経理・財務・会計ファイナンス人材のためのキャリア名鑑
企業価値を高める経理戦略の要
700万円~1,500万円
※業績や評価によって変動
30歳~45歳
企業の命運を左右する経理戦略をとりまとめ、経営陣ひいては会社の成長を土台から支える重要なポジションです。IPOという大きな山を乗り越え、その先の持続的成長を数字の面から支えるこの職種には、専門性だけでなく経営センスと先見性が求められます。しかし、その分だけやりがいも大きく、自分の手がけた財務戦略が企業価値を高め、会社の未来を切り拓いていく──そんな醍醐味を味わえる仕事です。
「今期の売上予測を15%上方修正します。それに伴い、来年度の投資計画も見直す必要があります」。新興上場企業の経理部長という職種は、こうした経営判断の核心に常に関わる重要な役割を担っています。過去の数字を集計するだけでなく、その数字から企業の未来を予測し、最適な財務戦略を立案・実行する──それが経理部長の真価なのです。
ある一日は、早朝の経営会議から始まり、前日までに部下たちが集計した数字を確認し、CEOやCFOに対して財務状況の報告を行います。「先月の売上は計画比107%、利益率は0.8ポイント改善しました。ただし、原材料費の上昇が見られるため、来月以降の利益率には注意が必要です」といった具合に、報告にとどまらず、経営上の示唆を提供することが仕事です。
四半期ごとに決算業務が本格化します。監査法人との綿密な打ち合わせを重ね、開示資料の作成に力を注ぎます。上場企業であるため、情報開示の正確性と透明性は絶対に譲れません。投資家や株主からの信頼を守るため、細心の注意を払いながら業務を進めていきます。
経理部長は、部下の育成や組織づくりも重要な責務です。経理部門全体のパフォーマンスを高め、効率的かつ正確な業務遂行を実現するために、適切な人材配置や教育プログラムの策定にも力を注ぎます。「この決算業務を効率化できれば、より多くの時間を戦略的な財務分析に充てられる」といった視点で、常に業務改善を図っていきます。
新興上場企業の経理部長は、まさに企業の経理面における司令塔なのです。数字を通して企業の未来を見据え、成長戦略を経理面から支える——この仕事の醍醐味はそこにあります。
新興上場企業の経理部長という職種を目指す理由は、「数字が好き」といった表面的なものだけではなく、企業の成長と発展を経理面から支え、時には先導する喜びを体験できるからです。
まず特筆すべきは、経営への影響力の大きさです。大企業の経理担当者が巨大な歯車の一部に過ぎないことが多いのに対し、新興上場企業の経理部長は経営判断に直結する提言を行える立場にあります。「この新規事業への投資は、3年後にこれだけのリターンが見込めます」といった分析が、会社の未来を左右することも珍しくありません。自分の専門性が直接企業価値に繋がる実感は、何物にも代えがたいやりがいとなるでしょう。
また、新興上場企業ならではの成長スピードも魅力の一つです。急成長するビジネスにおいて、新規の取引やビジネスにかかる会計処理を考えることは、大企業の安定した経理とは全く異なる面白さがあります。売上が前年比150%、200%と伸びていく企業の経理を管理し、成長企業の適正な財務報告を行う舵取りする経験は、経理のプロフェッショナルとしての腕を磨く絶好の機会となります。
さらに、新興上場企業の経理部長は、企業の歴史に名を刻む機会にも恵まれます。例えば、東証プライム市場への市場変更や、M&Aによる事業拡大、海外進出など、企業の歴史的な転換点を経理面から検討し支えることができます。「あのプロジェクトの会計処理を組み立てたのは自分だ」という誇りは、キャリアの宝物となるでしょう。
社会的な側面から見ても、新興企業の成長を支えることは日本経済の活性化に貢献する重要な役割です。日本はユニコーン企業(企業価値が10億ドル以上の非上場企業)の創出が少ないと言われていますが、そうした企業を財務報告面から支え、世界に通用する企業へと育てる一翼を担うことができるのです。
経理部長という役職は、専門性を極めると同時に、経営者としての視点も求められる点も魅力です。財務数値の背後にあるビジネスの実態を理解し、数字を通して経営戦略の効果を測定・分析する力は、将来CFOや経営者を目指す上でも極めて価値のあるスキルとなります。
もちろん、責任の重さに比例して報酬面での魅力もあります。特に成長企業では、業績連動型の報酬制度やストックオプションなどのインセンティブが充実していることが多く、会社の成長と共に自身の経済的成功も手にすることができるでしょう。
新興上場企業の経理部長を目指すということは、キャリアステップの枠を超えて、企業の成長物語の共同創作者になることを意味します。数字の向こうに企業の未来を見据え、その実現に向けて経理という土台を築いていく——それが、この職種の最大の魅力なのです。
新興上場企業の経理部長は、財務報告義務の遵守、予算管理、監査対応など、多岐にわたる業務を年間を通じて計画的に遂行する必要があります。以下は、3月決算企業を例に年間スケジュールを月別に整理したものです。
新興上場企業の経理部長は、上記のような定型的なスケジュールに加え、成長段階特有の課題(資金調達、M&A対応、システム刷新、経理組織の拡充など)にも臨機応変に対応することが求められます。また、IRや株主対応など、上場企業特有の業務負担も大きいことが特徴です。
新興上場企業の経理部長として最も根幹となる責務は、信頼性の高い財務情報を適時適切に作成・開示する体制を確立することです。上場企業には金融商品取引法や会社法、取引所規則などに基づく厳格な財務報告義務があり、これらへの対応が企業の信頼性を左右します。
急成長企業特有の課題として、事業拡大スピードに経理体制の整備が追いつかないケースが多く見られます。これに対しては、①重要性基準の明確化による業務の優先順位付け、②外部専門家(監査法人、会計アドバイザリー)の戦略的活用、③IT投資による自動化・省力化が有効です。また、適時開示に対応するため、各事業部門との連携強化や情報収集の仕組み化も重要です。
上場企業として投資家の信頼を獲得し維持するためには、透明性の高いガバナンス体制と堅固な内部統制の仕組みが不可欠です。特に新興企業は創業者の意向が強く反映される傾向があるため、客観的・合理的な意思決定と牽制機能の確立が経理部長の重要な役割となります。
新興企業では「スピード重視」の企業文化と「内部統制の厳格化」が相反する場面も多く、両者のバランスを取ることが難しい課題です。また、限られたリソースで網羅的な内部統制を構築することも困難です。これに対しては、①リスクベースアプローチによる重点領域の特定と優先的対応、②業務効率化と内部統制強化の両立を図るBPR(業務プロセス再構築)、③テクノロジー活用による自動化統制の導入が有効な対応策となります。
任務の本質
新興上場企業の経理部長は、従来の「記録・報告中心の経理」から脱却し、経営戦略の実現を支援・加速する経理機能への転換を指します。会計処理にとどまらず、データ分析と洞察を通じて経営判断を支援するのが重要な任務です。
具体的な取り組み内容
課題と対応策
新興企業特有の課題として、短期的な成長と中長期的な企業価値向上のバランス、急速な事業拡大に伴う資金需要への対応などが挙げられます。これらに対しては、①財務シミュレーション機能の強化によるシナリオ分析、②事業特性に応じた適切な財務KPIの設定と監視、③多様な資金調達手段(エクイティ・デット・ハイブリッド証券など)の戦略的活用が効果的です。また、非財務情報(ESG要素など)の重要性が高まる中、統合的な企業価値向上の視点も求められます。
新興上場企業の経理部長は、会計処理や決算業務を超えて、企業の持続的成長と企業価値向上に直結する戦略的な役割を担っています。特に、上場後の急成長フェーズでは、ガバナンスの強化と事業拡大の加速を両立させる高度なバランス感覚と実行力が求められます。また、経理のプロフェッショナルとしての専門性に加え、事業への深い理解、テクノロジーの活用能力、多様なステークホルダーとのコミュニケーション能力など、幅広いスキルセットが必要となります。
新興上場企業の経理部長の報酬水準について関連する報酬データの傾向を確認することができます。
一般的な市場傾向から考えると、新興上場企業の経理部長の報酬は以下のような要素に影響されます。
上記を踏まえ、新興上場企業の経理部長の年間報酬総額は概ね以下の範囲に収まると推測されます。
ただし、これらは一般的な市場傾向からの推測であり、個別企業の状況、業績、人材市場の需給バランスなどによって大きく変動する可能性があります。また、CFOに昇格すると報酬水準は大幅に上昇し、役員としての処遇(役員報酬や株式報酬など)が加わることもあります。
日本では近年、革新的なビジネスモデルや先進的なテクノロジーを武器に急成長を遂げ、上場を果たした企業が複数存在します。その中でも特に注目されている3社をご紹介します。
概要
特徴
SmartHRは「労働にまつわる社会課題をなくし、誰もがその人らしく働ける社会をつくる」というミッションを掲げ、人事労務業務の効率化を実現するサービスを提供しています。入社手続きや雇用契約、給与明細の配布、年末調整など、従来紙や手作業で行われていた業務をデジタル化し、大幅な業務効率化を実現しています。
多くの企業で人手不足が深刻化する中、バックオフィス業務の効率化ニーズを的確に捉え、急速に顧客基盤を拡大。日本企業のDX推進を支援する代表的なSaaS企業として評価されています。
概要
特徴
「新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る」をミッションに掲げ、個人間取引のプラットフォームとして急成長を遂げました。スマートフォンの普及と結びついた使いやすいUIと、配送システムの最適化により、新たな消費行動を生み出しています。
日本発のユニコーン企業として海外展開も積極的に進め、米国でも事業を展開。2023年にはついに黒字化を達成し、安定的な成長軌道に乗りつつあります。
フリマアプリの枠を超え、金融サービス「メルペイ」を展開するなど、生活インフラとしての地位を確立しつつある点も注目されています。社内のグローバル化を積極的に進め、外国人採用も積極的におこなっています。
概要
特徴
「スモールビジネスを、世界の主役に。」というミッションを掲げ、個人事業主や中小企業向けのクラウド会計・人事労務サービスを提供しています。独自のテクノロジーを活用し、複雑な会計処理や法改正への対応をリアルタイムで行うことで、専門知識がなくても直感的に業務ができる環境を提供しています。
設立以来、継続的な成長を続け、顧客基盤は個人事業主から中小企業、さらには中堅企業へと拡大。サブスクリプションモデルによる安定的な収益基盤を構築しています。
会計データを基に金融サービスとの連携を強化するなど、スモールビジネスのインフラとなるプラットフォームを構築する戦略も注目されています。
これらの企業に共通するのは、テクノロジーを活用して既存の業務プロセスを根本から変革し、効率化・最適化を図るという点です。また、サブスクリプションモデルを中心としたビジネスモデルにより、ストック型の収益構造を実現している点も特徴的です。
日本のビジネス環境の変化に合わせて、今後もこうした新興企業の成長・上場が期待されています。
現状に満足しない向上心
新興上場企業は急成長フェーズにあり、経理部長には会社の成長に合わせて経理機能を発展させる意欲が必要です。現在の体制や仕組みに満足せず、「次のステージを見据えた準備」を常に意識することが重要です。上場直後は数十億円の売上規模でも、数年後には数百億円規模になることを前提とした経理体制の設計と段階的な高度化に取り組む姿勢が求められます。
変化を恐れない柔軟性
従来の「守りの経理」から脱却し、新しい会計基準や開示制度、テクノロジーを積極的に取り入れる柔軟性が必要です。クラウド会計・AIを活用した自動化・データ分析など、先進的な手法を取り入れ、限られたリソースで最大の効果を生み出す工夫が求められます。「前例がない」ことを恐れるのではなく、「どうすれば実現できるか」を考える前向きな姿勢が重要です。
リスクを適切に評価する勇気
成長企業では積極的な投資判断や事業拡大の意思決定が頻繁に行われます。経理部長は「リスク回避」を唱えるだけではなく、リスクを適切に評価した上で、取るべきリスクと避けるべきリスクを峻別し、経営者に対して建設的な提言ができる勇気が必要です。「NO」と言うだけでなく、「どうすれば実行可能か」の代替案を示せる発想力も重要です。
揺るぎない職業倫理
上場企業の経理部長は、企業の財務情報の正確性と透明性を担保する最後の砦です。短期的な利益や経営者の意向に流されず、会計基準や法令に準拠した適正な財務報告を堅持する強い信念が必要です。特に急成長期には売上や利益の計上に関して様々な誘惑や圧力があり得ますが、それに屈しない職業倫理と毅然とした態度が求められます。
透明性への強いコミットメント
投資家や市場からの信頼を獲得するためには、財務情報の透明性と開示の質が極めて重要です。経理部長は「最低限の開示義務を果たす」という受動的姿勢ではなく、「投資家の適切な判断に資する情報を積極的に提供する」という能動的姿勢で、開示の充実に取り組む必要があります。不都合な情報ほど早期に開示するという心構えも重要です。
長期的視点での判断
四半期ごとの短期的な数字に一喜一憂するのではなく、持続的な企業価値向上という長期的視点から会計方針や財務戦略を考える姿勢が必要です。特に新興企業では短期的成長への圧力が強いですが、経理部長は「今期の利益最大化」よりも「長期的な財務健全性」を優先する判断軸を持つことが求められます。
事業への深い理解と関心
事業の本質を理解し、各事業部門と対等に対話できるビジネスパーソンであることが求められます。経営会議で「数字が合っているか」だけでなく「この数字が意味するものは何か」を説明できる洞察力、事業特性を踏まえた会計処理や経営指標を提案できる実践力が重要です。
オープンなコミュニケーション
経理部門は社内の様々な部門と関わりながら業務を進める必要があります。「資料が提出されないと仕事ができない」という受け身の姿勢ではなく、他部門の状況や課題を理解した上で、前向きに協力関係を構築する姿勢が求められます。経理のことを「面倒な規則を押し付ける部門」ではなく「事業の成功をサポートするパートナー」と認識してもらえるよう、わかりやすい説明と建設的な提案を心がけることが重要です。
リーダーシップとチームビルディング
人材不足が常態化する中、経理部長には限られたリソースで最大の成果を出すためのリーダーシップが求められます。部下の育成と権限委譲を通じて組織の成長を促し、外部の専門家(会計士、税理士、コンサルタント)も含めた「拡張チーム」を効果的に機能させる調整力が重要です。また、経理の専門性を尊重しながらも、個々のメンバーが「会社の成長に貢献している」という誇りを持てる組織文化を醸成することも経理部長の重要な役割です。
数字を超えた価値創造への貢献
CFOの右腕として経営戦略の立案・実行に積極的に関与する姿勢が求められます。「何が起きたか」を報告するだけでなく、「なぜそうなったのか」「今後どうすべきか」といった洞察と提言ができるビジネスパートナーとしての視点が重要です。特に新興企業では経営資源に制約がある中で、限られたリソースを最適配分するための分析と提案が経理部長に期待されます。
投資家目線の理解
上場企業の経理部長は、投資家・アナリストとの対話を通じて市場の期待と懸念を理解し、それを経営に反映させる橋渡し役も担います。「社内の数字」を扱うだけではなく、「外部からどう見られているか」という視点を持ち、投資家の期待に応えるための情報開示や経営指標の設定に貢献することが求められます。
全社最適の追求
部門最適ではなく全社最適の視点で判断できる高い視座が必要です。経理業務の効率化だけでなく、全社的な経営効率向上のために、経営資源の配分や事業ポートフォリオの最適化、シナジー創出に向けた提言ができる戦略的思考が求められます。「数字の専門家」を超えて「経営の専門家」としての成長意欲を持つことが、新興上場企業の経理部長には不可欠です。
新興上場企業の経理部長には、従来型の「堅実・正確・慎重」という経理パーソンの特性に加え、「先見性・柔軟性・挑戦力」という成長企業ならではの特性、さらには「戦略思考・リーダーシップ・コミュニケーション力」という経営幹部としての特性が求められます。こうした多面的な能力を発揮するためには、知識やスキルを磨くだけでなく、上記のようなマインドセットを持ち、常に自己成長と組織変革に取り組む姿勢が極めて重要です。
高度な会計知識
財務分析・管理会計スキル
開示・IR関連スキル
内部統制・ガバナンス構築スキル
システム戦略立案・実行力
データ分析・活用スキル
組織構築・人材育成力
プロジェクトマネジメント力
対内コミュニケーション力
対外コミュニケーション力
財務戦略分析能力
経営視点での判断力
事業構造理解力
事業成長支援スキル
新興上場企業の経理部長には、従来型の「会計・決算・税務」といった専門知識に加え、テクノロジー活用力、組織マネジメント力、戦略的思考力が求められます。特に重要なのは、「正確な数字を作る」という従来型の経理スキルから、「数字を通じて経営に貢献する」という経営パートナーとしてのスキルへの進化です。
また、新興上場企業特有の課題として「少人数で多くの業務をこなす効率性」と「上場企業としての厳格なコンプライアンス」の両立が求められるため、優先順位付けや業務設計の能力も不可欠です。加えて、急成長するビジネスに合わせて経理機能も進化させていく変革力とレジリエンス(回復力)も重要なスキルと言えるでしょう。
新興上場企業の経理部長というポジションに至るキャリアパスは一通りではありません。様々な道筋があり、それぞれの経験が経理部長としての個性や強みを形作ります。
経理部長の直前に想定されるポジションとしては、経理部次長や経理課長、あるいは財務部門や経営企画部門のマネージャーなどが考えられます。これらの中間管理職では、実務能力に加えてチームマネジメントの経験を積み、部下の育成や業務プロセスの改善にも取り組んでいることが多いでしょう。特に経理部次長を経験している場合は、決算業務の責任者として全体を統括した経験や、監査法人との折衝なども担当していることが一般的です。
その手前には、経理担当者としてのキャリアがあります。一般的には、経理スタッフから始まり、主任、係長といったポジションを経て、専門性と責任範囲を徐々に広げていくパターンが多いでしょう。この段階では、日々の仕訳入力や伝票処理から始まり、固定資産管理、税務申告サポート、月次決算、年次決算と徐々に高度な業務を担当するようになります。また、会計システムの導入プロジェクトなどに参画し、業務改善にも携わる機会があるかもしれません。
しかし、新興上場企業の経理部長に至るルートは、必ずしも同じ会社の経理部門だけを歩むわけではありません。例えば、以下のような多様なキャリアパターンが考えられます。
監査法人出身者は、企業会計の専門家として重宝されるケースが多くあります。監査法人では様々な業種・規模の企業の会計監査を経験するため、広範な会計知識と監査対応のノウハウを持っています。IPOを経験した企業では特に、開示資料の作成や内部統制の構築といった専門知識が求められるため、監査法人出身者が重用されることも少なくありません。
また、大手上場企業の経理部門からのキャリアチェンジも一つのルートです。大手上場企業で培った体系的な経理知識やプロセス管理のノウハウは、成長段階の企業の経理部門を構築する上で大いに役立ちます。「前職の〇〇社では、このような経理システムを導入して業務効率化を実現した」といった経験を新たな環境で活かすことができるでしょう。
事業会社のCFO補佐や財務経理部門のマネージャーからのステップアップも一般的です。こうしたポジションでは、日次・月次の経理業務だけでなく、資金調達や投資判断、予算策定など、より戦略的な財務業務にも関わる機会があります。そうした経験は、経理部長として求められる幅広い視野の形成に役立つでしょう。
税理士事務所や会計事務所出身者が、クライアント企業に転職して経理部門のトップに就くケースもあります。顧問先として関わってきた企業から「うちの経理を任せたい」とスカウトされるようなパターンです。
さらに、コンサルティングファームで財務・会計コンサルタントとしてのキャリアを積み、クライアント企業に転じて経理部長になるケースも見られます。多様な企業の財務課題に触れた経験が、実務の場で発揮されるわけです。
将来このポジションを目指すなら、若手時代に以下のような経験を意識的に積むことが有効でしょう。
経理部門でのキャリアスタートが王道ですが、それ以外にも監査法人での実務経験や、税理士事務所・会計事務所での経験も有効です。最初から経理部門でなくても、財務部門や経営企画部門など、数字を扱う部署での経験も将来役立つでしょう。
公認会計士や税理士の資格は専門性の証明になりますし、米国公認会計士(USCPA)や国際会計検定(BATIC)なども、グローバル展開を視野に入れる企業では評価されるでしょう。
以上の経験はこのポジションを目指す上での大きなアドバンテージとなります。可能であれば、IPOを経験した企業や上場企業での経理経験を積むことをお勧めします。
経営会議などの場で発言力を持つためには、財務・会計の知識だけでなく、事業の本質を理解し、戦略的な視点で意見できる力が必要です。部門を超えたプロジェクトへの参画や、事業部門との密なコミュニケーションを通じて、ビジネスの感覚を磨いていくことも大切でしょう。
新興上場企業の経理部長を目指すキャリアパスは多様ですが、共通して言えるのは、専門知識だけでなく、その知識を実際のビジネス課題解決に活かせる応用力と、組織をリードする力が重要だということです。自分の適性や興味に合ったルートを選びながらも、常に視野を広く持ち、多様な経験を積んでいくことが、このポジションへの道を開くカギとなるでしょう。
新興上場企業の経理部長というポジションで身につくスキルは、財務・会計の専門知識にとどまらず、経営者として必要な幅広い能力へと広がります。このポジションを経験することでキャリアにはどのような可能性が開けるのでしょうか。
まず、財務・会計の専門性が飛躍的に高まることは言うまでもありません。上場企業の経理部門のトップとして、会計基準や開示規則への深い理解、監査対応の経験、税務戦略の立案など、専門家としての能力を磨くことができます。特に新興企業では、事業拡大に伴う会計上の新たな課題(例えば、海外子会社の連結や新規事業のセグメント情報開示など)に次々と直面するため、常に学び続ける環境が整っています。
また、経営視点からの財務分析力も大きく向上します。数字を集計するではなく、「この数字が意味するビジネスの実態は何か」「どのような財務戦略が企業価値向上につながるか」を考える習慣が身につきます。例えば、新規事業への投資判断において、単純な回収期間だけでなく、その事業が将来のキャッシュフロー構造や企業価値にどう影響するかを多角的に分析する力は、経営者としても極めて重要なスキルです。
さらに、人材マネジメント能力も磨かれます。経理部門全体のパフォーマンスを高めるために、適材適所の人員配置や育成計画の立案、モチベーション管理など、「人」を通して組織の成果を最大化する経験を積むことができます。特に成長企業では、経理部門の拡大と専門化が同時に求められるため、組織構築のノウハウを実践的に学べる環境があります。
こうしたスキルを身につけた後のキャリアパスは、実に多様です。最も直接的なステップとしては、CFO(最高財務責任者)への昇進が考えられます。経理部長として実績を積めば、財務戦略全体を統括するCFOへの道が開けるでしょう。CFOは経営陣の一員として企業の重要な意思決定に参画するポジションであり、さらに大きな影響力と責任を持つことになります。
また、経営企画やIR(投資家向け広報)など、隣接する部門へのキャリア展開も可能です。財務数値に裏打ちされた経営戦略の立案や、投資家との関係構築など、経理で培った専門性を活かしながら、より広い視野で企業経営に関わることができます。
さらに視野を広げれば、他社のCFOや経営幹部としての転職、あるいは独立して財務コンサルタントや社外役員として複数の企業を支援するキャリアも考えられます。上場企業の経理部長という経験は、多くの企業から高く評価される専門性の証明となります。
近年では、M&Aが活発化する中で、PMI(買収後の統合プロセス)のスペシャリストとして活躍する道も開けています。財務・会計の知識と経営感覚を兼ね備えた人材は、企業統合の成功に不可欠だからです。
究極的には、自らが経営者として起業するという選択肢もあります。経理部門のトップとして企業の財務全体を見渡してきた経験は、起業家としても大きな武器となるでしょう。
新興上場企業の経理部長というポジションは、財務のプロフェッショナルとしての専門性と、経営者としての視野の両方を磨く絶好の機会です。ここで身につけたスキルは、未来のキャリアに無限の可能性をもたらすでしょう。