経理・財務・会計ファイナンス人材のためのキャリア名鑑

会計人材のキャリア名鑑

VCのマネージングディレクター

「ベンチャーの未来を創造するエキスパート」

「投資判断で業界の未来を塗り替える」

「億単位の資金を動かし、スタートアップ企業の命運を握る」

「アントレプレナーシップとファイナンスの頂点に立つ」

主な業務内容

  • ファンド全体の投資戦略策定と実行
  • 有望スタートアップ企業の発掘・審査・投資実行
  • 投資先企業の価値向上(ハンズオン支援)とエグジット戦略立案

想定年収

3,000万円〜1億円以上
※業績や評価によって変動

想定年齢

35歳~50歳

VCのマネージングディレクターは こんな仕事

ベンチャーキャピタル(VC)のマネージングディレクター(MD)は、スタートアップエコシステムにおける王道キャリアの頂点と言えるポジションです。数十億から数百億円規模のファンドを率い、次世代を担う革新的企業への投資を通じて、未来の産業地図を描く存在です。時に「キングメーカー」とも呼ばれ、起業家たちが最も信頼を寄せたいと願うパートナーでもあります。数字で見るとその影響力は絶大で、成功した大型投資案件では10倍、100倍のリターンを生み出すこともあり、自身の報酬も桁違いとなります。一朝一夕でなれる職業ではありませんが、その道のりは挑戦する価値があります。

マネージングディレクターというポジションのスケジュールは刺激と可能性で満ちています。ある一日は投資委員会の開催から始まるかもしれません。そこでは数億円規模の投資判断を同僚のパートナーたちと議論し、時に白熱した意見交換を経て最終決定を下します。「このスタートアップ企業は5年後に時価総額1,000億円企業になるポテンシャルがあるか?」「創業チームは困難を乗り越えられる資質を持っているか?」といった本質的な問いに向き合うのです。

午後には有望なスタートアップ企業の創業者とのミーティングがあるでしょう。創業者のビジョンに耳を傾け、鋭い質問を投げかけ、時にはビジネスモデルの根本から議論することもあります。MDの価値は「お金の出し手」ではなく、創業者の良きアドバイザーとしての側面にもあります。創業者の情熱に触れ、その夢の実現に向けた伴走者となるこの瞬間は、この仕事の最も魅力的な部分の一つです。

日常的には、投資先企業のボードミーティングへの参加も重要な責務です。四半期ごとの業績レビューから、重要な経営判断、採用戦略まで、企業価値向上に関わる重要な意思決定に参画します。ここでの発言や助言が企業の命運を左右することもあり、その責任は決して軽くありません。

さらに、ファンド全体のパフォーマンス管理も欠かせません。LPと呼ばれる投資家(年金基金、大企業、富裕層など)に対して定期的な報告を行い、投資家の期待に応える運用成績を示す必要があります。特に次回ファンド組成を見据えた時期には、投資実績の説明と将来戦略の提示が極めて重要になってきます。

業界のカンファレンスやネットワーキングイベントへの登壇も、VCのMDには求められる役割です。業界における知見を共有し、VCファームのブランディングに貢献する機会となります。また、こうした場での人脈形成は、将来の有望案件へのアクセスにつながる重要な活動でもあります。

VCのMDの仕事は、財務分析から始まり、人間関係構築、業界分析、経営判断支援まで幅広い領域にまたがります。それは時にシビアな決断を迫られることもありますが、成功した投資先が社会に変革をもたらす瞬間には、この上ない達成感を味わうことができるのです。

VCのマネージングディレクターという ポジションの魅力

なぜVCのMDという道を選ぶのか。その最大の魅力は、「未来創造の当事者になれる」点にあります。他の金融キャリアと異なり、VCのMDは投資リターンを超えた価値創造に関与できます。見出し、育てたスタートアップ企業が新しい産業を生み出し、社会課題を解決し、時には世界を変えていく—そんな壮大なストーリーを描けるのです。

例えば、投資した医療テクノロジー企業が革新的な治療法を開発し、多くの命を救うことになるかもしれません。あるいは、クリーンエネルギー分野のスタートアップ企業が支援を受けて成長し、持続可能な社会の実現に貢献するかもしれません。そうした社会的インパクトを財務的リターンと両立させられるポジションは、ビジネス界でもVCのMDほど直接的ではないでしょう。

次に、知的好奇心を常に満たし続けられる環境があります。VCのMDは最先端の技術や革新的なビジネスモデルに日常的に触れる機会に恵まれています。AI、バイオテクノロジー、宇宙開発、フィンテックなど、次世代を担う多様な分野の専門家や起業家と深い議論を交わすことで、常に最前線の知見を得られるのです。この知的刺激の連続は、好奇心旺盛な人にとって何物にも代えがたい魅力となります。

経済的リターンの可能性も、このキャリアの大きな動機の一つです。成功したVCのMDは、管理報酬だけでなく、キャリー(成功報酬)によって桁違いの収入を得ることができます。キャリーだけで最大数億円の報酬になる可能性があるのです(実際のキャリー分配は役職や貢献度によって異なります)。

また、VCのMDになることは、影響力のあるポジションを獲得することを意味します。業界のオピニオンリーダーとして尊敬され、スタートアップエコシステム全体に影響を与える立場になれるのです。その発言や投資判断は、業界全体のトレンドを形作ることさえあります。

さらに、VCのMDの魅力は自律性の高さにもあります。投資判断において高い裁量権を持ち、自らの洞察と信念に基づいて決断を下せる環境は、真の意味でのプロフェッショナルにとって大きな魅力です。もちろん投資委員会等での合議は必要ですが、自分の目利き力と判断で勝負できるというのは、大きなやりがいにつながります。

このように、VCのMDは社会的意義、知的刺激、経済的リターン、影響力、自律性といった複数の魅力が重なり合うキャリアであり、それゆえに多くの優秀な人材が目指す頂点となっているのです。

VCのマネージングディレクターの 年間スケジュール例

VCのマネージングディレクター(MD)は、ファンド運営、投資判断、ポートフォリオ管理、LPリレーション、業界ネットワーキングなど多岐にわたる責務を担います。以下に、一般的なMDの年間スケジュール例を四半期ごとに詳述します。

1月

  • 年間投資戦略の最終化
    • 前年の投資パフォーマンス分析に基づく投資テーマの再設定
    • 新年度の投資配分計画の確定
    • チーム全体への投資方針の共有と個人目標設定
  • ポートフォリオ会社の年間計画レビュー
    • 各ポートフォリオ会社の年間事業計画・予算の承認
    • ハイリスク企業に対する集中支援計画の策定
    • 成長ステージにある企業の資金調達計画の策定支援
  • 主要業界カンファレンスへの参加
    • CES(Consumer Electronics Show)などの新年の主要テックイベントへの参加
    • 新技術トレンドの把握とスタートアップ発掘

2月

  • LPへの年次レポート準備
    • 前年の投資実績と全体ポートフォリオの状況報告準備
    • 個別投資案件の評価(バリュエーション)確定作業
    • 監査法人との連携によるファンド財務諸表の確定
  • 投資パイプラインの構築
    • 重点投資分野における有望スタートアップのリストアップ
    • 社内投資委員会での重点フォーカス領域の共有
    • アソシエイト、プリンシパルからの案件提案レビュー
  • ポートフォリオレビュー会議
    • 全ポートフォリオ企業の四半期業績確認
    • 課題企業への対応策検討と支援リソース配分決定

3月

  • LP年次総会(Annual Meeting)の実施
    • 投資家向け年次報告会の開催・主導
    • 新規投資戦略の説明と次期ファンド展望の共有
    • 主要ポートフォリオ企業CEOによるプレゼンテーション企画
  • 業界専門カンファレンスへの参加
    • SXSW(South by Southwest)などの専門カンファレンスでの登壇
    • パネルディスカッションやキーノートスピーチの実施
  • チーム育成活動
    • チームメンバーの四半期評価の実施
    • ジュニアスタッフへのメンタリングセッション
    • 採用計画の見直しと実行

4月

  • 新規投資の本格化
    • 投資パイプラインからの案件精査の加速
    • 有望スタートアップとの集中的なミーティング実施
    • デューデリジェンスプロセスの監督
  • ポートフォリオ支援活動の強化
    • 成長段階企業の次回資金調達準備支援
    • 戦略的な採用支援(経営幹部紹介など)
    • 顧客開拓支援(大企業とのマッチング)
  • 投資エコシステム構築活動
    • コーポレートVCとの関係構築ミーティング
    • 大学・研究機関との連携強化活動
    • エンジェル投資家ネットワークとの情報交換会

5月

  • ファンドレイジング準備(必要に応じて)
    • 次期ファンド計画の初期検討
    • 投資実績データの整理と成功事例の文書化
    • 潜在的新規LP候補のリサーチとアプローチ計画
  • 業界イベント・カンファレンスでの登壇
    • 専門分野でのソートリーダーシップ発信
    • メディアインタビュー対応
    • 投資先企業のピッチイベントへの参加
  • 投資委員会の主導
    • 新規投資案件の最終判断会議の実施
    • 追加投資(フォローオン)の判断
    • 投資評価方法の見直しと改善

6月

  • 半期ポートフォリオ全体レビュー
    • ポートフォリオ全体の健全性評価
    • バリュエーション見直しと資金配分計画の調整
    • EXIT候補企業の選定と戦略検討
  • 戦略的パートナーシップの構築
    • 他VCファームとのシンジケーション関係強化
    • 戦略的投資家(CVC)とのリレーション構築
    • 国際的な投資ネットワーク拡大活動
  • チーム運営
    • 半期人事評価の実施
    • チーム構成の見直しと調整
    • 採用面接と意思決定

7月

  • 夏季の集中投資活動
    • 新規案件の徹底調査と投資判断
    • 成長企業への追加投資(フォローオン)実行
    • 投資条件交渉と契約締結プロセスの指揮
  • LPへの四半期報告
    • 投資進捗と主要ポートフォリオ状況の報告
    • 市場環境の変化への対応状況説明
    • 今後の見通しと戦略修正点の共有
  • 業界リサーチの徹底
    • 特定技術領域の専門家との集中的な意見交換
    • 新たな投資テーマ探索のための調査活動
    • マーケットトレンド分析レポートの作成指導

8月

  • 戦略的休暇と視野拡大活動
    • 長期的思考のための意図的な休暇取得
    • 国際的なスタートアップエコシステムの視察
    • 専門書籍の執筆や業界記事の寄稿
  • ポートフォリオ企業との集中ワークセッション
    • 成長戦略の見直しワークショップの実施
    • 経営課題解決のための集中メンタリング
    • 企業間シナジー創出のためのポートフォリオ横断ミーティング
  • リスク管理活動
    • 経済環境変化に伴うリスク要因の再評価
    • ポートフォリオの脆弱性分析と対策立案
    • 各投資先の資金繰り状況の詳細確認

9月

  • 秋季投資戦略の調整
    • 市場環境の変化に応じた投資基準の見直し
    • 残り予算の配分計画の再検討
    • 重点セクターの再評価と調整
  • 業界主要カンファレンスへの参加
    • TechCrunch Disruptなど主要スタートアップイベントへの参加
    • 投資先CEOとの共同登壇
    • 新たな投資先候補の発掘活動
  • ファンド運営業務
    • 運用コスト分析と効率化検討
    • コンプライアンス事項の定期レビュー
    • バックオフィス機能の評価と改善

10月

  • EXIT戦略の集中実行期間
    • 売却候補企業のM&A交渉支援
    • IPO準備企業へのアドバイス提供
    • 戦略的バイヤーとのリレーション構築活動
  • ポートフォリオ企業の次年度計画策定支援
    • 成長企業の事業拡大計画レビュー
    • 資金調達計画の策定支援
    • 主要経営指標(KPI)の設定アドバイス
  • 投資委員会の年間レビュー
    • 投資判断プロセスの評価と改善
    • 投資基準の再検討と更新
    • デューデリジェンスプロトコルの見直し

11月

  • 年末投資判断の集中処理
    • 年内クロージング案件の最終交渉と意思決定
    • 来年初頭の投資候補の絞り込み
    • 投資条件の最終調整と契約準備
  • LP関係強化活動
    • 主要投資家との個別面談の実施
    • 次期ファンドに向けた初期的な関心確認
    • 投資成果の詳細説明と質疑対応
  • 業界展望の策定
    • 次年のテクノロジートレンド予測レポート作成
    • 投資チーム向け市場見通しワークショップの実施
    • 外部アドバイザーを交えた戦略検討会議

12月

  • 年間投資実績の総括
    • 投資パフォーマンスの詳細分析
    • 成功・失敗事例からの学習セッション
    • ポートフォリオ全体の健全性評価
  • チーム評価と来年度計画
    • チームメンバーの年間評価と報酬決定
    • 次年度の組織体制の検討と決定
    • 人材育成計画の策定
  • 年末ネットワーキング活動
    • 重要関係者との年末会合の開催
    • ポートフォリオ企業合同イベントの企画・実施
    • 戦略パートナーとの関係強化活動

年間を通した継続的活動

投資活動

  • 週2〜3回の投資委員会への参加
  • 毎週5〜10件の新規スタートアップミーティング
  • 月間2〜3件のデューデリジェンスプロセス監督
  • 四半期ごとに1〜2件の新規投資判断

ポートフォリオ管理

  • 重要ポートフォリオ企業の取締役会への月次参加(4〜8社)
  • 週次のポートフォリオ企業向けアドバイザリーコール
  • 月次の社内ポートフォリオレビュー会議の主導
  • 四半期ごとのポートフォリオ企業評価の実施

ファンド運営・LP対応

  • 月次の運用状況レポートの確認と承認
  • 四半期ごとのLP向け報告書の作成と配布
  • 半期ごとのLP諮問委員会(LPAC)会議の準備と実施
  • 年1〜2回の主要LP訪問プログラムの実施

知見構築・情報収集

  • 週20〜30時間の業界リサーチと情報収集
  • 月2〜3回の専門家・アドバイザーとの面談
  • 四半期ごとに1〜2回の主要業界カンファレンス参加
  • 年間2〜3回の新興技術エコシステム視察

チームマネジメント

  • 週次の投資チームミーティングの主導
  • 月次の全体戦略会議の開催
  • 四半期ごとのチーム評価と育成計画レビュー
  • 随時の採用活動と人材育成

このスケジュールは一般的なVCのマネージングディレクターの活動を示していますが、ファンドの規模、投資ステージ(シード、アーリー、グロース等)、専門分野、地理的フォーカスによって大きく異なる場合があります。また個人のスタイルや組織文化によっても活動パターンは変化します。

VCのマネージングディレクターの 重要任務

VCのMDは多様な責務を担いますが、特に重要度が高く、その成功が直接ファンドのパフォーマンスに影響を与える核心的任務が存在します。以下、最も重要な3つの任務について詳述します。

 

1.投資判断と実行のリーダーシップ

適切な投資先を見極め、最適な条件で投資を実行する意思決定プロセスを主導する責務。VCの存在意義そのものとも言える最重要機能です。

  • 投資テーマの設定と進化
    • 市場動向分析に基づく投資戦略の構築と継続的更新
    • 新興テクノロジー・産業変化の先読みによる先見的投資領域の特定
    • 投資チーム全体の視点を統合した一貫性のある投資アプローチの確立
  • 投資判断の最終責任
    • 投資委員会の中心的役割を担い、最終投資判断に大きな影響力を持つ
    • 不確実性の高い状況での意思決定と、その判断に対する説明責任
    • 競争の激しい案件における迅速な判断と決断力の発揮
  • バリュエーションと投資条件の最終決定
    • 企業価値評価の妥当性検証と投資リターン見通しの判断
    • 投資条件(バリュエーション、株主権利、取締役席など)の最終交渉と決定
    • リスク・リターンバランスを考慮した投資額とステージングの決定

成功指標

  • 投資先の長期的価値上昇率(バリュエーション成長)
  • ファンド全体のIRR(内部収益率)とMOIC(投資元本倍率)
  • 業界内での著名な成功投資案件(ホームラン)の有無
  • 時代を先取りした新領域への投資実績と成功率

2.LP(出資者)リレーションシップの構築・維持

資金提供者である機関投資家・富裕層との関係構築・維持を通じて、安定的な資金調達基盤を確保する責務。VCの存続と成長の土台となる根幹的機能です。

  • ファンドレイジングの主導
    • 新規ファンド組成計画の立案と実行
    • 投資戦略と市場機会の説明資料(ピッチデッキ)の作成と洗練
    • 既存・新規LPへの直接的なピッチングと説得
  • 継続的な信頼関係構築
    • 定期的なパフォーマンスレポートの監修と透明性の確保
    • LP年次総会での投資実績とビジョンの説明
    • 主要LPとの個別関係維持(四半期ミーティング、臨時相談対応など)
  • 危機管理とコミュニケーション
    • 投資環境悪化時の適切な説明と対応策の提示
    • 問題案件(失敗投資)についての率直な分析と教訓の共有
    • ファンド戦略修正時の合理的説明と合意形成

成功指標

  • 次期ファンドのサイズ拡大と既存LP継続率
  • ファンドレイジング期間の短縮と目標額達成率
  • 著名・優良LPからの出資獲得
  • LP満足度と評価(informal feedbackを含む)

3.ポートフォリオ価値向上とエグジット戦略の実行

投資後の企業価値向上を支援し、最適なタイミングと方法でエグジット(IPO、M&A等による投資回収)を実現する責務。VCの最終的な成功を左右する極めて重要な機能です。

  • 戦略的アドバイザリーと価値付加
    • ポートフォリオ企業の取締役として経営戦略構築に参画
    • 成長ステージに応じた経営課題の解決支援
    • 創業者・経営チームへの継続的メンタリングと助言
  • リソース提供とネットワーク活用
    • 経営幹部採用支援(経験豊富なCxO人材の紹介)
    • 戦略的パートナーシップ構築(大企業、他スタートアップとの連携)
    • 次ラウンド資金調達の支援(リード投資家の招聘等)
  • エグジット戦略の立案と実行
    • IPO準備プロセスの支援(アンダーライター選定、目論見書作成等)
    • M&A機会の創出(戦略的買収者との関係構築)
    • エグジットタイミングと手法の最適化判断

成功指標

  • ポートフォリオ企業の成長率(収益、ユーザー数、評価額等)
  • 成功エグジット件数とリターン倍率
  • フォローオン投資の獲得率と条件改善度
  • ポートフォリオ企業からの評価と満足度

任務間の相互関連性

これら3つの重要任務は独立したものではなく、相互に強く関連しています。

  • 優れた投資判断は、LP信頼の基盤となり、次のファンドレイジングを容易にします
  • 強固なLPリレーションは、投資活動の安定的継続とポートフォリオ支援のリソース確保を可能にします
  • 成功するエグジットは、投資判断の正当性を証明し、LP信頼強化につながります

マネージングディレクターの真価は、これら3つの重要任務間のバランスを取りながら、相乗効果を生み出す能力にあります。市場環境や組織状況に応じて、各任務へのリソース配分を最適化する判断力も不可欠です。

VCのマネージングディレクターの 報酬水準

VCのMDの報酬は複数の要素で構成され、ファンドの規模やステージ、地域、実績などによって大きく異なります。以下に、一般的な報酬構造と水準について詳述します。

報酬の主要構成要素

VCのMD報酬は主に以下の3つの要素から構成されています。

  • 基本給(Base Salary)
  • ボーナス(Annual Bonus)
  • キャリードインタレスト(Carried Interest)

これらに加えて、場合によっては以下の要素も含まれます。

  • マネジメントカンパニーの持分(Management Company Equity)
  • ファンドへの自己投資(GP Commitment)からのリターン
  • その他の福利厚生

報酬水準の詳細

1.基本給(Base Salary)

基本給はファンドの規模、ステージ、地域によって異なります。

日本のVCにおいては、欧米と比較してやや低い傾向があり、一般的に以下の範囲に収まることが多いです。

  • 大規模ファンド:3,000万円〜5,000万円
  • 中小規模ファンド:2,000万円〜3,500万円

2.年間ボーナス(Annual Bonus)

ボーナスは基本給に対する割合で設定されることが多く、ファンドのパフォーマンスや個人の貢献度によって変動します。

  • 大規模・確立されたファンド:
    • 基本給の50%〜100%(良好なパフォーマンス時)
    • 特に優れたパフォーマンスの場合は100%以上も
  • 中小規模ファンド:
    • 基本給の30%〜75%
    • 新興ファンドでは低い傾向あり

日本市場では、ボーナスの割合は欧米よりも低い傾向があり、基本給の30%〜60%程度となることが一般的です。

3.キャリードインタレスト(Carried Interest)

キャリードインタレストはVCのMDにとって最も重要な長期的報酬源となり得ます。

  • キャリー配分比率例:
    • ファウンディングパートナー:5%〜10%(ファンドサイズにより変動)
    • シニアMD:2%〜7%
    • 新規採用MD:1%〜3%

キャリーの実現には通常4〜8年のタイムラグがあり、初期の分配が始まるまでに5〜6年かかることも珍しくありません。また、ポートフォリオの成功に大きく依存するため、変動性が非常に高いです。

4.マネジメントカンパニーの持分

ファンドを運営する管理会社(マネジメントカンパニー)の所有権持分を付与されることもあります。

  • ファウンディングパートナー:10%〜30%
  • シニアMD:1%〜10%
  • 昇進したMD:1%〜5%

この持分により、管理報酬からの継続的な収入や、将来的なマネジメントカンパニー売却時の利益を得る権利が発生します。

5.GP Commitmentからのリターン

多くのファンドでは、ジェネラルパートナー(GP)も自己資金をファンドに投資することが期待されており、これによるリターンも重要な収入源となります。

  • 一般的なGP Commitment:ファンド総額の1%〜5%
  • MDの個人負担:年収の50%〜200%相当
  • 成功時には投資額の3〜5倍のリターンも可能

報酬水準の変動要因

ファンドの規模とステージによる影響

  • レイトステージ/グロースファンド:基本給が高い傾向
  • アーリーステージ/シードファンド:基本給は低めだがキャリー配分が大きい傾向
  • コーポレートVC:基本給は高めだがキャリーが少ないか存在しない場合も

VCのMD報酬は、個人の実績、ファンドのステージ、市場環境、地域など多くの要因に影響されるため、上記の数値は一般的なガイドラインであり、個別ケースでは大きく異なる可能性があります。特に日本市場では欧米と比較して全般的に報酬水準が低い傾向がありますが、グローバル展開を行う一部のVCでは国際水準に近い報酬体系を採用しているケースもあります。

VCのマネージングディレクターの 代表的な会社

日本のベンチャーキャピタル業界は近年急速に発展し、多様なプレイヤーが独自のポジショニングで活動しています。以下に、日本を代表する5つのVCについて、それぞれの特徴や投資スタイル、代表的な投資先などを詳しくご紹介します。

1.グローバル・ブレイン(Global Brain)

設立: 1998年
運用資産総額: 約1,500億円

主な特徴

  • 日本最大級の独立系VC(非金融機関系)として20年以上の実績
  • 国内外の大手企業と連携したCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)ファンドを多数運営
  • シードからレイターまで幅広いステージに投資可能な総合型VC
  • グローバル展開に積極的で、北米、欧州、アジア全域でのネットワークを構築
  • テクノロジーに強みを持ち、特にディープテック分野での目利き力に定評

投資アプローチ: 企業とスタートアップのオープンイノベーションを積極的に推進し、投資先企業の成長を大手企業との事業連携によって加速させるハンズオン支援が特徴。創業期から上場まで一貫して支援できる体制を構築しています。

2.ジャフコ グループ(JAFCO Group)

設立: 1973年
運用資産総額: 約3,000億円

主な特徴

  • 日本最古かつ最大規模のVCとして約50年の歴史を持つ
  • 東証プライム市場上場の独立系VC
  • 累計投資先4,000社以上、IPO支援実績1,000社以上という圧倒的な実績
  • アジア、米国に拠点を持ち、グローバル投資も展開
  • オーソドックスな投資スタイルと長期的なトラックレコードが強み

投資アプローチ: 創業者の情熱とビジョンを重視したベーシックな投資判断を基本としつつ、長年の経験から培われた上場支援ノウハウを活かした成長支援が強み。近年はシード・アーリーステージへの投資も強化しています。

3.DCM Ventures(旧DCMヴィンテージ)

設立: 1996年(日本オフィスは2006年)
運用資産総額: 約6,000億円(グローバル全体)

主な特徴

  • 米国シリコンバレー発の世界的VCの日本法人
  • 日米中の3拠点体制による国際的なネットワークとノウハウの共有
  • テクノロジー企業への投資に特化し、B2Cからディープテックまで幅広く投資
  • グローバル展開を目指す日本企業への海外進出支援に強み
  • 日本チームは少数精鋭で質の高いサポートを提供

投資アプローチ: グローバルな視点からの事業評価と、シリコンバレー流の迅速な意思決定が特徴。特にインターネット、フィンテック、SaaS領域での豊富な知見に基づいた成長支援を提供し、日本発グローバル企業の創出に貢献しています。

4.インキュベイトファンド(Incubate Fund)

設立: 2010年
運用資産総額: 約400億円

主な特徴

  • 日本発のシード特化型VC、「起業家に最も近いVC」を標榜
  • 創業者の多くが自身も起業経験を持ち、スタートアップの実情に精通
  • 革新的な事業アイデアの萌芽段階からの投資に特化
  • 「0→1」のフェーズでの支援に強み、プロダクト開発から事業モデル構築まで踏み込んだ支援
  • 東南アジアにも積極展開、日本企業の海外進出も支援

投資アプローチ: 超早期段階での投資判断を得意とし、創業者の資質と市場洞察力を重視。一般的なVCが投資を躊躇するような初期段階から関与し、事業コンセプトの検証から経営チーム組成まで多面的に支援するハンズオン型の関わり方が特徴です。

5.WiL(World Innovation Lab)

設立: 2013年
運用資産総額: 約1,000億円

主な特徴

  • 日米を拠点とする独立系VC
  • 日本の大手企業(パナソニック、ANA、みずほ、JR東日本など)からの出資によるユニークなエコシステム
  • シリーズAからグロースステージまで幅広く投資
  • オープンイノベーションを重視し、大企業とスタートアップの架け橋的役割
  • AI、ロボティクス、ヘルスケア、フィンテックなどの次世代技術に注力

投資アプローチ: 「日本の大企業×スタートアップ」という独自の価値提供モデルが強み。投資先には大企業とのパートナーシップ機会や日米双方の市場へのアクセスを提供し、グローバル企業への成長を支援しています。特に大企業のリソースを活用したスケーリング支援が特徴的です。

日本のVC業界の特徴と最近のトレンド

業界全体の特徴

  • 従来の銀行系・証券系VCから独立系VCへのシフト
  • シード・アーリーステージに特化したVCの増加
  • コーポレートVCの台頭と多様化
  • グローバル展開の加速
  • 運用資産規模の拡大(ファンドサイズの大型化)

最近のトレンド

  • 専門特化型VCの増加: 特定産業(フードテック、宇宙、バイオなど)や投資ステージに特化したVCが増加
  • 創業者出身のVC増加: 成功した起業家がVCを設立するケースが増加(GMO VenturePartners、ANRI、カミングエなど)
  • CVCの活発化: ソニー、ソフトバンク、オムロン、サイバーエージェントなど大手企業のCVC活動が活発化
  • 海外VCの日本進出: Sequoia Capital、a16z、Y Combinatorなどが日本企業への投資を増加
  • 国内VCの投資家層の多様化: 年金基金、大学基金、富裕層などLP層の多様化

日本のVC業界は近年大きく成長し、エコシステムとしての成熟度も高まっています。資金提供者としてだけでなく、スタートアップの成長を多面的に支援するパートナーとしての役割が重視されるようになってきており、グローバル競争力を持つVC企業も着実に増加しています。

VCのマネージングディレクターに 向いている人は、どんな人?

■求められるマインド

VCのMDには、多角的かつ高度なスキルセットが求められます。投資家、アドバイザー、リーダー、ネットワーカーなど様々な役割を果たす必要があり、以下のスキルが特に重要です。

1.投資判断力と分析スキル

市場分析能力

  • 将来の技術トレンドや産業変化を先読みする洞察力
  • 成長市場と衰退市場を見極める判断力
  • TAM(Total Addressable Market)の適切な評価能力
  • 市場のタイミングを見極める感覚(「なぜ今なのか」の判断)

財務分析スキル

  • スタートアップの財務状況を迅速に把握・分析する能力
  • 事業計画の実現可能性を評価するスキル
  • バリュエーション算定能力と投資条件の適切な設計力
  • キャッシュフロー、ユニットエコノミクス分析のスキル

テクノロジー理解力

  • 技術の本質と将来性を理解する能力
  • テクノロジーの実現可能性とスケーラビリティの評価
  • 技術的差別化要因の見極め
  • 技術リスクの適切な評価

パターン認識能力

  • 過去の成功・失敗事例から学び、類似パターンを認識するスキル
  • 群を抜いて魅力的な投資機会を素早く認識する直感力
  • 創業チームの強みと弱みを効率的に見極める人間観察力
  • 複雑な情報から本質的な部分を抽出する能力

2.人材評価と関係構築スキル

創業者評価能力

  • 起業家の資質、熱意、適応力を見抜く目利き力
  • 経営者としての成長可能性を評価するスキル
  • チームダイナミクスの健全性を判断する能力
  • 逆境下での対応力や学習能力の評価

人間関係構築力

  • 多様な創業者と信頼関係を構築する能力
  • オープンかつ誠実なコミュニケーション能力
  • 厳しいフィードバックを建設的に伝えるスキル
  • 長期的な信頼関係の醸成と維持

コーチング・メンタリングスキル

  • 経営者の成長を支援するコーチングスキル
  • 直接的な指示でなく質問を通じて気づきを促す能力
  • 創業者のビジョン実現をサポートする伴走力
  • 過度な介入と適切な距離感のバランス感覚

ネットワーキングスキル

  • 業界横断的な人脈構築・維持能力
  • 紹介や連携を通じた価値提供スキル
  • 採用、パートナーシップ、次ラウンド投資家などの適切なマッチング力
  • オンライン・オフライン双方でのプレゼンス確立

3.ビジネス構築・経営支援スキル

戦略的思考力

  • 長期的な事業戦略構築の支援能力
  • 競合環境下での差別化戦略の助言スキル
  • プロダクトマーケットフィットまでの試行錯誤プロセス支援
  • スケーリングフェーズでの成長戦略設計

リソース最適化支援

  • 限られたリソースの効率的な配分アドバイス
  • バーンレート管理と資金調達タイミングの助言
  • 適切な採用計画と組織構築の支援
  • プライオリティ設定の支援と集中投資領域の明確化

問題解決能力

  • 事業課題の本質を見抜く分析力
  • 創造的な解決策の提案能力
  • 危機的状況での冷静な判断と支援
  • 複雑な状況を整理し、行動計画に落とし込む能力

エグジット戦略スキル

  • 最適なエグジットタイミングと手法の判断力
  • IPO準備プロセスの支援能力
  • M&A機会の創出と交渉支援
  • 企業価値最大化のための長期的な計画立案

4.ファンド運営・マネジメントスキル

資金調達能力

  • 投資家(LP)へ説得力のあるファンド戦略提示スキル
  • トラックレコードの効果的なプレゼンテーション能力
  • LPとの関係構築・維持能力
  • 投資環境変化に対する説明力と信頼獲得能力

ポートフォリオ管理スキル

  • 複数投資先の状況を効率的に把握・管理する能力
  • リスク分散と集中投資のバランス感覚
  • フォローオン投資判断の適切な意思決定
  • 全体最適を考慮したリソース配分

チームリーダーシップ

  • 投資チームの育成・指導能力
  • 組織文化の構築と維持
  • 多様な専門性を持つチームメンバーの強みを引き出す能力
  • 若手投資家の成長支援と権限委譲

リスク管理能力

  • 多様なリスク要因の特定と評価能力
  • 適切なリスク軽減策の立案
  • マクロ経済・規制環境変化への対応力
  • 失敗事例からの組織的学習促進

5.コミュニケーション・プレゼンテーションスキル

説得力のあるコミュニケーション

  • 複雑な概念を明確に説明する能力
  • 多様な聴衆(創業者、LP、チームメンバー)に適したコミュニケーション調整力
  • 投資論理の明確な表現と意思決定の説明能力
  • 建設的な議論をリードする能力

ストーリーテリング能力

  • 投資テーマや市場機会を魅力的に語るスキル
  • 数字とナラティブを組み合わせた説得的なプレゼンテーション
  • ビジョンを共有し、関係者を巻き込む能力
  • 自社の投資哲学を一貫して表現する能力

ネゴシエーションスキル

  • 投資条件の効果的な交渉能力
  • Win-Winの関係構築を目指す協調的交渉スタイル
  • 複雑な利害関係の調整能力
  • プレッシャー下での冷静な判断と交渉継続力

パブリックスピーキング

  • 業界カンファレンスなどでの効果的なプレゼンテーション能力
  • メディア対応スキル
  • ファンドと投資先の価値を対外的に発信する能力
  • ソートリーダーシップの確立

6.産業・専門知識

専門領域の深い知見

  • 特定産業・技術領域における専門性
  • 業界キーパーソンとの関係構築
  • 業界特有のダイナミクスと成功要因の理解
  • 規制環境や業界標準の把握

経営知識の広さ

  • マーケティング、財務、組織開発、法務など幅広い経営知識
  • 事業開発と提携戦略の理解
  • 人材採用・評価・育成の知見
  • 国際展開に関する知識

法務・契約知識

  • 投資契約書の重要条項理解
  • 株主権利と企業統治の知識
  • 知的財産権の評価と保護戦略
  • エグジット関連の法的側面の理解

テクノロジートレンド把握

  • 新興技術の可能性とリスクの評価
  • 技術イノベーションのタイミング感覚
  • 技術専門家とのコミュニケーション能力
  • 技術的なデューデリジェンスの指揮能力

7.精神的・知的資質

高い倫理観と誠実さ

  • 利益相反状況での適切な判断
  • 創業者・LP・同僚に対する誠実で透明性のある行動
  • 困難な状況での正直なコミュニケーション
  • 長期的な信頼関係構築の重視

好奇心と学習意欲

  • 継続的な自己啓発と知識更新
  • 新しい産業・技術への探究心
  • 失敗からの学習姿勢
  • 異なる視点や意見への開放性

決断力と実行力

  • 不確実性の高い状況での意思決定能力
  • 限られた情報での判断力
  • 決定事項の迅速な実行
  • 失敗を恐れない挑戦精神

忍耐力とレジリエンス

  • 長期的視点の維持(7-10年のタイムホライズン)
  • 短期的な挫折や失敗からの回復力
  • 不確実性やプレッシャーへの耐性
  • 投資サイクル特有の「乾いた期間」の耐性

上記のスキルセットは広範囲に及びますが、特に優れたMDは以下の点で差別化されていることが多いです。

  • 独自の「投資の目」の開発: 他者が見逃す投資機会を発見する独自の視点
  • 創業者からの信頼獲得: 真に優秀な起業家から「この人に投資してもらいたい」と思われる人格と支援力
  • バランス感覚: 楽観と慎重さ、支援と介入、短期と長期など相反する要素のバランス
  • ネットワークのレバレッジ: 自身の持つ人脈を投資先の成長に最大限活用する能力
  • タイミング感覚: 市場機会、投資判断、支援介入、エグジットなど重要な「いつ」の判断力

世界最高レベルのVCのMDになるには、これらのスキルを複合的に磨きながら、自身のユニークな投資哲学と専門性を確立することが不可欠です。また、実際の投資経験を通じて失敗から学び、成功パターンを体得することで、理論的知識を実践的な判断力へと昇華させていくプロセスが重要となります。

■必要なスキル

VCMDは、ファンドの中核を担う重要な役割であり、多岐にわたるスキルが求められます。以下に、VCのMDが必須とする主要スキルを体系的に解説します。

1.投資判断力

市場洞察力

  • 成長市場と未開拓機会を特定する能力
  • テクノロジートレンドの先読み力
  • 業界構造変化を予測するマクロ視点
  • 「Why now?(なぜ今なのか)」を見極める時勢感覚

創業者・チーム評価能力

  • 創業者の資質、熱意、実行力を評価する目利き力
  • 経営チームの相互補完性とダイナミクスの分析力
  • リーダーシップの質と成長可能性の見極め
  • 逆境での対応力や学習能力の評価

事業モデル分析力

  • ビジネスモデルの持続可能性と収益性の評価
  • 競合優位性と参入障壁の分析
  • 成長ドライバーとリスク要因の特定
  • スケーラビリティとキャッシュ効率の評価

財務分析スキル

  • 企業価値評価と適切なバリュエーション設定
  • 財務指標の解釈と将来予測
  • キャッシュバーンレートとランウェイの分析
  • ユニットエコノミクスと収益構造の理解

2.戦略的思考力と支援能力

戦略策定支援

  • 創業者の事業戦略構築・精緻化の支援
  • 市場参入と拡大戦略のアドバイス
  • プロダクトマーケットフィットへの道筋提示
  • 競合環境に応じた差別化戦略の助言

スケーリング支援

  • 急成長期の組織構築アドバイス
  • 経営チーム強化と人材採用支援
  • 事業拡大に伴う課題予測と対応策提案
  • 国際展開戦略のガイダンス

資金調達支援

  • 次ラウンド資金調達の戦略立案
  • 投資家候補の特定と紹介
  • 資金調達資料の改善アドバイス
  • バリュエーションと投資条件の交渉支援

エグジット戦略

  • 最適なエグジットシナリオの策定
  • IPO準備プロセスの支援
  • M&A機会の創出と交渉サポート
  • 企業価値最大化のための長期計画立案

3.ネットワーキングと関係構築力

エコシステム構築

  • 業界横断的な人脈ネットワークの開発・維持
  • スタートアップ、投資家、業界専門家との関係構築
  • コーポレートパートナーや大企業とのブリッジング
  • 投資先企業間のシナジー創出

創業者との信頼関係

  • 創業者との深い信頼関係の構築と維持
  • オープンかつ誠実なコミュニケーション
  • 厳しい状況でも価値を提供できる関係性
  • メンターかつパートナーとしての立ち位置確立

LP(出資者)関係管理

  • 投資家への効果的な報告とコミュニケーション
  • 投資戦略とパフォーマンスの明確な説明
  • 長期的な信頼関係の構築維持
  • 次回ファンドのコミットメント獲得準備

業界影響力

  • 業界イベント・カンファレンスでの存在感
  • ソートリーダーシップの確立(執筆、講演等)
  • 質の高いディール・フローの自発的な集約
  • 業界内の評判と信頼性の構築

4.リーダーシップとファンド運営能力

チームマネジメント

  • 投資チームの指導・育成
  • 多様な専門性を持つチームの構築
  • パフォーマンス評価と適切なフィードバック
  • 組織文化と価値観の醸成

投資プロセス管理

  • 効率的なディール評価プロセスの構築運用
  • デューディリジェンスの指揮と監督
  • 投資委員会での適切な案件説明と議論主導
  • ポートフォリオ管理と資源配分の最適化

ファンドレイジング

  • 魅力的なファンド戦略の策定と提示
  • 潜在的LP候補の開拓と関係構築
  • 投資テーマとポートフォリオ構成の説明
  • トラックレコードの効果的なプレゼンテーション

リスク管理

  • ポートフォリオ全体のリスク評価と分散
  • 問題を抱える投資先の早期発見と対応
  • マクロ経済環境変化への適応
  • ファンド全体のパフォーマンス監視と最適化

5.コミュニケーションスキル

説得力のあるプレゼンテーション

  • 投資機会を明確に説明する能力
  • データと洞察を組み合わせた説得的な論理展開
  • 聴衆に合わせた情報の適切な調整
  • 複雑な概念を明確かつ簡潔に説明するスキル

ネゴシエーション能力

  • 投資条件の効果的な交渉
  • Win-Winの解決策を模索する協調的アプローチ
  • 複雑な利害関係の調整
  • 難しい状況での建設的な対話維持

コーチングとフィードバック

  • 創業者への建設的なフィードバック提供
  • 質問を通じて気づきを促す対話力
  • 成長を促進する適切な挑戦の提示
  • 強みを強化し弱みを補完するアドバイス

ストーリーテリング

  • 投資テーマや市場機会を魅力的に物語る能力
  • データと感情を組み合わせた説得的なナラティブ
  • 投資哲学と戦略を明確に伝える能力
  • メディア対応とパブリックスピーキングのスキル

6.業界・専門知識

技術理解力

  • テクノロジートレンドとイノベーションへの深い理解
  • 技術的実現可能性とスケーラビリティの評価
  • 技術的差別化と競争優位性の分析
  • プロダクト開発サイクルと技術採用曲線の理解

業界専門知識

  • 特定産業または複数産業での深い知見
  • 市場構造と競争環境の理解
  • 規制環境と業界標準の把握
  • 主要プレイヤーとその動向分析

法務・契約知識

  • 投資契約書と株主契約の理解
  • ガバナンスと株主権利の知識
  • 知的財産権の評価と保護戦略
  • コンプライアンスと規制環境の理解

財務・会計知識

  • 財務諸表分析と企業価値評価
  • キャピタルストラクチャーとファイナンスオプションの理解
  • 税務計画と最適化の知識
  • 出口戦略に関連する財務構造理解

7.個人的資質とマインドセット

好奇心と学習意欲

  • 継続的な自己啓発と知識更新
  • 新しい業界・技術への探究心
  • 多様な情報源からのインプット習慣
  • 失敗からの学習姿勢

決断力と判断力

  • 不完全な情報下での意思決定能力
  • 複雑な状況の本質を見抜く洞察力
  • リスクとリターンのバランス感覚
  • 一貫した投資哲学に基づく判断

忍耐力とレジリエンス

  • 長期的な視点の維持(7-10年の投資サイクル)
  • ストレスや不確実性への対処能力
  • 失敗や挫折からの回復力
  • 厳しい環境下での冷静さと判断力

高い倫理観と誠実さ

  • 利益相反状況での適切な判断
  • 透明性と説明責任の重視
  • 長期的な評判と信頼の構築
  • 創業者・LP・同僚への誠実な対応

上記のスキルを基盤としつつ、特に優れたVCのMDは以下の点で差別化されています。

  • 独自の投資テーゼと視点
    • 市場コンセンサスに囚われない独自の投資哲学
    • 他者が見落とす機会を発見する「目」
    • 独自の情報源とインサイトネットワーク
  • 創業者からの強い信頼
    • 最高の創業者から「この人に投資してもらいたい」と思われる資質
    • 困難な時期にも真の価値を提供できる支援力
    • 創業者の長期的成功への本質的関心
  • 実績に裏打ちされた信頼性
    • 成功投資の一貫したトラックレコード
    • 難局を乗り越えた投資先の具体的成功事例
    • 業界内での評判と信頼
  • バランス感覚とタイミング
    • 支援と介入の適切なバランス
    • 楽観主義と現実主義のバランス
    • 投資・追加投資・エグジットの絶妙なタイミング感覚
  • 適応力と進化能力
    • 市場環境の変化への迅速な適応
    • 自己の投資アプローチの継続的改善
    • 新しいビジネスモデルや技術への開放性

これらのスキルと資質は、理論的知識だけでなく、実際の投資経験と失敗からの学習を通じて磨かれるものです。優れたVCのMDになるには、継続的な自己研鑽と実践を重ね、独自の強みと投資スタイルを確立していくことが不可欠です。

VCのマネージングディレクターまでの 道のり

VCのMDという頂点に至るキャリアパスは一本道ではなく、様々な経路が存在します。まず、VCファーム内でのキャリアアップを見てみましょう。典型的には、アナリスト→アソシエイト→プリンシパル→パートナー→マネージングディレクターというステップを踏みます。この内部昇進ルートでは、投資判断の経験値を積み上げつつ、自分なりの「勝ちパターン」と投資哲学を確立していくプロセスを歩みます。

外部からVCに転身するルートも広く開かれています。

  • 戦略コンサルティングファームからの転身

最も典型的なのが、戦略コンサルティングファームからの転身です。大手戦略コンサルティングファームで培った事業分析力と戦略思考は、VC業界でも高く評価されます。特に業界特化型のVCであれば、その業界に精通したコンサルタント経験者は即戦力として重宝されるでしょう。

  • 投資銀行からの転身

投資銀行出身者もVC業界では多く見られます。M&Aアドバイザリーや企業価値評価の経験は、投資判断や出口戦略の立案に直接活かせるスキルとなります。特に大型のレイターステージに特化したVCでは、財務モデリングの経験豊富な投資銀行出身者が活躍する例が少なくありません。

  • シリアルアントレプレナー(複数の起業経験者)からの転身

近年特に増えているのが、シリアルアントレプレナー(複数の起業経験者)からVCへの転身です。自ら起業し、資金調達やエグジットの経験を持つ起業家は、投資先の創業者が直面する課題を実体験として理解しています。この共感力と実戦経験は、特にアーリーステージの投資では大きなアドバンテージとなります。成功した起業家がエンジェル投資家を経てVCのMDになるケースも少なくありません。

  • 大手企業からの転身

大企業の事業開発やCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を経てVCに転じるケースも見られます。業界知識と大企業とのネットワークを持つ人材は、投資先の事業提携やM&A機会の創出に貢献できるため、戦略的価値が高いとされています。

  • 特定領域の専門家や研究者からの転身

近年はさらに、テクノロジー領域の専門家や研究者がディープテック特化型VCのパートナーやMDとなるケースも増えています。AIやバイオテクノロジーなど専門性の高い領域では、その技術の価値を正確に評価できる専門知識を持つ人材が重宝されているのです。

いずれのパスにおいても、VCのMDへの道を歩むうえで共通して求められるのが、独自のディールフローを生み出せることです。業界内で「この人に会うべき」と起業家から指名されるほどの存在価値を確立できるかどうかが、最終的な成功を左右するといえるでしょう。

若手時代に身につけておくべき経験としては、まず第一にビジネスモデルを分析・構築する能力の獲得が挙げられます。戦略コンサルティングや新規事業開発など、ビジネスの設計図を描く経験は非常に価値があります。次に、財務モデリングやバリュエーションのスキルも欠かせません。投資銀行や会計ファームでの経験は、この面で大きなアドバンテージをもたらします。

そして最も重要なのは、特定の業界や技術領域における専門性の確立です。「この分野ならこの人」と業界内で認識されるような独自の専門領域を持つことで、VCとしての差別化が可能になります。学術的バックグラウンドを持つ人であれば、その専門知識を活かした投資テーマを確立することが王道といえるでしょう。

理想的には、これらの要素をキャリアの中で計画的に習得していくことで、将来のMDとしての基盤を築いていくことができます。重要なのは、経験を積むだけでなく、その過程で独自の視点と判断軸を形成していくことなのです。

VCのマネージングディレクターの キャリアパスの展望

VCのMDとして活躍するうちに、ビジネスパーソンとして極めて価値の高いスキルセットが自然と磨かれていきます。その最たるものが「未来を見抜く力」です。テクノロジーやマーケットの先を読み、まだ形になっていないアイデアの可能性を評価する目利き力は、VCのMDとしての日々の判断の中で徐々に研ぎ澄まされていきます。これは一朝一夕で身につくものではなく、多くの成功と失敗から学ぶ経験知として蓄積されるものです。

同時に、財務分析力も飛躍的に向上します。B/SやP/Lを読むだけでなく、事業の本質的な価値や成長可能性を数字から読み取る力、そして将来の成長を財務モデルとして表現する能力は、継続的な投資判断の中で磨かれていきます。特に、まだ収益化していない段階のスタートアップの価値評価は高度な分析力を要し、この経験は他のどのような職種でも得難いものです。

さらに、起業家と向き合う日々の中で、起業家精神の本質を深く理解する力も身につきます。成功する起業家に共通する特性、チームビルディングの要諦、組織文化の醸成法など、ビジネス構築の根幹に関わる洞察を得ることができるのです。これは、自らが経営者になる際にも、他の経営者を評価・支援する際にも貴重な財産となります。

また、VCのMDには業界を横断する広範なネットワーク形成能力も培われます。起業家、投資家、大企業の意思決定者、専門家など、ビジネスエコシステムの主要プレイヤーと深い関係を築く中で、人的ネットワークが飛躍的に拡大します。このコネクションは、その後のキャリアにおいてかけがえのない資産となるでしょう。

VCのMDとしてのキャリアを築いた後の展望も、実に多彩です。最も直接的なパスとしては、より大きなファンドの設立や自らのVCファームの創業があります。蓄積した実績と知見、ネットワークを活かし、独自の投資哲学に基づくファンドを運営するVCの創業者になる道は、多くのMDが目指す頂点の一つです。

別の選択肢として、VCで培った目利き力や経営支援スキルを活かし、有望企業のCEOやCOOとして経営の第一線に立つこともあります。投資家の視点を持つ経営者として、成長企業の舵取りを任されるケースは珍しくありません。

さらには、投資実績とネットワークを基に、複数の企業の社外取締役や顧問として活躍する道もあります。スタートアップ企業のの一員として、重要な意思決定に関与する役割は、VCのMDの経験を最大限に活かせるポジションと言えるでしょう。

このように、VCのMDとして身につくスキルと人脈は、その後のキャリアに無限の可能性をもたらします。それは、ビジネスにおける「知の集約点」としての地位を確立し、次世代の産業創造に関わり続ける基盤となるのです。

まとめ

役割と責任

  • VCのマネージングディレクターは、資金提供者としてだけでなく、スタートアップの成長を多面的に支援するパートナーとしての役割
  • 投資先企業のボードミーティングへの参加を通じ、四半期ごとの業績レビューから、重要な経営判断、採用戦略まで、企業価値向上に関わる重要な意思決定に参画し、発言や助言を行う責任

求められるマインドやスキル

  • 市場環境や組織状況に応じて、各任務へのリソース配分を最適化する判断力
  • 独自の「投資の目」の開発: 他者が見逃す投資機会を発見する独自の視点
  • 創業者からの信頼獲得: 真に優秀な起業家から「この人に投資してもらいたい」と思われる人格と支援力
  • バランス感覚とタイミング
  • 適応力と進化能力

重要な職務

  • 投資判断と実行のリーダーシップ
  • LP(出資者)リレーションシップの構築・維持
  • ポートフォリオ価値向上とエグジット戦略の実行

キャリアパス

  • VC内でのキャリア:アナリスト→アソシエイト→プリンシパル→パートナー→マネージングディレクター
  • 戦略コンサルティングファームや投資銀行、シリアルアントレプレナー(複数の起業経験者)からVCへの転身増加
  • 大きなファンドの設立や自らのVCファームの創業などのステップアップ