経理・財務・会計ファイナンス人材のためのキャリア名鑑

会計人材のキャリア名鑑

大手上場企業の経営企画担当取締役

「経営の羅針盤を握る、最高戦略官」

企業の持続的成長と中長期的な企業価値向上の「戦略的設計者」かつ「変革の推進者」

トップマネジメントとして組織の未来を創造する

主な業務内容

  • 全社戦略の策定および実行統括
  • 取締役会の意思決定サポートと経営判断の提供
  • 中長期経営計画の立案とモニタリング

想定年収

2,000万円~1億円以上
※業績や評価によって変動

想定年齢

50歳~60歳

大手上場企業の経営企画担当取締役は こんな仕事

大手上場企業の経営企画担当取締役とは、企業の羅針盤を握る戦略家であり、組織全体の進むべき道を示す最高レベルの戦略立案者です。この職種は、企業のビジョンを実現可能な計画へと変換し、会社の成長と価値創造を主導する重要な役割を担っています。市場を読み解く洞察力と数字を使いこなす分析力、そして組織全体を動かすリーダーシップが求められるポジションです。報酬面でも経営陣の一角を占めるにふさわしい待遇が用意されており、キャリアの集大成として目指すことのできる、企業経営の中核を担う魅力的な職種です。

経営企画担当取締役の仕事は、企業の「頭脳」として機能し、企業にとって最も重要な「次の一手」を決めるチェスプレイヤーのような役割なのです。

具体的には、全社的な経営戦略の策定と実行の監督が主要な任務となります。市場環境や競合他社の分析、自社の強みと弱みの評価を通じて、3年、5年、時には10年先を見据えた中長期経営計画を立案します。この過程では、各事業部門や子会社からの情報を統合し、全体最適の視点で会社の進むべき方向性を示すことが求められます。

例えば、ある大手製造業の経営企画担当取締役は、「5年後までに炭素排出量実質ゼロ」という目標を達成するための全社戦略を立案し、各事業部門の投資計画や事業ポートフォリオの見直しを主導します。また、業界再編の波を見据えたM&A戦略を立案し、経営陣に対して複数の有望な買収候補先を提示することもあります。

日常業務としては、社長や会長、CEOと緊密に連携し、取締役会に提出する重要な経営課題に関する報告書やプレゼンテーションの準備を行います。「この投資は行うべきか」「この事業は売却すべきか」「海外展開のタイミングはいつか」—こうした経営上の重大な意思決定に必要な情報と分析を提供するのです。

また、定期的に開催される取締役会やIR(投資家向け広報)活動の準備と実施にも深く関与します。投資家に対して会社の戦略や展望を説明し、株主価値を高めるための活動も重要な役割です。大型の資金調達や設備投資の意思決定においても中心的な役割を果たし、時には数百億円規模のプロジェクトの是非を判断する責任を担うこともあります。

さらに、経営企画担当取締役は組織横断的なプロジェクトを主導する立場でもあります。DX(デジタルトランスフォーメーション)推進やサステナビリティ戦略の統括など、従来の部門の枠を超えた全社的な変革を牽引することが期待されています。

このように、経営企画担当取締役は計画立案者としての役割に加え、企業の未来を形作る戦略家であり、時には変革の旗手として全社を導く存在なのです。その決断と行動が、数万人の従業員の働き方や、数兆円の企業価値に直結する—そんなダイナミックかつ責任重大な職種だと言えるでしょう。

大手上場企業の経営企画担当取締役という ポジションの魅力

経営企画担当取締役という職種を目指す最大の理由は、企業の未来を創造する醍醐味を味わえることでしょう。描いた戦略と青写真が、数万人の従業員と数千億円以上の企業活動を動かし、社会に大きなインパクトを与える—こうした経験は、将来CEOを目指す上でも、あるいは社外取締役や経営コンサルタントとして活躍する上でも他のキャリアでは得難いものです。

経営企画担当取締役は、企業の戦略に対する舵取りを担う「頭脳」であると同時に「実行者」でもあります。CEOや社長が描く大きなビジョンを、緻密な戦略と実行計画に落とし込み、全社を巻き込んで実現に導くのです。

例えば、ある自動車メーカーの経営企画担当取締役は、「5年後までに全車種の電動化を実現する」という壮大なビジョンを、各事業部門や工場、研究所が実行可能な具体的な計画へと変換し、会社全体の変革を推進しました。

また、経営企画担当取締役は企業の「知の結節点」としての役割も担っています。営業、製造、研究開発、財務、人事など、あらゆる部門から情報が集まり、異なる視点や知見が交差する場に身を置くことで、企業のビジネスの全体像を俯瞰する能力が養われます。この職種で得られる経験は、将来CEOを目指す上でも、あるいは社外取締役や経営コンサルタントとして活躍する上でも、かけがえのない財産となるでしょう。

さらに、経営企画担当取締役は、企業が直面する最も重要な経営課題に取り組む機会に恵まれます。デジタル革命への対応、サステナビリティへの取り組み、グローバル競争の激化—こうした時代の大きな変化に対して、企業はどう舵を切るべきか。その答えを探し、実行する役割を担えることは、知的好奇心の強い人にとって大きな魅力です。

報酬面においても、経営企画担当取締役は企業のトップマネジメントの一角を占める立場として、高い水準の報酬が期待できます。基本報酬に加えて業績連動報酬やストックオプションなどのインセンティブ制度も適用され、企業価値向上に直接貢献することで自らの経済的価値も高めることができます。

何より、経営企画担当取締役は「企業の未来を描く」という創造的な仕事に従事できることが最大の魅力です。市場の変化を読み解き、競合の動向を分析し、自社の強みを活かした独自のストーリーを紡ぎだす—その知的挑戦は、ビジネスの醍醐味を極限まで味わえるものと言えるでしょう。

他のキャリアと異なり、経営企画担当取締役は企業の中枢で意思決定に関わる特権的な立場にあります。その決断と実行力が企業の未来を左右する—そんなやりがいと責任を求める方にとって、この上ない選択肢となるはずです。

大手上場企業の経営企画担当取締役の 年間スケジュール例

大手上場企業の経営企画担当取締役は、企業の戦略立案から実行監視、投資家対応まで多岐にわたる役割を担っています。以下では、3月決算企業の年間スケジュール例を月別に整理します。

4月(年度始め)

新年度スタート準備

  • 新年度経営方針説明会の実施
    • 全社員向け経営方針説明会での登壇
    • 部門長向け詳細説明会の開催
  • 年度経営計画の展開・浸透
    • 各部門の実行計画レビューと承認
    • KPI(Key Performance Indicator)設定の最終確認と全社展開

前年度振り返り

  • 前年度実績の確定と分析
    • 計画比・前年比での詳細分析
    • 未達要因・成功要因の特定
  • 期末監査対応のフォロー
    • 会計監査人との協議

ガバナンス関連

  • 株主総会準備の開始
    • 招集通知原案の検討
    • 想定質問事項の整理
  • 取締役会評価の実施・検討
    • 前年度の取締役会実効性評価の取りまとめ
    • 課題抽出と改善計画の立案

5月

決算関連業務

  • 決算発表の準備と実施
    • 決算短信の最終確認
    • 決算説明会の資料作成と説明内容の調整
  • 決算取締役会の運営
    • 期末配当案の最終決定
    • 有価証券報告書のレビュー・承認

株主総会準備

  • 招集通知の確定・発送
    • 招集通知の最終確認
    • 株主総会シナリオの作成開始
  • 機関投資家・議決権行使助言会社対応
    • 主要投資家への事前説明
    • 議決権行使助言会社からの質問対応

中期経営計画関連

  • 中期経営計画の進捗確認
    • 初年度(または前年度末)の進捗状況確認
    • 必要に応じた軌道修正の検討
  • 重点戦略テーマの深堀検討
    • 特に重要な戦略テーマの進捗レビュー
    • 実行上の課題抽出と対応策の検討

6月

株主総会対応

  • 株主総会リハーサルと本番
    • 想定Q&A対策と役員間での回答調整
    • 総会本番での質疑対応
  • 総会後取締役会の運営
    • 役員体制の正式決定(再任の場合)
    • 執行体制の決定

統合報告書・サステナビリティ報告

  • 統合報告書の企画・制作開始
    • 当年度版の基本コンセプト決定
    • 価値創造ストーリーの構築
  • ESG/サステナビリティ方針の見直し
    • マテリアリティ再評価の要否検討
    • サステナビリティ推進体制の確認

第1四半期モニタリング

  • 第1四半期業績見通し確認
    • 各事業からの報告取りまとめ
    • 計画乖離への早期対応策検討
  • 重点施策の進捗確認
    • 年度重点施策の立ち上がり状況レビュー
    • 遅延案件への対応指示

7月

第1四半期決算

  • 第1四半期決算発表準備
    • 決算短信の確認
    • 必要に応じたIR説明会の準備
  • 第1四半期レビュー
    • 計画対比での評価
    • 年度見通しへの影響分析

事業戦略レビュー

  • 主要事業の戦略深堀レビュ
    • 特定事業の詳細戦略レビュー(毎月1-2事業)
    • 競合分析・市場動向のアップデート
  • 海外事業モニタリング
    • 主要地域の業績・リスク確認
    • グローバル経済動向の分析

組織・人材関連

  • 組織風土調査の実施・分析
    • 全社意識調査の企画
    • 前回からの変化分析
  • 経営幹部育成計画のレビュー
    • 次世代リーダー育成状況の確認

8月

全社横断施策の推進

  • 全社DX推進状況の確認
    • デジタル変革施策の進捗確認
    • 投資対効果の検証
  • 業務効率化・コスト構造改革レビュー
    • 全社最適化施策の進捗確認
    • 次なる効率化テーマの発掘

次年度計画に向けた準備

  • 事業環境分析の更新
    • マクロ経済・業界動向の分析
    • 中長期トレンド予測の更新
  • 次年度重点テーマの初期検討
    • 経営課題の整理
    • 優先順位付けの初期検討

夏季集中討議

  • 役員合宿の実施
    • 中期戦略の再確認と深掘り
    • 将来の成長領域に関する議論
  • 外部有識者との対話
    • 最新の技術動向・社会動向のインプット
    • 専門家を招いた学習会の実施

9月

半期振り返り・修正

  • 上半期業績見通しの確定
    • 第2四半期予想の精緻化
    • 上半期総括の準備
  • 年度計画の修正検討
    • 必要に応じた年度計画の見直し
    • 業績予想修正の要否判断

中長期投資検討

  • 大型投資案件の検討
    • 戦略的投資案件の精査
    • M&A候補の検討
  • 設備投資計画の中間レビュー
    • 計画進捗と効果検証
    • 優先順位の再検討

リスク管理

  • 全社リスク棚卸しの実施
    • リスクマップの更新
    • 新規リスク要因の特定
  • BCP(事業継続計画)の見直し
    • 災害・感染症等への対応計画更新
    • 訓練計画の確認

10月

第2四半期決算

  • 中間決算発表の準備・実施
    • 決算短信の確認
    • 投資家・アナリスト向け説明会の実施
  • 上半期の総括と下半期計画の調整
    • 上半期の成果・課題の整理
    • 下半期に向けた施策の強化・修正

次年度計画策定準備

  • 次年度計画策定方針の決定
    • 策定プロセス・スケジュールの確定
    • 基本方針・重点テーマの検討
  • 経済見通し・市場予測の策定
    • 外部環境分析の取りまとめ
    • 為替・原材料等の前提条件検討

取締役会関連

  • ガバナンス体制の見直し検討
    • コーポレートガバナンス・コードへの対応状況確認
    • 必要に応じた委員会体制の見直し
  • 役員報酬制度の検証
    • 報酬委員会での制度レビュー
    • 必要に応じた制度改定案の検討

11月

次年度予算編成

  • 次年度予算編成方針の展開
    • 予算策定ガイドラインの展開
    • 各部門との方針共有会議
  • 重点投資領域の設定
    • 戦略的リソース配分の方向性決定
    • 全社重点プロジェクトの選定

第3四半期モニタリング

  • 第3四半期業績見通し確認
    • 各事業の進捗状況確認
    • 年度業績見通しの更新
  • 年度重点施策の進捗確認
    • 遅延案件の挽回策検討
    • 成功事例の横展開検討

株主・投資家関連

  • 機関投資家との個別ミーティング
    • 主要株主との対話強化
    • 投資家の懸念事項への対応検討
  • 株主構成分析と対応策検討
    • 株主構成の変化分析
    • 望ましい株主構成に向けた施策検討

12月

第3四半期決算準備

  • 第3四半期決算見通し確認
    • 業績予想との乖離確認
    • 開示内容の検討
  • 年度末業績見通しの精緻化
    • 通期業績予想の修正要否判断
    • 重要経営指標の着地見込み確認

次年度経営計画の具体化

  • 次年度の重点施策の具体化
    • 全社横断テーマの詳細検討
    • 資源配分の優先順位確定
  • 予算案の第一次レビュー
    • 各部門予算案の精査
    • 全体最適の観点からの調整

年末総括

  • 年末役員会議の開催
    • 当年の総括と次年の展望共有
    • 年末メッセージの調整
  • 経営課題の棚卸し
    • 解決済み・未解決の課題整理
    • 次年度への持ち越し事項の明確化

1月(年始)

年度末対応準備

  • 年度末業績見通し最終確認
    • 各事業の確定見込みの集約
    • 最終四半期の挽回策検討
  • 期末監査準備
    • 会計監査人との事前協議
    • 開示上の重要事項の確認

次年度計画の最終調整

  • 次年度予算の最終調整
    • 部門間調整と全社最適化
    • 取締役会への付議準備
  • 年度経営方針の確定
    • 社長メッセージの骨子検討
    • 全社への展開準備

中期経営計画の見直し

  • 中計のローリング検討
    • 中期経営計画の進捗総括
    • 次年度以降の見直し要否判断
  • 成長戦略の再検証
    • 事業ポートフォリオの検証
    • 新規事業・撤退基準の見直し

2月

第3四半期決算対応

  • 第3四半期決算発表
    • 決算短信の確認・開示
    • 必要に応じた説明会の実施
  • 年度末見通しの最終確認
    • 通期予想の最終修正要否判断
    • 配当方針の最終検討

次年度計画の確定

  • 次年度経営計画の取締役会承認
    • 経営計画の最終提案
    • 予算の正式承認
  • 事業計画の確定
    • 各事業部門の計画承認
    • KPI体系の最終確認

株主総会準備開始

  • 招集通知の準備開始
    • 事業報告・計算書類の原案検討
    • 株主総会議案の検討
  • コーポレートガバナンス報告書の更新準備
    • 変更点の洗い出し
    • 開示内容の検討

3月(年度末)

年度締め関連

  • 年度末最終予測の確定
    • 着地見込みの最終確認
    • 重要指標の達成状況確認
  • 期末監査対応
    • 会計監査人との連携
    • 監査役・監査委員会等との調整

組織人事関連

  • 組織改編の最終決定
    • 次年度組織体制の確定
    • 人事異動の最終調整
  • 役員人事案の最終調整
    • 次年度役員体制の確定
    • 株主総会議案としての役員選任提案内容確定

次年度準備の総仕上げ

  • 年度経営方針説明会の準備
    • プレゼンテーション資料の作成
    • 主要メッセージの調整
  • 新年度スタート準備
    • 年度初の主要会議体日程確保
    • 重点プロジェクトの立ち上げ準備

通年で行われる活動

定例会議体の運営

  • 取締役会(月次)
    • 議案整理と資料準備
    • 戦略的議論のアジェンダ設定
  • 経営会議(週次/隔週)
    • 業務執行上の重要事項の審議
    • 取締役会議案の事前審議
  • 各種委員会の運営
    • サステナビリティ委員会
    • リスク管理委員会
    • 投資委員会

投資家・アナリスト対応

  • 機関投資家との対話(通年)
    • 四半期ごとの決算説明会
    • 個別ミーティング
    • 海外IR
  • アナリストカバレッジ拡大活動
    • 新規カバーアナリストへの説明会
    • セルサイドアナリストとの関係構築

戦略的プロジェクト推進

  • 全社変革プログラムの推進
    • 運営委員会(ステアリングコミッティ)の実施
    • プロジェクト進捗モニタリング
  • 重要M&A・提携案件の推進
    • 候補先の発掘・評価
    • DD(デューデリジェンス)の主導
    • PMI(買収後統合)計画の策定・実行

対外関係・社外活動

  • 業界団体・経済団体活動
    • 業界団体の役員会・委員会への参加
    • 経済団体での政策提言活動
  • 官公庁・規制当局との対話
    • 政策動向のモニタリング
    • 業界としての意見表明
  • 社外講演・パネル登壇
    • 大学・ビジネススクールでの講義
    • 業界カンファレンスでのスピーチ

危機管理・緊急対応

  • クライシスマネジメント
    • 有事の際の緊急対策本部運営
    • メディア対応戦略の策定
  • 緊急事態対応訓練
    • シナリオベースの危機対応訓練
    • BCP(Business Continuity Plan)訓練の企画・実施

経営企画担当取締役は、企業の「戦略的羅針盤」として、絶えず変化する環境の中で企業の持続的成長と価値向上に貢献する重要な役割を担っています。その年間スケジュールは計画的でありながらも、常に変化に対応できる柔軟性を備えたものであることが求められます。

大手上場企業の経営企画担当取締役の 重要任務

大手上場企業の経営企画担当取締役が担う数多くの責務の中でも、特に重要度が高く、企業の持続的成長と価値向上に直結する、3つの任務を以下にピックアップします。

 

1.中長期経営戦略の策定と実行モニタリング

経営企画担当取締役の最も本質的かつ重要な任務は、企業の「行き先」と「道筋」を示す中長期経営戦略の策定をリードし、その実行を確実にモニタリングすることです。

  • 事業環境分析と戦略オプションの整理
    • マクロ環境変化(技術革新、規制変化、社会動向等)の分析
    • 業界構造・競合動向の詳細調査
    • 自社の強み・弱み・機会・脅威(SWOT)の客観的評価
  • 中期経営計画の策定プロセス主導
    • 経営理念・ビジョンを踏まえた戦略方向性の設定
    • 財務目標・非財務目標のバランスのとれた設定
    • 事業ポートフォリオ戦略の構築(成長領域、維持領域、縮小領域の明確化)
    • 重点施策・投資計画の優先順位付け
  • 戦略実行の継続的モニタリングと軌道修正
    • KPI体系の構築と定期的な進捗レビュー
    • 計画と実績の乖離分析と要因特定
    • 環境変化に応じた戦略の柔軟な修正
    • 取締役会への定期的な報告と戦略的議論の促進

重要性の根拠

  • 企業がどの市場で、どのように競争し、どのような価値を提供するかという根本的な問いに対する回答を示すもの
  • 限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ)の最適配分を決定する基準となる
  • 組織の向かうべき方向性を示し、部門間の連携や目的意識の統一に寄与する
  • 短期的な業績変動に左右されない、持続的な企業価値向上の基盤を形成する

2.投資家・資本市場との戦略的対話

上場企業として、企業価値を正しく理解・評価してもらうための投資家・アナリストとの戦略的対話を主導し、企業と資本市場の間の「翻訳者」としての役割を果たすことが求められます。

  • IRストーリーの構築と発信
    • 企業の価値創造ストーリーの明確化
    • 投資家が求める情報と自社の強みを結びつける戦略的メッセージング
    • 四半期決算説明会、中期経営計画説明会などでの主導的役割
  • 投資家との双方向対話
    • 機関投資家との個別ミーティングの実施
    • 株主構成分析と目標とする株主構成の設計
    • 投資家からのフィードバック・懸念事項の経営への取り込み
    • 株主総会の準備と運営における中心的役割
  • 資本政策・株主還元策の設計
    • 最適資本構成の検討と資金調達戦略の立案
    • 配当政策・自社株買いなど株主還元策の設計
    • 資本効率向上施策(ROE/ROIC改善)の立案

重要性の根拠

  • 企業戦略や成長性に対する正確な理解を促し、適正な株価形成に寄与する
  • 長期的視点を持つ株主の獲得・維持により、中長期的な経営戦略の実行基盤を固める
  • 投資家からの信頼獲得による資本コストの低減と、それに伴う企業価値向上
  • 投資家視点からの客観的意見を経営に取り込むことによる経営の質向上

3.全社変革プログラムの推進

激変する事業環境に適応し続けるため、企業の競争力と持続可能性を高める全社的な変革プログラムを構想・推進することが、経営企画担当取締役の重要な任務です。

  • 変革領域の特定と変革ビジョンの構築
    • DX(デジタルトランスフォーメーション)戦略の策定
    • 事業構造改革・コスト構造改革の設計
    • 組織・人材変革プログラムの構想
    • サステナビリティ経営への転換計画の立案
  • 変革プログラムの実行体制構築
    • 全社横断プロジェクト体制の設計・構築
    • 経営資源(予算・人材)の確保と配分
    • 変革推進のためのガバナンス体制の整備
    • KPI設定と進捗管理の仕組み構築
  • 変革の推進と定着化
    • 経営トップの継続的コミットメント確保
    • 組織の抵抗感の特定と対処
    • 短期的成果(クイックウィン)の創出と全社共有
    • 変革の成果測定と経営層への報告

重要性の根拠

  • 技術革新やビジネスモデル変革などの外部環境変化への適応能力を高める
  • 一時的な改善ではなく、企業の競争力の源泉に関わる根本的な変革を実現する
  • 持続的成長のための組織能力と企業文化の形成に寄与する
  • 業界の常識や前提が変わる中で、自己変革を通じて生き残る力を育む

これら3つの任務の相互関係

これら3つの重要任務は相互に密接に関連しています。

  • 戦略→変革→評価のサイクル: 中長期戦略で方向性を定め、変革プログラムで実行し、その成果を投資家との対話を通じて評価・検証する
  • 外部視点と内部実行のバランス: 投資家・市場の外部視点を取り入れながら、内部の変革を推進する
  • 短期と長期の調和: 四半期業績などの短期的な成果と中長期の戦略実現のバランスを取る

経営企画担当取締役は、これら3つの重要な任務を通じて、企業の持続的成長と中長期的な企業価値向上の「戦略的設計者」かつ「変革の推進者」としての役割を果たしています。

大手上場企業の経営企画担当取締役の 報酬水準

大手上場企業の経営企画担当取締役の報酬水準について、公開情報から得られる一般的な傾向をご説明します。なお、個々の企業の規模、業種、収益性、そして役員の経験・実績によって報酬は大きく異なります。

報酬の構成要素

典型的な取締役報酬は、以下の3つの要素で構成されています。

  • 基本報酬(固定報酬)
    • 役位・職責に応じて設定される月額固定報酬
    • 年間を通じて安定的に支給される部分
  • 短期インセンティブ(STI: Short Term Incentive
    • 主に単年度の業績達成度に連動する賞与
    • 営業利益、当期純利益等の財務指標が評価基準となることが多い
  • 中長期インセンティブ(LTI: Long Term Incentive)
    • 株式報酬(譲渡制限付株式、株式報酬型ストックオプション等)
    • 3〜5年程度の中期業績目標や株価に連動する仕組み

報酬水準の目安

大手上場企業(日経225クラス)の経営企画担当取締役の年間報酬総額の一般的な範囲は以下の通りです。

報酬総額の目安

  • 日本の大手企業(売上高1兆円以上): 約5,000万円〜1億5,000万円

構成比率

HRガバナンス・リーダーズ株式会社の「日経225社(2024年6月末時点)役員報酬調査」によると、日経225社の取締役の報酬構成比率は平均して以下のようになっています。

  • 基本報酬(固定報酬):46%
  • 短期インセンティブ(STI):29%
  • 中長期インセンティブ(LTI):26%

つまり、変動報酬(STIとLTIの合計)が総報酬の54%を占めており、業績連動型の報酬構成が強まっていることがわかります。

業績・株価影響による変動幅

業績連動部分(STI+LTI)が報酬の50%以上を占める場合、業績の良し悪しによって報酬総額が大きく変動します。

  • 目標達成率100%の場合: 基準額(例:8,000万円)
  • 目標超過達成(150%)の場合: 最大で基準額の約125%程度(例:1億円)
  • 目標未達(50%)の場合: 最低で基準額の約75%程度(例:6,000万円)

特に中長期インセンティブは株価連動型の場合が多く、株価の変動によって実質的な報酬額が大きく変わることがあります。

最近の傾向

HRガバナンス・リーダーズ株式会社の調査によると、最近の役員報酬に関する傾向として以下のような特徴が見られます。

  • ESG指標の導入拡大
    • 将来財務指標を採用する企業の割合は、短期インセンティブで37.8%、中長期インセンティブで37.3%と増加傾向
    • 特に環境(E)指標やGHG排出量などの採用が増加
  • クローバック条項の拡大
    • 不正行為や重大な業績修正があった場合に報酬を返還させる条項の導入が増加
    • 短期インセンティブで19.6%、中長期インセンティブで41.8%の企業が導入
  • 変動報酬比率の増加
    • 総報酬に占める変動報酬の割合が年々増加
    • 欧米企業の水準には及ばないものの、業績連動性強化の傾向

 

大手上場企業の経営企画担当取締役の年間報酬総額は、企業規模や業績によって異なりますが、総じて約5,000万円〜1億5,000万円の範囲にあることが多いようです。報酬の構成は固定報酬46%、短期インセンティブ29%、中長期インセンティブ26%が平均的な姿となっています。

企業の持続的成長と中長期的な企業価値向上に直結する経営企画担当取締役の役割の重要性から、今後も業績連動型報酬の比率拡大や、戦略目標の達成度を評価する指標の精緻化が進むと予想されます。

大手上場企業の経営企画担当取締役に 向いている人は、どんな人?

■求められるマインド

経営企画担当取締役は企業の戦略的羅針盤として機能する重要なポジションです。この役割を効果的に果たすためには、スキルや経験だけでなく、特有のマインドセットが不可欠です。以下、大手上場企業の経営企画担当取締役に求められるマインドについて解説します。

1.全体最適思考

部分最適ではなく全体最適を追求する姿勢

  • 部門間の壁を超えた視点
    • 各事業部門の個別利益ではなく、全社的な価値最大化を常に志向する
    • 部門間のシナジー創出機会を積極的に探索し、促進する

長期的視座の保持

  • 四半期や単年度の業績だけに囚われない
    • 短期的な業績向上と中長期的な企業価値向上のバランスを常に意識する
    • 「次の四半期」よりも「次の10年」を見据えた意思決定を心がける

利害調整者としての公平性

  • 特定部門に偏らない中立的立場
    • 全社的な視点から、限られた経営資源の最適配分を追求する
    • 既得権益や慣習にとらわれず、事実と論理に基づく判断を行う

2.戦略的好奇心

変化への感度と洞察力

  • 業界の枠を超えた幅広い関心
    • 自社業界だけでなく、周辺業界や全く異なる分野の動向にも高い関心を持つ
    • 社会・技術・政治経済の広範な変化をビジネスインパクトに翻訳する習慣

仮説思考と検証マインド

  • 絶えず「こうなるのではないか」という仮説を立てる
    • 市場や競合の動向について常に自分なりの見方を持つ
    • 仮説を検証するためのデータ収集と分析に貪欲である

常識への挑戦

  • 「当たり前」を疑う姿勢
    • 業界の常識や社内の暗黙の前提に対して健全な懐疑心を持つ
    • 「なぜそうなのか」を問い続ける知的探究心

3.変革推進力

現状への健全な危機感

  • 成功体験への執着からの脱却
    • 過去の成功モデルへの過度の依存を戒める
    • 外部環境変化に応じた自己変革の必要性を常に意識する

高い当事者意識

  • 自分ごと」として取り組む姿勢
    • 他責思考ではなく、自ら変革の旗を振る責任感
    • 困難な状況でも前向きに解決策を模索し続ける粘り強さ

抵抗を乗り越える決意

  • 変革に伴う摩擦や抵抗を恐れない勇気
    • 変革推進に伴う反発を予期し、それに対処する心構え
    • 短期的な不協和音を恐れず、長期的な成果のために踏み出せる決断力

4.戦略的柔軟性

計画修正を厭わない姿勢

  • 固執せず軌道修正できる柔軟さ
    • 計画の完璧さよりも環境変化への適応を重視する
    • 新事実が判明した際に迅速に方針を修正できる潔さ

失敗から学ぶ謙虚さ

  • 失敗を成長機会と捉える姿勢
    • 誤りを認め、そこから学ぶ開かれた姿勢
    • 組織としての成功体験だけでなく、失敗体験からも価値を見出す視点

多様な選択肢を持つ発想

  • 複数のシナリオを常に準備する思考習
    • 「プランA」だけでなく「プランB」「プランC」も用意する
    • 不確実性を前提とした意思決定の枠組みを持つ

5.対話的リーダーシップ

傾聴と共感の姿勢

  • 多様な意見に耳を傾ける開放性
    • 自分と異なる視点や意見を尊重し、そこから学ぶ謙虚さ
    • 現場の声に真摯に耳を傾け、その洞察を戦略に活かす姿勢

明確なビジョン共有

  • 複雑な戦略を分かりやすく伝える情熱
    • 抽象的な戦略を具体的なストーリーに翻訳する意識
    • 「なぜそれが重要か」のコンテキストを丁寧に説明する姿勢

信頼構築への献身

  • 約束を守り続ける誠実さ
    • 言行一致を旨とし、信頼の基盤を築く姿勢
    • 短期的な利得よりも長期的な信頼関係構築を重視する価値観

6.投資家視点の内在化

資本市場の論理理解

  • 株主・投資家の思考様式への深い理解
    • 資本効率や成長性、リスク管理などの投資家関心事項への感度
    • 企業価値評価の仕組みを自社事業に当てはめて考える習慣

株主との建設的対話姿勢

  • 投資家を「批評家」ではなく「パートナー」と捉える視点
    • 投資家からのフィードバックを貴重な外部視点として尊重する
    • 厳しい質問にも誠実に向き合い、対話から学ぶ姿勢

透明性へのコミットメント

  • 開示を「義務」ではなく「機会」と捉える発想
    • 企業の強みや戦略を適切に伝えることの価値を認識
    • 短期的に不利な情報も適時適切に開示する誠実さ

7.持続可能性思考

社会的責任の内在化

  • 利益と社会的価値の両立を目指す姿勢
    • 企業の社会的インパクトを常に意識する
    • ESG課題を「制約」ではなく「機会」として捉える視点

次世代への責任感

  • 短期的利益追求を超えた視座
    • 将来世代に対する責任を意識した意思決定
    • 持続可能なビジネスモデルへの転換を主導する使命感

レガシーへの意識

  • 自らの任期を超えた長期的影響への関心
    • 「自分の後に何を残すか」を常に意識する
    • 10年後、20年後の会社の姿を構想する習慣

上記7つのマインドは個別に存在するものではなく、経営企画担当取締役の思考と行動の中で有機的に統合されるべきものです。これらのマインドは相互に補完し合い、時には緊張関係を持ちながら、バランスの取れた経営判断を支えます。

経営企画担当取締役は、自社の「現在地」と「あるべき姿」を常に明確に認識し、その間のギャップを埋めるための戦略的道筋を描く役割を担っています。その役割を全うするためには、専門的知識やスキルに加えて、ここで述べた多面的なマインドセットを絶えず磨き続けることが求められます。

こうした統合的マインドを持つ経営企画担当取締役こそが、激動する事業環境の中で企業の持続的成長と企業価値向上を導く真の「戦略的羅針盤」となり得るのです。

■必要なスキル

経営企画担当取締役は企業の戦略立案と実行の中核を担うポジションであり、多様なスキルが求められます。以下、この役割に必要とされる主要なスキルセットを体系的に整理します。

1.戦略思考スキル

環境分析力

  • マクロ環境分析能力
    • PEST分析(政治・経済・社会・技術)を用いた環境変化の把握と影響予測
    • 長期トレンドと短期変動の識別、業界構造変化の予見能力
  • 競争環境分析能力
    • ファイブフォース分析等を用いた業界構造の把握
    • 競合他社の戦略・強み・弱みの客観的評価
    • 破壊的イノベーションの兆候を察知する感度

戦略構想力

  • 事業ポートフォリオ分析スキル
    • 事業の成熟度・市場魅力度・自社競争力の多次元評価
    • 資源配分の最適化判断と成長事業の見極め
  • 戦略オプション創出力
    • 多様な選択肢の体系的整理と比較評価
    • シナリオプランニングによる複数の未来想定
    • トレードオフを明確にした戦略代替案の提示

価値創造思考

  • ビジネスモデル設計力
    • 収益構造・コスト構造の分析と再設計
    • 顧客価値・提供価値・収益化メカニズムの一貫性ある構想
    • デジタル技術を活用した事業モデル変革の構想
  • 長期的価値向上思考
    • 中長期的な企業価値向上のロジック構築
    • 短期収益と長期投資のバランス判断
    • 無形資産価値(ブランド・知的財産・人的資本等)の向上施策

2.財務マネジメントスキル

財務分析力

  • 財務諸表分析スキル
    • BS/PL/CFの詳細分析と経営課題の特定
    • セグメント別収益性・成長性・効率性の分析
    • 競合他社との財務パフォーマンス比較分析
  • 投資評価スキル
    • NPV/IRR/ペイバック(回収期間)等の投資評価指標の理解と活用
    • 事業投資・設備投資・M&Aの経済性評価
    • 不確実性を考慮したリスク調整後リターン分析

資本効率向上スキル

  • 資本コスト理解
    • WACC(加重平均資本コスト)の算定と経営への活用
    • 投資基準としての資本コスト概念の社内浸透
  • 資本効率向上施策立案
    • ROIC(投下資本利益率)ツリー分解による改善ポイント特定
    • 運転資本効率化、固定資産効率化の施策立案
    • 低収益事業の再生・撤退判断

資金調達・配分スキル

  • 最適資本構成管理
    • 財務レバレッジと財務安全性のバランス判断
    • 資金調達手段(借入・社債・増資等)の適切な選択
  • 株主還元策設計
    • 配当政策・自社株買いの戦略的設計
    • 資本余剰判断と株主還元のタイミング検討
    • 中長期的な総還元性向の設計

3.データ分析・意思決定スキル

定量分析スキル

  • 高度なデータ分析能力
    • 複数のデータ項目を同時に扱って、データの構造や関係性を分析(多変量解析等)するための統計手法の理解と活用
    • 因果関係と相関関係の峻別
    • 複雑なデータから本質的な洞察を導く能力
  • 予測モデリングスキル
    • トレンド分析と予測モデル構築
    • シミュレーションによる様々なシナリオ検証
    • 不確実性を踏まえた予測幅の適切な設定

定性分析スキル

  • 質的データの体系的分析
    • インタビューやフォーカスグループからの洞察抽出
    • 顧客の声や従業員の声からパターン認識
    • 文脈理解と本質的ニーズの把握
  • 直観と論理の統合
    • 経験則に基づく直観的判断と定量分析の適切な組み合わせ
    • 限られた情報下での判断力
    • 暗黙知の形式知化と共有

意思決定スキル

  • 意思決定フレームワーク構築
    • 複数の評価軸を統合した意思決定基準の設計
    • 定量・定性データを統合した判断プロセスの設計
    • 組織的意思決定の質を高める仕組み設計
  • リスク評価と対応
    • 戦略リスクの体系的評価と対応策立案
    • ダウンサイドリスク管理とアップサイド機会の最大化
    • 不確実性下での柔軟なリアルオプション思考

4.組織変革・実行力

変革マネジメントスキル

  • 変革ビジョン構築力
    • 説得力ある変革の「なぜ」を構築・発信
    • 現状と理想のギャップを明確化する能力
    • 危機感醸成と前向きなビジョン提示のバランス
  • 変革推進力
    • 変革ロードマップの設計と実行管理
    • 抵抗勢力への対応と変革推進連合の構築
    • 組織慣性を克服する施策立案

プロジェクトマネジメントスキル

  • 複雑プロジェクト統括力
    • 大規模クロスファンクショナルプロジェクトの設計・運営
    • クリティカルパス管理と資源配分最適化
    • 複数プロジェクト間の整合性確保と優先順位付け
  • 進捗管理・課題解決力
    • KPI設計と進捗モニタリングの仕組み構築
    • 障害発生時の迅速な原因特定と対策実行
    • プロジェクト成果の測定と学習サイクル確立

パフォーマンス向上スキル

  • 組織能力開発
    • 戦略実行に必要な組織能力のギャップ分析
    • 組織能力強化のための人材育成・配置・獲得施策
    • 戦略的組織設計と権限委譲の最適化
  • インセンティブ設計
    • 戦略目標達成を促す評価・報酬体系の設計
    • 短期業績と長期価値創造を両立する指標設計
    • 部門間協力を促す全社最適型インセンティブ

5.コミュニケーション・影響力スキル

戦略的コミュニケーション力

  • ナラティブ構築力
    • 複雑な戦略を明快なストーリーに変換する能力
    • データとエモーションを組み合わせた説得的メッセージング
    • 多様なステークホルダーに響く言語選択
  • プレゼンテーションスキル
    • 取締役会・経営会議での洗練された発表能力
    • 複雑な分析結果の視覚化と本質の伝達
    • 質疑応答での臨機応変な対応力

信頼構築・関係性スキル

  • 社内ネットワーク構築
    • 部門横断的な信頼関係構築と協力体制確立
    • 非公式ネットワークの理解と活用
    • トップマネジメントとの効果的な関係構築
  • 外部関係性マネジメント
    • 投資家・アナリストとの建設的対話能力
    • 取引先・パートナーとの戦略的関係構築
    • 規制当局・業界団体等との適切な関係維持

交渉・調整スキル

  • 高度交渉力
    • Win-Winを模索する統合的交渉アプローチ
    • 立場ではなく利害に基づく解決策の模索
    • 複雑な利害関係の調整と合意形成
  • コンフリクトマネジメント
    • 建設的な対立の促進と破壊的対立の回避
    • 異なる意見・視点を活かした意思決定の質向上
    • 部門間の資源配分に関する対立解消

6.グローバル・多様性対応スキル

グローバル視点・経験

  • 国際経営理解
    • グローバル経営とローカル適応のバランス判断
    • 地政学リスクの理解と対応戦略
    • グローバルガバナンスと現地自律性の適切な設計
  • 異文化理解・適応
    • 文化的差異の理解と効果的なコミュニケーション
    • 多様な価値観・行動様式への適応能力
    • グローバル人材の育成・活用戦略

多様性活用スキル

  • インクルーシブリーダーシップ
    • 多様なバックグラウンド・思考様式の尊重と活用
    • 無意識バイアスの認識と克服
    • 心理的安全性を確保した組織文化醸成
  • イノベーション促進
    • 多様性を創造的摩擦として活かす場づくり
    • 異質な視点の融合による新たな発想の促進
    • 組織の同質化・硬直化防止の仕組み構築

7.ガバナンス・法務・倫理スキル

コーポレートガバナンス理解

  • ガバナンス制度設計
    • 取締役会の役割・機能の最適化
    • 経営監督と執行の適切な分離
    • 各種委員会(指名・報酬・監査等)の効果的運営
  • ガバナンス実効性向上
    • 社外取締役の知見・経験の有効活用
    • 取締役会評価と継続的改善
    • 株主・ステークホルダーとの建設的対話促進

法務・コンプライアンス理解

  • 法規制環境の理解
    • 会社法・金融商品取引法等の基本理解
    • 業界特有の規制動向の把握
    • グローバルコンプライアンスの複雑性理解
  • リスクマネジメント
    • 全社的リスク管理フレームワーク構築
    • 新興リスク(サイバー、気候変動等)への対応
    • クライシスマネジメント計画の整備

倫理的リーダーシップ

  • 倫理的意思決定
    • 短期的利益と長期的評判のトレードオフ判断
    • 倫理的ジレンマへの対処フレームワーク
    • 意図せぬ結果のリスク評価
  • 企業文化形成
    • 企業理念・バリューの体現と浸透
    • 言行一致による信頼獲得
    • 非倫理的行動の早期発見・対応の仕組み構築

8.デジタル・技術理解スキル

デジタルリテラシー

  • デジタル技術理解
    • AI・ビッグデータ・IoT(Internet of Things)等の最新技術動向の把握
    • デジタル技術の事業インパクト評価
    • 従来の仕組みで構築され使われているシステムからの移行戦略立案
  • データドリブン経営推進
    • データガバナンス体制の構築
    • アナリティクス人材・組織の育成・配置
    • データに基づく意思決定文化の醸成

デジタルトランスフォーメーション

  • DX戦略立案
    • デジタルによる事業変革ビジョンの構築
    • デジタル成熟度評価と段階的変革計画
    • 社内デジタル人材・外部パートナー活用の最適化
  • デジタル組織変革
    • アジャイル開発・組織文化の導入・促進
    • 従来型組織とデジタル組織の共存・融合設計
    • デジタル時代の組織・業務プロセス再設計

9.サステナビリティ対応スキル

ESG戦略立案

  • サステナビリティ課題の特定
    • マテリアリティ分析(企業が持続的成長や中期的価値創造のために重視すべき重要課題を特定・整理するプロセス)と優先課題の特定
    • 長期的なESGリスク・機会の評価
    • 社会的課題解決と事業戦略の統合
  • ESG目標設定・実行
    • 科学的根拠に基づく環境目標設定
    • ESG情報開示の質向上
    • サステナビリティを組み込んだ経営管理・評価システム

ステークホルダーエンゲージメント

  • 多様なステークホルダーとの対話
    • 投資家・顧客・従業員・地域社会等との体系的対話設計
    • NGO・市民団体との建設的関係構築
    • 多様な期待・要請の統合と優先順位付け
  • 社会的インパクト評価
    • 事業活動の社会・環境への影響の定量・定性評価
    • サステナビリティKPIの設定と測定
    • インパクト情報の戦略的開示

新たな価値創造

  • 社会課題起点のイノベーション
    • SDGs等の社会課題を事業機会として捉える視点
    • ソーシャルイノベーション推進の仕組み構築
    • 社会的価値と経済的価値の両立モデル設計
  • サステナブルな事業エコシステム構築
    • サプライチェーン全体の持続可能性向上
    • 循環型・再生型ビジネスモデルへの移行戦略
    • 長期的な社会的資本形成への投資判断

10.イノベーション・新規事業創出スキル

イノベーション戦略構築

  • イノベーションポートフォリオ設計
    • コア改善・隣接事業・変革型の適切なバランス設計
    • オープン/クローズド戦略の使い分け
    • 探索と活用のデュアルイノベーション体制構築
  • イノベーション文化醸成
    • 実験と失敗から学習する組織文化の構築
    • イノベーション阻害要因の特定と排除
    • 創造性と実行力を両立する組織設計

新規事業開発

  • 機会発見・事業構想力
    • 顕在・潜在ニーズの体系的探索
    • 技術シーズと市場ニーズの創造的結合
    • ブルーオーシャン戦略等による未開拓領域発見
  • 事業化推進力
    • MVP(Minimum Viable Product)アプローチ(必要最小限の製品を作り、市場の反応を見ながら改善していく手法)による早期検証サイクル設計
    • 将来的に角田市日手も問題なく対応できるかどうか(スケーラビリティ評価)と拡大戦略
    • 既存事業との協調・競合関係マネジメント

M&A・アライアンス戦略

  • 外部資源活用戦略
    • 自社開発vs外部調達vs提携の判断基準設定
    • M&A・事業提携の戦略的位置づけの明確化
    • エコシステム形成・プラットフォーム戦略立案
  • PMI/提携マネジメント
    • 買収後統合の体系的計画・実行
    • 文化的統合と人材維持戦略
    • シナジー創出の障壁特定と克服

11.危機管理・レジリエンススキル

危機予測・準備

  • 早期警戒システム構築
    • 潜在リスクの体系的スキャニング
    • 低確率高影響事象への準備
    • 組織の脆弱性診断と対策
  • シナリオプランニング
    • 多様な危機シナリオ開発と対応計画
    • 危機発生時の意思決定フレームワーク準備
    • BCP(事業継続計画)の実効性確保

危機対応・回復

  • 危機リーダーシップ
    • 危機時の冷静な判断と迅速な意思決定
    • ステークホルダーコミュニケーション戦略
    • 組織の士気維持と長期戦への備え
  • 学習と適応
    • 危機からの教訓抽出と組織記憶化
    • 金融システム全体に影響を及ぼす連鎖的リスク(システミックリスク)の構造的対応
    • より高いレジリエンスレベル(危機や変化への適応力)への変革

組織レジリエンス構築

  • オペレーショナルレジリエンス
    • サプライチェーン・生産体制の冗長性と柔軟性
    • 分散型組織構造と意思決定権限の設計
    • 重要業務のバックアップ・代替手段の確保
  • 財務レジリエンス
    • 流動性リスク管理と資金調達の多様化
    • 財務バッファの適正規模判断
    • ストレステストに基づく脆弱性対策

12.人的資本マネジメントスキル

戦略的人材マネジメント

  • 人材ポートフォリオ設計
    • 未来の事業戦略に必要な人材要件定義
    • 長期的な人材獲得・育成・配置戦略
    • 人的資本情報の戦略的開示
  • 人材開発システム構築
    • リーダーシップパイプライン構築
    • 経営幹部候補の選抜・育成・評価
    • 組織能力と個人スキル開発の連動

組織・企業文化形成

  • 企業文化変革
    • 戦略実行を支える組織文化の特定と醸成
    • 企業文化の定量・定性評価と可視化
    • 文化変革のレバーとプロセス設計
  • エンゲージメント向上
    • 従業員エンゲージメント要因の分析と対策
    • 心理的安全性と挑戦意欲のバランス確保
    • 世代・価値観の多様化に対応する職場環境設計

働き方改革・生産性向上

  • 新しい働き方の設計
    • リモート・ハイブリッドワークの最適設計
    • デジタルワークプレイスへの移行戦略
    • 時間・場所の制約を超えた協働モデル構築
  • 組織生産性向上
    • 高付加価値業務への資源シフト
    • ミドルマネジメントの役割再定義
    • 意思決定プロセスの簡素化・迅速化

13.学習・自己変革スキル

継続的学習能力

  • 知的好奇心と学習習慣
    • 幅広い領域への関心と体系的学習
    • 経営環境変化への感度と学習領域の拡張
    • 学習コミュニティへの積極的参加
  • 内省と自己認識
    • 自己の思考パターン・バイアスの認識
    • フィードバックの積極的獲得と内省
    • 強みと弱みの客観的評価と対策

適応力・変革力

  • 思考の柔軟性
    • 複数の視点から問題を捉える習慣
    • 前提を疑い、枠組みを変える思考
    • 矛盾する要素を統合する弁証法的思考
  • 自己変革力
    • 成功体験からの脱却と新たな挑戦
    • コンフォートゾーンを超えた経験の積極的獲得
    • ライフステージに応じた自己更新

メンタルレジリエンス

  • ストレス耐性
    • 高圧的状況下での冷静な判断維持
    • 肉体的・精神的健康の自己管理
    • 適切なワークライフバランスの確保
  • 回復力・再起力
    • 挫折・失敗からの学習と再挑戦
    • 自己効力感の維持・向上
    • 長期的視点での自己の成長評価

経営企画担当取締役には、上記13の領域にわたる高度なスキルが求められますが、全てを一人で完璧に備えることは現実的ではありません。むしろ重要なのは、これらのスキル領域の相互関連性を理解し、自らの強みを活かしながら、弱み領域を補完するチーム構築や専門家活用を行う能力です。

また、経営環境の変化に応じて、重点的に強化すべきスキル領域も変化します。例えば、デジタルトランスフォーメーションが急務となればデジタルスキルの強化が、サステナビリティ対応が重要課題となればESG関連スキルの強化が求められます。

経営企画担当取締役に最も求められるのは、これらの多様なスキル要素を状況に応じて適切に組み合わせ、複雑な経営課題に対して統合的なソリューションを導き出す「メタスキル」と言えるでしょう。常に学び続け、環境変化に適応しながら自己と組織を進化させていく姿勢こそが、この役割を長期的に全うするための基盤となります。

大手上場企業の経営企画担当取締役までの 道のり

経営企画担当取締役というトップマネジメントのポジションにたどり着くまでのキャリアパスは一様ではありませんが、いくつかの典型的なルートが存在します。まずはそれらを逆算して見ていきましょう。

経営企画担当取締役に直接つながるポジションとしては、経営企画部長や執行役員(経営企画担当)が挙げられます。これらの役職では、すでに全社戦略の策定や重要な経営判断に深く関与しており、取締役会との連携も密に行っています。こうした立場で実績を上げ、経営陣からの信頼を勝ち取ることが、取締役への昇格の前提条件となります。

その手前には、経営企画部の次長やグループマネージャー、あるいは特定の戦略プロジェクトのリーダーとしての経験があることが一般的です。この段階では、全社戦略の一部を担当したり、重要プロジェクトの責任者として実行力を示したりする機会が与えられます。例えば、「新規事業開発チーム」や「中期経営計画策定タスクフォース」のリーダーとして成果を上げることで、経営層の目に留まりやすくなります。

さらにその前には、経営企画部の中堅メンバーとして、様々な戦略立案や分析業務に携わる経験をします。この段階では、M&A案件の評価や新規事業計画の策定、競合分析などの基礎的な業務を通じて、戦略的思考力や分析能力を磨くことが重要です。

ではこうした経営企画部のキャリアに入る前は、どのようなバックグラウンドが考えられるでしょうか。大きく分けて以下の複数のルートがあります。

  • 事業部門からの転入ルート:営業や製造、研究開発などの事業部門で一定の実績を上げた後、全社的な視点を身につけるために経営企画部に異動するパターンです。現場での経験があるため、戦略と実行の両面から企業経営を理解できる強みがあります。
  • 財務・経理部門からのルート:財務や経理、IR部門から経営企画へと移るケースも多く見られます。数字に強く、投資判断や資本政策の知識が豊富な点が評価されます。
  • コンサルティングファームからの転職ルート:戦略コンサルティングファームでの経験を活かして、企業の経営企画部に中途入社するパターンです。外部の視点と戦略フレームワークの活用力が強みとなります。
  • 新卒/若手からの経営企画部配属ルート:一部の企業では、優秀な新卒や若手社員を直接経営企画部に配属し、早くから戦略的思考を身につけさせるケースもあります。

若手時代に身につけておくべき経験としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 事業の最前線での成功体験(売上や利益への直接的な貢献)
  • 数字を扱う業務での実績(財務分析やプロジェクト評価など)
  • リーダーシップの発揮(小規模でもチームをまとめた経験)
  • 社内外のネットワーク構築(様々な部門や取引先との関係性)
  • 英語力や国際経験(グローバル企業の場合は特に重要)

経営企画担当取締役を目指す上で特に重要なのは、「T型人材」を目指すことです。つまり、特定の専門分野で深い知見を持ちながら(縦棒)、幅広い領域に関する理解も持ち合わせている(横棒)人材像です。一つの分野で圧倒的な成果を上げつつも、常に全体最適の視点を持ち、他部門とも協力できる柔軟性を示すことが、経営企画部へのキャリアパスを切り開く鍵となるでしょう。

最後に、経営企画担当取締役という高いポジションを目指すには、日々の業務の中で「経営者視点」を意識的に養うことが大切です。どんな小さな判断も「もし自分が経営者なら、会社全体のためにどう判断するか」という観点から考える習慣をつけることで、将来のトップマネジメントに必要な思考回路が自然と身についていきます。

大手上場企業の経営企画担当取締役の キャリアパスの展望

経営企画担当取締役というポジションで身につくスキルは、ビジネスリーダーとして最高レベルの総合力と言えるでしょう。この職種では、戦略立案能力、決断力、リーダーシップ、財務分析力、交渉力など、経営者に求められるほぼすべての能力が必要とされます。

特に強化されるのは「全体最適」の思考と「実行力」の組み合わせです。部分最適ではなく、企業全体の価値を最大化するための判断基準を持ち、それを実現するための行動力と影響力を発揮できる人材は、ビジネス界のあらゆる場面で重宝されます。例えば、ある経営企画担当取締役経験者は、「個別の事業や機能の論理だけでは見えてこない、企業全体としての『勝ちパターン』を設計する力が身についた」と語っています。

また、高度な分析力と洞察力も養われます。膨大なデータや情報から本質を見抜き、複雑な状況下でも最適な判断を下す能力は、あらゆるビジネスシーンで応用可能です。M&A案件の評価、新規事業の立ち上げ、組織再編の意思決定など、不確実性の高い局面で冷静に状況を分析し、リスクとリターンのバランスを見極める経験を積むことができます。

さらに、経営企画担当取締役として様々なステークホルダーと関わることで、高度なコミュニケーション能力と対人関係構築力も身につきます。株主や投資家、取締役会メンバー、各事業部門の責任者、社外パートナーなど、立場や視点の異なる関係者と効果的にコミュニケーションを取り、共感と信頼を得る能力は、どのようなポジションでも強力な武器となります。

キャリア展望としては、経営企画担当取締役の経験を積んだ後、社長やCEOへのステップアップを目指すことが一つの王道です。多くの企業において、経営企画部門はCEOの登竜門と位置づけられており、企業全体を俯瞰できる視点と戦略的思考を持った人材が次世代のトップリーダーとして選ばれる傾向があります。

また、グループ企業のトップとして送り出されるケースも少なくありません。子会社や関連会社の社長・CEOとしての経験を積み、将来的に親会社の経営トップを目指すというキャリアパスです。

さらに、経営企画担当取締役としての経験と人脈を活かして、社外取締役や経営コンサルタント、投資ファンドのパートナーなど、企業の枠を超えた活躍の場を選ぶ道も広がっています。複数の企業の社外取締役を務めたり、スタートアップ企業の戦略顧問として若い経営者をサポートしたりするなど、自身の経験を社会に還元する形で第二のキャリアを築く選択肢もあります。

経営企画担当取締役という職種は、キャリアの集大成として目指すべき高みであると同時に、そこから更なる飛躍へのスプリングボードにもなる、希少価値の高いポジションなのです。

まとめ

役割と責任

  • 企業の羅針盤を握る戦略家であり、組織全体の進むべき道を示す最高レベルの戦略立案者
  • 企業のビジョンを実現可能な計画へと変換し、会社の成長と価値創造を主導する重要な役割
  • 市場を読み解く洞察力と数字を使いこなす分析力、そして組織全体を動かすリーダーシップ

求められるマインドやスキル

  • 自社の「現在地」と「あるべき姿」を常に明確に認識し、その間のギャップを埋めるための戦略的道筋を描く
  • 専門的知識やスキルに加えて、多面的なマインドセットを絶えず磨き続ける
  • 統合的マインドを持つ経営企画担当取締役こそが、激動する事業環境の中で企業の持続的成長と企業価値向上を導く真の「戦略的羅針盤」となり得る
  • 多様なスキル要素を状況に応じて適切に組み合わせ、複雑な経営課題に対して統合的なソリューションを導き出す「メタスキル」
  • 常に学び続け、環境変化に適応しながら自己と組織を進化させていく姿勢

重要な職務

  • 中長期経営戦略の策定と実行モニタリング
  • 投資家・資本市場との戦略的対話
  • 全社変革プログラムの推進

キャリアパス

  • 経営企画部門スタッフ⇒経営企画部の次長・課長⇒経営企画部長⇒経営担当取締役
  • 戦略コンサルティングファームやM&Aアドバイザリー、投資銀行などのバックグラウンドを経てからの転身
  • 企業内での社長やCEOへのステップアップやグループ子会社社長、他企業のCEOやCFOへの転身、独立起業など今後の多様なキャリアパス