経理・財務・会計ファイナンス人材のためのキャリア名鑑

会計人材のキャリア名鑑

新興上場企業の財務部長

「IPO直後のスピード感ある経営に対応し、柔軟かつ堅実な財務体制を構築する財務責任者」

企業価値を数字で最大化する戦略家

経営の羅針盤を操る財務のプロフェッショナル

IPO後の持続的成長を支える財務参謀

主な業務内容

  • 財務戦略の立案・実行および資金調達・運用の統括
  • 予算策定・管理および経営層への財務分析・提言
  • ステークホルダー(投資家・金融機関・監査法人等)との関係構築・維持

想定年収

800万円~1,800万円
※業績や評価によって変動

想定年齢

30歳~45歳

新興上場企業の財務部長は こんな仕事

新興上場企業の財務部長という役職は、企業の成長ストーリーを財務面から支え、時に経営戦略に深く関わる「経営の参謀」といえる存在です。IPO(株式公開)を経て、企業が次のステージに進む過程で、財務部長の役割はさらに重要性を増していきます。資金調達や投資家対応、成長戦略の財務的裏付けなど、その業務は多岐にわたり、企業の未来を左右する重要な意思決定に関わることができます。また、年収800万円~1,800万円という報酬水準も魅力的です。

新興上場企業の財務部長は、企業の「成長エンジン」を支える重要な存在です。このポジションに就くと、企業の成長戦略を財務面からリードする戦略家としての役割を担うことになります。

まず、財務部長の中核的な業務は、企業の財務戦略の立案と実行です。たとえば朝の経営会議では、最新の資金繰り状況や投資プロジェクトの収益性分析を報告し、CEOや各事業部長と活発な議論を交わすことでしょう。「新規事業への投資は財務的に持続可能か」「海外展開のためにどのような資金調達が最適か」といった重要な経営判断に財務分析が直接影響を与えます。

また、上場企業として資本市場との対話も重要な任務です。四半期ごとの決算発表では、CFOをサポートしながら、アナリストや機関投資家に対して業績の説明や将来の見通しを伝えます。時には厳しい質問にも的確に回答する必要があり、企業の信頼性や株価に直結するプレッシャーを感じる場面もあるでしょう。しかし、財務部長の説明によって市場から高い評価を得たとき、その達成感は何物にも代えがたいものとなります。

日常業務では、予算策定・管理のプロセスをリードします。各部門の予算申請を精査し、全社最適の観点から資源配分を検討します。「この投資は本当に必要か」「より効率的な方法はないか」と問いかけることで、企業全体のコスト意識を高める役割も担います。

財務リスク管理も重要な責務です。為替変動リスクに対しては、為替予約やヘッジ取引などの手法を駆使して企業の収益を守ります。また、借入金利の変動シミュレーションを行い、将来の金利上昇リスクに備えた資金調達計画を立案します。こうしたリスク管理が経営の安定性を支え、持続的な成長を可能にするのです。

財務部の組織運営も財務部長の重要な役割です。専門性の高いメンバーをどう育成し、モチベーションを高めるか。時に厳しい局面でも、「この仕事が会社の成長にどう貢献するのか」というビジョンを示し、チームを前進させる力が求められます。

新興上場企業ならではの特徴として、成長性と安定性のバランスを取る難しさがあります。急成長に伴う資金需要に対応しながらも、上場企業としての規律ある財務運営が要求されるのです。このバランス感覚こそが、財務部長の腕の見せどころといえるでしょう。

新興上場企業の財務部長という ポジションの魅力

なぜ新興上場企業の財務部長を目指すのか。その魅力は何と言っても「成長企業の未来を財務面から創造できる」というやりがいにあります。大手上場企業の財務部門が守りの姿勢になりがちなのに対し、新興上場企業では攻めの財務戦略が求められます。財務の専門知識を駆使して企業の成長曲線を描く、その醍醐味は他のポジションでは味わえないものです。

例えば、急成長中のテック企業の財務部長であれば、「年率30%の売上成長を実現するために必要な投資と資金調達をどう設計するか」といった挑戦的な課題に取り組むことになります。こうした経験は、財務スキルを飛躍的に向上させるだけでなく、経営者としての視点も養ってくれるでしょう。

また、新興上場企業においては財務部門が経営の中核を担う存在として認識されている点も大きな魅力です。経営会議では財務部長の意見が重要視され、時にCEOの意思決定を左右することもあります。「この事業投資は本当に企業価値を高めるのか」「この資金調達方法は本当に株主価値を最大化するか」など、財務的視点が会社の将来を形作るのです。

IPO後の新興企業では、資本市場との対話も重要な仕事になります。作成した財務資料や説明が、アナリストや投資家の企業評価に直結します。市場からの厳しい視線に耐え抜き、企業の成長ストーリーを説得力を持って伝えることで、株価という形で即座にフィードバックを得られることは、非常に刺激的な経験となるでしょう。

さらに、社会的インパクトという観点でも、新興上場企業の財務部長は大きな貢献ができます。新しい価値を創造する企業の成長を財務面から支えることで、雇用創出や技術革新、ひいては社会全体の発展に間接的に貢献できるのです。財務的判断が、新しい事業の誕生や拡大を後押しし、世の中を変えていく—そんなやりがいを感じられる職種です。

キャリアパスの広がりも魅力的です。財務部長としての経験は、将来CFOへのステップアップはもちろん、COOやCEOといった経営トップへの道も開きます。また、複数の企業で財務部長を経験することで、業界を超えた普遍的な財務マネジメントスキルを身につけることができます。

報酬面でも、新興上場企業の財務部長は魅力的です。基本年収に加え、業績連動型のボーナスやストックオプションなどのインセンティブが設定されていることが多く、企業の成長とともに自身の経済的リターンも増大していく可能性があります。

このように、新興上場企業の財務部長は、専門性の発揮、経営への影響力、社会的貢献、そしてキャリア・経済面での可能性という、多面的な魅力を持つポジションなのです。

新興上場企業の財務部長の 年間スケジュール例

新興上場企業の財務部長は、法定開示対応、予算策定、投資家対応など多岐にわたる業務を年間を通じて計画的にこなす必要があります。以下は、3月決算企業を前提とした年間スケジュール例です。

4月(年度初め)

決算関連

  • 前期決算の最終調整・確定作業
  • 会計監査人による期末監査対応
  • 有価証券報告書の作成準備開始
  • 決算短信作成・公表準備

事業計画・予算関連

  • 新年度予算の各部門への説明・展開
  • 予算管理システムへの予算データ登録
  • 年間資金計画の最終化

その他

  • 新入社員・異動者向け財務オリエンテーション
  • 税務申告準備(法人税、消費税等)
  • 株主総会準備の開始(議案検討)

5月

決算関連

  • 決算短信の開示(決算日から45日以内)
  • 決算説明会の準備・実施
  • 有価証券報告書の作成作業
  • 監査役会・取締役会への決算報告

株主総会関連

  • 招集通知・事業報告の作成
  • 株主総会関連日程の確定
  • 配当支払いの準備

その他

  • 1Q予算進捗状況の確認開始
  • 期末税務申告書の最終確認・提出

6月

決算・開示関連

  • 有価証券報告書の提出(決算日90日以内)
  • 株主総会の開催・運営
  • コーポレートガバナンス報告書の更新
  • 配当金支払い実務

監査関連

  • 監査法人による1Q四半期レビュー準備
  • 内部統制評価の年間計画確認

その他

  • 役員報酬の改定対応(株主総会後)
  • 株主構成分析の実施

7月

四半期決算関連

  • 1Q決算作業の実施
  • 四半期決算短信の公表準備

予算関連

  • 1Q予算実績分析・経営層への報告
  • 2Q以降の予測見直し検討

その他

  • 半期の税務計画見直し
  • サステナビリティ関連データ収集(統合報告書向け)

8月

四半期報告関連

  • 四半期決算短信の開示
  • 機関投資家向け1Q決算説明(必要に応じて)

事業計画関連

  • 中期経営計画の進捗状況レビュー
  • 予算修正の必要性検討

その他

  • 資金調達計画の見直し
  • システム投資の進捗確認
  • 夏季賞与支給関連業務

9月

中間期決算準備

  • 中間決算に向けた事前準備
  • 半期末の各種引当金見直し
  • 税金費用の見積り更新

その他

  • 上半期の内部統制評価状況の確認
  • 2Q予算進捗管理の強化
  • 期中税務調査対応(該当する場合)

10月

四半期決算関連

  • 2Q/中間期決算作業
  • 半期報告書の作成
  • 監査法人による期中レビュー対応
  • 上半期決算短信の準備

来期予算関連

  • 来期予算策定方針の検討
  • 予算策定スケジュールの立案
  • 部門への予算策定指示準備

その他

  • M&A・投資案件の財務評価(随時)
  • 資金運用状況の中間レビュー

11月

開示関連

  • 2Q決算短信の開示
  • 半期報告書の提出
  • 機関投資家向け中間決算説明会(実施する場合)

来期予算関連

  • 予算策定方針の周知・説明
  • 各部門からの予算案の収集開始
  • 人件費予算の検討(採用計画連動)

その他

  • 年末調整準備
  • 来期システム投資計画の財務評価

12月

年末決算準備

  • 年末の実地棚卸準備・実施
  • 固定資産の減損兆候の確認
  • 年末為替評価の準備

来期予算関連

  • 各部門予算案のレビュー・調整
  • 予算第一次案の取りまとめ
  • 投資予算の精査

その他

  • 年末調整実施
  • 内部統制評価の進捗確認
  • 冬季賞与支給関連業務

1月

四半期決算関連

  • 3Q決算作業の実施
  • 監査法人による四半期レビュー対応

来期予算関連

  • 予算案の経営会議への上程
  • 経営層からのフィードバック反映
  • 年間資金計画案の作成

その他

  • 期末決算に向けた論点整理
  • 税務対策の最終検討
  • マイナンバー関連の年次確認

2月

開示関連

  • 3Q決算短信の開示

来期予算関連

  • 予算の最終調整・確定
  • 取締役会での予算承認手続き
  • 予算書の最終化・配布準備

その他

  • 期末決算シミュレーション
  • 来期税務戦略の検討
  • 決算業務の効率化検討

3月(年度末)

期末決算準備

  • 期末決算スケジュールの確定・周知
  • 決算手続きの事前準備
  • 期末実地棚卸の実施
  • 各種引当金計上の検討

期末業務

  • 年度末の資金決済
  • 期末評価替え処理(有価証券・為替等)
  • 関係会社取引の最終確認

その他

  • 来期予算の部門説明会準備
  • 内部統制評価のとりまとめ
  • 株主総会スケジュールの確定準備

通年で実施する業務

日次・週次業務

  • 資金繰り管理
  • 経営ダッシュボードの更新・報告
  • 各種KPI進捗モニタリング

月次業務

  • 月次決算処理・報告
  • 予算実績差異分析
  • 取締役会向け財務報告
  • 資金調達・運用状況の確認

随時対応業務

  • IR関連問い合わせ対応
  • 格付機関対応
  • 金融機関との関係構築・交渉
  • M&A・投資案件の財務デューデリジェンス
  • 臨時開示対応
  • 取締役会・経営会議への出席

上場後数年以内の企業に特有の業務

内部統制関連

  • 内部統制システムの整備・運用改善
  • J-SOX対応体制の強化
  • 業務プロセスの文書化・標準化推進

情報開示関連

  • 適時開示体制の強化
  • 投資家向け情報開示の質向上
  • IR活動の充実化

成長戦略関連

  • 成長資金の調達戦略立案
  • 資本政策の検討・実行
  • M&A・事業投資の財務戦略立案

新興上場企業の財務部長の業務は、法定開示対応を中心とした定型的な年間サイクルと、企業の成長戦略を支える戦略的業務の両面から構成されています。

特に上場後数年以内の企業では、内部統制や情報開示体制の強化とともに、成長資金の確保や効率的な財務オペレーションの構築という課題に同時に取り組む必要があります。

財務部長には、これらの多岐にわたる業務を適切に配分し、チームを効果的にマネジメントしながら、会社の持続的成長を財務面から支える役割が求められます。年間スケジュールを前広に管理し、ピーク時の業務集中にも対応できる体制づくりが重要です。

新興上場企業の財務部長の 重要任務

新興上場企業の財務部長は多くの責務を担いますが、企業の持続的成長と企業価値向上に直結する特に重要な任務が存在します。以下では、新興上場企業の財務部長が注力すべき最重要任務を3つピックアップし、詳細に解説します。

 

1.資本・資金調達戦略の立案と実行

新興上場企業にとって、事業拡大に必要な資金をどのように調達し、最適な資本構成をどう実現するかは成長速度と企業価値を左右する最重要事項です。財務部長は資金調達の執行者だけではなく、中長期的な視点で企業の資本政策全体を設計する戦略家としての役割を担います。

資本構成の最適化

  • 最適資本構成の検討: 自己資本比率、負債コスト、株主資本コストを考慮した最適資本構成の設計
  • 資本効率指標の管理: ROE・ROICなどの資本効率指標の目標設定と改善施策の立案
  • 格付戦略: 信用格付けの維持・向上に向けた財務戦略の構築

資金調達手段の選択と実行

  • エクイティファイナンス: PO(公募増資)、第三者割当増資、ストックオプション等の検討・実行
  • デットファイナンス: シンジケートローン、社債発行、コミットメントラインの設定等
  • ハイブリッドファイナンス: 転換社債、優先株等の複合的な資金調達手段の活用
  • 成長ステージに応じた調達手段の最適化: 成長フェーズに合わせた調達手段の選択

投資家・金融機関との関係構築

  • 投資家対話の主導: 機関投資家との対話を通じた資本政策への理解獲得
  • 銀行団との関係強化: メインバンク・取引銀行との強固な関係構築
  • 資本市場からの評価向上: 適切な情報開示と対話による資本市場からの信頼獲得

成功のポイント

  • 事業計画と連動した中長期の資金需要予測の精度向上
  • 資本市場・金融市場の動向を先読みする市場感覚の醸成
  • 経営陣と投資家の期待値のバランスを取る調整能力
  • 財務的柔軟性と安定性のバランスを保つ資本構成の実現

2.経営戦略を支える財務・管理会計基盤の構築

急成長する新興企業では、事業拡大のスピードに財務管理体制が追いつかず、経営判断の質が低下するリスクがあります。財務部長は、適時的確な意思決定を支える管理会計基盤を構築し、データドリブンな経営の実現に貢献する必要があります。

経営意思決定を支援する管理会計体系の構築

  • セグメント別収益管理: 事業・商品・顧客セグメント別の収益性分析体制の構築
  • KPI設計と可視化: 事業戦略の実現に向けた重要業績指標の設計と可視化
  • 予算管理プロセスの高度化: 戦略と連動した予算編成・進捗管理プロセスの確立
  • 投資評価フレームワーク: M&A・設備投資等の投資判断を支える評価基準の整備

財務データ基盤の強化

  • ERP(企業資源計画)システムの最適化: 成長に対応可能な財務システム基盤の整備
  • データウェアハウス構築: 経営データの統合・分析基盤の整備
  • BIツール活用: 財務・非財務データの統合分析と経営ダッシュボードの構築
  • プロセス自動化: RPA等を活用した財務業務の効率化・高度化

経営層への財務アドバイザリー機能

  • 経営会議への参画: 重要な意思決定への財務的視点からの助言
  • 事業計画策定支援: 中期経営計画の財務モデル構築と妥当性検証
  • シナリオ分析: 経営環境変化に応じた財務シミュレーションの提供
  • 経営リスクの定量評価: 財務的観点からのリスク評価と対応策の提言

成功のポイント

  • 業績ドライバーの理解に基づく適切なKPI設計
  • 財務・非財務データの統合による包括的な分析視点の提供
  • ITリテラシーとデータ分析スキルの組織的強化
  • 現場部門が実際に活用できる使いやすい管理会計フレームワークの設計

3.上場企業としてのガバナンス・開示体制の強化

新興上場企業にとって、投資家からの信頼獲得と健全なガバナンス体制の構築は持続的成長の基盤です。財務部長は、透明性の高い情報開示と強固な財務統制を通じて、上場企業としての信頼性・持続可能性を高める中核的役割を担います。

開示体制の強化

  • 適時開示体制の確立: 重要事実の把握と適切な開示体制の整備
  • 四半期・年次報告の質向上: 投資家視点での有価証券報告書・決算短信の充実
  • 統合報告・非財務情報開示: ESG要素を含む包括的な企業価値情報の開示強化
  • 投資家対話の高度化: 財務情報に基づく建設的な対話の促進

内部統制・財務ガバナンスの確立

  • J-SOX体制の強化: 内部統制報告制度への効果的・効率的な対応
  • 経理規程・経理プロセスの整備: 成長に対応可能な堅牢な経理体制の構築
  • グループガバナンス: 子会社・関連会社への財務管理体制の展開
  • 不正リスク管理: 財務不正防止のための予防的統制の設計・運用

コンプライアンス体制の確立

  • 会計・税務コンプライアンス: 複雑化する会計基準・税制への適切な対応
  • 財務報告の品質管理: 適正な財務諸表作成のための品質管理体制構築
  • 監査対応の効率化: 監査法人・監査役との建設的な関係構築
  • 情報セキュリティ強化: 財務情報の機密性・完全性確保

成功のポイント

  • 形式的対応ではなく実質的なガバナンス強化への注力
  • 効率と統制のバランスがとれた内部統制システムの設計
  • 監査法人・専門家との協働による専門性の補完
  • 将来の事業拡大を見据えたスケーラブルな統制環境の構築

 

これら3つの重要任務は個別に存在するものではなく、互いに密接に関連しています。例えば、強固な財務・管理会計基盤があってこそ投資家に信頼される情報開示が可能になり、それが資本調達力の向上につながります。

新興上場企業の財務部長には、これらの領域を統合的に推進し、「成長と規律のバランス」を取りながら企業価値向上に貢献することが求められます。特に重要なのは、現在の課題対応に追われるだけでなく、次のステージを見据えた先行的な財務基盤構築に取り組む姿勢です。

新興上場企業の財務部長が、これら3つの重要任務を高いレベルで実行することにより、企業は財務面での制約に縛られることなく、持続的な成長を実現することができるでしょう。

新興上場企業の財務部長の 報酬水準

新興上場企業における財務部長の報酬水準は、企業規模、業種、成長ステージ、個人の経験・スキルなどによって幅があります。入手可能な最新データに基づき、日本企業における財務部長の報酬水準について整理します。

基本的な報酬水準の概要

新興上場企業の財務部長(CFO/財務担当役員を含む)の報酬水準は、以下のような要素により構成されています。

  • 基本報酬(固定給)
  • 賞与(短期インセンティブ)
  • 株式報酬(中長期インセンティブ)
  • その他手当・福利厚生

企業規模別の報酬水準目安

企業規模により、報酬水準に差があります。新興上場企業における一般的な水準は以下の通りです。

新興上場企業(時価総額100〜300億円規模)

  • 年間総報酬: 約800万円〜1,800万円
  • 内訳目安
    • 基本報酬: 約700万円〜1,400万円
    • 賞与: 基本報酬の20〜40%程度
    • 株式報酬: 導入している場合、年間総報酬の10〜20%程度

報酬水準に影響する主な要因

企業属性による違い

  • 業種: 金融・IT・製薬などの業界は一般的に報酬水準が高い傾向
  • 成長性: 高成長企業では変動報酬比率が高くなる傾向
  • 収益性: EBITDA利益率などの収益指標が高い企業ほど報酬水準も高い傾向
  • 資金調達状況: 資金調達に成功している企業では報酬水準が高くなる傾向

新興上場企業の財務部長の報酬水準は、企業の規模や成長段階によって大きく異なりますが、一般的には年間総報酬で800万円〜1,800万円程度の範囲に分布しています。役員クラス(CFO等)ではさらに高い水準になります。

近年は、固定報酬だけでなく業績連動型の賞与や株式報酬を組み合わせた報酬パッケージが増えており、企業の持続的な成長や中長期的な企業価値向上へのインセンティブ設計が重視される傾向にあります。

財務部長の役割が戦略的なものへと進化するにつれ、その報酬体系も変化しつつあります。特に成長企業では、優秀な人材確保のために競争力のある報酬パッケージの設計が重要になっています。

新興上場企業の財務部長の 代表的な会社

日本では近年、革新的なビジネスモデルや先進的なテクノロジーを武器に急成長を遂げ、上場を果たした企業が複数存在します。その中でも特に注目されている3社をご紹介します。

1.SmartHR株式会社

概要

  • 創業: 2013年
  • 上場: 2019年東証マザーズ(現グロース市場)
  • 事業内容: クラウド型人事労務ソフト「SmartHR」の開発・提供

特徴

SmartHRは「労働にまつわる社会課題をなくし、誰もがその人らしく働ける社会をつくる」というミッションを掲げ、人事労務業務の効率化を実現するサービスを提供しています。入社手続きや雇用契約、給与明細の配布、年末調整など、従来紙や手作業で行われていた業務をデジタル化し、大幅な業務効率化を実現しています。

多くの企業で人手不足が深刻化する中、バックオフィス業務の効率化ニーズを的確に捉え、急速に顧客基盤を拡大。日本企業のDX推進を支援する代表的なSaaS企業として評価されています。

2.メルカリ株式会社

概要

  • 創業: 2013年
  • 上場: 2018年東証マザーズ(現プライム市場)
  • 事業内容: フリマアプリ「メルカリ」の運営、決済サービス「メルペイ」の提供

特徴

「新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る」をミッションに掲げ、個人間取引のプラットフォームとして急成長を遂げました。スマートフォンの普及と結びついた使いやすいUIと、配送システムの最適化により、新たな消費行動を生み出しています。

日本発のユニコーン企業として海外展開も積極的に進め、米国でも事業を展開。2023年にはついに黒字化を達成し、安定的な成長軌道に乗りつつあります。

フリマアプリの枠を超え、金融サービス「メルペイ」を展開するなど、生活インフラとしての地位を確立しつつある点も注目されています。社内のグローバル化を積極的に進め、外国人採用も積極的におこなっています。

3.フリー株式会社

概要

  • 創業: 2012年
  • 上場: 2019年12月東証マザーズ(現グロース市場)
  • 事業内容: クラウド会計ソフト「会計freee」、給与計算ソフト「人事労務freee」の開発・運営

特徴

「スモールビジネスを、世界の主役に。」というミッションを掲げ、個人事業主や中小企業向けのクラウド会計・人事労務サービスを提供しています。独自のテクノロジーを活用し、複雑な会計処理や法改正への対応をリアルタイムで行うことで、専門知識がなくても直感的に業務ができる環境を提供しています。

設立以来、継続的な成長を続け、顧客基盤は個人事業主から中小企業、さらには中堅企業へと拡大。サブスクリプションモデルによる安定的な収益基盤を構築しています。

会計データを基に金融サービスとの連携を強化するなど、スモールビジネスのインフラとなるプラットフォームを構築する戦略も注目されています。

 

これらの企業に共通するのは、テクノロジーを活用して既存の業務プロセスを根本から変革し、効率化・最適化を図るという点です。また、サブスクリプションモデルを中心としたビジネスモデルにより、ストック型の収益構造を実現している点も特徴的です。

日本のビジネス環境の変化に合わせて、今後もこうした新興企業の成長・上場が期待されています。

新興上場企業の財務部長に 向いている人は、どんな人?

■求められるマインド

新興上場企業の財務部長には、成長を加速させる戦略的パートナーとしての役割が求められます。その役割を果たすために必要なマインドセットを詳しく解説します。

1.成長志向の戦略的思考

ビジネスパートナーシップのマインド

新興上場企業の財務部長は、「No」と言う番人ではなく、「How」を考える事業の共創者であるべきです。

  • 数字の背後にある事業の本質と成長ドライバーを理解する
  • リスクだけでなく、成長機会を財務的視点から発掘・評価する
  • 限られた経営資源において成長を最大化するための資金配分を提案する

長期的価値創造の視点

四半期ごとの数字達成だけでなく、企業の長期的な価値創造に焦点を当てる姿勢が重要です。

  • 短期的な利益確保と将来への必要投資のバランスを取る
  • 人材・技術・ブランドなど財務諸表に表れない価値の重要性を認識する
  • 企業の成長フェーズに合わせた最適な財務戦略を柔軟に設計する

2.アジリティとレジリエンス

変化適応力

急成長を遂げる企業の環境は常に変化しており、その変化に素早く適応する能力が不可欠です。

  • 完璧を求めすぎず、限られた情報の中で迅速に判断する
  • 環境変化に応じて予算や計画を柔軟に見直す姿勢
  • 新たな知識・スキルを常に吸収し続ける向上心

危機対応力

高成長期には想定外の事態も多く発生するため、危機対応力が試されます。

  • プレッシャーの中でも冷静さを保ち最適判断ができる精神力
  • 常にプランBを準備し、不測の事態に備える用意周到さ
  • 失敗や危機を次への成長機会と捉える前向きさ

3.バランス感覚と規律

成長と規律のバランス

成長への投資と財務健全性のバランスを取ることは財務部長の最重要使命の一つです。

  • 無秩序な拡大ではなく、持続可能な成長パターンを追求する
  • 「早すぎる成長」のリスクも認識した成長速度の調整能力
  • 株主・従業員・顧客など多様な関係者からの期待のバランスを取る

攻めと守りの両立

コンプライアンスと企業価値向上の両立という難しい課題に取り組む姿勢が求められます。

  • 過度に保守的ではなく、適切なリスクを取る判断力
  • 内部統制の強化と業務効率化の両立を図る視点
  • 情報開示の透明性と競争戦略上の機密保持のバランス

4.リーダーシップと影響力

組織横断的影響力

財務部長は、組織全体に財務的規律と価値創造の文化を浸透させる役割を担います。

  • 財務戦略の背景にある理念や目的を分かりやすく伝える能力
  • 財務の専門用語を経営陣や現場が理解できる言葉に置き換える
  • 財務部門を超えて全社的な協力を得る関係構築能力

チーム育成マインド

自らの組織を育て、会社の成長に合わせて進化させる姿勢も重要です。

  • 短期的な業務効率より長期的な組織力向上を重視する姿勢
  • 異なる背景・視点を持つメンバーの価値を認識する包容力
  • チームメンバーに挑戦的な機会を与え成長を促す度量

5.誠実さと倫理観

高い倫理基準

財務情報の信頼性の守り手として、揺るぎない倫理観が求められます。

  • 良い情報も悪い情報も率直に伝える勇気
  • 数字の正確さに妥協しない緻密さ
  • 投資家・監査人・規制当局との誠実な対話姿勢

プロフェッショナリズム

専門家としての高い基準を自らに課す姿勢が重要です。

  • 自らの判断と行動に対する責任を引き受ける覚悟
  • 常識や前提を問い直す知的誠実さ
  • 政治的圧力や感情に流されない独立した判断力

6.イノベーティブな思考

テクノロジー活用マインド

デジタル時代に適応し、テクノロジーを活用する姿勢が不可欠です。

  • AI・RPA等の新技術を財務業務に取り入れる前向きさ
  • 直感だけでなくデータに基づく意思決定を重視する姿勢
  • 小さく始めて改善を繰り返す実践的な改革姿勢

創造的問題解決

前例にとらわれず、新たな解決策を見出す創造性も求められます。

  • 「当たり前」を疑い、より良い方法を探求する姿勢
  • 財務領域を超えた多様な知識・経験を統合する思考法
  • 問題よりも解決策に焦点を当てる建設的姿勢

7.市場感度と外部視点

資本市場への感度

上場企業の財務責任者として、資本市場の視点を理解する姿勢が必要です。

  • 外部投資家の目線で自社を評価できる客観性
  •  投資家の期待値や評価基準の変化を敏感に察知する能力
  • 財務数字を超えた企業価値の物語を語る力

外部環境への感度

マクロ環境や競争環境の変化が自社に与える影響を先読みする視点も重要です。

  • 金利・為替・規制など外部環境変化への感度
  • 競合他社の動向や業界構造変化への洞察力
  • サステナビリティやDXなど新たな価値評価軸への適応力

上記の要素は個別に存在するものではなく、相互に関連し合う統合的なマインドセットとして機能します。新興上場企業の財務部長には、高度な専門性と戦略的視点、規律と柔軟性、ビジネスへの理解と倫理観など、時に相反する要素とのバランスを取りながら、企業の持続的な成長を財務面からリードする統合的な姿勢が求められます。

最も重要なのは、「守りの番人」という伝統的な財務部長像を超えて、企業価値創造の積極的なパートナーとして自らを位置づける意識改革です。数字の正確性を確保しつつも、その先にある企業の成長と価値創造にコミットする—それが新興上場企業の財務部長に求められる本質的なマインドセットと言えるでしょう。

■必要なスキル

新興上場企業の財務部長には、急成長する企業環境において財務機能を統括し、企業価値向上に貢献するための多様なスキルが求められます。以下では、必須となるスキルを体系的に解説します。

1.高度な財務・会計専門スキル

財務分析・モデリングスキル

  • 複雑な事業計画を数値化する精緻な財務モデル構築能力
  • 様々な事業シナリオが財務に与える影響を定量化する能力
  • 重要変数の変動が業績に与える影響を分析する能力
  • DCF法、類似企業比較法など複数手法を用いた企業・事業価値評価能力

会計・税務専門知識

  • IFRS、日本基準など適用会計基準の深い理解
  • 事業実態を適切に反映する会計方針の設計能力
  • 子会社・関連会社を含む連結決算プロセスの統括能力
  • 国内外の税制を踏まえた最適な税務戦略の立案能力
  • グループ内取引の適切な価格設定能力(国際企業の場合)

2.戦略的財務管理スキル

資金調達・資本政策スキル

  • 株式・債券・銀行借入など多様な資金調達手段の活用能力
  • 負債と資本のバランスを最適化する能力
  • 金融機関・投資家との効果的な交渉能力
  • 増資・社債発行などの資本市場活用能力
  • 信用格付けの取得・維持のための戦略立案能力

投資・M&A関連スキル

  • 設備投資・R&D投資などの投資案件の経済性評価能力
  • 買収対象企業の財務デューデリジェンス・シナジー評価能力
  • M&A後の統合プロセスにおける財務面での計画立案能力
  • 事業ポートフォリオの最適化提案能力
  • 不採算事業からの撤退判断と実行能力

3.高度な管理会計・経営管理スキル

パフォーマンス管理スキル

  • 事業戦略に連動した効果的な財務・非財務KPIの設計能力
  • 戦略的な予算編成と効果的な予算統制能力
  • 部門・子会社・個人の公正かつ効果的な業績評価能力
  • 戦略的コスト削減と適切な投資判断のバランス能力
  • 製品・顧客・チャネル別の収益性分析能力

データ活用・分析スキル

  • BIツールを活用した経営データの可視化能力
  • 大量の財務・非財務データから洞察を導き出す能力
  • 統計的手法を用いた将来予測モデルの構築・活用能力
  • 財務データの正確性・一貫性確保のための管理能力
  • 経営層向け財務情報ダッシュボードの設計能力

4.ガバナンス・リスク管理スキル

内部統制・コンプライアンススキル

  • 効果的かつ効率的な内部統制システムの設計・運用能力
  • 財務報告に係る内部統制の評価・報告能力
  • 財務不正リスクの予防・発見体制構築能力
  • 内部監査・外部監査への効果的な対応能力
  • 金融商品取引法など関連法規制への適切な対応能力

リスクマネジメントスキル

  • 流動性リスク、為替リスク、金利リスクなどの特定・評価能力
  • デリバティブ等を活用した適切なリスクヘッジ戦略立案能力
  • 財務危機への迅速かつ効果的な対応能力
  • 財務面からのBCP(事業継続計画)策定能力
  • リスク移転のための適切な保険戦略立案能力

5.IR・ステークホルダーコミュニケーションスキル

投資家・アナリスト対応スキル

  • 効果的な投資家向け情報開示戦略の策定能力
  • 財務実績を明確に説明する能力
  • 投資家・アナリストからの専門的質問への的確な回答能力
  • 財務数値を超えた企業価値ストーリーの構築・伝達能力
  • 適切な業績見通しの策定と管理能力

開示・報告スキル

  • 有価証券報告書・決算短信等の法定開示書類作成能力
  • 財務・非財務情報を統合した報告書作成能力
  • 環境・社会・ガバナンス情報の効果的な開示能力
  • 重要事実の適時開示に関する適切な判断能力
  • プレスリリース等、対外発表文書の作成・チェック能力

6.リーダーシップ・組織管理スキル

財務組織マネジメントスキル

  • 成長段階に応じた最適な財務組織設計能力
  • 財務部門スタッフの育成・能力開発能力
  • 財務業務の効率化・最適化能力
  • 財務機能の変革をリードする能力
  • 会計事務所・税理士・コンサルタント等の外部専門家の活用・管理能力

クロスファンクショナルリーダーシップ

  • CFOとして経営会議等での説得力ある提案能力
  • 営業・マーケティング・製造等他部門との効果的な協働能力
  • 全社的な変革イニシアチブにおける財務面からのリーダーシップ
  • 部門間の利害対立を調整する能力
  • 社内外の関係者を説得し合意形成する能力

7.テクノロジー・イノベーションスキル

財務デジタル化スキル

  • 財務会計・管理会計システムの設計・活用能力
  • RPA等を活用した財務業務の自動化能力
  • 最新の金融テクノロジーの評価・導入能力
  • クラウドベースの財務システム導入・運用能力
  • 財務データの安全性確保のためのセキュリティ対策能力

イノベーション・変革スキル

  • 財務機能の業務モデル変革構想・実行能力
  • 財務DXの構想・推進能力
  • AI・ブロックチェーンなど新技術の財務応用可能性評価能力
  • 財務領域におけるアジャイル手法の適用能力
  • 小規模・短期間の実験を通じた改善推進能力

8.ビジネス・戦略理解スキル

事業戦略理解スキル

  • 自社の事業モデル・収益構造の深い理解
  • 市場動向・競合状況の分析能力
  • 業界特有の財務指標・ビジネス慣行の理解
  • 企業のバリューチェーンと財務インパクトの関連付け能力
  • 企業の成長を牽引する要因の理解

マクロ環境分析スキル

  • マクロ経済指標と自社への影響分析能力
  • 金融政策・財政政策の動向と影響評価能力
  • 業界規制の動向と財務インパクト予測能力
  • グローバル事業展開における地政学リスク評価能力
  • 技術革新が事業・財務に与える影響の評価能力

9.サステナビリティ・ESG対応スキル

ESG財務スキル

  • ESG投資家の期待に応える情報開示・対話能力
  • グリーンボンド等のサステナブルファイナンス活用能力
  • TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に基づく気候関連財務影響分析能力
  • ESG関連の非財務KPIの設計・モニタリング能力
  • 財務・非財務要素を統合した企業価値評価能力

長期価値創造スキル

  • 短期的成果と長期的投資のバランスを取った計画策定能力
  • 人的資本・知的財産・組織資本など無形資産の価値評価能力
  • 社会・環境への影響に対する財務的評価・測定能力
  • 企業パーパスと財務戦略の連動能力
  • 多様なステークホルダーの期待を考慮した財務的意思決定能力

10.グローバル対応スキル(海外展開企業の場合)

グローバル財務管理スキル

  • 複数通貨にまたがる資金管理・為替リスク管理能力
  • 国際税務戦略の立案・実行能力(移転価格等)
  • 国境を越えたM&A・アライアンスの財務評価・統合能力
  • 多国籍事業における一貫した財務統制の確立能力
  • 国際的な財務人材の採用・育成・配置能力

異文化コミュニケーションスキル

  • 英語を中心とした外国語でのビジネスコミュニケーション能力
  • 異なるビジネス文化・慣行への適応能力
  • 文化的背景の異なる相手との効果的な交渉能力
  • 多様なバックグラウンドを持つチームのマネジメント能力
  • 国際的な場での効果的なプレゼンテーション能力

新興上場企業の財務部長には、上記の多様なスキルを状況に応じて柔軟に活用できる「T型人材」であることが求められます。すべての領域で専門家レベルの深さを持つことは現実的ではありませんが、広範な知識と特定分野における深い専門性を組み合わせることが重要です。

特に重要なのは、これらのスキルを単独で適用するのではなく、統合的に活用して企業価値創造に貢献する能力です。例えば、テクノロジースキルと戦略的財務管理スキルを組み合わせてデータドリブンな投資判断を導く、あるいはESG対応スキルと投資家コミュニケーションスキルを融合させて長期的企業価値を効果的に伝える、といった統合的なアプローチが求められます。

新興上場企業の財務部長までの 道のり

財務部長というポジションへの道のりは一つではありません。多様なバックグラウンドを持つ人材が、それぞれの強みを活かして財務部長に至るケースがあります。ここでは、財務部長への主要なキャリアパスを逆算して解説します。

まず、最も直接的なルートとして、新興上場企業の財務部長の直前には「財務部次長」や「財務マネージャー」としての経験があるケースが一般的です。この段階では、財務業務の実務責任者として日常の資金管理や決算業務を統括し、決算書作成や予算管理の中核を担います。また、銀行交渉や監査法人対応の第一線に立ち、実務面での経験を積み重ねます。

その手前には、「財務課長」や「経理課長」といったミドルマネジメントのポジションがあります。この段階では特定の財務分野(例えば資金調達・運用、管理会計、税務など)を深く経験するとともに、部下の育成やプロジェクト管理といったマネジメントスキルも磨かれます。

さらにその前のキャリアとしては、財務部門のスタッフとして基礎的な業務経験を積むフェーズがあります。単純な経理処理だけでなく、予算作成の補助や資金繰り表の作成、簡単な財務分析など、財務の基本を幅広く学ぶ時期です。

ここまでが企業の財務部門内での一般的なキャリアパスですが、他のルートも存在します。例えば、監査法人や税理士法人などの専門家集団からの転身も多く見られます。公認会計士や税理士として企業の会計監査や税務アドバイスに携わることで培われる専門性は、財務部長として大いに役立ちます。特に、IPOを経験した企業では、監査経験のある公認会計士のスキルが重宝されます。こうした専門家は通常、「財務部長」や「CFO」として直接採用されるケースも少なくありません。

また、コンサルティングファームや投資銀行からのキャリアチェンジも一つのルートです。M&Aや企業再生、財務戦略の立案などの経験は、成長フェーズの企業の財務部長として求められるスキルと親和性が高いからです。特に、複数の企業の財務戦略に関わった経験は、「何が良い財務戦略か」を知る上で貴重な財産となります。

さらに、事業会社の企画部門や営業企画、経営企画といった部門からのキャリアチェンジも可能です。これらの部門で培われる事業戦略的な視点や全社を俯瞰する能力は、財務部長に求められる「数字だけでなくビジネスを理解する力」につながります。

若手時代にどのような職種・業務を経験しておけば財務部長を目指しやすいかという点では、まず財務・会計の基礎知識を早期に固めることが重要です。大学で会計学や財務会計論を学ぶ、公認会計士や税理士の資格取得を目指す、あるいは簿記の資格を取得するなど、財務リテラシーを高めておくことが第一歩となります。

しかし同時に、財務以外の経験も貴重です。営業や事業開発など、現場でビジネスの最前線を経験することで、「数字の背後にあるビジネスの実態」を理解する感覚が養われます。この感覚は、後に財務部長として戦略的な判断を下す際に大きな武器となります。

ある新興企業のCFOは「私は最初の5年間を営業で過ごしたが、その経験が今の財務の仕事で非常に役立っている。数字だけを見るのではなく、その背後にある顧客や市場の動きを想像できるからだ」と語っています。

重要なのは、どのようなキャリアパスを選ぶにしても、常に「財務の専門性」と「ビジネスへの理解」の両方を意識して能力開発を行うことです。会計や財務の知識を深めつつ、同時にビジネスモデルや業界動向への理解も広げていく。このバランスの取れた能力開発こそが、財務部長への近道となるのです。

今どのようなポジションにいるとしても、この「二刀流」の視点を持って日々の業務に取り組めば、財務部長というゴールに一歩ずつ近づいていくことができるでしょう。

新興上場企業の財務部長の キャリアパスの展望

新興上場企業の財務部長として経験を積むことで、ビジネスパーソンとしての価値を大きく高める多様なスキルが身につきます。これらのスキルは、将来どのようなキャリアを選択するにしても、強力な武器となることでしょう。

まず、財務・会計の専門知識が格段に深まります。上場企業の財務責任者として、会計基準や開示規制への対応、監査法人とのやり取りなど、高度な専門性が要求される業務に日々取り組むことになります。例えば、収益認識や資産評価といった会計上の複雑な判断に関わることで、会計ルールを知っているだけでなく、それをビジネスの状況に適切に適用する実践的な知恵が養われます。

しかし、財務部長の価値は専門知識だけにとどまりません。むしろ、財務の視点から「経営全体を俯瞰する力」こそが最も重要なスキルとなります。予算策定・管理のプロセスを通じて各部門の活動を評価し、限られた経営資源を最適に配分する判断力は、経営者として不可欠な能力です。「この事業にはどれだけ投資すべきか」「この案件のリスクとリターンは適切か」—こうした判断を繰り返すことで、経営者としての思考法が自然と身についていきます。

また、上場企業特有のスキルとしては、資本市場とのコミュニケーション能力が挙げられます。IRミーティングや決算説明会で投資家やアナリストに対して企業の財務状況や成長戦略を説明する経験は、プレゼンテーション能力を飛躍的に向上させます。さらに、厳しい質問にも動じず論理的に回答する訓練は、あらゆるビジネスシーンで役立つコミュニケーション力を育みます。

リーダーシップも重要なスキルです。財務部門のメンバーを指揮するだけでなく、全社的な予算管理や投資判断のプロセスをリードするなかで、部門を超えた影響力を発揮する経験ができます。特に「数字を通じた説得力」は、財務部長ならではの強みとなるでしょう。感情や直感ではなく、データと論理に基づいた意思決定を促進することで、組織全体の経営の質を高める役割を担います。

こうしたスキルを備えた財務部長のキャリア展望は非常に広がりがあります。以下のような可能性が考えられます。

  • CFO(最高財務責任者)への昇進

CFOになれば、取締役会のメンバーとして経営の意思決定により深く関わることになります。また、財務の枠を超えて、COO(最高執行責任者)やCEO(最高経営責任者)という道も十分に視野に入ってきます。実際、多くの経営者が財務部門出身であるのは、財務の視点が経営全体を俯瞰するのに適しているからです。

  • 複数の企業で財務部長を経験

M&A等の財務戦略に特化したスペシャリストとしての道も開けます。豊富な実務経験を持つ財務のプロフェッショナルは、コンサルティングファームや投資銀行、プライベートエクイティファンドなどでも重宝される存在です。

  • 自ら起業する

財務部長として培った経営感覚と専門知識は、起業家としての成功確率を高める貴重な資産となるでしょう。

まとめ

役割と責任

  • 新興上場企業の財務部長は、資金調達や投資家対応、成長戦略の財務的裏付けなど、その業務は多岐にわたり、企業の未来を左右する重要な意思決定に関わる
  • 企業の「成長エンジン」を支える重要な存在で、企業の成長戦略を財務面からリードする戦略家としての役割を担う

求められるマインドやスキル

  • 「守りの番人」という伝統的な財務部長像を超えて、企業価値創造の積極的なパートナーとして自らを位置づける意識改革
  • 数字の正確性を確保しつつも、その先にある企業の成長と価値創造にコミットする本質的なマインドセット
  • テクノロジースキルと戦略的財務管理スキルを組み合わせてデータドリブンな投資判断を導く、あるいはESG対応スキルと投資家コミュニケーションスキルを融合させて長期的な企業価値を効果的に伝える、といった統合的アプローチ

重要な職務

  • 資本・資金調達戦略の立案と実行
  • 経営戦略を支える財務・管理会計基盤の構築
  • 上場企業としてのガバナンス・開示体制の強化

キャリアパス

  • 財務・経理担当者⇒財務・経理リーダー⇒財務部マネージャー⇒財務部長
  • 会計事務所や監査法人、コンサルティングファームや投資銀行などからのキャリアチェンジ
  • CFOへの昇進やCOOやCEOへのキャリアアップ、M&A等の財務戦略に特化したスペシャリストへの転身などの多様なキャリアパス