経理・財務・会計ファイナンス人材のためのキャリア名鑑

会計人材のキャリア名鑑

新興上場企業の財務部マネージャー

「IPO直後のスピード感ある経営に対応し、柔軟かつ堅実な財務体制を構築する現場リーダー」

数字を通じて企業の未来を描く

ビジネスと財務の架け橋となる

成長企業を支える縁の下の力持ち

主な業務内容

  • 財務諸表の作成・分析
  • 予算策定と管理
  • 資金計画立案と資金調達
  • 経営陣への財務情報提供と意思決定支援

想定年収

500万円~1,000万円
※業績や評価によって変動

想定年齢

28歳~40歳

新興上場企業の財務部マネージャーは こんな仕事

新興上場企業の財務部マネージャーは、企業の血液とも言える「お金」の流れを最適化し、成長戦略の実現を数字の面から支える重要なポジションです。売上拡大のための投資判断、資金調達の最適なタイミングと手法の提案、株主や投資家への説明責任を果たす情報開示まで、その役割は多岐にわたります。急成長するビジネスを財務面から支え、会社の未来を創る—そんなやりがいと責任を持つ職種に挑戦してみませんか?数字に強いだけでなく、ビジネスセンスと戦略的思考を併せ持つ人材が求められる、スリリングかつ魅力的な仕事の世界をご紹介します。

「今期の業績予測を修正する必要があります。新規プロジェクトの立ち上げ費用が想定より20%増加しましたが、この投資は来期以降の収益に大きく貢献する見込みです。取締役会での説明資料を準備しましょう」—財務部マネージャーの一日は、このような戦略的な数字の分析と意思決定サポートから始まるかもしれません。

新興上場企業の財務部マネージャーは、企業の「お金」に関するあらゆる側面を管理し、経営判断の核となる財務情報を提供します。日々の資金繰り管理から将来の成長資金の調達計画まで、時間軸の異なる財務課題に同時に取り組むマルチプレイヤーです。

具体的な業務の一つが「予算管理」です。各部門の予算要求を精査し、全社的な目標と整合する形で予算を配分します。予算達成状況を定期的にモニタリングし、差異があれば原因を分析して対策を講じます。この過程では、マーケティング部門が新たな広告キャンペーンのために追加予算を求めてくることもあれば、開発部門が新製品の開発遅延により予算消化が計画より遅れているケースもあるでしょう。財務部マネージャーは、こうした各部門の状況を数字で把握し、全体最適の視点から判断を下します。

もう一つの重要な役割が「資金調達」です。特に成長フェーズにある新興企業では、ビジネス拡大のための資金需要が大きくなります。銀行融資、増資、社債発行など様々な調達手段の中から、コストやタイミング、自社の財務状況を総合的に判断して最適な方法を選択します。たとえば「来年の海外展開に向けて20億円の資金が必要になる見込みです。現在の低金利環境を生かして銀行借入と社債発行を組み合わせることで、資金調達コストを抑えながら必要資金を確保できます」といった提案を経営陣に行います。

上場企業ならではの業務として、「IR(投資家向け広報)活動のサポート」も重要です。四半期ごとの決算発表資料の作成や、投資家からの問い合わせへの対応を通じて、自社の財務状況や成長戦略を市場に的確に伝える役割も担います。「先月発表した新事業の投資額は全体の何%を占めるのか」「その投資回収期間はどれくらいか」といった鋭い質問に、数字をベースに説得力ある回答を準備することも財務部マネージャーの腕の見せどころです。

このように、新興上場企業の財務部マネージャーは、日々の数値管理から長期的な財務戦略まで、幅広い視野で企業の財務を司る重要なポジションなのです。会社の針路を決める経営会議で、財務分析が意思決定の鍵を握る—そんなやりがいを日々感じられる職種と言えるでしょう。

新興上場企業の財務部マネージャーという ポジションの魅力

新興上場企業の財務部マネージャーを目指す最大の魅力は、「企業成長のダイナミズム」を財務の視点から体感できることでしょう。安定した大手上場企業とは異なり、新興企業では急速な事業拡大や新規事業への挑戦が日常茶飯事です。そのような環境下で、限られた資金をどう配分し、いつどのような方法で追加資金を調達するかという判断が、企業の成長速度や方向性を大きく左右します。財務判断が、直接的に会社の未来を形作る—これほど刺激的でやりがいのある仕事があるでしょうか。

「私たちの決断が明日の会社を作る」—この言葉は、ある新興企業の財務部マネージャーが口にした言葉です。新製品開発への投資判断、海外展開のための資金計画、M&A(合併・買収)の財務シミュレーションなど、財務部マネージャーの下す判断や提供する情報が、企業の重要な意思決定の礎となります。企業経営の中枢で活躍できることが、この職種の大きな魅力と言えるでしょう。

また、「財務のプロフェッショナル」として市場価値を高められる点も見逃せません。特に新興上場企業の財務管理を経験することは、キャリアにとって大きな財産となります。予算管理、資金調達、IR活動、さらにはM&Aや組織再編といった高度な財務業務まで、多岐にわたる経験を積むことができるのです。このような経験は、将来CFO(最高財務責任者)を目指す上でも、他企業への転職においても、強力な武器となるでしょう。

さらに、財務部マネージャーの仕事は「社内の全部門との協働」を必要とします。マーケティング部門の販売予測を基に売上計画を立て、開発部門の技術ロードマップを財務的に評価し、人事部門と連携して人的投資の効果を測定する—このように、全社横断的に業務を進めることで、ビジネス全体を俯瞰する視点が養われます。この経験は、将来的に経営層に昇進する際の貴重な素地となります。

財務という「数字」を扱う仕事でありながら、そこに「ビジネスの面白さ」を感じられることも大きな魅力です。新規事業の収益性分析をする際、数字を並べるだけでなく、その事業の成長ポテンシャルや市場環境、競合状況などを多角的に検討します。「この新事業は初年度は赤字だが、市場シェア獲得によって3年後には全社利益の20%を占める柱に育つ可能性がある」といった分析を行い、数字の向こう側にあるビジネスの可能性を経営陣に伝える—そんな知的興奮に満ちた仕事が待っているのです。

最後に、上場企業ならではの「社会的影響力」も忘れてはなりません。財務部マネージャーが支える企業の成長は、株主価値を高めるだけでなく、雇用創出や技術革新を通じて社会全体に貢献します。財務の専門知識を活かして企業と社会の持続的発展に関わることができる—これは財務部マネージャーという職種の大きな誇りと言えるでしょう。

新興上場企業の財務部マネージャーの 年間スケジュール例

新興上場企業の財務部マネージャーは、定期的な決算業務に加え、経営計画策定、予算管理、資金調達、IR活動、内部統制対応など多岐にわたる業務を年間を通じて計画的に遂行する必要があります。以下に、3月決算企業を例に、年間スケジュールを月別に詳細に解説します。

4月:年度始動・決算業務

決算関連業務

  • 前年度決算の最終調整、監査法人との最終協議
  • 決算発表に向けた決算短信作成、チェック
  •  IR部門と連携した決算説明会資料の作成支援

経営管理業務

  •  承認された年度予算の部門別・月次展開
  • 財務KPIの部門別展開と目標共有
  • 前年度予算と実績の差異分析、経営層への報告

ガバナンス・コンプライアンス

  • 前年度の有価証券報告書作成作業の開始
  • J-SOX対応の年間計画立案

5月:株主総会準備・中期計画フォロー

決算関連業務

  • 財務諸表承認、剰余金処分案等の準備
  • 株主総会向け事業報告・計算書類の作成
  • 新年度最初の月次決算処理と分析

IR・開示業務

  • 統合報告書/アニュアルレポート作成プロジェクト始動
  • 決算発表後の投資家・アナリストとの個別面談

経営管理業務

  • 新年度計画と中期計画の整合性確認
  • 年間資金繰り計画の精緻化
  • 各部門の予算執行状況の初回レビュー

6月:株主総会・Q1決算

株主・ガバナンス対応

  • 株主総会運営サポート、財務関連質問対応
  • 配当支払い手続き、株主名簿更新対応
  • Q1状況と年度見通しの取締役会報告資料作成

決算関連業務

  • 第1四半期決算作業: Q1決算処理、監査法人レビュー対応
  • 四半期決算発表関連資料作成

コンプライアンス業務

  • 前年度有価証券報告書の最終化・提出
  • ガバナンス体制更新の反映

7月:半期計画見直し・Q1振り返り

経営管理業務

  • Q1実績を踏まえた上半期見通し更新
  • 部門別予算消化状況の分析・フィードバック
  • コスト削減計画の進捗確認と追加施策検討

財務戦略・資金管理

  • 余剰資金の運用状況の評価・見直し
  • 主要取引先の与信状況の定期レビュー
  • 設備投資・システム投資等の進捗確認

内部統制・リスク管理

  • J-SOX対応の進捗状況レビュー
  • 財務リスク状況の報告資料作成

8月:上半期終盤・Q2決算

決算関連業務

  • Q2/上半期決算処理、監査法人レビュー対応
  • 中間配当案の検討・取締役会資料作成(該当企業)
  • 上半期実績と下半期見通しの統合

IR・株主対応

  • 第2四半期決算説明会資料の作成支援
  • Q2決算関連の投資家・アナリスト問い合わせ対応
  • 半期報告書の作成・提出
  • 四半期決算発表関連資料作成

業務改善・効率化

  • 決算早期化・効率化に向けたプロセス改善検討
  • 財務会計システムの改善要望整理

9月:下半期戦略・税務計画

経営管理業務

  • 上半期実績を踏まえた下半期予算の調整
  • 業績予想修正の要否判断と準備
  • 売上見通し精緻化のための営業部門との協議

税務・資金計画

  • 法人税等の中間納税準備・実施
  • 税務シミュレーションの更新
  • 投資・返済・配当等を含めた資金需要の精査

人材育成・組織

  • 上半期の部下の業績評価準備
  • 下半期の研修・育成計画の調整

10月:Q3始動・来期計画準備

決算関連業務

  • Q3最初の月次決算処理と分析
  • 年度末業績見通しの更新
  • 不良在庫の評価減検討

次年度計画準備

  • 次年度予算編成方針の原案作成
  • 各部門からの設備投資要望の初期ヒアリング
  • 次年度予算策定の全社スケジュール立案

ガバナンス対応

  • 中間監査役監査への対応
  • 財務関連リスクの状況報告

11月:Q3決算・予算策定

決算関連業務

  • Q3決算処理
  • 四半期決算発表関連資料作成
  • 従業員の年末調整準備(人事部門と連携)

次年度予算策定

  • 各部門の予算策定指導・サポート
  • 設備投資・システム投資等の投資予算の検証
  • 人事部門と連携した人件費予算策定

資金・財務戦略

  • 年末の運転資金需要への対応計画
  • 借り換え・新規調達等の検討
  • メインバンク・取引銀行との定期面談

12月:年末処理・予算最終調整

経営管理業務

  • クロージング予測の精緻化
  • 経営戦略との整合性確認、予算調整
  • 経営会議・取締役会向け予算説明資料作成

年末決算準備

  • 主要取引先との残高確認実施
  • 年末実地棚卸の計画・準備
  • 年度決算に向けた事前準備作業

ガバナンス・税務

  • 内部統制の年末評価準備
  • 次年度税制改正への対応準備
  • 節税対策の最終検討

1月:年度末準備・予算確定

経営計画・予算

  • 取締役会での予算承認プロセス
  • 確定予算の部門別展開と説明
  • 次年度を起点とした中期経営計画見直しの開始

決算準備

  • 特別損益・税効果等の重要項目事前検討
  • 決算日程・体制の最終確認
  • 決算上の重要論点の事前すり合わせ

IR・開示準備

  • 次年度のIR活動計画の策定
  • 年度決算発表日程の決定
  • 開示体制の年次レビュー

2月:年度末対応・決算準備

決算準備

  • 債権・債務・在庫等の残高確認準備
  • 減損・引当金・税効果等の決算整理事項検討
  • 子会社含む決算手順の最終確認

内部統制・監査対応

  • J-SOX評価の最終準備
  • 期末監査対応の準備
  • 決算短信・有価証券報告書等の草案作成開始

次年度運営準備

  • 次年度の部内人員配置計画の確定
  • 部門・個人の次年度目標設定
  • 次年度の外部サービス契約更新検討

3月:年度末決算・次年度準備

年度末決算作業

  • 年度末の決算締め作業・伝票処理
  • 減価償却・引当金・税効果等の決算整理
  • 子会社決算の取り込み、連結調整仕訳の実施

監査・開示対応

  • 監査法人の実査・残高確認等への対応
  • 財務諸表・注記事項等の最終チェック
  • 決算発表資料の最終レビュー

次年度始動準備

  • 予算の月次展開・システム登録
  • 財務部門の年間計画確定・共有
  • 年度決算プロセスの振り返りと改善点整理

通年で実施する継続業務

日次・週次業務

  • 日次資金ポジション管理、資金移動指示
  • 日次/週次の売上・受注状況確認
  • 得意先与信状況の管理、審査
  • 経費精算・支払いの承認

月次業務

  • 毎月の決算締め作業、月次財務諸表作成
  • 月次の予実差異分析・経営報告
  • 月次の資金計画見直し・更新
  • 売掛金の回収管理、滞留債権対応
  • 月次経営会議向け財務報告資料作成

新興上場企業の財務部マネージャーの 重要任務

新興上場企業の財務部マネージャーは、急速な事業成長と厳格な上場企業としての規律の両立という特殊な環境下で、多岐にわたる任務を担っています。その中でも特に重要度が高く、企業の持続的成長と価値向上に直結する3つの任務について詳述します。

 

1.財務報告・開示体制の確立と維持

新興上場企業にとって、信頼性の高い財務報告体制の構築は大きな戦略的意義を持ちます。市場の信頼獲得と資本コスト低減に直結するこの任務は、財務部マネージャーの最重要責務の一つです。

具体的な役割と責任

正確かつ迅速な財務報告プロセスの構築

  • 決算早期化の推進: 上場企業としての開示スピード要求に応える決算プロセスの最適化
  • 決算業務の標準化: 属人性を排除し、品質とスピードを両立する標準化された業務フローの確立
  • チェック体制の多層化: 単純ミスを防止する重層的な検証プロセスの設計・運用

開示情報の質的向上

  • 開示書類の戦略的設計: 有価証券報告書・決算短信等を通じた効果的な情報発信
  • 非財務情報との統合: 財務情報と非財務情報を有機的に結びつけた統合的報告
  • ナラティブ情報の充実: 数値だけでなく、事業の文脈や戦略を伝える説明情報の質向上

内部統制システムの構築・運用

  • J-SOX対応体制の整備: 財務報告に係る内部統制の評価・報告体制確立
  • 統制の効率化と実効性向上: 過度な統制コストを抑えつつ実効性を確保する設計
  • IT統制の強化: システム依存度が高い環境下での堅牢なIT統制の確立

成功のカギ

  • 「何のための開示か」という目的意識: 法令順守だけではなく、投資家との建設的対話のための開示という視点
  • 財務報告の「速さ」だけではなく「質と速さの両立」: スピードと正確性のバランス
  • 「統制のための統制」を避け、事業成長を支える内部統制: 過度な統制による事業の機動性阻害を防ぐ視点

2.成長を支える資金・財務戦略の立案と実行

新興上場企業にとって、成長機会を逃さず活かすための適切な資金調達と財務構造の最適化は競争優位の源泉となります。財務部マネージャーは、事業戦略を財務面から支える舵取り役として、この重要任務を担っています。

具体的な役割と責任

最適な資金調達戦略の立案・実行

  • 資金調達手段の多様化: 銀行借入、社債、エクイティなど多様な調達手段の最適組み合わせ
  • 資本市場への戦略的アクセス: 増資や転換社債型新株予約権付社債等のエクイティファイナンスの適時実施
  • 金融機関との関係構築: 安定的な借入枠確保のための銀行等との戦略的な関係構築、

成長投資の財務評価と意思決定支援

  • 投資案件の財務評価: M&A、設備投資、R&D投資等の経済性・リスク評価
  • 投資ポートフォリオ管理: 複数投資案件の優先順位付けと資源配分最適化
  • PMI財務統合: M&A後の財務統合プロセスの設計・実行

財務KPIの設計と財務規律の確立

  • 成長と財務健全性のバランス: 過度なレバレッジを避けつつ成長機会を活かす財務方針策定
  • キャッシュ・コンバージョン・サイクル改善: 運転資本の最適化による自己資金創出力強化
  • 資本効率向上施策: ROE/ROICなど資本効率指標の目標設定と向上策立案

成功のカギ

  • 「攻めの財務」と「守りの財務」のバランス感覚: 成長投資と財務健全性のバランス
  • 「コスト意識」だけではなく「投資リターン思考」: 支出を単純コストではなく将来リターンの観点で評価
  • 「どこに投資しないか」という選択の重要性: 限られた資源の中での投資優先順位の明確化

3.データ駆動型経営を支える管理会計基盤の構築

急速に変化する事業環境下では、タイムリーかつ的確な意思決定を支える財務情報基盤が競争優位の源泉となります。財務部マネージャーは、経営の可視化と意思決定の質向上を支える情報プロバイダーとしての役割を担います。

具体的な役割と責任

経営可視化のための管理会計体系構築

  • 多次元収益性分析基盤の構築: 製品・顧客・チャネル別等の多角的収益性分析
  • 部門別業績管理体系の確立: 責任と権限に応じた適切な部門別業績評価の仕組み設計
  • KPI体系の構築: 財務・非財務指標を組み合わせた統合的業績指標の設計

予算管理・業績予測の高度化

  • 予算編成プロセスの最適化: 戦略と連動した効率的かつ実効性ある予算編成
  • ローリングフォーキャストの導入: 静的年度予算から動的予測へのシフト推進
  • シナリオプランニングの活用: 複数シナリオに基づくレジリエント計画の促進

データ分析・活用の推進

  • BI/データ可視化基盤の構築: 経営データのタイムリーな可視化環境整備
  • 予測分析モデルの開発: 売上・コスト予測等のアルゴリズム開発・実用化
  • 財務データ精度向上: マスターデータ管理の徹底とデータガバナンス確立

成功のカギ

  • 「報告のための報告」ではなく「行動につながる情報」の提供: 意思決定に真に役立つ情報設計
  • 形式的な予算統制ではなく「学習と適応のためのPDCA」: 予実差異を改善サイクルの起点とする文化
  • データそのものよりも「データからの洞察と示唆」: データ提供だけではなく意思決定支援への進化

 

新興上場企業の財務部マネージャーには、「守り」の番人としての伝統的役割に加え、事業成長を加速する「攻め」のビジネスパートナーとしての役割が求められています。上記3つの重要任務は、この二面性を体現する本質的責務と言えます。

特に、数字の管理者から脱却し、データと洞察に基づく意思決定支援者へと進化することで、財務部マネージャーは組織における存在意義と影響力を高めることができます。

攻めと守りのバランスを保ちつつ、企業の持続的成長と企業価値向上に貢献する—これが新興上場企業の財務部マネージャーに課せられた最大の使命であり、その実現こそが真の成功と言えるでしょう。

新興上場企業の財務部マネージャーの 報酬水準

新興上場企業の財務部マネージャーの報酬水準については、企業規模、業界、地域、個人の経験・スキルなどによって大きく異なります。ただし、一般的な傾向として把握できる情報をご説明します。

一般的な報酬水準の概要

新興上場企業の財務部マネージャークラスの年間報酬は、おおよそ以下の範囲に分布しています。

  • 年間総報酬: 500万円~1,000万円程度

ただし、企業の成長段階や業界特性によって、この範囲を下回る場合や大きく上回る場合もあります。

報酬構成要素

財務部マネージャーの報酬は、通常以下の要素で構成されています。

基本給

  • 比率: 総報酬の60~80%程度
  • 特徴: 月額固定給として支給される安定収入部分

賞与・インセンティブ

  • 比率: 総報酬の20~40%程度
  • 特徴: 個人と企業の業績に連動して年2回程度支給
  • 変動幅: 基本給の2~6ヶ月分が一般的

ストックオプション・株式報酬

  • 導入状況: 成長志向の強い新興企業では導入率が高い傾向
  • 規模感: 年間基本給の10~30%相当の価値を付与するケースが多い
  • 特徴: 権利確定までに3~5年の勤続を条件とすることが一般的

福利厚生・その他手当

  • 内容: 住宅手当、通勤手当、家族手当など
  • 規模感: 基本給の5~15%程度の価値

報酬水準に影響する主要因子

個人要因

  • 経験年数: 財務・経理分野での実務経験10年以上で上位水準
  • 資格: 公認会計士、税理士、米国公認会計士(USCPA)等の有資格者は10~30%高い傾向
  • 語学力: 英語力(TOEIC 800点以上等)があると5~15%程度のプレミアム
  • 専門スキル: M&A、IFRS、資本政策等の高度専門知識で加算あり

企業・組織要因

  • 成長性: 高成長企業ほど報酬水準が高い傾向
  • 資金調達状況: 大型資金調達後は報酬水準が改善するケースが多い
  • 経営層の構成: 外資系出身経営者がいる企業では報酬水準が高い傾向
  • 株主構成: VC比率の高い企業では成果連動型報酬の比率が高い傾向

最近のトレンド

新興上場企業の財務部マネージャーの報酬に関する最近の傾向としては、

  • 成果連動型報酬の比率拡大: 固定給から変動給へのシフト
  • 株式報酬の普及: 中長期的な企業価値向上へのコミットメントを促進
  • 専門スキルへのプレミアム: デジタル財務、データ分析、事業戦略などの専門性に対する評価向上
  • グローバル水準への接近: 国際的な人材獲得競争を背景に、徐々に国際水準に近づく傾向

新興上場企業の財務部マネージャーの報酬は、企業規模や業界により差はあるものの、年間500万円~1,000万円程度の範囲に分布しており、平均的には800万円~900万円程度となっています。成長企業では、基本給に加えて業績連動賞与やストックオプションなどのインセンティブ報酬が充実している傾向があります。

また、財務専門人材の需要増加と専門性の高まりを背景に、高度なスキルや経験を持つ人材に対する報酬プレミアムが拡大している点も、最近の特徴的な傾向です。

注意点として、これらの数値は一般的な市場水準の概観であり、個別企業の方針や個人の交渉によって実際の報酬は大きく異なる可能性があります。

新興上場企業の財務部マネージャーの 代表的な会社

日本では近年、革新的なビジネスモデルや先進的なテクノロジーを武器に急成長を遂げ、上場を果たした企業が複数存在します。その中でも特に注目されている3社をご紹介します。

1.SmartHR株式会社

概要

  • 創業: 2013年
  • 上場: 2019年東証マザーズ(現グロース市場)
  • 事業内容: クラウド型人事労務ソフト「SmartHR」の開発・提供

特徴

SmartHRは「労働にまつわる社会課題をなくし、誰もがその人らしく働ける社会をつくる」というミッションを掲げ、人事労務業務の効率化を実現するサービスを提供しています。入社手続きや雇用契約、給与明細の配布、年末調整など、従来紙や手作業で行われていた業務をデジタル化し、大幅な業務効率化を実現しています。

多くの企業で人手不足が深刻化する中、バックオフィス業務の効率化ニーズを的確に捉え、急速に顧客基盤を拡大。日本企業のDX推進を支援する代表的なSaaS企業として評価されています。

2.メルカリ株式会社

概要

  • 創業: 2013年
  • 上場: 2018年東証マザーズ(現プライム市場)
  • 事業内容: フリマアプリ「メルカリ」の運営、決済サービス「メルペイ」の提供

特徴

「新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る」をミッションに掲げ、個人間取引のプラットフォームとして急成長を遂げました。スマートフォンの普及と結びついた使いやすいUIと、配送システムの最適化により、新たな消費行動を生み出しています。

日本発のユニコーン企業として海外展開も積極的に進め、米国でも事業を展開。2023年にはついに黒字化を達成し、安定的な成長軌道に乗りつつあります。

フリマアプリの枠を超え、金融サービス「メルペイ」を展開するなど、生活インフラとしての地位を確立しつつある点も注目されています。社内のグローバル化を積極的に進め、外国人採用も積極的におこなっています。

3.フリー株式会社

概要

  • 創業: 2012年
  • 上場: 2019年12月東証マザーズ(現グロース市場)
  • 事業内容: クラウド会計ソフト「会計freee」、給与計算ソフト「人事労務freee」の開発・運営

特徴

「スモールビジネスを、世界の主役に。」というミッションを掲げ、個人事業主や中小企業向けのクラウド会計・人事労務サービスを提供しています。独自のテクノロジーを活用し、複雑な会計処理や法改正への対応をリアルタイムで行うことで、専門知識がなくても直感的に業務ができる環境を提供しています。

設立以来、継続的な成長を続け、顧客基盤は個人事業主から中小企業、さらには中堅企業へと拡大。サブスクリプションモデルによる安定的な収益基盤を構築しています。

会計データを基に金融サービスとの連携を強化するなど、スモールビジネスのインフラとなるプラットフォームを構築する戦略も注目されています。

 

これらの企業に共通するのは、テクノロジーを活用して既存の業務プロセスを根本から変革し、効率化・最適化を図るという点です。また、サブスクリプションモデルを中心としたビジネスモデルにより、ストック型の収益構造を実現している点も特徴的です。

日本のビジネス環境の変化に合わせて、今後もこうした新興企業の成長・上場が期待されています。

新興上場企業の財務部マネージャーに 向いている人は、どんな人?

■求められるマインド

新興上場企業の財務部マネージャーは、成長と規律のバランスという特殊なコンテキストの中で業務を遂行します。専門知識やスキルだけでなく、以下のようなマインドセットを持つことが、この役割を成功させる鍵となります。

1.戦略的パートナーシップマインド

「番人」から「ビジネスパートナー」へ

  • 事業視点の優先: 事業の成功に貢献する財務パートナーとしての自己認識
  • 経営層の意思決定支援: マネジメントの戦略的意思決定を支える情報提供者としての役割意識
  • 現場との対話重視: 財務部門の壁を超えて事業部門と積極的に対話し、現場の実態を把握する姿勢

価値創造への貢献意識

  • コスト管理から価値創造へ: コストコントロールだけではなく、企業価値向上への貢献を重視
  • 投資マインドセット: 「削減」よりも「適切な資源配分」という視点で財務を捉える姿勢
  • ROI思考: すべての支出を投資と捉え、リターンの観点から評価する習慣

実践のポイント

  • 日々の意思決定で「これは企業価値向上にどう貢献するか」と問い続ける
  • 週に1日は事業部門との対話に充て、数字の裏にある事業の実態を理解する時間を確保する
  • 経営会議では「これはできません」ではなく「こうすれば可能です」という提案型コミュニケーションを心がける

2.成長と規律のバランスマインド

攻めと守りの両立

  • 成長促進と統制のジレンマ: 過度な統制による機動性阻害を避けつつ、適切なガバナンスを確保する判断力
  • リスク許容度の適切な設定: 事業リスクを否定せず、適切に管理するリスクマネジメント思考
  • レギュレーションとイノベーションの両立: コンプライアンスを保ちながらも革新を阻害しない柔軟性

スケーラブルな仕組み構築

  • 先見性のある制度設計: 現在だけでなく将来の事業規模を見据えた財務体制の構築
  • 選択的投資マインド: 限られたリソースを戦略的に重要な領域に集中させる判断力
  • 緊急度と重要度の峻別: 目先の課題と長期的課題のバランスを取る優先順位付け能力

実践のポイント

  • 「この統制・ルールは本当に必要か、もっとシンプルにできないか」を常に自問する
  • 年間予算の10%程度は「戦略的実験枠」として確保し、イノベーション促進を財務面から支援する
  • 各財務プロセスを設計する際に「現在の2倍の事業規模でも機能するか」を検証する

3.データドリブン・洞察マインド

数字を通した事業理解

  • ストーリー思考: 数値報告だけではなく、データから事業ストーリーを抽出する分析力
  • 先行指標の重視: 過去の実績だけでなく、将来パフォーマンスを予測する指標開発への関心
  • 因果関係の探求: 表面的な数値変動を超え、根本原因を探る分析的思考習慣

データの民主化推進

  • 情報の透明性重視: 必要な人に必要な情報が適時に届く仕組みづくりへのコミットメント
  • データリテラシー向上支援: 全社的なデータ活用能力向上への貢献意欲
  • 自動化・効率化マインド: 反復作業からの解放と分析時間確保への意欲

実践のポイント

  • 財務レポートは必ず「これが意味することは…」という洞察セクションを含める
  • 毎月、最低1つは新しい分析視点や指標を試験的に導入する実験精神を持つ
  • 会議では「このデータからどんな意思決定ができるか」を常に問いかける

4.変革リーダーシップマインド

継続的改善への姿勢

  • 現状維持への不満足: 「今までうまくいってきたから」という思考からの脱却
  • ベストプラクティス追求: 業界内外の先進事例から学び続ける謙虚さ
  • 小さな前進の積み重ね: 大きな変革だけでなく、日々の小さな改善を重視する姿勢

変革推進力

  • ビジョン共有能力: 変革の目的と到達点を明確に描き、チームと共有する力
  • 粘り強さ: 抵抗や困難に直面しても諦めない忍耐力と持続力
  • 協働精神: 部門の壁を越えて変革を推進するコラボレーション志向

実践のポイント

  • 四半期に一度は「私たちの業務の何が時代遅れか」を部内で議論する場を設ける
  • 毎年最低1回は業界外の先進企業を訪問し、異なる視点からの学びを得る
  • 変革推進時には「なぜこれが重要か」の説明に十分な時間を割く

5.チームビルディング・育成マインド

多様性の活用

  • 多様なスキルセット構築: 従来型の財務スキルだけでなく、IT・分析・事業知識など多様なスキルの組み合わせを重視
  • 異なる視点の尊重: チーム内の多様な意見を歓迎し、議論から最適解を生み出す文化づくり
  • インクルージョン推進: 全員が貢献できる環境づくりへのコミットメント

人材開発への投資意識

  • 成長機会の創出: チームメンバーの成長を促す挑戦的な機会提供への積極性
  • 長期的育成視点: 短期的な成果だけでなく、長期的な能力開発を重視する視点
  • ケイパビリティ構築: 個人の能力向上に留まらない、組織としての対応力構築への関心

実践のポイント

  • チームメンバーが事業理解を深めるため、定期的に事業部門へのローテーションや短期派遣を実施する
  • 1on1ミーティングでは「どんなスキルを磨きたいか」「どんな経験が必要か」を必ず議論する
  • 年間育成予算をあらかじめ確保し、スキルアップ機会への投資を優先する

6.グローバル・デジタルマインド

グローバル視点

  • 国際的視野: 国内基準や慣行に囚われず、グローバルスタンダードからの視点も持つ
  • 多通貨・多拠点管理意識: 将来のグローバル展開を見据えた財務体制構築への備え
  • クロスボーダー取引理解: 国際的な事業活動に伴う財務・税務イシューへの関心

デジタルトランスフォーメーション志向

  • テクノロジー活用意欲: 最新テクノロジーを財務業務に取り入れる積極性
  • 自動化・AI活用マインド: 定型業務の自動化と高付加価値業務への資源シフトへの関心
  • デジタルリスク感度: サイバーセキュリティなど新たなリスクへの警戒心

実践のポイント

  • 四半期に1回は海外の競合企業や類似企業の財務報告書を読み、ベンチマークする
  • 年に数回は財務テクノロジーのセミナーやウェビナーに参加し、最新動向を把握する
  • 財務部内の「デジタル化推進担当」を指名し、新技術導入の専任者を設ける

7.レジリエンス・危機対応マインド

予測不能な変化への対応力

  • シナリオ思考: 複数の未来シナリオを想定し準備する習慣
  • アジャイル計画策定: 計画の頻繁な見直しと修正を厭わない柔軟性
  • 不確実性の受容: 完璧な予測は不可能という前提での意思決定能力

危機への備え

  • プロアクティブなリスク感知: 危機の予兆を察知する感度の高さ
  • コンティンジェンシープランの重視: 代替策や緊急対応策の事前準備を重視する姿勢
  • キャッシュの戦略的バッファー: 緊急時に備えた適切な資金余力の維持

実践のポイント

  • 四半期ごとに「もし売上が30%落ちたら」などの逆境シナリオを財務シミュレーションする
  • 年に1回は全社的な危機対応訓練に財務的視点から積極的に参画する
  • キャッシュポジションの報告には常に「何ヶ月分の固定費をカバーできるか」の視点を含める

8.倫理的・透明性マインド

高い倫理基準

  • 無条件のインテグリティ: 妥協のない誠実さと倫理観の堅持
  • 長期的評判重視: 短期的利益より長期的な信頼構築を優先する判断力
  • 公正性への執着: すべての関係者に公正な対応を心がける姿勢

透明性の文化醸成

  • 積極的な情報開示姿勢: 最低限の開示にとどまらない、積極的な情報共有姿勢
  • 建設的な対話歓迎: 投資家・アナリストとの対話を成長機会と捉える前向きさ
  • 悪いニュースの早期共有: 問題を隠さず、早期に認識し対応する開放性

実践のポイント

  • 「これを公開して恥ずかしくないか」をあらゆる意思決定の判断基準として内在化する
  • 部内会議では「不都合な真実」を指摘した人を称賛し、問題の早期発見を奨励する
  • IR資料では好材料だけでなく課題や懸念事項も適切に開示するバランス感覚を持つ

新興上場企業の財務部マネージャーに求められるマインドは、従来型の「守りの番人」と「攻めの参謀」という二元論を超えた、より統合的なものです。それは、企業の持続的成長を促進しながらも適切な規律を保ち、短期的成果と長期的価値創造のバランスを取りながら、組織全体の財務的健全性と戦略実行を支えるリーダーシップマインドと言えるでしょう。

このようなマインドセットを持つことで、財務部マネージャーは「数字の専門家」を超え、企業の成長ストーリーを共に描き、実現する真の戦略的パートナーとなることができます。

適切なバランス感覚、先見性、柔軟性を備えたマインドセットを持ち、常に学び続ける姿勢を保つことこそが、変化の激しい環境下で新興上場企業の財務部マネージャーとして成功するための鍵となるでしょう。

■必要なスキル

新興上場企業の財務部マネージャーには、伝統的な財務知識に加え、急成長するビジネス環境と上場企業としての要件に対応するための幅広いスキルセットが求められます。以下に、その役割を効果的に果たすために不可欠なスキルを体系的に解説します。

1.財務・会計の専門スキル

財務会計スキル

  • 金融商品取引法、会社法に基づく財務報告要件の深い理解
  • IFRS導入検討や会計基準変更への迅速な対応能力
  • グループ経営視点での連結財務諸表作成・分析能力
  • 有価証券報告書、半期報告書等の効果的な作成・レビュースキル

管理会計スキル

  • 製品・サービス、顧客、チャネル別等の多角的な収益性評価
  • 戦略と連動した予算体系の構築と実効性ある管理
  • 財務・非財務指標を組み合わせた経営管理指標の設計
  • 投資判断、価格決定等の経営意思決定を支援する財務分析

財務管理スキル

  • 株式・債券発行、銀行借入など多様な調達手段の活用能力
  • 運転資本の最適化と資金効率向上の実践力
  • 市場リスクへの適切なヘッジ戦略の立案・実行
  • 金融機関との戦略的関係構築・維持能力

2.ガバナンス・コンプライアンススキル

内部統制スキル

  • 財務報告に係る内部統制の構築・評価・改善能力
  • 効率性とコントロールのバランスを取った業務フロー設計
  • 財務リスクの特定・評価・対応策立案能力
  • 内部監査・外部監査への適切な対応と建設的関係構築

コーポレートガバナンススキル

  • 取締役会、監査役会等のガバナンス機構の機能理解
  • 適時開示に関する判断力と体制構築能力
  • 株主・投資家とのコミュニケーション基盤構築
  • ESG情報開示: 非財務情報の戦略的開示と統合報告の推進力

コンプライアンススキル

  • インサイダー取引規制等の証券関連法規への対応
  • 適正な税務申告と税務リスク管理能力
  • 業界特有の規制対応と変化への適応力
  • クロスボーダー取引に関わる法規制対応能力

3.戦略的ビジネススキル

経営戦略理解・貢献スキル

  • 自社の事業モデルと収益構造の深い理解
  • 成長戦略を支える中長期財務戦略の策定能力
  • M&A、設備投資等の戦略的投資の財務評価能力
  • 複数の将来シナリオに基づく財務計画策定

業績・価値向上スキル

  • 企業価値創造の源泉となる要因の特定・分析
  • ROE、ROIC向上のための施策立案・実行
  • 戦略的コスト構造最適化の推進
  • 成長投資判断: 成長機会への資源配分最適化の判断力

事業パートナーシップスキル

  • 事業部門の意思決定を支援する協働能力
  • 財務情報を事業インサイトに転換する解釈能力
  • 数字を起点とした建設的な戦略対話の推進力
  • 経営層の意思決定を最適化する情報提供能力

4.テクノロジー活用スキル

財務DXスキル

  • ERP(企業資源計画)など基幹システムの要件定義・導入推進
  • 異なるシステムからのデータ統合と一元管理能力
  • RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)等を活用した業務プロセス自動化の実行力
  • クラウドベース財務ソリューションの戦略的導入

データ分析スキル

  • 複雑な財務データの構造化・モデル化能力
  • Tableau、Power BIなどを用いた効果的な可視化
  • 機械学習等を活用した財務予測モデルの構築・活用
  • ドリルダウン・切り口変更自在な分析環境構築

デジタルリスク対応スキル

  • 財務データ保護に関する基本的理解
  • IT統制の有効性評価の基本知識
  • 財務データの品質・整合性確保の仕組み構築
  • ブロックチェーン等新技術の財務応用可能性評価

5.リーダーシップ・マネジメントスキル

チームマネジメントスキル

  • 多様なスキルセットを持つ財務チームの編成・育成
  • 繁忙期と通常期のリソース配分最適化能力
  • 目標設定・評価・フィードバックの効果的実施
  • 変革推進: チーム全体の能力向上と変革への適応促進

クロスファンクショナル協働スキル

  • IT、経営企画、事業部門等との効果的な協働推進
  • 財務部門外への適切な影響力行使と説得
  • 異なる利害関係者間の調整と合意形成能力
  • 部門横断プロジェクトのマネジメント力

人材育成スキル

  • 若手財務人材の育成・指導能力
  • チームメンバーの継続的スキル向上支援
  • 暗黙知の形式知化と知識共有の促進
  • 後継者育成: 次世代リーダーの計画的育成と権限委譲

6.コミュニケーション・影響力スキル

財務コミュニケーションスキル

  • 経営層に対する簡潔・的確な財務情報提供
  • 数字に基づくストーリーテリング能力
  • 財務情報の非財務部門向け翻訳・解説力
  • 財務情報の効果的なプレゼンテーション技術

対外コミュニケーションスキル

  • アナリスト・投資家とのコミュニケーション能力
  • 外部監査人との建設的関係構築・維持
  • 金融機関との資金調達・条件交渉能力
  • 金融庁等規制当局への適切な対応力

ネゴシエーションスキル

  • 予算配分等の社内リソース交渉能力
  • システム導入・保守等の外部ベンダー交渉
  • 金融条件・契約条件等の有利な交渉力
  • 企業買収・売却時の財務面での交渉能力

7.グローバル対応スキル

多言語・多文化スキル

  • 英文財務報告・プレゼン・交渉等の英語力
  • 異文化理解と多様な価値観への適応能力
  • 国際的視野での財務判断能力
  • 海外子会社・拠点との効果的コミュニケーション

グローバル財務スキル

  • IFRS等国際基準への対応能力
  • 複数通貨での財務管理・連結能力
  • 国際税務プランニングの基本理解
  • クロスボーダー取引管理: 国際取引特有の財務・法務リスク管理

国際資本市場対応スキル

  • 海外投資家向け情報開示・コミュニケーション
  • 海外市場での資金調達オプション理解
  • 海外機関投資家の投資判断基準理解
  • 各国・地域の開示規制への対応能力

8.問題解決・変革推進スキル

分析的問題解決スキル

  • 複雑な財務課題の構造化・分解能力
  • 財務課題の表層ではなく根本原因の特定力
  • 複数解決策の体系的評価・選択能力
  • 様々なシナリオの財務影響予測

変革マネジメントスキル

  • 財務機能変革の明確なビジョン設定
  • 変革に関わる利害関係者の関与・支持獲得
  • 変革への抵抗の予測・対応能力
  • 新しい業務方法・システムの持続的定着促進

危機対応スキル

  • 潜在的財務危機の早期警戒指標設定
  • 財務危機対応の事前計画策定
  • 時間的制約下での迅速な判断力
  • 逆境からの学習と回復力の促進

新興上場企業の財務部マネージャーに必要なスキルは、専門的・技術的能力だけでなく、戦略的思考、リーダーシップ、変革推進力など多岐にわたります。これらのスキルを総合的に発展させることで、「数字の番人」から「ビジネスの共創者」へと役割を拡大し、企業価値向上により直接的に貢献できるビジネスリーダーへと成長することができます。

真に価値ある財務部マネージャーとなるためには、専門性という強固な土台の上に、ビジネスパートナーとしての広範なスキルセットを構築し、常に変化する企業環境と要件に適応し続ける柔軟性と学習意欲を持ち続けることが不可欠です。

このようなT型スキルセットを持つ財務部マネージャーこそが、急成長する新興上場企業において、財務部門の枠を超えた価値創造に貢献し、自身のキャリアも組織も同時に発展させていくことができるでしょう。

新興上場企業の財務部マネージャーまでの 道のり

財務部マネージャーというポジションに至るまでには、いくつかの典型的なキャリアパスが存在します。まずはこのポジションに至る直前のステップから逆算して、どのような道筋があるのかを見ていきましょう。

財務部マネージャーの直前に位置するのは、一般的に「財務課長」や「財務部リーダー」といったポジションです。ここでは予算管理や資金調達の実務を主導し、財務チームのメンバーをまとめる役割を担います。このステージでは、財務業務の専門性を高めるとともに、チームマネジメントの経験を積むことが重要です。大企業では30代後半から40代前半、成長スピードの速い新興企業ではより早いタイミングでこのポジションに到達する人もいます。

財務課長になる前のステップとしては、大きく分けて三つの道があります。

  • 社内財務部門でのキャリアアップ

財務部の一般社員として入社し、決算業務や予算管理、資金管理などの実務経験を積み重ねて段階的に昇進していくルートです。この場合、社内の事業や文化への理解が深いという強みがあります。

  • 経理部門からの転入

経理部で決算や税務の経験を積んだ後、より戦略的な財務部門にキャリアチェンジするケースも少なくありません。この場合、会計の専門知識が強みとなりますが、資金管理や財務戦略の観点は新たに学ぶ必要があるでしょう。

  • 外部からの転職

監査法人や金融機関、コンサルティングファームなどで財務・会計の経験を積んだ後、事業会社の財務部門に転職するケースです。特に監査法人出身者は、会計基準や内部統制への深い理解から、上場企業の財務部では重宝されます。また、投資銀行やコンサルティングファームでの経験は、資金調達やM&A等の高度な財務業務に強みを発揮します。

さらに遡ると、財務部でのキャリアをスタートさせる入口は主に以下の三つです。

  • 新卒入社で財務部門を志望

会計や経済学を専攻した学生が、自らの専門性を活かせるポジションとして財務部門を選択します。この場合、実務経験はゼロからのスタートとなりますが、長期的な視点で財務のキャリアを構築できるメリットがあります。

  • 社内の別部門からの異動

営業や企画など他部門での経験を経て、財務部門に異動するケースです。この場合、財務の専門知識は学ぶ必要がありますが、事業への理解が深いという強みを活かせます。「なぜこの数字になるのか」というビジネスの背景を理解していることは、財務部門でも大きなアドバンテージとなります。

  • キャリア採用での転職

前述の通り、監査法人や金融機関などから、専門性を買われて中途採用されるケースです。実務経験と専門知識を兼ね備えているため、比較的短期間でマネジメントポジションを目指せる可能性があります。

若手時代に財務部マネージャーを目指すために押さえておくべきポイントとしては、「幅広い財務業務の経験」と「ビジネス全体を理解する視点」の二つが挙げられます。予算管理、資金繰り、決算業務、税務対応など様々な実務を経験しながら、「なぜこの数字が重要なのか」「この財務判断が事業にどう影響するのか」といった視点で業務に取り組むことが、将来の財務部マネージャーとしての礎となります。

また、財務の専門知識を深めるために、日商簿記や公認会計士などの資格取得に挑戦したり、大学院などでMBAや会計学の学位を取得したりすることも、キャリアアップの強力な武器となるでしょう。特に新興企業では、「専門性があり、なおかつビジネス感覚も持ち合わせている人材」が重宝されます。

ただし、資格や学位だけでなく、実際のビジネス現場での成果が最も重視される点も忘れてはなりません。数字に埋もれるだけでなく、その分析から事業改善や戦略立案に貢献できる人材こそが、財務部マネージャーとして成功する道を切り拓けるのです。

どのようなバックグラウンドを持っていても、財務への情熱と学習意欲があれば、財務部マネージャーを目指すことは十分に可能です。今日からでも、自分の現在のポジションで財務的視点を意識し、少しずつ専門性を高めていくことで、この魅力的なキャリアへの第一歩を踏み出せるのです

新興上場企業の財務部マネージャーの キャリアパスの展望

新興上場企業の財務部マネージャーとして働くことで、他の職種では得難い幅広いスキルと経験を獲得できます。その中でも特に重要なのが「財務分析力」です。日々の業績データを分析し、トレンドを把握し、将来予測を立てる能力は、ビジネスパーソンとしての基礎体力を大きく向上させます。数字の羅列ではなく、「なぜこの数字になったのか」「この傾向が続くとどうなるのか」という洞察を導き出せるようになるのです。

例えば、ある事業部の売上が予算を下回った場合、「目標未達」と判断するのではなく、「顧客単価は上昇しているが新規顧客獲得数が落ち込んでいる」「特定地域での競合参入が影響している可能性がある」といった具体的な原因分析ができるようになります。この分析力は、財務部門だけでなく、事業戦略立案や新規事業開発など、ビジネスのあらゆる局面で活きる汎用的なスキルです。

また、「意思決定への関与」を通じて培われる「ビジネス感覚」も見逃せません。新規投資の判断、コスト削減策の立案、価格戦略の検討など、財務部マネージャーは企業の重要決定に数値面からインプットを提供します。この過程で、「どのような判断が企業価値を高めるのか」についての実践的な知見が蓄積されていきます。会計や財務の知識を持ちながら、真のビジネスパーソンとしての視点を併せ持つ人材として成長できるのです。

さらに、経営陣や各部門のマネージャー、さらには外部の銀行や投資家とのコミュニケーションを通じて、「プレゼンテーション力」や「説得力」も磨かれます。複雑な財務情報を相手に応じてわかりやすく説明し、時には厳しい質問や反論にも的確に応える経験は、コミュニケーション能力を飛躍的に向上させるでしょう。

キャリア展望としては、以下ようなケースが考えられます。

  • 社内での昇進

財務部長、経営企画部長などを経て、最終的にはCFO(最高財務責任者)という経営トップの一角を担うポジションを目指すことができます。特に新興企業では組織の拡大とともに役職ポストも増えていくため、能力と実績次第で比較的早期に管理職・役員クラスへの昇進も可能です。

  • 社外への転職

経験を積んだ財務部マネージャーの市場価値は非常に高く、より規模の大きな企業や、別の新興企業への転職チャンスも豊富にあります。特にIPO(新規株式公開)の経験があれば、未上場企業のIPO準備担当としての引き合いも増えるでしょう。

  • 独立や非常勤へのキャリア

さらに長期的には、財務コンサルタントとして独立したり、複数企業の社外役員(非常勤CFOや監査役など)を務めたりと、活躍の場は広がっていきます。「数字に強い経営人材」は常に市場で求められるため、専門性を様々な形で活かせるのです。

財務部マネージャーとしての経験は、「企業の健全な成長を支える」という社会的にも意義深い仕事を通じて、自身の市場価値とキャリアの可能性を大きく広げてくれるでしょう。数字を扱いながらも、その先にあるビジネスの本質と向き合うこの仕事は、真の「ビジネスプロフェッショナル」へと成長させる貴重な機会となります。

まとめ

役割と責任

  • 新興上場企業の財務部マネージャーは、企業の血液とも言える「お金」の流れを最適化し、成長戦略の実現を数字の面から支える重要なポジション
  • 売上拡大のための投資判断、資金調達の最適なタイミングと手法の提案、株主や投資家への説明責任を果たす情報開示まで多様な役割
  • 急速な事業拡大や新規事業への挑戦に対して、限られた資金をどう配分し、いつどのような方法で追加資金を調達するかという判断

求められるマインドやスキル

  • 従来型の「守りの番人」と「攻めの参謀」という二元論を超えた、より統合的なもの
  • 企業の持続的成長を促進しながらも適切な規律を保ち、短期的成果と長期的価値創造のバランスを取りながら、組織全体の財務的健全性と戦略実行を支えるリーダーシップマインド
  • 専門性という強固な土台の上に、ビジネスパートナーとしての広範なスキルセットを構築し、常に変化する企業環境と要件に適応し続ける柔軟性と学習意欲を持ち続けることが不可欠

重要な職務

  • 財務報告・開示体制の確立と維持
  • 成長を支える資金・財務戦略の立案と実行
  • データ駆動型経営を支える管理会計基盤の構築

キャリアパス

  • 財務部門スタッフ、経理部スタッフなどの実務担当者⇒財務部課長、経理部課長⇒財務部マネージャー
  • 他の事業部門からの異動、会計事務所や監査法人、金融機関などからのキャリアチェンジ
  • 財務部長、経営企画部長、CFOなどへの昇進や、財務コンサルタントタントとして起業、社外役員(非常勤CFOや監査役)への転身などの多様なキャリアパス