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Road to TOP RUNNERS  星直人 氏

公開日: | 更新日:

投資銀行で高度な専門性を磨き、スタートアップで取締役CFOを経験                
そして複数企業のアドバイザーへ

モルガン・スタンレー証券の投資銀行部門で大規模なM&Aやアドバイザリー案件を担った後、スタートアップの取締役CFO、そして幅広いステージの企業に知見を提供する財務戦略アドバイザーへと、星直人は自身の役割をしなやかに変え続けてきました。

その決断の根底にあるのは、キャリアを掛け算で捉える戦略的な視点と、「心からコミットできる領域・事業であれば、より高い付加価値を生み出せる」という信念です。専門知識を単なるスキルで終わらせず、社会を動かす意志へと昇華させていく、その真摯なキャリア論の深層に迫ります。

※以下、本稿では記事の読みやすさを考慮し、会社名の法人格(株式会社等)を省略して記載しています。

▶2007年以前:学生時代-キャリアの出発点

インドでの決意。好きなことと選択肢の拡張を軸に選んだ出発点

——大学院卒業後、最初のキャリアとしてモルガン・スタンレー証券の投資銀行部門を選ばれましたが、学生時代からこの領域を志していたのでしょうか。

星: 私はもともと、「みんなが動く時期が来たから」という理由で、就職活動を始める空気に違和感を持っていました。自分の考えが確りと固まっていないのに、ファーストキャリアという人生で最も大きな意思決定の一つをするのは不本意だったので、就職活動をせず、バックパッカーとして東南アジアやヨーロッパを放浪し、自分がどんな人生やキャリアを歩みたいのかをひたすら問い直しました。それでもすぐには答えが出ず、大学院に進学して一種のモラトリアム期間を延長したほどです。

最終的な決断を下したのは、バックパッカーでインドを訪れたときです。ガンジス河のほとりで悩み抜いた末に「人生一度きりだから、好きなことをしよう。ただ、頭だけで考えて、天職のような答えに辿り着けるわけではない。実際にやってみなければ分からない」という確信に至り、ファーストキャリアを選ぶための2つの軸を定めました。

1つ目は、心から興味を持てる分野を選ぶという「価値観の軸」。もう1つは、「将来の選択肢を狭めず、可能性を広げられるキャリアにすること」です。私の個人的な考えですが、新卒で理想の仕事に最初から出会える確率は決して高くありません。だからこそ、好きな領域に身を置きつつ、将来的に人生とキャリアを自分でコントロールできるような専門性を磨こうと考えました。

そして、外資系投資銀行やヘッジファンド、戦略コンサルでのインターンを経て、最もエキサイティングだと感じ、カルチャー等にもフィットを感じたモルガン・スタンレーへの入社を決めました。

▶2007年〜2019年:モルガン・スタンレー証券時代

泥臭い「努力型」が勝ち残る。モルガン・スタンレーでの12年間

——モルガン・スタンレーでの12年間では、どのような経験を積まれたのでしょうか。

星: 東京とニューヨークの拠点で計12年間勤務しましたが、投資銀行部門(IBD)では、大企業を対象とした案件規模の大きなM&Aやアドバイザリー案件に関わる機会に恵まれました。さらに、アクティビストへの対応を練るチームにも所属しました。

ただ、正直に言えば、入社当初は12年も残るつもりは全くありませんでした。当時は投資銀行は新卒入社後3年前後で離れるのがかなり一般的でしたし、まずはやってみて考えようという意識が強かったです。

——国内外の精鋭が集まる環境で星さんが生き残り、さらには価値を出し続けられた背景には、何があったのでしょうか。

星: 私が天才型ではなく、完全な努力型だったからだと思います。

社会人になって最初の評価面談を受けた時に、「社会人なりたての自分に、本当にこれほどの価値があるのか」と衝撃を受けました。外部からの期待値や頂いている報酬との差分を必死で埋めようと誓ったのを覚えています。だからこそ、プロフェッショナルとしての高い期待に応えるために、自分でコントロール可能な投入時間と生産性を極限まで高める戦略をとりました。自分の能力は一定所与のものなので変えようがないのですが、投入する時間とその効率性は自分で動かせるドライバーだと考えました。

具体的には、若手時代は平日は朝から深夜まで働き、週末も仕事をしていました。外資系という部分や当時の時代背景というのもありますが、仕事とプライベートの境目は完全に無くなっていましたね。

——ご自身の意思でハードワークをしていたわけですね。

星:そうですね。「ハードワーク」というと苦しい響きに聞こえるかもしれませんが、私自身は苦だと思ったことはありません。そもそも誰かに強制されたわけでもなく、自分自身で選択したキャリアです。その大前提で、むしろ、エキサイティングだと感じておりました。

世界の一流が集まる環境で、日々新しいことを学べる。自分の成長が手に取るように実感できる。そのやりがいや面白さが勝っていたので、やらされているという感覚は全くなく、自分から進んで没頭していました。それに、金融の世界は、一部の天才のみが成功するイメージを持たれがちですが、私が主戦場としてきたコーポレートファイナンスの世界は実は長距離走に近い世界です。

——「ファイナンス=一瞬の勝負」ではないと?

星: はい。天才的なひらめきや頭脳がなくても、体系的に学んだ知識を地道に現場で実践し、お客様のために知恵を絞る。コーポレートファイナンスの分野は、その努力と投入した時間が、そのまま成果に直結しやすい、非常に報われやすい仕事だと思っています。だからこそ、愚直に走り続けた私のような努力型の人間でも、一定程度の結果を出し続けることができたのかもしれません。

もちろん、体系的な知識だけでなく、それを実務で活かす経験も重要です。すべてが教科書通りに動くわけではない現場で、チャンスがあれば臆せずにチャレンジし、バッターボックスに立つ(実体験を積む)。それを繰り返すことによって、求められる期待に対して実際のパフォーマンスが追いついていったのだと思います。

——個人の実力を高めていく一方で、クライアントと向き合う上では、どのような意識を大切にされていたのでしょうか。

星: 仕事においては常に「Integrity(誠実さ)」と「Do the right thing(正しいことをする)」を意識してきました。投資銀行のビジネスは案件が成立して成功報酬が発生することが一般的なため、構造的には、無理にでもディールを進めるインセンティブが働きがちです。しかし私は、お客様の企業価値最大化に資さないと判断した時は、「案件を止めるべきだ」と進言し続けました。

幸いなことに、モルガン・スタンレーには、短期的な利益よりもお客様との中長期的な信頼関係を重視するカルチャーがあります。だからこそ、たとえ案件が不成立に終わるリスクがあっても「お客様にとって本当に正しい選択を伝える」という誠実さを貫くことができ、それが自分自身の納得感にも繋がっていました。

あとは「first class business in a first class way」も強く意識しておりました。プロフェッショナルとして、最上のサービスとアドバイスを提供することが責務と矜持であると考えておりました。

▶2019年〜2023年:ユニファ CFO時代

「家族の幸せ」への再定義と、難局を突破したファイナンス

——モルガン・スタンレーでのキャリアを手放し、2019年にユニファの取締役CFOへと転身されます。その背景を教えてください。

星: ニューヨーク赴任中に娘が生まれたことで人生の考え方や優先順位が変わり、「子どもに誇れる仕事をしたい」と強く思うようになりました。NY赴任時の私の上司3人は全員女性でした。一方、日本ではハイレイヤーは男性ばかりで、帰国後には働くパートナーがキャリアの断念を迫られる現実に直面しました。私は「機会の平等」は非常に重要だと考えているので、「娘のためにも、日本社会のためにも、この歪な構造を変えなければ」という当事者意識が、社会課題解決に取り組むユニファを選んだ最大の理由です。

また、キャリア戦略としての「掛け算」の視点もありました。客観的な立場のアドバイザー経験に、意思決定権を持つプレイヤーとしての当事者経験という異なるキャリアを掛け合わせることで、自分自身の価値を最大化しつつ、選択肢を拡大できると考えたのです。

——ユニファに入社されて、最初に手がけた仕事を教えてください。

星: 実は、取締役CFOとして入社して真っ先にやったのはファイナンスではなく、会社のパーパスやバリューの再定義、コーポレートロゴやWebサイトの全面刷新でした。

当時のユニファの最大の経営課題は仲間集め・採用面でした。「保育」というキーワードを中心に打ち出していましたが、それは当時の事業の実像やポテンシャルを十分に表現できておらず、関心を持つステークホルダーも限られてしまっておりました。そこで対象を家族全体へと広げ、「家族の幸せを創る企業」へと会社の発信方法やブランディングをアップデートしました。

——CFOでありながら、真っ先にブランド刷新を手掛けられたのが意外です。

星: CFOは経営チームの一員です。会社の価値を最大化するためなら、どんなボールでも拾うのが当然だと考えております。そもそも会社の姿やポテンシャルが正しく伝わらなければ、人も資本も集まりません。ファイナンスの手法だけでは、限界があります。このブランド刷新で、採用でも、投資家との対話でも、強い追い風になったと感じています。

——ユニファ時代には、シリーズDで40億円の大型調達を成し遂げられました。資金調達における星さんの思想を教えてください。

星: 正直、私は大型調達そのものをCFOだけの成果だと思ったことはありません。事業や組織が素晴らしいからお金や期待が集まるのであって、CFO個人の実績ではないからです。

むしろ、上場を目指す企業の場合、「資本効率性」を強く意識する必要もあります。つまり、調達額の大きさのみを誇るのではなく、いかに最小限の資本で最大の成果を出すか。調達した資金を使ってどんなリターンを生み出すかこそが、コーポレートファイナンスの本質の一部ではないでしょうか。

——その後のシリーズEでは、ミクシィとの資本業務提携やセカンダリー(既存株主の株の入れ替え)など、高度なディールも主導されていますね。

星:ミクシィさんとの資本業務提携と、既存株主の株式流動化をミックスさせた案件です。これは私のファイナンスキャリアの中で最も難易度の高いディールの一つでした。当時は資本市場の環境も厳しく、同種の取引の前例もほとんどありませんでした。ただ単に新しい資金調達を入れるだけでなく、既存の投資家の方々にも納得していただき、かつ事業シナジーによって将来のキャッシュフローを最大化する。立場の異なる関係者が複数存在する中で、全体最適の解を見つけ出すのは至難の業でした。

それでも関係者全員と地道に対話を重ね、複雑な議論から逃げずにやり切ったことで、針の穴を通すような、会社としての最適解を導き出すことができました。ファイナンスのスキーム設計は、今後AIの助けを借りられる領域が広がっていくと思います。しかし、異なる利害を持つ関係者の間に入り、合意形成へ導くことは人間にしかできません。そこでCFOの胆力の重要性を改めて学びました。

——その後、ユニファのCFOとしての役割に区切りをつけられた理由を教えてください。

星: 主に2つの理由があります。1つは、自分が抜けても会社が崩れない基盤を作り上げられたことです。財務的な安定性を確保した上で、優秀な後輩たちを育成し、後任に引き継げる体制を整えることができたので、一定の職務を全うできたという気持ちがありました。

もう1つは、重要な点に関して、会社の考えと私の考えにズレが生じた面もあるのかもしれません。これは、どちらが正しいという話ではありませんが、自分の進退を考えるタイミングだと判断しました。

▶2023年〜現在:独立、財務戦略アドバイザー/キャリアの再定義

キャリアは「伸縮」させる。ナンバー2として経営を立体的に捉える視点

——ユニファ退任後は、CFOに固執せず、複数企業のアドバイザーや社外取締役として幅広く活動されています。このキャリアを選択された理由は何でしょうか。

星: 今後の人生で「もうCFOをやらない」と決めているわけではありません。今のフェーズは、結果的にというところも多分にありますが、キャリアや経験を広げる時期だと捉えています。

キャリアを点ではなく線や面で捉えた時、1箇所に絞り続ける必要は必ずしもありません。私が米国で見てきたファイナンスのプロフェッショナルにも、投資家と事業会社の経営者を行き来したり、プレイヤーとアドバイザーを往復したりする人は少なくありません。一度広げ、次に絞り、また広げる。このキャリアの伸縮が、プロフェッショナルとしても、ビジネスパーソンとしても、経験の厚みを増してくれると考えています。

——複数の企業や立場から経営に関わることで、どのような変化がありましたか。

星: 経営が立体的に見えるようになりました。1社の中だけに閉じると、どうしてもその会社固有の事情に捉われ、何が本当にベストなのかが見えなくなる部分はあるように思えます。しかし現在、私は全く異なる幅広い業界と様々なステージの企業経営に関わり、立場も社外取締役やアドバイザー等と多角的な視点から経営に向き合っています。

異なる現場を横断することで、各業界の特性や共通項及び個社の特殊性等が浮き彫りになり、各社の個別性と、業界を超えた共通項の解像度が上がりました。この幅広い経験があるからこそ、将来再びどこか1社に集中した際にも、より大きな力を発揮できる可能性もあると考えています。

——複数の企業をご支援されているということですが、どのようなインプットをされているのですか。

星: これは投資銀行時代から続けていることですが、私はM&Aや国内スタートアップの資金調達に関する発表を、毎日、可能な限りチェックしております。その大きな流れやトレンドを把握することは、プロとして付加価値を出すうえで欠かせないと考えています。 さらに、メディアやプレスリリースには出ない一次情報を取りにいくことも徹底しています。少人数や1対1で当事者とお会いし、「あの案件にはどのような経緯があり、どんな難しさがあったのか」を、頭を下げて直接学びに行きます。こうした地道なインプットの積み重ねがあるからこそ、ファイナンスをどう経営に活かすのかの解像度が上がるのです。

——星さんご自身がCEOとして起業する、という選択肢も視野に入っていますか?

星: それは現時点では、あまり考えていません。自分の性格や特性を客観的に分析すると、私はナンバー2的な立場で力を発揮するタイプだと思います。これは良い悪いというよりは、好み的なところかなと思います。

熱く強いビジョンや夢を持つ経営者や起業家を、ファイナンスや戦略の観点から泥臭く支え、そのパーパスを実現させること。それが今の私が最も付加価値を発揮できるポジションだと考えています。

——アドバイザーや社外取締役として企業を支える一方で、インパクトスタートアップ協会の代表理事も務めていらっしゃいます。

星: 私が関与させて頂く先に共通しているのは、経済的なリターンと社会的なインパクトを二項対立にしていないことです。心からコミットできる領域・事業だからこそ、より高い付加価値を生み出せるというのが私の考えです。両立は当然難しいことですが、この協会の活動を通じて、その難しい挑戦をする起業家やスタートアップを心から応援したいと考えております。

▶次世代へのメッセージ

恵まれた時代に生きる覚悟。リスクを取らないことこそ最大のリスク

——星さんが考える、理想のCFO像とはどのようなものでしょうか。

星: 一言で言えば「財務に軸足がある経営者」です。CFOという肩書きは一つのファンクションに過ぎず、本質的にはCEOと完全に両輪をなす経営者であるべきと考えています。CEOに有事があった時には役割を完全に代行できるほどの経験と視座を持ち、「自分の領域ではない」と逃げずに、組織に落ちているボールはすべて拾い上げる気概を持つこと。それこそがCFOの職責だと考えています。

——専門性を武器に挑戦しようとしている若手やプロフェッショナルへ、メッセージをお願いします。

星: 私たちは、日本という恵まれた国に生まれ、多くの方が挑戦するための選択肢を持っている世代です。だからこそ、変化の激しい現代において現状維持に甘んじる「リスクを取らないリスク」を正しく認識してほしいと思います。特に公認会計士の方々は、既に確固たるキャリアの土台をお持ちです。その土台があること自体が、挑戦のリスクやコストを下げているはずです。

ジャック・ウェルチの「Control your own destiny or someone else will.(自らの運命を自ら決めよ。さもなくば、他人に決められる)」という言葉の通り、数多くの選択肢を持つ恵まれた環境にある者として、自分の人生を自ら動かし、その成果を次の世代や社会に還元していく。恐れずに、まずは自らの意思で打席に立ってみてください。

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