経理・財務・会計ファイナンス人材のためのキャリア名鑑

会計人材のキャリア名鑑

証券会社の公開引受部長

「証券会社の未来を創る、公開引受部長という挑戦者」

「投資銀行の華」と呼ばれる証券マンの最高峰

IPOという企業成長のドラマの演出家 経済の未来を切り拓く、高度な戦略性と使命感

主な業務内容

  • 新規株式公開(IPO)を目指す企業の選定・審査・引受業務の統括
  • 証券会社内の引受審査会議の運営と意思決定
  • 公開価格や売り出し株数など重要条件の決定と市場調整
  • 引受シンジケート団の組成と他社との折衝・交渉

想定年収

2,000万円~3,000万円以上
※業績や評価によって変動

想定年齢

45歳~55歳

証券会社の公開引受部長は こんな仕事

証券会社の公開引受部長は、まさに「投資銀行の華」と呼ぶにふさわしいポジションです。日本経済の未来を担う有望企業を見出し、株式市場への上場という大舞台へと導くその責任と醍醐味は、金融業界の中でも特筆すべき存在といえるでしょう。一つの判断が市場に数十億、時には数百億円の資金を呼び込み、スタートアップ企業の運命を大きく変えるこの仕事は、高度な専門性と戦略眼、そして強靭なメンタルを持った人材にのみ許された挑戦です。IPOという企業にとっての一大イベントを統括する公開引受部長は、ダイナミックな市場の動きを肌で感じながら、日本の産業構造を変革する最前線に立つことができます。

証券会社の公開引受部長の仕事は、まさに企業の「産婆役」と言えるでしょう。上場を目指す企業を市場という大海に旅立たせる、その重要な瞬間を総指揮する役割を担うのです。

公開引受部長の一日は、IPOを目指す企業との面談から始まることが少なくありません。成長性溢れるスタートアップ企業の経営者と対面し、そのビジネスモデルや将来性、財務状況について深く掘り下げていきます。経営者の目を見て「この会社は本当に上場に値するのか」「投資家にとって魅力的な銘柄となるか」を見極める鋭い洞察力が求められます。

引受審査のプロセスでは、公開引受部長としてチームを率いながら、企業の事業計画や内部統制システム、コーポレートガバナンス体制など、あらゆる角度から上場適格性を厳しくチェックします。時には経営者の夢を一時的に断念させる厳しい判断を下さなければならないこともあります。しかし、それは投資家を守り、市場の健全性を保つための重要な役割なのです。

実際のIPOプロセスが始まると、公開引受部長はオーケストラの指揮者のような役割を果たします。社内の引受審査部門、法務部門、営業部門との調整はもちろん、主幹事証券として他の証券会社とのシンジケート団を組成する交渉も行います。また、監査法人や取引所との折衝も重要な仕事です。

特に重要なのが「公開価格」の決定プロセスです。公開引受部長は、企業価値の算定や市場環境の分析、機関投資家からの需要予測など、様々な要素を考慮しながら、発行企業と投資家双方にとって最適な価格を模索します。この判断一つで、企業の調達額が大きく変わるだけでなく、上場後の株価パフォーマンスにも影響を与えるため、高度な市場感覚と経験が必要となります。

上場直前のロードショーでは、公開引受部長自らが機関投資家へのプレゼンテーションに同席し、時には経営者と共に質疑応答に応じることもあります。そして上場日を迎えるその瞬間の感動と達成感は何物にも代えがたいものです。長い間伴走してきた企業が新たなステージへと踏み出す姿を見守る—これこそが公開引受部長にしか味わえない特別な醍醐味なのです。

証券会社の公開引受部長という ポジションの魅力

なぜ公開引受部長という道を選ぶのか。その理由はいくつもありますが、まず挙げられるのは「日本経済の未来を創造する立場にいられる」という誇りです。一般的な証券営業やトレーディング業務とは異なり、公開引受部長は新たな産業の創出に直接関わり、革新的な企業の成長を支援することで、経済の新陳代謝を促進する重要な役割を担っています。

たとえば、今日の日本を代表するIT企業やバイオテクノロジー企業の多くは、かつては小さなスタートアップ企業でした。それらの企業がIPOを通じて大きく成長し、新たな雇用を生み出し、時には産業構造そのものを変革してきました。公開引受部長はそうした企業の「発掘者」「育成者」として、目に見える形で社会に貢献できるのです。

また、公開引受部長の魅力として見逃せないのが「非常に高度な知的挑戦」であることです。引受業務は証券業務の中でも特に専門性が高く、法律、会計、財務、マーケティング、そして各産業分野の知識を総合的に活用することが求められます。常に最新の規制動向や市場環境をキャッチアップしながら、企業価値を正確に評価する能力は、プロフェッショナルとしての自己実現欲求を大いに満たしてくれるでしょう。

人脈形成という面でも、公開引受部長は特別な立場にあります。新進気鋭の経営者や大手企業のCFO、トップクラスの監査法人パートナー、弁護士、規制当局者など、各界の重要人物と深い信頼関係を築くことができます。こうした人脈は将来のキャリア形成においても貴重な財産となります。

さらに、公開引受部長という役職は証券会社内での重要なポジションであり、社内での発言力も大きいものです。IPO業務は証券会社の収益源として重要であるだけでなく、企業の知名度向上にも大きく貢献するため、会社の中核を担う存在として尊重されます。

経済的な報酬面でも魅力は大きいでしょう。IPOの成功報酬として得られるボーナスやインセンティブは非常に高水準であり、特に大型案件の主幹事を務めた際の報酬は破格とも言えるものです。

何より、「自分が見出し、育てた企業が上場を果たす」という達成感は、金銭では買えない価値があります。スタートアップ企業の創業者と共に喜びを分かち合い、その後の成長を見守る経験は、公開引受部長ならではの特権と言えるでしょう。

証券会社の公開引受部長の 年間スケジュール例

証券会社の公開引受部長(IPO引受部門責任者)は、IPOプロセスを統括する重要な役割を担っています。以下に、そのような部長の年間スケジュール例を四半期ごとに詳細に示します。

4月

  • 年度計画策定・共有
    • 年間IPO引受目標件数・金額の設定
    • 部内方針発表会の開催
    • 本部長・役員への年度計画の説明・承認取得
  • 人事・体制整備
    • 新入社員・異動者の受入れ・教育計画の確認
    • チーム編成の最終化
    • 年間の研修計画の承認
  • パイプライン分析・更新
    • 前年度からの継続案件の状況確認
    • 新年度中上場見込み案件の進捗会議
    • 主幹事獲得戦略の再確認

5月

  • 主要な上場準備企業との面談
    • 主幹事として担当する上場準備企業の経営陣との年度初面談
    • 上場スケジュールの再確認と調整
    • 半期決算を控えた企業への監査対応の助言
  • 新規開拓活動の強化
    • スタートアップキャピタルとの関係強化ミーティング
    • 有力スタートアップの発掘イベント参加
    • M&A部門・法人営業部門との連携会議
  • 社内連携体制の確認
    • 引受審査部門との年度方針すり合わせ
    • 法務・コンプライアンス部門との定期協議
    • リサーチ部門との連携強化会議

6月

  • 株主総会シーズン対応
    • 上場準備企業の株主総会運営アドバイス
    • 主要上場準備企業の株主総会への出席
    • ガバナンス体制の確認と改善提案
  • 上半期上場案件の最終調整
    • 7〜9月上場案件の進捗レビュー
    • 上場審査提出前の最終チェック
    • 主幹事証券団の組成交渉
  • 半期実績レビュー
    • 第1四半期の引受実績の分析
    • パイプライン案件の進捗状況の確認
    • 必要に応じた戦略・リソース配分の微調整

7月

  • 上半期決算対応
    • 上場準備企業の半期決算発表サポート
    • 監査法人との連携強化
    • 上場審査に向けた財務情報の精査
  • 上場申請案件の集中対応
    • 7〜9月上場案件の証券取引所審査対応
    • ヒアリング同行および事前準備
    • 想定質問への回答準備と経営陣への指導
  • ロードショー準備
    • 近日中のIPO案件の投資家向け説明資料の確認
    • 経営者によるプレゼンテーションの指導
    • 機関投資家への事前マーケティング

8月

  • 仮条件決定・ブックビルディング
    • 夏季IPO案件の仮条件決定プロセス主導
    • 主幹事としてのブックビルディング管理
    • 投資家需要の分析と発行体への報告
  • 上場セレモニー対応
    • 上場企業の証券取引所上場セレモニー出席
    • 上場後初日の株価動向確認
    • 上場企業へのアフターフォロー開始
  • 秋季案件の準備強化
    • 10〜12月上場予定案件の進捗確認
    • 上場スケジュールの微調整
    • 上場審査提出書類の最終チェック

9月

  • 年末案件の最終調整
    • 年内上場を目指す案件の最終スケジュール調整
    • クリティカルパスにある案件の問題解決
    • 主幹事証券団の最終調整
  • 中間実績評価
    • 上半期の実績総括
    • 下半期計画の見直しと必要に応じた修正
    • 部内への実績フィードバックと目標再確認
  • 次年度パイプラインの強化
    • 来年度上場見込み案件の発掘強化
    • VC・PE投資先との面談集中期間
    • 主幹事獲得に向けた提案活動

10月

  • 秋季IPO案件の集中管理
    • 10〜12月上場案件の証券取引所審査対応
    • 需要動向分析と価格設定戦略の検討
    • 投資家向け説明会の準備と実施
  • 年内最終案件の進捗確認
    • 12月上場案件の最終確認
    • 年末市場環境を踏まえたスケジュール調整
    • リスク要因の洗い出しと対策
  • 来年度上場予定企業の発掘強化
    • スタートアップイベント・起業家会議への参加
    • 新規案件の初期評価会議
    • 上場準備支援契約の締結推進

11月

  • 予算・計画策定開始
    • 次年度の部門予算案の作成
    • 人員計画・採用計画の立案
    • 営業戦略の見直しと新施策の検討
  • 年末案件の最終局面対応
    • 年内最終IPO案件のブックビルディング
    • 価格決定会議の主導
    • 上場前最終準備の確認
  • 年末マーケット状況の分析
    • 市場環境・投資家動向の分析
    • 年明け案件への影響評価
    • 必要に応じたスケジュール調整の提案

12月

  • 年内上場案件の完了処理
    • 年内最終上場案件のクロージング
    • 上場企業へのアフターフォロー
    • 上場実績の社内外への報告
  • 年度総括の準備
    • 年間引受実績の集計と分析
    • 競合他社との実績比較
    • 成功事例・課題事例の整理
  • 年始案件の最終準備
    • 1〜3月上場予定案件の年末最終確認
    • 年始からの迅速な始動のための準備
    • 関係者への年末年始の対応確認

1月

  • 年始案件の始動
    • 第1四半期上場予定案件の始動確認
    • 年始の市場環境を踏まえた戦略調整
    • 年始早々の上場審査対応
  • 新年度パイプラインの具体化
    • 次年度上場見込み案件の精査
    • パイプライン企業との年始面談
    • 次年度上場スケジュールの仮設定
  • 事業計画の最終化
    • 次年度部門計画の最終調整
    • 経営会議での次年度計画の説明・承認取得
    • 部内への次年度方針の事前共有

2月

  • 年度末案件の集中管理
    • 2〜3月上場案件の進捗管理
    • 年度内上場に向けた障害の除去
    • 上場審査からロードショーまでの一貫サポート
  • 監査法人との年度末連携強化
    • 上場準備企業の年度末監査対応の確認
    • 会計上の課題解決に向けた三者協議
    • 次年度上期上場予定企業の監査計画確認
  • 市場環境分析・次年度展望
    • IPO市場の動向分析レポートの作成
    • 次年度の市場予測と自社戦略への落とし込み
    • 役員向け市場展望報告の準備

3月

  • 年度末案件の完了
    • 年度末最終IPO案件のクロージング
    • 年度実績の確定と報告
    • 成功案件の振り返りと教訓の整理
  • 次年度体制の最終確認
    • 組織変更・人事異動への対応準備
    • 次年度の担当案件配分の最終決定
    • 引継ぎ事項の整理
  • 年度総括と次年度準備
    • 年間活動の総括報告書の作成
    • 次年度第1四半期案件の準備状況最終確認
    • 部内総括会議の開催と次年度方針の共有

定例業務(通年)

週次

  • 部内進捗会議の主宰(案件ステータスレビュー)
  • 主要上場準備企業の進捗状況確認
  • 経営会議・本部会議への参加と報告

月次

  • 月次実績の集計と分析
  • パイプライン案件の進捗状況の更新
  • マーケット状況・投資家動向の分析会議

四半期

  • 四半期業績レビューと計画進捗確認
  • 投資銀行部門全体会議への参加
  • 上場企業へのアフターフォローの状況確認

この年間スケジュールは、日本の証券市場の特性や一般的な企業の決算・監査サイクルを踏まえたものですが、実際には証券会社の規模、取扱い案件数、市場環境などによって変動します。また、突発的な市場変動や特定案件の緊急対応などによっても予定が変更される柔軟性が求められます。

証券会社の公開引受部長の 重要任務

公開引受部長は、IPO業務の最前線で部門全体を統括し、証券会社のIPOビジネスの成否を左右する重要なポジションです。以下では、公開引受部長が担う特に重要な3つの任務について詳述します。

 

1.IPOパイプラインの構築と主幹事獲得戦略の統括

公開引受部長の最も重要な任務の一つは、将来のIPO案件を継続的に確保するためのパイプライン構築と、高収益をもたらす主幹事契約の獲得戦略を統括することです。

  • IPO候補企業の発掘・選定
    • 有望なIPO候補企業の発掘と選別のための戦略策定
    • ベンチャーキャピタル、監査法人、法律事務所等の関係機関とのネットワーク構築
    • 業界別の上場見込み企業情報の集約と分析
  • 主幹事獲得のための戦略立案
    • 主幹事獲得のための差別化戦略の策定
    • 競合証券会社との差別化ポイントの明確化
    • 業界・企業特性に応じた提案内容の監修
  • 成約率向上のための組織的取り組み
    • 主幹事契約獲得のための部門横断的アプローチの指揮
    • 競合プレゼンテーション対策の統括
    • 提案内容の質と一貫性の確保

IPOビジネスは高収益が見込める反面、主幹事獲得競争は激しく、パイプラインの構築には長期的視点と戦略的アプローチが必要です。特に主幹事を務めることで得られる引受手数料は、幹事証券や引受証券と比較して格段に大きく、証券会社の収益に直結します。また、優良企業のIPOで主幹事を務めることは、市場での評価向上や次なるIPO案件獲得につながる好循環を生み出します。

公開引受部長は現状の案件管理だけでなく、2~3年先を見据えたパイプライン構築と主幹事獲得のための戦略的思考と行動が求められ、証券会社のIPOビジネスの持続的成長において最も重要な任務と言えます。

2.公開価格の決定プロセスとブックビルディングの統括

公開引受部長は、IPO案件における最も重要かつデリケートな意思決定である公開価格の決定プロセスとブックビルディング(需要調査)を統括します。

  • 公開価格算定の最終判断
    • 仮条件価格レンジの設定に関する最終判断
    • 各種バリュエーション手法の適用妥当性の評価
    • 市況や類似企業の株価動向を踏まえた価格調整判断
  • ブックビルディングの統括
    • 機関投資家・個人投資家の需要動向の総合分析
    • 需要の質(投資家層の多様性、長期保有意向等)の評価
    • ブックの積み上がり状況に応じた戦略修正の指示
  • 発行体と投資家の利益バランスの調整
    • 発行企業の資金調達ニーズと投資家リターンのバランス調整
    • 初値のパフォーマンス予測と公開価格への反映
    • 上場後の株価安定化策の決定

公開価格の決定は、発行体企業と投資家双方の利益に直接影響する極めて重要な判断です。過大評価された価格設定は、上場後の株価下落を招き投資家の信頼を損なう一方、過小評価は発行体企業の資金調達額の減少を意味し、企業からの信頼喪失につながります。

近年、日本のIPO市場では初値高騰問題が指摘され、投資家と発行体の利益バランスの観点から、金融庁や取引所が公開価格決定プロセスの見直しを求めるなど、この任務の重要性は一層高まっています。公開引受部長は、短期的な手数料収入だけでなく、証券会社としての長期的評判リスクも考慮した公開価格決定の最終責任者として、高度な判断力とバランス感覚が求められます。

3.上場審査対応と危機管理の統括

公開引受部長の三つ目の重要任務は、証券取引所による上場審査への対応プロセスの統括と、上場プロセスにおいて発生しうる様々な危機の管理です。

  • 上場審査プロセスの統括
    • 上場審査における重要論点の特定と対応戦略の策定
    • 証券取引所との緊密なコミュニケーション維持
    • 上場審査における質問・指摘事項への対応監督
  • リスク案件の早期発見と対応
    • ガバナンス上の課題、コンプライアンス違反リスク等の早期発見
    • 親族内取引、関連当事者取引等の潜在的問題の対処法指導
    • 過去の反社会的勢力との関係など懸念事項の適切な解決
  • 緊急事態対応の指揮
    • 上場直前の業績変動や市場環境激変への対応判断
    • 開示情報の修正必要時の適切な手続き指導
    • 上場延期や中止の判断と関係者調整

上場審査は最終的な上場可否を決定する最重要関門であり、審査過程で重大な問題が発見された場合、上場の大幅な遅延や最悪の場合は中止につながります。特に昨今は企業のガバナンス体制や情報開示の質に対する審査が厳格化しており、適切な対応がより重要になっています。

また、IPOプロセスは通常6ヶ月から1年以上に及ぶ長期間のプロジェクトであり、その過程で様々な予期せぬ事態(業績の急変、市場環境の激変、経営陣の交代など)が発生する可能性があります。こうした事態に対して、冷静かつ迅速に対応し、場合によっては上場の延期や条件変更などの重大な判断を行うことも公開引受部長の重要な任務です。

上場案件の失敗は、発行体企業の信頼喪失だけでなく、証券会社としての評判リスクも伴うため、リスク管理と危機対応の適切な統括は公開引受部長の極めて重要な役割です。

これらの重要任務を遂行するためには、公開引受部長には証券市場と企業財務に関する深い専門知識、高度な交渉力と判断力、そして広範なネットワークが求められます。また、発行体企業、投資家、証券取引所、監査法人など多様なステークホルダーの利害を適切にバランスさせる高いバランス感覚も必要不可欠です。

公開引受部長の手腕によって、IPOビジネスの成果が大きく左右されるだけでなく、証券会社全体のIPO市場における評判と地位も決定づけられるという点で、この職位の重要性は極めて高いものとなっています。

証券会社の公開引受部長の 報酬水準

証券会社の公開引受部長の報酬水準について、以下にまとめます。

公開引受部長の一般的な報酬レンジ

公開引受部長の報酬水準は、証券会社の規模、IPO取扱件数、市場環境、個人の経験・実績によって大きく異なりますが、一般的なレンジは以下の通りです。

1.大手証券会社(メガバンク系・準大手)

  • 年収レンジ: 2,000万円~3,000万円以上
  • 内訳:
    • 基本給: 約1,000万円~1,500万円程度
    • ボーナス: 基本給の100%~150%程度(業績連動)
    • その他インセンティブ・手当

2.中堅証券会社

  • 年収レンジ: 1,500万円~2,500万円程度
  • 内訳:
    • 基本給: 約800万円~1,200万円程度
    • ボーナス: 基本給の75%~100%程度(業績連動)
    • その他インセンティブ・手当

3.中小証券会社

  • 年収レンジ: 1,000万円~2,000万円程度
  • 内訳:
    • 基本給: 約600万円~1,000万円程度
    • ボーナス: 基本給の50%~100%程度(業績連動)
    • その他インセンティブ・手当

例えば、公開情報によると、公開引受部門の管理職(部長相当)では年収600万円~1,500万円となっています。また、投資銀行部門のディレクターレベル(部長クラス)では2,000万円程度、マネージング・ディレクターでは3,000万円以上の報酬水準となっているケースがあります。

報酬の構成要素

公開引受部長の報酬は、通常以下の要素で構成されています。

  • 基本給(固定給)
    • 部長としての職責や経験年数に基づく固定給部分
  • 業績連動ボーナス
    • 個人業績:担当部門のIPO成約件数、主幹事獲得数など
    • 部門業績:IPO引受部門全体の収益貢献
    • 会社業績:証券会社全体の業績
  • インセンティブ・報奨金
    • 特に大型IPOの主幹事獲得や成功案件に対する特別ボーナス
    • 難易度の高い案件の成功報酬
  • その他手当・福利厚生
    • 役職手当
    • 住宅手当
    • 社内制度(持株会、確定拠出年金など)

報酬水準に影響する要因

  • 証券会社の規模とブランド力
    • 大手証券会社ほど報酬水準は高い傾向
    • ブティック型IPO専門証券会社では実績連動型の報酬体系が多い
  • IPO市場の活況度
    • IPO市場が活況の年は全体的に報酬が上昇
    • 2021-2022年は市場が活発で報酬水準が上昇
  • 個人の実績とスキル
    • 主幹事獲得実績
    • マネジメント能力と部門の収益貢献
    • 市場での評判と人脈
  • 担当企業の質と量
    • 大型IPOの主幹事獲得実績は特に評価が高い
    • ユニコーン企業や話題性の高い企業のIPO実績

業界内でのポジショニング

証券業界内での公開引受部長のポジショニングは非常に重要で、多くの場合、以下のような特徴があります。

  • 証券会社内での高収入ポジションの一つ
  • 投資銀行部門の中核的役割
  • 他部門(法人営業、リテール営業等)の部長と比較して高い報酬水準
  • 役員への登用候補としても重要なポジション

年功序列と実績主義

公開引受部門では、一般的な日本企業よりも実績主義的な傾向が強く、年齢や勤続年数よりも実際のIPO案件獲得実績や収益貢献度が報酬に大きく反映される傾向があります。そのため、同じ部長職でも個人間の報酬格差が大きいのも特徴です。

これらの情報は公開情報から収集したものですが、証券会社の報酬体系は非公開部分も多く、また、市場環境や各社の戦略によって頻繁に変動する点にご留意ください。近年はIPO市場の変動に伴い、報酬体系自体も変化している可能性があります。

具体的な報酬額を検討される場合は、最新の業界動向や特定の証券会社の情報を個別に確認されることをお勧めします。

証券会社の公開引受部長の 代表的な会社

公開引受業務において独自の特徴や強みを持つ証券会社を5社、その特色と共にご紹介します。

1.いちよし証券 – 「上場支援型」のパイオニア

特徴

  • 「上場支援型証券」の先駆者: 従来の公開引受の枠を超え、上場準備段階からの長期伴走型支援を業界に先駆けて確立。
  • 中小型IPOに特化した支援体制: 特に時価総額100億円前後の中小型企業に的を絞った支援に強み。
  • 「資本市場型経営」コンサルティング: IPOだけでなく、上場後の資本市場活用や成長戦略までを一貫して支援。
  • 地方企業の発掘に強み: 全国各地に足を運んで有望企業を発掘する「地方創生型IPO」に注力。

代表的な実績

  • マネーフォワード、CrowdWorks、ミンカブ・ジ・インフォノイドなど、FinTech系の成長企業を多数上場支援。
  • 近年は地方発のユニークな事業モデルを持つ企業の主幹事を積極的に獲得。

いちよし証券はIPOを「点」ではなく「線」で捉え、上場準備の初期段階から上場後までの一貫したサポート体制が評価されています。特に新興市場向けの中小型案件において高いシェアを維持していることが特徴です。

2.三田証券 – 「ハンズオン特化型」の小型証券

特徴

  • 超ハンズオン型支援: 業界内でも最も徹底した経営参画型の上場支援を行うことで知られる。
  • 役職員の派遣・出向によるコミットメント: 必要に応じて上場準備企業に役員や社員を派遣し、内部からの体制構築を支援。
  • 少数精鋭の案件特化: 年間数件の案件に集中して質の高い支援を提供するビジネスモデル。
  • VC機能との融合: 自社グループにVCファンドを持ち、IPO前の資金調達から上場までをシームレスに支援。

代表的な実績

  • アルマード、ビーウェル、アールプランナー、リーガル不動産など、ユニークな事業モデルを持つ企業の上場を支援。
  • 特に「上場準備が困難と思われる企業」の上場実現に定評がある。

三田証券は案件数よりも成功率と企業との深い関係性を重視し、IPO準備企業への密着度が極めて高いことが特徴です。財務経理体制の構築や内部統制整備などを社内人材が実務レベルで支援する「伴走型」の極致とも言えるアプローチで、他社では引き受けが難しいケースでも成功させる実績を持っています。

3.エイチ・エス証券 – 「アジア連携型」引受のフロントランナー

特徴

  • アジア新興国企業のIPO支援: 日本市場におけるアジア企業のIPO引受に特化した独自ポジションを確立。
  • クロスボーダー引受のノウハウ蓄積: 言語・会計・法制度の違いを乗り越えるノウハウを構築。
  • アジア各国の金融当局との緊密なネットワーク: 各国当局との関係構築による円滑な手続き支援力。
  • グローバル投資家ネットワーク: アジア地域を中心とした国際的な投資家基盤の構築。

代表的な実績

  • 中国、台湾、フィリピン、マレーシアなどアジア地域からの日本市場へのIPOを多数手掛ける。
  • 海通国際証券(Haitong International Securities)との資本業務提携を活かした案件獲得。

エイチ・エス証券は、日本の証券会社としては珍しくアジア地域からの日本市場へのクロスリスティング(重複上場)を得意とし、海外発行体と日本の投資家をつなぐ独自のポジションを確立しています。グローバルなIPO市場での特異なプレゼンスを持っています。

4.SBI証券 – 「デジタルネイティブ型」の新興ファーストチョイス

特徴

  • デジタル・IT業界との親和性: フィンテック、SaaS、ITプラットフォーム系企業のIPOに強い専門性。
  • SBIエコシステム活用: SBIグループのVC、銀行、保険などとの連携による総合的な支援。
  • オンライン証券の顧客基盤: 1,400万口座を超える個人投資家の顧客基盤を活かした販売力。
  • 業界最大規模のIPO取扱数: オンライン証券でありながら、年間IPO取扱件数で大手証券に迫る実績。

代表的な実績

  • BASE、Sansan、ビザスク、Aiming、プレイドなど、デジタル・IT分野の成長企業のIPOを多数手掛ける。
  • 主幹事としての実績も近年急速に拡大。

SBI証券は、従来のリテール証券の枠を超え、投資銀行業務、特にIPO分野での存在感を急速に高めています。インターネット黎明期からのSBIグループのデジタルDNAが、新興テック企業への理解と支援力につながっており、デジタル系スタートアップにとって「最初の選択肢」になりつつあります。

5.大和証券 – 「地域創生型」大手証券の新戦略

特徴

  • 「新・地方創生」戦略: 全国の地方拠点とIPO部門の連携による地方有望企業の発掘・育成モデルを構築。
  • 地域金融機関とのアライアンス: 地銀など地域金融機関との連携による紹介スキームの確立。
  • IPOアカデミー: 上場志向企業向けの独自の育成プログラムを全国規模で展開。
  • 大手証券の組織力と地域密着の両立: 大手証券の強みである組織力・審査力と地域密着型の掘り起こしを融合。

代表的な実績

  • ブランディングテクノロジー(北海道)、ビーアンドピー(大阪)、セルソース(東京)など、全国各地の特色ある企業のIPOを主幹事として支援。
  • 資金調達額の幅広さ(小型から大型まで)に対応できる体制を構築。

大和証券は大手総合証券でありながら、地方創生の観点からIPO業務を戦略的に位置づけ、「地方の優良企業の発掘」というニッチだが重要な市場で独自のポジションを確立しています。全国に張り巡らせた拠点ネットワークと本社IPO部門の連携が特徴的で、地域経済活性化という社会的意義も重視した取り組みを展開しています。

 

これら5社はそれぞれ異なるアプローチで公開引受業務における独自の強みと特色を打ち出しています。いちよし証券と三田証券は「上場支援の深さ」、エイチ・エス証券は「国際性」、SBI証券は「デジタル親和性」、大和証券は「地域密着と組織力の融合」という異なる切り口で、同じIPO市場の中でも独自のポジショニングを確立していると言えます。

上場を目指す企業は、自社の事業特性や規模、ニーズに合った証券会社を選ぶことが重要であり、これらの証券会社の特徴を理解することが、効果的なIPO戦略の第一歩となります。

証券会社の公開引受部長に 向いている人は、どんな人?

■求められるマインド

証券会社の公開引受部長は、企業のIPOを支援する重要な役割を担います。この職責を果たすために求められる特有のマインドセットについて解説します。

1.バランス感覚と倫理観

多くのステークホルダーの利害調整能力

  • 発行企業と投資家の双方の利益を最適化する姿勢
    • 発行企業には適正な資金調達を、投資家には魅力的な投資機会を提供するという相反する要求のバランスを取る判断力
    • 短期的な引受手数料より、長期的な関係構築を重視する視点

高い倫理的基準の保持

  • 資本市場の公正さを守る「ゲートキーパー」としての自覚
    • 市場の健全性・透明性確保への責任感
    • 不適格な企業の上場を許さない毅然とした姿勢
  • 目先の利益より市場の信頼性を優先する価値観
    • 「この会社は本当に上場にふさわしいか」を常に問う厳格さ

2.未来志向の洞察力

成長性の目利き力

  • 「ビジョンを見抜く力」と「過大評価を避ける冷静さ」の両立
    • 事業モデルの将来性を見極める先見性
    • 流行やトレンドに惑わされない本質的価値判断
  • 潜在的な大化けする企業を発掘するアンテナの高さ
    • 特定業界に限定せず、幅広い分野の知見を持つ好奇心
    • 従来の常識や評価基準にとらわれないオープンマインド

リスク予見能力

  • 将来の問題を先回りして認識する危機感
    • 「この会社が直面する可能性のある課題は何か」を常に考える習慣
    • 業績悪化や経営危機の可能性を事前に察知する感覚
  • 上場後の株価パフォーマンスまで見据えた責任感
    • 「上場させて終わり」ではなく、上場後の企業価値向上も視野に入れる長期的視点

3.高度な対人関係構築力

信頼関係構築の才覚

  • 経営者の本質を見抜く人間力
    • 数字だけでなく、経営者の人間性や誠実さを評価する目
    • 定量的評価と定性的評価の両面から企業を理解する柔軟性
  • 厳しい指摘もできる「真の伴走者」としての姿勢
    • 企業の欠点や課題を率直に指摘できる誠実さ
    • 厳しさと支援の姿勢を両立させる対応力

チームリーダーシップ

  • 社内外の多様な専門家を束ねる統率力
    • 引受審査、法務、営業、アナリストなど多職種チームの調整力
    • 監査法人、弁護士事務所など外部専門家との連携力
  • 最高のIPOチームを組成する人材眼
    • 案件ごとに最適なチーム編成を行う判断力
    • メンバーの強みを引き出し弱みをカバーする采配

4.市場環境への感応力

マーケット感覚の鋭敏さ

  • 市場のムードや投資家心理の変化への敏感さ
    • IPO市場の温度感を常に把握する習慣
    • 投資家の選好や評価基準の変化をいち早く察知する感覚
  • 「今、市場が求めているものは何か」を常に考える市場志向
    • グローバルなIPO動向への関心
    • 新しい業種・ビジネスモデルへの理解力

臨機応変な戦略調整力

  • 市場環境変化への柔軟な対応力
    • IPOタイミングを市場環境に合わせて調整する決断力
    • 価格決定プロセスにおける冷静な判断力
  • 最適な主幹事団の編成力
    • 各証券会社の強みを活かした引受団組成の戦略性
    • 販売力とブランド価値のバランスを考慮した構成力

5.教育者兼経営参謀としてのマインド

企業の成長を促す教育的姿勢

  • 上場準備企業を「教え導く」メンター意識
    • 資本市場の仕組みを分かりやすく説明する能力
    • 企業が自律的に成長するための知恵の伝授
  • 上場基準をただ満たすだけでなく「上場企業としての本質」を伝える使命感
    • コンプライアンスの形式だけでなく本質の理解を促す指導力
    • 資本市場との対話の重要性を伝える熱意

経営戦略的視点

  • 上場支援者であるとともに「経営参謀」としての自覚
    • 事業戦略と資本戦略を連動させる助言能力
    • IPOを通じた企業価値最大化の道筋を示す構想力
  • 企業の強みを最大限市場に伝える「翻訳者」としての役割意識
    • 企業の価値を投資家の言語で表現する能力
    • 社長の思いや企業理念を投資ストーリーに昇華させる表現力

6.実績へのコミットメントとレジリエンス

結果への強いコミットメント

  • 「必ず上場させる」という強い意志と責任感
    • 様々な障害や予期せぬ問題が生じても最後までやり抜く覚悟
    • 困難な状況でも解決策を見出す粘り強さ
  • 社会的意義への確信
    • 企業の成長と資本市場の発展という社会的使命感
    • 自らの仕事が経済活性化に貢献するという誇り

レジリエンス(回復力)

  • 挫折や失敗からの学習能力
    • 上場中止や延期などの厳しい状況での対応力
    • 失敗から学び、次につなげる前向きな姿勢
  • 常に自己更新する学習意欲
    • 規制環境や市場の変化に対応する継続的な学び
    • 業界トレンドへの関心と知識のアップデート

公開引受部長に求められるマインドは、業務遂行能力を超えた「資本市場の専門家」「企業の成長パートナー」「市場の門番」という複数の役割を両立させる高度なバランス感覚と、長期的視野に立った判断力が核心にあります。

この役割を全うするためには、企業のビジネスモデルを深く理解する分析力、市場の動向を敏感に察知するアンテナの高さ、そして何より、資本市場の健全な発展に貢献するという使命感と倫理観が不可欠です。こうした複合的なマインドセットが、成功する公開引受部長の共通点と言えるでしょう。

■必要なスキル

公開引受部長は証券会社におけるIPO業務の責任者として、高度な専門スキルと幅広い能力が求められます。以下に必要なスキルを体系的に整理しました。

1.専門的知識・技術スキル

財務・会計の専門知識

  • 企業財務分析の高度な能力
    • 財務諸表からビジネスの本質を読み解く分析力
    • 会計方針の妥当性や粉飾の兆候を見抜く目
  • 企業価値評価の専門性
    • DCF法、類似企業比較法など複数の評価手法の使い分け
    • 業種特性に応じた適切な評価指標の選定能力
  • 資本政策立案の実践力
    • 最適な資本構成と株主構成の設計能力
    • ストックオプションなどインセンティブ設計の知見

法務・規制への精通

  • 証券取引法規制の網羅的理解
    • 金融商品取引法、開示規制の詳細な知識
    • 適時開示ルールの実務的解釈力
  • 上場審査基準への深い理解
    • 各市場(プライム、スタンダード、グロース等)の上場基準の熟知
    • 形式基準と実質基準の両面からの審査ポイント把握
  • コーポレートガバナンスの設計力
    • 上場企業にふさわしい統治機構の構築支援能力
    • 内部統制システムの評価と改善指導力

業界・ビジネスモデル分析力

  • 多様な業界への知見
    • IT、製造、サービス、バイオなど幅広い業界の特性理解
    • 新興産業や革新的ビジネスモデルの将来性判断力
  • 競争優位性の分析力
    • 企業の競争力の源泉を特定する分析スキル
    • 持続可能な競争優位性の見極め能力
  • 成長性評価の目利き力
    • 事業拡大シナリオの妥当性検証能力
    • 中長期的な市場環境変化の予測力

2.マネジメント・リーダーシップスキル

プロジェクト管理能力

  • IPOプロジェクトの全体統括力
    • 上場準備から上場後までの複雑なプロセス管理能力
    • 複数案件の並行処理と優先順位付けの判断力
  • 緻密なスケジュール管理能力
    • 上場準備の各フェーズの進捗管理能力
    • クリティカルパスを見極めるタイムマネジメント
  • リスク管理とクライシス対応力
    • 上場審査での指摘事項への対応力
    • 予期せぬ問題発生時の迅速な危機対応力

チームマネジメント能力

  • 多職種チームの統率力
    • 引受審査、営業、法務、アナリストなど異なる専門家の連携促進
    • 各メンバーの強みを活かした役割分担の設計力
  • 人材育成・教育能力
    • 若手スタッフの計画的育成力
    • OJTを通じた実践的指導力
  • 社内調整力
    • 引受審査部門との円滑な連携力
    • 営業部門との協力体制構築能力

外部関係者との協働能力

  • 外部専門家との連携力
    • 監査法人、弁護士、証券代行などとの効果的な協働
    • 各専門家の知見を最大限活用する調整力
  • 主幹事団のオーケストレーション
    • 複数証券会社で構成される引受団の取りまとめ能力
    • 各社の強みを活かした役割分担の最適化

3.対人・コミュニケーションスキル

クライアントリレーション構築力

  • 経営者との信頼関係構築能力
    • 企業の経営者層と深い信頼関係を築く人間力
    • 創業者・オーナー経営者の思いを理解する共感力
  • コンサルティング・アドバイス能力
    • 上場準備上の課題を的確に指摘する分析力
    • 経営課題の解決策を具体的に提案する実践力
  • クライアント教育能力
    • 資本市場の仕組みを分かりやすく説明する能力
    • 上場企業に求められる意識改革を促す指導力

渉外・交渉能力

  • 投資家リレーション構築力
    • 機関投資家との良好な関係構築能力
    • 投資家の視点・ニーズを理解する洞察力
  • 高度な交渉力
    • 条件交渉における戦略的思考力
    • Win-Winの結果を導く調整能力
  • 説得力のあるプレゼンテーション能力
    • 企業価値を効果的に伝えるストーリーテリング力
    • 投資家向け説明会での印象的なプレゼン実施能力

コミュニケーション管理能力

  • 情報管理・機密保持能力
    • インサイダー情報の厳格な管理能力
    • 適切な情報開示タイミングの判断力
  • 複雑な情報の整理・伝達能力
    • 専門的内容を関係者に分かりやすく伝える説明力
    • 重要ポイントを簡潔に要約する能力
  • 異なる利害関係者間の調整力
    • 発行企業と投資家の期待ギャップの調整能力
    • 社内各部門間の意見相違の調整能力

4.戦略的思考・判断スキル

市場分析・戦略立案能力

  • IPO市場動向の分析力
    • 市場環境の変化を読み解く洞察力
    • セクター別の投資選好の変化把握能力
  • 最適上場タイミングの判断力
    • 市場環境と企業状況を踏まえた上場時期決定能力
    • 必要に応じた計画変更の決断力
  • 上場戦略の策定能力
    • 企業特性に合わせた最適市場の選定能力
    • 上場目的を達成するための具体的戦略設計

価格決定・マーケティング戦略

  • 公開価格決定の専門能力
    • 市場環境を踏まえた適正価格レンジの設定能力
    • ブックビルディングプロセスの戦略的運営能力
  • 投資家層戦略の立案能力
    • 目標とする株主構成の戦略的設計力
    • 長期保有投資家と短期投資家のバランス調整
  • 販売戦略の策定能力
    • 国内外の投資家向け販売戦略の立案能力
    • 機関投資家と個人投資家のバランス調整能力

問題解決・意思決定能力

  • 複雑な問題の構造化能力
    • 多面的な課題を整理し核心を抽出する分析力
    • 原因と結果の連鎖を把握する論理的思考力
  • 不確実性下での意思決定能力
    • 限られた情報での迅速な判断力
    • リスクとリターンを天秤にかける決断力
  • 創造的解決策の立案能力
    • 前例のない問題への革新的アプローチ
    • 複数の選択肢を比較検討する柔軟性

5.業界ネットワーク・情報収集スキル

広範なネットワーク構築力

  • 業界内の人脈形成能力
    • 金融機関、監査法人、法律事務所などとの関係構築
    • 各業界キーパーソンとのコネクション開発
  • 上場候補企業の発掘能力
    • 有望企業の情報収集ネットワーク構築
    • VC・PE・事業会社等との関係構築による案件紹介獲得

先進的情報収集・分析能力

  • 市場トレンド捕捉能力
    • 国内外の証券市場の動向把握
    • 新興セクターの発展可能性の見極め
  • 競合他社動向の情報収集力
    • 他証券会社のIPO戦略・実績の分析
    • 差別化ポイントの特定能力
  • 規制環境変化の先読み能力
    • 法規制の変更動向の早期把握能力
    • 制度改正が自社業務に与える影響分析力

6.テクニカルスキル・デジタル対応力

データ分析・活用能力

  • 定量分析スキル
    • 統計的手法を用いた市場分析能力
    • 財務モデリングの高度なスキル
  • 市場データの解釈能力
    • 市場指標から投資家心理を読み解く能力
    • セクター別パフォーマンス分析力

デジタルリテラシー

  • 最新テクノロジーへの理解
    • フィンテック・ブロックチェーンなど新技術の理解
    • デジタル変革がもたらす業界変化の予測力
  • デジタルツールの活用能力
    • バーチャル・ロードショー等の新しい手法の活用
    • デジタルマーケティング技術の活用能力

7.レジリエンス・自己管理スキル

高ストレス環境下での自己管理

  • タイムプレッシャー下での冷静さ
    • 上場直前の緊張状態での判断力維持
    • 複数案件の同時進行によるストレス管理
  • 長時間労働環境での体調管理
    • 自己のエネルギー配分の最適化
    • 集中力と持続力のバランス維持

継続的学習と適応能力

  • 自己啓発・学習習慣
    • 最新の規制・市場動向のアップデート
    • 専門知識の継続的更新
  • 変化への柔軟な対応力
    • 市場環境変化への迅速な適応能力
    • 新たな業務手法・規制への対応力

公開引受部長には、上記のような多岐にわたる高度なスキルが求められます。これらは一朝一夕に身につくものではなく、IPO業務における豊富な実務経験と継続的な自己研鑽によって培われるものです。

特に重要なのは、専門的知識と人間力のバランスです。どんなに技術的スキルが高くても、クライアントや社内外の関係者との信頼関係構築ができなければ成功は難しいでしょう。逆に、人間関係構築が得意でも、財務分析や法規制への深い理解がなければ、専門家としての信頼は得られません。

この職位では、これらのスキルをバランス良く発揮しながら、IPOというクライアント企業にとって一生に一度の大イベントを成功に導くという重要な責務を担っています。

証券会社の公開引受部長までの 道のり

公開引受部長というエリートポジションに至るキャリアパスは一様ではありませんが、いくつかの主要なルートと必要なステップを理解することで、自身のキャリアプランを描くことができるでしょう。

公開引受部長の直前に想定されるポジションは、「IPO部門のシニアマネージャー」や「引受審査部のリーダー」などです。これらの役職では、IPOプロセス全体を理解し、中小規模の案件であれば主導的な立場で進行できるレベルに達していることが求められます。通常、このレベルに到達するまでには10〜15年程度の証券業界での経験が必要と言われています。

そのさらに前のポジションとしては、「IPOコンサルタント」や「引受審査担当者」が考えられます。このステージでは、上場準備中の企業に対する実務的なアドバイスや、引受審査におけるデューデリジェンスの実行など、IPOプロセスの重要な部分を担当しながら専門性を高めていきます。典型的には入社5〜10年目くらいでこのレベルに達する人が多いでしょう。

キャリアの初期段階では、「IPO部門のアナリスト」や「引受部のジュニアスタッフ」として基礎を固めることになります。財務分析や業界調査、届出書類の作成補助など、実務的なスキルを徹底的に学ぶ時期です。この段階で地道に基礎力を養うことが、その後の飛躍につながります。

では、公開引受部長を目指すためには、若手時代にどのような職種・業務を経験しておくべきでしょうか。

  • 証券会社新卒ルート

まず王道と言えるのは、大手証券会社の投資銀行部門(特にECM:エクイティ・キャピタル・マーケット部門)に新卒で入り、IPO関連業務に特化していくルートです。新卒から一貫してIPO業務に関わることで専門性を深め、着実にキャリアを積み上げていく方法です。

  • 監査法人からの転職ルート

もう一つの有力なルートは、監査法人で公認会計士としてのキャリアをスタートさせるというものです。監査法人ではIPO準備企業の監査経験を積むことができ、その専門知識と実務経験が評価され、中途採用で証券会社のIPO部門に転職するというパスです。実際に、多くの公開引受部長が公認会計士資格を持っており、このバックグラウンドは大きな強みとなります。

  • 証券会社内での異動ルート

証券会社内でのキャリアチェンジという選択肢もあります。例えば、株式営業や調査部門で実績を上げた後、IPO部門に異動するというケースです。幅広い投資家ネットワークや産業分析のスキルが評価され、引受業務での新たな活躍の場を見出すというルートです。

どのルートを選ぶにせよ、公開引受部長を目指す上で共通して重要なのは、「財務・会計のスキルを早い段階で固めること」「常に最新の市場動向や規制に関心を持ち続けること」「人脈形成を意識的に行うこと」の3点です。特に証券アナリストや公認会計士などの資格は、専門性の証明として大きな力となります。

また、スキルや知識だけでなく、「信頼される人間性」を磨くことも不可欠です。公開引受部長は企業の命運を左右する重要な判断を下す立場であり、その判断力と誠実さが信頼の源泉となります。若いうちから責任感を持って業務に取り組み、約束を守る姿勢を徹底することで、周囲からの信頼を着実に積み上げていくことが大切です。

公開引受部長への道のりは決して平坦ではありませんが、明確な目標を持ち、計画的にスキルを磨いていけば、十分に到達可能なポジションなのです。

証券会社の公開引受部長の キャリアパスの展望

公開引受部長というポジションで培われるスキルとキャリア展望は、金融業界にとどまらない広がりを持っています。この役職でのキャリアを通じて、どのような能力が磨かれ、どんな未来が開けるのかを見ていきましょう。

まず特筆すべきは「企業価値評価能力」です。公開引受部長は数多くの企業を分析し、その本質的価値と成長可能性を見極める目を養います。財務諸表の分析にとどまらず、ビジネスモデルの持続可能性、競争優位性、経営陣の資質まで、多角的な視点から企業を評価する能力は、投資銀行業務の枠を超えて、M&A、ベンチャーキャピタル、プライベートエクイティなど幅広い分野で通用する価値あるスキルです。

次に重要なのが「高度な交渉力とコミュニケーション能力」です。公開引受部長は、上場を目指す企業、引受シンジケート団の証券会社、投資家、監査法人、規制当局など、様々な利害関係者の間に立ち、時に対立する要求を調整しながら最適解を導き出さなければなりません。企業CEOからジュニアアナリストまで、あらゆるレベルの相手と効果的にコミュニケーションを取る能力は、どのようなキャリアにおいても強力な武器となります。

「リスク管理能力」も公開引受部長として磨かれる重要なスキルです。IPOには市場リスク、レピュテーションリスク、法的リスクなど様々なリスクが伴います。これらを事前に特定し、適切に対処する能力は、将来CFOや経営者として活躍する際にも不可欠なスキルとなるでしょう。

公開引受部長を経験した後のキャリアパスは多岐にわたります。まず証券会社内では、投資銀行部門の統括役員やエグゼクティブディレクターなど、より上位のマネジメント職へのステップアップが期待できます。特に国際的な投資銀行では、海外拠点でのECM(エクイティ・キャピタル・マーケット)責任者などの道も開けるでしょう。

また、転職市場での価値も非常に高く、他の大手証券会社からのヘッドハンティングはもちろん、ベンチャーキャピタルのパートナーや、プライベートエクイティファンドの重要ポジションへの転身も可能です。公開引受部長の経験者は、企業の目利きとしての能力が高く評価されるためです。

さらに、IPOを通じて深い関係を築いた企業から直接スカウトされ、上場企業のCFOや財務責任者として招かれるケースも少なくありません。実際に公開引受部長から企業のCFOに転身し、さらに経営トップに上り詰めた事例も存在します。

社会貢献の観点からは、証券取引所や金融規制当局でのキャリアを選択する道もあります。経験豊富な実務家としての知見は、市場の健全な発展に貢献する貴重な財産となるでしょう。

公開引受部長を経ることで得られるのは、職業スキルだけではありません。様々な業界の最前線で活躍する経営者との深い人脈は、生涯の財産となり、その後どのようなキャリアを選んでも大きな支えとなるでしょう。

まとめ

役割と責任

  • 証券会社の公開引受部長は、企業の「産婆役」。上場を目指す企業を市場という大海に旅立たせる、その重要な瞬間を総指揮する役割を担う
  • 社内の引受審査部門、法務部門、営業部門との調整はもちろん、主幹事証券として他の証券会社とのシンジケート団を組成する交渉や監査法人や取引所との折衝を行う役割

求められるマインドやスキル

  • 業務遂行能力を超えた「資本市場の専門家」「企業の成長パートナー」「市場の門番」という複数の役割を両立させる高度なバランス感覚と、長期的視野に立った判断力
  • 財務分析や法規制への深い理解とクライアントや社内外の関係者との信頼関係構築という専門的知識と人間力の高レベルでのバランス

重要な職務

  • IPOパイプラインの構築と主幹事獲得戦略の統括
  • 公開価格の決定プロセスとブックビルディングの統括
  • 上場審査対応と危機管理の統括

キャリアパス

  • IPO部門のアナリスト・公開引受部のジュニアスタッフ⇒IPOコンサルタント・引受審査担当者⇒IPO部門のシニアマネージャー・引受審査部のリーダー
  • 大手証券会社の投資銀行部門や監査法人でのIPO準備企業の監査、M&Aのコンサルティングファームなどの業務経験が効果的
  • 投資銀行部門の統括役員やエグゼクティブディレクターへの昇進や、ベンチャーキャピタルのパートナーや、プライベートエクイティファンドの重要ポジションへの転身など多様なキャリアパス