経理・財務・会計ファイナンス人材のためのキャリア名鑑

会計人材のキャリア名鑑

新興上場企業の内部監査部長

「変化の早い市場で成長とガバナンスの両立を支える、攻めと守りを兼ね備えた内部監査責任者」

誰かが見ていないと組織は暴走する

透明性こそが企業価値を高める

問題を未然に防ぐ、その使命感が会社を守る

主な業務内容

  • 企業内のリスク評価と内部統制システムの監査・評価
  • コーポレートガバナンス体制の整備・強化
  • 内部監査計画の立案・実施と改善提案の策定

想定年収

800万円~1,500万円
※業績や評価によって変動

想定年齢

30歳~50歳

新興上場企業の内部監査部長は こんな仕事

新興上場企業の内部監査部長―それは企業の「最後の砦」として組織を守り、透明性と信頼性を担保する重要なポジションです。上場したばかりの成長企業において、この役職は「監視役」ではなく、健全な企業成長を支える「戦略的パートナー」としての側面も持ち合わせています。不正や法令違反を未然に防ぎながら、ビジネスの効率性や有効性も高める―その両立を実現するプロフェッショナルとして、組織の中核で活躍するチャンスがここにあります。変化の激しい新興企業で培われるスキルと経験は、キャリアに確固たる基盤を築くことでしょう。

新興上場企業の内部監査部長として、企業の「健全性」と「成長性」を両立させる重要な役割を担います。まさに企業統治の要として、経営陣と現場の橋渡し役を果たしながら、組織全体を俯瞰する視点が求められるのです。

例えば、朝は経営会議に出席し、企業が直面するリスクについて経営陣と議論することから始まり、「このビジネス戦略にはどのようなリスクが潜んでいるか」「新規事業の内部統制はどう設計すべきか」など、経営判断に内部統制の視点を提供します。

午後からは内部監査チーム内でのミーティングで、各部門の監査計画や進捗状況を確認します。急成長している営業部門では売上計上の適切性、IT部門ではシステムセキュリティ、経理部門では財務報告の正確性など、各部門特有のリスクに焦点を当てた監査アプローチを指導します。

新興上場企業では特に、急成長に伴うガバナンス体制の整備が追いつかないという課題が常にあります。「売上至上主義に走り過ぎていないか」「急拡大する人員に対して教育は行き届いているか」といった点を冷静に評価し、時には経営陣に「待った」をかける勇気も必要です。

またJ-SOX(金融商品取引法に基づく内部統制報告制度)への対応も重要な任務です。監査法人との連携を図りながら、財務報告の信頼性を担保する内部統制を評価・報告する責任を負います。「この管理体制で本当に不正は防げるのか」「効率性を損なわずにどうリスクを低減できるか」という視点で、常に最適解を探求します。

内部監査部長の醍醐味は、チェック機能を超えて、企業価値向上のための提言ができることにあります。内部監査で発見した事象を指摘するだけでなく、「このプロセスはこう変えれば効率的になる」「こういった管理体制を整えることでリスクが低減される」など、ビジネスパートナーとして建設的な改善提案を行うのです。

特に成長スピードの速い新興企業では、海外進出やM&Aなど、ダイナミックな経営判断が次々と行われます。そんな中で「このスピード感を損なわずに、どう適切な管理体制を構築するか」という難題に取り組むことは、内部監査のプロフェッショナルとしての腕の見せどころとなるでしょう。

このポジションの魅力は、経営トップと近い距離で仕事をしながら、会社全体を把握できる数少ないポジションであることです。CEOやCFOとの直接的なコミュニケーションを通じて、企業の戦略や課題を深く理解し、時には「自社の成長のためには、この部分の管理体制強化が不可欠です」と進言する機会も得られます。

新興上場企業の内部監査部長という ポジションの魅力

なぜ新興上場企業の内部監査部長という道を選ぶのか。その理由は、企業の成長と健全性の両方に直接的に貢献できる、稀有なポジションだからです。

まず挙げられるのは、「企業防衛の最前線」としての使命感です。上場したばかりの企業は、その成長スピードゆえに思わぬ落とし穴に陥りやすいものです。売上至上主義に陥って不適切な会計処理を行ったり、急拡大する組織で不正が見過ごされたりするリスクが常に存在します。そんな中で「この会社を守るのは自分しかいない」という責任感と使命感を持って働けることは、他の職種では得難い充実感をもたらします。

次に「企業の未来を形作る」という醍醐味があります。新興上場企業では、ガバナンス体制そのものがまだ発展途上であることが多く、白紙から理想的な内部統制システムを構築することができます。「こういう会社にしたい」という理想を形にしていく喜びは、長年システムが固定化された大企業では味わえないものです。

また、新興企業特有の「変化への即応力」を身につけられることも大きな魅力です。事業環境や組織が目まぐるしく変わる中で、常に最適な内部統制のあり方を模索し続ける経験は、変化適応力という普遍的な能力を磨くことにつながります。この能力は、どんな業界・職種でも通用する「一生モノのスキル」となるでしょう。

他のキャリアと比較しても、内部監査部長の特徴的な点は「全社を俯瞰できる視座」を得られることです。営業部門のマネージャーは営業の専門家として深い知見を持ちますが、視野は営業活動に限定されがちです。一方、内部監査部長は営業、財務、IT、人事など全部門と関わり、それぞれの機能と課題を横断的に理解することができます。この全体観は、将来的にCOOやCEOを目指す上でも貴重な資産となるでしょう。

さらに、新興上場企業では「自分の手掛けた内部統制システムが企業の成長を支える土台となる」というやりがいがあります。努力が、「健全に成長する企業」という目に見える形で結実するのです。例えば、構築したリスク管理体制のおかげで未然に不正を防止できたり、効率的な業務プロセスの提案が全社的な生産性向上につながったりした時の達成感は何物にも代えがたいものです。

社会的意義という観点からも、内部監査部長の仕事は非常に価値があります。企業不祥事が相次ぐ現代社会において、企業の透明性と誠実性を担保する役割は、投資家や顧客、従業員など全てのステークホルダーの信頼を守ることにつながります。内部監査部長の仕事が、社会全体の健全な経済活動を支えているのです。

このように、新興上場企業の内部監査部長を目指すことは、ビジネスの最前線で組織の健全性と成長を両立させるという、スリリングかつ社会的意義の高いチャレンジへの第一歩なのです。

新興上場企業の内部監査部長の 年間スケジュール例

内部監査部長は、組織のガバナンス、リスク管理、内部統制の有効性を独立した立場から評価・改善する重要な役割を担っています。特に新興上場企業では、内部統制の整備・運用が発展途上であることも多く、監査を通じた組織の成長支援が期待されます。以下に、新興上場企業の内部監査部長の年間スケジュール例を3月決算会社を想定して示します。

3月(前年度末)

  • リスク評価の実施
    • 全社的リスク評価の更新
    • 事業環境変化によるリスク変動の分析
    • 経営層インタビューによるリスク認識の把握
  • 監査計画のドラフト作成
    • リスク評価に基づく監査対象の選定
    • 監査資源(人員・予算・時間)の配分計画
    • 年間監査スケジュール案の作成

4月(新年度初め)

  • 年間監査計画の承認
    • 監査役会・監査委員会への監査計画説明
    • 取締役会への監査計画の説明と承認取得
    • 代表取締役・CFOとの協議
  • 部内キックオフ
    • 監査チームへの年間計画説明
    • 個々の監査担当割り当て
    • 監査手法の確認と標準化
  • 前年度監査のフォローアップ
    • 前年度の監査指摘事項の改善状況確認
    • 未改善事項に関する対応状況の経営層への報告
  • 内部統制評価(J-SOX対応)の開始
    • 内部統制評価計画の更新
    • 評価対象プロセスの確認
    • キーコントロールの棚卸し

5月

  • 業務監査①:営業プロセス
    • 営業管理体制の監査
    • 売上計上の適切性検証
    • 顧客管理プロセスの評価
  • 内部統制文書化状況の確認
    • 業務記述書の更新状況確認
    • フローチャートの更新確認
    • RCMの更新確認

6月

  • コンプライアンス監査
    • 社内規程の遵守状況検証
    • 法令違反リスクの評価
    • 内部通報制度の運用状況確認
  • 第1四半期モニタリング
    • KRIモニタリング結果の分析
    • リスク変動の確認
    • 必要に応じた監査計画の調整

7月

  • 業務監査②:購買・外注管理プロセス
    • 購買承認プロセスの検証
    • 外注管理の適切性評価
    • 発注~支払いプロセスの検証
  • サステナビリティ関連監査
    • ESG対応状況の評価
    • 非財務情報開示の適切性確認

8月

  • IT統制監査
    • アクセス権管理の検証
    • システム変更管理の評価
    • 情報セキュリティ対策の確認
  • 内部統制運用評価(サンプリングテスト)
    • 全社統制の運用評価
    • 業務プロセス統制の運用評価
    • ITアプリケーション統制の評価

9月

  • 業務監査③:人事・労務プロセス
    • 採用プロセスの検証
    • 労務管理の適切性確認
    • 給与計算プロセスの評価
  • 第2四半期モニタリング
    • KRIモニタリング結果の分析
    • 上半期の監査結果の中間まとめ
    • 下半期監査計画の見直し・調整

10月

  • 業務監査④:財務・経理プロセス
    • 決算プロセスの検証
    • 固定資産管理の評価
    • 引当金計上プロセスの検証
  • 子会社・支店監査(該当する場合)
    • 現地往査の実施
    • グループガバナンスの評価
    • 海外拠点特有リスクの検証

11月

  • 業務監査⑤:新規事業・プロジェクト監査
    • 新規事業の進捗管理体制評価
    • プロジェクト管理の適切性検証
    • 投資判断プロセスの評価
  • 内部統制評価の中間レビュー
    • 内部統制評価の進捗状況確認
    • 発見された不備の評価と対応検討
    • 改善提案の取りまとめ

12月

  • 情報セキュリティ監査
    • セキュリティポリシーの遵守状況検証
    • インシデント対応体制の評価
    • 個人情報保護対策の検証
  • 第3四半期モニタリング
    • KRIモニタリング結果の分析
    • 年度末に向けた監査状況の確認
    • 残存リスク対応の検討

1月

  • 業務監査⑥:生産・品質管理プロセス
    • 生産管理体制の評価
    • 品質管理プロセスの検証
    • 在庫管理の適切性確認
  • 内部統制有効性評価
    • 全社的内部統制の有効性評価のとりまとめ
    • 業務プロセス統制の有効性評価
    • IT全般統制の有効性評価

2月

  • 特別監査・テーマ監査
    • 経営層からの要請に基づく特別監査
    • 新規規制対応状況の確認
    • リスク顕在化事象に関する調査
  • 監査結果の総括
    • 年間監査結果の取りまとめ
    • 重要指摘事項のフォローアップ
    • 内部統制報告書ドラフトの作成支援

3月

  • 年次監査報告書の作成
    • 年間監査活動の総括レポート作成
    • 発見事項と改善提案の取りまとめ
    • 次年度に向けた改善領域の特定
  • 次年度監査計画の立案
    • リスク評価の更新
    • 次年度監査計画のドラフト作成
    • 監査資源の配分計画の策定

毎月の定例業務

月次業務

  • 監査役・監査委員会との連携
    • 月次活動報告の実施
    • 監査情報の共有
    • 三様監査(内部監査・監査役監査・監査法人による外部監査)の連携
  • 監査進捗状況の管理
    • 監査プロジェクトの進捗確認
    • リソース配分の調整
    • 遅延プロジェクトの対応検討
  • 経営会議への出席
    • 重要会議体における情報収集
    • リスク情報の早期把握
    • 必要に応じた助言提供

四半期業務

  • 監査委員会への報告
    • 四半期監査活動の報告
    • 重要指摘事項の説明
    • 改善状況のフォローアップ報告
  • 外部監査人との連携
    • 半期レビューや監査による検出事項の共有
    • 内部統制評価状況の情報交換
    • 監査範囲の調整

臨時・不定期業務

監査以外の活動

  • 内部統制構築支援
    • 新規業務プロセス構築への助言
    • 内部統制設計への支援
    • 海外拠点のガバナンス構築支援
  • 研修・啓発活動
    • 部門別コンプライアンス研修実施
    • 内部統制に関する啓発活動
    • 新任管理者向け統制研修

危機対応

  • 不正調査
    • 内部通報案件の調査
    • フォレンジック調査の実施・管理
    • 是正措置の提言
  • インシデント対応
    • 重大インシデント発生時の原因調査
    • 再発防止策の有効性評価
    • 経営層への報告

内部監査部門の品質向上活動

定期的な活動

  • 監査手法の改善
    • 監査手法・ツールの更新
    • 最新監査技法の研究と導入
    • データ分析・可視化技術の活用検討
  • 監査スタッフの育成
    • OJTによる指導
    • 外部研修への派遣
    • 資格取得支援

年次活動

  • 内部監査の品質評価
    • 内部評価の実施
    • 外部品質評価の受審(数年に一度)
    • 改善点の特定と対応
  • 最新情報のアップデート
    • 内部監査協会等の外部機関との情報交換
    • 内部監査基準の改訂対応
    • 法令改正への対応準備

新興上場企業における内部監査部長の特有の課題と対応

特有の課題

  • 限られたリソースの中での効率的な監査実施
    • リスクベースの監査対象選定を徹底
    • 重要性の高い領域への集中的リソース配分
    • 自動化ツールの積極活用
  • 急速な事業拡大に伴う内部統制の整備
    • 事業拡大に併せた内部統制の段階的整備支援
    • 成長を阻害しない適切な統制レベルの設定
    • 海外展開時のグローバルガバナンス構築支援
  • 経営層の期待と監査の独立性のバランス
    • 経営改善に資する建設的な提言の実施
    • 独立性確保のための報告ラインの明確化
    • 監査役・監査委員会との強固な連携関係構築

新興上場企業の内部監査部長の年間スケジュールは、企業の成長段階やビジネスモデル、業界特性によって詳細は異なりますが、基本的な流れとしては上記のようになります。新興上場企業の内部監査部長は、コンプライアンスと企業成長の両立を支援する重要な役割を担っており、この年間スケジュールを基盤としながらも、組織の状況に応じた柔軟な対応が求められます

新興上場企業の内部監査部長の 重要任務

新興上場企業の内部監査部長は、急速に成長・変化する組織において、ガバナンスの確立と企業価値向上の両面から重要な役割を担っています。数ある任務の中でも特に重要な3つの任務について詳述します。

 

1.上場企業として必要な内部統制システムの構築・評価

新興上場企業にとって、金融商品取引法に基づく内部統制報告制度(J-SOX)への対応は必須要件です。内部統制の不備は、情報開示の信頼性低下、株価への悪影響、最悪の場合は上場廃止リスクにもつながります。特に上場間もない企業では、内部統制の整備・運用が発展途上である場合が多く、その構築と評価は内部監査部長の最重要任務と言えます。

内部統制の評価計画策定と実行

  • 全社的な内部統制の評価
    • 統制環境、リスク評価、統制活動、情報と伝達、モニタリング、ITへの対応の6要素の評価
    • 取締役会・監査役会の機能性評価
    • 企業風土・倫理観の評価
  • 業務プロセスに係る内部統制の評価
    • 重要な業務プロセス(売上・購買・在庫・決算など)の統制評価
    • キーコントロールの特定と運用評価
    • 業務記述書・フローチャート・RCMの整備状況確認
  • IT全般統制・ITアプリケーション統制の評価
    • システムアクセス管理、変更管理、運用管理などの評価
    • 自動化統制の有効性評価

不備への対応

  • 発見された不備の評価
    • 発見された不備の重要性判断(開示すべき重要な不備か否か)
    • 不備の根本原因分析
  • 改善計画の立案・モニタリング
    • 不備に対する改善計画の妥当性評価
    • 改善活動の進捗モニタリング
    • 改善策の有効性検証

経営層・監査法人との連携

  • 内部統制報告書の作成支援
    • 内部統制報告書のドラフト作成
    • 最終評価結果の取りまとめ
  • 監査法人との連携
    • 内部統制監査への対応
    • 発見事項への迅速な対応
    • 評価範囲・方法に関する事前協議

2.リスク管理体制の構築と経営リスクの早期警鐘

新興上場企業は往々にして急速な成長過程にあり、事業拡大や新規事業参入に伴う新たなリスクに直面します。しかし、リスク管理体制が成熟していないケースが多く、また経営者のリスク感度も様々です。内部監査部長は独立した立場から、組織全体のリスクを俯瞰し、早期警鐘を鳴らす役割が求められます。

全社的リスクマネジメント体制の構築支援

  • ERM(全社的リスクマネジメント)フレームワークの導入
    • 自社に適したERMフレームワークの選定・カスタマイズ
    • リスク管理プロセスの設計支援
    • リスク管理方針・規程の整備支援
  • リスク評価の実施
    • 全社的なリスクアセスメントの実施・支援
    • 重要リスクの特定と優先順位付け
    • リスク対応策の評価

経営リスクの監視と早期警鐘

  • リスクモニタリングの実施
    • リスク指標(KRI)の設定と継続的モニタリング
    • リスク変動の早期検知システムの構築
    • 新規・新興リスクの識別
  • 経営層へのリスク報告
    • リスク情報の可視化と経営層への報告
    • 重大リスク発生時の即時エスカレーション体制の構築
    • 経営会議・取締役会でのリスク報告

重点リスク領域の深掘り監査

  • 戦略リスクの監査
    • 新規事業・M&A等の戦略的意思決定プロセスの検証
    • 市場環境変化への対応状況の評価
  • コンプライアンスリスクの監査
    • 法令・規制遵守状況の検証
    • 海外展開に伴う異なる法域でのコンプライアンス体制評価
  • オペレーショナルリスクの監査
    • 業務プロセスのボトルネック・脆弱性の特定
    • サイバーセキュリティリスク対応状況の評価

3.企業価値向上のための経営改善提言

内部監査は「検査・指摘」機能ではなく、組織の持続的成長と企業価値向上に貢献する役割が求められています。特に新興上場企業では、急速な成長に伴い様々な非効率や課題が内在している場合が多く、これらを改善することで大きな価値向上が期待できます。内部監査部長には、問題点の指摘だけでなく、経営改善に向けた建設的な提言を行うことが重要です。

業務効率化・プロセス改善の提言

  • 業務プロセスの最適化提案
    • 重複業務・非効率プロセスの特定と改善提案
    • ベストプラクティスの社内展開提案
    • デジタル化・自動化の推進提案
  • 組織横断的な課題解決
    • 部門間連携の阻害要因特定と改善提案
    • 情報共有の仕組み改善
    • 全社最適の視点からの業務再設計提案

ガバナンス強化のための提言

  • 意思決定プロセスの改善
    • 経営判断の質と速度を高めるための提案
    • 権限委譲と牽制のバランス改善提案
    • 取締役会の実効性向上に向けた提案
  • 経営情報の質向上
    • 経営判断に必要な情報の適時・適切な提供体制の提案
    • KPI設計・モニタリング体制の改善提案
    • 非財務情報の可視化・活用提案

企業文化・組織風土の改善

  • 企業理念・バリューの浸透状況評価
    • 企業理念の現場への浸透度合いの評価
    • 理念と実際の行動のギャップ分析
  • 組織活性化の提言
    • 従業員エンゲージメント向上に向けた提案
    • コミュニケーション活性化のための提案
    • 心理的安全性確保のための提案

上記3つの重要任務は互いに密接に関連しています。

  • 内部統制評価を通じて発見された弱点は、リスク管理体制の強化につながる重要な情報となります
  • リスク評価の結果は、内部監査計画の優先順位付けに活用され、効率的な内部統制評価につながります
  • 両方の活動を通じて得られた知見は、より効果的な経営改善提言の基盤となります

このように、3つの任務を個別に遂行するのではなく、相互に連携させた統合的アプローチを取ることで、限られたリソースでの最大効果を達成することが可能となります。

これらの要素を兼ね備えることで、内部監査部長は「守りの機能」だけでなく、企業の持続的成長と企業価値向上に貢献する戦略的パートナーとしての役割を果たすことができるでしょう。

新興上場企業の内部監査部長の 報酬水準

新興上場企業の内部監査部長の報酬水準については、公開情報から推測される一般的な水準についてご説明します。

基本的な報酬レンジ

新興上場企業の内部監査部長の年間報酬総額は、企業規模、業種、上場市場、個人のスキル・経験によって大きく異なりますが、一般的に以下のような範囲にあると考えられます。

  • 小型の新興上場企業(市場:グロース等、売上高100億円未満)
    • 年間報酬総額:800万円~1,200万円程度
  • 中型の新興上場企業(市場:スタンダード、売上高100億円~500億円)
    • 年間報酬総額:1,000万円~1,500万円程度
  • 成長中の中堅上場企業(市場:プライム、売上高500億円~1,000億円)
    • 年間報酬総額:1,200万円~1,800万円程度

報酬構成要素

報酬は一般的に以下の要素で構成されます。

  • 基本給(固定報酬):総報酬の約70~80%
  • 賞与(業績連動報酬):総報酬の約20~30%
  • 株式報酬:企業によって異なるが、導入している場合は総報酬の5~15%程度

上昇要因

  • 公認内部監査人(CIA)、公認会計士(CPA)等の専門資格保有
  • 監査法人、コンサルティング会社、大手企業での内部監査経験
  • 海外事業監査の経験やグローバル企業での勤務経験
  • 複数の上場企業での内部監査責任者としての実績
  • IT監査、データアナリティクス等の専門スキル保有

減少要因

  • 内部監査分野での経験が浅い場合
  • 小規模組織での内部監査経験のみ
  • 専門資格なし
  • 企業の財務状況が芳しくない場合

採用市場での動向

内部監査部長の採用市場については以下の通りです。

  • 上場企業のガバナンス強化要請から、質の高い内部監査人材の需要は高まっている
  • 特にJ-SOX対応経験、IT監査スキル、海外拠点監査経験を持つ人材は希少
  • 金融機関や監査法人出身者が転職市場で評価される傾向
  • 事業会社の内部監査部門幹部経験者も引き合いが強い

新興上場企業特有の考慮事項

新興上場企業における内部監査部長の報酬は、以下の要因も考慮されます:

  • 成長性:急成長企業では基本給は抑えめでも、ストックオプションなどの株式報酬で総報酬を魅力的にするケースが多い
  • 経営層の監査・ガバナンスへの意識:経営者がガバナンスやリスク管理を重視している企業では、内部監査部長の報酬も相対的に高く設定される傾向
  • 内部監査部門の規模:内部監査部員が少数の場合、部長自身も監査実務を担当するため、純粋なマネジメント職より報酬が低めに設定されることがある
  • 上場からの経過期間:上場直後は内部統制整備の重要性が高く、内部監査部長の報酬も比較的高めに設定されるケースがある

新興上場企業の内部監査部長の報酬は、企業規模や業種により幅がありますが、総額で年間800万円~1,500万円程度が平均的な水準と考えられます。専門性の高さ、経験の豊富さ、上場企業での内部監査経験などにより、この範囲を超える報酬となることもあります。

内部監査機能の重要性に対する認識の高まりと、適格な人材の不足から、今後も内部監査部長の報酬水準は緩やかに上昇していく可能性があります。ただし、個々の企業の財務状況や業界動向によって大きく異なります。

新興上場企業の内部監査部長の 代表的な会社

日本では近年、革新的なビジネスモデルや先進的なテクノロジーを武器に急成長を遂げ、上場を果たした企業が複数存在します。その中でも特に注目されている3社をご紹介します。

1.SmartHR株式会社

概要

  • 創業: 2013年
  • 上場: 2019年東証マザーズ(現グロース市場)
  • 事業内容: クラウド型人事労務ソフト「SmartHR」の開発・提供

特徴

SmartHRは「労働にまつわる社会課題をなくし、誰もがその人らしく働ける社会をつくる」というミッションを掲げ、人事労務業務の効率化を実現するサービスを提供しています。入社手続きや雇用契約、給与明細の配布、年末調整など、従来紙や手作業で行われていた業務をデジタル化し、大幅な業務効率化を実現しています。

多くの企業で人手不足が深刻化する中、バックオフィス業務の効率化ニーズを的確に捉え、急速に顧客基盤を拡大。日本企業のDX推進を支援する代表的なSaaS企業として評価されています。

2.メルカリ株式会社

概要

  • 創業: 2013年
  • 上場: 2018年東証マザーズ(現プライム市場)
  • 事業内容: フリマアプリ「メルカリ」の運営、決済サービス「メルペイ」の提供

特徴

「新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る」をミッションに掲げ、個人間取引のプラットフォームとして急成長を遂げました。スマートフォンの普及と結びついた使いやすいUIと、配送システムの最適化により、新たな消費行動を生み出しています。

日本発のユニコーン企業として海外展開も積極的に進め、米国でも事業を展開。2023年にはついに黒字化を達成し、安定的な成長軌道に乗りつつあります。

フリマアプリの枠を超え、金融サービス「メルペイ」を展開するなど、生活インフラとしての地位を確立しつつある点も注目されています。社内のグローバル化を積極的に進め、外国人採用も積極的におこなっています。

3.フリー株式会社

概要

  • 創業: 2012年
  • 上場: 2019年12月東証マザーズ(現グロース市場)
  • 事業内容: クラウド会計ソフト「会計freee」、給与計算ソフト「人事労務freee」の開発・運営

特徴

「スモールビジネスを、世界の主役に。」というミッションを掲げ、個人事業主や中小企業向けのクラウド会計・人事労務サービスを提供しています。独自のテクノロジーを活用し、複雑な会計処理や法改正への対応をリアルタイムで行うことで、専門知識がなくても直感的に業務ができる環境を提供しています。

設立以来、継続的な成長を続け、顧客基盤は個人事業主から中小企業、さらには中堅企業へと拡大。サブスクリプションモデルによる安定的な収益基盤を構築しています。

会計データを基に金融サービスとの連携を強化するなど、スモールビジネスのインフラとなるプラットフォームを構築する戦略も注目されています。

 

これらの企業に共通するのは、テクノロジーを活用して既存の業務プロセスを根本から変革し、効率化・最適化を図るという点です。また、サブスクリプションモデルを中心としたビジネスモデルにより、ストック型の収益構造を実現している点も特徴的です。

日本のビジネス環境の変化に合わせて、今後もこうした新興企業の成長・上場が期待されています。

新興上場企業の内部監査部長に 向いている人は、どんな人?

■求められるマインド

新興上場企業の内部監査部長は、急成長する組織の中で品質保証と価値創造を両立させるという挑戦的な役割を担っています。「監査手法」や「専門知識」だけでなく、独自のマインドセットが求められます。以下に、そのコアとなるマインドについて解説します。

1.ビジネスパートナーシップ・マインド

「監視者」から「価値創造パートナー」へ

内部監査は従来「社内警察」のように捉えられがちでしたが、新興上場企業では特に「ビジネスの成功に貢献するパートナー」としての姿勢が重要です。

  • 経営目標への貢献意識
    • 監査活動を通じて企業価値向上にどう貢献できるかを常に考える
    • 経営者の視点で優先順位を見極める
    • 「何が間違っているか」だけでなく「何をすれば成功するか」を提案する
  • 建設的挑戦者(Constructive Challenger)としての姿勢
    • 批判するだけではなく、より良い解決策を共に考える
    • 「Yes, but…」ではなく「Yes, and…」の発想で対話する
    • 経営層の思考の盲点を指摘し、新たな視点を提供する
  • 実用主義的アプローチ
    • 理論や形式に固執せず、「本当に役立つ監査」を追求する
    • 実際の事業特性に合わせた柔軟な監査アプローチを採用する
    • 「完璧な統制」より「適切なバランスの統制」を志向する

2.アンビデクスタリティ(両利きの経営)マインド

「守り」と「攻め」のバランス感覚

新興上場企業では特に、コンプライアンスとイノベーションの両立が課題となります。内部監査部長には、この二律背反を調和させる思考が求められます。

  • 適切なリスクテイクの支援
    • リスク回避だけでなく、「適切なリスクテイク」をサポートする視点
    • 過度に保守的な統制でイノベーションを阻害しない判断力
    • 「何をしてはいけないか」だけでなく「どうすれば安全にチャレンジできるか」を考える
  • 成長ステージに応じた統制の段階的構築
    • 企業の成長フェーズに合わせた「今必要な統制」の見極め
    • 将来を見据えた統制基盤の計画的構築
    • 組織の受容能力を考慮した現実的な改善ロードマップの提示
  • 攻めと守りの境界線を明確にする能力
    • 譲れない原則と柔軟に対応できる領域の線引き
    • 「リスクアペタイト」の明確化と社内共有の促進
    • ビジネスにおける「スピード」と「慎重さ」の適切なバランス感覚

3.独立性と影響力のバランス・マインド

客観性を保ちながら組織変革を促す

内部監査部長は独立した立場を維持しつつ、組織に変化を起こす影響力も持たなければなりません。特に新興上場企業では、この両立が大きな課題となります。

  • 建設的関係構築と独立性の両立
    • 被監査部門と良好な関係を築きながらも客観性を損なわない距離感
    • 「仲間意識」と「第三者視点」のバランス
    • 「人格は受容、課題は指摘」の分離能力
  • 影響力を発揮するコミュニケーション
    • 指摘や提言が受け入れられる信頼関係の構築
    • データに基づく説得力のある提案
    • 各階層(経営層、中間管理層、現場)に応じた語り方の使い分け
  • 状況に応じたポジショニングの柔軟性
    • 時に厳格な監査人として、時に協力的なアドバイザーとして役割を変える柔軟さ
    • 経営会議では「経営者視点」で、監査委員会では「株主視点」で語り分ける能力
    • 独立性を損なわない範囲での適切な「巻き込まれ方」の判断

4.共感的理解と本質追求のマインド

現場の事情を理解しつつ本質的改善を目指す

効果的な内部監査のためには、監査対象への深い理解と本質的な問題解決の両方が必要です。新興上場企業では特に、現場の実情を踏まえた実効性ある提言が求められます。

  • 現場視点の尊重と共感力
    • 「なぜそうなっているのか」の背景・制約条件の共感的理解
    • 理論と現実のギャップを認識する謙虚さ
    • 形式的な指摘より「実際に機能する改善」を重視する姿勢
  • 本質を見抜く洞察力
    • 表面的な症状でなく根本原因(root cause)を探求する思考
    • 「何が問題か」から「なぜそれが問題なのか」への掘り下げ
    • 組織的・構造的な課題を個人の問題と区別する視点
  • 実践的解決志向
    • 理想論よりも実行可能な解決策を重視
    • 改善の優先順位と段階的アプローチの提案
    • 「何を変えるか」と同時に「どう変えるか」まで考える姿勢

5.先見性と適応力のマインド

将来を見据えた監査と環境変化への柔軟な対応

新興上場企業は変化のスピードが速く、内部監査も未来志向で変化に強いアプローチが求められます。

  • 先行指標への感度
    • 「問題が起きた後の検証」より「問題が起きる前の予防」を重視
    • リスクの早期警戒シグナルへの高い感度
    • 業界トレンド・規制動向への先見性
  • 柔軟な監査アプローチ
    • 監査手法の固定化を避け、状況に応じた手法の選択
    • アジャイル監査、継続的監査など新しい監査アプローチへの適応
    • デジタルツール活用による効率化と深度向上の両立
  • 変革促進者としての自覚
    • 監査を通じた組織変革の触媒となる意識
    • 「現状維持バイアス」への挑戦
    • イノベーションと内部統制の共存を促進する視点

6.教育者・文化形成者マインド

組織の学習と成熟を促す

新興上場企業では、ガバナンスや内部統制の文化が発展途上であることが多く、内部監査部長には組織の成熟を促す役割も求められます。

  • 組織の学習支援者としての自覚
    • 監査を通じた「学びの機会」の提供
    • 監査結果を評価でなく「成長のためのフィードバック」として位置づける
    • 失敗から学ぶ文化の醸成支援
  • 統制文化の形成者としての役割
    • ルール遵守でなく「自律的統制文化」の醸成
    • 「なぜ統制が必要か」の理解促進
    • 経営層の「tone at the top」の重要性認識と支援
  • 知識共有と能力開発の促進
    • 監査を通じて得た気づきの組織的共有
    • 部門間のベストプラクティス移転の促進
    • 現場の統制自己評価能力の開発支援

7.自己成長・自己変革マインド

自らの進化を続ける姿勢

内部監査部長自身が常に学び、変化する姿勢を持つことは、急成長する新興上場企業においては特に重要です。

  • 継続的な学習意欲
    • 業界動向、新たな監査手法、テクノロジーへの関心
    • 監査専門知識だけでなくビジネス理解の深化
    • 自己の経験に固執しない柔軟な学習姿勢
  • 自己の監査アプローチの批判的検証
    • 自分の監査の有効性・効率性を常に見直す姿勢
    • フィードバックを積極的に求める謙虚さ
    • 成功体験に囚われない自己変革力
  • レジリエンス(精神的回復力)
    • 困難な状況や反対意見に直面しても建設的対応を維持する強さ
    • 専門性と倫理観に基づく毅然とした態度
    • 長期的視点を失わない忍耐力

8.バランス感覚と統合的思考

様々な要素の調和を図る能力

内部監査部長には、多くの二律背反要素のバランスを取る感覚が求められます。特に新興上場企業では、このバランス感覚が成功の鍵となります。

  • 複数の視点の統合
    • 株主・経営者・従業員・顧客など多様なステークホルダーの視点を統合
    • 短期的成果と長期的持続性のバランス
    • グローバル基準とローカル事情の調和
  • 硬軟両面のアプローチ
    • コンプライアンス要件の厳格さと事業の機動性の両立
    • 形式と実質のバランス
    • 標準化と柔軟性の適切な組み合わせ
  • 全体最適の思考
    • 部分最適に陥らない全社的視点
    • 縦割り組織の壁を超えた統合的アプローチ
    • 個別の統制から統制環境全体を見る視点

新興上場企業の内部監査部長に求められるマインドは、一言で表すと「建設的バランサー」と言えるでしょう。企業の成長と規律、挑戦と慎重さ、独立性と協働性など、様々な二項対立の間で最適なバランスを見出し、組織の持続的成長を支える存在が求められています。

内部監査部長の真の価値は、監査技術や専門知識だけでなく、上記のような多面的なマインドセットを持ち、組織の状況に応じて柔軟に、かつ原則を守りながら対応できる「知的しなやかさ」にあります。

そして最も重要なのは、監査を通じて「組織をより良くしたい」という強い意志と情熱です。新興上場企業という変化と成長の真っただ中にある組織において、内部監査部長はチェック機能ではなく、企業価値向上のための重要なパートナーであるという自覚と責任感を持ち、日々の監査活動に取り組むことが求められています。

■必要なスキル

新興上場企業の内部監査部長には、成長企業の特性を理解しながら統制環境を整備・評価する多面的スキルが求められます。以下に必要なコアスキルをまとめました。

1.専門的監査スキル

  • 内部監査の専門知識
    • リスクベース監査計画の策定能力
    • J-SOX/内部統制評価の実践力
    • 監査品質管理のノウハウ
  • 財務・会計の知識
    • 財務諸表分析力・会計知識
    • 財務報告プロセスの統制評価能力
    • 開示統制の理解

2.ビジネス感覚・経営視点

  • 事業理解力
    • 自社のビジネスモデル・収益構造理解
    • 業界特有のリスク・規制環境把握
    • 成長戦略の論理構造理解
  • 経営視点
    • 企業価値向上の観点からの評価能力
    • 成長と統制のバランス感覚
    • 経営リソース最適配分の視点

3.コミュニケーション・影響力

  • 上位向けコミュニケーション
    • 経営層・取締役会への簡潔明瞭な報告能力
    • 経営的重要性で問題を表現する能力
    • 戦略目標との関連付け能力
  • 現場向けコミュニケーション
    • 協力的関係構築能力
    • 建設的なフィードバック提供能力
    • 改善に向けた動機付け能力

4.テクノロジー・データ活用

  • データ分析力
    • 監査目的に沿ったデータ分析設計能力
    • 異常値・パターン検出能力
    • データに基づく洞察抽出能力
  • IT監査・評価能力
    • IT統制環境の評価能力
    • サイバーセキュリティリスク評価
    • デジタル変革に伴うリスク評価

5.コンサルティング的改善提案

  • 問題解決力
    • 根本原因分析能力
    • 実行可能な改善策提案能力
    • ビジネスプロセス改善の知見
  • 変革支援力
    • 組織の受容性向上スキル
    • 変革の必要性を説得的に説明する能力
    • 持続的改善の仕組み化能力

6.リーダーシップ・チームマネジメント

  • 監査チーム管理
    • 監査リソースの効果的配分能力
    • チームメンバーの育成・動機付け
    • 監査品質の確保と効率のバランス管理
  • 組織構築
    • 監査機能の中長期戦略立案
    • 外部リソース活用の戦略的判断
    • 外部監査人・監査役等との連携構築

7.新興上場企業特有のスキル

  • 急成長環境への対応
    • スケーラブルな統制設計の評価
    • リソース制約下での優先順位付け
    • 成長スピードと統制強化のバランス感覚
  • 上場企業統制への移行支援
    • 上場準備・維持要件の理解
    • コーポレートガバナンス体制の段階的構築支援
    • 投資家視点での統制環境評価

8.リスク・ガバナンス評価

  • リスク評価
    • 体系的なリスクアセスメント能力
    • 新興リスクへの先見性
    • リスク対応戦略の評価能力
  • ガバナンス評価
    • ガバナンス構造の実効性評価
    • グループガバナンスの評価
    • ESG・非財務領域のガバナンス評価

9.パーソナルスキル・倫理観

  • 自己管理
    • 優先順位設定と時間管理能力
    • 継続的学習・自己成長力
    • ストレス下でのレジリエンス
  • 倫理・誠実性
    • 職業的懐疑心と批判的思考
    • 倫理的ジレンマへの対処能力
    • 困難な問題提起をする勇気

10.戦略的思考・適応力

  • 戦略的視点
    • 全体最適の追求
    • 短期・長期のバランス感覚
    • システム思考(相互関連性の理解)
  • 知的柔軟性
    • 多様な視点の採用能力
    • 曖昧さへの耐性
    • 変化への適応力・学習敏捷性

以上のスキルセットを統合的に活用することで、新興上場企業の内部監査部長は、企業の成長を支えながら適切な統制環境を構築するという重要な役割を果たすことができます。特に重要なのは「成長」と「統制」のバランス感覚、そして「問題指摘」と「価値創造」の両面から組織に貢献する視点です。

新興上場企業の内部監査部長までの 道のり

内部監査部長というポジションに至るまでには、いくつかの異なるルートが存在します。それぞれのパスには独自の強みがあり、どれが「正解」というわけではありません。ここでは逆算して、このポジションに至るための複数の道筋を探ってみましょう。

新興上場企業の内部監査部長の直前に想定されるポジションとしては、主に三つの経路が考えられます。

  • 大手上場企業の内部監査マネージャー」からのキャリアアップ

大手上場企業で培った体系的な監査手法やガバナンスの知識を、成長企業の環境に適用する形で転職するケースです。大手上場企業での経験は「あるべき姿」の青写真を持っているという強みがあり、新興上場企業のガバナンス体制構築に大きく貢献できます。

  • コンサルティングファームの内部統制アドバイザリー部門のシニアマネージャー・マネージャーからの転身

複数のクライアント企業の内部統制構築を支援してきた経験は、新興企業の内部監査部門を一から立ち上げる際に極めて有用です。様々な業界のベストプラクティスを知っているという点も大きな強みとなります。

  • 監査法人のシニアマネージャー・マネージャーからの転職

会計監査のプロフェッショナルとして培った深い専門知識と、数多くの上場企業を見てきた経験が、内部監査部長として即戦力となります。特に財務報告に係る内部統制評価(J-SOX)の領域では、この経験が大きく生きるでしょう。

さらにさかのぼって、これらの中間管理職に至るまでの経路を考えてみましょう。

監査法人を起点としたキャリアパスでは、公認会計士として5年から10年程度の実務経験を積み、シニアスタッフからマネージャーへとステップアップするケースが典型的です。このルートの強みは、会計と監査の専門知識が非常に堅固であることと、様々な企業の財務状況や内部統制を見てきた「目利き力」を持っていることです。

事業会社の財務・経理部門からのキャリアパスも有力な選択肢です。財務経理の実務担当者から管理職へと成長し、その後内部監査部門へ異動するというルートです。事業特性への深い理解と実務経験に基づく「現実的な監査アプローチ」が強みとなります。

IT部門や法務部門からのキャリアチェンジも珍しくありません。それぞれの専門分野でマネージャー経験を積んだ後、内部監査部門に合流し、その専門性を生かして徐々に守備範囲を広げていくというパターンです。特にITガバナンスやコンプライアンスが重視される業界では、こうした専門知識を持つ人材が重宝されます。

若手時代にどのような経験を積むべきかという点では、まず「数字に強くなる」ことが基本です。財務諸表を読み解く力や、ビジネスプロセスを定量的に分析する能力は、どのような監査活動においても基礎となります。経理部門での実務経験や、MBA等で財務・会計の知識を体系的に学ぶことも有効でしょう。

また「批判的に考える習慣」を身につけることも重要です。若手のうちから「なぜそうなのか」「本当にそれで十分か」と考える姿勢を持ち、表面的な説明に満足しない探究心を養いましょう。

もちろん専門資格の取得も強力な武器となります。CIA(公認内部監査人)やCISA(公認情報システム監査人)といった国際的な資格は、内部監査の専門家としての証明になります。公認会計士資格を持っていればなお有利でしょう。

このように様々なキャリアパスがありますが、共通しているのは「複眼的な視点を持つこと」の重要性です。会計だけ、ITだけ、あるいは法務だけといった一面的な知識では、内部監査部長として十分に機能することはできません。様々な角度からビジネスを見る力を養うことが、このポジションを目指す上での鍵となるでしょう。

これらのキャリアパスのどれかを歩む可能性は十分にあります。大切なのは、どの道を選んだとしても、常に視野を広く持ち、専門性と全体観をバランスよく磨いていくことです。そうすれば、いつか新興上場企業の内部監査部長として、企業の健全な成長を支える重要な役割を担う日が来るでしょう。

新興上場企業の内部監査部長の キャリアパスの展望

新興上場企業の内部監査部長という立場で得られるスキルは、ビジネスパーソンとしての総合力を磨く最高の機会となります。その理由は、このポジションが「経営目線」と「現場感覚」の両方を必要とする稀有な役割だからです。

まず身につくのは「ガバナンス設計力」です。成長著しい企業において、スピード感を損なわずに適切な内部統制を構築するには、ビジネスモデルを深く理解した上での最適解を見出す力が求められます。この能力は、組織設計や経営管理の専門性として、大きな武器となるでしょう。

次に「リスク感知能力」が鍛えられます。さまざまな部門やプロセスに潜むリスクを先回りして察知し、未然に防ぐ目を持つことは、どんな経営ポジションでも重宝される能力です。この「危機を察知する嗅覚」は、内部監査の現場で日々磨かれていきます。

「コミュニケーション力」も飛躍的に向上します。内部監査部長として効果的に機能するには、時に厳しい指摘をしながらも相手の協力を引き出す高度な対人スキルが不可欠です。経営陣には率直に意見を述べ、現場には改善の必要性を納得させる―そんな「上にも下にも強い」コミュニケーション能力は、どんなキャリアでも価値を発揮します。

また「問題解決力」も養われます。監査で発見した課題に対して、指摘するだけでなく実行可能な改善策を提案するためには、創造的な問題解決アプローチが必要です。この「批判ではなく建設的な解決策を提示する力」は、あらゆるビジネスシーンで求められる普遍的なスキルです。

さらに、この職種で特に磨かれるのが「分析力」です。膨大なデータやプロセスの中から本質的な問題を見抜く洞察力は、内部監査の醍醐味であり、戦略立案や意思決定においても大きな強みとなります。

これらのスキルを身につけることで、キャリアの幅は大きく広がります。具体的には、以下のようなキャリアが考えられます。

  • CFO(最高財務責任者)やCOO(最高執行責任者)へのステップアップ

企業全体を俯瞰する視点と各部門の機能を深く理解しているため、経営幹部としての適性が高く評価されるのです。

  • 経営企画部門のトップやCAOへの転身

内部監査で培った「何が会社にとって最適か」を判断する力が、経営戦略の立案や組織づくりに直結するからです。

  • スタートアップ企業の内部監査部長や上場企業の社外役員や監査役への転職

ガバナンスとリスク管理の専門家として、複数の企業で知見を生かすマルチボード型のキャリアも魅力的な選択肢でしょう。

新興上場企業の内部監査部長というポジションは、監査の専門家を超えて、将来の経営幹部や独立したガバナンスの専門家としての可能性を広げる、キャリアの要となるステップなのです。ここで積み重ねる経験は、今後どのような道に進もうとも確かな財産となるでしょう。

まとめ

役割と責任

  • 新興上場企業の内部監査部長は、経営トップと近い距離で仕事をしながら、会社全体を把握できる数少ないポジション
  • CEOやCFOとの直接的なコミュニケーションを通じて、企業の戦略や課題を深く理解し、進言する役割と責任を担う

求められるマインドやスキル

  • 企業の成長と規律、挑戦と慎重さ、独立性と協働性など、様々な二項対立の間で最適なバランスを見出し、組織の持続的成長を支える存在
  • 新興上場企業という変化と成長の真っただ中にある組織において、内部監査部長はチェック機能ではなく、企業価値向上のための重要なパートナー
  • 「成長」と「統制」のバランス感覚、そして「問題指摘」と「価値創造」の両面から組織に貢献する視点

重要な職務

  • 上場企業として必要な内部統制システムの構築・評価
  • リスク管理体制の構築と経営リスクの早期警鐘
  • 企業価値向上のための経営改善提言

キャリアパス

  • 経理部門・営業部門等の実務担当者⇒経理部門・営業部門等の管理職⇒内部監査部マネージャー⇒内部監査部長
  • 監査法人のマネージャーからの転身やIT部門や法務部門からのキャリアチェンジ
  • CAOへの昇進や、スタートアップ企業の内部監査部長、上場企業の社外役員や監査役などへの転身などの多様なキャリアパス