経理・財務・会計ファイナンス人材のためのキャリア名鑑

会計人材のキャリア名鑑

新興上場企業の経営企画部長

「変化の激しい環境下で、企業価値最大化に向けた意思決定を牽引」

最前線で戦略を描き、成長の舵を取る

組織の頭脳として全体最適を追求する

次世代リーダーへの登竜門

主な業務内容

  • 企業戦略の立案と実行推進
  • 事業計画策定と予算管理
  • 取締役会・経営会議の運営と意思決定支援
  • M&A・資本政策の企画立案

想定年収

900万円~2,500万円
※業績や評価によって変動

想定年齢

30歳~45歳

新興上場企業の経営企画部長は こんな仕事

新興上場企業で経営企画部長を務めるということ。それは、急成長する企業の未来を設計し、舵を取る重要な役割を担うということです。CEOの右腕として経営戦略を立案し、組織全体を俯瞰しながら会社の成長エンジンを最適化する——そんなやりがいに満ちた挑戦が待っています。

年収1,500万円を超えるポジションであることも多く、次世代の経営幹部や執行役員への登竜門としても注目されるこのポジション。多くの情報が交差する経営の中枢で、経営企画部長の決断が企業の未来を左右します。新たな価値を創造し、組織と共に成長する醍醐味を味わえる経営企画部長という天職について、詳しくご紹介しましょう。

経営企画部長は、新興上場企業における「戦略の司令塔」です。CEOや取締役会の意思決定を支える重要なポジションであり、企業の未来を描く設計図の作成者でもあります。

まず、経営企画部長の中核業務は「企業戦略の立案」です。市場分析やトレンド調査から始まり、3ヵ年・5ヵ年の中長期経営計画を策定します。たとえば、新規事業への参入判断、既存事業の拡大戦略、海外展開の是非など、大きな経営判断に必要な情報を集約・分析し、経営陣に提案します。「この新規事業に参入すれば、3年後には全社売上の20%を占める柱になる可能性がある」といった具体的な将来予測を示し、経営陣の意思決定をサポートするのです。

次に重要なのが「予算策定と管理」です。各部門から上がってくる予算案を精査し、全社最適の視点から調整を行います。限られたリソースをどう配分すれば最大の効果が得られるか—その判断は、企業の1年間の行動計画を決定づけます。四半期ごとの業績レビューでは、計画と実績の乖離を分析し、軌道修正の提案も行います。

また、新興上場企業ならではの業務として「IR活動の統括」も重要です。四半期ごとの決算発表資料の作成、投資家向け説明会の準備、アナリストからの問い合わせ対応など、資本市場とのコミュニケーションを担当します。株価は企業価値の重要なバロメーターであり、投資家に自社の成長戦略を適切に伝えることで、企業価値の最大化に貢献します。

さらに、M&Aや資本政策の立案も経営企画部長の重要な職務です。成長加速のための買収候補先の選定、デューデリジェンスの統括、PMI(買収後の統合)計画の策定など、企業の非連続的成長を実現するための施策を主導します。「この企業を買収すれば、自社にない技術を獲得でき、市場シェアを5%拡大できる」といった具体的なシナリオを描き、経営陣の判断材料を提供するのです。

日々の業務では、各部門の責任者とのコミュニケーションも欠かせません。営業、マーケティング、開発、人事、財務など各部門の課題や成果を把握し、部門間の連携を促進します。組織全体の情報が集約される立場だからこそ、部門最適ではなく全社最適の視点で判断を下せるのです。

経営企画部長の魅力は、企業経営の全体像を俯瞰できる点にあります。CEOや取締役会の意思決定プロセスに直接関わり、時には厳しい議論を交わしながら、会社の未来を創り上げていく。その過程で得られる経営感覚は、将来CEOや事業責任者になるための貴重な経験となるでしょう。

新興上場企業の経営企画部長という ポジションの魅力

「なぜ経営企画部長を目指すのか?」—この問いに対する答えは、この職種ならではの醍醐味にあります。

最大の魅力は、「企業経営の中枢に立てる」ということです。事業部門のように特定の領域に特化するのではなく、企業活動の全体を俯瞰する立場にあります。たとえば、新規事業の立ち上げを検討する際には、市場の将来性、競合状況、自社の強み、必要な投資額、期待されるリターン、リスク要因など、多角的な視点から分析し、経営判断の材料を提供します。この過程で培われる「経営者目線」は、キャリアステップにおいて大きな財産となるでしょう。

また、「意思決定の最前線にいる」という点も大きな魅力です。新興上場企業では、スピード感のある意思決定が求められます。市場環境の変化や競合の動きに素早く対応するため、経営企画部長は常に最新の情報を収集・分析し、CEOや取締役会に提言します。「このタイミングで思い切った投資をすべきか」「この事業からは撤退した方が良いのか」—そういった重要な判断に関わることで、経営者としての意思決定力が鍛えられます。

さらに、「組織の未来を創造する」やりがいも経営企画部長ならではです。中期経営計画を策定する際には、3年後、5年後の会社の姿を描きます。「年間売上100億円企業になるためには、どのような事業ポートフォリオを構築すべきか」「グローバル展開を進めるために、どのような組織体制が最適か」—そういった未来図を描き、実現に向けたロードマップを策定するのです。自分が描いた戦略が実を結び、会社が成長していく姿を目の当たりにできる喜びは何物にも代えがたいものです。

経営企画部長は、「次世代経営者への登竜門」としての側面も持っています。企業戦略の立案、予算策定・管理、M&A、資本政策など、経営の多様な側面に関わることで、将来的にCEOや事業部長として活躍するための総合力を身につけられます。実際に、経営企画部長から執行役員や取締役に昇進するキャリアパスは珍しくありません。

一方で、新興上場企業の経営企画部長には、「変化を恐れない姿勢」も求められます。市場環境は常に変化し、テクノロジーの進化や競合の参入によって、昨日までの常識が通用しなくなることもあります。そんな不確実性の高い時代において、柔軟な思考と大胆な発想で新たな成長戦略を描ける人材が求められているのです。

経営企画部長は、数字とビジネスの両方を理解し、戦略を形にできる「バイリンガル」な存在です。財務データを分析しながらも、市場の動向や顧客ニーズを捉え、創造的な戦略を立案する—そんな総合力を持つ人材として、企業内での存在感と影響力を高めていくことができるでしょう。

新興上場企業の経営企画部長の 年間スケジュール例

新興上場企業の経営企画部長は、企業の成長戦略策定から投資家対応まで多岐にわたる役割を担います。以下に、3月決算企業を例にした年間スケジュールを月別に解説します。

4月:決算・IR準備フェーズ

主要タスク

  • 決算サポート
    • 経理部門と連携した決算数値の確認・分析
    • 前年度業績の評価と計画との差異分析
  • IR資料準備
    • 決算説明会資料の作成支援
    • 投資家向けメッセージの検討・調整
  • 取締役会対応
    • 年度決算承認の取締役会議案準備
    • 事業報告書の作成支援

この時期は経理部門が決算業務で繁忙を極めるため、経営数値の分析と経営陣へのインプット提供が重要です。また、決算短信や有価証券報告書の非財務情報部分の確認・作成支援も必要になります。

5月:株主総会・決算発表フェーズ

主要タスク

  • 株主総会準備
    • 招集通知作成の支援
    • 総会での想定質問事項の整理と回答準備
  • 決算発表・IR
    • 決算説明会の準備・実施
    • 投資家ミーティングの調整
    • アナリストからのフィードバック収集・分析
  • 経営会議運営
    • 前年度総括と新年度方針確認の会議準備

新興上場企業にとって、機関投資家やアナリストからの評価は株価形成に直結するため、決算説明会の質を高めることが重要です。また、株主総会の準備は総務部門と連携して進めます。

6月:株主総会・中長期戦略検討フェーズ

主要タスク

  • 株主総会対応
    • 株主総会の運営支援
    • 株主からの質問対応準備
  • 中期経営計画レビュー
    • 現行中期計画の進捗評価
    • 修正の必要性検討
  • 競合分析・市場動向調査
    • 業界動向の調査・分析
    • 競合他社の動向・戦略分析

株主総会が終了すると、企業は次のフェーズに移行します。中期経営計画の進捗や変化する市場環境に基づき、戦略の微調整や見直しを検討する時期でもあります。

7月:上半期事業レビューフェーズ

主要タスク

  • 第1四半期業績確認
    • Q1業績の分析・経営層への報告
    • 年間計画に対する進捗状況評価
  • 事業進捗レビュー
    • 各事業部門の進捗確認と課題抽出
    • リソース配分の見直し検討
  • IR活動
    • 四半期決算発表の準備
    • 個別投資家ミーティングの実施

第1四半期の業績は年間計画達成の重要な指標となります。計画と大きく乖離している場合は、早期にアクションプランを検討する必要があります。

8月:戦略的取り組み推進フェーズ

主要タスク

  • 半期事業計画見直し
    • 上期の実績予測と下期計画の微調整
    • 経営資源の再配分検討
  • 戦略的プロジェクト推進
    • 重点プロジェクトの進捗確認
    • 課題解決のための部門横断調整
  • 予算編成方針検討
    • 次年度予算策定方針の検討開始
    • 経営環境変化の分析

上期の動向を見て下期の戦略を微調整する時期です。特に成長フェーズの企業では、リソース配分の最適化が重要な課題となります。

9月:中間総括・半期予測フェーズ

主要タスク

  • 半期業績予測
    • 第2四半期末の業績予測と分析
    • 必要に応じた業績予想修正の検討
  • 主要KPI分析
    • 重要指標の半期進捗状況分析
    • 課題領域の特定と対策立案
  • 取締役会戦略討議
    • 下期に向けた戦略テーマの整理
    • 取締役会議論の準備

上場企業として業績予想と実績の乖離が大きい場合は、開示が必要になります。半期時点での精度の高い予測と、必要に応じた適時開示の準備が重要です。

10月:下期戦略推進・次年度計画準備フェーズ

主要タスク

  • 第2四半期決算対応
    • 中間決算発表の準備・実施
    • 投資家・アナリスト対応
  • 下期戦略推進計画
    • 上期の振り返りと下期の優先課題確認
    • 部門横断プロジェクトの進捗管理
  • 次年度予算策定キックオフ
    • 予算編成方針の確定
    • 各部門への予算策定指示

中間決算は投資家に対する重要な節目です。同時に、次年度計画の策定プロセスも始まるため、現状分析と将来展望を同時に進める必要があります。

11月:次年度計画策定集中フェーズ

主要タスク

  • 次年度予算編成
    • 各部門予算案のレビュー
    • 全社予算の取りまとめと調整
  • 次年度事業計画策定
    • 重点施策の検討・整理
    • 各部門計画のレビューと連携調整
  • 第3四半期進捗確認
    • Q3見通しの確認と年度見通し更新
    • 課題領域への対応策検討

次年度計画策定は経営企画部長の重要な役割です。各部門の要望と全社最適のバランスを取りながら、成長と収益性を両立させる計画を策定します。

12月:年度総括準備・計画確定フェーズ

主要タスク

  • 次年度計画最終調整
    • 予算・事業計画の経営層レビュー
    • 取締役会承認準備
  • 年末IR活動
    • 機関投資家との年末ミーティング対応
    • 年間業績見通しの最終確認
  • 組織体制検討
    • 次年度の組織変更・人事配置検討
    • 権限委譲や意思決定プロセス見直し

年末は次年度計画の確定と同時に、その実行体制の検討も行います。組織変更が必要な場合は、この時期に検討を進めます。

1月:新年度準備・第3四半期決算フェーズ

  • 第3四半期決算対応
    • Q3決算発表準備
    • 年度見通しの最終調整
  • 次年度計画の展開
    • 承認された計画の各部門への展開
    • 部門別KPI・目標の確定
  • 新規プロジェクト準備
    • 次年度重点プロジェクトの立ち上げ準備
    • 実行計画の具体化

第3四半期決算は年度業績の最終予測を固める重要な機会です。同時に、次年度の実行計画を具体化していく時期でもあります。

2月:年度決算準備・次年度始動準備フェーズ

主要タスク

  • 年度決算見通し最終確認
    • 通期業績予測の最終確認
    • 必要に応じた業績予想修正開示
  • 次年度経営方針浸透
    • 次年度方針の全社展開準備
    • 経営メッセージの策定支援
  • 中期経営計画の見直し検討
    • 次年度からの中期計画ローリング検討
    • 経営環境変化を踏まえた戦略修正

年度末が近づくと、次年度の円滑なスタートに向けた準備と、当年度の着地点確認を同時に行う必要があります。特に上場企業では、業績予想と実績の乖離を最小化することが重要です。

3月:年度締め・新年度始動フェーズ

主要タスク

  • 年度総括準備
    • 年度業績の最終予測と分析
    • 主要施策の成果検証
  • 新年度キックオフ準備
    • 経営方針発表会の準備
    • 部門方針発表会のサポート
  • 年度末取締役会対応
    • 年度総括・次年度計画の報告準備
    • 重要議案の準備

年度末の3月は締めと始まりが同時に進行する月です。当年度の締めくくりと次年度のスタートダッシュを同時に支援する役割が経営企画部長には求められます。

通年業務

取締役会・経営会議運営

  • 議案整理と資料準備
  • 議事録作成と決議事項のフォローアップ
  • ガバナンス関連事項の整理

投資家・IR対応

  • 投資家・アナリストとの面談対応
  • 適時開示情報の精査
  • 株主構成分析

予算統制・業績管理

  • 月次業績レビュー
  • 計画差異分析と対策立案
  • KPI進捗モニタリング

戦略プロジェクト推進

  • 重点プロジェクトの進捗管理
  • 部門横断課題の調整
  • M&A・事業提携検討

新興上場企業の経営企画部長の年間スケジュールは、「計画策定」「実行支援」「モニタリング」「IR対応」のサイクルを基本としながら、四半期ごとの決算対応や株主総会対応などの定型業務に加え、事業戦略の検討や新規プロジェクトの推進など多岐にわたります。特に成長フェーズにある企業では、外部環境の変化に合わせた柔軟な計画修正や、限られたリソースの最適配分が重要な役割となります。

また、上場企業として資本市場との対話や適時開示対応も重要な責務です。経営企画部長は、社内の調整役であると同時に、経営陣と現場、そして企業と資本市場をつなぐ架け橋としての役割を担っています。

新興上場企業の経営企画部長の 重要任務

新興上場企業は、成長フェーズにある一方で経営基盤の確立途上である特性を持ちます。そうした環境下での経営企画部長の重要任務は、大手上場企業とは異なる側面があります。以下、特に重要な3つの任務について解説します。

 

1.成長戦略の策定と迅速な実行管理

新興上場企業において最も重視されるのは、持続的な成長を実現するための戦略設計と迅速な実行サイクルの確立です。

成長戦略の策定

  • 市場分析と成長領域の特定
    • 自社の成長ドライバーとなる市場セグメントの分析
    • 競合動向の把握と差別化要因の明確化
    • 先行指標となるKPIの設定と測定方法の確立
  • リソース配分の最適化設計
    • 限られた経営資源(人材・資金・時間)の優先配分領域の明確化
    • 成長投資と収益確保のバランス設計
    • 投資回収サイクルを考慮した資金計画の策定
  • シナリオプランニング
    • 複数の成長シナリオの策定(オーガニック成長/M&A/アライアンス等)
    • リスク要因の分析と対応策の事前検討
    • フェーズごとの移行条件の明確化

アジャイル型の実行管理

  • 短サイクルPDCAの構築
    • 月次・四半期での迅速な進捗確認と軌道修正
    • 小規模実験と検証を繰り返すアジャイルアプローチの推進
    • 学習サイクルを加速するためのデータ収集・分析体制の構築
  • 成長ボトルネックの特定と解消
    • 成長制約となる組織内外の要因の早期発見
    • 経営会議への課題提起と解決策の提案
    • 部門横断的な課題解決プロジェクトの推進
  • 資金調達戦略との連動
    • 事業成長に必要な資金調達計画の策定
    • 資本市場とのコミュニケーション戦略の立案
    • 各種調達手段(増資/社債/銀行融資等)のタイミング検討

新興上場企業にとって、持続的な成長は株主価値向上と市場からの信頼獲得の最重要要素です。大企業と比較して経営資源が限られる中、正しい成長領域の選択と集中、そして素早いPDCAサイクルの実行が競争優位の源泉となります。

経営企画部長は、総合的な視点から成長戦略を設計し、その実行を加速するエンジンとしての役割を担います。特に新興上場企業では、環境変化や新たな機会への素早い対応が求められるため、戦略の適応力と実行スピードが他社との差別化要因となります。

2.コーポレートガバナンス体制の強化とステークホルダー関係の構築

新興上場企業は、上場を機に求められるガバナンス水準の引き上げと、多様なステークホルダーとの関係構築という新たな課題に直面します。経営企画部長はこの変革の中核を担います。

ガバナンス体制の整備・強化

  • 取締役会の実効性向上
    • 取締役会の議題設定と年間計画の最適化
    • 社外取締役の知見を活かすための情報提供体制の構築
    • 取締役会実効性評価の設計と改善サイクルの確立
  • 各種委員会の設計・運営
    • 指名委員会・報酬委員会・監査委員会等の設置と運営支援
    • 権限委譲と監督機能のバランス設計
    • 委員会と経営執行の連携促進
  • 内部統制システムの整備
    • 財務報告に係る内部統制の構築・運用
    • リスク管理体制の整備と統合的リスクマネジメントの推進
    • コンプライアンス体制の強化

ステークホルダーコミュニケーション

  • IR・SR活動の企画・推進
    • 株主・投資家向け情報開示の質的向上
    • 機関投資家・アナリストとの対話促進
    • 長期投資家の獲得に向けた情報発信戦略
  • 統合報告・非財務情報開示の推進
    • ESG要素を含む非財務情報の開示体制整備
    • 長期的価値創造ストーリーの構築と発信
    • 開示情報の一貫性と信頼性確保
  • 社内外の期待値ギャップの調整
    • 投資家期待と内部実行計画のギャップ分析と調整
    • 短期的業績と長期的価値創造のバランス検討
    • 各ステークホルダーの期待の可視化と優先順位付け

新興上場企業の経営企画部長は、創業期・未上場期に比べ格段に高度化する企業統治の要求水準に対応しつつ、長期的な企業価値向上に資するガバナンス体制を構築する役割を担います。

形式的なガバナンス対応ではなく、迅速な意思決定と適切な監督機能のバランスを取りながら、成長企業としての機動性を失わない体制構築が求められます。また、株主・投資家をはじめとする多様なステークホルダーとの関係構築は、安定的な成長を支える基盤となります。

特に新興企業は業績の変動性が高く、成長過程での判断ミスによる影響が大きいため、適切なリスク管理と透明性の高い情報開示が企業価値を左右します。

3.組織・人材の急成長に対応する経営基盤の構築

新興上場企業は急速な事業拡大に伴い、組織規模の拡大や経営システムの高度化が必要となります。経営企画部長はこの組織的成長痛に対応し、持続可能な経営基盤を構築する役割を担います。

組織設計・再設計

  • スケーラブルな組織構造の設計
    • 成長フェーズに応じた組織構造の見直し
    • 意思決定プロセスのボトルネック解消
    • 部門間連携の促進と全体最適の仕組み構築
  • 権限委譲と経営層の役割再定義
    • 創業経営者から組織的経営への移行支援
    • ミドルマネジメント層の育成と権限委譲の推進
    • 役員・経営幹部の役割分担の明確化
  • M&A・組織統合の推進
    • 買収後の組織統合(PMI)の設計・推進
    • 企業文化の融合と相乗効果の最大化
    • 統合プロセスの進捗管理とリスク対応

経営システムの高度化

  • 経営管理制度の整備
    • 予算管理・業績評価体系の高度化
    • 事業部制・カンパニー制など管理会計の仕組み構築
    • 投資判断基準の体系化
  • 中期経営計画プロセスの確立
    • 経営計画策定の年間サイクル設計
    • 事業部主導と全社調整のバランス設計
    • 環境変化に応じた柔軟な計画見直しの仕組み
  • 経営情報システムの構築
    • 経営ダッシュボードの設計・導入
    • データ活用による意思決定の高度化
    • グループ全体の情報共有基盤の整備

新興上場企業が直面する典型的な課題の一つが「創業期の仕組みが機能しなくなる組織的成長痛」です。経営企画部長は、企業の成長段階に応じた組織・制度の再設計を主導し、拡大する組織の求心力を維持しながら経営効率を高める役割を担います。

特に創業経営者のカリスマや属人的判断に依存した経営から、システマチックな経営への移行は、持続的成長のための重要な課題です。組織規模拡大に伴う複雑性の増大に対応しつつ、意思決定の質とスピードを両立させる経営基盤の構築が求められます。

また、新興上場企業では人材の急速な増加や多様化が進むため、企業理念や価値観の浸透、一体感の醸成も重要な課題となります。

新興上場企業の経営企画部長の 報酬水準

新興上場企業の経営企画部長の報酬水準について、利用可能な最新情報をもとに説明します。

なお、新興上場企業の経営企画部長に特化した具体的な報酬データは限られていますが、関連する役員報酬調査や企業規模別の管理職報酬データから、おおよその水準を推定することができます。

報酬水準の概要

新興上場企業の経営企画部長の報酬水準は、以下の要素によって大きく変動します。

  • 企業規模(売上高・時価総額・従業員数)
  • 上場市場区分(プライム・スタンダード・グロース等)
  • 業種・業界(IT/テック、製造、サービス等)
  • 企業の成長段階(IPO直後か成長軌道に乗っているか)
  • 個人の経験・スキルレベル

報酬の構成要素

典型的な経営企画部長の報酬パッケージは以下の要素で構成されています。

  • 基本報酬(固定給)
  • 賞与(業績連動型短期インセンティブ)
  • 株式報酬(中長期インセンティブ)
  • 福利厚生

報酬水準の目安

基本報酬(年収ベース)の目安

  • 小規模新興上場企業(時価総額100億円未満、従業員100名程度)
    • 800万円〜1,200万円
  • 中規模新興上場企業(時価総額100億円〜500億円、従業員100〜500名程度)
    • 1,000万円〜1,500万円
  • 成長中の新興上場企業(時価総額500億円〜1,000億円、従業員500名以上)
    • 1,200万円〜1,800万円

賞与を含めた年間総報酬の目安

  • 小規模新興上場企業
    • 1,000万円〜1,500万円
  • 中規模新興上場企業
    • 1,200万円〜2,000万円
  • 成長中の新興上場企業
    • 1,500万円〜2,500万円

株式報酬を含む場合

株式報酬(ストックオプションや譲渡制限付株式等)が付与される場合、特に成長性の高い企業では、上記の金額に加えて、条件達成時に数百万円〜1,000万円以上の追加報酬となる可能性があります。

報酬水準の変動要因

報酬を押し上げる要因

  • IPO経験や上場企業での経営企画経験
  • 業界特有の専門知識(例:DX、グローバル展開等)
  • 資金調達やM&A経験
  • 経営層との強いコネクション

報酬を抑制する要因

  • 経営企画職としての経験不足
  • 業界特化型のスキルセット
  • 小規模企業や地方企業の場合

最近の報酬トレンド

デロイト トーマツの「役員報酬サーベイ(2024年度版)」によると、

  • 日本企業全体で変動報酬(賞与と株式報酬)の比率が増加傾向にあり、総報酬に占める変動報酬の割合は50%を超えている
  • プライム上場企業では役員報酬の中長期インセンティブへの連動や株式報酬導入が一般化
  • ESG指標を役員報酬に連動させる企業も増加(特に売上高1兆円以上の企業では63.9%)

新興上場企業の経営企画部長の報酬水準は、企業規模や成長段階、業界によって大きく異なりますが、おおよそ年間1,000万円〜2,500万円の範囲内に収まることが多いようです。ただし、高成長企業や特殊なスキルセットを持つ人材の場合は、この範囲を超える可能性もあります。

また、近年の傾向として、固定給だけでなく、業績連動型の賞与や株式報酬といった変動報酬の比率が高まっており、企業の成長に貢献することで、より高い報酬を得られる仕組みが広がっています。

新興上場企業の経営企画部長の 代表的な会社

日本では近年、革新的なビジネスモデルや先進的なテクノロジーを武器に急成長を遂げ、上場を果たした企業が複数存在します。その中でも特に注目されている3社をご紹介します。

1.SmartHR株式会社

概要

  • 創業: 2013年
  • 上場: 2019年東証マザーズ(現グロース市場)
  • 事業内容: クラウド型人事労務ソフト「SmartHR」の開発・提供

特徴

SmartHRは「労働にまつわる社会課題をなくし、誰もがその人らしく働ける社会をつくる」というミッションを掲げ、人事労務業務の効率化を実現するサービスを提供しています。入社手続きや雇用契約、給与明細の配布、年末調整など、従来紙や手作業で行われていた業務をデジタル化し、大幅な業務効率化を実現しています。

多くの企業で人手不足が深刻化する中、バックオフィス業務の効率化ニーズを的確に捉え、急速に顧客基盤を拡大。日本企業のDX推進を支援する代表的なSaaS企業として評価されています。

2.メルカリ株式会社

概要

  • 創業: 2013年
  • 上場: 2018年東証マザーズ(現プライム市場)
  • 事業内容: フリマアプリ「メルカリ」の運営、決済サービス「メルペイ」の提供

特徴

「新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る」をミッションに掲げ、個人間取引のプラットフォームとして急成長を遂げました。スマートフォンの普及と結びついた使いやすいUIと、配送システムの最適化により、新たな消費行動を生み出しています。

日本発のユニコーン企業として海外展開も積極的に進め、米国でも事業を展開。2023年にはついに黒字化を達成し、安定的な成長軌道に乗りつつあります。

フリマアプリの枠を超え、金融サービス「メルペイ」を展開するなど、生活インフラとしての地位を確立しつつある点も注目されています。社内のグローバル化を積極的に進め、外国人採用も積極的におこなっています。

3.フリー株式会社

概要

  • 創業: 2012年
  • 上場: 2019年12月東証マザーズ(現グロース市場)
  • 事業内容: クラウド会計ソフト「会計freee」、給与計算ソフト「人事労務freee」の開発・運営

特徴

「スモールビジネスを、世界の主役に。」というミッションを掲げ、個人事業主や中小企業向けのクラウド会計・人事労務サービスを提供しています。独自のテクノロジーを活用し、複雑な会計処理や法改正への対応をリアルタイムで行うことで、専門知識がなくても直感的に業務ができる環境を提供しています。

設立以来、継続的な成長を続け、顧客基盤は個人事業主から中小企業、さらには中堅企業へと拡大。サブスクリプションモデルによる安定的な収益基盤を構築しています。

会計データを基に金融サービスとの連携を強化するなど、スモールビジネスのインフラとなるプラットフォームを構築する戦略も注目されています。

 

これらの企業に共通するのは、テクノロジーを活用して既存の業務プロセスを根本から変革し、効率化・最適化を図るという点です。また、サブスクリプションモデルを中心としたビジネスモデルにより、ストック型の収益構造を実現している点も特徴的です。

日本のビジネス環境の変化に合わせて、今後もこうした新興企業の成長・上場が期待されています。

新興上場企業の経営企画部長に 向いている人は、どんな人?

■求められるマインド

新興上場企業の経営企画部長は、急成長するビジネスと資本市場の狭間で舵取りを担う重要なポジションです。伝統的な大企業とは異なる環境で活躍するために必要なマインドセットを解説します。

1.グロースマインド(成長志向)

「現状維持」ではなく「急成長」を前提とした思考回路を持ち、常に事業拡大の機会を追求する姿勢が求められます。

  • スケーラビリティ思考
    • 「10倍成長」のシナリオを当たり前に構想できる発想力
    • リソース制約を創造的に乗り越える問題解決思考
    • 成長の天井を作らない柔軟な組織・事業設計
  • 投資家視点の内在化
    • 株式市場が期待する成長率・収益性の理解
    • 短期業績と中長期成長ストーリーのバランス感覚
    • 競合他社との差別化ポイントを常に意識した戦略構築
  • 未来起点の思考
    • 現在の制約に囚われない大胆な目標設定
    • バックキャスティングによる戦略設計
    • 「不可能」を「可能」に変えるマインドセット

2.アジャイルリーダーシップ

計画重視から実行重視へ、完璧主義から柔軟な対応力へと思考をシフトし、環境変化に俊敏に対応するマインドが必要です。

  • スピード優先の意思決定
    • 「完璧な計画」より「素早い行動と修正」を重視
    • 80%の情報で判断し、実行しながら最適化する姿勢
    • 失敗を学びに変換する前向きな失敗許容文化の醸成
  • 実験的アプローチ
    • 仮説検証型の小さな取り組みを素早く繰り返す思考
    • データに基づく意思決定と直感のバランス
    • 「やめる勇気」と「続ける忍耐」の使い分け
  • 変化への適応力
    • 計画変更を恐れない柔軟性
    • 市場の新たなシグナルを常に察知する感度の高さ
    • 想定外の状況でも即座に方向転換できる精神的俊敏性

3.エコシステム思考

自社完結ではなく、社内外の多様なステークホルダーと連携し、共創することで価値を最大化する発想が重要です。

  • 境界線を超えたコラボレーション
    • 社内の縦割りを打破する横断的思考
    • 外部パートナーとの積極的な連携・協業姿勢
    • 競合すらもパートナーとなりうる視点
  • オープンイノベーション志向
    • 「自社開発」にこだわらない価値創造思考
    • M&A、資本提携、アライアンスを戦略の中核に据える発想
    • スタートアップエコシステムへの積極的参画
  • プラットフォーム思考
    • 自社を中心としたネットワーク効果の創出
    • 多様なプレイヤーが参加できる仕組みづくり
    • 顧客とともに価値を共創する発想

4.二刀流マインドセット

相反する要素を同時に追求し、止揚する高度なバランス感覚が経営企画部長には必須です。

  • 短期と長期の両立
    • 四半期業績への対応と長期ビジョン構築の両立
    • 投資家の短期期待と長期成長投資のバランス
    • 足元の危機管理と未来への布石を同時に打つ思考
  • 規律と創造性の融合
    • 財務規律とチャレンジ精神の調和
    • プロセスの標準化と創造的破壊の使い分け
    • ガバナンスの強化と企業家精神の維持
  • 内向きと外向きの視点
    • 社内調整と対外発信の両方に通じるコミュニケーション
    • 現場理解と市場理解の両立
    • 業界特性と業界を超えたトレンドの双方への感度

5.パーパス志向

財務目標のみならず、社会的意義と経済的成功を統合する高次元の目的意識が求められます。

  • 本質的な価値創造への執着
    • ビジネスの社会的インパクトを常に意識
    • 「何のために存在するか」を問い続ける思考
    • 短期的な数字よりも長期的な価値創造を重視
  • ステークホルダー資本主義の体現
    • 株主だけでなく、顧客・従業員・社会全体への価値提供
    • ESG視点を戦略の中核に位置づける発想
    • 社会課題解決と経済的成功の両立を目指す姿勢
  • カルチャーの体現者
    • 企業理念・バリューを体現するロールモデル
    • 組織の一体感と方向性を生み出す求心力
    • 言葉と行動の一致(ウォーク・ザ・トーク)

6.大企業の経営企画部長との違いの意識

新興上場企業の経営企画部長に求められるマインドは、大手企業のそれとは以下の点で大きく異なります。

  • 変化のスピード: 3年先ではなく3か月先を見据えた俊敏性
  • リソース観: 「足りないリソースをどう獲得するか」ではなく「限られたリソースで最大効果をどう生むか」
  • リスク許容度: 「リスク回避」より「リスクを取りながらの成長」
  • 権限と責任: 明確な分掌を超えた全方位的な責任感
  • 成功基準: 「前例踏襲」ではなく「前例のない価値創造」

新興上場企業の経営企画部長には、「戦略家」であると同時に「実行者」であり、「未来を描く者」であると同時に「現実を直視する者」であることが求められます。

環境変化が激しく、リソースが限られた中でも、ビジョンと現実をつなぎ、多様なステークホルダーの期待に応えながら、組織の急成長を支える—このような高度なバランス感覚と強靭な精神力を持ちつつ、自らの手を動かすことも厭わない姿勢が、新興上場企業の経営企画部長には必要不可欠です。

何よりも、「既存のルールブックに頼らず、自らルールブックを書く」という創造的マインドセットこそが、新興上場企業の経営企画部長の真価を発揮させる基盤となるでしょう。

■必要なスキル

新興上場企業の経営企画部長として成功するためには、特有の環境に適応した専門的なスキルセットが必要です。急成長ステージの企業と資本市場の両方に対応しながら、組織の戦略的成長を実現するために求められる主要スキルを解説します。

1.戦略設計・実行力

ビジョン構築力

  • 持続的な成長を実現するビジネスモデルの設計・再設計
  • 業界構造を分析し、ブルーオーシャン領域を特定する能力
  • 3〜5年先を見据えた現実的かつ野心的な戦略マップの構築

経営計画策定スキル

  • 複数シナリオを想定した予測モデルの構築
  • 各階層における適切なKPIの設定と連動性の確保
  • 限られたリソースを最大効果が出るよう配分する判断力

実行力

  • 全社的な戦略施策の進捗管理と課題解決促進
  • 短期で成果を出せる施策を見極める判断力
  • 計画・実行・評価・改善のサイクルを素早く回す能力

2.財務・IR対応力

財務分析力

  • 事業成長に必要な資金計画と財務モデルの構築
  • 各種投資案件のROI分析と優先順位付け
  • 成長投資と財務健全性のバランス管理

資本戦略構築力

  • エクイティ/デットの最適ミックス設計
  • 企業価値評価モデルへの深い理解
  • 望ましい株主構成を実現する戦略的アプローチ

IR対応スキル

  • 投資家に響く成長ストーリーの構築・発信
  • 適時開示と戦略的情報開示のバランス設計
  • 証券アナリストとの効果的なコミュニケーション

3.組織構築・人材開発力

組織設計スキル

  • 急成長に耐えうる組織構造の設計
  • 意思決定の分散と統制のバランス構築
  • 上場企業としての適切なガバナンス体制の整備

人材戦略

  • 競争力のある採用・報酬体系の設計
  • 急成長を支える人材育成の仕組み作り
  • 成果と成長を促進する評価制度の構築

チェンジマネジメント

  • 企業文化と組織能力の意図的な発展促進
  • 変革に対する抵抗を減らし協力を引き出す能力
  • 現状から理想状態への移行プロセス管理

4.データ活用・デジタル推進力

データ分析力

  • 感覚ではなくデータに基づく意思決定の推進
  • 経営ダッシュボードの設計と活用
  • データから意味あるパターンを見出す洞察力

デジタル戦略構築

  • 全社的なデジタルトランスフォーメーション推進
  • 最新テクノロジーの事業インパクト評価
  • 経営効率を高めるツール導入判断

アナリティクス活用

  • 将来動向を予測するデータモデルの構築・活用
  • 意思決定のための実験設計スキル
  • 複雑なデータを直感的に理解できる形で提示する能力

5.ステークホルダー管理・コミュニケーション力

経営層連携

  • 経営者の意思決定を支える情報提供と提言
  • 取締役会資料作成と効果的な説明
  • 経営幹部間の利害調整と合意形成

社内影響力

  • 部門横断的な協力体制の構築
  • 戦略施策の理解と協力を取り付ける能力
  • 全社に戦略の意図を明確に伝える能力

外部関係構築

  • パートナー、業界団体との関係構築
  • 監督官庁や規制当局との適切な関係構築
  • 企業の評判管理とメディア戦略

6.リスク管理・コンプライアンス力

リスクマネジメント

  • 成長企業特有のリスクの特定と影響評価
  • 事業継続計画の策定と実装
  • 緊急事態発生時の対応プロセス設計

コンプライアンス推進

  • 上場企業として遵守すべき法規制の理解
  • J-SOXなどの内部統制システムの整備
  • 利益追求と倫理的行動のバランスを保つ判断

情報管理

  • 機密情報・個人情報の保護体制構築
  • インサイダー情報の適切な管理と開示判断
  • 自社の知的財産の保護と活用の戦略

7.イノベーション・新規事業開発力

イノベーション推進

  • 組織内の創造性と挑戦を促進する仕組み
  • 新しいアイデアの事業性を評価する能力
  • 外部連携によるイノベーション加速

新規事業開発

  • リーンスタートアップなど効率的な事業開発手法の実践
  • 検証可能な最小限の製品・サービス設計
  • 新規事業の拡大タイミングと方法の見極め

M&A・提携戦略

  • 戦略的M&A案件の発掘と評価
  • 買収候補の詳細調査と価値算定
  • 買収後の統合プロセス設計と実行

8.グローバル展開・多様性対応力

グローバル戦略

  • 海外市場の機会とリスクの評価
  • 国・地域ごとの最適な進出戦略の設計
  • 国際的な事業の整合性確保

多文化理解

  • 文化的背景の異なるステークホルダーとの効果的な対話
  • 多様な人材の能力を引き出す組織作り
  • 国際的な人材の採用・育成・活用

言語・交渉力

  • 英語での交渉・プレゼン・文書作成能力
  • 国際的な法規制・商慣行の基本理解
  • 国際的なビジネス交渉の進め方

9.テクニカルスキル

定量分析ツール

  • 財務モデリング・シミュレーション
  • Tableau, Power BIなどの活用
  • 基本的な統計手法の理解と適用

プレゼンテーション

  • 説得力のある企画書・提案書の作成
  • 複雑な情報を視覚的に伝えるデザイン
  • 様々な聴衆に合わせた効果的な発表

プロジェクト管理

  • アジャイル・スクラムなど状況に応じた手法選択
  • 現実的なスケジュール・マイルストーン設定
  • 人材・予算の効果的な配分と管理

10.大企業の経営企画部長と異なるスキル

新興上場企業の経営企画部長には、大企業の同職位と比較して、以下の特徴的なスキル差異があります。

  • スピード重視: 完璧さよりも素早い意思決定と実行のバランス感覚
  • リソース効率: 限られたリソースを最大限に活用する創造的手法
  • 両利きの経営: 足元の業績と将来成長の両立を図る高度なバランス力
  • 適応力: 急速に変化する環境や予測不能な状況への対応力
  • 実行と構想: 高度な戦略思考と同時に、自ら手を動かす実行力

さらに重要なのは、これらの個別スキルを状況に応じて柔軟に組み合わせ、常に全体最適の視点から判断する統合的な思考能力です。専門性と汎用性、分析と直感、戦略と実行のバランスを取りながら、組織の急成長フェーズを支える中核的存在として機能することが求められます。

新興上場企業の経営企画部長までの 道のり

経営企画部長というポジションは、一朝一夕でたどり着けるものではありません。では、このポジションを目指す場合、どのようなキャリアパスがあり得るのでしょうか。ここでは、逆算的に考えながら、複数の可能性を探っていきましょう。

まず経営企画部長に就任する直前のポジションとしては、以下のようなパターンが考えられます。

  • 経営企画部内でのキャリアアップ 

経営企画部の課長やマネージャーから部長に昇進するケースです。経営企画部内で実績を積み、戦略立案や予算管理のノウハウを着実に身につけた人材が、自然な流れで部長にステップアップします。例えば、中期経営計画の策定プロジェクトでリーダーシップを発揮したり、重要なM&A案件を成功に導いたりすることで評価され、部長に抜擢されるケースが多いでしょう。

  • 事業部門からの転身 

営業部長や事業部長など、一定の規模の組織マネジメント経験を持つ人材が、より広い視野を持ってもらうために経営企画部長に異動するケースです。現場での実績とリーダーシップが評価され、全社的な戦略立案を担うポジションに抜擢されるのです。事業の最前線で培った市場感覚や顧客理解が、経営企画においても大きな武器となります。

  • 財務・経理部門からの転身 

CFOや財務部長が経営企画部長を兼務したり、完全に職務を移行したりするケースです。財務・会計の専門知識を持ち、数字に強い人材が経営企画を担当することで、より精度の高い経営計画や投資判断が可能になります。IPO準備や資本政策の立案など、財務と経営企画が密接に関わる局面では特に有効なキャリアパスです。

  • 外部からの招聘 

コンサルティングファームや投資銀行、他社の経営企画部門で実績を持つ人材を外部から招聘するケースです。特に成長フェーズにある新興企業では、即戦力となる経験者を求めて外部採用を行うことが少なくありません。戦略コンサルタントとして様々な企業の経営課題に携わった経験や、投資銀行でM&Aに関わった経験は、経営企画部長としても大いに活かせます。

では、これらの直前ポジションにたどり着くまでには、どのようなキャリアステップがあるでしょうか。さらに逆算して考えてみましょう。

  • 経営企画部内でのキャリア形成 

多くの場合、新卒や若手のうちに経営企画部に配属され、アナリストや担当者として実務経験を積むことから始まります。予算管理のサポート、各種分析レポートの作成、経営会議の資料準備などの業務を通じて基礎を身につけ、徐々に責任ある業務を任されるようになります。中堅社員になると、中期経営計画の策定プロジェクトや新規事業の立ち上げなど、重要なプロジェクトを担当。マネージャー・課長クラスになると、チームをリードしながらより戦略的な業務に携わり、最終的に部長にステップアップする流れです。

  • 事業部門からのキャリアチェンジ 

営業や企画開発など、事業の最前線でキャリアをスタートし、優秀な成績を収めることでマネージャーや部長に昇進。その後、より広い視野を身につけるために経営企画部門に異動するというパターンです。現場で培った実践力とリーダーシップが評価され、全社戦略を担う経営企画部長に抜擢されるのです。特に事業創出の経験や顧客理解の深さは、経営企画においても強みとなります。

  • 財務・経理部門からのキャリアチェンジ 

財務や経理の専門家として入社し、決算業務や資金調達、原価管理などの実務を通じて実績を積み上げるキャリアパスです。数字に強く、企業の財務状況を俯瞰できる人材として評価され、財務部長やCFOに昇進した後、経営企画部門との接点が増えていく中で、経営企画部長を兼務するようになるケースも多いです。

  • コンサルタントからの転身 

戦略コンサルティングファームで様々な業界・企業の経営課題に関わり、分析力・提案力を磨いた後、事業会社に転職して経営企画部門で活躍するパターンです。コンサルタントとして培った論理的思考力やフレームワークを活用する能力が評価され、比較的短期間で経営企画部の要職に就くケースも少なくありません。

若手時代に経営企画部門を目指すための準備としては、以下のようなスキルや経験を意識的に積むことが重要です。

  • 数字・データの分析力を磨く:どの部署にいても、売上や利益の構造、KPIの推移などを分析する習慣をつけましょう。Excelやデータ分析ツールの使いこなしも大切です。
  • 経営者の視点を学ぶ:CEOや経営陣のメッセージを注意深く聞き、経営陣がどのような視点で判断しているかを観察しましょう。経営関連の書籍や経営者の自伝も参考になります。
  • プロジェクト経験を積む:部門横断的なプロジェクトに積極的に参加し、調整力やプロジェクトマネジメント能力を鍛えましょう。
  • 財務・会計の基礎を身につける:簿記やファイナンスの基礎知識は、経営企画に不可欠です。資格取得や社内研修などを通じて学びましょう。
  • 業界・市場への理解を深める:自社が属する業界のトレンドや競合動向に常にアンテナを張り、市場環境の変化に敏感になりましょう。

これらのスキルと経験を意識的に積み重ねることで、経営企画部長というゴールに近づいていくことができます。ただし、このキャリアパスは一例に過ぎません。重要なのは、どの部署にいても「全体最適」の視点を持ち、数字とビジネスの両方を理解する「バイリンガル」な人材を目指すことです。

経営企画部長を目指す上で忘れてはならないのは、表面的なスキルだけでなく、信頼関係の構築も重要だということです。経営企画部門は様々な部門と連携し、時には厳しい調整を行う立場にあります。そのためには、「この人の言うことなら信頼できる」と思ってもらえる人間性と実績を積み上げることが不可欠です。日々の業務の中で誠実さを示し、約束したことは必ず実行する—そうした姿勢が、最終的には経営企画部長という重要なポジションへと導くのです。

新興上場企業の経営企画部長というポジションは、決して簡単にたどり着けるものではありません。しかし、計画的にスキルを磨き、意識的に経験を積むことで、十分に手の届く目標でもあります。どのキャリアパスを選びますか?その選択が、未来を大きく左右することになるでしょう。

新興上場企業の経営企画部長の キャリアパスの展望

経営企画部長の役割を担うことで、ビジネスパーソンとして飛躍的な成長を遂げることができます。この職種で磨かれるスキルと、その先に広がるキャリア展望について見ていきましょう。

まず身につくのは「戦略的思考力」です。市場分析、競合分析、SWOT分析などの手法を駆使して情報を整理し、そこから中長期的な戦略を導き出す能力は、経営企画部長の最も重要なスキルです。例えば、「この市場セグメントは年率15%で成長しており、競合もまだ少ない。自社の技術的優位性を活かせば、3年以内に市場シェア20%を獲得できる可能性がある」といった戦略的判断ができるようになります。この思考プロセスは、どんな職種に就いても価値を発揮する普遍的なスキルです。

次に磨かれるのが「分析力と数値感覚」です。経営計画や予算策定の過程で、膨大なデータを分析し、意思決定に必要な情報を抽出する能力が養われます。売上、利益、コスト構造、投資対効果など、ビジネスの根幹を成す数字に対する鋭い感覚は、経営幹部として不可欠な素養です。「この施策に1億円投資すれば、3年間でどれくらいのリターンが期待できるか」といった投資判断が的確にできるようになります。

また、「全社横断的なコミュニケーション能力」も大きく向上します。経営企画部長は、営業、マーケティング、開発、人事、財務など、あらゆる部門と連携しながら業務を進めます。各部門の言語(専門用語や考え方)を理解し、時には「翻訳者」のような役割を果たしながら組織全体の意思統一を図る—そのプロセスで培われるコミュニケーション能力は、将来的に組織のリーダーとなる上で極めて重要です。

「プロジェクトマネジメント能力」も経営企画部長として磨かれる重要なスキルです。中期経営計画の策定、M&Aの実行、組織改革の推進など、大規模なプロジェクトを主導する経験を通じて、目標設定、スケジュール管理、リソース配分、リスク管理といったプロジェクトマネジメントのノウハウが身につきます。複雑な課題を分解し、優先順位をつけて着実に進める能力は、どんなビジネスシーンでも重宝される普遍的なスキルです。

さらに、上場企業特有の「IR・資本市場との対話能力」も獲得できます。投資家やアナリストとのコミュニケーションを通じて、自社の成長戦略を端的に説明し、質問に的確に答える能力が磨かれます。このスキルは、社内外の様々なステークホルダーを納得させる「説得力」の向上にも直結します。

キャリア展望としては、経営企画部長の経験を活かして様々な道が開けます。

  • 「執行役員」や「取締役」への昇進

経営の中枢で培った視点と経験は、経営陣として会社の舵取りをする上での大きな武器となるでしょう。

  • 子会社や新規事業の「社長・事業責任者」として抜擢されるケース

全社戦略の立案に関わった経験を活かし、実際に事業の責任者としてP/L(損益計算書)を預かる立場にステップアップするのです。

  • 「M&Aアドバイザー」や「経営コンサルタント」へのキャリアチェンジ

多様な業界・企業の戦略立案に関わることで、さらに視野を広げていくことができるでしょう。

  • 「起業家」への挑戦

事業計画の立て方、資金調達の方法、組織設計の考え方など、経営企画で学んだノウハウが、自らの会社を成長させるための基盤となるのです。

このように、経営企画部長というポジションで身につけるスキルと経験は、その後のキャリアの可能性を大きく広げてくれます。戦略と実行、数字と人、全体最適と部分最適—様々な要素をバランスよく理解できる「経営の総合力」を持つ人材として、市場価値は着実に高まっていくでしょう。

特に新興上場企業では、経営企画部長として事業のスケールアップや企業価値向上に貢献した実績が、次のキャリアステップへの大きな足がかりとなります。急成長フェーズのビジネスモデル構築、資本市場との対話、M&Aの実行といった経験は、どの企業でも高く評価される普遍的な価値を持っているのです。

まとめ

役割と責任

  • CEOの右腕として経営戦略を立案し、組織全体を俯瞰しながら会社の成長エンジンを最適化する役割
  • 新興上場企業では、特に外部環境の変化に合わせた柔軟な計画修正や、限られたリソースの最適配分が重要
  • 戦略と実行、数字と人、全体最適と部分最適—様々な要素をバランスよく理解できる「経営の総合力」

求められるマインドやスキル

  • 「戦略家」であると同時に「実行者」であり、「未来を描く者」であると同時に「現実を直視する者」であることが求められます。
  • 環境変化が激しく、リソースが限られた中でも、ビジョンと現実をつなぎ、多様なステークホルダーの期待に応えながら、組織の急成長を支える
  • 戦略と実行、数字と人、全体最適と部分最適—様々な要素をバランスよく理解できる「経営の総合力」

重要な職務

  • 成長戦略の策定と迅速な実行管理
  • コーポレートガバナンス体制の強化とステークホルダー関係の構築
  • 組織・人材の急成長に対応する経営基盤の構築

キャリアパス

  • 経営企画部内でのキャリアアップ:アナリストや実務担当者⇒課長・マネージャー⇒部長
  • 財務・経理部門、コンサルティングファームや投資銀行等からのキャリアチェンジ
  • 子会社の社長や新規事業の責任者、M&Aアドバイザーや経営コンサルタントへの転職、独立開業などへのステップアップ