経理・財務・会計ファイナンス人材のためのキャリア名鑑

会計人材のキャリア名鑑

新興上場企業の内部監査部マネージャー

「監査チームを率い、急成長企業のリスク管理とガバナンス強化を推進」

未公開の課題を発見し、会社の成長を守り抜く

経営陣への直言も厭わない、組織の守護者

高度な専門性がビジネス全般への理解と融合する、希少なスペシャリスト

主な業務内容

  • 内部統制の有効性評価とリスクマネジメント
  • コンプライアンス遵守状況の監査と改善提案
  • 経営陣への直接報告と改善提案の実施
  • リスク評価に基づく年間監査計画の策定と実行

想定年収

600万円~1,200万円
※業績や評価によって変動

想定年齢

28歳~40歳

新興上場企業の内部監査部マネージャーは こんな仕事

新興上場企業において、内部監査部マネージャーは組織の「見えざる番人」として、企業価値を守り高める重要な役割を担っています。表舞台で華々しく活躍する営業や経営企画とは異なり、内部監査は縁の下の力持ち。しかし、その影響力は計り知れません。企業の「健全性」と「持続的成長」を支える要として、内部統制の仕組みを評価し、リスクを未然に防ぎ、時には経営陣にも忌憚なく意見する—そんな仕事です。

高度な専門性と幅広いビジネス知識を武器に、企業価値の保全者となります。新興上場企業ならではのスピード感ある環境で、会社の成長フェーズに合わせた監査体制の構築から実行まで、その手腕が試されるポジションです。企業の透明性と誠実さを追求する、そんな崇高な使命に共感できる方にとって、この職種は大きなやりがいと成長をもたらすでしょう。

内部監査部マネージャーは、企業の「自浄作用」を担う部門のリーダーです。新興上場企業において、この役割はとりわけ重要です。なぜなら、急成長期には業務プロセスやリスク管理体制が追いつかないケースが多く、適切な内部統制の構築と評価が企業の持続的成長に直結するからです。

具体的な業務として、まず年間監査計画の策定があります。限られたリソースで最大の効果を出すため、どの部門・プロセスに監査の目を向けるべきか、リスクベースのアプローチで優先順位をつけていきます。例えば、売上計上のタイミングが不明確なシステム、海外拠点の経費精算プロセス、新規事業における契約管理など、「問題が起きやすい」または「問題が起きると影響が大きい」領域を見極めます。

監査の実施局面では、チームをリードして各部門担当者へヒアリング、証憑の確認、業務プロセスの整備・運用状況の評価などを行います。「証拠に基づく評価」が監査の基本姿勢です。例えば、売掛金の回収管理を監査する場合、滞留債権リストの抽出、営業担当者へのヒアリング、督促記録の確認などを通じて、本当に適切な管理が行われているかを検証します。その際、問題点を指摘するだけでなく、「なぜその問題が生じているのか」の根本原因まで掘り下げ、実効性のある改善策を提案することが求められます。

新興企業特有の課題として、急成長に伴う「ひずみ」への対応があります。例えば、IPO直後は社員数が急増して教育が追いつかず、重要な業務プロセスを理解しないまま作業する社員が増えるリスクがあります。または、急拡大する事業に業務フローの整備が追いつかない状況も少なくありません。内部監査部マネージャーは、こうした企業の成長痛に対して、適切なタイミングで警鐘を鳴らし、解決策を提示する役割も担うのです。

また、監査報告書の作成と経営陣への報告も重要な職務です。監査で発見した事項を、経営陣が理解しやすく、かつ改善のモチベーションが高まるように伝えることが求められます。時には耳の痛い指摘を行うこともありますが、「企業価値を守るため」という共通目標を常に意識し、建設的なコミュニケーションを心がけます。経営会議や取締役会での報告では、重要なリスク事項について簡潔明瞭に説明し、経営判断をサポートします。

さらに、内部統制システムの構築・評価も重要な役割です。J-SOX対応における内部統制文書の整備や評価、ITシステムの統制評価など、会社の基本的な「守り」の体制を整えていきます。新興上場企業では特に、成長に伴い事業や組織が複雑化する中で、適切な権限分離やシステム統制をどう構築するかが大きな課題となります。

このように、内部監査部マネージャーは、企業の「健全な成長」をサポートする重要なポジションです。鋭い分析力と提案力が、企業の価値向上に直結する、そんなやりがいのある仕事なのです。

新興上場企業の内部監査部マネージャーという ポジションの魅力

この職種を目指す最大の理由は、「企業の誠実さと透明性を守る」という社会的使命にあります。内部監査部マネージャーは、「チェック係」のみならず、企業が社会からの信頼を維持し、持続的に成長するための要となる存在です。昨今、企業不祥事が社会問題となる中、このポジションの社会的意義はますます高まっています。

新興上場企業という環境には特別な魅力があります。成長フェーズにある企業では、監査体制そのものを構築していく機会に恵まれます。「ゼロからの創造」という醍醐味を味わえるのです。例えば、監査手法の確立、リスク評価の枠組み作り、経営陣との報告ラインの構築など、アイデアと専門性が組織の根幹に直接反映されます。これは大手上場企業の既存システムの中では得られない貴重な経験です。

また、新興上場企業は事業展開のスピードが速く、次々と新しいビジネスモデルや海外進出などにチャレンジします。内部監査部マネージャーは、そうした新たな取り組みに潜むリスクを事前に評価し、適切な統制を提案する立場にあります。つまり、企業の挑戦を「健全に」サポートする役割を担うのです。このダイナミックな環境での経験は、ビジネス感覚と問題解決能力を大きく成長させるでしょう。

さらに、内部監査という立場は、会社全体を俯瞰できる稀有なポジションです。財務、営業、製造、IT、法務など、あらゆる部門と関わり、そのプロセスやリスクを深く知ることができます。「会社の横串を刺す」経験は、将来のキャリアにおいて大きな強みとなります。CFOや管理部門責任者など、より高いマネジメントポジションを目指す方にとって、内部監査の経験は非常に価値のあるステップとなるでしょう。

内部監査部マネージャーとして働く醍醐味の一つに、「経営陣に直接提言できる」点があります。他の中間管理職では得られない、トップマネジメントとの直接的な対話の機会が豊富にあります。監査結果の報告や改善提案は、時に経営戦略そのものにも影響を与えます。自身の専門的見解が会社の意思決定に直接反映される—この影響力は大きなやりがいです。

この職種は「守りの仕事」と思われがちですが、実は企業のイノベーションを支える面もあります。新規事業やM&Aなどの際に、リスク管理の観点からアドバイスすることで、「攻め」のビジネス判断をより堅実なものにできるのです。特に新興上場企業では、この「守りが攻めを支える」役割が顕著です。

企業の透明性と誠実さを追求する。非効率なプロセスを発見し、改善する。潜在的なリスクから会社を守る。そして経営陣に真実を直言できる—このような崇高かつ挑戦的な使命に共感できる方にとって、内部監査部マネージャーは魅力的なキャリア選択となるでしょう。

新興上場企業の内部監査部マネージャーの 年間スケジュール例

新興上場企業の内部監査部マネージャーは、監査計画の実施とJ-SOX対応を両立させながら、年間を通じて計画的に業務を進める必要があります。以下は、3月決算企業で監査役会設置会社を想定した年間スケジュール例です。

4月(年度始め)

監査計画関連

  • 年度監査計画の最終承認取得(取締役会・監査役会)
  • 第1四半期監査テーマの詳細計画策定
  • 年間リソース配分計画の調整・確定

J-SOX関連

  • 前年度の内部統制評価結果の最終確認
  • 当年度の評価範囲・重要性の検討
  • 監査法人との年間スケジュール調整会議

組織・体制関連

  • チームメンバーの年間目標設定面談
  • 内部監査部門の年度KPI設定
  • 研修・能力開発計画の確定

5月

監査計画関連

  • 第1四半期監査の実施(通常2-3テーマ)
  • 監査対象部門への事前説明会実施
  • 監査調書テンプレートの更新(必要に応じて)

J-SOX関連

  • 全社統制の評価計画策定
  • RCM(リスク・コントロール・マトリックス)の更新
  • 業務プロセスオーナーへのJ-SOX年間計画説明

報告関連

  • 前年度監査結果のフォローアップ状況確認
  • 経営会議向け前年度監査活動サマリー報告

6月

監査計画関連

  • 第1四半期監査の完了・報告書ドラフト作成
  • 第2四半期監査テーマの詳細計画策定
  • 被監査部門との改善計画合意

J-SOX関連

  • 全社統制評価の開始
  • ITシステム変更情報の収集・評価範囲への影響確認
  • キーコントロールの見直し・検証

報告関連

  • 監査役会向け第1四半期活動報告
  • 監査報告書の最終化・経営陣への報告
  • 第1四半期監査結果の被監査部門へのフィードバック

7月(第1四半期決算後)

監査計画関連

  • 第2四半期監査の開始
  • リスク評価の更新(必要に応じて)
  • 追加監査要請の検討・計画調整

J-SOX関連

  • 業務プロセス統制の整備状況評価開始
  • 第1四半期決算統制の評価
  • IT全般統制の評価開始

その他

  • 中間振り返り・リソース配分見直し
  • 監査法人とのコミュニケーション
  • 監査支援ツール・手法の改善検討

8月

監査計画関連

  • 第2四半期監査の継続実施
  • 臨時・特別監査の実施(必要に応じて)
  • フォローアップ監査の実施

J-SOX関連

  • 業務プロセス統制の整備状況評価継続
  • 統制文書の更新・レビュー
  • 自己点検結果のレビュー

人材育成関連

  • チームメンバーの中間評価・フィードバック
  • スキルギャップ分析・追加研修検討
  • 外部セミナー・研修への参加

9月(第2四半期決算)

監査計画関連

  • 第2四半期監査の完了・報告書作成
  • 第3四半期監査テーマの詳細計画策定
  • 半期ベースでの監査計画の見直し・調整

J-SOX関連

  • 第2四半期決算統制の評価
  • 整備状況評価の完了、運用状況評価の準備
  • 評価範囲の再検討・調整(必要に応じて)

報告関連

  • 監査役会向け半期活動報告
  • 経営会議での半期報告
  • 第2四半期監査報告書の発行・フィードバック

10月(上半期レビュー)

監査計画関連

  • 第3四半期監査の開始
  • 上半期の監査結果分析・テーマ横断的課題の抽出
  • 残りの監査テーマの優先順位再検討

J-SOX関連

  • 業務プロセス統制の運用状況評価開始
  • 不備事項の分析・改善支援
  • 外部監査人による評価との整合性確認

その他

  • 内部監査の品質自己評価
  • 次年度の監査リスク評価準備
  • 内部監査手法・アプローチの中間見直し

11月

監査計画関連

  • 第3四半期監査の継続実施
  • 過去監査の指摘事項フォローアップ
  • 特定テーマ監査の実施(必要に応じて)

J-SOX関連

  • 業務プロセス統制の運用状況評価継続
  • IT統制の運用状況評価
  • 統制不備の改善状況モニタリング

次年度準備関連

  • 次年度リスクアセスメント開始
  • ステークホルダーインタビュー実施
  • 監査技術・手法の更新検討

12月(第3四半期決算)

監査計画関連

  • 第3四半期監査の完了・報告書作成
  • 第4四半期監査テーマの詳細計画策定
  • 年末の緊急課題対応(必要に応じて)

J-SOX関連

  • 第3四半期決算統制の評価
  • 内部統制不備の暫定評価
  • 重要な不備の有無判断・経営層報告

報告関連

  • 監査役会向け第3四半期活動報告
  • 第3四半期監査報告書の発行・フィードバック
  • 年間総括報告の準備開始

1月

監査計画関連

  • 第4四半期監査の開始
  • 年度内に完了すべき監査の優先実施
  • 次年度監査計画案の作成開始

J-SOX関連

  • 運用状況評価のとりまとめ
  • 最終的な不備集約・分析
  • 内部統制報告書ドラフト作成開始

次年度準備関連

  • 次年度リスクアセスメントの完了
  • 次年度監査テーマ候補の洗い出し
  • 監査部門の体制・リソース計画検討

2月

監査計画関連

  • 第4四半期監査の完了
  • 年間監査活動の総括・分析
  • 次年度監査計画案の完成・内部レビュー

J-SOX関連

  • 内部統制評価結果の最終とりまとめ
  • 外部監査人との評価結果すり合わせ
  • 内部統制報告書ドラフトの経営層レビュー

次年度準備関連

  • 次年度監査計画の監査役会事前協議
  • 監査アプローチ・手法の見直し
  • 監査チーム体制の見直し・調整

3月(年度末・決算期)

監査計画関連

  • 期末監査対応・臨時監査の完了
  • 次年度監査計画の最終化・承認手続き
  • 年間監査報告書の最終化

J-SOX関連

  • 期末決算統制の評価
  • 内部統制の最終評価結果確定
  • 内部統制報告書の最終承認手続き

次年度準備関連

  • 次年度監査計画の取締役会・監査役会承認取得
  • チームメンバーの年度評価・フィードバック
  • 監査部門の年間実績評価・改善点確認

年間を通じての継続活動

定期的ミーティング・報告

  • 週次:監査部内進捗確認ミーティング
  • 月次:経営層への活動報告
  • 四半期:監査役会への報告
  • 随時:監査役・監査法人とのコミュニケーション

人材育成・チーム管理

  • OJTを通じたチームメンバー育成
  • 専門資格取得支援(CIA、CISA等)
  • 外部セミナー・研修への参加

ナレッジ管理・品質向上

  • 監査調書の品質レビュー
  • ベストプラクティスの文書化・共有
  • 監査手法・ツールの継続的改善

ステークホルダー関係維持

  • 各事業部門との定期的コミュニケーション
  • 外部監査人との定期的すり合わせ
  • 監査役との緊密な連携

新興上場企業においては、このベースとなるスケジュールに加えて、急成長による組織変化や新規事業展開、さらにはM&A等の戦略的活動に応じた臨機応変な対応が求められます。また、監査チームの規模や成熟度に応じて、スケジュールの調整や優先順位付けを行う必要があります

新興上場企業の内部監査部マネージャーの 重要任務

新興上場企業の内部監査部マネージャーには多くの責務がありますが、特に重要な3つの任務を以下にピックアップします。

 

1.成長と統制のバランスを取る内部統制環境の構築・評価

新興上場企業特有の課題として、急速な成長と適切な統制のバランスを取ることが極めて重要です。

  • スケーラブルな統制設計の評価・支援:企業成長に合わせて拡張できる内部統制の設計を評価し、過剰でも不足でもない最適な統制レベルを提言する
  • 成長フェーズに応じた統制の段階的導入支援:企業の成長段階に合わせた統制の優先順位付けと段階的実装を支援する
  • イノベーションを阻害しない統制環境の評価:過度に硬直的な統制によって企業のアジリティやイノベーション能力が損なわれないよう、バランスの取れた統制環境を評価・提言する

急成長企業は統制強化とビジネススピードのトレードオフに直面しがちです。内部監査マネージャーは、企業価値を最大化する観点から、「必要十分な統制」を見極め、ビジネスの俊敏性と統制環境の整備を両立させる役割を担います。適切なバランスを欠くと、統制不足によるリスク顕在化や、過剰統制による成長機会の逸失につながります。

2.J-SOX対応と戦略的リスク監査の両立

上場企業として求められるJ-SOX対応を効率的に行いつつ、企業の持続的成長に関わる戦略的リスクも適切に監査範囲に含める必要があります。

  • 効率的なJ-SOX評価プロセスの確立:形式的・手続き的な評価に終始せず、本質的なリスクに焦点を当てたJ-SOX評価プロセスを設計・運用する
  • リスクベースの監査計画策定:コンプライアンス対応だけでなく、成長戦略に関連する重要リスク(新規事業、M&A、IT投資等)を監査範囲に適切に含める
  • 限られたリソースの戦略的配分:法的要請事項と企業の成長に不可欠な領域のバランスを取った監査リソース配分を行う

新興上場企業の内部監査部門は通常リソースが限られており、J-SOX対応に注力するあまり、戦略的リスクへの監査が不十分になりがちです。しかし、企業の持続的成長を支えるには、コンプライアンス対応と戦略的リスク監査の両方が不可欠です。このバランスを取ることができなければ、法的要請は満たしても企業価値向上への貢献が限定的になるリスクがあります。

3.経営層・事業部門との信頼関係構築と価値提供

内部監査の実効性を高めるためには、「問題指摘者」を超えて「価値創造パートナー」として認識されることが重要です。

  • ビジネス視点での改善提案:不備指摘だけではなく、ビジネス目標達成に貢献する建設的な改善提案を行う
  • 経営課題に即した監査テーマ設定:経営会議や事業戦略から得られる経営課題を理解し、それに即した監査テーマを設定する
  • 経営者目線のコミュニケーション:監査結果を経営的インパクト・ビジネス価値の観点から伝え、意思決定に活用しやすい形で提供する

内部監査部門が「必要悪」や「コンプライアンスのためだけの存在」と認識されると、表面的な協力しか得られず、実質的な改善や価値創造につながりません。特に成長志向の強い新興企業では、内部監査がビジネス価値向上にどう貢献するかを明確に示し、経営層や事業部門との信頼関係を構築できるかどうかが、監査の実効性を大きく左右します。この信頼関係がなければ、重要な情報へのアクセスが制限され、本質的な問題の発見や改善が困難になります。

これら3つの任務は相互に関連しており、いずれも「企業価値の持続的向上」という内部監査の究極の目的に貢献します。新興上場企業の内部監査部マネージャーは、コンプライアンス対応と企業成長支援のバランスを取りながら、限られたリソースで最大の効果を生み出すという難しい舵取りを求められます。

新興上場企業の内部監査部マネージャーの 報酬水準

新興上場企業の内部監査部マネージャーの具体的な報酬水準について、一般的な傾向と公開情報から推測される水準について説明します。

報酬水準の概要

新興上場企業(グロース市場や新興市場に上場した企業)の内部監査部マネージャーの年間報酬は、以下の要素によって大きく変動します。

  • 企業規模(売上高・時価総額)
  • 業種・業界
  • 企業の成長段階
  • 担当者のスキル・経験・資格
  • 監査部門の規模と位置づけ

推定年間報酬レンジ

基本給与および年間報酬(賞与含む)の一般的な範囲

  • 小規模新興上場企業(時価総額100億円以下)
    • 年間総報酬:600万円~1,200万円
    • 基本給:500万円~900万円程度
  • 中規模新興上場企業(時価総額100億円~500億円)
    • 年間総報酬:900万円~1,500万円
    • 基本給:700万円~1,100万円程度
  • 大規模・成長率の高い新興上場企業(時価総額500億円以上)
    • 年間総報酬:1,200万円~2,000万円以上
    • 基本給:800万円~1,400万円程度

報酬構成要素

  • 基本給与:全体報酬の60-80%を占めることが一般的
  • 賞与・業績連動報酬:全体報酬の20-40%程度
  • 福利厚生・その他手当:住宅手当、通勤手当、家族手当など
  • ストックオプション・株式報酬:成長企業特有の報酬要素として、一部企業で導入

報酬に影響を与える要因

企業側の要因

  • 内部監査の位置づけ:戦略的パートナーとして位置づける企業ほど報酬が高い傾向
  • 業界の規制度合い:金融・医薬品など規制の厳しい業界では報酬が高い傾向
  • 成長フェーズ:急成長期・グローバル展開期では報酬が高まる傾向
  • リスク環境:複雑なリスク環境を持つ企業では報酬が高い傾向

個人側の要因

  • 資格保有:CIA(公認内部監査人)、CISA(公認情報システム監査人)、公認会計士等
  • 経験年数:特に監査・経理・財務領域での経験
  • 業界知見:同業界での経験の有無
  • マネジメント経験:部下の人数・チームマネジメント経験
  • 外部監査法人出身:大手監査法人経験者は報酬が高い傾向

新興企業特有の傾向

  • 基本給はやや抑えめでも、ストックオプション等の長期インセンティブを組み合わせるケース
  • 成長に応じた報酬見直しが比較的頻繁
  • 上場直後は内部統制強化のため報酬を高めに設定するケースも

実際の報酬は個別企業の状況や人材の経験・スキルによって大きく変動することがあります。

新興上場企業の内部監査部マネージャーの 代表的な会社

日本では近年、革新的なビジネスモデルや先進的なテクノロジーを武器に急成長を遂げ、上場を果たした企業が複数存在します。その中でも特に注目されている3社をご紹介します。

1.SmartHR株式会社

概要

  • 創業: 2013年
  • 上場: 2019年東証マザーズ(現グロース市場)
  • 事業内容: クラウド型人事労務ソフト「SmartHR」の開発・提供

特徴

SmartHRは「労働にまつわる社会課題をなくし、誰もがその人らしく働ける社会をつくる」というミッションを掲げ、人事労務業務の効率化を実現するサービスを提供しています。入社手続きや雇用契約、給与明細の配布、年末調整など、従来紙や手作業で行われていた業務をデジタル化し、大幅な業務効率化を実現しています。

多くの企業で人手不足が深刻化する中、バックオフィス業務の効率化ニーズを的確に捉え、急速に顧客基盤を拡大。日本企業のDX推進を支援する代表的なSaaS企業として評価されています。

2.メルカリ株式会社

概要

  • 創業: 2013年
  • 上場: 2018年東証マザーズ(現プライム市場)
  • 事業内容: フリマアプリ「メルカリ」の運営、決済サービス「メルペイ」の提供

特徴

「新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る」をミッションに掲げ、個人間取引のプラットフォームとして急成長を遂げました。スマートフォンの普及と結びついた使いやすいUIと、配送システムの最適化により、新たな消費行動を生み出しています。

日本発のユニコーン企業として海外展開も積極的に進め、米国でも事業を展開。2023年にはついに黒字化を達成し、安定的な成長軌道に乗りつつあります。

フリマアプリの枠を超え、金融サービス「メルペイ」を展開するなど、生活インフラとしての地位を確立しつつある点も注目されています。社内のグローバル化を積極的に進め、外国人採用も積極的におこなっています。

3.フリー株式会社

概要

  • 創業: 2012年
  • 上場: 2019年12月東証マザーズ(現グロース市場)
  • 事業内容: クラウド会計ソフト「会計freee」、給与計算ソフト「人事労務freee」の開発・運営

特徴

「スモールビジネスを、世界の主役に。」というミッションを掲げ、個人事業主や中小企業向けのクラウド会計・人事労務サービスを提供しています。独自のテクノロジーを活用し、複雑な会計処理や法改正への対応をリアルタイムで行うことで、専門知識がなくても直感的に業務ができる環境を提供しています。

設立以来、継続的な成長を続け、顧客基盤は個人事業主から中小企業、さらには中堅企業へと拡大。サブスクリプションモデルによる安定的な収益基盤を構築しています。

会計データを基に金融サービスとの連携を強化するなど、スモールビジネスのインフラとなるプラットフォームを構築する戦略も注目されています。

 

これらの企業に共通するのは、テクノロジーを活用して既存の業務プロセスを根本から変革し、効率化・最適化を図るという点です。また、サブスクリプションモデルを中心としたビジネスモデルにより、ストック型の収益構造を実現している点も特徴的です。

日本のビジネス環境の変化に合わせて、今後もこうした新興企業の成長・上場が期待されています。

新興上場企業の内部監査部マネージャーに 向いている人は、どんな人?

■求められるマインド

新興上場企業の内部監査部マネージャーには、監査技術や知識だけでなく、企業の成長段階に適した特有のマインドセットが求められます。以下に、特に重要な要素を解説します。

1.成長支援者としてのマインド

バリューアドの姿勢

  • 「問題発見者」ではなく「価値創造パートナー」という自覚を持つ
  • 指摘することより解決策の提案に重きを置く
  • 「何が間違っているか」より「どうすれば良くなるか」の視点を優先する

成長思考

  • 企業の成長阻害要因を取り除くことが自分の使命という認識
  • 「完璧を求める」より「改善の方向性を示す」ことを重視
  • 将来のビジネス拡大に耐えうる統制の設計を支援する意識

実用主義

  • 理論や形式より実効性を重視する姿勢
  • 「あるべき論」より「現実的に実行可能な改善策」を考える
  • 限られたリソースで最大の効果を生む改善提案を心がける

2.バランス感覚を持つマインド

リスクとリターンの均衡

  • 過度な統制強化がビジネスチャンスを阻害することへの感度
  • コストとベネフィットを常に天秤にかける習慣
  • 「ゼロリスク」より「適切なリスクテイク」を支援する姿勢

短期と長期の視点

  • 目の前の課題解決と長期的な基盤構築のバランスを意識
  • 「今日の問題」と「明日のリスク」の両方に目を配る
  • 経営の時間軸と同期した思考

グローバルスタンダードとローカル最適の調和

  • 国際的な基準・原則を理解しつつ、自社の状況に適した適用を考える
  • 形式的なコンプライアンスより本質的なガバナンス向上を重視
  • 「ベストプラクティス」を鵜呑みにせず自社に適した形に翻訳する姿勢

3.柔軟性と適応力を備えたマインド

アジャイル思考

  • 計画通りの遂行より状況変化への迅速な対応を重視
  • 年間計画を固定視せず、環境変化に応じて柔軟に見直す姿勢
  • 完璧な監査より、適時の気づきと改善を優先する

学習志向

  • 新技術・新領域へのアンテナを常に張る好奇心
  • 自分の専門領域を超えた知識獲得への積極性
  • 「知らない」ことを認め、学びに変える謙虚さ

変化受容

  • 急成長に伴う頻繁な組織変更・方針転換を前向きに捉える姿勢
  • 「以前はこうだった」という固定観念を持たない
  • 曖昧さや不確実性を受け入れる精神的強さ

4.影響力を発揮するマインド

経営者視点

  • CEOやCFOが何を重視しているかを常に理解しようとする姿勢
  • KPIや経営目標を監査活動の判断軸に据える視点
  • 事業部門の目標達成を支援するパートナー意識

説得力重視

  • 形式的な報告より、インパクトのあるコミュニケーションを心がける
  • データや具体例を効果的に用いて主張の説得力を高める意識
  • 相手の立場や関心に合わせたメッセージングを工夫する姿勢

関係構築志向

  • 監査対象部門との信頼関係を資産と考える価値観
  • 対立より協働を重視する姿勢
  • 「監査する側・される側」の二項対立を超えた協力関係構築への意欲

5.高い職業倫理と独立性を保つマインド

勇気ある発言

  • 必要な場面では経営陣に対しても率直に意見する勇気
  • 人気のない指摘であっても、必要なら声を上げる覚悟
  • 組織の長期的健全性のために短期的な摩擦を恐れない姿勢

客観性の自覚

  • 「組織の免疫系」としての役割意識
  • 人間関係や前例に流されない公正さの保持
  • 良い知らせも悪い知らせも偏りなく伝える誠実さ

継続的自己検証

  • 自らの判断や行動にバイアスがないか常に振り返る習慣
  • 「誰のため」「何のため」の原点に立ち返る自省
  • 自分自身の立場や価値観を相対化できる視点

6.未来志向のマインド

イノベーション支援

  • 監査を通じて企業のイノベーション力を高める意識
  • 社内起業家精神(イントラプレナーシップ)への共感
  • 新しいビジネスモデルやテクノロジーへの前向きな姿勢

デジタル思考

  • データ分析やAI活用など先進技術の監査への応用意欲
  • 監査プロセス自体の効率化・高度化を追求する姿勢
  • DX時代のリスクと機会を理解しようとする好奇心

サステナビリティ視点

  • ESG要素を含む非財務情報の重要性認識
  • 短期的利益と長期的持続可能性のバランス感覚
  • 社会的価値と経済的価値の両立を支援する意識

新興上場企業の内部監査部マネージャーは、企業の成長と変化の最前線に立つ存在です。規律と柔軟性、独立性と協調性、理論と実践など、一見矛盾する要素のバランスを取りながら、企業の健全な成長を支えるマインドが求められます。企業価値の創造に貢献する戦略的パートナーとしての自覚が、特に重要と言えるでしょう。

■必要なスキル

新興上場企業の内部監査部マネージャーには、企業の急成長期特有の課題に対応するための多様なスキルが求められます。以下、必要となる主要スキルを体系的に解説します。

1.専門的・技術的スキル

監査関連の専門知識

  • COSO内部統制フレームワーク、ERM(全社的リスクマネジメント)等の体系的理解
  • 金融商品取引法内部統制報告制度の要件と実務的対応方法の把握
  • 限られたリソースで最大効果を出すためのリスク評価と監査計画策定技法
  • 不正の兆候を察知する洞察力と調査手法の理解

業務知識・業界知識

  • 販売、購買、生産、在庫、財務、人事等の標準的業務フローとリスクポイントの把握
  • 自社が属する業界特有の規制環境、ビジネスモデル、リスク特性の理解
  • 上場企業として遵守すべき法令・規制の体系的理解(会社法、金商法、個人情報保護法等)

IT・デジタルスキル

  • 大量データから異常値や傾向を把握する分析スキル
  • ITリスク評価、システム統制の理解
  • 監査支援ツール、RPA、データ可視化ツール等の活用スキル
  • 情報セキュリティリスクの基本的理解

2.ビジネスパートナーとしてのスキル

経営視点・戦略的思考

  • 経営陣の優先事項や懸念を理解し、監査活動に反映するスキル
  • 会社の成長戦略や事業計画を理解し、関連リスクを特定する能力
  • 部分最適でなく企業全体の価値向上の視点で判断するスキル
  • 現在の傾向から将来リスクを予測する先見性

コミュニケーション・影響力

  • 複雑な監査結果を経営インパクトに焦点を当てて簡潔に報告するスキル
  • 改善提案を効果的に説明し、実行への合意を取り付けるスキル
  • 専門的な内容を非専門家にもわかりやすく説明する能力
  • 関係構築力:各部門の責任者との建設的な関係を構築・維持するスキル

付加価値提供力

  • 問題指摘を超えて実践的な解決策を提案できるスキル
  • 社内外の優良事例を収集し、適切に共有・適用する能力
  • 監査対象部門の目標達成を支援する姿勢と能力
  • 組織変革や改善活動を効果的に支援するスキル

3.マネジメントスキル

リーダーシップ・チームマネジメント

  • 内部監査チームメンバーの専門性向上を支援するコーチングスキル
  • 多様なバックグラウンドをもつ監査チームを効果的に指揮するスキル
  • 明確な目標設定と公正な評価を行うスキル
  • チームの士気と専門家としての誇りを維持するスキル

プロジェクトマネジメント

  • 年間監査計画の策定と実行管理スキル
  • 限られた監査リソースを最大効果が出るよう配分するスキル
  • 並行して進行する複数の監査案件を効率的に管理するスキル
  • 監査の品質を維持しながら期限内に完了させる管理スキル

ステークホルダー管理

  • 監査役等への効果的な報告と信頼関係構築スキル
  • 会計監査人等との効率的な協力関係構築スキル
  • 経営層の期待を理解し、適切な距離感で関係構築するスキル
  • 監査に関わる複数部門の調整やコンフリクト解決スキル

4.新興上場企業特有のスキル

アジャイル対応力

  • 急速な成長と頻繁な組織変更に柔軟に対応するスキル
  • 成長企業のテンポに合わせた監査活動を設計・実行する能力
  • 変化する環境で何が最重要かを見極めるスキル
  • インクリメンタル思考:完璧を求めず段階的改善を設計・実装するスキル

バランス感覚

  • 過剰統制でビジネス阻害せず、かつ必要な統制は確保する判断力
  • 緊急課題対応と長期的な基盤構築のバランスを取るスキル
  • 形式的コンプライアンスと実質的リスク低減のバランス感覚
  • 国際標準と自社特性のバランスを取るスキル

イノベーション支援力

  • 新規事業特有のリスクを適切に評価するスキル
  • 従来型の監査手法を超えた柔軟な監査アプローチの設計・実行力
  • DXや新技術導入に伴うリスクと機会の理解力
  • 前例のない課題に対して独自の解決策を考案する創造力

5.スケーラビリティ対応スキル

成長対応型内部統制設計

  • 企業成長に合わせて拡張可能な内部統制を設計するスキル
  • 成長に伴うシステム刷新・統合のリスク管理スキル
  • 組織拡大に伴う権限委譲と統制のバランスを設計するスキル
  • 国際展開対応力:グローバル展開に伴う統制の国際化対応スキル

資源効率最大化

  • 少ないリソースで最大効果を出す創意工夫
  • 反復的監査作業の自動化・効率化を推進するスキル
  • 必要に応じて外部専門家を効果的に活用するスキル
  • 監査知見を再利用可能な形で蓄積・共有するスキル

優先順位付け

  • 多様なリスクの中から重点対応すべき領域を見極めるスキル
  • 統制強化のコストと効果を冷静に分析するスキル
  • 緊急性と重要性に基づき対応順位を決定するスキル
  • 理想形を見据えつつ段階的な実装計画を設計するスキル

6.新技術対応スキル

先端テクノロジー理解

  • AI、ブロックチェーン、クラウド等の新技術に関するリスク理解
  • サブスクリプション、プラットフォームビジネス等の新しいビジネスモデルとそのリスク理解
  • 技術進化の方向性と将来的な影響を予測する能力

データ活用力

  • 問題解決にデータ分析的アプローチを適用するスキル
  • 従来の監査プロセスをデジタル技術で変革する構想力
  • 自動化されたリアルタイムリスクモニタリングを設計するスキル

新興上場企業の内部監査部マネージャーには、伝統的な内部監査スキルに加えて、急成長企業特有の課題に対応するための複合的なスキルセットが求められます。適切な優先順位付けと現実的なアプローチで、限られたリソースの中でも企業価値向上に貢献できる能力が、特に重要と言えるでしょう。

新興上場企業の内部監査部マネージャーまでの 道のり

内部監査部マネージャーに至るキャリアパスは多様です。このポジションに就くまでの道筋を逆算して考えてみましょう。

多くの場合、内部監査部マネージャーの直前のポジションは、内部監査部の主任・リーダークラスや他部門の管理職です。内部監査のキャリアパスとしては、監査スタッフとして実績を積み、チームリーダーとして少人数の監査プロジェクトを主導した経験を持つことが重要です。この過程で、様々な業務領域の監査経験を積み、監査技術と対人スキルを磨いていきます。

また、財務部や経理部のマネージャー、情報システム部の管理職、法務部のリーダーなど、専門部署での経験を経て内部監査部マネージャーに転じるケースも少なくありません。特に新興企業では、専門性と管理職経験を買われて、他部門から招聘されることが多いのです。

さらに遡ると、キャリアの入り口はさらに多様化します。大きく分けると以下のような経路があります。

  • 監査法人出身者
    監査法人で公認会計士として経験を積んだ後、企業の内部監査部門に転職するケースです。財務諸表監査の経験があり、会計・監査の専門知識が豊富なため、内部監査でも即戦力となります。特に、IPO後間もない企業では、財務報告に関する内部統制の構築経験が高く評価されます。
  • コンサルティングファーム出身者
    リスク管理や内部統制構築のコンサルティング経験者も、内部監査部マネージャーの有力候補です。多様なクライアントでの経験があり、ベストプラクティスに関する知見が豊富なことが強みとなります。
  • 事業会社の管理部門出身者
    財務・経理部門、法務部門、情報システム部門などで経験を積んだ後、内部統制や監査の分野にキャリアチェンジするケースです。業務プロセスを深く理解しているため、実践的な監査が可能になります。
  • 他社の内部監査部門からの転職者
    大手企業の内部監査部門でキャリアを積み、より上位のポジションを求めて新興企業に転職するパターンです。確立された監査手法の知識を新しい環境に応用できることが強みとなります。

若手のうちに身につけておくべきスキルとしては、まず基本的な会計知識が挙げられます。簿記2級レベルの知識は最低限必要でしょう。また、論理的思考力とコミュニケーション能力も重要です。これらは、監査レポートの作成や、ヒアリングの実施などの基本業務に不可欠です。

また、IT知識も早期から習得しておくと有利です。特に、データ分析ツールの活用能力は、現代の内部監査では重要性が高まっています。例えば、ExcelのVBAやSQLの基本、さらに進んでRやPythonなどのデータ分析スキルがあれば、大量のデータから異常値や傾向を効率的に発見できるようになります。

キャリア構築のコツとしては、まず幅広い業務経験を積むことが挙げられます。単一の業務領域だけでなく、財務・営業・生産・購買・ITなど、様々な分野に触れることで、ビジネスの全体像を把握する力が養われます。特に若手のうちは、様々なプロジェクトや部門をローテーションで経験することが理想的です。

さらに、自己啓発として専門資格の取得も有効です。CIA(公認内部監査人)やCISA(公認情報システム監査人)、USCPA(米国公認会計士)などの資格は、専門性をアピールする強力な武器となります。

内部監査部マネージャーを目指す方にとって重要なのは、「批判者」ではなく「改善の促進者」としての姿勢です。問題を指摘するだけでなく、より良いビジネスのあり方を提案できる視点を持ち続けることが、このキャリアパスを歩む上での大きな強みとなるでしょう。

このように、内部監査部マネージャーへの道は一本道ではなく、様々なバックグラウンドから到達可能なポジションです。強みと経験を活かしながら、計画的にスキルを積み上げていくことで、このやりがいのあるポジションに就くチャンスは広がっていきます。

新興上場企業の内部監査部マネージャーの キャリアパスの展望

内部監査部マネージャーは、「守りの番人」としての役割を超えて、多様なスキルが磨かれるポジションです。まず、批判的思考力と問題解決能力が飛躍的に向上します。監査では「なぜそうなのか」を常に問い続け、表面的な説明に満足せず、根本原因まで掘り下げて考える習慣が身につきます。このクリティカル・シンキングは、あらゆるビジネスシーンで価値を発揮する普遍的なスキルです。

また、コミュニケーション能力も大きく成長します。監査では時に厳しい指摘をしなければならないシーンもありますが、相手を尊重しながら建設的に伝える技術が磨かれます。「批判ではなく改善を促す」対話力は、将来どんな立場に就いても役立つ財産となるでしょう。特に新興企業では部門間の壁が低く、様々なレベルの関係者と直接対話する機会が多いため、この能力が加速度的に向上します。

リスク分析力も、この職種で身につく重要なスキルです。「何が問題になり得るか」を予測し、その影響の大きさと発生可能性を評価する能力は、経営判断の核心部分。内部監査部マネージャーとして様々な業務プロセスのリスクを分析する経験は、将来的に経営層として意思決定する際の強力な基盤となります。

新興上場企業の内部監査部マネージャーは、幅広いビジネス知識も吸収できます。IPO後の成長期にある企業では、新規事業の立ち上げ、海外展開、M&Aなど様々なイニシアチブが進行していることが多く、それらに関わる監査を通じて、多角的なビジネス感覚が養われます。財務、法務、IT、営業、生産管理など、多岐にわたる領域の知識が習得できるのは、内部監査ならではの強みです。

キャリアパスとしては、非常に選択肢が広がります。

  • 社内昇進

CFOや管理部門統括などの上位マネジメントへとステップアップすることが可能です。全社的な視点とリスク管理能力を買われて、経営企画部門のリーダーになるケースも少なくありません。また、スタートアップ企業のCFOとして招聘されることもあります。内部統制やコーポレートガバナンスの専門家として、上場準備を指揮するためです。

  • 社外への転職

コンサルティングファームにおいて内部統制やリスク管理の専門コンサルタントとして活躍する道や、監査法人のアドバイザリー部門で専門性を発揮する選択肢もあります。また、近年では企業のESG(環境・社会・ガバナンス)への関心の高まりから、サステナビリティやコンプライアンスの責任者として転身するケースも増えています。

さらに、内部監査で培った独立性と専門性を活かし、社外取締役や監査役として企業ガバナンスに貢献するキャリアへの道も開けています。経験豊富な内部監査のプロフェッショナルは、取締役会の実効性を高める貴重な人材として評価されるのです。

内部監査部マネージャーとしての経験は、スキルセットの獲得を超えて、「ビジネスを見る目」そのものを養います。適切な距離感を保ちながら組織の実態を観察し分析する習慣は、どんなポジションに就いても活きる視点となるでしょう。特に、新興上場企業という環境では、成長に伴う組織の変化や課題を間近で経験できるため、その価値はより一層高まります。

このポジションで培われる「リスク感覚」は、将来的に経営判断をする際の直感として働くようになります。「この事業計画のどこに落とし穴があるか」「この契約のリスクは何か」といった問いに、瞬時に反応できる力は意思決定の質を高めてくれるでしょう。

また、新興企業の内部監査では、リソースが限られた中で効果的な監査を行わなければならないため、効率性と優先順位付けの能力も磨かれます。この「少ないリソースで最大の効果を生み出す」思考は、どんなマネジメントポジションでも必要とされるスキルです。

このように、内部監査部マネージャーは「守り」の立場でありながら、その経験が「攻め」のビジネスリーダーへの成長を強力にサポートするキャリアパスなのです。リスクを理解することで、より自信を持って挑戦できるリーダーへと成長できる—そんな魅力的な職種と言えるでしょう。

まとめ

役割と責任

  • 新興上場企業の内部監査部マネージャーは、企業の「健全性」と「持続的成長」を支える要として、内部統制の仕組みを評価し、リスクを未然に防ぎ、時には経営陣にも忌憚なく意見する役割
  • 急成長期には業務プロセスやリスク管理体制が追いつかないケースが多く、適切な内部統制の構築と評価が企業の持続的成長に直結

求められるマインドやスキル

  • 規律と柔軟性、独立性と協調性、理論と実践など、一見矛盾する要素のバランスを取りながら、企業の健全な成長を支えるマインド
  • 「ルールの番人」を超えて、企業価値の創造に貢献する戦略的パートナーとしての自覚
  • 伝統的な内部監査スキルに加えて、急成長企業特有の課題に対応するための複合的なスキルセット
  • 適切な優先順位付けと現実的なアプローチで、限られたリソースの中でも企業価値向上に貢献できる能力

重要な職務

  • 成長と統制のバランスを取る内部統制環境の構築・評価
  • J-SOX対応と戦略的リスク監査の両立
  • 経営層・事業部門との信頼関係構築と価値提供

キャリアパス

  • 内部監査部マネージャーの入り口は多種多様。 監査法人、コンサルティングファーム、他社の内部監査部門、自社の経理部門や営業部門などからスタートするケースが多い
  • 自社の内部監査部の主任やリーダー、他部門の管理職から内部監査部のマネージャーにキャリアアップ
  • 内部監査部長を経てCFOやFP&Aへの昇進や、上場企業の社外役員や監査役などへのキャリアアップなどの多様なキャリアパス