経理・財務・会計ファイナンス人材のためのキャリア名鑑
財務の専門性と経営者の視点を併せ持ち、企業の持続的成長と価値向上に貢献する
CFOや経営者への飛躍につながる、貴重なキャリアステップ
800万円~1,200万円
※業績や評価によって変動
30歳~40歳
スタートアップ企業の経理部長は、急成長する企業の財務を統括し、経営陣の右腕として会社の舵取りを財務面から支える重要なポジションです。数字を管理することに加えて、経営戦略の策定から実行までを財務の視点からリードする戦略的なビジネスパートナーとしての役割を担います。
経理部長の一日は多岐にわたります。朝は昨日の資金状況の確認から始まり、経理チームへの業務指示、経営会議の準備、投資家とのコミュニケーション、経営陣との財務戦略の議論など、様々なタスクをこなします。特にスタートアップでは、過去の数字を記録することに加え、未来の成長に向けた財務戦略を立案し、その実行をリードすることが求められます。
スタートアップ企業の経理部長の最も重要な役割の一つは、リスク管理です。急成長企業特有の攻めと守りのバランスをとりながら、財務健全性を維持する難しい舵取りが求められます。例えば、売上が急増している時期こそ、キャッシュフロー管理を徹底し、成長に伴う資金需要を先読みする必要があります。売掛金が増加するタイミングで運転資金が逼迫するリスクを予測し、適切なタイミングで資金調達や与信管理の強化を提案することで、黒字倒産のような事態を未然に防ぐのです。
このリスク管理の一環として、複数のシナリオに基づく財務シミュレーションを行い、「もし資金調達が予定通り進まなかったら」「もし主要顧客からの入金が遅延したら」といった状況に対する対応策をあらかじめ検討しておくことも重要です。経営陣に対して「現在のバーンレート(資金消費率)では、手元資金はあと何ヶ月持つ」といった情報を常に提供し、必要に応じて支出の優先順位付けを促すことも、経理部長の重要な責務です。
また、スタートアップ企業ならではの課題として、急速な組織拡大に対応した経理体制の構築があります。従業員数が半年で20人から100人に増えれば、経費精算の処理量は5倍になります。このような急成長に対応するため、適切なシステム導入や業務フローの最適化を主導することも重要な役割です。「今の仕組みを10倍のスケールでも運用できるか」という視点で、常に先を見据えた体制づくりを行います。
さらに、資金調達の局面では中心的役割を担います。シリーズAやシリーズBといった資金調達ラウンドでは、財務デューデリジェンスの対応、タームシート(投資条件)の交渉サポート、資金調達後の資金管理計画の立案など、企業の成長を資金面から支える重要な任務を遂行します。時には投資家に対して直接プレゼンテーションを行い、会社の財務健全性や成長性を説明する場面もあるでしょう。
経理部長は、社内の財務教育や財務リテラシー向上にも貢献します。各部門のマネージャーが予算管理や収益性分析を理解できるよう支援し、全社的な財務意識を高めることで、より効率的な経営資源の活用を促進します。
このように、スタートアップの経理部長は「数字の管理者」としての役割だけではなく、企業の持続的成長を財務面から主導する「戦略的リーダー」です。経営陣との協働により、企業価値を最大化する財務戦略を立案・実行する—そんな挑戦と責任に満ちたポジションなのです。
スタートアップ企業の経理部長の魅力は、企業の成長戦略に深く関わり、経営判断に直接影響を与えられる点にあります。この役職は、財務のプロフェッショナルとしてのスキルを最大限に活かしながら、ビジネスの最前線で活躍できる醍醐味に溢れています。
最大の魅力は「経営への影響力」でしょう。大企業では経理部門と経営陣の間に複数の階層が存在することが多いですが、スタートアップ企業では経理部長が経営会議のメンバーとして直接発言する機会が多くあります。「この新規事業への投資は妥当か」「海外展開のタイミングは今か」「次の資金調達はいつ行うべきか」—そんな企業の進路を決める重要な意思決定において、あなたの財務分析や提言が直接経営判断に反映されるのです。このような影響力は、財務のプロフェッショナルとして大きなやりがいにつながります。
また、包括的な財務経験を積める点も魅力です。スタートアップ企業の経理部長は、日常的な経理業務の統括だけでなく、資金調達、事業計画策定、予算管理、投資判断、M&A検討、内部統制構築など、財務・経理のあらゆる側面に関わります。大企業では10年以上かけて経験するような多様な財務業務を、スタートアップでは短期間で幅広く経験できるのです。特に成長フェーズにあるスタートアップでは、事業拡大、組織変革、資金調達など、様々な局面での財務判断が求められ、プロフェッショナルとしての総合力を高める絶好の機会となります。
さらに、創造性を発揮できる環境も大きな魅力です。スタートアップ企業では多くの場合、経理財務の体制を一から構築していくため、「こうあるべき」という既存の枠組みに縛られることなく、最適な仕組みを自らの判断で設計・実装できる自由度があります。経理システムの選定から予算策定プロセス、管理会計の仕組み、報酬体系まで、理想的な財務経理の体制を創り上げられることは、大きな達成感につながります。特にこれまでの経験で「こうすればもっと良くなるのに」と感じていたアイデアを実現できる環境は、プロフェッショナルとして非常に刺激的です。
成長企業の一員としての経済的リターンも見逃せません。多くのスタートアップでは、給与に加えてストックオプションなどのエクイティ報酬が提供されることが一般的です。企業価値向上に直接貢献する経理部長として、その恩恵を直接受けられる可能性があるのです。特にIPO(株式公開)やM&A(企業買収)などの出口戦略が実現した際には、大きな経済的リターンを得られるチャンスもあります。
そして、キャリアの飛躍的な成長も魅力の一つです。スタートアップ企業の経理部長としての経験は、次のキャリアステップにおいて非常に評価されます。会社の成長に伴い、CFO(最高財務責任者)へのステップアップも視野に入れることができますし、あるいは他の成長企業からヘッドハンティングされるケースも少なくありません。特にIPOやM&Aをリードした経験は、市場価値の高いスキルとして評価されます。
最後に、企業の成長を実感できる喜びも魅力の一つです。自らが構築した財務基盤の上で企業が成長し、「社員10人、売上1億円」だった会社が「社員100人、売上30億円」へと発展していく過程を、中核メンバーとして支えるのは何物にも代えがたい経験です。財務数値の向上を最も身近に感じられるポジションとして、企業の成長を数字で実感できる喜びは、経理部長ならではの醍醐味と言えるでしょう。
スタートアップ企業の経理部長の年間スケジュールは、3月決算の会社を前提に、シリーズBの資金調達を終え、次のステージを目指す成長フェーズにあるスタートアップ企業をここでは想定します。経理部長は経理業務だけでなく、経営戦略の策定から実行まで幅広い責任を担っています。
経理部長が最も重視すべきは、会計・財務データをもとに経営層へ、意思決定を促すためのリアルタイムなモニタリングと事業KPIの見える化です。スタートアップ企業では、売上・粗利・資金繰り指標などが日々変化しやすく、経理部側からタイムリーに異変や成長シグナルを把握し経営者へ共有することは、会社のリスクコントロールと成長加速の両面で決定的な意味を持ちます。
資金調達の実務と日々の資金繰り管理です。ベンチャーキャピタルや銀行からの調達、そのためのピッチ資料や財務計画の作成、株主や投資家との説明対応があります。加えて、現在〜将来のキャッシュフローを常に正しく把握・予測し、不測の出費・遅延リスクを最小限化する能力が求められます。資金がショートするリスクを未然に察知し、最適なタイミングで経営者に警鐘を鳴らすことは、会社の存続そのものに直結します。
成長に伴い欠かせないのは、管理体制の高度化です。特にIPOを目指す企業では、経理部長が中心となり、会計基準準拠の経理体制や、リスク管理・内部監査の枠組みなどをゼロから設計・運用します。監査法人や証券会社の指摘事項への柔軟な対応・改善力も必須です。コンプライアンス遵守やガバナンス確保は、会社の対外的な信頼向上と持続的成長に欠かせません。
これら3つの重要任務をリーダーシップと専門力でチーム・会社全体に浸透させることが、スタートアップ企業の経理部長の使命です。
スタートアップ企業の経理部長の報酬は「年収+ストックオプション(持株)+賞与」という構成が一般的です。
ここでは全体像と内訳、変動要因および最新トレンドを詳細に解説します。
このように、ダイナミックな成長×成果インセンティブという希少な報酬設計は、スタートアップ経理部長ならではの醍醐味です。
スタートアップは想定外の事態が日常茶飯事です。「変化=チャンス」と前向きに捉え、たとえば新サービス開始や事業モデルの転換などでも「どうしたら会社のフェーズに最適化できるか?」を考え抜く姿勢が必須となります。
会社の成長や危機に“自分ごと”としてコミットできる感覚です。経営会議・予算策定・資金調達など、会社の根幹に自ら手を挙げて取り組み、失敗も自分の糧として活かせる人材が活躍できます。
経理だけでなく他部署を巻き込み、管理体制や業務改善を推進できるリーダーシップが求められます。自分から課題を発見し、現場や経営層に働きかけて、新しい仕組みを創出する推進力はスタートアップに不可欠です。
会計のプロとして正確に・スピーディに判断を下すには、「なぜそうなるのか?」を常に追求できる論理的思考が大前提。決算締めや資金繰りなど失敗が許されない場面でも、冷静かつ納得感のある意思決定で信頼を得ます。
ガバナンスや法令遵守を、信頼の根拠として内面化できることは、スタートアップ企業の経理部長の要件そのものです。どんなに会社が急成長しても、誠実であることを最優先する姿勢が関係者からの信頼を集めます。
スタートアップでは会社のフェーズによって激務期間もあるため、体力やストレス耐性・危機対応力も大きな価値です。想定外のトラブルや非計画な業務追加にも、ポジティブに立ち向かうエネルギーが求められます。
会計基準、税制、ガバナンスなどは絶えず変化します。新しい制度やITツールを積極的に学び、前例のない課題も柔軟に吸収・提案できるアップデート志向は大きな武器です。
スタートアップ企業の経理部長は「成長変化に立ち向かう勇気」「リーダーシップ」「誠実さ」をあわせ持つ人が強みを発揮できるポジションです。
日々の決算業務やIPO準備では、正確な会計基準に基づいたデータ設計・判断が不可欠です。新会計基準のキャッチアップ、現場への伝達力も必須です。
毎月の現預金残高管理・資金使途分析・調達タイミング判断など、“現金目線”で会社の健全性を維持する実務力が重要です。
財務分析やシミュレーション、業務効率化のためExcelや会計ソフト(freee/マネーフォワードなど)の高い操作力。データ抽出・可視化力が実務に直結します。
上場準備では内部統制プロセスの新たな設計・運用・文書化まで主導します。監査法人や証券会社対応も含め、ルール整備から実行まで一貫対応力が求められます。
海外投資家、外資系金融機関、グローバル監査法人対応のため、英語での会計ディスカッションやメール作成スキル。外部専門家への論理的な相談も必須です。
少人数の管理部門で、若手スタッフの育成指導や業務分担の最適化、モチベーション管理も担う必須スキルです。
新規システム導入や予算改革等、自分がリーダーシップを発揮して横断プロジェクトを推進するファシリテーション力も活かされます。
スタートアップ企業の経理部長には高度で実践的な「会計・財務知識」と「現場推進力」「組織マネジメント力」まで、広範なスキルセットが要求されます。これらのスキルを身につければ、経理マネジメントのプロフェッショナルとしてさらなるキャリアの広がりも実感できるでしょう。
スタートアップ企業の経理部長という重要なポジションに至るキャリアパスは多様です。経理部長の立場から逆算して、どのようなキャリアを経てこのポジションに至るのか、複数の道筋をご紹介します。
スタートアップ企業の経理部長の直前ポジション
さらに手前のポジション
また、スタートアップ企業の経理部長を目指すために経験しておくと良い職種・業務としては、具体的には以下のようなものが挙げられます。
スタートアップの経理部長を目指すには、会計・財務の専門性はもちろんのこと、経営者視点でビジネスを理解し、財務戦略を立案できる能力が重要です。理想的には、大企業での体系的な財務会計知識と、ベンチャー企業での機動的な意思決定経験の両方を持ち合わせることで、スタートアップの各成長フェーズに最適な財務リーダーシップを発揮できる人材となれるでしょう。
特に重要なのは、「正確な経理処理ができる」ことに加えた「財務を通じて企業価値を高める」という戦略的思考力です。数字の背後にあるビジネスの実態を理解し、その洞察に基づいた提言ができるスキルを磨くことが、スタートアップの経理部長への道を切り拓く鍵となるでしょう。
スタートアップ企業の経理部長としてスキルを習得し、その後に得られるキャリア展望は非常に幅広く、プレミアムなものです。まず、会計・財務・経営数値を横断的に見渡しつつ、激しい環境変化や事業成長にダイレクトに関わる実務経験は、市場価値の高い「攻めの管理部長」「プロ経理」の証しになります。
この職種の経験を生かして、スタートアップCFOや管理部門責任者、経営企画・財務担当役員などの上位ポジションを目指せるのみならず、IPO経験や内部統制構築経験を武器に東証プライム上場企業や外資スタートアップの管理職にキャリアアップする人も少なくありません。
さらに、ストックオプション制度などで上場益を獲得し独立起業、会計コンサル、管理部長派遣のプロフェッショナル・フリーランス転身など、働き方の選択肢も大きく広がります。加えて、スタートアップ出身の経理部長は、変化対応力とリーダーシップが高く評価され、M&Aアドバイザーやベンチャーキャピタルの管理系パートナー就任など、他分野のプロへの転身も実現可能です。
また、スタートアップ独自のスピード感や裁量の大きさを生かし、他社の“IPO請負人”や再建案件への転職など、即戦力として市場ニーズが絶えません。日々の経験が新たなキャリアの種となり、管理部門専門メディアでの執筆や業界セミナー講師、社外監査役などの道も広がっています。
一度スタートアップ企業の経理部長を経験すれば「数値を軸に経営を支える」「会計×戦略の両方に強い」スペシャリストとして、未来にわたって数多くの成長フィールドを手に入れることが可能です。新しいポスト・ミッションに積極的にチャレンジし続けることで、自己成長の螺旋を何度も駆け上がることができるでしょう。