経理・財務・会計ファイナンス人材のためのキャリア名鑑

会計人材のキャリア名鑑

証券会社のM&Aアドバイザリー部長

「成長企業の結合と創造を先導するエキスパート」

M&Aの世界で未来を切り拓くストラテジスト

企業の「想い」と「価値」をつなぐプロフェッショナル

ビジネス変革の黒子にして、時に主役となるM&Aアドバイザリーの責任者

主な業務内容

  • M&A案件における戦略立案からクロージングまでの総合的なアドバイザリー業務
  • ディール組成・交渉戦略策定、バリュエーション、デューデリジェンス統括
  • クライアント企業の経営戦略と整合するM&A機会の発掘と提案

想定年収

2,500万円~5,000万円以上
※業績や評価によって変動

想定年齢

40歳~55歳

証券会社のM&Aアドバイザリー部長は こんな仕事

企業の歴史を塗り替え、新たな価値を創造する—それがM&Aアドバイザリー部長の使命です。証券会社のM&Aアドバイザリー部門で部長を務めるということは、企業の成長戦略の立案から実行までを導くことが求められます。

一件のM&A案件は、時に数千億円もの価値を持ち、数百人から数万人の従業員の未来を左右します。そんな重要な局面で、クライアント企業の意思決定者と並走し、最適な道筋を示すのがM&Aアドバイザリー部長の役割です。戦略的思考力と専門知識、そして確かな交渉力と人間力を武器に、企業の新たな歴史を創り出す—そんなやりがいと責任、そして相応の報酬を得られるのがこのポジションの魅力です。

証券会社のM&Aアドバイザリー部長は、企業の結合と分離という経済活動の最前線で指揮を執る戦略家です。朝、オフィスに一歩足を踏み入れると、すでに複数のプロジェクトの進捗確認やチームメンバーへの指示出しが始まります。1日のうちに、IT企業の買収案件の戦略会議、製造業の事業売却に関する守秘義務契約の確認、そして海外企業との資本提携に関するクライアントとのオンライン会議など、多様な案件を同時並行で進めていくことになります。

たとえば、自動車部品メーカーが海外展開を加速させるための買収案件を考えてみましょう。まず部長は、対象となり得る企業のロングリスト(一覧表)を作成するよう担当チームに指示します。次に、戦略的適合性や財務状況、シナジー効果などを評価し、最終的な候補を絞り込みます。そして、最適な買収提案を設計し、相手企業や投資家との交渉を主導していきます。

企業買収を検討するクライアントに対しては、「なぜ買収が必要なのか」という根本的な問いから始め、「どの企業を」「いくらで」「どのように」買収するべきかを多角的に分析します。バリュエーション(企業価値評価)はM&Aの要となるプロセスで、DCF法(割引キャッシュフロー法)やマルチプル法などを駆使して適正価格を導き出します。ここでの判断ミスは数十億、時には数百億円単位の損失につながる可能性があり、専門的知識と経験に基づく判断力が問われます。

また、クロスボーダーM&Aでは為替リスクへの対処も重要です。たとえば、円安進行が予測される局面での海外企業買収では、為替予約や通貨スワップといったヘッジ取引を組み込んだストラクチャーを設計することもあります。大規模な買収において数%の為替変動が数十億円の資金負担変化につながるケースでは、こうしたリスク管理スキームの有無が案件の成否を分けることもあるのです。

さらに、M&Aアドバイザリー部長は、法務、税務、財務、人事など様々な専門家との連携を図りながら、デューデリジェンス(買収監査)の過程で発見された問題点への対応策を練り、最適な買収ストラクチャーを構築します。契約書のレビューから最終的なクロージングまで、プロジェクト全体の指揮を執りながら、クライアントの戦略的目標達成をサポートするのです。

証券会社のM&Aアドバイザリー部長という役職は、案件を進行管理するだけでなく、クライアント企業の経営陣と深く関わり、時には「経営参謀」としての役割も担います。成功報酬型のビジネスモデルであるため、案件の成約に向けたプレッシャーはありますが、それ以上に、クライアントの長期的な成功に貢献するという責任と使命感が、この仕事の真髄なのです。

証券会社のM&Aアドバイザリー部長という ポジションの魅力

証券会社のM&Aアドバイザリー部長というポジションを目指す理由は、他の金融ビジネスにはない独自の魅力があるからです。まず第一に、M&Aは企業の「命運を左右する瞬間」に立ち会えるという点で唯一無二の仕事といえるでしょう。100年の歴史を持つ企業同士が合併するプロジェクトや、スタートアップ企業が大手上場企業に買収されるプロセスは、経済史に残る出来事となることも少なくありません。その歴史的瞬間の設計者になれるというのは、何物にも代えがたい体験です。

次に、知的挑戦の連続という側面があります。M&Aアドバイザリー業務では、財務分析、法務知識、税務戦略、産業動向分析、そして高度な交渉術まで、多岐にわたる専門知識を統合的に活用する必要があります。例えば、製薬企業の買収案件では、パイプライン(開発中の医薬品)の価値評価や特許満了リスクの分析など、専門性の高い判断が求められます。こうした複雑な問題解決に挑む知的興奮は、M&Aアドバイザリーという業務だからこそ得られる経験だといえるでしょう。一方、投資銀行の通常の株式引受業務やトレーディング業務と比較すると、M&Aアドバイザリー業務はクライアントとの長期的な関係構築に基づくビジネスモデルであるという特徴があります。一度信頼関係を築いたクライアントは、次の成長フェーズでも再び相談に訪れる可能性が高いです。この継続的な関係性は、単発的な取引だけでは得られない深い満足感をもたらします。

また、社会的インパクトという観点では、M&Aは企業の持続的成長や産業再編を通じて経済全体に貢献するという側面があります。例えば、技術を持つものの資金力に乏しいスタートアップ企業と、資金力はあるが新技術の開発に苦戦している大企業をマッチングすることで、イノベーションを加速させる—そんな「新しい価値の創造」にダイレクトに関わることができるのです。

さらに、M&Aアドバイザリー部長は、プロフェッショナルとしての成長にも恵まれています。多様な業界のM&A案件に携わることで、様々な産業の構造や動向、経営戦略について深い洞察を得ることができます。この広範な知見は、将来、経営コンサルタントや事業会社のCFO、さらには経営者として活躍する際にも大きな武器となるでしょう。

そして忘れてはならないのが、高い報酬です。M&A案件の成功報酬は案件規模に比例して大きくなるため、大型案件を成功に導けば数千万円のボーナスも夢ではありません。もちろん、それに見合う責任と緊張感を伴いますが、実力と成果が正当に評価されるという点では、最も能力主義が機能している職業の一つといえるでしょう。

M&Aアドバイザリー部長という役職は、ビジネスの創造性と専門性、社会的意義と個人的な報酬、すべてを高いレベルで追求できる、数少ないキャリアパスなのです

証券会社のM&Aアドバイザリー部長の 年間スケジュール例

証券会社のM&Aアドバイザリー部長は、案件獲得から実行までを統括し、チームマネジメントも担う重要なポジションです。年間を通じて多様な業務に取り組むスケジュール例を月別に解説します。

1月:年始の戦略立案と案件始動

年間計画・KPI設定(1〜2週目)

  • 部門予算と案件目標の決定:年間売上目標、案件数目標の設定
  • 人員計画とリソース配分:チーム編成、案件アサインメントの検討
  • 経営会議での年間計画プレゼン:戦略とKPIの経営陣への説明・承認取得

新年の案件活動(3〜4週目)

  • 年初の顧客挨拶回り:主要クライアントへの年始訪問、関係強化
  • 前年末クローズ案件の振り返り:成功事例の分析とチーム内共有
  • 年末年始に構想された案件の具体化:年末に芽出しした案件の本格始動

業界の動向調査

  • 業界再編動向の分析:各産業セクターの年間M&A予測レポート作成
  • 競合動向の定期チェック:主要競合他社の案件実績、人材動向の調査

2月:案件獲得の本格化と体制整備

営業活動の強化

  • 戦略的ターゲットへの集中アプローチ:重点顧客への提案活動
  • セミナー・イベントの企画:春季M&A動向セミナーの企画・準備
  • クロスセル機会の発掘:銀行・証券の他部門と連携した顧客アプローチ

人材育成・評価

  • 前年度評価の確定:チームメンバーの年次評価実施
  • キャリア面談の実施:部員との1on1ミーティング
  • 春の新卒・中途採用面接:採用活動への参画

案件管理

  • 案件パイプライン会議:四半期の案件見通し確認
  • 進行中案件のレビュー:主要案件の進捗状況確認と課題解決
  • 重要案件への直接関与:大型案件の交渉、ストラクチャリングへの参画

3月:期末案件クロージングと組織対応

期末案件クロージング

  • 3月期末クロージング案件の集中対応:日本企業の多くは3月決算のため、期末案件の完了に注力
  • クロージング関連の法務確認:最終契約書の精査、クロージング条件充足の確認
  • プレスリリース準備:顧客と共同でのプレスリリース作成支援

組織対応・人事

  • 組織改編対応:4月の組織変更準備(人事異動、報告ライン変更等)
  • 新年度予算の最終調整:経営陣との予算交渉、最終承認取得
  • ボーナス配分の最終決定:業績連動報酬の配分決定

ナレッジ整備

  • 期末案件の知見整理:完了案件からの学びをデータベース化
  • ピッチ資料の更新:最新の市場データ、完了案件実績の反映
  • バリュエーションモデルの更新:最新の財務指標への更新

4月:新年度始動と組織再編

新年度キックオフ

  • 部門キックオフミーティング:年度方針の共有、チーム目標の確認
  • 新メンバー歓迎・チーム再編:人事異動後の新体制始動
  • 大型案件の新規立ち上げ:新年度開始と共に準備していた案件の公式立ち上げ

教育・トレーニング

  • 新入社員研修への関与:新卒入社者向けM&A基礎研修の実施
  • スキル向上プログラムの開始:年間を通じた部内トレーニング開始
  • ローテーション計画の策定:若手育成のための案件アサイン計画

提案活動の強化

  • 第1四半期の提案活動計画:重点提案先の選定と戦略立案
  • 春季企業訪問計画の実行:経営層との面談アポイント取得
  • 業界特化型提案資料の改訂:セクター別M&A戦略提案資料の更新

5月:案件執行の本格化

案件執行

  • 進行中案件のデューデリジェンス対応:DD結果の分析と対応策検討
  • バリュエーション分析の深化:企業価値評価の精緻化作業
  • 交渉戦略の立案・実行:買収・売却の条件交渉サポート

マーケティング活動

  • 業界レポートの発行:セクター別M&A動向分析の公表
  • メディア対応:専門誌インタビュー、コメント提供
  • 顧客向けセミナーの実施:春季M&Aトレンドセミナーの開催

グローバル連携

  • グローバルM&A会議への参加:海外拠点との案件共有・連携強化
  • クロスボーダー案件パイプラインの構築:海外拠点との共同提案活動
  • グローバルナレッジの国内展開:海外事例の国内活用推進

6月:株主総会対応と上半期評価

株主総会関連対応

  • 顧客企業の株主総会サポート:M&A戦略に関する質問への回答準備支援
  • 対象企業の株主動向分析:アクティビスト対応の助言
  • 総会後の経営方針転換に伴う案件機会の発掘:戦略見直しに伴うM&A可能性の検討

上半期中間評価

  • 案件進捗の中間レビュー:上半期の案件進捗状況確認
  • KPI達成状況の確認:収益目標、案件数等の進捗確認
  • 下半期戦略の微調整:必要に応じた戦略・予算の見直し

リレーションシップ強化

  • 経営層ネットワーキング:業界団体の会合、社交イベントへの参加
  • 金融機関との連携強化:協業パートナーとの関係構築
  • アドバイザリーボード会議:外部専門家との意見交換会

7月:夏季プロジェクト集中期と中期計画

夏季案件の集中対応

  • 主要案件の集中推進:夏季休暇前の案件進捗加速
  • 競争入札案件の対応:入札プロセスの集中対応期間
  • クロスボーダー案件の現地訪問:海外デューデリジェンス、交渉のための出張

中期事業計画対応

  • 中期経営計画への参画:証券会社全体の中計策定プロセスへの参加
  • M&A部門の3ヵ年計画立案:中期的な組織・業務戦略の策定
  • 成長領域の特定と投資判断:注力セクター、地域の決定

リソース管理

  • 夏季休暇スケジュール調整:チーム全体の休暇計画と案件対応の調整
  • 繁忙期対応のための臨時増員検討:必要に応じた応援要請
  • 中途採用面接:増員のための採用活動

8月:夏季休暇期間対応と戦略的案件開発

夏季対応体制

  • 輪番制による案件カバレッジ確保:休暇中のバックアップ体制整備
  • 重要案件の進捗監視:休暇中も重要局面の案件には関与継続
  • 緊急対応のための待機:大型・複雑案件の緊急事態への対応

戦略的案件開発

  • 業界再編の構想立案:比較的静かな時期を利用した大型再編構想の検討
  • 非公式な打診・ネットワーキング:経営者の夏季休暇中の非公式面談
  • 秋季に向けた大型案件準備:下半期立ち上げ案件の準備

自己研鑽・情報収集

  • 専門知識のアップデート:最新のM&A技術、規制動向の学習
  • 業界調査の深掘り:特定セクターの集中調査
  • 海外マーケットの視察:グローバルトレンド把握のための出張

9月:秋季案件始動と中間決算対応

秋季案件の本格始動

  • 夏季に準備した案件の正式ローンチ:取締役会承認を経た案件の始動
  • プロセスレターの発出:M&Aプロセス開始の公式通知
  • データルーム設置:デューデリジェンス環境の整備

中間決算関連対応

  • 9月中間決算を踏まえた案件スケジュール調整:財務情報更新に伴う評価見直し
  • 上半期実績に基づくバリュエーション更新:企業価値評価モデルの更新
  • 決算発表前後の株価影響分析:公開企業案件の価格戦略見直し

採用・教育

  • キャンパスリクルーティング:大学訪問、採用イベント参加
  • 中途採用面接:部門強化のための経験者採用
  • 秋季トレーニングプログラム:チーム全体のスキルアップ研修

10月:案件執行のピークと来期計画の初期検討

案件執行の最盛期

  • 複数案件の並行推進:年内クロージング案件の集中推進
  • 重要交渉局面への参画:大型案件の重要交渉への直接参加
  • クロスボーダー案件の調整:国際案件の時差対応、海外出張

来期予算・計画の初期検討

  • 次年度予算の初期検討:収益見通し、費用計画の策定開始
  • 組織体制の見直し検討:効率的な組織構造の検討
  • 戦略的注力分野の特定:成長セクター、サービスラインの特定

業界イベント・カンファレンス

  • 業界カンファレンスへの登壇:専門家としての知見共有
  • 投資銀行部門全体会議への参加:部門横断的な情報共有と戦略調整
  • クライアント合同イベントの実施:業界再編セミナーの開催

競合分析・市場調査

  • 競合他社の案件動向分析:競合のディール実績のトラッキング
  • フィー水準の市場調査:アドバイザリーフィーの市場動向分析
  • 業界再編トレンドの予測レポート作成:翌年のM&A予測レポート準備

11月:年末案件の仕上げと次年度事業計画

年内クロージング案件の最終調整

  • 最終契約書の詰め:SPA(株式譲渡契約書)などの最終調整
  • クロージング条件の充足サポート:規制当局対応や第三者同意取得の支援
  • PMI(統合)計画レビュー:買収後の統合計画サポート

次年度事業計画の本格策定

  • 来期収益計画の立案:案件パイプラインに基づく収益予測
  • 人員計画と採用予算の策定:必要人材の特定と採用計画
  • 年次戦略レビュー会議:年間戦略の振り返りと来期方針策定

人材育成・評価

  • 年間業績評価の準備:評価資料の収集、上司・部下との面談
  • 昇進・昇格検討:部内昇進候補の選定
  • スキルギャップ分析:チーム全体のスキルマップ作成と強化計画

12月:年末クロージングラッシュと年間総括

年末クロージングラッシュ

  • 12月期末案件の集中クロージング:年内完了を目指す案件の最終調整
  • クロージング関連イベントへの参加:調印式、完了時イベントへの出席
  • リーガル書類の最終確認:クロージング関連書類の最終レビュー

年間総括と評価

  • 部門業績の確定作業:年間収益実績の確定
  • 年間KPI達成状況の最終確認:目標達成度の評価
  • チームメンバーの年間評価確定:業績評価・ボーナス査定の最終決定

年末ネットワーキング

  • クライアント年末挨拶回り:主要顧客への年末訪問
  • 部内年末会の開催:チーム内の功労者表彰、年末懇親会
  • 業界関係者との年末会合:弁護士、会計士など提携先との関係強化

月次定例業務:一年を通じた継続活動

M&Aアドバイザリー部長は上記の月別活動に加え、以下の定例業務を毎月継続的に実施しています。

案件管理とリソースアロケーション

  • 週次案件進捗会議:全案件の進捗状況確認(週1回)
  • リソース配分調整:案件の重要度・緊急度に応じた人員配置の最適化(随時)
  • パイプライン会議:案件見込みと可能性評価(月1回)

組織マネジメント

  • 部門マネジメント会議:部内幹部との運営会議(週1回)
  • 1on1ミーティング:直属部下との面談(隔週〜月1回)
  • 部門全体会議:全メンバーへの方針共有、情報連携(月1回)

リスク管理・コンプライアンス

  • コンフリクトチェック:利益相反確認(案件ごと)
  • 情報管理状況の確認:情報セキュリティ遵守状況の確認(月次)
  • コンプライアンス研修:規制変更時の周知・教育(四半期ごと)

証券会社のM&Aアドバイザリー部長の年間スケジュールは、一見すると整然と計画されたものに見えますが、実際には案件の突発的な進展や市場環境の変化に応じて絶えず調整が必要です。

真に優れたM&Aアドバイザリー部長は、こうした変化に柔軟に対応しながらも、組織の方向性と成長戦略を一貫して維持する能力を持っています。「今日の案件」と「明日の組織」の双方に目を配り、短期的な収益と長期的な競争力の両立を図る戦略的思考の持ち主なのです。

年間を通じた業務サイクルを理解し、適切なタイミングで適切なアクションを取ることができるリーダーシップが、激しく変化するM&A市場において持続的な成功を収める鍵となります。

証券会社のM&Aアドバイザリー部長の 重要任務

証券会社のM&Aアドバイザリー部長は、組織内外で多様な役割を担っていますが、特に重要な3つの任務を詳しく解説します。

 

1.収益創出とビジネス開発

M&Aアドバイザリービジネスの本質は収益創出にあり、部長の最重要任務は安定的な案件獲得と収益確保です。

戦略的クライアントリレーションシップの構築

  • 経営層との関係構築:顧客企業のCEO、CFOとの信頼関係の確立と維持
  • 長期的アドバイザリーポジションの獲得:単発案件ではなく、継続的な戦略アドバイザーとしての地位を確立
  • 社内他部門との連携によるクロスセル:資金調達、債券発行等の関連サービスへの展開

実行力・遂行力力を通じた市場評価向上

  • 複雑案件の成功実績の構築:難易度の高い案件の完遂による市場での評価獲得
  • 業界特化型知見の発揮:特定セクターにおける専門性の発揮と深化
  • 高品質なデリバリーの一貫性確保:全案件を通じた高水準のサービス提供

2.組織・人材の最適化とチーム構築

M&Aアドバイザリービジネスはピープルビジネスの側面が強く、高度な専門性を持つ人材の育成・維持・最適配置が部門の競争力を左右します。

戦略的人材獲得・育成

  • 次世代リーダーの育成:将来の部門リーダーとなる人材の特定と計画的育成
  • 多様なバックグラウンドの人材確保:業界専門性、技術知識など多様なスキルセットの確保
  • 高度専門人材の採用・定着:M&Aの専門スキルを持つ人材の獲得と維持

最適なチーム構造とリソース配分

  • 案件の重要度に応じた人員配置:大型・複雑案件への適切なリソース配分
  • 業界セクターチーム編成:業界専門性に基づくチーム構成の最適化
  • プロダクト(LBO、クロスボーダー等)と業界の掛け合わせ体制構築:専門性の交差による競争優位の確立

3.案件品質管理と戦略的判断

M&Aアドバイザリー業務の品質管理と、複雑な案件における戦略的判断の適切な実行は、部門の評判と将来の案件獲得に直結します。

案件の品質とリスク管理

  • エグゼキューション品質の確保:全案件の一貫した高品質サービス提供の監督
  • 複雑案件における課題予見と対応:潜在的問題の早期特定と解決策の提供
  • リスク管理とレピュテーション保護:利益相反管理、情報管理の徹底

重要局面での戦略的判断

  • 案件選別と優先順位付け:限られたリソースの中での案件取捨選択
  • クリティカルな交渉局面での判断:重要条件交渉における最終判断
  • 困難局面でのクライアントへの率直な助言:必要に応じた「No」と伝える勇気

これら3つの重要任務は相互に密接に関連しています。

  • 収益創出は人材確保の原資となり、案件品質管理の実績が次の収益創出機会を生み出す
  • 優秀な人材が高品質な案件執行を可能にし、それが評判と収益機会につながる
  • 戦略的判断力が適切な案件選別とリソース配分を導き、組織の持続的成長を支える

証券会社のM&Aアドバイザリー部長の真価は、これら3つの重要任務をバランスよく遂行する能力にあります。短期的な収益追求と長期的な組織構築のバランス、クライアントニーズと自社利益のバランス、拡大と質の確保のバランスを取りながら、常に先を見据えた判断を下していくことが求められます。

M&Aアドバイザリー部長は、この3つの任務を単独で捉えるのではなく、統合的な全体像として理解し、日々の判断と行動に反映させています。「今日の案件」と「明日の組織」の両方に目を配り、短期・中期・長期の時間軸を同時に管理する能力を持った、真の戦略的リーダーなのです。

証券会社のM&Aアドバイザリー部長の 報酬水準

証券会社のM&Aアドバイザリー部長の報酬は、企業規模、マーケット環境、個人実績などによって大きく変動します。以下では、市場水準の概要と構成要素を詳しく解説します。

報酬の全体構造

M&Aアドバイザリー部長の報酬は通常、以下の要素で構成されています。

  • 基本給(固定報酬)
  • 年次ボーナス(変動報酬)
  • 長期インセンティブ(株式報酬など)
  • 福利厚生・その他手当

日本市場における報酬水準

国内大手証券会社(メガバンク系など)

  • 年間総報酬レンジ: 
    • 基本給: 1,500万円〜3,000万円
    • 年次ボーナス: 2,000万円〜8,000万円(実績により大きく変動)
    • 長期インセンティブ: 500万円〜1,000万円相当

外資系証券会社(日本法人)

  • 年間総報酬レンジ: 
    • 基本給: 2,500万円〜4,000万円
    • 年次ボーナス: 5,000万円〜2億円(市場環境と個人実績により大幅変動)
    • 長期インセンティブ: 1,000万円〜3,000万円相当(株式報酬など)

M&Aブティック

  • 年間総報酬レンジ: 
    • 基本給: 1,500万円〜3,500万円
    • 年次ボーナス: 3,000万円〜1億5,000万円(案件貢献度に直結)
    • 長期インセンティブ: パートナーシップ構造の場合は利益配分あり

報酬構成の特徴と傾向

変動報酬の比率が高い

M&Aアドバイザリー部門では、総報酬に占める変動報酬(ボーナス)の比率が非常に高いのが特徴です。好調な年は固定給の数倍のボーナスを得ることもありますが、不調な年は大幅に減少することもあります。

  • 国内証券: 変動報酬が総報酬の50〜70%
  • 外資系証券: 変動報酬が総報酬の60〜80%
  • ブティック: 変動報酬が総報酬の70〜90%

業界動向と市場環境の影響

M&A市場の活況・不況は報酬水準に直接的な影響を与えます。

  • 好調市場時: 上記レンジの上限または超過
  • 不調市場時: 下限またはそれ以下

企業規模・案件規模による違い

  • 大型案件(案件規模1,000億円以上)を扱う部門: より高い報酬水準
  • 中小規模案件中心の部門: 相対的に控えめな報酬水準

長期インセンティブの傾向

近年は長期インセンティブの比重が増加傾向にあります。

  • 繰延ボーナス: 年次ボーナスの一部を3〜5年かけて支給
  • 株式報酬: 自社株式やストックオプションの付与
  • 長期パフォーマンスプラン: 3〜5年の業績に連動した報酬

金融業界の役員レベルにおいて長期インセンティブ比率は増加傾向にあり、特に上場企業ではこの傾向が顕著です。証券会社においてもこのような流れの影響を受け、長期インセンティブの比重が大きくなっていると考えられます。

部長ポジションの役割範囲による差異

「M&Aアドバイザリー部長」の役割範囲は会社によって異なり、報酬にも差が生じます。

  • エグゼクティブディレクター/マネージングディレクター級: 上記レンジの上位〜超過
  • ディレクター級の部長: 上記レンジの中位〜下位
  • バイスプレジデント級の部長: 上記レンジを下回る場合も

将来動向

M&Aアドバイザリー部長の報酬に関する将来動向としては以下が予測されます。

  • 業績連動性の強化: 固定給と変動給の差がさらに拡大
  • 長期インセンティブの増加: 人材定着と長期的視点の促進
  • ESG指標の組み込み: サステナビリティ目標の達成を報酬に連動
  • 専門性プレミアム: 特定業界に特化した専門知識への報酬上乗せ

証券会社のM&Aアドバイザリー部長の 代表的な会社

日本の証券業界では、M&Aアドバイザリーを重要な収益源として位置づけています。以下に、代表的な証券会社5社を紹介します。

1.野村證券

特徴

  • 日本最大の証券会社としての強固な国内ネットワークを活かした案件開発力
  • 海外拠点とも連携したクロスボーダーM&A案件の取り扱い実績
  • 多数の上場企業とのリレーションシップを活用した大型案件の実績

2.大和証券

特徴

  • 中堅・中小企業向けM&Aにも注力
  • 事業承継・後継者問題に関するアドバイザリーの強化
  • 国内地方銀行とのネットワークを活用した案件ソーシング

3.みずほ証券

特徴

  • みずほ銀行との協業による融資とM&Aの一体提案
  • メガバンクグループのネットワークを活かした案件開発
  • クロスボーダー案件における海外拠点との連携

4.SMBC日興証券

特徴

  • 三井住友銀行の顧客基盤を活用した案件開発
  • 中堅企業の海外進出支援に注力
  • アジア地域における案件ネットワークの強み

5.三菱UFJモルガン・スタンレー証券

特徴

  • 日本の金融グループとグローバル投資銀行の双方の強みを活かしたハイブリッド型のアドバイス
  • グローバルなM&A案件の知見とローカルな関係性の両立
  • 大型クロスボーダー案件における豊富な実績

組織名称と役職の特徴

日本の証券会社における「M&Aアドバイザリー部長」に相当する役職名は、会社によって以下のようにさまざまな呼称があります:

  • M&Aアドバイザリー部長
  • M&A・ソリューション部長
  • M&Aアドバイザリー・グループ長
  • 投資銀行本部M&A部長
  • フィナンシャル・アドバイザリー部長

また、外資系証券会社の日本法人(JPモルガン証券、ゴールドマン・サックス証券など)では、「マネージングディレクター(MD)」や「エグゼクティブディレクター(ED)」といった役職名が使われることが一般的で、必ずしも「部長」という肩書きが使われないケースも多いことが特徴です。

各社とも、M&Aアドバイザリー業務の重要性の高まりを受けて、専門性の高い部門を設置し、経験豊富な人材を部門責任者として配置する傾向が強まっています。

証券会社のM&Aアドバイザリー部長に 向いている人は、どんな人?

■求められるマインド

M&Aアドバイザリー部長には、高度な専門知識やスキルだけでなく、特有のマインドセットが求められます。成功している部長たちに共通する思考様式と価値観を深掘りします。

1.クライアント中心主義の徹底

長期的信頼関係への投資マインド

  • 短期的利益より長期的関係を優先する姿勢

真のアドバイザーとしての誠実性

  • 必要なときは「No」と言える勇気

視点の転換力

  • クライアントの立場で考え抜く習慣

2.戦略的思考と広い視野

マルチタイムフレーム思考

  • 短期・中期・長期の複数時間軸の同時管理

産業構造を読み解く洞察力

  • 業界変革の本質を見抜く目

マクロ・ミクロの往復思考

  • 全体像と細部を行き来する思考の柔軟性

3.高度な判断力とリスク感覚

ビジネスジャッジメント

  • 限られた情報から最適な判断を導く決断力

リスク感覚の鋭敏さ

  • 潜在的問題を先回りして察知する能力

バランス感覚

  • 相反する要素の最適バランスを見出す知恵

4.高いレジリエンスと精神的強靭さ

ストレス耐性

  • 極度のプレッシャー下でも冷静さを保つ精神力

挫折からの回復力

  • 失敗を糧に成長するマインドセット

長期的視点での自己管理

  • マラソンランナーのような持続力

5.組織開発者としての意識

人材育成への情熱

  • 次世代リーダー育成を自らの責務と捉える姿勢

チーム優先の謙虚さ

  • 成功をチームの功績とする謙虚さ

多様性を活かす包容力

  • 異なる視点や背景を強みに変える思考

6.学び続ける姿勢

知的好奇心の持続

  • 業界・経済・社会への広範な関心

成功体験からの脱却力

  • 過去の成功に縛られない柔軟性

フィードバックへの開放性

  • 批判を受け入れ、改善する謙虚さ

7.高潔さと倫理観

揺るがない倫理基準

  • グレーゾーンでも倫理的判断を貫く強さ

透明性へのコミットメント

  • オープンで誠実なコミュニケーション

責任感の強さ

  • 最終的な責任は自分にあるという覚悟

成功するM&Aアドバイザリー部長は、これらのマインドセットを状況に応じて適切に発揮できる「状況適応型リーダーシップ」を備えています。単一の思考様式に固執するのではなく、環境や状況に応じて最適なマインドに切り替える力が求められます。

M&Aアドバイザリー部長は、こうしたマインドセットを日々の判断や行動に浸透させ、それをチーム全体にも伝播させていきます。最終的には、「部長個人のマインド」から「部門全体の文化」へと昇華させることで、持続的な組織力と市場での評価を構築していくのです。

■必要なスキル

証券会社のM&Aアドバイザリー部長という重要ポジションには、多層的かつ高度なスキルセットが求められます。ビジネス開発から人材マネジメント、専門的分析力まで、その職責を全うするために必要とされる主要スキルを体系的に解説します。

1.専門的・技術的スキル

財務分析・企業価値評価能力

  • 高度なバリュエーションスキル
    DCF法、マルチプル法、LBO分析、事業価値・株主価値評価など、さまざまな手法を駆使できることが必要です。特に複雑な事業構造や新興産業の評価においては、標準的手法の限界を理解した上での応用力が求められます。
  • 財務モデリングの深い理解
    複雑な財務モデルを構築・分析する能力と、そのモデルの前提条件や感応度を瞬時に理解する力が必要です。計算に加え、数字の背後にある事業の実態を読み解く洞察力が求められます。

ディールストラクチャリング力

  • 取引スキームの設計能力
    M&Aの法的・税務的・財務的側面を統合的に踏まえた最適な取引スキームを設計する能力です。株式取得、事業譲渡、会社分割、三角合併など様々な手法の長所・短所を理解し、クライアントの状況に最適な提案ができることが求められます。
  • 複雑な条件設計力
    アーンアウト条項、表明保証、補償条項、競業避止義務など、契約上の複雑な条件を理解し、交渉の中で戦略的に活用できる能力が必要です。

産業・セクター分析力

  • 業界構造の深い理解
    対象となる産業の競争環境、バリューチェーン、規制環境、テクノロジートレンドを体系的に理解し、M&A戦略に反映できる能力です。一般論だけでなく、特定産業における深い専門知識が求められます。
  • 事業シナジー分析力
    コスト削減、収益向上、市場拡大などのシナジー効果を具体的に算出し、説得力ある形で提示できる能力です。同時に、非現実的なシナジー期待に警鐘を鳴らせる冷静な判断力も必要です。

2.戦略的・ビジネス開発スキル

案件開発・ソーシング能力

  • 関係構築を通じたオリジネーション力
    企業経営者やオーナーとの関係構築を通じて、競合他社に先駆けて案件情報を獲得する能力です。このスキルは営業力に加え、経営者との深い対話から潜在的なM&Aニーズを掘り起こす洞察力を含みます。
  • 戦略的アプローチ設計力
    特定セクターや企業群に対する系統的なアプローチ戦略を立案・実行できる能力です。散発的な営業活動ではなく、中長期的な視点での関係構築プランが求められます。

戦略的助言能力

  • 経営戦略の文脈でのM&A位置づけ
    M&A単体ではなく、クライアント企業の全社戦略の中でM&Aをどう位置づけるかについて助言できる能力です。買収後の統合計画や中長期的な事業展開までを見据えた提案力が必要です。
  • 代替案提示能力
    M&A以外の戦略的選択肢(アライアンス、合弁、有機的成長など)も含めた総合的な視点から最適解を提示できる能力です。「M&Aありき」ではない中立的な立場からの助言ができることが信頼獲得につながります。

マーケット感覚・タイミング判断

  • 市場サイクルの読解力
    業界再編の波、資金調達環境、規制変化などM&A市場の循環を読み解き、最適なタイミングでクライアントに行動を促す判断力です。
  • 競合バイヤー・セラー分析力
    潜在的な買い手・売り手の動向を予測し、競合状況に応じた戦略調整ができる能力です。競争環境の中で優位に立つための戦略的助言が求められます。

3.対人・交渉スキル

高度な交渉力

  • マルチステークホルダー交渉力
    買い手・売り手双方だけでなく、その背後にいる株主、取締役会、従業員、規制当局など複数の利害関係者を考慮した交渉を進める能力です。
  • 創造的問題解決力
    交渉の行き詰まりを打開する創造的な解決策を提案できる能力です。価格以外の条件(支払条件、ガバナンス、経営陣の処遇など)を組み合わせた包括的な解決策を見出す力が求められます。

リレーションシップ・マネジメント

  • C級役員との関係構築力
    企業のCEO、CFO、取締役などトップレベルの意思決定者との信頼関係を構築・維持する能力です。真の意図や懸念を引き出し、それに応える提案ができることが必要です。
  • 長期的信頼関係の構築能力
    単発の取引を超えた長期的なアドバイザリー関係を構築できる能力です。クライアントの事業環境や戦略的課題を継続的に理解し、適切なタイミングで価値ある提案ができることが求められます。

コミュニケーション・説明能力

  • 複雑な情報の明確な伝達力
    複雑な財務分析や取引ストラクチャーを、財務の専門知識がない経営陣にも理解できるよう説明する能力です。専門用語に頼らず、本質を伝える力が求められます。
  • 説得力のあるプレゼンテーション能力
    取締役会や投資委員会といった重要な意思決定の場で、明確かつ説得力のある形で提案を行う能力です。質疑応答での即応力も含まれます。

4.リーダーシップ・組織管理スキル

チームマネジメント

  • 高度な人材マネジメント能力
    専門性の高い優秀なプロフェッショナル集団を効果的に率いる能力です。自律性を尊重しながらも、チーム全体としての成果を最大化するリーダーシップが求められます。
  • チーム編成力
    案件の特性や難易度に応じて最適なチーム編成を行い、リソースを効率的に配分する能力です。誰がどの案件に適しているかを見極める人材把握力が必要です。

人材育成・開発力

  • 次世代リーダー育成能力
    若手・中堅社員の専門性と人間力を同時に育成し、将来の部門リーダーを育てる能力です。日常業務の中でも教育的視点を持ち、成長機会を提供することが求められます。
  • フィードバック提供能力
    建設的かつ具体的なフィードバックを通じて部下の成長を促進する能力です。厳しい指摘も成長につなげる形で伝える技術が必要です。

危機管理・難局対応力

  • 高プレッシャー状況での意思決定能力
    案件の危機的状況において冷静に判断し、必要な決断を迅速に下せる能力です。不確実性の高い状況下でも方向性を示し、チームを導く力が求められます。
  • 失注・案件中止時の対応力
    案件の失注や中止という逆境においても、チームのモチベーションを維持し、学びを次につなげられる回復力です。

5.組織横断・社内調整スキル

クロス部門連携力

  • 社内リソース動員能力
    法務、税務、業種別専門チーム、リサーチ部門など社内の様々なリソースを効果的に案件に動員する能力です。特に大型案件では、複数部署の連携が不可欠です。
  • 社内政治力
    社内の複雑な利害関係や部門間の競争を理解し、案件の成功に必要な支援を獲得する能力です。資源配分や案件クレジットを巡る調整力が求められます。

利益相反管理能力

  • コンフリクト検出・対応力
    潜在的な利益相反を早期に発見し、適切に管理する能力です。特に大手証券会社では複数のクライアントが競合する場合もあり、繊細な対応が必要です。
  • インフォメーションバリア構築力
    組織内での情報隔壁を適切に設定・維持し、機密情報の適切な管理を行う能力です。コンプライアンス要件を満たしつつ、業務効率も確保するバランス感覚が求められます。

6.ビジネス・インテリジェンススキル

市場・競合分析力

  • 情報収集・分析能力
    公開情報、業界ネットワーク、専門情報サービスなど様々なソースから関連情報を収集・分析し、案件や提案に活かす能力です。
  • 競合他社の動向把握力
    競合するアドバイザリーファームの強み・弱み、活動状況を把握し、差別化戦略を立案する能力です。競合分析に基づいた戦略的ポジショニングが求められます。

グローバル情勢理解力

  • 地政学リスク分析力
    国際的な政治・経済動向がクロスボーダー案件に与える影響を分析できる能力です。規制環境の変化や地政学的リスクを先読みする洞察力が必要です。
  • 異文化理解力
    異なるビジネス文化や交渉スタイルを理解し、クロスボーダー案件での摩擦を最小化する能力です。特に日本企業の海外展開や外国企業の日本進出案件では不可欠です。

7.テクニカル・デジタルスキル

データアナリティクス活用力

  • データ駆動型分析能力
    大量のデータを分析し、有意義なインサイトを抽出する能力です。市場傾向分析やターゲット選定においてデータを戦略的に活用できることが求められます。
  • 専門分析ツール活用力
    Capital IQ、Bloomberg、Mergermarket、Pitchbookなど、専門的な財務・M&A情報プラットフォームを効果的に活用する能力です。

デジタルツール活用力

  • バーチャルデータルーム管理能力
    デューデリジェンスプロセスにおけるデジタルプラットフォームの効果的な活用と管理能力です。特にコロナ禍以降、リモート環境でのデューデリジェンス管理スキルの重要性が高まっています。
  • プロジェクト管理ツール活用能力
    複雑な案件プロセスを効率的に管理するためのデジタルツールの活用能力です。多数のワークストリームを並行して管理する際の効率化が求められます。

8.コンプライアンス・倫理スキル

規制対応・法令理解力

  • 証券取引法・金融規制理解
    証券取引法、FIEA(金融商品取引法)、独占禁止法などM&Aに関連する法規制の深い理解です。特に上場企業案件や規制産業の案件では不可欠です。
  • コンプライアンス管理能力
    社内コンプライアンス要件を満たしつつ、効率的に業務を進める能力です。特に利益相反管理や情報管理においてバランスの取れた判断が求められます。

倫理的判断力

  • グレーゾーンでの判断能力
    明確な規則がない状況でも、倫理的に適切な判断を下せる能力です。短期的な利益と長期的な信頼・評判のバランスを取る判断力が求められます。
  • クライアント利益最優先の実践
    自社の利益よりもクライアントの最善の利益を優先する判断ができる能力です。時にはクライアントにとって最適な選択が自社の短期的利益と相反する場合もあります。

 M&Aアドバイザリー部長に求められるのは、これら個別スキルの集合体ではなく、状況に応じて適切なスキルを統合的に発揮できる能力です。最終的に、M&Aアドバイザリー部長としての真の差別化要因になるのは、これらすべてのスキルを状況に応じて適切に組み合わせながら、クライアントの真のニーズに焦点を当て、一貫して価値を提供し続ける能力にあります。取引執行者としてだけでなく、クライアントのビジネスと戦略を深く理解した上で、長期的視点から最適な助言を提供できる「信頼されるアドバイザー」となるためのスキルセットが、今日のM&Aアドバイザリー部長には求められているのです。

M&Aアドバイザリー部長は、技術的スキル、対人スキル、戦略的思考、リーダーシップを統合し、その組織とクライアントにとって計り知れない価値を創出します。それはただの職業ではなく、ビジネス・リーダーシップの芸術と言えるでしょう。

証券会社のM&Aアドバイザリー部長までの 道のり

M&Aアドバイザリー部長というポジションに至るまでの道筋は一つではありません。最も典型的なのは、証券会社のM&Aアドバイザリー部門内でキャリアを積み上げていくパターンですが、他部署からの転入や、他業種からの転職など、様々なルートが存在します。

まず、M&Aアドバイザリー部長の直前ポジションとしては、「 バイスプレジデント(VP)」「ディレクター」などの役職が考えられます。このクラスでは、すでに案件執行の中核的な役割を担い、クライアントとの関係構築やチームマネジメントの経験を積んでいます。部長への昇進には、安定した案件獲得実績(ソーシング力)やチームへの貢献度、専門性の高さなどが評価されます。

そのさらに手前には、「アソシエイト」があります。アソシエイトは財務モデリングやデューデリジェンス資料の作成など、案件執行の実務を担当します。この段階では、分析の正確さや論理的思考力、効率的な業務遂行能力などが評価されます。アソシエイトからVPへの昇格には通常3〜5年程度を要し、その間に主要なM&Aプロセスを一通り経験することが求められます。

さらにその手前は「アナリスト」です。新卒や第二新卒で入社した場合、多くはこのポジションからスタートします。アナリストはチームの一員として、財務データの収集・整理、プレゼン資料の作成補助などを担当します。この段階で基本的な財務分析スキルやビジネスマナーを身につけることが重要です。

ただし、M&Aアドバイザリー部長に至るキャリアパスは、必ずしもM&Aアドバイザリー部門の中だけで完結するわけではありません。例えば、以下のような経路も考えられます。

  • 事業会社のM&A担当者からの転職

大手事業会社で企業買収や事業提携を担当していた方が、その経験と業界知識を活かして証券会社のM&Aアドバイザリー部門に転職するケースです。特に業界特化型のM&Aチームでは、その業界での実務経験が高く評価されることがあります。

  • 戦略コンサルティングファームからの転職

戦略コンサルティングファームでM&A関連のプロジェクトに携わっていた方が、より実行フェーズに近いM&Aアドバイザリー部門に転身するケースです。戦略立案能力や論理的思考力が武器となります。

  • 会計事務所・監査法人からの転職

公認会計士としてM&A関連のフィナンシャル・デューデリジェンスやバリュエーション業務に携わっていた方が、M&Aアドバイザリー部門に転じるケースです。財務・会計面での専門性が強みとなります。

  • 弁護士からの転職

M&A案件を法務面からサポートしていた弁護士が、より事業面・財務面からM&Aに関わりたいとの思いからアドバイザリー業務に転身するケースです。契約実務の知見が差別化要因となります。

これらの経路を総合すると、「若手時代にどのような職種・業務を経験しておけば、M&Aアドバイザリー部長を目指しやすいか」という問いに対しては、次のようなアドバイスが考えられます。

  • 財務・会計の基礎をしっかりと身につける: どのような経路を辿るにしても、財務諸表を読み解き、企業価値評価ができる力は必須です。公認会計士や米国CPA、証券アナリスト資格などの取得も有効でしょう。
  • 特定業界の専門知識を深める: M&Aアドバイザリーでは、業界特化型のチーム編成が一般的です。自動車、IT、医薬品など特定業界でのキャリアを積むことで、その業界のM&A専門家としての道が開けます。
  • 交渉力とコミュニケーション能力を磨く: M&Aは最終的には「人と人との取引」です。数字に強いだけでなく、対人スキルを磨くことが重要です。
  • 英語力を強化する: グローバルなM&A案件に携わるためには、高度な英語力が不可欠です。留学や海外勤務の経験も大きなアドバンテージとなります。
  • 幅広いビジネスネットワークを構築する: M&Aアドバイザリー業務では、案件情報の獲得が成功の鍵を握ります。業界内外の人脈を広げることが将来の財産となります。

M&Aアドバイザリー部長を目指すキャリアパスは決して平坦ではありませんが、着実にスキルを磨き、実績を積み重ねていけば、十分に実現可能な目標です。様々な経路から到達できるというのも、この職種の魅力の一つといえるでしょう。

証券会社のM&Aアドバイザリー部長の キャリアパスの展望

M&Aアドバイザリー部長という役職では、ビジネスパーソンとして最高峰レベルのスキルを総合的に磨くことができます。それらは将来のキャリアにおいても極めて価値の高い資産となるでしょう。

まず筆頭に挙げられるのは「戦略的思考力」です。M&Aは企業の中長期戦略と密接に結びついており、クライアントの競争環境分析から将来の成長シナリオまでを見据えた提案が求められます。例えば、「この業界は今後5年でどのように変化するか」「競合他社の次の一手は何か」といった問いに対する洞察力は、M&Aアドバイザリー業務の中で自然と鍛えられていきます。この能力は、将来どのようなキャリアを選択するにしても、最も普遍的で価値の高いコンピテンシーとなるでしょう。

次に、「財務モデリングとバリュエーション」のスキルがあります。企業価値評価の専門知識は、M&Aの世界では基本中の基本ですが、その応用範囲は極めて広いものです。DCF法による将来キャッシュフローの予測、シナジー効果の定量化、LBO(レバレッジド・バイアウト)モデルの構築など、高度な財務分析能力は、投資判断や経営判断の土台となります。

また、クライアントとのコミュニケーションや相手企業との交渉を通じて培われる高度な対人スキルも特筆すべき点です。M&A交渉は時に厳しい局面を迎えることもありますが、そうした状況でも冷静に対応し、双方にとって最適な着地点を見出す能力は、どんなビジネスシーンでも強力な武器となります。

さらに、法務、税務、会計、業界規制など多様な専門分野を横断的に理解するクロスボーダーな知識も身につきます。M&A案件では、これらの要素が複雑に絡み合うため、各分野の専門家と効果的に協働するための共通言語を習得することになります。

M&Aアドバイザリー部長としての経験を積んだ後のキャリアパスは、実に多様です。まず、証券会社内でのさらなる昇進があります。M&A部門のトップや投資銀行部門全体の責任者といったポジションを目指すことができるでしょう。また、M&A業務で培った知見と人脈を活かし、プライベートエクイティファンドやベンチャーキャピタルに転じる選択肢もあります。実際に買い手として投資判断を行い、投資先企業の価値向上に直接関与するというやりがいがあります。

あるいは、事業会社のCFO(最高財務責任者)や経営企画部門の責任者として転身するケースも珍しくありません。M&Aアドバイザーとして多くの企業の財務戦略や成長戦略に携わった経験は、事業会社の経営層においても極めて価値の高いバックグラウンドとなります。

特筆すべきは、M&Aアドバイザリー部長の経験者が起業家として成功するケースも少なくないという点です。多様な業界の成功企業や失敗企業を間近で観察してきた経験は、自らビジネスを創造する際の貴重な知見となります。

証券会社のM&Aアドバイザリー部長としてのキャリアは、金融業界内でのさらなる飛躍はもちろん、事業会社の経営幹部、コンサルティング会社のパートナー、さらには独立起業など、様々な方向への発展可能性を秘めています。実際に、大手証券会社のM&Aアドバイザリー出身者が、後にクライアント企業のCFOに招聘されるケースや、独立してM&Aブティックファームを立ち上げるケースは数多く見られます。

また、近年ではM&A仲介プラットフォームやFinTech系のスタートアップを創業する例も増えており、テクノロジーとM&A知見を掛け合わせた新たなビジネスモデルの開拓者となる道も開かれています。M&Aアドバイザリー部長としての経験は、ビジネスの本質と企業価値創造のメカニズムを理解する絶好の機会であり、その知見はどのようなキャリアパスを選択するにしても、かけがえのない資産となるでしょう。

まとめ

役割と責任

  • 一件のM&A案件は、時に数千億円もの価値を持ち、数百人から数万人の従業員の未来を左右します。そのような重要な局面で、クライアント企業の意思決定者と並走し、最適な道筋を示す
  • 戦略的思考力と専門知識、そして確かな交渉力と人間力を武器に、企業の新たな歴史を創り出す
  • 案件を進行管理するだけでなく、クライアント企業の経営陣と深く関わり、時には「経営参謀」としての役割も担う
  • 成功報酬型のビジネスモデルであるため、案件の成約に向けたプレッシャーはあるが、それ以上に、クライアントの長期的な成功に貢献する責任と使命感

求められるマインドやスキル

  • マインドセットを状況に応じて適切に発揮できる「状況適応型リーダーシップ」を備える
  • 単一の思考様式に固執するのではなく、環境や状況に応じて最適なマインドを選択・統合する能力が求められる
  • クライアントの真のニーズに焦点を当て、一貫して価値を提供し続ける能力
  • 技術的スキル、対人スキル、戦略的思考、リーダーシップを統合し、その組織とクライアントにとって計り知れない価値を創出

重要な職務

  • 収益創出とビジネス開発
  • 組織・人材の最適化とチーム構築
  • 案件品質管理と戦略的判断

キャリアパス

  • M&Aアドバイザリー部 アナリスト⇒アソシエイト⇒ シニアアソシエイト・リーダー⇒ディレクター・マネージャー⇒部長
  • 事業会社のM&A担当者や戦略コンサルティングファームからの転職
  • M&A部門のトップや投資銀行部門全体の責任者、起業家、事業会社の経営幹部、コンサルティング会社のパートナーなどへ転身