・IRの責任者、マネージャー、リーダー
  • 求められる経験・スキル:
    • 経理経験5年以上
    • 上場企業での経理財務経験
    • 決算経験、IR経験
    • 管理職経験
    • 公認会計士資格や簿記2級以上
    • グローバル企業では英語力も必要

600万円〜799万円の層

  • ポジション:経理の部長候補、課長、リーダー、スペシャリスト候補
  • 求められる経験・スキル:
    • 経理財務・IRなどの経験3年以上
    • 上場企業での経験
    • 簿記2級以上

その他の特徴

  • 経理財務職の高年収層(800万円以上)では転職回数が多い傾向がある
  • マネージャークラス(課長級)は30代〜50代が中心

報酬の上昇傾向

最新の調査では、経理財務職の報酬は全国的に上昇傾向にあります。特に首都圏では、最低年収額の下限が前年比150%と大幅に上昇しています。これは物価上昇への対応や従業員のモチベーション向上を目的とした賃上げの影響と考えられます。

大手上場企業の経理部マネージャーに 向いている人は、どんな人?

■求められるマインド

大手上場企業の経理部マネージャーには、高度な専門知識やスキルだけでなく、特有のマインドセットが求められます。組織の財務健全性を守りながら、ビジネスを前進させる役割を果たすために必要な心構えを解説します。

1.高い倫理観と誠実性

「財務の安全確認役」としての誇りと責任感

経理部マネージャーは企業の財務情報の正確性と信頼性を確保する重要な役割を担っています。この役割には揺るぎない倫理観が不可欠です。

  • 「正しいことをする」という原則を、どんな圧力があっても貫く姿勢
  • 短期的な利益よりも長期的な企業価値を優先する判断軸
  • 数字の操作や不適切な会計処理の要請には毅然と対応する勇気
  • 透明性を重んじ、問題を隠さず適切に報告・対処する姿勢

誠実性は経理部マネージャーの信頼の源泉であり、一度失われると取り戻すのが非常に困難です。常に「正しいことをする」という原則を念頭に置くことが重要です。

2.ビジネスパートナーシップマインド

「No」だけを言う人ではなく、「How」を提案できる存在に

現代の経理部マネージャーには、経営目標の達成を支援する「ビジネスパートナー」としての役割が求められています。

  • 経理部門を孤立した存在ではなく、ビジネスの一翼を担う部門として位置づける
  • 他部門の目標や課題を理解し、共感する姿勢
  • 「できない理由」ではなく「できる方法」を模索する前向きな思考
  • 財務的観点からビジネス価値を最大化するための提案を行う積極性

経理部マネージャーがビジネスパートナーとして認識されるためには、会計や財務の枠を超えて、ビジネス全体を俯瞰する視点と、価値創造に貢献するマインドが必要です。

3.継続的学習と適応力

変化を恐れず、常に自己更新する姿勢

会計基準の改正、税制の変更、テクノロジーの進化など、経理部マネージャーを取り巻く環境は常に変化しています。この変化に適応し続ける姿勢が不可欠です。

  • 新しい知識やスキルの習得を厭わない生涯学習の姿勢
  • 「これまでそうしてきた」という固定観念にとらわれない柔軟性
  • デジタル化やAI活用などの新しい取り組みに前向きな姿勢
  • 失敗を恐れずに新しい方法や技術に挑戦する勇気

今日の正解が明日も正解とは限らない環境で、常に最新の知識と技術を取り入れる姿勢が、経理部門の進化と企業価値の向上につながります。

4.戦略的思考と先見性

「今日の数字」だけでなく「明日の展望」を描く

経理部マネージャーには、過去の記録を管理するだけでなく、未来の財務状況を予測し、戦略的な意思決定をサポートする役割が求められています。

  • 短期的な数値管理だけでなく、中長期的な財務戦略を考える習慣
  • 「何が起きているか」だけでなく「なぜ起きているか」を探求する分析的思考
  • 将来の事業環境変化を予測し、先手を打つ先見性
  • 財務の視点から企業の競争優位性を高める施策を考える戦略思考

数字の背後にあるビジネスの本質を理解し、財務的な洞察から戦略的な提言ができるマインドが、経営層から信頼される経理部マネージャーの条件です。

5.リーダーシップとチーム育成への情熱

個人プレーヤーからチームビルダーへの転換

経理部マネージャーは自身の専門性を発揮するだけでなく、チーム全体の能力を高め、組織の持続可能性を確保する責任があります。

  • 自分の成果だけでなく、チーム全体の成長と成果にコミットする姿勢
  • メンバーの強みを活かし、弱みをサポートする包容力
  • 困難な状況でもチームを鼓舞し、前向きな雰囲気を作る責任感
  • 部下の成長のために時間と労力を惜しまない育成マインド

経理部マネージャーは、今の仕事をこなすだけではなく、次世代の経理リーダーを育てる情熱を持っています。これが組織の持続的な強さにつながります。

6.バランス感覚と冷静な判断力

複雑な状況下でも均衡を保つ「判断役」

経理部マネージャーは、コンプライアンスと事業推進、リスク管理と機会捕捉、短期成果と長期投資など、しばしば相反する要素の間でバランスを取る必要があります。

  • 複数の視点から物事を見る多角的思考
  • 感情に左右されず、データと事実に基づいて判断する冷静さ
  • 複雑な状況でも本質を見極める洞察力
  • 緊急事態でもパニックにならず、適切な優先順位をつける判断力

経理部マネージャーは、しばしば企業内で「最後の防波堤」として機能することが求められます。その役割を果たすためには、さまざまな圧力の中でも冷静にバランスを保つマインドが不可欠です。

大手上場企業の経理部マネージャーには、高い専門性とともに、こうした多面的なマインドセットが求められます。帳簿付けや数字の集計にとどまるのではなく、企業全体の経営判断に関わるようになることで、自身のキャリアも組織の価値も大きく高めることができるでしょう。

これらのマインドは一朝一夕に身につくものではありませんが、日々の業務の中で意識し、実践することで徐々に自分のものにしていくことができます。経理部マネージャーとしての真価は、スキルだけでなく、このようなマインドセットにこそ表れるのです。

■必要なスキル

大手上場企業の経理部マネージャーは、数字の管理者ではなく、企業の財務健全性を確保しながらビジネス成長を支援する戦略的なポジションです。このポジションで成功するために必要な重要スキルを解説します。

1.高度な会計・財務の専門知識

基本となる専門スキル

経理部マネージャーの基盤となるのは、やはり堅固な会計・財務の専門知識です。特に上場企業では、複雑な取引や厳格な開示要件への対応が求められます。

  • 日本基準(J-GAAP)、IFRS、米国会計基準などの会計基準に関する深い理解
  • 連結会計、税効果会計、減損会計、リース会計など複雑な会計処理への対応力
  • 上場企業特有の開示規制や会計基準の改正動向に関する最新知識
  • 税務申告、移転価格税制、国際税務などの税務知識
  • 資金調達、資金運用、為替リスク管理などの財務知識

2.デジタルリテラシーとテクノロジー活用能力

DX時代の必須スキル

経理・財務領域におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)が急速に進む中、テクノロジーを理解し活用する能力は必須になっています。

  • ERPシステム(SAP、Oracle等)の設計・導入・活用に関する知識
  • RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)による業務自動化の企画・推進力
  • BI(ビジネスインテリジェンス)ツールを活用したデータ分析・可視化能力
  • クラウド会計システムやフィンテックサービスの評価・導入スキル
  • AI、ブロックチェーンなど最新テクノロジーの経理財務への応用可能性の理解

3.ビジネス分析・洞察力

数字を事業の言語に翻訳するスキル

数字を報告するだけでなく、その数字が示すビジネスの実態を理解し、経営判断に役立つ洞察を提供する能力が求められます。

  • 財務諸表分析(比率分析、トレンド分析など)の高度な実践力
  • セグメント別・製品別・顧客別の収益性分析能力
  • 投資判断に必要な財務モデリングとシミュレーション能力(DCF分析、感応度分析など)
  • KPI設定と業績評価の設計能力
  • 競合他社分析と業界ベンチマーキングのスキル

4.リスク管理・内部統制の設計運用能力

企業価値を守るスキル

上場企業では、J-SOX対応をはじめとする内部統制やリスク管理が重要な責務となります。不正や誤謬を未然に防ぎつつ、過度に煩雑にならない効率的な統制を設計・運用する能力が求められます。

  • J-SOX(金融商品取引法に基づく内部統制報告制度)への対応力
  • リスクベースで重要な統制ポイントを見極める判断力
  • 統制活動の文書化と評価のスキル
  • 不正リスクの評価と防止策の設計能力
  • IT全般統制とIT業務処理統制の理解と実装能力

5.コミュニケーション・プレゼンテーション能力

専門性を価値に変えるスキル

どれだけ優れた分析や洞察があっても、それを効果的に伝えられなければ価値は半減します。複雑な財務情報を、社内の様々なステークホルダーに適切に伝える能力が不可欠です。

  • 専門用語を噛み砕いて説明する能力
  • 数字の背景にあるストーリーを伝えるナラティブスキル
  • 経営陣向け報告資料の作成と効果的なプレゼンテーション能力
  • 可視化ツールを活用したデータの図表化能力
  • 社外関係者(監査法人、投資家、アナリストなど)との適切なコミュニケーション能力

6.リーダーシップ・人材育成力

チームの力を最大化するスキル

経理部マネージャーは通常、複数のスタッフをまとめるポジションです。専門知識だけでなく、チームの力を引き出し育成するリーダーシップが求められます。

  • チームビジョンの設定と共有能力
  • 適材適所の人員配置と業務分担の最適化能力
  • メンバーの長所・短所を見極め育成する能力
  • 業務プロセス改善をリードする変革推進力
  • 業務負荷が高い繁忙期でもチームのモチベーションを維持するマネジメント力

7.グローバル対応力

国際的なビジネス環境で必要なスキル

特に海外展開している大手上場企業では、グローバルな視点と異文化を理解したコミュニケーション能力が不可欠です。

  • ビジネスレベル以上の英語力(TOEIC 800点以上が目安)
  • 国際会計基準(IFRS)と各国会計基準の差異理解
  • グローバル税務(移転価格税制、PE課税など)への対応力
  • 異文化コミュニケーション能力
  • 海外子会社の管理・統制能力

8.変化対応力・柔軟性

常に進化する環境で成功する

会計基準の改正、新たな規制導入、組織変更など、経理部門を取り巻く環境は常に変化しています。この変化に柔軟に対応する能力が重要です。

  • 会計基準や税制改正への迅速な対応力
  • 組織変更(M&A、事業再編など)に伴う会計・財務的対応能力
  • 新たなビジネスモデルに適した会計処理・管理手法の設計能力
  • 危機対応(災害、システム障害など)における代替手段の準備と実行力
  • 継続的な業務改善とイノベーションの推進力

大手上場企業の経理部マネージャーに求められるこれらのスキルは、一朝一夕で身につくものではありません。様々な経験を積み、継続的な学習を重ねることで、徐々に獲得していくものです。

企業によって重視されるスキルの比重は異なりますが、これらをバランスよく伸ばしていくことで帳簿付けや数字の集計にとどまらず、企業全体の経営判断に関わるようになることができ、、自身のキャリアも大きく広がることでしょう。

キャリア開発のポイントとしては、まず自分の強みと弱みを正直に評価し、計画的なスキル開発を進めることが大切です。また、社内外のネットワークを広げ、メンターや同業他社の経理部マネージャーとの交流から学ぶことも効果的です。資格取得や専門研修だけでなく、実務での多くの経験の積み重ねがこれらのスキルを磨く最良の機会となるでしょう。

大手上場企業の経理部マネージャーまでの 道のり

経理部マネージャーへの道は一通りではなく、様々なキャリアパスが考えられます。ここでは代表的なキャリアステップを逆算しながら、このポジションに至るまでの道筋を探っていきましょう。

経理部マネージャーの直前のポジションとしては、一般的に「経理課長」や「経理グループリーダー」などの役職が考えられます。このレベルになると、特定の会計領域(例えば連結決算や固定資産管理など)を担当するチームの責任者として、5〜10名程度のメンバーをまとめる役割を担います。経理業務のプロセス改善や、監査法人との折衝、社内他部門との調整など、マネジメント業務の比重が増えてきます。この段階では約8〜12年の経理実務経験が求められることが多いでしょう。

その手前には「経理主任」のポジションがあります。ここでは単独で複雑な会計処理を判断できるレベルの専門性と、後輩指導やプロジェクト管理などの初級マネジメントスキルが求められます。決算業務の中核を担い、細部まで正確に処理できる能力が評価されるフェーズです。一般的にはこのレベルに到達するまでに5〜8年程度の経験が必要とされます。

さらにその前段階として経理担当者として、仕訳入力や帳票作成、データ集計など、経理業務の基礎を習得します。先輩の指導を受けながら、会計ソフトの操作方法や社内規程、基本的な会計処理ルールを学ぶ時期です。この段階は通常入社から2〜5年程度の期間となります。

このような社内キャリアパスを辿る一方で、監査法人や税理士法人などの専門職からの転職という道筋も少なくありません。公認会計士や税理士として3〜5年の実務経験を積んだ後、その専門性を買われて企業の経理部門に中途採用されるケースです。このルートでは、すでに高い専門性を持っているため、比較的早いスピードでマネジメント層に到達することもあります。

また、事業会社の経営企画部門や財務部門から経理部門へ異動し、その後経理部マネージャーに昇進するというキャリアパスも存在します。このルートでは、経理の技術的な専門性には時間がかかる場合もありますが、全社的な視点や他部門との連携ノウハウなど、別の強みを発揮できることがあります。

若手時代に経理部マネージャーを目指すために重要なのは、「基礎を固めつつ、視野を広げる」ことです。具体的には以下のようなアプローチが考えられます

  • 会計の基礎知識を確実に習得する(簿記検定の取得や会計原則の理解)
  • 早い段階で決算業務に携わり、全体像を把握する
  • 様々な経理分野(売上・債権管理、固定資産、連結決算など)を経験する
  • 監査対応や税務申告など、外部専門家とのやり取りを学ぶ
  • 社内の他部門(営業、生産、物流など)の業務を理解する
  • 可能であれば海外子会社の経理業務も経験する

これらの経験を通じて、経営と現場をつなぐ財務プロフェッショナルとしての素養を身につけることができます。また、経理部マネージャーを目指す上で、その資質を周囲にアピールするチャンスを積極的に掴むことも大切です。例えば、業務改善プロジェクトをリードしたり、若手の教育係を買って出たり、新システム導入のプロジェクトに参画したりすることで、マネジメント能力を示す機会を作りましょう。

経理部マネージャーへの道のりは決して平坦ではありませんが、着実にスキルと経験を積み重ねていけば、必ず到達できる目標です。そして、その過程で身につけた知識や能力は、キャリア全体を豊かにしてくれるものとなるでしょう。

大手上場企業の経理部マネージャーの キャリアパスの展望

経理部マネージャーという役職を通じて身につくスキルは、財務専門知識だけにとどまらず、ビジネスパーソンとしての総合力を高めるものばかりです。これらのスキルは、その後のキャリア展開において大きな武器となります。

まず「高度な財務分析力」が挙げられます。帳簿をつけるだけでなく、財務データから企業の課題や機会を読み取る力は、経理部マネージャーの日々の業務を通じて磨かれます。例えば、複数の事業部門の収益性を比較分析したり、投資案件のリターンを予測したりする過程で、数字の背後にある事業の実態を見抜く目が養われるのです。この分析力は将来、経営企画や事業戦略を立案する場面でも大いに役立ちます。

また「リスク管理能力」も重要なスキルです。上場企業の経理部マネージャーは、会計不正リスクや税務リスク、開示リスクなど、様々なリスクと日常的に向き合います。例えば、新たなビジネスモデルを会計的にどう評価すべきか、海外子会社の取引にどのような税務リスクがあるかなど、多角的にリスクを分析し対応する経験を積むことで、将来的には企業全体のリスクマネジメントを担える人材へと成長できます。

「コミュニケーション能力」も飛躍的に向上します。経理部マネージャーは社内の様々な部門や、監査法人、税務当局など社外の専門家とも頻繁にコミュニケーションを取ります。専門的な財務情報を非財務部門の人にもわかりやすく説明したり、逆に事業部門の状況を財務数値に適切に反映させたりするためには、高いコミュニケーション能力が必要です。この能力は、将来的に経営層として様々なステークホルダーと対話する際にも不可欠なものとなります。

「マネジメントスキル」の向上も見逃せません。部下の育成から業務プロセスの改善、リソース配分の最適化まで、マネージャーとしての様々な判断と実行を繰り返すことで、組織を効果的に動かすスキルが身につきます。特に、締め切りが厳格な決算業務を率いる過程では、限られた時間内で最大の成果を出すためのプロジェクトマネジメント力も養われます。

こうした総合的なスキルを身につけた経理部マネージャーのキャリア展望は非常に広いものです。一つの道筋としては、経理部長、経理財務本部長を経てCFO(最高財務責任者)へと昇進するルートがあります。CFOは経営陣の一員として、財務戦略だけでなく事業戦略の策定にも深く関わる重要なポジションです。

また、経理部門で培った分析力を活かして経営企画部門に移り、全社戦略の立案に携わるというキャリアパスも考えられます。さらに、M&A(合併・買収)専門部署やIR(投資家向け広報)部門など、財務知識を活かせる専門分野でのキャリア発展も可能です。

近年では、事業会社から監査法人やコンサルティングファームに転じて、自らの経験を活かして企業支援を行うというキャリアチェンジも珍しくありません。逆に、将来は起業して自らがCFOとなり、スタートアップの財務基盤を築くという選択肢もあります。

このように、経理部マネージャーとして身につけたスキルとキャリアは、将来のビジネスパーソンとしての可能性を大きく広げてくれるものなのです。

まとめ

役割と責任

  • 大手上場企業の経理部マネージャーは、帳簿付けや数字の集計にとどまらず、企業全体の経営判断に関わる重要なポジション
  • 決算業務の統括や、開示資料の作成、監査法人の監査対応まで幅広く役割を担う
  • 財務数値を通して企業の「健康状態」を把握し、その情報を経営層や外部ステークホルダーに適切に伝える重要な橋渡し役

求められるマインドやスキル

  • 最後の防波堤として機能することが求められます。その役割を果たすためには、さまざまな圧力の中でも冷静にバランスを保つマインドが不可欠
  • 基盤となるのは、堅固な会計・財務の専門知識。特に上場企業では、複雑な取引や厳格な開示要件への対応が求められる
  • データ分析力やデジタルリテラシー、そして経営戦略を理解する力が、これからの経理部マネージャーにとってますます重要になっていく

重要な職務

  • 正確かつ適時な財務報告体制の構築と維持
  • 経営意思決定を支援する財務分析と情報提供
  • 財務リスク管理とガバナンス体制の強化

キャリアパス

  • 経理担当者⇒経理主任⇒経理課長・経理グループリーダー⇒マネージャー
  • 社内の経営企画、財務部門等、監査法人、他社の経理経験等からの転身
  • 次のステップとして、経理部長への昇進のほか、スタートアップ企業の経理部マネージャーへの転職や経営企画部への異動など多様なキャリアパス