簡易課税制度とは?メリットとデメリット、適用に必要な手続きなどを詳しく解説します!

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少ない手間での申告が可能な消費税額の計算方法として知られる簡易課税制度。みなし仕入率を用いることにより、一般的な計算方法の原則課税よりも簡単に消費税額を計算できるため、とくに小規模事業者にとって有益な制度となっています。

本記事では簡易課税制度について、インボイス制度が与える影響や、適用を受けるための手続き、利用した際のメリットとデメリット、原則課税と比較してどちらが得になるのかといった点を解説します。

活用すれば事務負担の軽減だけでなく節税にもつながる重要な制度ですので、この機会に知識を深めていきましょう。

簡易課税制度とは

簡易課税制度は、申告する消費税額を計算する方法の一つです。定められた基準期間(個人事業者は前々年、法人は前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下の課税期間に適用されます。つまり中小企業向けの制度です。

通常、消費税額は受け取った消費税額と支払った消費税額の差額を納めるものです。しかし、取引内容によって課税・非課税の違いや税率の違いなどが発生するため、正確な消費税額を計算するのは企業や個人事業主にとって大きな負担となります。

・原則課税における納税額の計算式

納税額=受け取った消費税-支払った消費税

消費税額の計算方法を簡略化したのが簡易課税制度です。簡易課税制度では、「みなし仕入率」という業種ごとに定められた一定の割合と受け取った消費税額の積を消費税額として納めることを認めています。簡易課税制度を用いれば、少ない負担で消費税額を求められます。

・簡易課税制度における納税額の計算式

納税額=受け取った消費税×みなし仕入率

インボイス制度が簡易課税制度に与える影響

2023年10月1日から開始されるインボイス制度は、簡易課税制度にどのような影響を与えるのでしょうか。売り手と買い手それぞれの立場から、インボイス制度が簡易課税制度に与える影響をひも解いていきましょう。

売り手に対する影響

インボイス(適格請求書)制度においては、インボイスを発行可能なのは適格請求書発行事業者のみとなります。消費税の仕入税額控除対象となるのはインボイスのみなため、売り手は買い手側からの要求に備えてインボイスを発行できるよう準備をしておく必要があるでしょう。適格請求書発行事業者かどうかが、買い手側の選択基準になる可能性が考えられます。

すでに簡易課税制度を利用している企業・個人事業主に大きな影響はありません。インボイス制度の導入によって課税事業者になる必要が生じた免税事業者には、納税額の計算が負担とならない簡易課税制度の適用を受けることをおすすめします。

買い手に対する影響

売り手と同様、インボイス制度導入が買い手の立場全般に及ぼす影響から見ていきましょう。買い手の側から見た場合、売り手の場合ほどの影響は受けないかもしれません。消費税の仕入税額控除を受けるために、取引相手が適格請求書発行事業者かどうかを確認する必要があるといった程度でしょうか。

簡易課税制度の適用を受けている場合も、大きな変化は予想されていません。簡易課税制度を利用しているなら、納品書・請求書がインボイスか否かという点は消費税額の計算に影響はないです。さらに、インボイスの保存も簡易課税制度下では税額控除につながりません。

総じて、売り手・買い手どちらにとってもインボイス制度が簡易課税制度に与える影響は少ないといえるでしょう。

簡易課税制度の適用を受けるための手続き

では実際に簡易課税制度の適用を受けるためには、どのような手続きを行えばいいのでしょうか。

簡易課税制度を適用するには基準期間(個人事業者は前々年、法人は前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下に収まっている必要があります。基準期間が1年に満たない場合は、課税売上高を年換算した金額で算定します。条件を満たしているかをまずは確認しておきましょう。

条件を満たしているだけでは簡易課税制度の適用は受けられません。「消費税簡易課税制度選択届出書」という書類を納税地を所轄する税務署長へ提出する必要があります。提出期限、適用を希望する課税期間の初日の前日までです。

たとえば、2024年1月1日から同年12月31日までの期間に簡易課税制度の適用を受けたいのであれば、2023年中に届出書を提出しなければなりません。利用を検討している場合はこの点を忘れないように注意してください。

参考:国税庁「[手続名]消費税課税事業者選択届出手続」

簡易課税適用を受けるメリット

簡易課税制度の適用を受けるメリットにはどのようなものがあるでしょうか。「事務負担の軽減」「節税」という、特に企業にとって影響の大きい2点に絞ってご紹介します。

事務負担が軽減する

簡易課税制度を利用するメリットは、事務負担の軽減が見込めることです。簡易課税制度を適用されていれば、受け取った消費税額とみなし仕入率との積を求めるだけで済みます。

一方で簡易課税制度を適用せず原則課税を用いた場合、すべての取引を洗い出す必要があります。非課税の取引や税率の異なる取引などを分別し、計算し直さなければなりません。かなりの重労働となり、とくに簡易課税制度の対象となるような規模の小さい企業・個人事業主にとっては大きな負担です。

計算を簡略化して負担を軽減できる簡易課税制度は、非常に有益な選択肢といえるでしょう。

節税できることがある

原則課税と簡易課税では計算方法が異なるため、場合によっては簡易課税制度を適用していたほうが納税額を抑えられる場合があります

例を挙げてみましょう。課税される売上高が2,500万円、課税される仕入等経費の金額が1,500万円の建設業の場合、原則課税と簡易課税での納税額はどうなるでしょうか。

・原則課税の場合

受け取った消費税 2,500万円の10%=250万円

支払った消費税  1,500万円の10%=150万円

250万円-150万円=100万円の納税

・簡易課税の場合

受け取った消費税 2,500万円の10%=250万円

250万円×70%(建設業のみなし仕入率)=175万円

250万円-175万円=75万円の納税

この場合は簡易課税の場合のほうが25万円節税できていることになります。業種や売り上げと経費のバランスを考えて判断すれば、節税につながることを覚えておきましょう。

簡易課税適用を受けるデメリット

魅力的なメリットを持つ簡易課税制度。では反対に、デメリットはあるのでしょうか。「事務負担の増加」「税負担の増加」という、メリットの裏返しともいえる2点をご紹介します。

複数事業を営んでいる場合は事務負担が増えやすい

事務負担の軽減が主目的のはずの簡易課税制度ですが、反対に事務負担が増えてしまう場合がありますそれは複数事業を営んでいるケースです。

このケースでの算定方法は2種類ありますが、どちらも計算が煩雑です。原則的な方法の「基礎となる税額×(各種事業にかかる消費税額の合計×それに対応したみなし仕入率)÷各種事業にかかる消費税額の合計」は、計算式を見ただけではイメージが浮かばないほど難解なものとなっています。

貸倒回収額などがない場合には「(各種事業にかかる消費税額の合計×それに対応したみなし仕入率)÷各種事業にかかる消費税額の合計」とやや簡易な計算式で求めることができますが、計算の難しさは伝わるでしょう。

複雑な算定方法が必要となるのなら、簡易課税制度を利用するメリットがなくなってしまっているといえます。

税負担が増えることもある

原則課税と簡易課税の計算方法が異なる関係で、簡易課税制度を適用していたほうが納税額が増えてしまう場合もあります

仮に課税される売り上げ高が2,500万円、課税される仕入れ等経費の金額が1,500万円として、業種を運輸通信業と設定します。

この場合、原則課税と簡易課税での納税額はどうなるでしょうか。

・原則課税の場合

受け取った消費税 2,500万円の10%=250万円

支払った消費税  1,500万円の10%=150万円

250万円-150万円=100万円の納税

・簡易課税の場合

受け取った消費税 2,500万円の10%=250万円

250万円×50%(運輸通信業のみなし仕入率)=125万円

250万円-125万円=125万円の納税

簡易課税の場合のほうが25万円多く納税しなければなりません。計算方法の簡略化によって、税額が増えてしまうケースがあることを覚えておきましょう。

簡易課税制度を適用する場合の注意点

簡易課税制度の適用に際しては、いくつか注意しておきたいポイントがあります

最初の注意点は、還付が受けられないことです。原則課税の場合、仕入れにかかる消費税額が売り上げにかかる消費税額を上回った場合、消費税の還付が受けられます。しかし、簡易課税制度を適用していると、計算方法が異なる関係上還付を受けられません。

一度簡易課税制度の適用を受けたあと、適用を取りやめて原則課税に戻したいケースもありうるでしょう。この場合、適用を受ける場合と同じように「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」という書類を税務署に提出します。しかし、書類の提出は簡易課税制度の適用開始から2年以上が経過していなければなりません。

調整対象固定資産と呼ばれる一取引単位あたりの取得価額が100万円以上の固定資産を取得した場合、3年間は原則課税が強制されます。簡易課税制度の選択が不可となりますので、適用を検討している場合は注意してください。

原則課税と簡易課税、どちらが得になる?

申告する消費税額の計算方法には簡易課税以外にも原則課税と呼ばれるものがあり、条件によってどちらの方法がより消費税額を抑えられるかが変わってきます。原則課税と簡易課税、それぞれが得になるケースを見ていきましょう。

原則課税が得になる場合

原則課税のほうが得になるのは、実際の仕入率がみなし仕入率を上回る場合です。もともと利益率の低い商売を行っている場合や、業績が不振で仕入れの量に売り上げが伴わなかった場合には、原則課税が得になる可能性があります。

ほかには設備投資などによって経費を多く払った場合も同様です。新規店舗の開店や社屋の改装、社用車や製造機械の購入など、企業活動の中では大きな出費が発生する可能性があります。こういったとき、原則課税の場合のみ還付を受けられる可能性があります。

売り上げに対する支出の割合が大きい場合は、原則課税を採用したほうが納税額を抑えられるでしょう。

簡易課税が得になる場合

簡易課税のほうが得になるのは、実際の仕入率がみなし仕入率を下回る場合です。製造業で原価の低い材料を使っている場合や、業績が好調で売り上げが仕入れ額をはるかに超えていた場合にはこのような状態になる可能性があります。

みなし仕入率は、国税庁が業種ごとに想定される仕入率をあくまで平均として定めたものです。同業種の他社と比較して仕入れが少ない企業や、材料費より人件費のほうが割合として多い企業は、簡易課税を適用すると税額が低くなる可能性が高まります。

売り上げに対する支出の割合が小さい場合は、簡易課税を採用したほうが納税額を抑えられるでしょう。

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まとめ

簡易課税制度は、申告する消費税額の計算方法をみなし仕入率を用いることで通常よりも簡単にできる制度です。対象となる中小企業にとっては、業務の負担を減らせるメリットがあります。場合によっては節税につながるかもしれません。

一方で、事業の展開によっては業務が増えてしまう場合や、税額が増えてしまう場合もあります。自社がどちらのケースに該当するかを確認して、原則課税と簡易課税を選択しましょう。

簡易課税制度を利用するには、条件を満たしたうえで「消費税簡易課税制度選択届出書」という書類を納税地を所轄する税務署長へ提出する必要があります。税金周りの仕組みが大きく変動するインボイス制度ですが、簡易課税制度に関しては影響は少ないでしょう。

この記事を書いた人

CPAラーニング編集部

ライターCPAラーニング編集部

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簿記・会計をこよなく愛するCPAラーニングコラムの編集部です。簿記検定に合格するためのポイントや経理・会計の実務的なコラムまで皆様に役立つ情報を提供していきます。

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