【特別コラム連載】会計ファイナンス人材×AI第7回 業務におけるAIの使い方

目次
AIサービスの選択について
外山:みなさん、こんにちは。
今回は、業務におけるAIの使い方について、具体的な解説をしたいと思います。実際の使い道はさまざまかと思いますが、なるべく多くの方の参考になる話ができればと考えています。
鈴木:よろしくお願いします。そもそもの話になりますが、AIサービス自体がたくさんあるため、どれを選べば良いのかと悩んでいる人は多いと思います。
外山:一般的には、ChatGPT、Gemini、Claudeといった生成AIが有名ですが、どのサービスが良いかということは一概には言えません。使用用途や、連携させたいサービスなどにもよりますからね。
それよりは、プランの選択の方が重要かもしれません。高性能なモデルや、最新の機能を使いたい場合は、上位プランへの加入が必要なはずです。
特に企業がAIを使う場合、セキュリティや信頼性が重要なので、法人向けプランを契約することを推奨します。データをAIの学習に利用しないという規約や、データを保持しないといった規約がある場合が多く、セキュリティに関する外部監査(SOC 2 Type 2など)を受けているものもあります。このような点は、企業が契約する上で重要かと思います。
鈴木:有限責任パートナーズ綜合監査法人では、Microsoft Copilotを使用していますね。法人向けのプランです。
外山:業務で一番使われているのは、Microsoft Copilotかもしれませんね。Microsoft 365のライセンスに登録するだけで、Copilot Chatという対話型AIサービスが使えます。他のマイクロソフト製品との連携も強みですね。
鈴木:GPT-5など、OpenAI社製のAIモデルが使えるのですよね。
外山:マイクロソフト社は、OpenAI社への巨額投資を通じて強固な提携関係を築いており、Copilotでも同社の最新モデルをいち早く利用できます」
また、最近のマイクロソフト社は、アンソロピック社とも連携を深めており、Claudeも使えるようになりつつあります。
鈴木:わたしが所属している監査法人ではマイクロソフト社のOffice製品を使っているため、自然とCopilotが選ばれたという経緯もあるようです。
Google Workspaceを中心に運用している企業なら、Geminiが第一選択になるのでしょうね。
外山:Google社は、特定の資料をリサーチするためのアシスタントNotebookLMや、IT開発用サービスAntigravityなど、目的別のAIサービスを運営しています。Nano Bananaと呼ばれる画像生成AIも強力ですね。
鈴木:プライベートでGeminiを使っている人も多いと思います。業務のために新たに覚えることが少なくて済むという点も、Googleの強みかもしれません。
そういえば、最近はネット記事などでClaudeをよく目にします。どのような点が優れているのでしょうか。
外山:Claudeを開発しているアンソロピック社は、事務作業に特化した、非常に実践的なAIを作り続けてきました。そのため、(画像生成ができないなど)サービスの幅は比較的狭いですが、実務の世界では定評があります。特に有名なのは、プログラミング用のAIサービスClaude Codeですね。ITエンジニアの愛用者が多いです。
最近では、エンジニア以外にも使いやすいClaude Coworkというサービスもリリースされました。AIが具体的な作業を行ってくれるというものです(このようなAIを、エージェントと呼びます)。さらに、プラグインというものを入れることにより、機能を追加することもできます。金融・会計分野のための「Finance」というプラグインも用意されているため、経理や監査の現場で働く人にはClaude Coworkが有力な選択肢となるかもしれませんね。
鈴木:会話だけでなく、作業を行ってくれるAIエージェントは、これからのトレンドになっていくでしょうね。
今まで挙がったのはアメリカの企業ばかりですが、国産のAIサービスも増えている印象です。やはり、日本で作られたAIモデルが使われているのでしょうか。
外山:現状、まだ純国産のAIモデルはほとんど使われていないですね。日本企業が運営しているサービスや、あるいは各社が独自に行っている社内AIで使われているモデルは、基本的に外国製だと考えて良いと思います。OpenAI社やGoogle社などが提供するAPIを用いているものが大半でしょうね。
鈴木:APIという言葉はたまに見聞きしますが、どういうものなのか詳しく解説してほしいです。
外山:一般に、異なるソフトウェアやシステム同士を繋ぐ仕組みをAPI(Application Programming Interface)といいますが、最近はWeb APIのことを指す場合が多いです。Web APIが用意されていれば、人間がわざわざWebサイトやソフトなどを操作しなくても、プログラムを書くだけでデータのやりとり等ができるのです。
つまり、OpenAIやGoogleが提供しているAPIを使うことにより、自社サービスからGPTやGeminiなどを呼び出すことが可能になるというわけです。
鈴木:APIさえ提供されていれば、自社のシステムと他社システムを連携させる仕組みを開発することができるのですね。自社でAIを用意しなくても良いというのは大きな利点です。
外山:注意すべきは料金ですね。APIは、使った分だけ支払う従量課金制であるのが普通です。つまり、AIを使えば使うほどお金がかかるわけです。一般に、性能が高いAIモデルほど高価なので、費用対効果を考える必要があるでしょう。
モデルの選択について
鈴木:Microsoft Copilotを使う場合でも、使用するAIモデルを選択できますよね。
外山:Copilotのような定額サービスの場合、料金は気にする必要はありませんが、どのモデルを選択するかで回答の質は変わります。業務で定額サービスを使うのでしたら、最も高性能なモデルを選択するべきでしょう。モデル名にバージョン番号が付与されている場合は、バージョンの数値で判断できます。GPT-5.2と5.4があるのでしたら、5.4の方を選ぶといった具合です。
鈴木:そのように分かりやすい名前でしたら、迷わずに済みそうですね。
外山:アンソロピック社の場合は、ちょっと分かりづらいかもしれません。Opus、Sonnet、Haikuという3種のモデルがあるのですが、それぞれ特徴が違います。Opusは一番性能が高い大型モデルですが、やや遅く、コストも高いです。Sonnetはバランスが優れており、Haikuはレスポンスが速く低コストです。このように、モデルごとの特徴は押さえておきましょう。
鈴木:Copilotで選択できるモデルの中には、「GPT 5.3 Quick Response」や「GPT 5.4 Think Deeper」などというものがあります(2026年3月時点)。バージョン番号のあとに、モデルの特徴のようなものが書かれています。
外山:第5回『生成AIとは何か』で軽く触れましたが、これは通常モデルか推論モデルかということを表しています。今の例では、Think Deeperと付いているものが推論モデルですね。
推論モデルとは、即時に回答するのではなく、段階的かつ論理的に考えてから回答するモデルです。囲碁AIなどにも使われた、強化学習という技術が用いられています。これにより、論理的思考力が大幅に向上し、数学やプログラミングなどの回答の質が高まりました。
鈴木:以前、AIは数学が苦手だという記事を読んだ記憶がありますが、最近では大学入試や数学オリンピックの問題を解いたりできるようですね。
外山:そうですね。推論モデルの登場は大きなブレイクスルーでした。
業務で使うのでしたら、基本的には推論モデルを明示的に選択するのが良いでしょうね。逆に、日常使いで楽しく会話したいという人は、レスポンスが速い通常モデルの方がオススメです。
プロンプトの書き方講座
外山:ここまで長くなってしまいましたが、具体的にAIにどのような指示を与えるべきかという話に進みましょう。
AIに対して与える指示文のことを、プロンプトと呼び、プロンプトを設計する技術をプロンプト・エンジニアリングといいます。やや仰々しい言い方ですが、プロンプトの書き方で回答も変わるので、重要であることは間違いありません。
鈴木:私は業務でAIに質問する場合、「あなたは優秀で経験豊富な会計監査人です」といった一言を冒頭に付けるようにしています。
外山:実は、そのようなプロンプトは、今ではあまり推奨されていません。そういった「細かい言い回しによって、少しでも性能を上げる」という試みは、AIの性能がまだ低かった頃によく行われましたが、現在の高性能なAIにはあまり効果がないと言われています。
ただ、「会計監査人の視点で」といった、役割(ロール)指定はあった方が良いですね。どのような観点からの回答を求めているのかという点を明確にする指示は有効です。
鈴木:AIに指示を出しても、こちらの意図と異なる回答をされることがあります。AIに正しく伝えるコツはありますか?
外山:重要なのは、「人間が理解しやすい書き方をする」という観点だと思います。生成AI(大規模言語モデル)は人間とは異なりますが、人間が書いた文章を学習しているためか、人間が理解しやすいと感じる文章は、AIにも正しく伝わりやすいという傾向があるようです。
もしも鈴木さんが指示を受ける側だとしたら、どのような指示だと分かりやすいですか?
鈴木:結論や目的など、伝えたいことは明確にしてほしいですね。あとは、なるべく余計なことは書かず簡潔にしてほしいとか、曖昧な表現を使わないでほしいとか、二重否定を使わないでほしいとか、色々あります。形式的な面で言えば、箇条書きや、図や表なども使ってもらえると分かりやすいと思います。
外山:いま挙げていただいたことは、そのままAIに対しても有効です。
特に、形式面でいうと、「構造化」がキーワードになると思います。ダラダラと長文を書くのではなく、構造が明確な短文の組み合わせが有効です。そして、構造化の手法としては、マークダウン記法というものが推奨されています。
人間にもAIにも読みやすいため、AI時代の共通言語として覚えておくと良いでしょう。
まずは、見出しの書き方です。#(シャープ)から書きはじめます。さらに下位の見出しを書きたい場合は、## といったように#を重ねます。
【例】
# 目的
# AIの特徴
## OpenAIの場合
## Googleの場合
# 結論
続いて、リストです。これはいわゆる箇条書きのことですね。-(半角ハイフン)から始めます。
【例】
– 東京都
– 神奈川県
– 千葉県
リストに順番がある場合は、1. のように数値とドット(ピリオド)を使います。
【例】
1. 前処理
2. 分析
3. 作成
やや読みづらいと感じるかもしれませんが、表も書くこともできます。
【例】
| 都道府県 | 県庁所在地 | 特産品 |
|—|—|—|
| 千葉県 | 千葉市 | 落花生 |
| 青森県 | 青森市 | りんご |
| 静岡県 | 静岡市 | みかん |
強調したい文字は、**(2つのアスタリスク)で挟みます。
【例】
本日の授業で重要なのは**マークダウン記法**です
鈴木:最後の**は、AIが出力した文章で見たことがあります。
外山:実は、AIもマークダウン記法で出力しており、それが表や太字などに自動変換されているのです。ただ、たまに正確に変換できないことがあり、**などが残ってしまうことがあるというわけです。
では、マークダウン記法で例文を書いてみます。参考にしてください。
| # 依頼 **財務アドバイザリー**の視点で、中小企業(電子部品製造業、売上高50億円程度、従業員100名程度)の財務改善についてアドバイスをしてください。 # 相談内容 ## 企業の状況 – 売上は大きく落ちていないが、営業利益が減少している – 資金繰りにやや不安がある – 利息を含む、借入金の返済負担が重くなっている – 今後の設備投資を検討しているが、財務面の余力が見えにくい ## アドバイスしてほしい内容 次の順番で整理して回答してください。 1. 財務上の課題整理 2. 原因の仮説 3. 改善策の候補 4. 各改善策のメリット・デメリット # 出力 ## 注意点 – 専門用語を使いすぎず、平易な日本語で記載すること – 財務・会計・資金繰りの観点を中心に整理すること – 参考にしたサイトがある場合はリンクを明記すること ## 形式 「4. 各解決策のメリット・デメリット」は、以下の表形式で出力してください | 改善策 | メリット | デメリット | |—|—|—| | | | | |
鈴木:難しいというわけではないのですが、慣れは必要そうですね。
外山:常にマークダウン記法で書く必要はありません。
マークダウン記法が真価を発揮するのは、AIに具体的な成果物を作成させる場合ですね。その成果物がどのように生成されたかという流れを把握するため、その生成ノウハウを社内で共有するため、さらには生成に用いたプロンプトを他人が修正・改良するために、構造化されたマークダウン記法が使いやすいのです。
それに加えて、使用したAIモデル名、入力したプロンプト、出力された成果物の3点は、セットで扱うことも心がけましょう。それらの情報をまとめて保存し、社内のノウハウとして蓄積すれば、貴重な財産になっていくと思います。
AIをどう使うか
鈴木:具体的に、AIをどのような用途に使うべきでしょうか。誤りが含まれることがあるので、具体的な事実についての質問はしない方が良いとも言われますが。
外山:AIによる誤った回答をハルシネーションと呼びますが、AIの構造上、ハルシネーションが含まれる可能性をゼロにすることはできません。とはいえ、Copilotなど、現在のAIはWeb検索をして回答をするため、ハルシネーションを過度に恐れる必要はないと思います。情報のソースとなるサイトも明示されるので、チェックもできますしね。
ただ、検索的な使い方よりは、AIとの対話によって自分の考えを深めるような使い方を勧めます。いわゆる壁打ちでというやつですね。先ほどのマークダウン記法の例文は、典型的な壁打ちのためのプロンプトです。AIと会話をすることで、思考が整理されたり、新たな視点を発見できたりするので、得るものは多いと思います。
鈴木:その他、定番の使い方としては、文章の整理や要約、翻訳などでしょうかね。
画像ファイルを添付すれば、画像に含まれる文字を読み取ったりすることもできます。
外山:大規模言語モデルは文章を扱うAIですが、最近は画像や動画などを扱うことができるものが増えています。このように、文章以外のデータも扱うことができるAIを、マルチモーダルAIと呼びます。
鈴木:最近のAIは、WordやExcelなどを出力することもできますよね。あれもマルチモーダルの一種なのでしょうか?
外山:それはマルチモーダルとは異なるものです。画面上だけ見ても分からないのですが、実は裏ではPythonというプログラミング言語が呼び出されていて、Pythonを用いてWordやExcelファイルを作成しているのです。AIによっては、直接WordやExcelを操作できるものもありますね。
このように、AIがプログラミング言語や他のソフトなどと連携して作業を行う仕組みを、外部ツール呼び出しなどと呼びます。
鈴木:他のソフトとも連携できるようになると、AIができることの幅がますます広がっていきますね。
外山:マルチモーダルや外部ツール呼び出し、さらにはエージェント機能などにより、AIは単なるチャット用途を超えた能力を持ちはじめています。それにより、AIが誤った場合の影響が大きくなっている他、情報の漏洩、個人の成長の阻害、著作権侵害などのリスクも高まってきたといえます。次回は、AI利用の注意点についてお話ししましょう。
外山 哲郎
有限責任パートナーズ綜合監査法人
金融系、ゲーム系、など幅広い分野でスマートフォンアプリやWebサイトの開発に携わる。 2017年からAI業務に従事。データ分析や、医療の分野でのAI活用の研究・開発などに携わる。 ライターとしても活動(ニコニコニュース(ニコニコ動画))。 2024年7月 有限責任パートナーズ綜合監査法人入所。 現在は、IT専門家として監査業務に携わる他、法人内のDXおよびAI活用を推進している。
鈴木 爽矢
有限責任パートナーズ綜合監査法人
2022年大学3年生時に公認会計士試験合格。 大学時代にはCPA会計学院で監査論のチューター及び広報部のマーケティング業務を行う。 その後大手監査法人、コンサルティング会社を経て現職の有限責任パートナーズ綜合監査法人に入所。 現在は主に、IPO準備会社や上場企業の会計監査に従事し、財務デューデリジェンスなどの非監査業務にも携わっている。