経理・財務・会計ファイナンス人材のためのキャリア名鑑

会計人材のキャリア名鑑

新興上場企業のCFO

「IPO後の事業成長と企業価値向上を推進する、「攻め」の財務責任者」

未来を切り拓く財務のリーダーシップ

数字を武器に経営の中枢で活躍する

IPO後の成長戦略を描き、企業価値を最大化する司令塔

主な業務内容

  • 財務戦略の立案と実行
  • 資金調達と資本政策の決定
  • 予算管理・経営分析と経営陣への情報提供
  • IR活動とステークホルダーとの関係構築

想定年収

1,500万円~6,000万円
※業績や評価によって変動

想定年齢

30歳~45歳

新興上場企業のCFOは こんな仕事

新興上場企業のCFO(最高財務責任者)は、企業の「お金の流れ」を最適化し、成長のエンジンを加速させる重要な役割を担っています。「財務の責任者」という枠を超え、CEOの右腕として経営判断に深く関わり、企業価値の最大化に直接貢献するポジションです。急成長するスタートアップから上場を果たした企業において、CFOは資金調達の指揮、M&A戦略の策定など、企業の命運を左右する局面で中心的な存在となります。高度な専門知識と戦略的思考を武器に、数字の世界から企業の未来を創造するこの職種は、やりがいと社会的影響力、そして相応の報酬が見込める、挑戦しがいのあるキャリアです。

新興上場企業のCFOは、企業の財務を管理するだけでなく、成長戦略の中核を担う経営幹部です。朝は経営会議でキャッシュフロー状況を報告し、午後には投資家との面談、夕方には新規事業の収益モデル検討会議に参加する——こうした多岐にわたる業務が日常的に展開されます。

CFOの中心的な役割の一つが「資金調達」です。急成長フェーズにある企業にとって、タイミングよく必要な資金を確保することは生命線。銀行融資の交渉、ベンチャーキャピタルからの追加調達、さらには社債発行の検討まで、企業の成長ステージに合わせた最適な資金調達手段を選択・実行します。特に為替変動が激しい国際情勢においては、為替予約を活用した為替リスクのヘッジや、変動金利と固定金利のバランスを考慮した借入戦略の立案など、高度なリスク管理も求められます。

また、IR(投資家向け広報)活動の指揮も重要な仕事です。四半期ごとの決算発表では、業績の数字を報告するだけでなく、その背景にある事業戦略や将来の成長シナリオをストーリーとして語り、投資家からの信頼を獲得します。特に新興企業のCFOは、まだ市場での認知度が低い企業の価値を効果的に伝えるコミュニケーターとしての役割も担うのです。

経営陣への情報提供も欠かせません。日々収集される膨大な財務データを分析し、「この事業部門の利益率が低下している」「あの新サービスの顧客獲得コストが想定を超えている」といった課題を早期に発見し、CEOや事業責任者に対して、数字に基づいた冷静な判断材料を提供します。

さらに、企業が成長するにつれて発生する税務や法務の複雑な問題にも対応し、国際展開する企業であれば、各国の税制や会計基準の違いを踏まえたグローバルな財務戦略の構築も任されます。

通常の業務に加え、M&A(合併・買収)の機会が生じれば、対象企業の財務デューデリジェンスの指揮、買収価格の評価、統合後のシナジー効果の試算など、極めて高度な判断を迅速に行わなければなりません。この判断一つで、企業の未来が大きく変わる可能性があるのです。

新興上場企業のCFOは、日々数字と向き合いながらも、その先にある「企業価値の最大化」という大きな目標に向けて、創造性と戦略性を発揮する職種です。財務のプロフェッショナルとしての専門性と、経営者としての広い視野を兼ね備え、企業の成長を加速させる重要なポジションなのです。

新興上場企業のCFOという ポジションの魅力

新興上場企業のCFOという職に挑戦することには、他の職種にはない特別な魅力とやりがいがあります。その最大の理由は「企業の成長ストーリーの中心で活躍できる」ことでしょう。特に急成長期にある企業では、CFOの一つの判断や施策が企業全体の方向性を大きく左右することがあります。たとえば、思い切った研究開発投資の決断や戦略的なM&Aの実行など、CFOの視点から提案した戦略が企業価値を何倍にも高める可能性を秘めています。数字を通じて企業の未来を創造していく、この醍醐味は他の職種では味わえないものです。

また、新興上場企業のCFOは「経営の最前線で総合的な経験を積める」点も魅力です。財務や会計の専門知識はもちろん、経営戦略、組織マネジメント、法務、IRなど、ビジネスのあらゆる側面に関わる機会があります。朝は投資銀行とのミーティングで資金調達について議論し、昼には営業チームと新サービスの収益モデルを検討、夕方には人事部門と役員報酬制度の設計を行う——こうした多様な経験が、キャリアに厚みと幅を与えてくれるでしょう。

さらに、「社会的インパクトの大きさ」も見逃せない魅力です。新興企業が革新的なサービスや技術で社会課題を解決しようとするとき、その原動力となる資金と経営資源の配分を担うのがCFOです。例えば、環境技術や医療イノベーションに取り組む企業のCFOであれば、その企業の成長を財務面から支えることで、社会全体の発展に貢献できます。数字の向こう側にある社会的価値の創出に関われることは、大きなやりがいとなるでしょう。

新興上場企業のCFOは、「プロフェッショナルとしての市場価値の向上」も期待できます。IPO(新規株式公開)の経験やM&Aの実績は、財務のプロフェッショナルとして非常に価値の高いキャリア資産となります。これらの経験は次のキャリアステップにおいても大きな強みとなり、より規模の大きな企業のCFOや、将来的には経営コンサルタントや投資家など、様々な選択肢を広げることができます。

そして忘れてはならないのが「適切な評価と報酬」です。新興上場企業のCFOは、企業の成長に直接貢献する役割であるため、基本報酬だけでなく、業績連動型のボーナスやストックオプションなど、企業価値向上に連動した報酬体系が整備されていることが一般的です。自らの努力と判断が企業の成長に結びつき、それが適切に評価される環境は、プロフェッショナルとして大きなモチベーションとなるでしょう。

新興上場企業のCFOという職は、財務のエキスパートであることを超え、企業の成長と進化の中心で創造的な役割を果たすことができる、挑戦しがいのあるキャリアパスなのです。数字を通して企業の未来を描き、その実現に向けて経営チームと共に歩む旅は、まさに「創造と挑戦の連続」と言えるでしょう。

新興上場企業のCFOの 年間スケジュール例

新興上場企業のCFOは、財務責任者としての基本業務に加え、成長戦略の支援、投資家対応、システム構築など多岐にわたる役割を担っています。以下に、3月決算の新興上場企業を例に、CFOの年間スケジュール例を月別に詳しく解説します。

4月:新年度スタート・決算準備

主要業務

  • 前期決算の最終調整と監査対応
  • 新年度予算の最終化と社内展開
  • 四半期決算開示に向けた準備
  • 内部統制評価のスケジュール確認

具体的なアクション

  • 監査法人との決算打ち合わせ、論点協議
  • 執行役員会での新年度予算説明
  • 決算短信・有価証券報告書の原稿確認
  • 年間のIRスケジュール確定

5月:株主総会準備・決算発表

主要業務

  • 決算短信の開示(決算日から約45日以内)
  • 株主総会の準備(招集通知作成など)
  • アナリスト・機関投資家向け決算説明会
  • 次世代経営基盤の検討・立案

具体的なアクション

  • 決算発表直後の投資家IRミーティング
  • 株主総会シナリオ・想定問答集の作成
  • 有価証券報告書の最終レビュー
  • 半期での予算見直しに向けた経営会議

6月:株主総会・有報提出

主要業務

  • 定時株主総会の開催
  • 有価証券報告書の提出(決算日から90日以内)
  • 内部統制報告書の提出
  • 第1四半期の月次モニタリング

具体的なアクション

  • 株主総会運営(CFOとして業績・財務状況説明)
  • 監査役会・取締役会の年間スケジュール確定
  • 配当金支払い手続きの監督
  • 第1四半期の予実管理強化

7月:第1四半期決算

主要業務

  • 第1四半期決算の取りまとめ
  • 半期予算見直しの主導
  • 資金調達・設備投資計画の再確認

具体的なアクション

  • 四半期決算プロセスの効率化推進
  • 各事業部門とのビジネスレビュー会議
  • 投資家・アナリストとの個別面談(5-8件)
  • 金融機関との関係強化ミーティング

8月:中期経営計画の見直し

主要業務

  • 中期経営計画の進捗評価
  • 決算期中間点での予算達成見込み精査
  • システム投資・IT戦略の見直し
  • 経営陣への財務分析レポート提出

具体的なアクション

  • 中期経営計画の修正案策定ワークショップ主導
  • 財務部門の人材育成計画の実行
  • 競合他社の決算分析レポート作成
  • コスト削減プロジェクトの進捗確認

9月:経営課題への取り組み

主要業務

  • 上半期クロージングの準備
  • ガバナンス体制の見直し
  • 税務戦略の再検討
  • リスク管理体制の強化

具体的なアクション

  • リスクマネジメント委員会の開催
  • グループ会社管理体制の強化策検討
  • 下半期の資金繰り計画の精緻化
  • サステナビリティ情報の開示準備

10月:第2四半期決算

主要業務

  • 第2四半期決算の取りまとめ
  • 中間決算説明会の実施
  • 業績予想の修正判断
  • 次年度予算策定プロセスの開始

具体的なアクション

  • 上半期決算説明資料の作成
  • アナリスト・機関投資家向け説明会実施
  • 下半期の重点施策再設定
  • 予算策定方針の経営会議への提案

11月:次年度予算策定

主要業務

  • 次年度予算編成の主導
  • 投資計画の策定・レビュー
  • 組織・人事計画への財務的インプット
  • 税務戦略の年末調整

具体的なアクション

  • 各部門との予算ヒアリング(1-2週間)
  • 来期の売上・利益計画の精査
  • 投資案件の優先順位付け
  • 年末の資金需要への対応準備

12月:年末調整・年度末準備

主要業務

  • 年末の会計処理・調整
  • 次年度予算の経営会議・取締役会への上程
  • 内部統制の年次評価の実施
  • 年末資金管理の徹底

具体的なアクション

  • 年末調整・決算準備のための社内研修実施
  • 予算委員会での最終調整
  • 年末の棚卸監督
  • 年末の投資家対応(必要に応じて)

1月:第3四半期決算・次年度準備

主要業務

  • 第3四半期決算の取りまとめ
  • 次年度経営計画の最終承認
  • 資金調達計画の実行準備

具体的なアクション

  • 第3四半期決算の監査対応
  • 最終四半期の業績達成施策の強化
  • 新年度組織体制での財務管理プロセス設計
  • 営業部門との連携強化ミーティング

2月:年度末に向けた最終調整

主要業務

  • 通期業績見通しの最終確認
  • 年度末決算に向けた準備
  • 監査法人との事前協議
  • 株主還元策の検討

具体的なアクション

  • 部門別の予算達成状況の最終レビュー
  • 決算処理における重要論点の整理
  • 配当方針の取締役会への提案
  • 次年度のIR活動計画の策定

3月:年度末クロージング

主要業務

  • 年度末の会計処理の統括
  • 期末監査への対応準備
  • 翌期に向けた予算の最終調整
  • 年度内の投資案件の完了確認

具体的なアクション

  • 各部門責任者との期末調整会議
  • 決算スケジュールの全社周知
  • 内部統制の最終評価
  • 新年度のKPI設定の最終確認

新興上場企業のCFOは、「守り」の財務責任者だけではなく、成長戦略を財務面から支える「攻め」の役割も担う必要があります。年間を通じて、短期的な業績管理と中長期的な成長基盤構築のバランスを取りながら、企業価値の最大化に貢献することが期待されています。

新興上場企業のCFOの 重要任務

新興上場企業のCFOは、成長段階にある企業の財務を統括する重要な役割を担っています。急成長と適切なガバナンスのバランスを取りながら企業価値を高めるために、特に重要となる3つの任務を詳しく解説します。

 

1.調達戦略の立案と実行

新興上場企業にとって、成長資金の確保は生命線です。限られた経営資源を最大限に活用し、成長機会を逃さないための資金調達は、CFOの最も重要な任務の一つです。資金調達の成否や調達条件は、企業の成長スピードと将来の企業価値に直結します。

具体的な任務内容

  • 最適な資金調達手段の選択と実行
    • 増資(公募・第三者割当・新株予約権等)
    • 負債調達(銀行借入・社債・コミットメントライン等)
    • ハイブリッドファイナンス(CB・優先株等)
    • 成長段階に応じた調達手段の組み合わせ設計
  • 資本コストを意識した資本構成の最適化
    • 自己資本比率と財務レバレッジのバランス管理
    • 投資家期待に応えるROE/ROICの実現
    • 格付け取得・維持に向けた財務戦略
  • 投資家・金融機関との関係構築
    • 主要株主・機関投資家との継続的な対話
    • メインバンクを含む金融機関とのパートナーシップ強化
    • 成長ストーリーの説得力ある発信

実践のポイント

  • 自社の成長フェーズと資金需要を3〜5年先まで見据えた調達計画を立案する
  • 株式の希薄化と財務レバレッジのバランスを常に意識する
  • 資金調達を「お金集め」ではなく「企業価値向上の機会」と捉える
  • 投資家・金融機関との信頼関係を日頃から構築しておく

2.経営戦略を支える財務・業績管理体制の構築

新興上場企業は急速な成長に伴い、事業の複雑性が増していきます。この状況で適切な意思決定を支える財務・業績管理体制がなければ、成長のかじ取りを誤る可能性があります。CFOには、「見える化」された正確なデータに基づく経営判断を可能にする体制構築が求められます。

具体的な任務内容

  • 経営の羅針盤となる管理会計システムの構築
    • 事業特性に合わせたKPI設計とモニタリング体制
    • 事業部門・プロダクト別の収益性可視化
    • 予算・中期計画策定プロセスの確立と実効性向上
    • 投資判断を支える財務モデリングと投資基準の整備
    • 各事業部門の業績把握、分析による改善策の提案による事業推進
  • データドリブン経営を支えるシステム基盤整備
    • 成長に耐えうるERPシステムの選定・導入
    • BIツールを活用した経営ダッシュボードの構築
    • リアルタイムでの経営状況把握を可能にするDX推進
  • 経営判断の質を高める分析と提言
    • シナリオ分析に基づく戦略オプションの提示
    • M&A・事業投資案件の財務デューデリジェンスと価値評価
    • 競合ベンチマーキングと業界トレンド分析

実践のポイント

  • 業界特性や自社の成長戦略に合ったKPIを設定する
  • グロース市場特有の知識と経験を生かした戦略構築
  • 「完璧」を目指すよりも「使える」システムを段階的に構築する
  • データ分析は「過去の説明」ではなく「将来の意思決定」を支援するものと位置づける
  • 経営陣と事業部門が本当に必要とする情報を見極める

3.コーポレートガバナンスとリスク管理体制の強化

上場企業として、信頼性の高い財務報告と適切なリスク管理は必須条件です。特に新興企業は、急成長に伴う内部統制の脆弱性や想定外のリスク発生により、成長の芽を摘まれる危険性があります。CFOには、成長スピードを維持しながらも、企業としての信頼性と持続可能性を確保するバランス感覚が求められます。

具体的な任務内容

  • 信頼性の高い財務報告体制の確立
    • 内部統制システムの設計・運用・評価
    • 決算早期化と開示品質の向上
    • 監査法人との建設的な関係構築
    • 会計・開示に関するコンプライアンス強化
  • 先を見据えたリスクマネジメント
    • 財務リスク(為替・金利・流動性等)の特定と管理
    • 事業リスク評価と対応策の立案
    • 危機発生時の資金対応計画(コンティンジェンシープラン)の策定
    • 役員賠償責任保険等の適切なリスク移転策の実施
  • サステナブルな成長を支える体制構築
    • 財務・経理組織の人材育成と体制強化
    • 役員報酬・インセンティブ制度の設計
    • ESG・サステナビリティ戦略の財務的側面の推進
    • 株主・投資家との建設的な対話体制の整備

実践のポイント

  • 形式的な統制ではなく、リスクベースで実効性のある内部統制を構築する
  • コンプライアンスを「成長の敵」ではなく「持続的成長の基盤」と位置づける
  • 将来の組織規模を見据えた先行的な体制整備を計画的に進める
  • 監査法人を「監視者」ではなく「パートナー」として協働関係を構築する

新興上場企業のCFOは、「成長ドライバー」「経営の羅針盤」「リスクガーディアン」という3つの重要な役割を同時に果たす必要があります。これらのバランスを取りながら、以下の点を常に意識することが重要です。

  • 短期と長期のバランス
    四半期ごとの業績達成と中長期的な企業価値向上を両立させる視点
  • 攻めと守りのバランス
    積極的な成長投資と堅固な財務基盤維持の両立
  • スピードと質のバランス
    意思決定の迅速さと情報の正確性・網羅性の両立

新興上場企業のCFOは、これらの重要任務を通じて、企業の持続的成長と企業価値最大化に貢献することが期待されています。専門的知見だけでなく、経営者としての広い視野と決断力が求められるポジションと言えるでしょう。

新興上場企業のCFOの 報酬水準

新興上場企業、特にグロース市場に上場している企業のCFOの報酬水準について、最新の調査データと市場動向を基に詳細に解説します。

報酬水準の概要

グロース市場上場企業の役員報酬

日本総合研究所の調査によると、グロース市場時価総額上位100社における社内取締役(CFOを含む)の年間1人当たり平均総報酬は以下の通りです。

  • 平均総報酬額: 30.3百万円(約3,030万円)
  • 内訳:
    • 基本報酬: 24.5百万円(約2,450万円)
    • 賞与: 1.4百万円(約140万円)
    • 株式報酬: 4.2百万円(約420万円)
    • 退職慰労金: 0.2百万円(約20万円)

CFO特有の報酬水準

CFO固有の報酬に焦点を当てると、一般的に以下のような特徴があります。

  • ポジション別の傾向
    • 代表取締役に次いで、CFOは多くの企業で2番目に高い報酬水準となることが多い
    • 特に財務・経理のプロフェッショナルとしての市場価値が高いCFOは、専門性に対するプレミアムが付くケースがある
  • 企業規模による差異
    • 時価総額10億円〜50億円クラス: 年間1,500万円〜2,500万円程度
    • 時価総額50億円〜200億円クラス: 年間2,500万円〜4,000万円程度
    • 時価総額200億円以上: 年間4,000万円以上となるケースも
  • 成長フェーズによる違い
    • 上場直後: 比較的抑制された固定報酬中心の報酬体系が多い
    • 成長軌道確立後: 変動報酬(業績連動賞与・株式報酬)の割合が増加

報酬構造の特徴

報酬ミックスの傾向

グロース市場企業の役員報酬構成比率に関する特徴は以下の通りです。

  • 採用率
    • 基本報酬: 100.0%(全企業が導入)
    • 賞与: 21.0%(5社に1社が導入)
    • 株式報酬: 39.0%(約4割の企業が導入)
  • 変化の傾向
    • 2018年度と比較して、賞与導入が9ポイント増加
    • 株式報酬導入が25ポイント大幅増加
    • 基本報酬一辺倒から、多様なインセンティブ報酬への移行が進んでいる

株式報酬の種類

株式報酬の種類別採用状況は以下の通りです。

  • リストリクテッド・ストック(RS): 57.1%(最も普及)
  • ストック・オプション(SO): 27.0%
  • パフォーマンス・シェア(PS): 6.3%
  • パフォーマンス・シェア・ユニット(PSU): 6.3%
  • 信託型: 3.2%

特徴的な点として、2018年からの5年間でストック・オプションが大幅に減少(43.8ポイント減)し、代わりにリストリクテッド・ストックが増加(32.1ポイント増)しています。これは権利確定条件の違いによる安定性の重視と考えられます。

他のベンチマークとの比較

社員給与との比較(ペイレシオ)

グロース市場企業の社内取締役のペイレシオ(役員報酬÷社員平均年間給与)は中央値で3.9倍です。これはTOPIX500企業の8.9倍と比較すると低い水準にあります。グロース市場企業では以下のような特徴をもちます。

  • 規模の大きい企業と比べて、経営陣と従業員の報酬格差が小さい
  • 起業家精神を重視する文化や、成長途上の企業特性を反映

利益に対する比率

グロース市場企業の労働分配率(当期純利益に対する役員報酬総額の割合)は中央値で8.3%です。TOPIX500企業の1.2%と比較すると非常に高い水準にあります。グロース市場企業では以下のような特徴をもちます。

  • 利益規模がまだ相対的に小さい成長企業の特性
  • 人材をキーとする成長企業では、経営人材への投資として報酬を位置づける傾向

最近のトレンドと変化

報酬体系の変化

  • 変動報酬割合の増加
    • 業績連動型報酬の導入が急速に拡大
    • 日経225企業では変動報酬(STI+LTI)が50%を超える構成比に
  • サステナビリティ関連指標の採用
    • ESG指標を報酬決定に取り入れる企業が増加
    • 特にE(環境)指標の採用が拡大中
  • クローバック条項の導入
    • 不正行為や業績修正時に報酬を返還させる条項の導入が増加
    • 特に中長期インセンティブ(LTI)では41.8%の企業が導入

コロナ後の変化

COVID-19パンデミック以降、CFOの役割と報酬にも変化が見られます

  • 危機管理能力の重視
    • 不確実性の高い経営環境でのリスク管理能力を評価
    • 資金繰り手腕を評価した報酬設計の増加
  • デジタル対応力
    • リモートワーク対応やDX推進能力へのプレミアム
    • テクノロジー活用による財務機能強化の実績を評価

 

新興上場企業、特にグロース市場企業のCFOの報酬水準は、以下のような特徴があると整理できます。

  • 平均水準
    • 年間3,000万円前後が一般的な平均値
    • ただし企業規模や業績、個人の経験により1,500万円〜6,000万円以上まで幅広い
  • 報酬構成
    • 基本報酬が中心(全体の約8割)だが、株式報酬導入が急速に進行中
    • 賞与導入は限定的(約2割の企業)
  • 特徴的傾向
    • 従業員との報酬格差が大企業より小さい(3.9倍)
    • 利益に対する役員報酬の比率が高い(8.3%)
    • リストリクテッド・ストックへのシフトが進行中

CFOを目指す方や、CFOの採用・報酬設計を検討する企業にとって、これらのベンチマークは参考となるでしょう。ただし個社の状況や市場環境、個人の能力・経験によって適切な水準は大きく異なることに留意する必要があります。

新興上場企業のCFOの 代表的な会社

日本の新興上場企業、特にテクノロジー分野で急成長している企業では、財務戦略の要としてCFO(最高財務責任者)の存在が重要性を増しています。以下に、明確なCFO職を設置し、その企業特性や戦略が注目される代表的な5社をご紹介します。

1.Globee株式会社

企業特性

  • 「無料LINEスタンプ」アプリを主力としたマーケティングプラットフォーム企業
  • スマートフォン広告、アフィリエイト広告などのインターネット広告事業を展開
  • 2023年6月に東証グロース市場に上場
  • 広告テクノロジーの活用による高い成長率が特徴

CFO体制

  • 一橋大学卒業の金融機関出身CFO
  • 投資銀行業務から投資ファンドでの経験を活かした資金調達戦略
  • 同社上場準備を短期間で実現
  • 20代という若さでCFO就任

特徴  若手CFOによる迅速な上場実現と、金融知見を活かした成長資金調達

2.サイバーセキュリティクラウド株式会社

企業特性

  • クラウド型WAF(Webアプリケーションファイアウォール)「攻撃遮断くん」を提供
  • AIを活用したセキュリティ対策ソリューションを展開
  • 2020年3月に東証マザーズ(現グロース市場)に上場
  • サブスクリプションモデルによる安定収益基盤が特徴

CFO体制

  • 大学在学中に公認会計士試験合格の財務専門家
  • 監査法人でのIPO支援経験を持つCFO
  • 30代前半という若さで取締役CFOに就任
  • 高度な会計知識とセキュリティ事業の特性を理解した財務戦略を展開

特徴  セキュリティテック企業の成長を支える若手公認会計士CFOとして、急成長期の財務戦略を指揮

3.アイスタイル株式会社

企業特性

  • 「@cosme(アットコスメ)」を運営する美容系ECプラットフォーム企業
  • 口コミデータを活用したマーケティング支援やEC事業を展開
  • 2012年に東証マザーズに上場、現在はプライム市場
  • 美容業界のDXを推進するプラットフォーマーとしての地位を確立

CFO体制

  • 海外MBAホルダーのCFO
  • グローバルコンサルティングファーム出身
  • 創業期からの参画者が財務責任者へ
  • CIO(最高情報責任者)からCFOへと役割を発展させた特徴的なキャリアパス

特徴  創業期からの参画者がCFOとしてD2C(Direct to Consumer)ビジネスモデルの財務戦略を構築

4.レアジョブ株式会社

企業特性

  • オンライン英会話サービスを提供するEdTech企業
  • フィリピン人講師とのマンツーマンレッスンを低価格で提供
  • 2014年に東証マザーズ(現グロース市場)に上場
  • 「英語が使える日本人を増やす」というミッションを掲げる教育企業

CFO体制

  • 大手電機メーカー系列企業から監査法人を経験
  • 20代でベンチャー企業のCFOとしてIPO経験あり
  • 監査およびFAS(Financial Advisory Service)経験を持つ財務専門家
  • 複数のIPO経験を持つレアキャリアのCFO

特徴  複数のIPO経験を持つ希少なCFOとして、EdTech業界の成長を促進

5.ギークス株式会社

企業特性

  • ITフリーランス支援事業「Geechs Job」を中核に展開
  • 2015年に東証マザーズ(現グロース市場)に上場
  • ITエンジニアのキャリア支援とクライアント企業のIT人材確保をマッチング
  • テック人材プラットフォームとしての地位を確立

CFO体制

  • ベンチャーキャピタル出身の財務責任者
  • 10年以上にわたる投資家としての企業支援経験
  • 別のテック企業での財務経験も持つ
  • 投資家視点と経営者視点を併せ持つ財務戦略を展開

特徴  ベンチャーキャピタル出身という珍しいバックグラウンドを持つCFOとして、投資家との対話に強み

共通する特徴とトレンド

これら5社のCFO体制と企業特性を見ると、いくつかの共通点が浮かび上がります。

  • 若手の登用: 20代後半〜30代前半でCFOに就任するケースが増加。特に証券・投資銀行出身者は若くしてCFO就任する傾向。
  • 専門性の重視: 公認会計士資格保持者やMBA取得者など、専門的知識を持つ人材の登用。
  • 多様なバックグラウンド: 監査法人、投資銀行、コンサルティングファーム、ベンチャーキャピタルなど、様々な経験を持つ人材を起用。
  • テクノロジー理解: テクノロジーを活用したビジネスモデルにおいて、CFOもデジタル理解が求められる。
  • 成長戦略の推進役: 「数字の番人」ではなく、成長戦略を財務面から推進する役割を担う。

これらの企業では、CFOが伝統的な財務管理の枠を超え、経営戦略の立案・実行に深く関与する戦略的パートナーとしての役割を担っています。特に新興企業においては、資金調達と成長投資のバランスを取りながら企業価値向上に貢献する存在として、その重要性はますます高まっています。

新興上場企業のCFOに 向いている人は、どんな人?

 

■求められるマインド

新興上場企業、特にスタートアップやテック企業におけるCFO(最高財務責任者)の役割は、「数字の管理者」の域を超え、ビジョナリーで戦略的な企業成長のパートナーへと進化しています。そうした企業でCFOとして活躍するためには、特有のマインドセットが不可欠です。ここでは、新興上場企業のCFOに求められる核心的なマインドを探ります。

1.成長志向のリスクテイカー

従来のCFO像:リスク回避、保守的な財務管理

新興企業CFOに必要なマインド

  • 計算されたリスクテイク:過度に保守的ではなく、成長に必要な投資判断を果敢に行う勇気
  • 積極的な資金調達戦略:成長に必要な資金を適切なタイミングで調達する先見性
  • ゼロベース思考:「前例がないから」で判断せず、最適解を柔軟に模索する姿勢

2.ビジョナリーとプラグマティズムの両立

従来のCFO像:短期的な数値管理、コスト削減志向

新興企業CFOに必要なマインド

  • 長期ビジョンへのコミットメント:創業者のビジョンを深く理解し、財務戦略に変換する力
  • 現実的な実行力:理想と現実のギャップを埋める具体的なロードマップを描ける思考
  • 全体最適の視点:部分最適ではなく、企業価値最大化の観点から意思決定できる俯瞰力

3.学習する組織の体現者

従来のCFO像:既存知識・経験の活用、専門分野への特化

新興企業CFOに必要なマインド

  • 継続的な学習意欲:テクノロジー、業界動向、新たな財務手法など常に学び続ける姿勢
  • 失敗からの学習:トライアル&エラーを恐れず、失敗から素早く学ぶ回復力
  • 知的好奇心:財務の枠を超えて、事業やテクノロジーへの深い理解を追求する熱意

4.クリエイティブな問題解決者

従来のCFO像:標準的な財務ソリューションの適用、定型的アプローチ

新興企業CFOに必要なマインド

  • 創造的思考:前例のない課題に対して独自のソリューションを生み出す発想力
  • イノベーション志向:財務プロセスそのものの革新も厭わない挑戦精神
  • アンビバレンス耐性:矛盾した要求や不確実性を受け入れ、その中で最善策を見出す力

5.ストーリーテラーとコミュニケーター

従来のCFO像:数字の報告者、内部向け情報提供

新興企業CFOに必要なマインド

  • 数字の背景にあるストーリー化能力:財務データを意味ある物語に変換できる説明力
  • 多様なステークホルダーへの適応力:投資家、従業員、取締役、顧客など、相手に合わせた伝え方ができる柔軟性
  • 透明性へのコミットメント:良い知らせも悪い知らせも、適切なタイミングで共有する誠実さ

6.テクノロジーエンブレイサー

従来のCFO像:伝統的なツールの活用、アナログ思考

新興企業CFOに必要なマインド

  • テクノロジー活用への前向きさ:最新のフィンテック、自動化、データ分析ツールを積極的に取り入れる姿勢
  • デジタルトランスフォーメーションの推進者:財務機能のDX化を率先して進めるリーダーシップ
  • データドリブン思考:感覚や経験だけでなく、データに基づいた意思決定を重視する客観性

7.アジャイルな適応者

従来のCFO像:年次計画重視、変化への抵抗

新興企業CFOに必要なマインド

  • 高速PDCAサイクル:長期計画だけでなく、短期的な仮説検証と軌道修正を繰り返す俊敏さ
  • 柔軟な優先順位付け:市場状況の変化に応じて、投資の優先順位を迅速に変更できる決断力
  • レジリエンス:予期せぬ危機や変化にも動じない精神的強靭さと回復力

8.チェンジエージェントとしての自覚

従来のCFO像:現状維持、安定志向

新興企業CFOに必要なマインド

  • 変革推進への覚悟:時に不人気な決断も厭わない責任感
  • 組織開発への関心:財務部門に限らず、組織全体の成長に貢献する当事者意識
  • 未来思考:過去の延長線上でなく、将来のあるべき姿から逆算する思考法

9.グローバルマインドセット

従来のCFO像:国内市場・規制の専門家

新興企業CFOに必要なマインド

  • グローバルスタンダードへの意識:国際会計基準や世界の投資家から見た企業価値を常に意識する視座
  • 多様性の尊重:異なる文化的背景を持つステークホルダーとの協働を重視する包括性
  • グローバル市場を見据えた戦略:初期段階から世界市場を視野に入れた財務戦略を構築する先見性

10.ミッションとパーパスへの共感

従来のCFO像:利益最大化の番人

新興企業CFOに必要なマインド

  • 企業のミッションへの深い共感:数字の先にある企業の存在意義や社会的インパクトを理解する価値観
  • サステナビリティ志向:短期的な収益だけでなく、長期的なサステナビリティを重視する倫理観
  • ステークホルダー資本主義の実践:株主だけでなく、あらゆるステークホルダーへの価値創造を考える広い視野

新興上場企業のCFOに求められるマインドは、従来の「守りの番人」から「攻めと守りのバランサー」へと大きく進化しています。不確実性の高い環境で企業の成長を財務面から支える存在として、計算されたリスクテイク、ビジョンと現実のバランス、継続的な学習、創造的問題解決、効果的なコミュニケーション、テクノロジーの活用、アジャイルな適応力、変革推進力、グローバル視点、そして企業のミッションへの共感が不可欠です。

これからの時代、真に価値あるCFOとは、財務の専門性を武器に、企業の未来を共に創造するパートナーとなる人材なのです。

「未来のCFOは、企業の数字を管理する人ではなく、数字を通じて企業の未来を描く人である」

■必要なスキル

新興上場企業のCFOには、伝統的な財務スキルに加えて、成長段階の企業特有の課題に対応するための多様なスキルが求められます。以下に主要なスキルを整理します。

1.財務・会計スキル

  • 上場企業としての法定開示と投資家向け情報提供の両立
  • キャッシュフロー管理、収益性分析、投資リターン分析
  • 急成長期における柔軟かつ精度の高い予算管理
  • IPO後の追加調達戦略の立案と実行
  • 成長戦略としての買収・合併の財務面での評価と統合計画

2.コンプライアンスと内部統制

  • J-SOXなど上場企業としての内部統制要件への対応
  • 適切な情報開示、取締役会運営支援
  • 財務リスク、オペレーショナルリスクの特定と対策
  • 内部監査・外部監査への効率的な対応

3.戦略的思考と経営参画

  • 財務視点からの事業計画策定と評価
  • R&D、設備投資、人材投資などの投資判断
  • 企業価値向上に向けた適切な指標設定と追跡

4.コミュニケーション能力

  • 機関投資家・アナリスト・個人投資家とのコミュニケーション
  • CEOや事業部門との建設的対話
  • 財務部門の人材育成と組織構築
  • 企業の成長ストーリーを財務数字で説得力ある形で伝える能力

5.テクノロジー理解

  • ERP、経営管理システム導入と活用
  • 経営データの分析と意思決定への活用
  • 財務業務の効率化とデジタルトランスフォーメーション

6.業界特有の知識

  • 競合分析、業界特有の財務指標の把握
  • 業界特有の法規制や会計基準への対応

新興上場企業のCFOは、「守りの番人」ではなく、成長戦略を財務面から支える「攻めのCFO」としての役割が強く求められます。特に急成長フェーズでは、事業機会を最大化しながらもコンプライアンスを確保するバランス感覚が重要となります。

新興上場企業のCFOまでの 道のり

新興上場企業のCFOという職位に至るまでのキャリアパスは一つではありません。様々な経験や専門性を経て、このポジションに辿り着く複数の道筋があります。ここでは、CFOに至る主要なキャリアルートを逆算して紹介します。

まず、新興上場企業のCFOの直前には、通常「財務部長」や「経理部長」というポジションを経験している場合が多いでしょう。これらの役職では、部門全体のマネジメントを担当し、実務面でのリーダーシップを発揮します。財務戦略の実行や予算編成、資金管理、経営層への報告資料作成など、CFOの右腕として組織をまとめ上げる経験を積みます。あるいは大手企業の「財務マネージャー」や「経理マネージャー」から、より権限と責任の大きい新興企業のCFOにキャリアアップするケースもあります。

さらにその前段階としては、「財務課長」「経理課長」「経営企画課長」などのミドルマネジメントのポジションがあります。これらの役職では、予算策定や資金計画の立案、経営分析など、財務の専門分野で深い知識と経験を積みます。同時に少人数のチームマネジメントを通じて、リーダーシップスキルも磨きます。

また、監査法人や会計事務所でのキャリアから、企業のCFOに転身するルートも一般的です。監査法人で「シニアマネージャー」や「パートナー」として様々な企業の監査に携わった経験は、財務・会計の専門性において大きな強みとなります。特にIPOを控えた企業では、監査対応や内部統制の整備に精通した人材が求められるため、この経験は非常に価値があります。

投資銀行の「インベストメントバンカー」やコンサルティングファームの「フィナンシャルコンサルタント」から転身するケースもあります。これらの職種では、M&A案件や企業再生、資金調達など、企業の重要局面に深く関わる経験を積みます。財務モデリングや企業価値評価のスキルは、CFOとして活躍する上で大きな武器となるでしょう。

若手時代に目指すべきポジションとしては、事業会社の「財務アナリスト」「経理スタッフ」や、コンサルティングファームの「アナリスト」、監査法人の「スタッフ」などが挙げられます。これらの職種では、財務諸表の作成・分析、予算管理、資金繰り、税務申告など、財務・会計の基礎的なスキルを身につけることができます。

ただし、CFOに求められるのは財務・会計のスキルだけではありません。事業部門での経験や営業経験を持ち、その後財務部門に異動してCFOに至るケースも少なくありません。事業の現場を知ることで、数字の背後にあるビジネスの実態を深く理解できるからです。

教育バックグラウンドとしては、商学部や経済学部、経営学部などの経済・経営系の学部卒業者が多いですが、近年では理系出身者もデータ分析能力を買われてCFOになるケースが増えています。また、中堅以上の役職では、MBAや会計修士(専門職)などの学位を取得して専門性を高める人も少なくありません。

資格面では、公認会計士(CPA)、米国公認会計士(USCPA)、税理士、中小企業診断士、証券アナリスト(CFA)などの専門資格が有利に働きます。特に公認会計士資格は、財務・会計の専門性の証明として高く評価されます。

今CFOを目指す若手が取るべきアクションとしては、まず財務・会計の基礎知識をしっかり身につけることが挙げられます。その上で、できるだけ早い段階から予算策定や資金計画などの実務に携わり、実践的なスキルを磨くことが重要です。また、英語力を高め、グローバルな財務の知識を吸収する姿勢も大切です。そして何より、「数字の専門家」ではなく、ビジネス全体を俯瞰できる視点を持つことが、将来のCFOとして成功するための鍵となるでしょう。

新興上場企業のCFOの キャリアパスの展望

新興上場企業のCFOを務めることで、ビジネスパーソンとして極めて価値の高いスキルセットが身につきます。これらのスキルは、将来どのようなキャリアを選択するにしても、強力な武器となるでしょう。

まず、財務・会計の専門スキルが飛躍的に向上します。数字を管理するだけでなく、その数字が意味するビジネスの実態を読み解き、未来を予測する力が磨かれます。例えば、財務諸表の数値からキャッシュフローの問題点を発見し、早期に手を打つ能力や、複雑な税務戦略を駆使してグループ全体の税負担を最適化する知識など、実践的な財務スキルが身につきます。

特に上場企業のCFOとして働く中で、証券取引所の規則遵守や四半期決算の開示、IRなど、上場企業特有の財務業務についても熟知できるようになります。これらの経験は、将来他の上場企業へ転職する際に大きなアドバンテージとなります。

次に、経営者としての視点とスキルが養われます。CFOはCEOの右腕として、財務部門の責任者にとどまらず、会社全体の戦略立案に深く関わります。営業、マーケティング、人事など全部門の数字を分析し、企業全体の方向性を決定する経営会議のメンバーとして、幅広い視野と決断力が鍛えられるのです。

例えば、新規事業への投資判断をする際には、市場分析、リスク評価、リターン計算など、まさに経営者としての思考が求められます。このプロセスを何度も経験することで、投資家視点と経営者視点の両方を持ち合わせた、バランスの取れた判断ができるようになります。

さらに、危機管理能力も身につきます。成長企業は常に資金繰りのプレッシャーにさらされており、予期せぬ事態への対応力が磨かれます。例えば、主要取引先の突然の倒産や、市場環境の急変などの危機に直面した際、冷静に状況を分析し、最適な対応策を素早く実行する能力は、どんな場面でも役立つ貴重なスキルです。

コミュニケーション能力も大幅に向上します。CFOは投資家、銀行、監査法人、税務当局など、様々なステークホルダーと折衝する機会が多く、相手を説得し、信頼関係を構築するスキルが培われます。特にIPOプロセスでは、証券会社やアナリストに対して企業の価値を説得力を持って伝える能力が不可欠です。

これらのスキルをベースに、CFOとしてのキャリアを積んだ後は、様々な選択肢が広がっています。より規模の大きな企業のCFOへのステップアップはもちろん、CEOへのキャリアアップも十分に視野に入ります。あるいは、複数の企業でCFOを務めるプロフェッショナルCFOとしての道や、独立してM&Aや財務アドバイザリーの専門家として活躍する可能性も考えられます。

新興上場企業のCFOという経験は、自身のキャリアにとって何物にも代えがたい財産となるでしょう。財務の専門性と経営者としての視野を兼ね備えたプロフェッショナルへの成長は、将来の選択肢を大きく広げてくれるはずです。

まとめ

役割と責任

  • 新興上場企業のCFOは、企業の「お金の流れ」を最適化し、成長のエンジンを加速させる重要な役割を担う、「財務の責任者」という枠を超え、CEOの右腕として経営判断に深く関わり、企業価値の最大化に直接貢献するポジション
  • 資金調達の指揮、M&A戦略の策定など、企業の命運を左右する局面で中心的な存在

求められるマインドやスキル

  • 「守りの番人」ではなく、成長戦略を財務面から支える「攻めのCFO」としての役割が強く求められます。特に急成長フェーズでは、事業機会を最大化しながらもコンプライアンスを確保するバランス感覚
  • 未来のCFOは、企業の数字を管理する人ではなく、数字を通じて企業の未来を描く人である

重要な職務

  • 資金調達戦略の立案と実行
  • 経営戦略を支える財務・業績管理体制の構築
  • コーポレートガバナンスとリスク管理体制の強化

キャリアパス

  • 財務アナリスト・経理スタッフ⇒財務課長・経理課長⇒財務部長・経理部長⇒CFO
  • 会計事務所や監査法人、事業会社の財務部門、MBA(経営学修士)などの教育機会の活用などからの転身
  • CEOへの昇進や大手上場企業のCFOへのキャリアアップ、独立してM&Aや財務アドバイザリーの専門家となるなど多様なキャリアパス