経理部長と管理部長に求められる役割の違いとは?

会社のバックオフィスの中核を担うポジションである「経理部長」と「管理部長」。どちらも会社運営を支えるうえで、重要な役割を果たします。
経理部長は、月次・四半期・年次決算の統括、税務申告や監査法人対応、財務諸表や有価証券報告書などの開示資料作成などが主な業務です。また、経営層に財務データを提供し、経営の意思決定をサポートする役割があります。
管理部長は、財務だけに限らず、会社運営全般を円滑に回す役割を担います。人・モノ・情報といった経営資源をマネジメントし、会社が健全に成長できる環境を整えることが仕事です。具体的には、人事(採用、評価、労務管理)・総務(規程整備、社内イベント、オフィス管理)・法務(契約書チェック、コンプライアンス体制)・情報システム(基幹システムやセキュリティ対策)と非常に幅広い領域における高い専門性を持ち、経営資源全体のマネジメントをするポジションです。
現在、日本の多くの企業において、特に中小企業やスタートアップ企業では、管理部門をひとまとめにして、管理部長が経理の責任者も担う組織体制は珍しくありません。
一方、大手上場企業では、管理部門のなかで経理部門を切り出して、経理部長を置く傾向にあります。体制設計を誤るとガバナンスの不備や業務過多などのリスクが高まります。本コラムを読んでいただくことで、自社の規模やステージに合ったバックオフィスの最適な役割分担や組織体制の方向を判断するきっかけにしていただければ幸いです。
本コラムでは、経理部長と管理部長それぞれに求められる役割と企業に与える影響に着目しながら、両者に求められる役割の違いを明らかにしていきます。
目次
管理部門のなかに経理部長を設けるメリット
1. ガバナンス強化
もし、一人の責任者が管理部門全体の業務を担うと、チェック機能が働きにくく、不正や誤りの発生リスクが高まります。経理部門を独立させることによって、たとえば管理部門の一つである人事部の給与計算データを経理部がチェックすることにより、相互牽制が生まれます。それによって不正・誤謬のリスクが低減され、ガバナンス体制を向上させることができます。
特に上場企業は、ステークホルダーへの説明責任や金融商品取引法に基づいた内部統制報告制度(J-SOX)への対応義務があります。そのため、相互牽制のあるガバナンス体制は、財務報告の信頼性確保の観点でも重要です。
2. 業務負荷の軽減と責任の所在の明確化
管理部門は、全体として膨大な専門知識と業務量を要します。
管理部長が経理を含めた管理部門のすべてを担当すると、業務過多による疲弊、判断の遅延、ミスの発生リスクが高まります。経理部長を設けることによって管理部長の業務負荷が軽減され、それぞれの部長が自身の管轄業務に集中でき、より迅速かつ効率的に業務を遂行できるようになります。
また、役割が明確であると責任の所在も明確になります。担当範囲が明確であると、問題が発生した際も、原因の究明から解決策の実行まで迅速に進めることができます。
3. 後継者育成とリスク分散
経理部長と管理部長を設けることで、経理・財務の領域、そして人事・総務・IT・法務といった幅広い管理領域でそれぞれの専門性を高めることができます。
また、管理部長に経理の役割も求めると、その人が退職した場合に、たとえば経費精算が適切に行われず、加えて資金管理がおろそかになれば不正が起きやすくなり経営基盤が揺らぐ可能性があります。そういった属人化リスクを分散する観点においても、経理部門の責任者を別途置くことは有効です。
管理部門を管理部長に一本化するメリット
1.意思決定スピードの向上
財務や人事、総務、法務といった管理部門の業務に責任者がおり、それぞれ独立して経営層に報告を行うと、情報が分散し意思決定に時間を要する場合があります。
一方で管理部長に集約すれば、経営層は一元化された報告を受けられるため、迅速な意思決定が可能になります。
特にスタートアップ企業などの変化の激しい業界では、判断が遅れると機会損失につながる可能性があります。管理部長に一本化することで、意思決定のスピードがあがり、企業競争力強化につながります。
2. 管理部門全体を俯瞰して、データ分析・事業計画を立てられる
管理部門内の各部門が個別に動くと、セクショナリズムが発生し、会社全体としての最適解を導くことが難しくなります。たとえば、人事部は採用を拡大したいが、財務部はコスト削減を優先したいというケースなど、各部門の意見が対立して前に進まない場合があります。
しかし、管理部長がハブになることで、全体を俯瞰して全社最適の意思決定をすることが可能になります。また、管理部門全体のデータを横断的に分析することで、総合的な視点から事業計画を立てることができます。
3. 人件費を抑え、事業投資に資金を投下できる
部門ごとに部長を置くと、そのぶん人件費が増加しますが、管理部長に一本化することで、浮いた資金を事業投資へ回すことができます。
特にスタートアップ企業や中小企業はリソースが限られているため、バックオフィスに投資せずに、成長投資に資金を集中させることによって、会社全体の競争力を高めることができます。
4. 将来のCFO・CAOを目指すための理想のポジション
管理部長は、財務・会計・人事・総務・法務といった幅広い領域を横断的に見渡すポジションです。そのため、会社全体を見据えた全体最適の思考や、全社を見据えたうえでの経営戦略を立案・実行することが求められます。
これらは経営幹部に求められるスキルのため、将来のCFOやCAOになるためには効果的なステップになります。
つまり、管理部長のポジションは、将来の経営人材の育成ポストという意味合いも持っています。
まとめ
経理部長と管理部長はいずれも会社のバックオフィスを支える重要な役割を担っていますが、その役割には明確な違いがあります。
企業の規模やステージによって管理部門の体制は異なり、大手上場企業ではガバナンス強化や専門性の深化を目的に、経理部長と管理部長を分ける傾向があります。これにより相互牽制の仕組みを構築し、不正防止や内部統制の強化につなげることができます。
一方で中小企業やスタートアップ企業では、意思決定の迅速化や人件費削減、全社最適な戦略立案を重視して、管理部長に一本化するケースが一般的です。この場合、管理部長は幅広い知見を培いながら、将来のCFOやCAO候補として成長するための実践的なポジションともなります。
つまり、経理部長と管理部長の役割分担には「ガバナンスとリスク分散を重視するのか」「スピードと効率を重視するのか」という経営上の方針が色濃く反映されます。企業にとって最適な体制は一律ではなく、会社の成長ステージやリソース状況に応じて、どちらを採用するかを柔軟に見極めることが重要となります。
松岡 宏紀
公認会計士
CPAエクセレントパートナーズ株式会社
2007年、公認会計士試験に合格。EY新日本有限責任監査法人にて、監査・アドバイザリー業務に加え、社内外での研修講師や研修プログラムの作成・管理などに従事。現在、CPAエクセレントパートナーズ株式会社において、コンテンツの作成、監修を担当。