【特別コラム連載】会計ファイナンス人材×AI第10回 AIの未来

目次
AIブームは終わる?
外山:みなさん、こんにちは。当コラムもついに最終回ということで、最先端のAIの動向や、AIの未来についてお話ししたいと思います。
鈴木:よろしくお願いします。これからAIがどのように進歩していくのか、非常に関心があります。会計ファイナンスの実務にも大きな影響があると思われます。
外山:まず押さえておくべきことは、これからもAIの性能は向上し続けるだろうということです。過去に類例がないほどの規模で世界中からお金と人材が集中しており、今のところ勢いの衰えは見受けられません。
鈴木:たしかに、何兆円という金額が動いているというニュースを見ます。ただ、これはバブルだという見解もありますよね。
外山:一般に、バブルとは実態価値以上に価格が膨らんだ経済状態を指すわけですが、たしかに現状のAIには投資額に見合うだけの価値はないかもしれません。今後の可能性に賭けているという意味では、バブル的な面もあると思います。
ただ、資産価値のみが高まっていくようなバブル(資産インフレ)とは異なり、具体的なAIモデルが開発されているのですから、弾けて何も無くなるという類のものではないです。
それに、AIはすでに実務で使えるレベルに達しており、利益を生みはじめています。AI開発企業が投資だけに頼り、ビジネスとして赤字を垂れ流していたような段階は脱しつつあると思われます。
鈴木:バブルではないとしても、AIの進歩が止まり、業界全体が低迷するという可能性はあり得るのではないでしょうか。過去にも、AIブームが終わり、「冬の時代」が到来したことがありましたよね。
外山:可能性は否定できませんが、今後の道筋がある程度見えているというのが、過去のAIブームと大きく異なる点です。現在のAIの基礎技術であるニューラルネットワークは、理論的には巨大になるほど(パラメーターを増やすほど)性能が上がる構造になっているため、とにかく巨大化させていけば良いという期待があります。このような考えを、スケーリング則と呼ぶのでした。
そのためには多くのGPUや電力などが必要だという点が問題ですが、見方を変えれば、お金さえかければ性能が向上していくとも言えるわけです。
鈴木:そのような期待があるからこそ、莫大な投資が集まっているわけですね。ただ、やはりどこか理想論的という印象は否めません。GPUや電力も無限ではないですし…
外山:おっしゃるように、お金だけで解決できると考えるのは、さすがに楽観的すぎるとは思います。今後も継続的な技術的ブレイクスルーは必要でしょうね。AIだけでなく、発電所や、データセンターにも革新が必要だと思います。
AI発展の5段階
鈴木:AIはまだ進歩しそうだということは分かりましたが、具体的にどのような性能が向上するのでしょうか。より高度な問題を解くことができるようになるということでしょうか?
外山:「賢さ」が徐々に向上していくというだけでなく、AIが「できること」自体が質的に転換していくという考えがあります。これについては、OpenAI社が策定したというAI(大規模言語モデル)の5つのレベルが参考になります(2024年7月に『ブルームバーグ』誌が公開)。やや古くなった感もありますが、AIの今後を見通す上で、いまだ有用だと思います。下記の表をご覧ください。
| レベル1 | チャット | Chatbots |
| レベル2 | 推論 | Reasoners |
| レベル3 | エージェント | Agents |
| レベル4 | イノベーター | Innovators |
| レベル5 | 組織 | Organizations |
ChatGPTが登場した段階がレベル1です。ユーザーからの文字による問いかけに、文字で回答するものですね。AIとのコミュニケーションが可能になったという点で非常に画期的でしたが、まずはここが出発点となります。
続く、レベル2の「推論」についても、すでに本連載で扱っています。特定の文章の次に続く単語を脊髄反射的に返す「チャット」段階とは異なり、順を追って論理的に考えることができる段階です。2024年9月にOpenAI社が発表したo1というモデルによって実用化されました。
鈴木:たしか、o1が登場したことで、数学の能力が大きく向上したのですよね。当時、東京大学の入学試験で合格レベルに達したというニュースが話題になりました。
外山:次が「エージェント」ですね。ファイルやソフトウェアの操作をすることができる段階です。2025年から登場しはじめましたが、最近になって、ようやく実務で使えるレベルになってきたと感じます。一般的に使えるサービスとしては、Claude Coworkが有名ですね。
鈴木:この連載では、エージェントまで扱ったと思います。エージェントが現在のAIの最先端だという認識でしたが、この次は「イノベーター」という段階に進むと予想されているのですね。
外山:イノベーターとは、AIが科学・医学などの分野で新しい発見をする段階です。推論やエージェントの能力が一定のレベルを超えることにより、AIが人間の研究者に匹敵するか、それ以上になる段階だといえるでしょう。
鈴木:AIが数学の未解決問題を解いたというニュースも見かけるようになりました。新素材や創薬の開発にもAIが使われていると聞きます。少しずつイノベーターの段階に達しつつあるということでしょうね。
外山:次の、レベル5の「組織」という段階では、AI同士が組織を形成し、役割分担を行い、大きな目標を達成することができます。一つの企業をAIが丸ごと経営するイメージで良いと思います。組織段階に達するためには、単なる「賢さ」だけではなく、長期間の記憶を持ち、一貫した行動を行い、対人またはAI同士のコミュニケーションもこなす必要があります。
鈴木:人間の目から見ると、組織を形成することよりも、科学や医学の新発見をすること(イノベーター)の方が難しい気がします…。ちょっと不思議ですね。
外山:人間にとって簡単なことの方が、AIやロボットにとっては難しいという逆転現象はよく指摘されます。レベル1のチャット段階より前に、AIは囲碁の分野で人間を超えましたが、これも同様の現象だと言えるでしょう。
この現象自体はAI研究の草創期から知られており、「モラベックのパラドックス」と呼ばれています。
鈴木:ところで、レベル5の段階はAGI(Artificial General Intelligence:汎用人工知能)だと言えるのでしょうか?
この連載の第2回『現在のAIの概況』で、OpenAI社は、AGIを「経済的に最も価値のある仕事において人間を凌駕する高度に自律的なシステム」だと定義していると聞きました。
外山:OpenAI社の定義で考えれば、レベル5に完全に達したAIは、AGIと呼べるかもしれません。
とはいえ、一般的にAGIとは「人間ができることは何でもできるAI」を指すものなので、厳密に定義をするのであれば、「人間にできて、AIにできないことは何か?」を真剣に考えることが必要だと思います。
鈴木:意思や感情は人間にしかないと思いますが、これはAGIの条件にはなりませんか?
外山:それは厄介な問題ですね…。
連載の第1回で、「LLM(大規模言語モデル)は意思があるように見える受け答えをするので、それは実際に意思があるのと変わらない」という考え方をご紹介しました。
これは「心の哲学」と呼ばれる分野における、機能主義という立場を念頭に置いての発言でした。機能主義をごく簡単に説明すると、脳の働きを物質的な面から説明するのではなく、「機能的な」役割によって説明しようとする立場だと言えます。
例えば、人間の脳には、入力と出力という機能があると考えることができます。知覚によって情報を入力し、脳内で何らかの処理が走ったあと、言語や行動の形で出力が行われるわけです。AIに対して言葉を入力した場合に、人間と区別がつかない出力が返ってくるのならば、AIも脳も入出力の機能においては等価と考えることができます。
このように、機能主義の立場では、意思や感情の問題についても、それが脳の活動に由来することは決定的な条件ではないわけです。人間だろうと、AIだろうと、異星人だろうと、入出力に関する機能が同じなら、それらは同じものとして扱うことができるのです。
鈴木:客観的に見て、脳と同じような機能があって、意思があるかのように振る舞っているのなら、意思があるのと同じように扱えるということですね。意思や感情とは何かという問題に固執するより、そう割り切った方が合理的かもしれません。
シンギュラリティとは
鈴木:AIが人間と同等以上の存在になることを、シンギュラリティと呼ぶことがあるようです。AGIとはまた違った概念だと思うのですが、具体的にはどのような状態を指すのでしょうか?
外山:シンギュラリティとは、未来学者のレイ・カーツワイル氏が広めた概念です。カーツワイル氏は2012年からGoogle社に籍を置いており、AIの進歩についての重要な提言を行っている研究者なのですが、このシンギュラリティという概念は誤解を生みやすいため、慎重に使った方が良さそうです。
シンギュラリティは技術的特異点とも訳されますが、数学における「特異点」とは、ある関数や方程式が、通常の方法では扱えなくなる点を指します。たとえば、グラフが無限大に発散してしまう点などですね。AIにおけるシンギュラリティという概念も、従来の方法論や理屈では扱えないような状態を表すと考えられています。あえて言えば、「AIの知能が人間を大幅に凌駕し、我々には理解不能なスピードで進歩が加速していく状態」といった感じのようです。
鈴木::では、人間と同等以上とかいうレベルではないですね。AGIよりも遥か先だといえそうです。
外山:カーツワイル氏は、シンギュラリティが2045年に到来するという予想をしています。こういった世界観は映画やゲームなどにも影響を与えており、興味深いのですが、ややスピリチュアルなニュアンスもあり、ビジネスの場で用いるのは不適切という印象を受けます。
その代わりに、ASI(Artificial Superintelligence:人工超知能)という言葉を使う方が適切でしょうね。直感的に表すと、以下の図のようなイメージです。

鈴木:2045年ということは、あと20年ほどですよね…。
このグラフでは、技術進化のスピードが加速していくのが前提になっているようですが、その根拠は何なのでしょうか?
外山:AIの世界には、再帰的自己改善とか、自己改善ループなどという言葉があります。要するに、AIがAI自身を改良することにより、AIの進歩が加速していくということです。
AI開発の主体が人間なのだとしたら、進歩のスピードにも限界があるでしょう。しかし、もしも人間より優秀なAIが誕生し、そのAIがさらに優秀なAIを作り、そのAIがさらに優秀なAIを作り…という連鎖が実現したら、加速度的にAIが進歩していくことが期待できるというわけです。これがシンギュラリティの根拠になっています。
鈴木:最近のIT業界では、コーディング・エージェントと呼ばれるAIがプログラムを書いているというニュースを見ました。自己改善と言えるかは分かりませんが、少なくとも人の作業を手伝うレベルには達していますよね。
外山:AIがAIを開発するなどと聞くと夢物語のような印象を受けますが、すでにAI開発の現場ではAIが用いられています。AIはプログラミングや数学と相性が良いため、自己改善自体はあり得ると思いますよ。
会計ファイナンス人材×AI
鈴木:ちょっと話のスケールが大きくなりすぎてしまいました…もう少し近い将来の話として、会計ファイナンスの実務にどのような影響があるのかが気になりますね。
外山:多くのAI企業や研究機関などが、「AIの影響を受けやすい業種」として、会計ファイナンス業界を挙げています。そもそも、これからホワイトカラー実務の大部分がAIの影響を受けると言われており、さまざまな変革があり得ることは既定路線として受け入れるべきでしょう。
鈴木:日本公認会計士協会のテクノロジー委員会が公表している研究文書(出典:日本公認会計士協会 テクノロジー委員会研究文書 第4号「次世代の監査への展望と課題に係る研究文書」(令和4年10月)、同 第5号「公認会計士業務におけるオープンデータの利用可能性に係る研究文書」(令和4年10月)、同 第11号「監査におけるAIの利用に関する研究文書」(令和6年8月))を見ても、AIを効果的に使うことの重要性が繰り返し説かれています。今回、改めて一通り目を通したのですが、示唆に富む提言が多く書かれていると感じました。ただ、旧来型の機械学習に関する話題がメインなので、最新の生成AIについては、まさにこれからのテーマなのだという印象を受けます。
外山:会計ファイナンスとAIという論点については、理化学研究所が作成した報告書(出典:理化学研究所「AI 等のテクノロジーの進化が公認会計士業務に及ぼす影響」(令和4年1月))も参考になり、一読をお勧めします。監査法人における職階を、監査責任者、主査、補助者に分類し、職階ごとに、AIによる業務の代替可能性などが精緻に検証されています。
ただ、ここで想定されているAIも、いわゆる機械学習と呼ばれるものです。機械学習による予測や分類などは現時点でも監査の最前線で用いられており、古びているということはないのですが、生成AIに関する研究でないことには注意が必要かもしれません。この報告書が発表されたのが、ChatGPTのリリース前だということを考えると、仕方がないのですが…
鈴木:機械学習の手法を用いて異常検知をするといった話と、生成AIが人間に代わってソフトウェアの操作をするなどという話は、質的に大きく異なるものですからね。
実際、監査の現場でも生成AIは浸透しつつありますが、具体的な使い方については、まだ多くの監査法人が手探りの状態だと思います。AIによって監査業務が変わることに不安を覚えるという人も多いと思いますし、この急激な進歩についていくのは大変です。
外山:先ほども言いましたが、状況が変わっていくこと自体は既定路線です。AIを受け入れ、前向きにとらえていく他ないのではないでしょうか。監査調書が紙面からExcelをはじめとするデータに変わったように、AIが会計ファイナンス業界に及ぼす影響は不可逆なものだと思います。
では最後に、日本公認会計士協会のテクノロジー委員会研究文書 第11号「監査におけるAIの利用に関する研究文書」の概要資料を引用したいと思います。
| 未来の会計士像 AIの導入により会計士が不要になることはないが、AIの活用に関連して会計士に必要なスキルセットも変化する未来の会計士が担うべき役割は変化し、それに伴って、キャリアパスも多様化していく (出典:日本公認会計士協会 テクノロジー委員会研究文書 第11号「監査におけるAIの利用に関する研究文書」の概要(令和6年8月)) |
| おわりに AIの利用は、公認会計士の業務領域の拡大をもたらす可能性があるAI活用により、拡大する社会の期待に応えることが求められる (出典:同上) |
いかがでしょう。ここに重要なヒントがあるのではないでしょうか。
鈴木:「公認会計士の業務領域の拡大をもたらす可能性がある」という言葉は心に響きました。AIを効果的に用いることで、従来はできなかったような業務ができるようになるという考えは、説得力を感じます。そういった業務領域を見つけた人が、これからの会計ファイナンス業界を牽引するという可能性は高そうですね。
そのためには、AIに任せられる作業は、思い切って任せることも必要なのだろうと感じました。
外山:現在は過渡期なのだと思います。これからしばらくの間は、AIを効果的に使う人と、そうでない人との間で、生産性に関する格差が広がると考えられます。この変革をチャンスだと捉えられるかどうかに掛かっているのではないでしょうか。
そのためには、まずはAIを正しく理解することが欠かせません。本連載が、その一助となれば、これに勝る喜びはありません。
外山 哲郎
有限責任パートナーズ綜合監査法人
金融系、ゲーム系、など幅広い分野でスマートフォンアプリやWebサイトの開発に携わる。 2017年からAI業務に従事。データ分析や、医療の分野でのAI活用の研究・開発などに携わる。 ライターとしても活動(ニコニコニュース(ニコニコ動画))。 2024年7月 有限責任パートナーズ綜合監査法人入所。 現在は、IT専門家として監査業務に携わる他、法人内のDXおよびAI活用を推進している。
鈴木 爽矢
有限責任パートナーズ綜合監査法人
2022年大学3年生時に公認会計士試験合格。 大学時代にはCPA会計学院で監査論のチューター及び広報部のマーケティング業務を行う。 その後大手監査法人、コンサルティング会社を経て現職の有限責任パートナーズ綜合監査法人に入所。 現在は主に、IPO準備会社や上場企業の会計監査に従事し、財務デューデリジェンスなどの非監査業務にも携わっている。