経理・財務・会計ファイナンス人材のためのキャリア名鑑
企業の財務情報の信頼性を確保し、透明性を担保
経理から経営へ、数字の先を読む責任者
グローバル会計基準と向き合い、企業価値向上の要
1,200万円~2,500万円
※業績や評価によって変動
40歳~60歳
数字の世界から企業の未来を照らし出す—大手上場企業の経理部長は企業の財務情報の信頼性を確保し、複雑な会計基準に基づき判断し、時に数億、数十億円規模の経営判断に財務面から助言を行う重要な存在です。経営陣と現場をつなぐ要となり、監査法人や税務当局との折衝を行いながら、企業の信頼性と透明性を守る責任を担います。経理部長は、企業のありとあらゆる数字を管理し、それを経営の意思決定に活かせる「生きた情報」へと変換する、いわば企業における財務のプロフェッショナルを束ねる存在なのです。
経理部長は、企業の財務活動の中心として、経理部門全体を統括する重要な役割を担っています。「経理」と聞くと、単純な帳簿付けや入出金管理をイメージするかもしれませんが、特に大手上場企業の経理部長の仕事は、そのイメージをはるかに超える戦略的かつ創造的な業務です。
まず、経理部長の最も基本的な業務は、企業の会計記録が正確かつ適時に処理されるように経理業務をマネジメントすることです。しかし、それは氷山の一角に過ぎません。四半期ごとの決算プロセスを指揮し、有価証券報告書や決算短信といった開示資料の作成を最終的にチェックするのも重要な役割です。これらの開示資料は投資家や金融機関、規制当局にとって企業を評価する上での基礎資料となります。
また、監査法人とのコミュニケーションも経理部長の腕の見せどころです。例えば、複雑な海外取引の会計処理について監査法人と見解が分かれた際、国際会計基準の細部に至る自身の知識をもとに論理的な説明を行い、会社の会計方針を理解してもらいつつ適切な会計処理を考案することがあります。このように、高度な専門知識や説得力が必要とされる場面が日常的に発生します。
そして、「過去の数字」ではなく「現在進行形の数字」を経営判断に活かすことも可能です。例えば、月次の管理会計報告を通じて事業部門の業績を詳細に分析し、予算との乖離があればその原因を追究して、早期に改善アクションを提案します。「なぜこの数字が出ているのか」を徹底的に追求する分析力と、「これからどうすべきか」を示す提案力の両方が求められるのです。
経理部長は、税務戦略の最適化にも関わります。国内外の税制を熟知し、合法的な範囲内で税負担を軽減する方策を提案することも重要な職務です。特にグローバル企業では、国際税務の知識が必須となり、移転価格税制や外国税額控除など複雑な制度への対応が求められます。
日々の業務の中では、経理スタッフの育成・指導にも力を注ぎます。経理部門は、会計知識を持った人材の集まりだけではなく、企業の財務健全性を守る「最後の砦」でもあります。経理部長は、チーム全体の専門性向上と倫理観の醸成に責任を持ち、時に不正や誤りを見抜く鋭い眼を持ったプロフェッショナル集団を作り上げることが求められます。
大手上場企業の経理部長という職位を目指す理由は、高い報酬やステータスだけではありません。それは企業経営の中核に位置し、事業の成功と社会的信頼の架け橋となるというやりがいにあります。
経理部長の魅力の一つは、複雑な財務データを経営陣が理解し活用できる情報に変換する点にあります。例えば、新規事業の投資判断において、ROI(投資収益率)やペイバックピリオド(投資回収期間)などの指標を用いて、その事業の実現可能性や収益性を分析します。この分析が経営陣の意思決定を左右し、ときには数十億円規模のプロジェクトの成否を決定づけることもあるのです。そのような重要な経営判断に関わることができるのは、他の職種ではなかなか得られない大きな醍醐味です。
また、経理部長は企業の「守護者」としての側面も持ちます。コンプライアンスの観点から財務報告の正確性と透明性を確保することは、投資家や社会からの信頼を維持するうえで不可欠です。2000年代初頭の米国エンロン事件や国内でも発生した粉飾決算事件などの教訓から、現代の経理部長には高い倫理観と職業的誠実性が求められています。このような責任の重さは、プロフェッショナルとしての誇りとやりがいにつながります。
さらに、経理部長は経営とともに成長できる職種です。事業拡大に伴う組織体制の見直し、M&Aによる企業統合、海外展開に際しての会計システムの構築など、企業の成長ステージに応じて様々な財務課題に取り組む機会があります。これらの経験は、自身のキャリアに厚みをもたらすだけでなく、将来CFOや経営幹部として活躍するための土台になります。
また、現代の経理部長はテクノロジーの活用においても最前線に立っています。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やAIによる自動化、ビッグデータを活用した財務分析など、最新技術を駆使して経理業務の効率化と高度化を推進する役割も担っています。こうした技術革新の波に乗ることで、自らのスキルセットも継続的に拡大していくことができるのです。
経理部長という役職は、まさに「企業の健全な成長を数字で支える」ポジションです。財務的な視点から企業の未来を形作る一端を担えることは、職業を超えた使命感につながります。そして、自分の専門知識と判断力が企業の発展と社会への貢献に直結していると実感できるのが、この職種ならではの大きな魅力なのです。
大手上場企業の経理部長は、決算業務を中心に年間を通して多様な業務に取り組みます。以下は3月決算企業を前提とした年間スケジュール例です。各企業の業種・規模・グローバル展開状況によって細部は異なりますが、主要なタスクとタイムラインを示します。
決算関連
経営管理関連
コンプライアンス関連
その他
決算関連
税務関連
株主総会準備
株主総会関連
開示書類関連
内部統制関連
第1四半期準備
第1四半期決算
管理会計関連
経理業務改善
開示関連
税務関連
予算管理関連
上半期締め準備
内部統制関連
監査関連
第2四半期・中間決算
経営管理関連
税務関連
開示関連
税務関連
予算関連
第3四半期準備
次年度予算関連
税務戦略
第3四半期決算
予算確定
年度末準備
開示関連
税務関連
年度末準備
年度末決算準備
次年度準備
監査対応準備
月次業務
会議体
監査対応
人材育成
上記は一般的な3月決算企業の経理部長の年間スケジュールですが、以下の要因により個別企業ごとに違いがあります
業種による違い
企業特性による違い
決算期による違い
経理部長の業務は、決算数値の取りまとめにとどまらず、経営管理、ガバナンス強化、システム刷新、人材育成など多岐にわたります。その年間スケジュールは、四半期・年次の決算サイクルをベースに、株主総会、税務申告、予算編成といった重要イベントが組み込まれた循環構造となっています。また、近年はDX推進やESG情報開示など、新たな取り組みも経理部長の業務に加わりつつあります。
財務報告は企業の「顔」であり、投資家・金融機関・規制当局など多様なステークホルダーの意思決定に直接影響を与えます。上場企業にとって、財務情報の正確性・適時性・透明性は市場からの信頼の基盤となります。不適切な財務報告は、株価下落・格付け低下・訴訟リスクなど重大な影響をもたらす可能性があります。
直面する課題と対応
成功のための取り組み例
内部統制は法的要請ではなく、企業の持続的成長と価値創造を支える基盤です。特に財務報告に係る内部統制(J-SOX対応)は、経理部長の中核的責務となっています。適切な内部統制は不正防止だけでなく、業務効率化、リスク低減、そして企業価値向上に直結します。
直面する課題と対応
成功のための取り組み例
現代の経理部長の役割は、「数字の管理者」から「ビジネスパートナー」へと進化しています。経営層の戦略的意思決定を財務的観点から支援し、企業価値創造に直接貢献することが強く求められています。この役割は、企業の持続的成長と競争力強化に直結する極めて重要な任務です。
直面する課題と対応
成功のための取り組み例
これら3つの重要任務は、互いに密接に関連し合っています。
基盤となる財務報告
適切な財務報告体制は、正確な経営情報提供の前提条件であり、内部統制の重要な評価対象でもあります。信頼性の高い財務情報なくして、的確な経営判断や効果的なガバナンスは成立しません。
守りと攻めの両輪
内部統制(守り)と経営意思決定支援(攻め)は、持続的な企業価値創造の両輪です。適切な内部統制がリスクを抑制する一方、積極的な経営支援が成長機会の獲得を促進します。
経営者視点の重要性
これら3つの任務を効果的に遂行するためには、経理技術だけでなく経営者視点での全体最適思考が不可欠です。部分最適ではなく、企業全体の持続的成長と価値創造に貢献することが、経理部長の究極的な使命です。
大手上場企業の経理部長は、正確な財務報告の実現、堅固な内部統制体制の構築・運用、そして経営意思決定への貢献という3つの重要任務を担っています。これらの任務は互いに関連し合い、企業の健全な成長と価値創造を支える基盤となります。
経理部長には、専門的な会計知識と技術に加え、ビジネス感覚、リスク管理能力、戦略的思考力、そしてリーダーシップが求められます。特に近年は、デジタル技術の活用、グローバル対応、そしてサステナビリティ経営という新たな文脈の中で、その役割はさらに複雑化・高度化しています。
これら3つの重要任務を高いレベルで遂行することは、企業の持続的成長と社会的価値創造に大きく貢献するとともに、経理部門自体の企業内での存在価値と影響力を高めることにもつながります。
大手上場企業の経理部長の年間報酬は、以下の要素から構成されるのが一般的です。
大手上場企業(特に東証プライム市場上場の大企業)の経理部長クラスの年間報酬総額の一般的な水準は、以下の範囲に分布していることが多いです。
年間報酬総額(基本給+賞与+諸手当)
一般的な経理部長の報酬は以下の要素で構成されています
報酬水準は企業規模や業種によって大きく異なります
企業規模による違い
業種による違い
基本給と変動報酬の比率
長期インセンティブの動向
従業員向けの長期インセンティブ(LTI)を導入・検討している企業は増えており、経理部長クラスも対象に含まれるケースが増加傾向にあります。特に管理職層を対象としている企業が多いです。
経理部長の報酬は、以下の要素によって個人差が生じます
個人要素
組織要素
市場要素
大手上場企業の経理部長の報酬水準は、企業規模・業種・個人の専門性・責任範囲等によって大きく異なりますが、年間総額で1,500万円〜2,000万円程度が一般的な中央値の範囲と言えます。
近年は「ジョブ型雇用」への移行や人材獲得競争の激化を背景に、経理・財務の専門性の高い人材、特にグローバル対応力やデジタルスキルを持つ人材の報酬は上昇傾向にあります。また、長期インセンティブ制度の導入も広がりつつあり、報酬パッケージ全体の設計も変化しています。
なお、これらの数値は一般的な市場動向に基づく目安であり、個別企業や個人によって大きく異なる可能性がある点にご留意ください。
大手上場企業の経理部長には、専門的な会計知識や経験に加えて、特有のマインドセットが求められます。組織の財務的健全性を守りながら、企業価値の向上に貢献するために必要な心構えと姿勢について解説します。
経理部長は企業の財務的誠実性の最終防衛線であり、その判断と行動が企業全体の信頼性に直結します。
「この処理は適切か」と自問する際に、「法律上問題ないか」だけでなく「投資家や社会に対して誠実か」という視点を常に持ち続けることが重要です。何か疑問を感じた際は、早期に監査役等や監査法人に相談する積極性も必要です。
経理部長は「数字の管理者」ではなく、経営戦略の重要なパートナーであるという認識が必要です。
経営会議などで発言する際、「数字が合っているか」という観点だけでなく、「この意思決定は企業価値向上に貢献するか」という視点からの問いかけや提案を心がけることが重要です。また、定期的に現場を訪問し、数字の背景にある事業実態への理解を深めることも効果的です。
適切なリスク管理は、リスクを回避することだけではなく、リスクとリターンのバランスを考慮した意思決定を促進することです。
会計上の見積りや判断を行う際、単一のシナリオではなく、複数のシナリオを検討する習慣をつけることが重要です。また、「最悪のケース」を想定した感度分析を行い、リスクの大きさと対応策を事前に検討しておくことも有効です。
経理機能は守りだけでなく、業務効率化やデジタル化を通じて組織変革を牽引する役割も担います。
定期的に「なぜこの業務プロセスが必要か」を問い直し、不要な作業や非効率なプロセスを廃止・改善する機会を設けることが重要です。また、他社のベストプラクティスやテクノロジートレンドに常にアンテナを張り、自社への適用可能性を検討する習慣も効果的です。
複雑な会計・財務情報を、様々なステークホルダーに適切に伝える能力は、経理部長の重要な資質です。
経営陣や事業部門向けの報告資料は、専門用語を避け、図表を活用するなど、相手の視点に立った情報提供を心がけることが重要です。また、定期的に事業部門との対話の場を設け、経理部門への要望や課題を聞く機会を作ることも効果的です。
経理部門の組織力は、部長自身のリーダーシップと人材育成への投資によって大きく左右されます。
日常業務の中で「なぜそうするのか」という背景や考え方を部下に説明する時間を意識的に作ることが重要です。また、部下一人ひとりの強みと弱みを把握し、個別の育成計画を立てることも効果的です。経理部門内でのジョブローテーションや、事業部門との人材交流も積極的に検討すべきでしょう。
経理部長は「守り」と「攻め」、「短期」と「長期」、「内部」と「外部」など、様々な視点のバランスを取ることが求められます。
意思決定の際に「この判断は短期的利益と長期的価値のどちらを優先しているか」を常に自問することが重要です。また、重要な判断をする際は、財務的観点だけでなく、顧客価値や社会的価値などの多様な視点からの検討も行うべきです。
経理部長の判断や行動は、株主・投資家だけでなく、従業員、取引先、地域社会など多様なステークホルダーに影響を与えます。
四半期決算や年次報告書の作成時に「この情報は投資家にとって本当に有用か」を問いかけることが重要です。また、開示情報の質や透明性について、定期的に投資家や証券アナリストからフィードバックを得る機会を作ることも有効です。
大手上場企業の経理部長に求められるマインドは、単一の要素ではなく、上記の要素が有機的に結合した統合的なマインドセットです。特に重要なのは、以下の統合的な視点です。
コンプライアンスと企業価値創造という一見相反する目標を同時に追求する姿勢
会計・財務の専門家でありながら、経営全体を俯瞰する視点を持つこと
日々の業務を確実に遂行しながら、将来のあるべき姿を描き変革を推進する姿勢
このような統合的マインドセットを持ち、常に自己研鑽を続けることが、現代の経理部長には求められています。「数字の番人」から「価値創造のパートナー」へと、その役割は大きく進化しているのです。
大手上場企業の経理部長には、複雑な企業環境の中で組織を牽引し、財務的健全性と企業価値向上の両方に貢献するための多様なスキルが求められます。これらのスキルを専門的スキル、マネジメントスキル、ビジネススキルの3つのカテゴリーに分けて詳述します。
<会計・財務の専門知識>
会計基準の理解と適用能力
財務報告・開示スキル
税務戦略の理解
<内部統制・リスク管理スキル>
内部統制の設計・評価能力
リスク管理能力
<システム・テクノロジー活用スキル>
財務システムの理解と活用能力
デジタル技術の活用能力
<チームマネジメント能力>
組織・人材開発スキル
パフォーマンス管理スキル
チェンジマネジメント能力
<プロジェクトマネジメント能力>
複雑プロジェクトの管理能力
資源管理能力
<危機管理・問題解決能力>
危機対応能力
問題解決スキル
<戦略的思考力・経営参画能力>
ビジネス理解力
経営戦略への貢献能力
投資・資本政策立案能力
<コミュニケーション・影響力>
対内コミュニケーション能力
対外コミュニケーション能力
説得・交渉能力
<グローバル対応力>
国際感覚・多文化理解
語学力・グローバルコミュニケーション
グローバル財務管理
以上のスキルを横断的に活用し、統合的な成果を生み出すための能力も重要です。
<バランス感覚と判断力>
<イノベーション創出能力>
<持続可能性への貢献>
大手上場企業の経理部長に求められるスキルは、会計・財務の専門知識という従来の枠を大きく超え、経営参画、組織変革、デジタル活用、グローバル対応など多岐にわたります。これらのスキルのすべてを高いレベルで保有することは容易ではありませんが、自己の強みと弱みを認識し、継続的な学習と経験を通じてスキルを拡充していくことが重要です。
また、すべてを自分一人で対応するのではなく、部下の育成や外部専門家の活用など、チーム全体としての能力を高める視点も不可欠です。経理部長という役職は、専門性と経営感覚の両方を兼ね備えた「ハイブリッド型リーダー」としての役割を担っており、その期待に応えるためには、多面的なスキル開発への継続的な取り組みが必要です。
経理部長というポジションに至るまでには、様々なキャリアパスが考えられます。ここでは、この職位に到達するための代表的なキャリアの道筋を、現在の経理部長から遡る形で紹介します。
まず、経理部長の直前のポジションとしては、経理部次長や経理課長といった経理部門内での管理職経験が一般的です。ここでは専門知識だけでなく、部門運営のノウハウやリーダーシップを発揮しながら成果を上げることが求められます。多くの企業では、決算業務の責任者、連結決算の責任者、税務担当のリーダーなど、経理内の重要分野でのマネジメント経験が評価されます。
また、グループ企業や海外子会社の財務責任者(CFO)としての経験も、経理部長への重要なステップとなることがあります。特にグローバル企業では、海外経験は不可欠と考える企業も少なくありません。あるグローバル企業の経理部長は「アジア地域の子会社CFOとして3年間駐在した経験が、グローバルな財務戦略を理解する上で非常に役立った」と振り返っています。
経理部長への別のルートとして、経営企画部門や財務部門の管理職からの転身も珍しくありません。経営企画部門では全社的な経営戦略の立案や予算管理に携わり、財務部門では資金調達や投資判断に関わることで、企業経営の全体像を把握する視野が養われます。このような異動を経験することで、より経営に近い視点から経理部門を運営できる人材となります。
さらに遡ると、キャリアの中期段階では、経理部内の専門分野でのエキスパートとしての実績を積むことが重要です。例えば、決算業務や連結会計、税務、内部統制、予算管理など、特定の領域で高い専門性を身につけ、業務改善や課題解決に貢献した経験は大きな評価ポイントとなります。
若手・キャリア初期の段階では、基礎的な経理実務の習得が出発点となります。大企業の場合、新入社員研修の後、経理部の各セクション(例:売掛金管理、買掛金管理、固定資産管理など)をローテーションで経験しながら、会計の基本を学ぶことが一般的です。この時期に身につける正確な数字への感覚と基本的な会計知識は、その後のキャリア全体の土台となります。
一方、外部から経理部長に就任するケースもあります。公認会計士として監査法人で経験を積んだ後、クライアント企業に転職して経理部門の要職に就くパターンは比較的一般的です。監査法人での経験は、会計基準への深い理解や複数企業での監査経験による広い視野などのメリットがあります。「監査する側から監査される側へ」という視点の転換は、効果的な決算プロセスの構築などにおいて大きな強みとなります。
また、コンサルティングファームで財務・会計領域のコンサルタントとして活躍した後、クライアント企業の経理部幹部として招聘されるケースもあります。特に会計システムの刷新や経理部門の組織改革などの経験を持つコンサルタントは、変革期にある企業から求められることが多いようです。
さらに近年では、スタートアップ企業でCFOや財務責任者として活躍した後、経験を買われて大手上場企業の経理部長に転じるケースも増えています。スタートアップ企業での幅広い財務経験は、大手上場企業の経理部門に新しい風を吹き込む存在として評価されることがあります。
これらの多様なキャリアパスに共通するのは、年数を重ねるだけでなく、それぞれのステージで責任ある仕事に挑戦し、目に見える成果を上げてきたという点です。決算期間の短縮、会計システムの刷新、国際会計基準への移行プロジェクトのリード、組織改革による業務効率化など、具体的な実績が評価され、経理部長への道が開かれていくのです。
若手の皆さんにとって重要なのは、日々の業務で確実に成果を出しながらも、常に次のステップを見据えたスキルアップを怠らないことでしょう。部署異動や新しいプロジェクトへの参画など、自分の専門性と視野を広げる機会があれば積極的に挑戦し、将来の経理部長としての素養を培っていくことが大切です。
経理部長というポジションで働くことで、ビジネスパーソンとしての価値を飛躍的に高める多様なスキルと能力が身についていきます。これらのスキルは経理部門に留まらず、将来のキャリアパスを広げる強力な武器となるでしょう。
まず特筆すべきは、高度な財務・会計知識です。上場企業の経理部長は、一般に公正妥当と認められた企業会計の基準(GAAP)、国際財務報告基準(IFRS)、さらには連結会計や税務、内部統制など、複雑な会計フレームワークを実務レベルで理解し運用できる専門性を有しています。これらの知識は企業活動全体を理解する力となり、どのような業界・職種に進んでも役立つ普遍的な価値を持ちます。
また、経理部長は高度な分析能力も身につけます。財務データの背後にある事業の実態を読み解く力、問題の本質を数字から見抜く洞察力、未来の業績を予測するための予測モデリング力など、ビジネスアナリストとしての素養が自然と磨かれていくのです。ある大手企業の経理部長は「月次の数字を見ただけで、どの事業部でどんな問題が起きているかがわかるようになった」と語っています。
さらに、経理部長の立場では高いコミュニケーション能力とリーダーシップも養われます。専門的な財務情報を非財務部門の人々にもわかりやすく伝える説明力、監査法人や税務署とのコミュニケーションにおける交渉力、そして経理部門全体を統率するマネジメント力は、どのような経営幹部になるうえでも必須のスキルです。
もう一つ見逃せないのが、企業経営の全体像を把握する視野の広さです。経理部長は、販売、製造、研究開発、マーケティングなど、あらゆる部門の財務情報に触れる機会があります。これにより、企業全体の事業構造や価値創造プロセスを財務的な側面から理解できるようになり、経営戦略を立案・評価する能力が培われます。
キャリア展望としては、下記が考えられます。
経理部長がCFO(最高財務責任者)へと昇進するキャリアがあります。実際に東証プライム市場に上場している企業のCFOの多くは、経理部門での実績を持っています。また、財務・経営企画部門の執行役員、さらには社長や会長といったトップマネジメントに就く道も開かれています。
経理部門で培った財務知識を活かし、M&Aスペシャリストやコンサルタントとして独立する道もあります。さらに、上場企業での経験を評価され、スタートアップ企業のCFOとして招聘されるケースも少なくありません。ある経理部長は大手企業で経理実務で経験を積み、スタートアップ企業の経理実務で経験を積み、スタートアップ企業のCFOに昇格し、その会社の上場を成功に導いた例もあります。
近年のコーポレートガバナンス強化の流れから、財務に精通した人材への需要は高まる一方です。
このように、経理部長は「キャリアの通過点」ではなく、多様な将来のキャリアパスへの強固な基盤を築くポジションなのです。そこで身につけるスキルと視野の広さは、企業経営の中枢で活躍するための貴重な資産となります。