経理・財務・会計ファイナンス人材のためのキャリア名鑑
ビジネスの最前線で会社の未来を形作る
M&Aを統括し、企業価値最大化と持続的成長を実現する戦略的リーダー
ダイナミックな企業買収で市場を動かす
1,500万円〜4,500万円以上
※業績や評価によって変動
40歳~60歳
大手上場企業のM&A統括責任者は、企業の未来を切り開く”戦略設計者”です。一つの判断が、時に数百億円規模の投資判断や数千人の雇用に影響を与え、企業の成長軌道を大きく変えることもあります。企業統合や買収という、ビジネスにおける最もダイナミックな局面をリードするこのポジションは、高度な分析力と戦略的思考、そして優れた交渉力を兼ね備えた人材が求められます。年収は最低でも1,500万円、実績を出せば3,000万円を超えることも珍しくなく、経営幹部への登竜門としても注目されています。ビジネスの最前線で、企業の未来を創造する役割に興味を持つなら、M&A統括責任者というキャリアパスは非常に魅力的な選択肢となるでしょう。
「M&A」という言葉を聞いて、どのようなイメージを持たれるでしょうか?企業買収や合併といった大きな取引を思い浮かべる方が多いと思いますが、実はその裏には綿密な戦略と計画があり、それを統括するのがM&A統括責任者なのです。
M&A統括責任者の一日は、常に戦略的思考と向き合うことから始まります。朝一番に国内外の経済ニュースをチェックし、業界動向や競合他社の動きを分析します。「あの企業が新規事業に参入」「競合他社が海外企業を買収」といったニュースは、自社の戦略に直結する重要情報です。
具体的な業務としては、まず社内の経営企画部門や事業部と連携して、会社の中長期的な成長戦略に沿ったM&A戦略を策定します。「この5年間で売上を2倍にする」という経営目標があれば、それを達成するためにどのような企業を買収すべきか、どの市場に進出すべきかを検討します。
潜在的な買収先候補を発掘したら、その企業の詳細な分析に入ります。財務諸表の精査はもちろん、事業内容、技術力、人材、企業文化まで多角的に評価します。「この企業の技術は自社の製品ラインを補完できるか」「買収後のシナジー効果はどの程度見込めるか」といった観点から厳密に審査するのです。
買収候補が決まると、交渉フェーズに入ります。相手企業との条件交渉は、時に夜遅くまで続くこともあります。「企業価値をいくらと評価するか」「どのような条件で株式を取得するか」など、細部にわたる合意が必要です。数百億円規模の取引では、1%の評価額の違いが数億円の差になることもあり、緊張感のある交渉が続きます。
契約締結後は、PMI(Post Merger Integration:統合プロセス)の指揮を執ります。買収した企業と自社の融合は非常に繊細な作業です。企業文化の違いから生じる摩擦を最小限に抑えながら、期待されるシナジー効果を最大化するための道筋を描きます。
こうした一連のプロセスを成功させるには、財務や法務の専門知識だけでなく、異なる企業文化を理解し尊重する柔軟性、そして複数の関係者と円滑にコミュニケーションを取る能力が不可欠です。
M&A統括責任者は、経営陣と緊密に連携しながら、企業の未来を左右する大きな決断を下していきます。時には数百億円規模の投資判断を行い、失敗すれば会社の存続にも関わる責任を負うこともあります。しかし、その分やりがいも大きく、自分の判断と行動が会社の成長と何千人もの従業員の未来に直結していることを実感できる、非常にダイナミックな仕事なのです。
M&A統括責任者を目指す魅力は、高収入ということだけではありません。このポジションがなぜ多くのビジネスパーソンにとって憧れの的となっているのか、その本質的な理由を掘り下げてみましょう。
まず第一に、「企業の成長エンジン」としての中心的役割を担えることです。企業が急速に成長する手段として、内部成長(オーガニックグロース)と外部成長(M&Aなどによる成長)がありますが、大企業になればなるほど内部成長だけでは高い成長率を維持することが難しくなります。そこでM&Aが重要な成長戦略となり、それを統括することは、まさに会社の未来を創造する設計者です。
例えば、1990年代のマイクロソフトは86社もの企業を買収し、今日の巨大テック企業への基盤を築きました。日本でも、近年ではリクルートホールディングスが積極的なM&Aにより世界的企業へと成長しました。こうした企業の飛躍的成長を裏で支えているのがM&A戦略であり、それを指揮するポジションに立てることは、ビジネスパーソンとして比類ない達成感を味わえるでしょう。
第二に、ビジネスの最前線で複雑な課題に挑戦できる知的刺激があります。M&A案件では、財務・法務・会計・税務・事業戦略など多岐にわたる専門知識を駆使し、複数のプロフェッショナルと連携しながら大きなプロジェクトを完遂させます。日々新たな知識を吸収し、自身のスキルセットを拡大させることができる環境は、知的好奇心が強い方にとっては理想的です。
第三に、M&A統括責任者としての経験は、将来のCEOやCFOといった経営トップへのステップとなり得ることです。M&Aプロジェクトを通じて企業経営の核心部分に関わり、経営陣と密接に仕事をすることで、経営者としての思考様式や判断力を養うことができます。実際、多くの大企業でM&A責任者が後にCFOやCEOに昇進する例は珍しくありません。
また、社会的な影響力という点も見逃せません。大規模なM&Aは、時に業界の勢力図を一変させることもあります。例えば、ある買収によって業界再編が起こり、より効率的な市場が形成されることで、消費者により良い製品やサービスが提供されるようになることもあります。こうした大きな社会的変革に関わることができるのも、このポジションならではの魅力です。
さらに、国際的な舞台で活躍できる可能性も高まります。グローバル企業では、クロスボーダーM&Aも珍しくなく、海外の企業や投資家との交渉を通じて国際的な視野とネットワークを広げることができます。言語や文化の壁を越えたダイナミックな取引に関わることで、自身のキャリアの幅も大きく広がるでしょう。
もちろん、これらのやりがいは相応の責任と表裏一体です。M&A案件の成否は企業の将来を左右し、多くの従業員の雇用や生活に直結します。しかし、その重責を引き受けるからこそ、成功したときの達成感と成長実感は比類ないものとなるのです。
大手上場企業のM&A統括責任者は、高収入のポジションを超えて、ビジネスの最前線で企業と社会の未来を形作る、真に影響力のあるキャリアパスなのです。
M&A戦略の年間計画策定と経営陣への承認取得を行います。前年度のM&A案件の振り返りと効果検証を実施し、新年度のターゲット業界・企業リストの更新を行います。また、投資銀行やアドバイザリーファームとの年間契約の更新・見直しを進めます。年度初めの投資委員会では新年度のM&A方針説明を行います。
積極的なM&Aターゲット企業へのアプローチ期間となります。半期レビューとして、パイプライン案件の進捗確認と優先順位の見直しを実施します。中間決算を踏まえた投資枠の再確認と、必要に応じた戦略調整を行います。また、進行中の初期的な案件のデューデリジェンス準備も始まります。
年内クロージングを目指す案件の最終交渉とクロージング作業が本格化します。次年度に向けた新規案件の発掘も並行して進め、進行中の大型案件については取締役会への中間報告を行います。M&A市場動向調査と自社戦略への影響分析も実施します。
年度末決算を見据えた案件クロージングの最終調整を行います。完了したM&A案件の統合進捗状況(PMI)の確認と支援を強化し、年間M&A活動の総括と次年度計画の骨子作成を進めます。経営陣に対する年間活動報告と次年度方針の承認取得も行います。
このスケジュール例は企業の決算期や業界特性、個別の案件状況によって変動します。また、特にM&Aの案件がいつどのタイミングでどのような規模で成立するかにより、スケジュールは大きく変動します。
M&A統括責任者は、企業の中長期成長戦略に直結するM&A戦略を策定し、その実行に向けた具体的な案件創出から選定までの全プロセスを統括します。これは買収機会の模索ではなく、企業の競争優位性構築と事業変革を加速させるための戦略的取り組みです。
企業の成長戦略を加速させる質の高い案件パイプラインの継続的創出と、限られた経営資源を最大効果が期待できる案件に集中投下するための厳格な選別プロセスの確立が求められます。買収のための買収ではなく、企業価値の持続的向上に真に貢献する案件を見極める「目利き力」の組織的な体現が成功の鍵となります。
M&A統括責任者は、対象企業の本質的価値と潜在的リスクを見極めるための包括的調査(デューデリジェンス)プロセスを主導し、適正な買収価格の決定と交渉戦略の構築を担います。これは財務数値の検証を超え、対象企業の事業構造や将来性を多角的に分析し、真の価値とリスクを見抜く高度な専門性を要する任務です。
買収価格の適正化とリスク低減を両立させる精緻な分析と評価を実現すること。表面的な財務数値だけでなく、事業の持続可能性や統合後のシナジー実現可能性も含めた本質的な価値評価に基づく投資判断を可能にすることが求められます。また、買収後のガバナンス体制や経営者インセンティブ設計など、長期的価値創造を支える仕組みも同時に構築することが重要です。
M&A統括責任者の最も重要な使命の一つが、買収後の統合プロセス(PMI)を通じた価値創造の実現です。多くのM&Aが失敗する主因はこのPMIフェーズにあり、事前に描いたシナジー効果を現実のものとするには、戦略的かつ体系的な統合プロセスの設計と実行が不可欠となります。
買収時に想定したシナジー効果の確実な実現と、予期せぬ統合リスクの最小化を両立させること。特に、数値として表れやすいコストシナジーだけでなく、技術融合や市場拡大などの成長シナジーの実現が重要です。また、長期的には買収した事業と既存事業の相乗効果を通じて、当初想定を上回る価値創造を実現することが究極の成功指標となります。
M&A統括責任者には、上記の中核的任務を遂行するために、財務・法務・戦略・組織マネジメントなどの専門知識に加え、高度な交渉力、プロジェクトマネジメント能力、そして何より経営者としての広い視野と深い洞察力が求められます。近年では、クロスボーダーM&Aの増加に伴うグローバル対応力や、デジタル変革時代におけるテクノロジー評価能力、さらにはESG要素の統合など、M&A統括責任者の役割はますます高度化・複雑化しています。
優れたM&A統括責任者は、企業の変革と持続的成長を実現するための戦略設計者として、経営陣の重要なパートナーとなります。
大手上場企業のM&A統括責任者の報酬水準は、企業規模、業界、案件規模と複雑性、個人の経験・実績により大きく変動します。日本の一般的な水準としては以下のようになっています。
なお、M&A統括責任者がCorporate Development担当役員やChief Strategy Officer(CSO)などの役員ポジションを兼務している場合は、さらに高い報酬水準となることが一般的です。
この水準は日本国内の平均的な目安であり、グローバル水準(特に米国)と比較すると、依然として低い傾向にあります。また、業界によっては、特に活発にM&Aを行う業界(テクノロジー、金融、製薬など)では、より高い報酬水準が設定されていることが多いです。
短期的な財務効果だけでなく、5年、10年先を見据えた戦略的思考が不可欠です。目先の利益や規模拡大に惑わされず、長期的な競争優位性構築や事業ポートフォリオ最適化に貢献するM&Aを見極める目が求められます。「なぜこの案件が必要か」という本質的問いに常に立ち返る習慣を持ち、経営理念や企業文化との整合性を重視するマインドが重要です。
M&A案件には常に不確実性が伴います。過度な楽観主義に陥らず、徹底的なデューデリジェンスと客観的分析に基づいてリスクを評価する冷静さが必要です。同時に、完璧な情報が揃うことはなく、一定の不確実性の中で決断を下さなければならない場面も多いため、適切なタイミングで決断を下す勇気も求められます。「守るべきレッドライン」と「挑戦すべき機会」を見極める均衡感覚が重要です。
M&A統括責任者は、社内の様々な部門や階層、そして社外のステークホルダーを巻き込みながら案件を推進する必要があります。時に対立する利害関係を調整し、多様な専門家の知見を引き出すためには、高い対人影響力とコミュニケーション能力が求められます。特に買収対象企業の経営陣との信頼関係構築では、相手の価値観や懸念に共感できる柔軟性と誠実さが不可欠です。「Win-Win」の関係構築を志向し、長期的な信頼関係を築くマインドセットが成功への鍵となります。
M&A環境は常に変化し、一つとして同じ案件はありません。過去の成功体験に固執せず、各案件から謙虚に学び続ける姿勢が重要です。失敗からも積極的に教訓を引き出し、自社のM&Aプロセスを継続的に改善していく学習志向のマインドが、長期的な成功を支えます。また、自身の知見や経験の限界を認識し、適切なタイミングで専門家の助言を仰ぐ謙虚さも持ち合わせているべきです。
M&Aの真の価値は統合後の相乗効果の実現にあります。案件クロージングはゴールではなく新たなスタートであると認識し、PMI(買収後統合)段階まで見据えた「統合思考」が不可欠です。また、統合プロセスでは組織変革のリーダーとしての役割も担うため、抵抗や困難に直面しても粘り強く変革を推進する力強さと、同時に人間的配慮のバランスが求められます。
大手上場企業のM&A統括責任者には、短期的な成果に囚われず中長期的な企業価値創造を見据える戦略的思考が不可欠です。目先の規模拡大や財務効果だけでなく、自社の経営理念や事業戦略との整合性を常に問い続ける姿勢が求められます。同時に、徹底的な分析と冷静なリスク評価を行いながらも、不確実性を受け入れ適切なタイミングで決断を下す勇気のバランスが重要です。また、様々なステークホルダーとの関係構築において、自社の利益追求だけでなく相互価値創造を志向する「Win-Win」のマインドセットが成功の鍵となります。
さらに、一つとして同じ案件はないという認識のもと、過去の成功体験に固執せず常に学び続ける謙虚さと、失敗からも積極的に教訓を引き出す姿勢が求められます。案件クロージングをゴールではなく新たな始まりと捉え、統合プロセスまで責任を持って推進する長期的コミットメントも不可欠です。究極的には、M&Aを「買収」ではなく企業変革と成長の触媒として捉え、組織の持続的発展に貢献するという使命感と情熱を持ち続けることが、優れたM&A統括責任者の核心的マインドと言えるでしょう。
大手上場企業のM&A統括責任者には、財務・法務の専門性と戦略的視点を兼ね備えた複合的スキルセットが求められます。企業価値評価や財務分析の専門知識を基盤に、法務契約や規制対応の知見を持ち合わせていることが不可欠です。同時に、自社の成長戦略との整合性を見極める戦略思考と、多様なステークホルダーを巻き込む高度な交渉・調整能力が重要となります。
実務面では、デューデリジェンスを効果的に設計・統括するスキルと、外部アドバイザーの専門性を最大限に引き出す能力が求められます。また、案件クローズ後の統合(PMI)を見据えたシナジー実現計画の策定力と、それを実行に移すためのリーダーシップも不可欠です。
グローバル案件に対応するための異文化理解や語学力に加え、複数案件を同時並行で進行管理できるプロジェクトマネジメント能力も重要です。さらに、テクノロジーや業界トレンドに関する先見性と、取締役会や経営陣に対して複雑な案件を簡潔に説明し承認を得る能力も必須となります。
これらの多様なスキルを統合し、不確実性の高い環境下で適切なリスク評価と迅速な意思決定を行いながら、自社の中長期的な企業価値向上に貢献できる人材が、理想的なM&A統括責任者と言えるでしょう。
M&A統括責任者というポジションに至るまでの道のりには、いくつかの典型的なキャリアパスが存在します。逆算的に考えると、どのようなステップを踏むことがこのポジションへの近道となるのでしょうか。
まず、M&A統括責任者の直前に想定されるポジションとしては、以下のようなものが考えられます。
最も一般的な前段階といえるでしょう。ここでは複数のM&A案件を同時に管理し、チームをリードする経験を積みます。大規模案件の責任者として実績を重ね、戦略的な視点でM&Aを推進できることを証明できれば、統括責任者へのステップアップは現実的な選択肢となります。
経営企画では企業の中長期戦略や事業ポートフォリオ管理に携わるため、戦略的M&Aを推進する上で不可欠な全社的視点が養われます。特に、事業戦略とM&Aを紐付けて考える能力は、経営企画での経験を通じて効果的に培うことができるでしょう。
実際に多くの企業は、豊富な案件経験を持つ外部人材をM&A部門の責任者として採用しています。買い手と売り手の両方の視点を理解し、様々な業界のディールに携わった経験は、社内人材にはない強みとなります。
M&Aでは資金調達や財務インパクト分析が重要な要素となるため、財務部門でのキャリアはM&A責任者への適性を示す有力な証拠となります。特に大型買収における資金調達や財務戦略の策定経験は、非常に価値があります。
これらの直前ポジションに至るさらに前のステップとしては、どのようなキャリアが考えられるでしょうか。
投資銀行や会計事務所のM&Aアドバイザリー部門でのアソシエイトやマネージャー職は、M&Aの基礎を徹底的に学べる絶好の場です。デューデリジェンスや企業価値評価、交渉サポートなど、M&Aの全プロセスに携わりながら実務スキルを磨くことができます。20代から30代前半にかけて、こうした外部アドバイザーの立場でM&A実務を経験することは、将来のM&A責任者を目指す上で非常に価値のある基盤となるでしょう。
コンサルティングファームでの経験も有効です。特に戦略コンサルティングでは、事業戦略や業界分析の手法を体系的に学ぶことができます。M&Aを戦略的な視点で捉える力は、こうした経験を通じて培われます。また、コンサルティングで培ったロジカルシンキングと問題解決能力は、複雑なM&A案件を分析する上で大いに役立ちます。
社内では、経営企画部門のアナリストやマネージャーとしてのキャリアが足がかりになります。ここで全社戦略や事業ポートフォリオ管理に携わりながら、経営層の思考や意思決定プロセスを間近で学ぶことができます。また、社内のさまざまな部門と協働する経験は、後にM&A責任者として全社を巻き込んだプロジェクトを推進する際に大いに役立つでしょう。
財務部門でのキャリアも有力なルートです。特に資本政策や投資判断、資金調達などに関わる業務は、M&Aに必要なスキルと直結しています。財務分析や企業価値評価の実務経験を積みながら、CFOなどの上位層から財務戦略の考え方を学ぶことができる環境は貴重です。
若手時代には、どのような経験を積むべきでしょうか。理想的なのは、まず会計や財務の基礎を身につけることです。公認会計士や米国公認会計士(USCPA)の資格取得、あるいはMBA(特に財務や戦略に強いプログラム)の取得は、強固な基盤となります。専門性の高い資格がなくても、会計事務所や金融機関でのアナリスト経験を通じて、財務諸表を読み解く力や企業分析のスキルを磨くことは可能です。
また、若いうちに様々な企業分析や業界研究に取り組む習慣をつけることが重要です。企業のアニュアルレポートや決算説明会資料を読み込み、経営戦略や投資判断の背景を考察する。ビジネス誌や専門メディアを通じて業界動向やM&A事例を研究する。こうした自己研鑽の積み重ねが、将来のM&A責任者としての視座を高めてくれるでしょう。
英語力も忘れてはならない重要なスキルです。クロスボーダーM&Aが増加する中、英語での交渉や文書作成は必須の能力となっています。若いうちから英語環境に身を置き、ビジネス英語を実践的に使う機会を積極的に求めることが大切です。国際的な会計事務所や投資銀行でのキャリアは、こうした語学力と国際感覚を同時に磨く絶好の機会となります。
重要なのは、どのルートを選ぶにしても「M&Aに関わる実務経験」と「戦略的思考力」の両方を意識的に積み上げていくことです。例えば、会計事務所で財務DDに取り組みながらも、その先にある戦略的意義を常に考える。あるいは、経営企画部門で事業戦略に携わりながら、その実現手段としてのM&Aについても深く考察する。こうした複眼的な視点の養成が、将来のM&A統括責任者に求められる総合力につながります。
多くの成功事例を見ると、20代では専門性(財務・会計・法務など)の基礎を徹底的に固め、30代前半でM&A実務の第一線を経験し、30代後半から40代にかけて責任あるポジションでM&A戦略の立案と実行を担当し、そして40代半ば以降でM&A統括責任者としての重責を担うというパターンが見られます。
もちろん、このキャリアパスが唯一の道ではありません。例えば、経営コンサルタントとして様々な業界の戦略策定に関わった後、特定の業界に特化したM&Aスペシャリストとして転身し、その専門性を買われて企業側のM&A責任者となるケースもあります。あるいは、事業部門のマネジメントとして業績を上げた後、その事業感覚を買われてM&A責任者に抜擢されるケースもあるでしょう。
重要なのは、自分の強みを認識し、それを活かせるキャリアパスを描くことです。財務や会計のバックグラウンドが強ければ、数字に強いM&A責任者を目指す。戦略コンサルティングの経験があれば、戦略的視点を武器にするM&A責任者を目指す。法務のバックグラウンドがあれば、リスク管理に長けたM&A責任者を目指す。それぞれの強みを活かしながら、足りない部分は意識的に補完していくことが、効率的なキャリア構築につながります。
そして最後に、M&A統括責任者を目指す上で見落としがちながら重要な要素として、「人的ネットワーク」があります。M&Aは人と人との信頼関係の上に成り立つビジネスです。業界内の人脈、アドバイザーとのつながり、経営層との関係性など、豊かな人的ネットワークはM&A責任者としての仕事を円滑に進める上で大きな資産となります。若いうちから様々な業界イベントやセミナーに積極的に参加し、人脈形成に努めることも、長期的なキャリア構築には欠かせません。
M&A統括責任者への道は決して平坦ではありませんが、着実にスキルと経験を積み上げていけば、必ず到達できる目標です。そして、そこに至るまでの道のりそのものが、ビジネスパーソンとしての総合力を高める貴重な成長過程となるでしょう。
M&A統括責任者というポジションで働くことは、ビジネスパーソンとしての総合的な能力を飛躍的に向上させる絶好の機会です。このロールで身につくスキルセットは、その後のキャリアパスを大きく広げる力となります。
まず、財務モデリングと企業価値評価のスキルが磨かれます。M&Aでは買収対象企業の適正価値を算定する必要があり、DCF法(割引キャッシュフロー法)やEBITDAマルチプルなど、様々な評価手法を駆使します。これらの分析を繰り返し行うことで、財務諸表から企業の本質的価値を読み解く「財務の目」が鍛えられていきます。この能力は、M&A案件だけでなく、あらゆる投資判断や経営判断において極めて重要な武器となります。
次に、高度な交渉力とコミュニケーション力が養われます。M&A交渉では、相手企業の経営陣、株主、金融機関、アドバイザーなど多くの関係者と折衝する必要があります。双方にとって望ましい条件を導き出すため、相手の立場を理解しながらも自社の利益を最大化するという、高度なバランス感覚が要求されます。こうした経験を通じて培われたコミュニケーション能力は、将来どのようなポジションにつくとしても大きな財産となるでしょう。
さらに、戦略的思考力と経営判断力が磨かれます。「この買収がもたらす長期的な価値は何か」「市場環境の変化に対応するためにどのようなケイパビリティが必要か」といった本質的な問いと常に向き合うことで、経営者視点でビジネスを俯瞰する力が身につきます。一つのM&A案件を推進するプロセスは、まさに小さな会社経営を体験するようなものであり、将来の経営者としての素養を培う最適な環境といえます。
プロジェクトマネジメント能力も大きく成長します。M&A案件では、財務、法務、人事、広報、事業部など社内外の様々なチームを調整しながらプロジェクトを前進させる必要があります。複雑な案件を期限内に完遂させる経験は、どのような大規模プロジェクトにも応用できる実践的なマネジメントスキルを鍛えます。
このように多面的に成長できる環境であるからこそ、M&A統括責任者としての経験は、その後のキャリア展望も非常に広がります。
M&A責任者として企業の財務戦略や資本配分に携わった経験は、CFOに求められる能力と高い親和性があります。実際、多くの大企業でM&A部門のトップがCFOに就任する例は少なくありません。
さらにその先には、CEO(最高経営責任者)としての道も開かれています。M&A統括責任者時代に培った戦略的視点と経営判断力は、CEOにとって不可欠な素養です。特に事業ポートフォリオの再構築や新規事業領域への進出など、企業の大きな転換点においてその経験は大いに活きることでしょう。
企業価値評価や案件推進のスキルセットは、投資のプロフェッショナルとしても高く評価されます。
これまでの経験を活かして様々な企業のM&A戦略をサポートする道も考えられます。実務経験のある人材は、クライアントの立場を理解できるため、非常に価値のあるアドバイザーとなることができます。さらに会計事務所や投資銀行、コンサルティングファームなどでM&A関連のプラクティスを率いるパートナーとして活躍するケースもあります。
M&A統括責任者として培った企業価値向上の視点や戦略的思考は、他社の取締役会においても大いに貢献できるでしょう。実際、M&A経験豊富な経営人材は、成長戦略の策定や投資判断において重要な役割を果たすため、多くの企業から社外取締役として招かれています。
起業家として新たなビジネスを立ち上げる選択肢もあります。M&Aを通じて様々な事業モデルを分析し、業界の課題や機会を深く理解してきた経験は、起業においても大きな強みとなります。特に事業再生やカーブアウト(企業からの事業切り出し)を活用したMBO(マネジメント・バイアウト)などは、M&A経験者が起業家へと転身する典型的なパターンの一つです。
これらのキャリアパスに共通するのは、「ビジネスの最前線で重要な意思決定に関わる」という点です。M&A統括責任者としての経験は、鋭い分析力、判断力、そして実行力を磨く最高の機会であり、それらは将来どのようなキャリアを選択するにしても、かけがえのない財産となるでしょう。
高度な専門性と経営者視点を併せ持つM&A統括責任者の経験は、ビジネスリーダーとして無限の可能性を開く黄金のパスポートといえるでしょう。日々の業務は決して容易ではありませんが、そこで得られる成長と将来のキャリア展望を考えれば、挑戦する価値は十分にあると言えます。