Road to TOP RUNNERS 千葉 知裕氏

専門知識を武器に監査法人からベンチャーへ
IPO請負人のCFOから上場企業CEOに進化
監査法人での安定したキャリアを捨て、当時は成長途中であったベンチャーへ転身。CFOとしてIPOを実現させた後、創業者からCEOのバトンを受け継いだ現在は、組織の急成長を牽引し続けている──。 株式会社Macbee Planet代表取締役社長、千葉知裕氏のキャリアは、会計ファイナンス人材にとってひとつの理想形に見えるかもしれません。
その果敢な挑戦の裏には、「地元でビジネスを成す」という揺るぎない人生の軸と、それを実現するための緻密な戦略がありました。千葉氏のキャリアと思考を深掘りする本インタビューは、専門性という武器を手に、次なる一手を探す人へのエールとなるはずです。
※本稿は、株式会社中央経済社が発行する雑誌『企業会計』にてCPAエクセレントパートナーズが監修した連載「会計発 CxO FILES」を加筆・再構成したものです。
※本記事のインタビュー内容および肩書は、取材当時(2025年10月)のものです。なお、千葉氏は現在、取締役を務められています。
※以下、本稿では記事の読みやすさを考慮し、会社名の法人格(株式会社等)を省略して記載しています。
目次
▶2010年〜2018年:あずさ監査法人時代
現状維持は「リスク」。守られた環境を飛び出し、自らの武器を磨く
──千葉さんは現在、データ分析に基づく成果報酬マーケティングを武器に成長を続ける株式会社Macbee Planet(以下、マクビープラネット)のCEOとして活躍されています。キャリアの出発点で公認会計士になることを選んだ理由を教えてください。
千葉:公認会計士を目指した原点は、私の人生設計の根幹にある「将来は地元の宮城県に戻る」という想いです。 振り返ると、学生時代から漠然と、いずれは地元でビジネスをしたいと考えていました。しかし、何の後ろ盾もなく地方で戦うのは容易ではありませんし、まずは自立して生き抜くための武器が必要だと考えました。当時、ビジネスの共通言語が会計であることは知っていました。経営者になるにせよ、独立するにせよ、会計のプロフェッショナルになればどこでも勝負できる。そう確信して、公認会計士になる道を選びました。
──雇われる側ではなく、ビジネスパーソンとして自立する未来を描いていたのですね
千葉: そうですね。もちろん、学生時代には「公認会計士になれば、仕事には困りにくそうだよね」と友人と話しつつ、将来の生活を思い描いていました。ただ、そうした想いは、あくまで挑戦するための足場を固めるためのものでした。ベースとなる生活が保証されているからこそ、将来思い切ったビジネスの勝負ができる。私にとって公認会計士の資格は、地元で夢を叶えるためのパスポートのようなものでした。
──大手監査法人でキャリアをスタートさせ、そこからベンチャー企業への転職を選ばれたのはなぜですか?
千葉: 実は、入所当初から「ずっと監査法人にいる」前提で考えていたわけではありません。ただ、ありがたいことに評価もしていただき、担当も増え、昇進も見えやすい環境だったので、結果として働きやすく、気づけば数年が経っていました。2010年に入所し、4年ほどでインチャージ(現場責任者)を任されるなど、経験も順調に積めていたと思います。
一方で転機になったのは2017年頃です。働き方改革で残業規制が進み、若手が早く帰る一方で、インチャージやマネージャーに業務が寄ってくる。しかも、自分が過去に必死でやってきたことを一度は部下に任せたのに、また同じものが自分のところに戻ってくる感覚があったんです。この先も同じことを繰り返すのかと思うと、この先に何があるんだろうか、って急に気持ちが切れてしまったんですよね。
私の人生の目標は、地元・宮城に戻って事業をつくることです。大企業監査で得た「あるべき論」は大きな財産ですが、それだけを続けても経営そのものを回す力は身につかない。組織の一機能のプロとして帰るのではなく、経営の当事者として帰る必要がある。そう考えて、環境を変える決断をしました。
──そこで、あえて厳しい環境へ身を投じる決断をされたと。
千葉: はい。監査法人のパートナーという安定した未来よりも、当初の目的である経営の実力をつけることを優先しました。そのためには、完成された大組織ではなく、自らが経営に参画できる挑戦の現場、つまりベンチャー企業に身を置く必要があると判断しました。
▶2018年〜2020年:Macbee Planet入社からIPO達成まで
あえて「挑戦の現場」を選んだキャリア戦略
──転職市場で引く手あまただったのではないかと思いますが、なぜ当時まだ知名度が低く小規模だったマクビープラネットを選んだのでしょうか?
千葉: 自分が経営の中枢に入れる場所を戦略的に探した結果です。 当時、スタートアップ市場は盛り上がっていましたが、有力なベンチャーのCFOポストは投資銀行出身者が席巻していました。包み隠さずに言うなら、私たちのような監査法人出身の公認会計士が入り込む余地は少なく、選べる選択肢は限られていました。
そんな中で出会ったのが、当時は30名規模だったマクビープラネットでした。コンサル出身者も投資銀行出身者もいない、いわば競合のいない挑戦の現場だったんです。優秀な会計ファイナンス人材がこぞって集まるレッドオーシャンで埋もれるよりも、誰もいない場所で自分の価値を発揮する方が、確実に経営の中枢に入り込めると考えました。
──CFO以外のポジション、例えば経理部長などで入社する選択肢はなかったのですか?
千葉: それはありませんでした。入社当時の肩書はCFOとは明言していなかったのですが、経営の中枢に関わる経営管理本部長として会社に参画しました。先ほど申し上げた通り、私の転職の目的は、地元に戻るために経営の実力をつけることです。 マクビープラネットへの入社は、私にとって経営者になるためのステップアップの場として、当時は捉えていました。ですから、経営判断に関われない役職なら、そもそも転職する意味がありません。死に物狂いで経営に参画し、結果を出す。その上で次のキャリアを考える。そういう思いで飛び込みました。
──実際に入社してみて、大手監査法人とのギャップに驚くこともありましたか?
千葉: 最初は呆然としましたよ。 監査法人のような大組織は、強固な仕組みで成り立っています。そこにいる人材も公認会計士試験を突破してきた人たちですから、能力も一定水準以上で、知識に裏付けられています。 しかし、当時のマクビープラネットは全く違いました。広告事業のフロント部門には優秀な人材が集まっていましたが、管理部門はまだ組織としての体をなしていませんでした。専門的なスキルを持つ人材が配置されていたわけではなく、バックグラウンドもスキルセットもバラバラなメンバーが、とりあえず目の前の業務をこなしているような、混沌とした状況でした。
──監査法人のようなプロフェッショナル集団とは、大きなギャップがあったわけですね。
千葉: そうですね。自分も含めてですが、決して洗練されたエリート集団ではありませんでした。業務フローも何も整っていない。例えば「銀行の借入契約書を出してほしい」と頼んでも、スタッフが1時間くらい探し回って、ようやく出てくるような状態です。どこに何があるか誰も把握しておらず、ファイル管理もぐちゃぐちゃ。中小企業として日々の資金繰りは回っていても、IPOを目指す企業として求められる決算早期化や内部統制のレベルには程遠い状態でした。
──千葉さんの著書『ぼくがマクビーにいる理由』の中でも、当時の状況を目の当たりにして「絶望すら感じていた」と表現されています。そんな状況下でIPOを目指すというミッションを任され、正直なところ、心が折れそうにはなりませんでしたか?
千葉: はい、まさにその言葉通りです。 課題は山積みで、それを解決するためのリソースも足りない。監査法人時代なら「これやっといて」の一言で済んだことが、ここでは通じない。一から十まで説明し、仕組みそのものから作らなければならない。 「無理かもしれない」。そんな思いが頭をよぎることも一度や二度ではありませんでした。
──そのカオスな状況で、社員の方々をどう巻き込んで立て直していったのでしょうか?
千葉: 結論から言うと、私は社内のメンバーをあえて巻き込まない選択をしました。会社のコーポレート機能を回すオペレーション構築と、上場審査をクリアするためのIPOプロセスは全くの別物です。当時の管理部門のメンバーには日々の決算や管理体制を整えることに集中してもらいました。一方で、IPO準備に不可欠な申請書類の作成や審査対応といった専門的な業務は、私が監査法人時代に一緒に仕事をしていた元同僚たちにアウトソースしました。
──社内リソースの限界を見極め、外部のプロフェッショナルを活用したわけですね。
千葉: そうです。IPOに関わりたいという意欲があるメンバーや、一定のスキルがある人は巻き込みましたが、社内は守りの定型業務に集中させ、攻めとなるIPO準備は外部に頼ると割り切ることにしました。 もし、すべてを社内のメンバーだけでやろうとしていたら、間違いなくIPOは数年遅れていたでしょう。
──「無理かも」と思う中で、IPOの目標時期を1〜2年後ろ倒しにするという選択肢はなかったのですか?
千葉: それはありませんでした。入社時に当時の社長と「この時期までに上場させる。できなければ退任する」という約束をしていましたから。 それに、時期を後ろにずらしたからといって、根本的な問題が解決するわけではありません。むしろ間延びして士気が下がるリスクの方が高い。プロフェッショナルとして引き受けた以上、どんなに絶望的な状況でも、期日通りにミッションを完遂する。その覚悟だけで動いていました。
──千葉さんが入社される前にも、CFO候補の方がいらっしゃったそうですね。なぜ千葉さんだけがカオスを乗り越え、最後までやり遂げられたと思いますか?
千葉: シンプルに、若かったからかもしれません(笑)。 私の前任の方々は非常に優秀なキャリアをお持ちでしたが、もしかしたら、混沌とした現状を見てご自身のキャリア形成の観点から慎重になられたのかもしれません。あるいは、整っていない環境に耐えられなかった。 私はまだ若く、失うものも少なかった。何が何でもやり切るしかないという、背水の陣のようなマインドセットがあったからこそ、踏ん張れたのだと思います。
──CFOに求められる要件として、実務能力の高さは当然の前提ですが、結局のところ、最後に成否を分けるのは技術よりも精神的なタフネスさなのでしょうか。
千葉: 間違いありません。知識やスキルはもちろん必要ですが、それ以上に重要なのは、やり切る力だと思います。 プロフェッショナルとは、与えられたミッションに対してどれだけ本気になれるか、その一点に尽きます。環境のせいにしたり、想定と違ったと不満を言ったりするのは簡単です。しかし、想定外のトラブルも含めてすべてを飲み込み、最終的にIPOという結果を出す。それがCFOの仕事ではないでしょうか。
▶2021年~Macbee Planet代表取締役就任
CFOからCEOへ。「主語」の変化と経営者の視点
──2020年3月にIPOを成し遂げた後、千葉さんは2021年12月に創業者からバトンを受け継ぐ形で代表取締役社長に就任されています。プロのCFOとして次の会社を上場させるという道もあった中で、なぜマクビープラネットの経営そのものを背負う決断をされたのですか?
千葉:経営管理本部長、あるいはCFOからCEOになった 一番大きな理由は、社員のためです。プロフェッショナルとしての私のミッションは、上場させた時点で完了していました。極端な話、そこで辞めても誰も文句は言わなかったでしょう。しかし、企業にとって上場はゴールではなくスタートです。上場した後、この会社をサステナブルに成長させ続けられるのか。社員たちが安心して働き続けられる環境を守れるのか。そう考えたとき、経営者としての責任感が芽生えました。上場させた責任として、この会社を生かし続けなければならない……と。
──CFOからCEOになり、役割や意識はどう変わりましたか?
千葉:最大の変化は、発言における主語です。 CFO時代は、あくまでファイナンスや管理部門のトップとして、キャッシュフローの状況や管理体制の整備状況といった、特定領域の責任範囲について語るに留まっていたと思います。しかしCEOとなれば、主語は会社全体へと拡張されます。組織としてどのような未来を切り拓き、市場でどう戦うのか。全社員やステークホルダーに向けて、企業の意志そのものを語らなければなりません。 IR、PR、採用、M&A……すべてを統括し、企業価値を最大化するためにあらゆる手を打つ。視座の高さと視野の広さが、劇的に変わりました。
──CEOになられてから、特に注力していることを教えてください。
千葉: 一貫して言い続けているのは、企業価値の向上です。本業の事業成長はもちろん、M&Aによる非連続な成長、そして人材育成。これら全ては独立した要素ではなく、複雑に絡み合って企業価値を形成しています。 特に日本の経営者は、ファイナンスの知見が不足していることが多いと感じます。創業者がそのまま社長を続けるケースが多く、ファイナンスはCFO任せになりがちです。しかし、本来経営とは「ヒト・モノ・カネ」を最適配分してリターンを最大化する行為ですから、CEOこそがファイナンスを深く理解していなければならない。公認会計士出身の私がCEOをやる意義は、まさにそこにあると考えています。
──マクビープラネットは、2020年3月の上場以降、一貫して増収増益を続けていますが、今後の展望をお聞かせください。
千葉: 実は、成長率は鈍化しつつあります。昨年(2024年)までは高い成長率を維持していましたが、規模が大きくなれば成長率が落ちるのは必然です。また、2025年から2026年にかけては、インターネット広告業界にとって25年に一度の地殻変動が起きると予測しています。
具体的には、Cookie規制によるトラッキングの制限や、ChatGPTをはじめとする生成AIの台頭により、これまでの広告のあり方が根本から変わろうとしています。検索連動型広告のような従来の手法が通じなくなり、AIが最適解を提示する時代が来る。しかし、私たちはこの変化をピンチではなくチャンスと捉えています。業界が激変するときこそ、既存の覇権プレイヤーが入れ替わるタイミングだからです。
──その変化の中で、マクビープラネットはどう戦うのでしょうか?
千葉: 私たちは「LTV(顧客生涯価値)マーケティング」を推進しています。単に広告で顧客を獲得して終わりではなく、獲得したユーザーがどれだけ定着し、どれだけ収益をもたらしたかというデータを駆使してマーケティング効率を最大化します。業界の常識にとらわれず、ファイナンスの視点を持ってM&Aや新規事業投資を行えるのが、今の経営チームの強みです。
▶ 次世代のプロフェッショナルへ託すメッセージ
──最後に、現状に安住することなく次なる一手を模索している公認会計士や、広くビジネスの最前線で活躍する会計ファイナンス人材に向けて、メッセージをお願いします。
千葉: 読者の皆さんの多くは、数字に強い会計士や管理部門のプロフェッショナルだと思います。だからこそ、自分のキャリアについても数字で計算してみてほしいんです。
例えば公認会計士という資格は、強固なセーフティーネットです。だからこそ、新しい挑戦は“無計画な賭け”ではなく、計算可能な選択肢になります。仮にうまくいかなかったとしても、専門性は市場で評価され続ける。一方で、成功すれば経営人材としての市場価値は飛躍的に高まります。リスクを正しく理解し、冷静に計算した上で挑戦する。それこそが、数字のプロにふさわしいキャリアの築き方だと私は考えています。
──リスクをとるのではなく、計算上、負けない勝負だからやるのだと。
千葉: その通りです。監査法人でマネージャーとして年収1000万〜1200万円をもらうというのも一つの人生ですが、その上のアップサイドを狙いに行くかどうか。これはもう、生き方の好みの問題です。 ただ、「怖いから動けない」というのは、数字のプロとしては計算が間違っています。数字で考えれば、挑戦しない理由がない。
事業会社の管理部門で働く方々も、例えば経理部で漫然と目の前の仕訳を切っているだけでは、年収は頭打ちになってしまうかもしれません。 重要なのは、やりたいことからの逆算です。もし「将来はCFOになりたい」「年収1000万超えたい」というゴールがあるなら、そのために必要なスキルや資格を取ればいい。資格はキャリアの幅を一気に広げてくれるパスポートです。 現状に満足せず、自分の価値を高めるために何が必要か。ぜひ冷静に、かつ大胆に計算して行動していただきたいですね。