インフレ・金利上昇局面での資金調達・運用戦略 ~CFOがいま見直すべき4つの視点~

近年の日本におけるインフレと金利上昇は、調達コストの上昇と資金運用環境の変化を同時にもたらし、CFOにとって PL と BS の前提が揺らぐ局面です。本稿では、とくにスタートアップのCFOを想定し、いま見直すべき4つの視点を整理します。
目次
CFOに求められるALMの視点とは
銀行で発展してきた ALM(Asset Liability Management=資産負債管理)の視点は、企業財務にも有効です。具体的には、設備投資やM&Aといった長期の投資は長期・固定金利の資金で、季節変動に伴う運転資金のような短期需要は短期借入やコミットメントライン(いつでも借入可能な融資枠)、社債などで賄うというように、投資の回収期間と負債の期間・金利条件を意識してマッチさせることで、金利変動リスクや借り換えリスクをコントロールできます。
また、固定金利と変動金利のバランス、借入期間と償還スケジュールの分散も ALM の重要な論点です。変動金利に偏り過ぎれば金利上昇が利払い負担に直結し、逆に全てを現在の金利で長期固定化すれば将来の金利低下のメリットを享受できません。
現状の有利子負債を金利タイプ・期間別・金融機関別に棚卸し、返済が特定年度に集中していないか、3年以内に条件見直しが来る借入が過大でないかを確認することが、CFO視点での実務的な ALM の第一歩になります。
ALMに基づくシナリオプランニング
ALM を機能させるには、金利・インフレ率・為替などの前提を一本で置くのではなく、複数シナリオでのシミュレーションが欠かせません。ベースケースに加え、金利高止まりケースや再低下ケースなどを設定し、それぞれの前提のもとで金利負担額、借入残高、キャッシュ残高、さらには在庫や投資プロジェクトの採算がどう変化するかを検証しておくことで、取締役会や金融機関とのコミュニケーションは格段にしやすくなります。
その際、特定の担当者だけが扱える複雑なエクセルモデルではなく、金利前提を一箇所変更するだけで全体が連動し、月次決算データとも接続できる簡易モデルやテンプレートを社内に整備しておくことが重要です。
これにより、インフレや金利の変動を定期的に前提に反映し、投資案件の割引率や販売価格・原価の前提を機動的に更新できる体制が整い、「財務の筋力」が着実に強化されます。
運用サイド=インフレ局面における資金運用とキャッシュの持ち方
インフレ率が高まり金利も上昇する局面では、現金を保有し続けることの実質的な価値目減りが大きくなる一方、短期金融商品や定期預金など安全資産の利回りは相対的に改善します。CFOはまず、①運転資金として最低限必要な現預金、②非常時に備えた戦略的な流動性バッファ、③それを超える明らかな余剰資金という三層を切り分ける必要があります。
①最低限の運転資金と②バッファを除いた③余剰部分については、短期国債やMMF,信用・流動性リスクを管理したうえでの社債やCP等を含む短期運用商品への振り向け、あるいは将来予定していた設備投資やプロジェクトの前倒し実行など、インフレと金利を踏まえた運用方針を検討すべきです。
あわせて、在庫や設備投資についても、インフレを理由に単純に「積む/急ぐ」のではなく、需要減速や陳腐化のリスク、保管コスト、金利上昇によるNPVの悪化といった要素を、先のシナリオプランニングと連動させて評価することが求められます。
調達サイド=借入構造とバンクミックスの見直し
調達面では、金利上昇とともに金融機関の融資姿勢や価格付け、コベナンツ(制限条項)、ファシリティ(与信枠)の更新条件が変化します。
メインバンクだけに依存せず、サブバンクや地域金融機関、ノンバンク、証券会社、リース会社等との関係も含めた「バンクミックス」を再点検し、同一条件での借換えの可否や条件、長期コミットメントラインの設定余地、引き出し条件の緩和可能性などを、困る前に把握しておくことが重要です。
同時に、調達コストが上がる局面では、負債での成長と自己資本での成長の相対的な魅力度も変わってきます。上場企業やスタートアップ企業のCFOであれば、公募増資や第三者割当、転換社債などのエクイティ調達手段と、配当政策・自社株買いの方針、ROE/ROICとWACCの関係を改めて確認し、どの程度までレバレッジを許容するのかという資本政策の基本方針を定めておくことが欠かせません。
まとめ
インフレや金利環境はCFOのコントロール外ですが、その影響をどう整理し、ALMとシナリオプランニングを通じて自社のBSとCFに落とし込むかは、まさにCFOの腕の見せどころです。
借入構造とバンクミックスの棚卸を行い、複数シナリオの構築、キャッシュと運用方針の明文化、投資評価前提と資本政策の見直しを通じて、環境変化を単なるリスクではなく、財務構造を鍛え直す好機として捉えることがCFOに求められます。
松岡 宏紀
公認会計士
CPAエクセレントパートナーズ株式会社
2007年、公認会計士試験に合格。EY新日本有限責任監査法人にて、監査・アドバイザリー業務に加え、社内外での研修講師や研修プログラムの作成・管理などに従事。現在、CPAエクセレントパートナーズ株式会社において、コンテンツの作成、監修を担当。