経理・財務・会計ファイナンス人材のためのキャリア名鑑
自らの判断が投資家の資産を守り、市場全体の健全性・透明性につながる
企業のIPOに至るプロセスに欠かせない役割と責任
企業成長と公正な市場の未来をつなぐキャリア
700万円~1,300万円
※業績や評価によって変動
27歳~45歳
「上場」という言葉は多くの企業や投資家にとって夢や目標、そして責任を意味します。日本取引所自主規制法人(JPX-R)の上場審査部担当者は、まさにその“市場の入り口”に存在し、公正なルールと精緻な審査をもって、日本経済の公正性と信頼を守る重要な役割を担っています。新規上場申請企業が本当に市場に迎え入れるべき存在か、さまざまな角度から緻密にチェックする“最初のゲートキーパー”です。
担当者の日常業務の中心となるのは、上場を志す企業の申請書類やビジネスモデル、財務諸表、ガバナンス体制、さらには反社会的勢力との関係性まで、多岐にわたる項目を徹底的に評価・審査することです。企業へのヒアリングや現地調査を通して実態や成長性、リスク要因を見抜く目利き力が求められます。担当者は、表面的な数字や説明に頼らず、たとえば売上の急増が一過性でないか、内部統制や法令順守が形骸化していないか、第三者からの信頼が本当に得られているか等、あらゆる角度から本質を見極める姿勢が欠かせません。
リスク管理の観点では、不祥事や粉飾決算、コンプライアンス違反を未然に防ぐためのシミュレーションや想定を日常的に実施します。たとえば、最近増加するスタートアップ企業では、成長スピードに内部管理体制が追いついているか、資金調達履歴の透明性など、将来のリスクを想定し、疑義があれば追加資料の提出や追加ヒアリングを要請します。また社会情勢に即応し、反社チェックや海外拠点関連のリスク評価も強化されています。
日々の業務では申請企業との綿密なコミュニケーションも不可欠です。証券会社や監査法人と連携しつつ、「提出書類の修正指示」「審査方針のすり合わせ」「市場関係者への説明責任」など、タイムリーかつ適切なリスクコントロールが行われています。一つの案件には複数スタッフが関わり、意見交換やダブルチェック体制によって判断の公正性が保たれています。
この現場では正確さ・公平性とスピード感のバランス、そして社会にとって信頼できる企業を選ぶという誇りと使命感が何より大切です。日本の資本市場全体を支え、投資家・企業双方の期待に応えるというやりがいにあふれた仕事と言えるでしょう。
上場審査部担当者という仕事には、他にはないスケール感と社会的意義の高さが詰まっています。このポジションの最大の醍醐味は、日本の資本市場に上場する新たな企業群と直接対峙し、その成長・信頼を自らの審査で支えるという唯一無二の経験です。
まず、年間で何十件もの新規上場プロジェクトを担当し、各企業のビジネスモデルやテクノロジー、成長戦略、リーダーシップを肌で感じられる場は他職種にはない魅力です。日本経済の未来を担うスタートアップや老舗企業の新たな挑戦に、審査担当者は最初に向き合う「市場側の目」となります。それは、会社法・金融商品取引法・東京証券取引所規則などマルチな法的知識から、産業トレンド・資本政策・ESG要素まで、幅広い知見を磨き続ける刺激的なキャリアです。
また、「上場の許可・不許可」という、市場にとって極めて重い意思決定へ間接的にコミットできる影響力の大きさも魅力です。自らの判断が数万人・数十万人の投資家の資産を守り、市場全体の健全性・透明性につながるという誇りがあります。不正や粉飾、グレーな事象を見抜く責任も重いですが、その見識と胆力は何物にも変えがたい成長につながります。
「社内監査」や「証券会社の引受審査」と比べ、取引所独自の中立性・社会的責任・全体感を持った審査経験ができるのはJPX-Rならではです。現場では他職種、多様な背景を持つプロフェッショナルたちと切磋琢磨する環境が用意されており、個人としても組織としても高度な成長・研鑽の機会が広がっています。
また、ESGやSDGsへの関心が高まる昨今、審査観点も多様化し、「ただ利益を上げているだけの企業」ではなく「社会貢献・持続可能性・ガバナンス」を重視した評価方法の構築にも携われます。長期的な日本経済・株式市場の価値創造に貢献できる意義、そして企業や投資家から「公正な判断」「信頼できる市場の守り人」として尊敬を集める立場は、この上場審査部のポジションの魅力です。
3月決算企業の多い日本市場の特性を踏まえ、「新規上場申請シーズン」「決算情報の開示ラッシュ」等にも対応した一年間のスケジュール例とします。
IPOシーズンや決算期は極度に多忙となりますが、それだけ成長と緊張感を直に感じられるダイナミックな一年です。
新しく上場を目指す企業が果たして投資家保護や市場規律の観点でふさわしいかを厳正に見極める任務です。
上場申請企業のビジネスモデルや収益構造、ガバナンス・内部統制体制、経営陣の資質や資本政策など多様なチェックポイントを横断的に評価し、万一疑義が発生した場合は追加証拠や改善要求を的確に実行します。審査の客観性・透明性担保のため、複数担当者によるダブルチェック、高度な資料管理・記録が義務づけられています。
一度上場したら終わりではなく、企業の事業継続性・ガバナンス・開示適正などを日々モニタリングします。
定期・臨時に提出される決算資料や開示文書を分析し、不祥事や会計不正の兆候・リスクを早期に発見し、必要な改善指導を実施します。もし重大な法令違反や重要事象が判明した場合には、上場廃止勧告や市場への情報開示指示も迅速に実施します。まさに市場の健康診断医の位置づけです。
経済・産業構造の変化に対応して、審査基準や上場制度の改善・アップデートに取り組む業務です。
スタートアップやグローバル企業の台頭、新しい資本政策やESG課題など、時代とともに求められる審査項目は常に変化します。現場で培った知見を基に、法令・規則の見直し案をまとめたり、関係各所と協議・提言活動を行うことで、取引所そのものの進化・競争力強化に貢献しています。
上場審査部担当者の仕事は、裏方ではなく日本の資本市場全体を根底から支える最重要ポジション。矜持と使命感を持って社会に価値をもたらす役割です。
日本取引所自主規制法人は、公益性・専門性の双方を強く求められる組織であり、報酬水準は大手金融機関やプロフェッショナルファームに準拠したレンジとなっています。新卒・第2新卒で700万円以上、中堅〜主任クラスで1,000万円超、中間管理職で1,200万円前後が主な水準です。
近年は市場グローバル化・デジタル化対応やスタートアップ上場増加に伴い、変革を担う専門職としての高度な人材確保が課題です。そのため、報酬競争力も大手金融機関と同等水準まで上昇傾向にあります。優れたパフォーマンスやプロフェッショナル資格者は年収1,500万円程度まで昇給可能です。長期的にはキャリア設計や自己研鑽が確実に報酬アップへとつながる点が魅力です。
・企業や個人のしがらみに流されず、常に市場全体を俯瞰した判断ができる
・不正やグレーな行為を見逃さない勇気と断固とした姿勢を貫く
審査結果が市場全体や投資家の利益に直結するため、真摯な公正意識こそが信頼の源泉となります。
・自らの判断・説明に揺るぎない責任を持つ
・「日本経済の根幹を守る」という自負で日々の業務に取り組める
社会インフラとして不可欠なポジションであり、一つひとつの行動に強い責任感と覚悟が不可欠です。
・新ビジネス、規制、トレンドへの素早いキャッチアップ力
・多岐にわたる業界背景や事例を積極的に学ぶ
多様な業界・ビジネスモデルとの出会いを知的冒険と楽しみ続けられるマインドが成長の糧になります。
・困難な審査対応や企業側との交渉も冷静かつ粘り強く乗り越える力
・社内外の関係者と前向きな対話をリードできる
複雑で長期間に及ぶ案件が多いため、最後まで諦めずに粘り強く仕事をやり遂げる意志が問われます。
・多様な専門家と共に協働し、意見の違いもリスペクトできる
・年齢・キャリア・背景を問わずオープンに学び合う姿勢
ワンマンプレーではなく、組織力や多様な知見の融合が成果につながる業務です。
・資格取得や研修、新領域の学習を継続できる
・現状に満足せず、より上を志す前向きな姿勢
激しい環境変化に対応し続けるため、成長を楽しむ意識が重要です。
これら6つのマインドが根底にあれば、あらゆる困難や新しい市場トレンドにも柔軟かつ力強く向き合い、上場審査部で長期的に活躍できる人材となるでしょう。
・有価証券報告書・決算書の読解、財務指標・キャッシュフロー・収益構造判定力
・会社法・金融商品取引法・取引所規則等の法的判断力
・経営管理・リスクマネジメント体制の理解および現場評価ノウハウ
・多様な公開資料や第三者情報、国内外事例調査能力
・審査結果や意見書の論理的な構築、正確な文書記述
・企業・証券会社・同僚等と建設的な意見交換と合意形成能力
・審査ワークフローの電子化・データ分析・システム活用力
これらのスキルは入社前に完璧でなくとも、入社後の多様な案件や研修・OJTで着実に習得可能です。会計・法務・ガバナンスの基礎があり、主体的に意欲的に学ぶ姿勢があれば、努力次第で誰でも成長できます。
この職種へ到達するルートは一つではなく、複線的かつ段階的なキャリア設計が可能です。
直前に想定されるポジションには、例えば以下があげられます。
・証券会社の公開引受担当
・金融庁や金融機関のリスク管理者
・監査法人での会計監査業務担当「
・M&AやIPO支援を手掛けるコンサルタント
・上場企業の内部監査部門担当」
金融・会計・法務・企業コンプライアンス領域で高いプロフェッショナリズムを発揮してきた経験者が多く参画します。
さらにその前段階では、以下の多様なバックグラウンドのルートがあります。
・監査法人・税理士法人での監査・税務スタッフ
・シンクタンクや投資銀行のアナリスト職
・一般企業の財務・法務・内部監査担当
・公認会計士・弁護士などの有資格者
・証券会社の調査部門
また、法学部、商学部系、経済・経営学部系学部出身者が新卒で挑戦するケースも近年増加傾向です。
社内異動・経験者採用でキャリアチェンジを図る社員も多く見られます。大切なのは、幅広い経済・ビジネスへの興味、仕組みや規制ルールへの関心、論理的思考とチームワーク志向など、基礎的な力を若手時代に涵養しておくことです。
この道のりは一見ハードルが高そうに見えますが、会計や法務の基礎+経済の動きを読む感性+未来志向の成長意欲があれば、チャレンジする価値のある職種です。
上場審査部の担当者は、短期間でも日本トップクラスの企業・業界・経営者と最前線で関与し、類まれなプロフェッショナル視点・実践力を身につけることができます。この実力・経験値は多方面に通用し、その後のキャリアパスにも大きな広がりがあります。
一つは、審査部内での昇格を目指し、サブリーダーやリーダー、部門管理職、専門領域のプロフェッショナルとして活躍する道です。さらに経験を積めば、JPXグループ全体の規制・監督部門、または市場制度改革やIR推進を担う部門へのキャリアステップも現実的です。
一方、対外志向が強い方は、その知見と客観性を活かして証券会社・監査法人・コンサルティングファームでのIPO/M&Aアドバイザリー、大企業の内部監査・ガバナンス推進や、金融庁・諸外国の当局で新しい市場制度確立に挑む選択肢も生まれます。上場審査の経験者は、ESG/サステナビリティ、リスク管理、経営コンサル等あらゆる業界で同格転職が可能な、きわめて希少な人材です。
また、近年増加するIPO・企業再生市場の活性化に伴い、企業側の上場準備室メンバー、ベンチャーPMI担当、スタートアップ経営人材、社外取締役など新たなフィールドでその知見が生きています。
どんなキャリアを選んでも、自身のマーケットを見る目、公正な判断力は一生の財産になります。仕事を通じて得たネットワーク・自信・専門性は、どの業界・職種でも強力な武器になり続けます。自己実現とさらなる社会貢献の両輪を、あなた自身の未来へと切り拓いてください。