経理・財務・会計ファイナンス人材のためのキャリア名鑑

会計人材のキャリア名鑑

新興上場企業の経理部マネージャー

「上場企業としての信頼性を担保し、企業拡大を会計で支える現場リーダー」

財務の羅針盤を握り、戦略的視点で企業価値を高める

1人のスペシャリストから経営参謀へ、キャリアの可能性は無限大

上場企業の要として活躍し、会社の明日を創る醍醐味

主な業務内容

  • 月次・四半期・年次の決算業務統括
  • ディスクロージャーや投資家向け情報の作成・開示
  • 経営管理指標の設計と分析、経営陣への情報提供
  • 監査法人との折衝、内部統制の整備・運用

想定年収

500万円~1,000万円
※業績や評価によって変動

想定年齢

28歳~40歳

新興上場企業の経理部マネージャーは こんな仕事

新興上場企業の経理部マネージャーという役職は、企業の成長を財務面から支える重要なポジションであり、経営の羅針盤を握る、現場のプロフェッショナルです。業績を数値で可視化し、投資家に企業価値を伝え、経営判断のための的確な情報を提供する——その責任は重大ですが、だからこそ、やりがいも大きいのです。

成長企業では、経理部マネージャーの役割は日々変化し拡大します。経理の専門知識はもちろん、経営視点や戦略思考が求められ、その分野で実力を発揮すれば、将来はCFOや経営幹部としての道も開けています。財務のプロフェッショナルとして会社の成長に貢献しながら、自身も大きく成長できる——そんなダイナミックなキャリアを目指したい方に、ぜひ挑戦していただきたいポジションです。

新興上場企業の経理部マネージャーは、帳簿をつけるだけの仕事ではありません。企業の「財務の中枢」として、数字を通じて会社の健全な成長を支える重要な役割を担っています。

まず中核となるのは、月次、四半期、年次の決算業務の統括です。経理チームを率いて、日々の経理処理から決算に至るまでのプロセスを管理します。上場企業は、正確さだけでなく、スピードも求められます。月次決算であれば翌月10日までに、四半期決算なら45日以内に確定させる必要があります。その過程では、経理スタッフの育成やタスク配分、進捗管理など、マネジメント力も試されます。

また、上場企業ならではの業務として、ディスクロージャー関連の業務があります。四半期ごとの決算短信や有価証券報告書の作成・開示は、経理部マネージャーの重要な責務です。これらの開示資料は投資家の投資判断に直結するため、正確性はもちろん、会社の状況を適切に伝えるための表現力も問われます。IRミーティングでは、経営陣をサポートするために財務データの説明資料を作成することもあるでしょう。

新興企業では成長のための経営判断が頻繁に求められるため、経営管理指標の設計と分析も重要な仕事です。売上や利益だけでなく、顧客獲得コスト、顧客生涯価値、リピート率といった、ビジネスモデルに合わせたKPIを設計し、定期的に測定・分析して経営陣に提供します。「この新事業に投資すべきか」「価格戦略はどうあるべきか」といった経営判断の材料を、数字に基づいて提供するのです。

監査法人との折衝も欠かせません。半期レビューや年度監査に際して、監査法人からの質問や指摘に適切に対応し、円滑な監査の実施をサポートします。会計基準の変更や新たな取引に対する会計処理の検討なども、監査法人と協議しながら進めます。

内部統制の整備・運用も重要です。J-SOX対応として、財務報告に係る内部統制を評価・報告する体制を維持し、必要に応じて改善を行います。コンプライアンス体制の強化は投資家からの信頼獲得にも直結するため、「やらされ仕事」ではなく、企業価値向上のための重要な取り組みとして認識されています。

新興企業ならではの面白さとして、システム導入や業務改善のプロジェクトをリードする機会も多いでしょう。成長過程の企業では、業務プロセスやシステムが未整備な場合も多く、経理部マネージャーとして効率化や自動化を推進する役割も担います。経理業務の効率化は、コスト削減だけでなく、より戦略的な業務に時間を割くための重要な取り組みなのです。

新興上場企業の経理部マネージャーという ポジションの魅力

新興上場企業の経理部マネージャーというポジションは、経理・財務のプロフェッショナルとしてのやりがいと成長機会に満ちています。その魅力は大きく分けて5つあります。

  • 成長企業の躍動感を数字で実感できる

新興上場企業は、その名の通り成長途上にあります。四半期ごとに売上が伸び、新しいビジネスが生まれ、組織が拡大していく——そのダイナミックな変化を、誰よりも早く数字で捉えることができるのが経理部マネージャーの特権です。経営会議で前年比120%の成長を報告するとき、その数字の背後にある会社の成長とチームの努力を実感でき、大きな充実感を得られます。

  • 経営にダイレクトに貢献できる

大手上場企業の経理部門では、担当業務が細分化され、全体像が見えづらいことがあります。しかし新興企業では、経理部マネージャーは財務の司令塔として、経営判断に必要な情報をダイレクトに提供する役割を担います。「この新規事業の投資回収期間は?」「海外展開のリスクとリターンは?」といった経営陣からの問いに、数字で答えを出し、意思決定をサポートする。その影響力の大きさは、他の職種ではなかなか味わえないものです。

  • 幅広いスキルを身につけられる

新興企業の経理部マネージャーは、会計・税務のスペシャリストにとどまりません。IR活動を通じて投資家とのコミュニケーション能力を磨き、予算策定・管理を通じて経営戦略を学び、内部統制の整備を通じてガバナンスの知見を深める——そうした多様な経験が、将来のCFOや経営幹部としての土台を築きます。また、チームマネジメントやプロジェクト管理など、ビジネスパーソンとして普遍的なスキルも磨けます。

  • キャリアの可能性の広さ

経理部マネージャーとしての実績は、将来のキャリアの選択肢を大きく広げます。社内でのキャリアアップはもちろん、より大きな企業へのステップアップ、あるいはCFOとして別の成長企業に参画するなど、様々な道が開けています。実際に多くの経理部マネージャー経験者が、その後CFOや管理部門長として活躍しています。

  • IPO後の変化と成長を体験できる

上場直後の企業は、投資家向けの情報開示の充実や内部統制の強化など、様々な変革期を迎えます。その変化の最前線に立ち、企業の「大人化」を財務・経理の面からリードできることは、貴重な経験になるでしょう。

 

大手・老舗企業の経理部門と比較すると、新興企業では業務が標準化されていない分、自分で考え、創り上げていく部分が多いのも特徴です。「前例がない」ことを制約ではなく、むしろチャンスと捉えられる人にとって、新興上場企業の経理部マネージャーは最高の舞台になるでしょう。

新興上場企業の経理部マネージャーの 年間スケジュール例

4月(新年度開始)

決算・開示関連

  • 前年度決算の締め作業作業(3月決算企業の場合)
  • 有価証券報告書ドラフト作成開始
  • 監査法人との前年度決算に関する最終協議

内部統制・ガバナンス

  • 新年度の内部統制評価計画の策定
  • 前年度J-SOX評価結果の取りまとめ

予算・管理会計

  • 新年度予算の各部門への展開と説明会実施
  • 予算管理システムの更新・設定

組織・マネジメント

  • 新入社員・異動者への経理業務オリエンテーション
  • 経理部門内の年間目標設定と個人目標の擦り合わせ

5月

決算・開示関連

  • 前年度決算短信の開示(3月決算企業の場合)
  • 株主総会招集通知の作成支援
  • 決算説明会資料の作成支援

税務

  • 法人税・消費税等の確定申告準備

株主総会準備

  • 計算書類・事業報告等の最終確認
  • 株主総会議事進行シナリオの財務パート作成支援

監査対応

  • 会計監査人による期末監査への対応

6月

株主総会対応

  • 定時株主総会の開催・運営支援
  • 株主からの財務関連質問への回答準備

決算・開示関連

  • 有価証券報告書の提出(3月決算企業の場合)
  • 四半期決算(Q1)の事前準備

配当・株式

  • 期末配当の支払い手続き
  • 株主名簿管理人との連携

税務

  • 法人税・消費税等の確定申告書提出
  • 住民税・事業税の申告書提出

7月

決算・開示関連

  • 第1四半期決算作業(4-6月期)
  • 第1四半期決算短信ドラフト作成

予算・管理会計

  • 第1四半期実績の予算差異分析
  • 執行役員会向け業績報告資料作成

内部統制

  • J-SOX評価(第1四半期分)の実施

組織・マネジメント

  • 経理部中間レビュー(目標進捗確認)

8月

決算・開示関連

  • 第1四半期決算短信開示
  • 第1四半期決算説明会資料作成支援(実施企業の場合)

予算・管理会計

  • 上期見通し修正の検討
  • 予算修正要否の協議

税務

  • 中間納付(法人税・事業税)の準備
  • 源泉所得税の納付状況確認

プロジェクト

  • 会計システム改善プロジェクトの進捗確認

9月

決算・開示関連

  • 中間決算(上期)の事前準備
  • 各部門への上期決算スケジュール・依頼事項の通知

予算・管理会計

  • 年度下期予測の精緻化
  • 経営会議向け上期総括・下期見通し資料作成

内部統制

  • 内部統制評価の中間レビュー
  • 統制上の不備事項の改善状況フォロー

監査対応

  • 半期レビューの準備

10月

決算・開示関連

  • 中間決算(上期)の締め作業
  • 第2四半期短信ドラフト作成
  • 監査法人による半期レビュー対応

予算・管理会計

  • 上期実績の予算差異分析
  • 下期予算の見直し・調整

税務

  • 中間納付(法人税・事業税)実施
  • 消費税の中間申告・納付(対象企業の場合)

組織・マネジメント

  • 経理スタッフの中間評価面談

11月

決算・開示関連

  • 第2四半期決算短信開示
  • 半期報告書提出
  • 中間決算説明会資料作成支援

内部統制

  • J-SOX評価(第2四半期分)の実施
  • 内部統制上の課題対応状況レビュー

予算・管理会計

  • 通期業績予想の精査・修正検討
  • 予算修正の取締役会上程(必要な場合)

資金計画

  • 年末年始の資金繰り計画策定
  • 運転資金の調達計画レビュー

12月

決算・開示関連

  • 第3四半期決算の事前準備
  • 年度末決算に向けた論点整理
  • 開示関連の制度変更確認

予算・管理会計

  • 次年度予算策定プロセス開始
  • 各部門への予算策定指示・ガイドライン配布

税務

  • 年末調整作業
  • 税制改正情報の収集・影響分析

組織・マネジメント

  • 年末の経理部門進捗確認会議
  • 年末年始の業務体制確保

1月

決算・開示関連

  • 第3四半期決算作業(10-12月期)
  • 決算短信ドラフト作成

予算・管理会計

  • 次年度予算の各部門案ヒアリング
  • 予算調整会議の実施

内部統制

  • J-SOX評価(第3四半期分)の実施
  • 年度末評価に向けた準備

税務

  • 確定申告に向けた税務処理方針の確認
  • 税理士との打ち合わせ

2月

決算・開示関連

  • 第3四半期決算短信開示
  • 年度末決算に向けたスケジュール策定

予算・管理会計

  • 次年度予算案の取りまとめと経営陣レビュー
  • 予算の取締役会上程準備

組織・マネジメント

  • 経理部門の年間評価準備
  • 次年度の組織体制・人員配置の検討

内部統制

  • 内部統制文書の年次更新

3月(年度末)

決算・開示関連

  • 年度末決算の事前準備
  • 決算早期化施策の実施
  • 監査法人との期末監査計画協議

予算・管理会計

  • 次年度予算の取締役会承認取得
  • 予算説明会資料の作成

内部統制・ガバナンス

  • 内部統制の期末評価実施
  • J-SOX評価結果とりまとめ

組織・マネジメント

  • 経理部門の年間総括
  • 次年度の経理部運営計画策定
  • 人事評価の実施と昇給・賞与査定

通年で実施する業務

日次業務

  • 資金繰り管理・資金移動
  • 入出金管理・確認
  • 経費精算承認

週次業務

  • 売上・債権管理状況の確認
  • 週次資金繰り会議
  • 経営陣への週次財務状況報告

月次業務

  • 月次決算の実施と報告
  • 予算実績差異分析
  • 部門責任者への月次財務報告
  • 経理部門内進捗会議

随時業務

  • 監査法人・税理士との定例ミーティング
  • 会計・税務に関する相談対応
  • 取締役会・経営会議の資料作成支援
  • 予算外の投資案件に関する財務評価
  • リスク管理委員会等の各種委員会対応

その他

  • 決算スケジュールについて
    • 上記は3月決算企業を前提としています
    • 12月決算企業等は適宜スケジュールを読み替えてください
  • 成長フェーズ特有の追加業務
    • 資金調達(増資・社債発行等)関連業務
    • M&A関連のデューデリジェンス対応
    • 子会社増加に伴う連結決算体制の構築
    • 海外展開に伴う国際税務・外貨管理業務
  • 上場企業特有のイベント対応
    • 機関投資家・アナリスト向け決算説明会対応
    • 個人投資家向け説明会対応
    • 投資家・アナリストからの問い合わせ対応
    • 適時開示に関する緊急対応
  • リスク管理ポイント
    • 期末・四半期末への業務集中リスク
    • 人材不足による属人化リスク
    • 開示スケジュールの厳格な遵守要求
    • 成長に伴う業務量増大と体制整備のバランス

新興上場企業の経理部マネージャーは、限られたリソースで法定開示義務と経営管理の高度化という二つの要求に応える必要があります。特に上場後1〜3年は、上場前の体制から上場企業としての本格的な体制への移行期間であり、業務プロセスの標準化・システム化・内部統制の強化と並行して、投資家向け情報開示の質向上や経営判断支援機能の強化など、多方面での能力発揮が求められます。

新興上場企業の経理部マネージャーの 重要任務

新興上場企業の経理部マネージャーには様々な責務がありますが、以下では特に重要な3つの任務についてご説明します。

 

1.信頼性の高い財務報告・開示体制の構築と運用

上場企業にとって、適時・適切な財務情報の開示は最も基本的な義務であり、市場からの信頼を得るための必須条件です。特に新興上場企業は投資家からの注目度が高く、開示の質が企業評価に直結します。

  • 決算早期化と精度向上の両立
    • 月次・四半期・年次の決算スケジュールの最適設計
    • 決算業務の標準化・マニュアル化による品質確保
    • 会計処理の判断基準明確化と社内周知
  • 適時開示体制の確立
    • 決算短信、四半期報告書、有価証券報告書等の作成プロセス構築
    • 開示内容の正確性・整合性確保のためのチェック体制整備
    • 予測値の修正など、適時開示が必要な事象の識別・報告体制構築
  • 監査法人との効果的な連携
    • 会計上の論点に関する事前協議・合意形成
    • 効率的な監査対応のための証憑準備と説明体制の確立
    • 監査指摘事項の改善プロセス管理
  • IR活動への貢献
    • 経営陣の IR 活動をサポートする財務資料の作成
    • 投資家・アナリスト向け説明資料の財務部分監修
    • 財務数値に関する問い合わせへの適切な対応準備

実施上のポイント

  • 会計システムと開示支援ツールの効果的活用による効率化
  • 財務報告プロセスにおける統制ポイントの明確化と運用
  • 開示関連業務の専門人材育成と知見の組織的蓄積
  • 監査法人との良好なコミュニケーション関係の構築

2.経営管理基盤の構築と意思決定支援

新興上場企業は急成長フェーズにあることが多く、限られたリソースを最適配分し、成長機会を逃さない経営判断が求められます。経理部マネージャーは「数字の作成者」にとどまらず、経営の意思決定を支援する経営管理基盤の構築者としての役割が重要です。

  • 実効性ある管理会計体制の確立
    • 事業の実態を反映したセグメント別損益管理体系の構築
    • 貢献利益、限界利益など多角的な収益性分析の仕組み導入
    • 経営者・事業部門が必須とする情報のダッシュボード化
  • 予算管理プロセスの確立
    • 戦略と連動した予算編成プロセスの設計・運用
    • 予実差異分析と対策立案のPDCAサイクル確立
    • 成長機会に機動的に対応できる柔軟な予算運用の仕組み構築
  • 投資評価と資本配分の仕組み構築
    • 資本コストを考慮した投資評価基準の確立
    • M&A・設備投資等の財務評価プロセス構築
    • 投資後のモニタリング体制の確立
  • 経営計画策定支援
    • 中期経営計画の財務フレームワーク設計
    • 複数シナリオを想定した財務計画立案支援
    • 成長戦略実現のための財務戦略立案

実施上のポイント

  • 事業部門との密接な連携による実態把握と信頼関係構築
  • BIツールなどを活用したデータ分析・可視化環境の整備
  • 短期的収益と中長期的成長投資のバランスを評価できる視点
  • 定性的な戦略判断と定量的な財務分析を橋渡しする能力

3.内部統制・ガバナンス体制の最適化

上場企業として、財務報告の信頼性確保のための内部統制の整備と運用は不可欠ですが、新興企業にとっては急成長に内部管理体制が追いつかないリスクがあります。過度に硬直的な統制でビジネスのスピードを損なうことなく、効率的かつ実効性のある内部統制体制を構築することが重要任務となります。

  • J-SOX対応体制の確立
    • 財務報告に係る内部統制の整備・運用評価体制の構築
    • リスクベースアプローチによる重要な統制の特定と集中
    • 内部統制評価の効率的な実施・文書化手法の確立
  • 業務プロセスの標準化と効率化
    • 主要業務プロセス(購買・販売・在庫等)の可視化と標準化
    • 権限・職務分掌の明確化による牽制体制の確立
    • 成長に対応できる業務プロセスのスケーラビリティ確保
  • 不正リスク管理体制の構築
    • 不正リスクの識別と評価に基づく予防的統制の設計
    • 早期発見のための発見的統制の配置
    • 内部通報制度など牽制環境の整備
  • システム統制の確立
    • 財務会計・管理会計システムのアクセス管理強化
    • システム変更管理・データ保全体制の確立
    • IT全般統制の整備による自動化統制の信頼性確保

実施上のポイント

  • 「成長を支える内部統制」という視点でのバランス感覚
  • 監査法人・内部監査部門との連携による効果的な統制設計
  • 内部統制の「形式」ではなく「実質」を重視する文化醸成
  • テクノロジー活用による統制の自動化・効率化の推進

新興上場企業の経理部マネージャーは、上記3つの重要任務のバランスを取りながら、限られたリソースで最大の効果を生み出すことが求められます。特に、「正確性・コンプライアンス」と「俊敏性・スピード」の両立が常に課題となります。

また、これらの任務を遂行する上で特に重要なのは、経営層との信頼関係構築、事業への深い理解、チーム育成、そして自身のリーダーシップとクリティカルシンキング能力です。新興企業の成長フェーズに応じて、これらの任務の重点も変化していくため、常に先を見据えた体制構築が求められます。

新興上場企業の経理部マネージャーの 報酬水準

新興上場企業における経理部マネージャーの報酬水準については、企業規模、業種、個人のスキル・経験、企業の成長ステージなどにより変動します。公開情報から得られる一般的な水準を以下にまとめます。

基本的な報酬水準

年間総報酬(目安)

  • 年収レンジ: 約500万円~1,000万円

報酬構成

  • 基本給: 総報酬の約60~70%
  • 賞与: 総報酬の約20~30%(業績連動部分を含む)
  • その他手当: 約10~15%(役職手当、資格手当など)
  • 株式報酬: 企業によっては導入(特にスタートアップ系)

影響要因

個人要因による差

  • 経験年数: 経理実務10年以上で報酬が高まる傾向
  • 保有資格: 公認会計士、税理士、米国CPA等の資格保有者は高い傾向
  • 語学力: 英語力(特にIFRS対応、海外子会社管理能力)があると優遇
  • 特殊スキル: IPO経験、M&A経験、システム導入経験等で優遇

新興上場企業特有の報酬特性

成長段階による特徴

  • IPO直後(1~2年): 比較的抑制的な基本報酬に業績連動部分を組み合わせるケースが多い
  • 成長加速期(3~5年): 事業拡大に伴い報酬水準も上昇傾向
  • 安定成長期(5年以上): 大手企業に近い報酬体系に移行するケースが多い

インセンティブ設計の特徴

  • 業績連動賞与: 売上・利益目標達成度に連動
  • 株式報酬: ストックオプションやRSU(制限付株式ユニット)など
  • IPO後の特別報酬: 上場達成ボーナスが支給されるケースもある

新興上場企業の経理部マネージャーの報酬は、企業規模や個人のスキル・経験によって大きく異なりますが、概ね年収500万円~1,000万円の範囲に分布しています。特に近年は、経理部門に対して記録・報告機能だけでなく、経営戦略の策定支援や業務改革の推進など、より高度な役割が期待されるようになっており、それに伴い専門性の高い人材への報酬も上昇傾向にあります。

企業としては、基本報酬に加え、業績連動型のインセンティブや株式報酬を組み合わせることで、短期的な業績と中長期的な企業価値向上の両方にコミットする報酬体系を構築する傾向が見られます。

新興上場企業の経理部マネージャーの 代表的な会社

日本では近年、革新的なビジネスモデルや先進的なテクノロジーを武器に急成長を遂げ、上場を果たした企業が複数存在します。その中でも特に注目されている3社をご紹介します。

1.SmartHR株式会社

概要

  • 創業: 2013年
  • 上場: 2019年東証マザーズ(現グロース市場)
  • 事業内容: クラウド型人事労務ソフト「SmartHR」の開発・提供

特徴

SmartHRは「労働にまつわる社会課題をなくし、誰もがその人らしく働ける社会をつくる」というミッションを掲げ、人事労務業務の効率化を実現するサービスを提供しています。入社手続きや雇用契約、給与明細の配布、年末調整など、従来紙や手作業で行われていた業務をデジタル化し、大幅な業務効率化を実現しています。

多くの企業で人手不足が深刻化する中、バックオフィス業務の効率化ニーズを的確に捉え、急速に顧客基盤を拡大。日本企業のDX推進を支援する代表的なSaaS企業として評価されています。

2.メルカリ株式会社

概要

  • 創業: 2013年
  • 上場: 2018年東証マザーズ(現プライム市場)
  • 事業内容: フリマアプリ「メルカリ」の運営、決済サービス「メルペイ」の提供

特徴

「新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る」をミッションに掲げ、個人間取引のプラットフォームとして急成長を遂げました。スマートフォンの普及と結びついた使いやすいUIと、配送システムの最適化により、新たな消費行動を生み出しています。

日本発のユニコーン企業として海外展開も積極的に進め、米国でも事業を展開。2023年にはついに黒字化を達成し、安定的な成長軌道に乗りつつあります。

フリマアプリの枠を超え、金融サービス「メルペイ」を展開するなど、生活インフラとしての地位を確立しつつある点も注目されています。社内のグローバル化を積極的に進め、外国人採用も積極的におこなっています。

3.フリー株式会社

概要

  • 創業: 2012年
  • 上場: 2019年12月東証マザーズ(現グロース市場)
  • 事業内容: クラウド会計ソフト「会計freee」、給与計算ソフト「人事労務freee」の開発・運営

特徴

「スモールビジネスを、世界の主役に。」というミッションを掲げ、個人事業主や中小企業向けのクラウド会計・人事労務サービスを提供しています。独自のテクノロジーを活用し、複雑な会計処理や法改正への対応をリアルタイムで行うことで、専門知識がなくても直感的に業務ができる環境を提供しています。

設立以来、継続的な成長を続け、顧客基盤は個人事業主から中小企業、さらには中堅企業へと拡大。サブスクリプションモデルによる安定的な収益基盤を構築しています。

会計データを基に金融サービスとの連携を強化するなど、スモールビジネスのインフラとなるプラットフォームを構築する戦略も注目されています。

 

これらの企業に共通するのは、テクノロジーを活用して既存の業務プロセスを根本から変革し、効率化・最適化を図るという点です。また、サブスクリプションモデルを中心としたビジネスモデルにより、ストック型の収益構造を実現している点も特徴的です。

日本のビジネス環境の変化に合わせて、今後もこうした新興企業の成長・上場が期待されています。

新興上場企業の経理部マネージャーに 向いている人は、どんな人?

■求められるマインド

新興上場企業の経理部マネージャーには、会計処理や数値管理以上の役割が求められます。成長ステージにある企業の財務・会計面を統括するリーダーとして、以下のようなマインドセットが重要です。

1.戦略的パートナーシップマインド

事業への深い理解と貢献

  • 数字の管理者ではなく「ビジネスパートナー」としての自覚を持つ
  • 経営陣や事業部門との対話を通じて事業の本質を理解する姿勢
  • 財務数値から事業の強みと課題を読み解き、経営判断に役立つ示唆を提供する積極性

価値創造への意識

  • 「コスト部門」から「価値創造部門」へのマインドシフト
  • 規制対応や報告業務にとどまらず、意思決定の質向上に貢献する意識
  • 財務パフォーマンスの最適化を通じた企業価値向上への貢献意欲

先見性のある計画

  • 将来を見据えた財務戦略立案の志向性
  • 成長に伴う資金需要や財務リスクを先読みする先見性
  • 「今何をすべきか」だけでなく「次に何を準備すべきか」を考える習慣

2.バランス感覚と判断力

コンプライアンスとビジネススピードの両立

  • 法令遵守の厳格さと事業の俊敏性をバランスさせる判断力
  • 「NO」と言うべき時と「HOW」を考えるべき時を見極める力
  • 過度に保守的な態度を避け、リスクを適切に評価・管理する姿勢

短期と長期の視点

  • 四半期業績と中長期的な企業価値向上のバランスを意識
  • 短期的な数値改善と持続的な成長基盤構築の両方を視野に入れる
  • 「今期の数字」と「将来の成長」のトレードオフを最適化する思考

詳細と全体像の往復

  • 細部の正確性を重視しつつも全体像を見失わない視座
  • 重要な論点と些末な問題を区別する優先順位付けの思考
  • 木を見て森も見る、マクロとミクロを行き来できる思考の柔軟性

3.変革推進とリーダーシップ

改善・革新への意欲

  • 「前例踏襲」ではなく「より良い方法」を常に模索する姿勢
  • 業務効率化・自動化など経理機能の高度化を推進する変革志向
  • 新しい会計基準や制度変更をチャンスと捉える前向きさ

チーム育成への責任感

  • 個人プレーヤーからチームビルダーへの意識転換
  • メンバーの成長を自らの責務と捉える育成マインド
  • 多様な専門性を持つ人材を活かすダイバーシティ推進の意識

レジリエンス(回復力)

  • 予期せぬ状況変化や危機に対応できる精神的強靭さ
  • 失敗から学び、迅速に軌道修正できる柔軟性
  • 高いプレッシャー下でも冷静さを保ち、チームを導く安定感

4.プロフェッショナリズムと倫理観

高い倫理基準と誠実さ

  • 企業の財務の「番人」としての強い職業倫理
  • 数字の正確性と透明性に対する揺るぎないコミットメント
  • 経営層からのプレッシャーにも毅然とした態度を保持する勇気

確かな専門性と学習意欲

  • 会計基準や税制の変更に常にアップデートする継続学習の姿勢
  • 自身の知識・スキルギャップを認識し、補完する謙虚さ
  • 専門性を高める自己研鑽への飽くなき意欲

品質へのこだわり

  • 「できればいい」ではなく「正確に」を追求する姿勢
  • ミスを許容しない品質管理への強いこだわり
  • 常に自分の仕事を第三者の目で検証する客観性

5.コミュニケーション志向と協調性

透明性と説明力

  • 複雑な財務情報を非財務部門にも理解できるよう翻訳する意欲
  • 財務数値の背景にあるストーリーを伝える説明力
  • オープンなコミュニケーションを促進する透明性

社内外の関係構築

  • 監査法人、投資家、金融機関などとの良好な関係構築への意識
  • 事業部門との信頼関係を重視する協調性
  • 孤立した経理部門ではなく、組織全体と連携する姿勢

フィードバック文化の醸成

  • 建設的なフィードバックを与え、また受け入れる開放性
  • 異なる意見や視点を尊重し、取り入れる懐の深さ
  • チーム内の率直な議論を奨励するコミュニケーション文化

新興上場企業の経理部マネージャーには、従来型の「正確な数字を作る管理者」にとどまらず、「経営の意思決定を支える戦略的パートナー」かつ「変革を推進するリーダー」としてのマインドが求められています。

特に重要なのは、コンプライアンスと事業推進のバランス感覚、短期と長期の視点を往復する戦略的思考、そして高い倫理観と変革への意欲です。これらのマインドセットは、急速に変化する事業環境の中で、企業の持続的成長を財務面から支えるための基盤となります。

経理部マネージャーがこうしたマインドを持ち、「数字の管理者」から「価値創出のパートナー」へと進化することで、新興上場企業の成長加速に大きく貢献することができるでしょう。

■必要なスキル

新興上場企業の経理部マネージャーは、企業の成長と市場要求に対応するために、幅広いスキルセットが求められます。財務・会計の専門知識はもちろん、マネジメント能力やデジタルスキルなど多岐にわたる能力が必要です。以下に主要なスキルを体系的に整理しました。

1.専門的財務・会計スキル

会計・財務報告スキル

  • 企業会計基準(J-GAAP)の深い理解と適用能力
  • 金融商品取引法、会社法等の開示要件の理解
  • 子会社・関連会社を含めた連結財務諸表作成能力
  • 収益認識、リース会計、減損会計等の判断力
  • 数値の背景を読み解く分析力と問題点の把握

税務・法規制対応スキル

  • 税効果会計を含む法人税申告の実務知識
  • グローバル展開企業における税務リスク管理
  • 複雑化する消費税の実務対応力
  • 的確な説明と根拠の整理能力
  • 上場企業としての規範対応力

内部統制・リスク管理スキル

  • 内部統制報告制度への実務対応能力
  • 効率的かつ効果的な統制活動の設計力
  • 財務報告上のリスクを特定・評価する能力
  • 不正防止・早期発見の統制設計力
  • 統制と効率のバランスを取った業務設計力

2.経営管理・戦略スキル

経営管理会計スキル

  • 事業特性に合った管理会計制度の設計能力
  • 事業戦略を反映した重要指標の設定能力
  • 予算策定プロセスの設計と運用能力
  • 製品・サービスの収益性分析能力
  • 事業/部門/プロジェクト単位の採算把握力

財務戦略スキル

  • 成長に必要な資金需要予測と調達計画策定
  • 日々の資金繰りから中期CF予測までの管理
  • 調達手段(増資・社債・借入等)の最適化判断
  • M&A・設備投資等の投資判断における財務評価
  • 配当政策・自社株買い等の株主還元検討能力

ビジネス理解・支援スキル

  • 自社ビジネスの収益構造・バリューチェーン理解
  • 競合・市場環境の変化を財務的視点で捉える能力
  • 財務数値から経営課題を抽出する洞察力
  • 経営判断に役立つ財務分析・シミュレーション
  • 成長投資と収益性のバランスへの示唆

3.マネジメント・リーダーシップスキル

チームマネジメントスキル

  • 経理スタッフの専門性向上とキャリア開発支援
  • 適切な職務分掌と権限委譲による組織設計
  • チーム・個人の目標設定とフィードバック
  • 専門職としての意欲・やりがい創出
  • 必要なスキルを持つ人材の確保・定着

プロジェクトマネジメントスキル

  • 短期間での決算完遂のための進行管理
  • 会計システム・ERPの導入/更新プロジェクト管理
  • 業務改善・プロセス変更の推進力
  • コンサルタント・監査法人等との協業管理
  • 他部門を巻き込んだプロジェクト推進

コミュニケーションスキル

  • 複雑な財務情報を簡潔明瞭に伝える能力
  • 専門用語を噛み砕いて説明する翻訳力
  • 会計処理の妥当性を説明・交渉する能力
  • IR活動における財務説明・質疑応答能力
  • 複雑な会計処理や判断根拠を論理的に文書化する能力

4.デジタル・テクノロジースキル

システム活用・DXスキル

  • 会計システム・ERPの構造理解と活用能力
  • 定型業務の自動化推進能力
  • データ分析・可視化ツールの活用能力
  • SaaS型財務ツールの選定・導入・運用
  • 業務ニーズをシステム要件に変換する能力

データ分析・活用スキル

  • 財務データの多角的分析能力
  • ピボットテーブル、マクロ等のエクセル機能活用
  • トレンド分析・予測モデル構築の基本スキル
  • 営業・マーケティングデータと財務の統合分析
  • 財務データの正確性・整合性確保能力

サイバーセキュリティ意識

  • 財務情報漏洩リスクと対策の理解
  • 適切な情報アクセス権限設計の知識
  • チームへのセキュリティ意識浸透能力
  • 情報漏洩等発生時の初動対応理解
  • 外部委託先のセキュリティ管理監督能力

5.グローバル対応スキル

国際会計・多言語対応

  • 国際会計基準の理解と対応準備能力
  • 英文財務諸表作成・英語での監査対応能力
  • 海外投資家・親会社等への報告対応
  • 国際取引の会計・税務処理理解
  • 為替変動影響の把握と管理能力

グローバルコンプライアンス

  • 海外拠点の会計・税務状況の把握・指導
  • 各国税制の基本と国際税務リスクの理解
  • 多国間での統制の標準化と運用管理
  • 主要事業国の会計・税務規制の基本理解
  • 文化的背景の異なるチームとの協働

新興上場企業の経理部マネージャーに求められるスキルは多岐にわたります。伝統的な会計・財務の専門知識に加え、経営戦略への貢献、マネジメント能力、デジタル対応力、そしてグローバル視点が重要になってきています。

特に、急成長する新興企業では、現状の業務を効率的に運営しながら、将来の成長を見据えた財務基盤の構築が求められます。そのためには、日々の業務遂行力と変革推進力の両方がバランスよく必要です。

これらすべてのスキルを一人で完璧に備えることは現実的ではありませんが、自身の強みと弱みを認識した上で、チーム全体でこれらのスキルをカバーし、継続的な学習によって能力開発を進めていくことが重要です。業界・技術・規制環境の変化に対応しながら、これらのスキルを磨き続けることが、経理部マネージャーとしての成功につながります。

新興上場企業の経理部マネージャーまでの 道のり

新興上場企業の経理部マネージャーになるまでのキャリアパスは決して一つではありません。様々な道筋があり、それぞれに特徴があります。ここでは、主なキャリアパスを逆算して紹介します。

まず、新興上場企業の経理部マネージャーの直前のポジションとしては、以下のようなケースが考えられます。

  • 同じ会社の経理課長やシニアスタッフからの昇進:経理部内でキャリアを積み、実績を認められてマネージャーに昇格するケースです。特に成長企業では組織拡大に伴い、内部昇進の機会が多く生まれます。
  • 大手企業の経理部門からの転職: 大企業で経理の専門知識と経験を積んだ後、より裁量権の大きい新興企業のマネージャーポジションに転職するパターンです。大企業での体系的な経理知識が評価されます。
  • 監査法人や会計事務所からの転職: 公認会計士などが監査法人での経験を活かして、事業会社の経理部マネージャーに転身するケースです。会計基準や開示に関する専門知識が強みになります。
  • コンサルティングファームからの転職: 財務・会計コンサルタントが、クライアント企業の経理部マネージャーとして招かれるケースです。多様な企業での改善プロジェクト経験が評価されます。

それでは、各キャリアパスの前段階も含めて、もう少し詳しく見ていきましょう。

  • 事業会社内でのキャリアアップ

このパスでは、大学卒業後に事業会社の経理部門に入社し、段階的にキャリアを積み上げていきます。

  • 経理スタッフ(1〜3年目):伝票起票、仕訳入力、決算補助などの基本業務を担当
  • 経理主任(4〜7年目):月次決算の一部担当、部門別管理会計、税務申告サポートなど
  • 経理課長(8〜12年目):決算取りまとめ、監査対応、予算策定など
  • 経理部マネージャー(13年目〜):経理部門統括、経営会議参加、開示資料作成など

このパスの強みは、会社の業務フローや社風を熟知していることで、円滑に業務を進められる点です。一方で、視野が狭くなりがちなため、外部セミナーや資格取得などで積極的に知見を広げることが大切です。

  • 大手から新興企業へのキャリアチェンジ

このパスでは、まず大企業で経理の基礎を固め、その後、成長性の高い新興企業にキャリアアップする形で移ります。

  • 大手企業の経理スタッフ(1〜5年目):大企業の体系的な経理システムの中で基礎を習得
  • 大手企業の経理主任・係長(6〜10年目):特定分野(例:固定資産管理、連結決算など)の専門性を高める
  • 新興企業の経理マネージャー(11年目〜):大企業での経験を活かし、成長企業の経理部門を統括

このパスの魅力は、大企業で体系的な知識と経験を得た後、新興企業でより大きな裁量と責任を持てる点です。転職の際には、専門性と汎用的なマネジメント能力の両方をアピールすることが重要です。

  • 監査法人からの転身

公認会計士などのケースでは、以下のようなパスが一般的です。

  • 監査法人スタッフ〜シニア(1〜8年目):監査業務を通じて会計基準や開示の専門知識を習得
  • 監査法人マネージャー(8〜12年目):監査チームのリーダーとして経験を積む
  • 事業会社の経理部マネージャー(転職後):会計・開示の専門知識を活かして経理部門を率いる

このパスの強みは、会計基準や開示に関する深い専門知識と、多様な企業を見てきた視野の広さです。一方、実務面では経験が限られる場合もあるため、入社後は現場の業務フローをしっかり学ぶ姿勢が大切です。

  • 財務経理以外からのキャリアチェンジ

面白いことに、他部門からキャリアチェンジして経理部マネージャーになるケースも少なくありません。

  • 営業や企画などの部門で実績(1〜10年目):事業への深い理解を培う
  • 社内プロジェクトで財務・経理に関わる機会を得る
  • 自己啓発で会計知識を習得(簿記検定など)
  • 経営層からの抜擢で経理部門のマネジメント層へ

このパスの強みは、事業を熟知しているため、経営に役立つ管理会計や分析が得意な点です。一方、専門知識の面ではキャッチアップが必要なため、外部の専門家(税理士など)とのネットワークづくりも重要になります。

実際には、これらのパターンが複合的に組み合わさるケースも多いでしょう。大切なのは、自分の強みを活かしながら、必要な経験とスキルを意識的に積み重ねていくことです。経理の専門知識は独学でも身につけられますし、マネジメント能力は様々な場面で磨くことができます。

若手の方に特におすすめしたいのは、まずは基礎となる会計知識の習得(簿記検定などの資格取得)と、小規模でも経理実務の経験を積むことです。そして徐々に視野を広げて、管理会計や財務分析、ディスクロージャーなどの分野にも挑戦していくとよいでしょう。経理の世界は、地道な積み重ねが確実に評価される分野です。一歩一歩、着実にキャリアを築いていきましょう。

新興上場企業の経理部マネージャーの キャリアパスの展望

新興上場企業の経理部マネージャーとして働くことで、財務・会計の専門性はもちろん、ビジネスパーソンとして幅広いスキルとキャリア展望を手に入れることができます。

まず、専門スキルとして、会計・税務・財務の実務知識が飛躍的に向上します。特に上場企業では、金融商品取引法や会社法に基づく高度な会計処理や開示が求められるため、一般企業の経理担当者よりも深い知識と実践力が身につきます。例えば、連結決算、税効果会計、ストックオプション会計、減損会計などの複雑な会計処理に精通するようになります。また、会計基準や税法の改正にも常にアンテナを張り、自社への影響を分析する力も養われるでしょう。

経営管理のスキルも大きく成長します。予算策定・管理、経営指標の設計・分析を通じて、数字から企業の状態を読み解き、問題点や成長機会を発見する力が磨かれます。「この部門の利益率が低下している理由は何か」「この新サービスの顧客獲得コストは適正か」といった分析を日常的に行うことで、経営者の視点で数字を捉える力が養われるのです。

上場企業特有のスキルとして、ディスクロージャーやIR関連の知見も身につきます。決算短信や有価証券報告書の作成、投資家向け説明資料の準備など、投資家とのコミュニケーションに関わる業務を通じて、「企業の価値をどう伝えるか」という視点を養うことができます。これは将来、経営幹部になったときに大いに役立つスキルです。

さらに、マネジメントスキルも自然と向上します。経理部のチームを率いる立場として、メンバーの育成・評価、業務の割り当て、モチベーション管理など、人を動かすスキルが求められます。特に決算期などの繁忙期には、限られた時間でチームの力を最大化するためのリーダーシップが試されるでしょう。

こうした多様なスキルを身につけることで、キャリアの展望は大きく広がります。まず社内でのキャリアアップとして、CFO(最高財務責任者)や管理部門長への道が開けてきます。新興企業では30代〜40代でCFOに抜擢されるケースも少なくありません。経理だけでなく、財務、法務、人事など管理部門全体を統括する管理本部長として活躍する道もあります。

また、キャリアチェンジの選択肢も多様です。経理マネージャーとしての経験を活かして、より規模の大きな企業へのステップアップも可能です。あるいは、ベンチャー企業のCFOとして参画し、次のIPOに挑戦するという道も開けています。さらに、会計事務所やコンサルティングファームに転じて、多くの企業の財務改善や上場支援に携わるキャリアも考えられます。

特に注目したいのが、経営者としての可能性です。経理・財務は企業活動の全体像を数字で把握できる部門です。事業の収益構造や投資判断の基準を理解している経理マネージャー経験者は、自ら起業したり、経営者として招かれたりするケースも少なくありません。実際、多くの経営者が「経理・財務の経験は経営者になる上で大きな武器になった」と語っています。

このように、新興上場企業の経理部マネージャーとしての経験は、財務・会計のプロフェッショナルとしてだけでなく、経営のプロフェッショナルとして活躍するための貴重な糧となるのです。

まとめ

役割と責任

  • 新興上場企業の経理部マネージャーは、帳簿をつけるだけの仕事ではなく、企業の「財務の司令塔」として、数字を通じて会社の健全な成長を支える重要な役割
  • システム導入や業務改善のプロジェクトをリード。業務プロセスやシステムが未整備な場合も多く、経理部マネージャーとして効率化や自動化を推進する役割も担う

求められるマインドやスキル

  • コンプライアンスと事業推進のバランス感覚、短期と長期の視点を往復する戦略的思考、そして高い倫理観と変革へのマインド。急速に変化する事業環境の中で、企業の持続的成長を財務面から支える基盤
  • 伝統的な会計・財務の専門知識に加え、経営戦略への貢献、マネジメント能力、デジタル対応力、そしてグローバル視点
  • 急成長する新興企業では、現状の業務を効率的に運営しながら、将来の成長を見据えた財務基盤の構築が求められ、日々の業務遂行力と変革推進力の両方のバランス

重要な職務

  • 信頼性の高い財務報告・開示体制の構築と運用
  • 経営管理基盤の構築と意思決定支援
  • 内部統制・ガバナンス体制の最適化

キャリアパス

  • 経理担当者⇒経理主任⇒経理部長⇒経理マネージャー
  • 会計事務所や監査法人、大手企業の経理部門やコンサルティング会社などからのキャリアチェンジ
  • 経理部長やCFOへの昇進やスタートアップ企業のCFOへの転身など多様なキャリアパス